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消えたソウルフード

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第四章

 彼はだ。こうキャシーに言ったのである。
「とりあえず何か食うか」
「そうね。食べ物の話をしていたら余計にね」
「腹が減ったからな」
「ええ、それじゃあね」
 こう話してだった。そのうえでだ。
 二人は今度は別の目的で店を探した。するとすぐにだ。
 目の前にだ。ある店を見つけた。そこは。
 随分古い店だった。看板は今にも落ちそうで古ぼけている。
 ダークブラウンの木造で火を点ければいい焚き火になりそうな。その店を見てだ。ブライアンは軽くジョークを飛ばした。
「あれだな。懐かしきケンタッキーのだな」
「フォスターね」
「ああ、それだよな」
「ここはケンタッキーじゃないわよ」
 そのブライアンにキャシーもジョークで返した。
「生憎だけれどね」
「ああ、それはわかってるさ」
「それでこのお店に入るの?」
「何か面白そうだからな」
 それでだとだ。ブライアンはキャシーに答えた。
「中に入ってみるか」
「そうね。それじゃあね」
「何の料理の店かもわからないけれどな」
 見れば看板には何も書かれていない。本当に何一つとだ。
 そのことにだ。キャシーは妙なものを感じずにはいられずにだ。ブライアンに言った。
「何のお料理かしらね」
「下手すれば食い物の店じゃないかもな」
 何も書いていないからだ。その可能性も否定できなかった。
「本当にどんな店なんだろうな」
「何もかもが謎ね」
「ああ、ある意味スリル満点だな」
「じゃあそのスリルを味わう為にも」
「中に入るか」
「そうしましょう」
 こう話してだった。そのうえでだ。
 実際に店の中に入った。中もだ。
 外と同じくかなり古ぼけていた。全てダークブラウンである。やはり木造だ。
 その木造の店の中には誰もいない。本当にだ。
 カウンターにすら誰もおらずだ。ブライアンはだ。
 眉を顰めさせてだ。こう呟いたのだった。
「レストランに見えて実はな」
「お化け屋敷だったとか?」
「カウンターからホッケー被った奴が出て来るのか?」
 子供の頃に観たホラー映画の主人公の話をしたのだった。
「チェーンソー持ってな」
「随分古い話ね」
「それか三本爪の真っ白い顔の奴な」
「それも古いわね」
「ホラー映画なんてガキの頃に観た位だからな」
 実はホラー映画はあまり好きではないブライアンだった。
「最近のは全然観てないんだよ」
「だからネタが古いのね」
「ああ。それでこの店本当に誰もいないけれどな」
「閉店したのかしら」
「そうじゃないのか?もう如何にもって感じだからな」
「それじゃあ仕方ないわね」
 開店すらしていないとなるとだった。キャシーは残念そうに述べたのだった。
「もう帰りましょう」
「そうだな。別の店に行くか」
 ブライアンもキャシーのその言葉に頷いた。しかしだ。
 ここでだ。二人にだ。カウンターの奥の方から声がしてきたのだった。
「誰か来たのかい?」
「あれっ、いるのかよ」
「店は夕方からだよ」
 こう言ってだ。出て来たのはだ。
 一人の老婆だった。小柄だが丸々と太ったアフリカ系の女だ。その老婆が出て来てだ。二人のところに来てだ。そして言ってきたのである。
「旦那が来るのは夕方からでね。また来てくれよ」
「何だよ、旦那さんは今の時間何してんだよ」
「寝てるよ」
 老婆は実に素っ気無くブライアンに答えてきた。
「あたしは朝が早くてね。それで今の時間から来て仕込みをしてるんだよ」
「随分真面目に店をやってるんだな」
「一応ね。これでも結構繁盛してるんだよ」
「これだけぼろいのにか?」
「繁盛はぼろさじゃないんだよ」
 そうではないとだ。老婆は胸を張って答えてきた。 
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