DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
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五章 混沌に導かれし者たち
5-15港町の夜
トルネコを加え、五人になった一行は、コナンベリーの宿屋に移動する。
宿に部屋を取り、夕食にはまだ早いからと、ひとまず宿の一室に集まる。
「では、改めまして。みなさん、名前を呼んでくださってましたから、ご存知だとは思いますけれど。エンドールの武器屋の妻、主婦のトルネコですわ。伝説の武器を探して、心正しき者、だったかしら。その方に渡すために、旅をしてますの。それが、世界を救うために、必要らしいんですのよ。なんだか、はっきりしないのですけれど。どうぞ、よろしくお願いいたします。」
「……主婦?ですか?」
きょとんとして聞き返すホフマン。
「ええ、そうですけれど。それが、なにか?」
「いえ、あの、トルネコさんと言えば。エンドールに立派なお店を持つ、エンドールとブランカの連絡通路を開通させた、大商人のご夫婦の、奥様のほうとして、有名なものですから。」
「あらやだ、大商人だなんて。確かに昔はあたしも、商人をしていたことがありましたけれど。今はただの、主婦なんですのよ。商人は、夫のほうですわ。」
「……ただの主婦は、船を造らせたり、世界を回って伝説の武器を探したりはしないのでは……」
「それはそうと、みなさんのお名前も、伺いたいわ。順番に教えていただいても、いいかしら。」
「では、私から。占い師の、ミネアといいます。隣にいる兄のマーニャとともに、父の仇を討つために、旅をしています」
促しに応じてミネアが名乗り、トルネコが応える。
「ミネアさんに、マーニャさんね。……まあ、まあ。お父様は、お亡くなりですのね。それは、また。御愁傷様ですわ。」
「お気遣い、ありがとうございます」
「オレは、踊りを主にやる、芸人だ。戦いのときは、大体、攻撃魔法でやってるな。剣も使えねえわけじゃねえが、威力はねえし、防御は薄いしで、基本的に前には出ねえ。いざって時にはなんとかやるが、得意じゃあねえからな。ま、よろしく頼むぜ」
ミネアに続いて名乗りを省略し、マーニャが自己紹介する。
「まあまあ。魔法が使えるなんて、すごいんですのね。あたしは、魔法は使えないし、技術はないしで、体力があるのと、力が強いのだけが取り柄で。盾くらいにはなれると思いますから、どうぞよろしくお願いしますね。」
「攻撃魔法は兄が得意ですが、回復は、私ができますから。怪我をされたときや、消耗されたときは、言ってくださいね」
「まあまあ。回復の魔法まで。ほんとに、みなさん、頼りになりますのね。心強いですわ。」
ホフマンも、続く。
「ぼくは、砂漠の宿屋の息子の、ホフマンと言います。ぼくも、取り柄は体力くらいで。ユウさん、隣の彼女に、少し槍の使い方を教わり始めたところではありますが、基本的な役割は、前衛の盾役ですね。トルネコさんは、……主婦、ということですけれど。商人を目指す者として、商人の奥様のお話でも、聞かせていただければと思ってます。どうぞ、よろしくお願いします」
「ホフマンさん、ね。あたしなんかの話でよければ、喜んで。どうぞ、よろしくお願いしますね。」
最後に、少女が名乗る。
「わたしは、ユウ。村のみんなの、仇を討つために、旅を、してます。魔法は少し使えるけど、まだ、魔力が少ないから。今は、ほとんど、剣で、戦って、ます。どうぞ、よろしくお願いします」
「村の。……みんな。……そう。そう、なの。ユウちゃん、ね。こちらこそ、どうぞ、よろしくね。」
少女の言葉にトルネコは一瞬考えるが、深くは触れずに笑顔で応じる。
「うん。よろしくね、トルネコさん」
「あらやだ、トルネコさんだなんて。そんな、他人行儀な。おばちゃんでも、呼び捨てでも、好きに呼んでくれて、いいのよ。」
「……トルネコ?……おばちゃん?……どう呼べば、いいの?」
「あらあら、かえって困らせちゃったわね。みなさんのことは、なんて呼んでるのかしら。」
