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消えたソウルフード

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第六章

 そのうえでだ。少し溜息を出して言ったのだった。
「それにああした料理も忘れられて。黒人も変わったねえ」
「だからアフリカ系な」
「わかったよ。アフリカ系ね」
「ああ、そこはしっかりとな」
 こんな話をしてだった。老婆はカウンターでだ。何か料理をはじめた。そしてその間にカウンターの席に並んで座った二人だった。そうしてだ。
 その二人にだ。老婆はあるものを出してきた。それはだ。
 豚の鼻や唇、耳等を細かく煮込んでにこごりにしたものにだ。小麦粉で衣にして揚げた牛肉のステーキ、そこに白いグレービーをかけている。ブルーギルにコーンミールをまぶして揚げたもの。キャベツを酢と塩、それに鳥の燻製と一緒に煮込んだもの。コーンとトマト、それにバタービーンズにバターを加えて煮たものもある。コーンミールのホットケーキもあれば未熟なトマトのピクルスもある。そういったものが二人の前に出されてきた。
 そうした料理を見てだ。ブライアンはだ。
 眉を顰めさせてだ。そのうえで老婆に尋ねた。
「おい、何だよこれ」
「はじめて見るけれど」
「だからはじめて見るってのが信じられないんだよ」
 老婆はカウンターの中からだ。その怪訝な顔の二人にまた言った。
「あたし達の料理じゃないか」
「アメリカのかい?」
「だから黒人だよ」
「アフリカ系な」 
 絶対にそこは突っ込むブライアンだった。そうして突っ込んでからだ。
 彼はだ。再び老婆に尋ねた。
「で、これが俺達アフリカ系の料理か」
「そうだよ。あたし達の歴史は知ってるよね」
「まあな。差別とかは奴隷とかはな」
 それは彼も知っていた。即ちアメリカの歴史の一部だからだ。
 そのことを踏まえてからだ。また老婆に言うのだった。
「その中で出来た食い物か」
「そうだよ。本当に知らないんだね」
「揚げ物が多いな」
 ブライアンは首を捻りながら述べた。
「それに豚肉も多いな」
「そうだよ。貧しかったからね、昔は」
 アフリカ系は。そうだったというのだ。
「だから安い豚肉ばかり食ってたんだよ」
「それは親父からも聞いてるけれどな」
 他ならぬブライアンの父にだ。聞いていたというのだ。
「けれどこんな料理食ったことないぜ」
「そうよね。美味しいのかしら」
「ああ、美味いよ」
 それは確かだとだ。老婆は胸を張ってキャシーに答えた。
「だから安心していいよ」
「そうなの。じゃあ」
「ちょっとコレステロールが多い気がするがな」
「アメリカ人ならそんなことは言いっこなしだよ」
 細かいことは気にするなというのだった。そうしてだった。
 老婆はまた二人にだ。告げたのである。
「じゃあいいかい?」
「ああ、何はともあれな」
「頂くわ」
 こうしてだった。二人は老婆の作ったそのアフリカ系の料理を食べてみた。それはだ。
 確かに上品な感じはない。しかしだ。
 それはどれも独特の味わいがありだ。美味かった。その味を食べてだ。
 二人はだ。こう言うのだった。
「美味いな」
「ええ、そうね」
「ハンバーガーとかとはまた違った味でな」
「いい感じよね」
「どうだい?美味いだろ」
 笑顔でだ。老婆はその二人に言ってきた。
「こうした料理は」
「食ったら何か懐かしい味もするしな」
「そうよね」
 二人でまた言うのだった。
「はじめて食ったのにな」
「それでも」
「これはね。ソウルフードっていうんだよ」
 老婆はふたりが食べているその料理のジャンルも述べた。
「これはね」
「ソウルフード?」
「そうした名前なの」
「あたし達のね」
 アフリカ系のだ。それだというのだ。
「それがこうした料理なんだよ」
「俺達のご先祖が貧しかった頃にか」
「こうして食べてたの」
「そうさ。これでわかったね」
 またしても胸を張って言う老婆だった。 
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