ワルキューレ
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第三幕その七
第三幕その七
「これでお別れね」
「永遠に」
「さようなら、気高い姉妹よ」
こう言い合って別れるしかなかった。ワルキューレ達が去り残ったのは二人だけだった。そのブリュンヒルテが父に対して言ってきたのだった。
「御父様」
「何だ?」
「私の罪はそれだけ深いものなのでしょうか」
正面からその父を見ての言葉だった。
「それはそれだけ恥ずべきことだったのでしょうか」
「恥か」
「そうです」
項垂れていなかった。恐れてもいなかった。昂然として顔をあげている。それはまさに嵐の神の娘に相応しい見事な態度であった。
「全ての名誉を奪われ不名誉を受ける程。それだけ重い罪なのでしょうか」
「それは御前自身に聞くのだ」
ヴォータンもまた昂然として娘に返した。
「御前の罪をだ」
「私は貴方のいいつけをしたのです」
「ヴェルズングの味方になれと」
ヴォータンはまた告げた。
「わしは命じたか」
「戦場を支配する者としての貴方は」
ブリュンヒルテは既にヴォータンの本当の考えはわかっていた。
「そのように命じられました」
「だがわしはそれを翻した」
ヴォータンは己の真意を隠していた。
「違うか」
「義母様が貴方の心と違い貴方がそれに従われた時」
あの夫婦での言い争いのことである。
「貴方は貴方御自身の敵となられました」
「わしは御前がわしを理解したと考えていた」
ここでも真意を隠すヴォータンだった。
「だが御前はわしを臆病で愚かと考えた。違うか」
「はい、違います」
「では御前がわしの怒りを受けるに値しなければ」
「どうだと仰るのですか」
「御前の反逆を罰する必要はなかった」
「私は知っていました」
それでもブリュンヒルテは言うのだった。
「貴方がヴェルズングを愛されていることを」
「知っていたというのか」
「そうです」
知っていると、はっきり答えたのだった。
「そしてそれを忘れようとするその心の葛藤も」
「どうだというのだ」
「知っていました」
また知っていると告げるブリュンヒルテだった。
「ですが貴方はその愛と違ったことをしなければなりませんでした」
「それは戯言だ」
「いえ、戯言ではありません」
それもわかっているからこそ言える言葉だった。
「貴方御自身がジークムントへの加護を求められたのです」
「それで御前は助けようとしたのか」
「そうです。そして」
「そして。何だ」
「私は一つのことを忘れませんでした」
こう言うのだった。
「彼に背を向けたのは止むを得ない事態のせいだったと」
「それによるというのだな」
「そうです、貴方の背中を守る私だけが貴方も見ることができなかったことを」
「見たというのだな」
「はい」
父の言葉にこくりと頷いてみせた。
「そのうえでジークムントと会い」
「どうしたのだ?」
「彼の前に現われ死を告げその目を見て言葉を聞き」
言い続けていく。
「英雄の聖なる危機を知りました」
「ジークムントのか」
「はい。勇者の嘆きが耳を打ち愛の恐ろしい苦しみと心の力強い犯行を聞いたのです」
そのジークムントと会った時のことも話すのだった。
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