「マーニャとミネアは、仲間だから、よびすて。ホフマンさんは、ホフマンさん。」
「ぼくは、お世話になってる立場なので!ユウさんも含めて、みなさんのことはさん付けで、呼ばせてもらってます!」
「そうなの。それじゃ、あたしも、呼び捨てにしてもらおうかしら。」
「うん、わかった。よろしくね、トルネコ。」
「あらあら、こんな若い子に呼び捨てにされると、なんだかあたしまで若返ったような気がしてくるわね。よろしくね、ユウちゃん。」
「トルネコは、よびすてにしないの?」
「あたしくらいの年になるとね、なにか付けたほうが、かえって呼びやすいのよ。」
「そうなの。わかった」
「さて、自己紹介は、こんなもんか。まだメシにも早えし、ルーラの練習にでも、行くか」
マーニャが話を変え、少女が応じる。
「うん。ちょっと、怖いけど。使えるようになりたいし、頑張る」
「まあまあ。ユウちゃんは、ルーラが使えるの?まだ子供なのに、すごいわねえ。」
「まだ、使ったことはないの。だから、練習するの」
「そうなの。あたしも、ついていっちゃおうかしら。」
「……まだ、初めてだから。あぶないと、思う」
「危ねえってほどのこともねえがな。姐御は今回は、遠慮してくれねえか」
「そうですね。トルネコさんには、少し、お話が」
「あら、そう。……そうね。それじゃ、ユウちゃん。練習、頑張ってね。」
「うん。頑張る」
「ぼくは、パトリシアの様子を見てきます。おふたりとも、お気を付けて!」
マーニャと少女は、連れ立って宿を出て行き、ホフマンは厩に向かう。
トルネコが、口を開く。
「事情を、聞かせていただけるのね?ユウちゃんの村のことに、運命、だったかしら。」
ミネアが答える。
「ええ。トルネコさんが探しているという武器とも、関係あるかもしれませんが。はっきりしないことはひとまず置いておいて、わかっていることをお話しします。まず、彼女は、ユウは、地獄の帝王を倒し、世界を救うと予言された、伝説の勇者です。」
「それは、また。……いいえ、聞いたことがあるわ。いずれ、世界を救うという、御子を。探して、旅をしているという方に、お会いしたことがありましたわ。ユウちゃんが、そうなのね。」
「そうですか。私たち以外にも、彼女を探していた人が。……とにかく、そのために、彼女は魔物たちから隠されて、山奥の村で人知れず、育てられたのですが。その村が、魔物たちに見つかって、滅ぼされて。彼女には、家族も、昔からの知人も、もういません。」
「……そう。自分のせい、って、思ってるのね。そんなこと、ないのに。」
「ええ。ですから」
「わかってるわ。勇者がどうこうなんて、言わなければいいのね。」
「さすがですね。話が早くて、助かります」
「運命、というのは、そのことなの?」
「それも、ありますが。彼女の周りには、導かれて集う運命の者が、彼女以外に全部で七名います。私と兄、それにトルネコさん、あなたも。その、ひとりです」
「まあ、まあ。それは、よかったわ。」
「と、言いますと」
「あんな小さな子が、世界の命運を、背負わされて。それを、ただ見ているしかできないなんて、いやだもの。元々、あたしの旅の目的も、きっとこれだったのだわ。あたしが探している伝説の武器は、いずれユウちゃんが、使うべきものなのね。」
「そう言ってもらえると、助かります。彼女は、自分の運命に巻き込まれて、周りの人が傷付くのを、ひどく恐れています。でも、同じ運命を持った私たちであれば、その運命に守られるだろうと。そういった理由で、私たちが共にいることは、許容できていますので。」
「ホフマンさんは、違うのよね?」
「はい。ですから、いざという時には、私たちを見捨てて逃げてもらうよう、ホフマンさんにはお願いしています」
「それは、また。斬新な、発想ですのね。」
「そうでも言わないと、受け入れてもらえそうもなかったので」
「そうね。なんとか理由を付けて、慣れさせることも、必要でしょうね。お話は、わかりましたわ。他になにかあるかしら?」
