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消えたソウルフード

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第七章

「これもまたアメリカの味だよ」
「俺達もアメリカ人だからな」
「それでよね」
「そうさ。どうだい?アメリカの味は」
 アメリカ人としての言葉だった。
「いいものだろ」
「ああ、確かにな」
「美味しいわ」
 ブライアンもキャシーもだ。笑顔でだ。
 美味い、確かに言った。そしてだ。
 ブライアンはだ。こう老婆に言ったのだった。
「これがアフリカ系の料理なんだな」
「マッシュポテトもだよ」
「それはうちの店でも扱っていたけれどな」
 だが、だ。それでもだったのだ。
「こうしたアメリカのソウルフードだったんだな」
「じゃあどういった料理だと思ってたんだい?」
「いや、特にな」
「考えたこともなかったのかい?」
「そうだよ。ソウルフードだったんだな」
 そしてだ。そのソウルフード自体もだった。ブライアンもキャシーもだ。
「ソウルフードなんてもんがあったんだな」
「アフリカ系の独自の食べ物が」
「変わったねえ。本当に」
 老婆はしみじみとした口調になった。そのうえでだ。
 その太い、老婆そのもののたるんだ腕を組みしみじみとした顔になりだ。
 そのうえでだ。こんなことを言ったのである。
「黒人もね」
「だからアフリカ系だろ」
「呼び方はどうでもいいんだよ。とにかくね」
「とにかくなんだな」
「変わったよ。ソウルフード知らないなんてね」
「っていうかこんな料理があったことも初耳だろ」
「あんたロス生まれだね」
 この街のだ。そうではないかとブライアンに問うた老婆だった。
「そうだね」
「ああ、そうだぜ」
「あたしは南部の。ニューオーリンズのダウンタウンだけれどね」
「ディープサウスかい」
「そこに生まれたんだよ」
 そしてそこからこのロサンゼルスに来たというのだ。
「あたしが若い頃はキング牧師がいてね」
「おいおい、また随分古いな」
「その頃は皆貧しかったんだよ、今よりずっとね」
 アフリカ系達はだ。差別の前にそうなっていたというのだ。
「それでだよ。食べるものだってね」
「こうしたものばかりだったんだな」
「そうさ。豚肉ばかりね」
「成程な。鳥や牛もあってもか」
「いい肉はなかったんだよ」
「で、こうした料理ができたんだな」
「そうさ。けれど美味いだろ」
 ここでは微笑んで話してきた老婆だった。
「ソウルフードは」
「ああ、実際にな」
「美味い。それにな」
「それに?」
「アメリカの味だよな」
 このことを自分で確めながら言うブライアンだった。
「これもな」
「それがどうしたんだい?」
「いや、こんなところにあったんだな」
 笑顔になってだ。彼は老婆に話すのだった。
「いやあ、本当に意外だよ」
「意外っていうかね。あんた達が知らないことにあたしは驚きだよ」
「っていうかこんな料理あるのを本当に知らなかったぜ」
「そこが変わったっていうんだよ」 
 老婆が言うのはそのことだった。 
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