「あとは、そうですね……彼女の仇で、魔物を率いていると思われる者の名がデスピサロだということと、村が襲われたとき、彼女の身代わりになって亡くなった方の名がシンシアさんということと。彼女は少し……かなり、世間知らずなところがあるので、女性として気を付けてやってほしい、というところでしょうか」
「まあ……身代わりだなんて……。ほんとに、辛い思いをしたのね、ユウちゃんは。わかりましたわ。母親代わりにでもなったつもりで、気を付けておきますから。今まで、男性だけで大変でしたわね、その辺りはおまかせくださいね。」
「心強いです……本当に……」
「あら、まあ。本当に、大変でしたのねえ。お察ししますわ。」
「いえ……それほどでも……」
時は戻って、宿を出たマーニャと少女。
「さて。とりあえず、どこでもいいからどっかに飛んでみな」
「どこでも……?」
「ああ。どっか、行きてえとこはねえのか?」
「行きたい、ところ……。」
「つっても、嬢ちゃんが行けるとしたら、エンドールにブランカに、アネイルくらいのもんか。あとは、木こりのおっさんの小屋に砂漠の宿か?」
「行っても、すぐ帰ってくるのよね?」
「そうだな。今日のところはな」
「じゃあ、エンドールにする」
「なんか、あんのか?」
「トルネコが、仲間になったから。ポポロも、ネネさんも。少しだけでも、会いたいだろうって、思うから。わたしでも、行けるように。練習、したい。木こりさんとは、時間があるときに、会いたいから。温泉も、時間があるときに、行きたい」
「そうか。じゃ、行くか。いつでも、いいぜ」
「うん。……ルーラ」
魔法が、発動しかけて、止まる。
「……できなかった」
「イメージが大事だからな。発動はしかけてたんだ。よく思い出して、もう一回やってみな。できなきゃ、よく覚えてる場所でやり直しゃいいんだ」
「うん。もう一回、エンドールでやってみる。…………ルーラ!」
魔法が発動し、ふたりの身体が浮き上がる。
一瞬の後、ふたりの目の前には、賑やかなエンドールの街の光景が広がっていた。
「……できた。」
「良かったな」
「うん。うれしい。」
「ちっとくらい、見て行く時間なら、あるが。どうする?」
「ううん。今日は、いい」
「そうか。だが、せっかくこの辺まで来たしな。魔物も弱えし、別の魔法も、試していくか」
「うん。ギラ、ね。」
「それもなんだが。なんか、よくわかんねえ感じがするんだよな。嬢ちゃんの使うニフラムに、似てるか?オレの知らねえ呪文で、なんか心当たり、ねえか?」
「……トヘロス?」
「知らねえから、そうかもしれねえ」
「道具屋さんで売ってる、聖水に、似た効果で。自分よりも弱い魔物が、近付けないように、するの。」
「あー、それかもな。そんな感じだ。今のところは用はねえが、場合によっちゃ、使えそうな呪文だな。ギラのあとで、それも試すか」
「うん。わかった」
エンドール周辺の、比較的弱い魔物を相手に、少女がギラを使えることを確認する。
さらに、トヘロスの発動を確認する。
「発動は、したみてえだが。効果を確認するのは、手間だな。今日は時間もねえし、これくらいでいいか」
「うん」
「じゃ、帰るか。もう一回、やってみな」
「うん。……ルーラ」
今度も危なげなく魔法は発動し、ふたりはコナンベリーに帰る。
「もう、完璧だな」
「うん。もう、大丈夫みたい」
宿に戻ったふたりを、トルネコが出迎える。
「お帰りなさい、マーニャさんに、ユウちゃん!お腹すいたでしょう、今日はお祝いですからね、奮発して、いろいろ準備してもらったから!ふたりとも手を洗ったら、夕食にしましょう!」
「おお。さすが、羽振りがいいな」
「おいわい?なんの?」
「みなさんと仲間になったこと、灯台が元に戻ったこと、船が完成したこと、いろいろね。さ、早く手を洗ってらっしゃい」
「うん」
「マーニャさんには、いいお酒もありますからね!」
「さすが、姐御は気が利くな」
「あらあら。褒めても、お酒と食事くらいしか出ませんよ。」
「十分だ。じゃ、あとでな」
一行が宿の食堂兼酒場に揃い、トルネコが音頭を取る。
「では!みなさんとの出会いと、旅の前途を祝して!どうぞ、存分に、召し上がってくださいな!」
船が出せるようになり、早速再開された漁で獲れた新鮮な海の幸を使った料理に、少女が好むようなお菓子、出し惜しみする必要の無くなった渡来の酒などが振る舞われる。
一行は料理と酒に舌鼓を打ち、交流を深める。
「そうですか!お店を持つまでには、そんな苦労が!」
「苦労ってわけでも、ないわねえ。ほとんど、運がよかっただけですわね。」
「運も実力のうちと言いますからね!動かなければ、その運も巡ってこなかったわけですから!参考になります!」
「あらあら、お上手ねえ。さ、どうぞ、召し上がって。お酒は、飲まれないのかしら?」
「修業中の身ですから!今は、控えてます!」
「まあまあ。感心ねえ。頑張ってくださいね。」
「いい酒だな。こっちの大陸じゃ、なかなか見ねえ」
「船が出せるように、なりましたからね。また仕入れられるというので、奮発してもらえましたの。みなさんのお手柄ですから、どうぞ遠慮なさらないでね。」
「トルネコさん。兄さんは飲み出すと際限がないので、あまりそういうことは」
「あらあら。マーニャさんは、ほんとにお酒が、お好きですのね。」
「ああ。半分くらいは、このために生きてるようなもんだな」
「あとの半分は、カジノじゃないだろうな……」
「エンドールにしかねえからな。そこまでは、いかねえな」
「やっぱりそんな理由なんだ……」
「大丈夫よ、ミネアさん。ちゃんと、止めるところまで、おつきあいしますから。」
「トルネコさん……!なんだか、後光が差して見えます……!」
「あらまあ。苦労なさってるのねえ。」
「それは、もう……」
「マーニャは、お酒を飲んでるのね。近付いたら、いけないの?」
「そうですね。離れていましょうね」
「おい」
「ユウちゃんは、十分食べたかしら?お菓子も、あるのよ?」
「うん、食べた。おいしかった」
「そう、よかったわ。まだまだあるから、遠慮しないでね。育ち盛りだし、よく動くんだから。たくさん、食べないとね。」
「うん」
「そうですね。ユウは、食べ過ぎよりも、足りないほうが心配ですからね」
「だな。体型を気にするにゃ、まだ早えな」
「酔っ払いは近付かないでくれるかな」
「んだと」
「近付いたらだめって、村でも、きいた」
「……」
マーニャが、酒杯を置く。
「あれ?もう、飲まないの?」
「……嬢ちゃんが寝たらな」
「……ユウと、トルネコさんさえいれば……!なんとか、やっていけそうな気がする……!」
「ミネアさん!よかったですね!」
「ありがとう!ホフマンさん!」
「お前ら……」
盛り上がるミネアとホフマンに、マーニャが目を細める。
少女が、マーニャに問う。
「もう飲まないなら、近付いてもいいの?」
「おう」
「そう。よかった」
「……」
「……これは、天然なんですかね」
「……計算とは、思いたくないですね」
「……とにかく!本当によかったですね、ミネアさん!」
「ええ!本当にありがとうございます、ホフマンさん!」
「まあまあ。賑やかねえ。」
再び盛り上がるミネアとホフマンを後目に、少女がトルネコに切り出す。
「あの。トルネコ。」
「なにかしら、ユウちゃん。」
「ポポロがね、言ってたの。たまには、帰ってきてねって。」
「ポポロが。……そう。……でも、あたしは、魔物に狙われているし。ポポロも、あの人も、戦う力のない、普通の人だから。帰ってばかりいても、探し物はできないし。……難しい、わね。」
「……そう、なの」
「でも、伝えてくれてありがとうね、ユウちゃん。ポポロが元気でいるってわかって、嬉しいわ。」
「……ううん」
程よい時間に、少女は部屋に戻り、大人たちは飲み始め、ホフマンも飲まないながらも話に付き合い、そこそこの時間でトルネコがマーニャを宥めて撤収し、ミネアとホフマンの感動と尊敬の眼差しを浴びて、その夜はお開きとなる。
後書き
想いは、擦れ違う。
そして、交わる。
次回、『5-16船出(仮)と慕情』。
7/17(水)午前5:00更新。
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