DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
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五章 導く光の物語
5-14灯台と主婦
「ちょっと、焦っていたものだから。全然、前が見えてなかったのね。ほんとに、ごめんなさいね。」
女性がホフマンに歩み寄り、助け起こす。
「あの勢いでぶつかって、自分はびくともしねえとは。すげえ力だな」
「彼女が、トルネコさん。……そうか。やっぱり」
「トルネコ、さんは、大丈夫なのね。ホフマンさんは」
助け起こしたホフマンに、女性が思い出したように言う。
「ああ、そうだ!どなたかは知りませんけれど、ちょうどよいところで会えましたわ!この灯台に灯っている、邪悪な炎を消すつもりで、ここまで来たのですけれど。魔物たちが強くて、これ以上、進めませんでしたの。お願いです!あたしに代わって、邪悪な炎を消してきてくれませんか?」
女性の勢いに、目を白黒させるホフマン。
「え?えーと、いちおう、そのつもりでは来たんですけど」
「まあ!ありがたいですわ!この灯台には、少し前まで、聖なる炎が灯っていたそうですの。そしてその炎の種火が、今でもこの灯台のどこかにあるそうです。聖なる種火を使えば、邪悪な炎も消えるはずですわ!」
「そ、そうですか」
「もういっぺん、言ったほうがいいかしら?」
「え?いえ、大丈夫、です」
「では、お願いしますわね!あたしは、港町で、待っていますから!」
言い終わるが早いか、またも突進する勢いで走り去っていく女性。
呆然と見送るホフマン。
「おやっさんの奥さんにしちゃ、随分と軽そうなおばさんだったな。体重は……おっと、いけねえ」
「有無を言わさず、面倒を押し付けていったね。やっぱり、噂になるだけのことはある。油断ならないね」
「ホフマンさん、大丈夫?」
「……はっ。そうだ!みなさん、ひどいじゃないですか!ぼくだけ置いて、ちゃっかり避けちゃって!」
「避ける気なかったろ、お前。自業自得じゃねえか」
「ユウを巻き込むところだったんですよ。夢中になるのもいいですが、少し気を付けてください」
「うっ……すみません……。」
「それに、全員で避けるとトルネコさんが通り過ぎてしまいそうでしたし」
「えっ。今、なにか」
「いいえ。ホフマンさん、怪我はありませんか?」
「は、はい。大丈夫です!」
「あれで無事とは、自分で体力があるっつうだけあるな。やっぱ、正解だったか」
「え。それは、どういう意味」
「さて、こんなところでたらたらしてても仕方ねえ。さっさと、行くぞ」
「そうだね。目的もはっきりしたことだし、早く用事を済ませよう」
「聖なる種火を、探せば、いいのね」
「そうですね。まずは、そこからです」
「つーことは、宝箱をいちいち開けて回るわけだな。せいぜい、見逃さないように気を付けるか」
トルネコらしき女性は町に戻って行ったため、急ぐ理由は無くなったが、灯台の炎の側には強力な魔物がいると予想される。
これまでの道中と変わりなく、戦闘ではマーニャも適度に魔法を使い、前衛の消耗を防ぎながら、灯台の中を探索する。
聖なる種火を求めて開けた宝箱の中に、宝箱に擬態する魔物の人食い箱が紛れており、開けたホフマンが襲われかけるが、割り込んだ少女が盾で阻み、剣で斬り付け距離を取ったところでマーニャがメラミの火球をぶつけ、倒して事無きを得る。
「ありがとうございます、おふたりとも。役に立たなくて、すみません」
「ホフマンさんが、開けてくれたから。わたしが開けてたら、できなかった」
「だな。とりあえず前に出てくれる奴がいるってだけで、助かるぜ」
三階を探索している最中、様子の違う魔物に遭遇する。
「妙なのがいるな」
「なにか、探しているみたいだね」
「後に回すのも面倒だ。さっさと、倒しちまうか」
「そうだね」
魔物に近付く途中、こちらに気付いた魔物が振り返り、声を上げる。
「キキー!トルネコはどうしたっ!?」
「ちっ。気付かれたか」
「トルネコ、さん」
「ユウ。静かに」
一行の交わす言葉に気を払う様子も無く、魔物が言葉を続ける。
「トルネコが、この灯台に向かったと聞いたので、待ち伏せて食い殺してやろうと思ったのに……。そうか!怖くなって、港町に戻ったな!港町まで行って、トルネコを食い殺してくれるわ!キキー!」
魔物から、魔法の発動する気配がする。
「ちっ、リレミトか!?」
「ルーラ!」
魔物の身体が魔力により勢い良く飛び上がり、そして天井に頭をぶつけ、そのまま落下してくる。
「……キ、キー……!」
魔物は、気を失った。
「……何なんだ、こいつは」
「建物の中で、ルーラを使ったら、こうなるのね」
「ユウも、これからルーラを使うときには気を付けてくださいね。私も、天井に頭をぶつけたくはないですから」
「うん、気を付ける」
「トルネコさんを狙ってるという、魔物ですか。放っておいても大丈夫ですかね?今のうちに、退治したほうがいいですか?」
「こんな頭の足りねえのに、なんかできるとも思えねえし。足りな過ぎて、寝込みを襲うのも気が引けるな。来たら返り討ちにすりゃいいだろ、放っとこうぜ」
「そうですね。さすがにちょっと、後味が悪いですもんね」
気を失った魔物を放置し、四階への階段を上がる。
「しかし、見つからねえな。宝箱の中身も、たいしたもんじゃねえし。売りゃあ、多少は金になるだろうが」
「ちからの種にまもりの種は、役に立つよ。これは、ユウに食べてもらえばいいかな」
「だな。ちからの種なんか特に、オレらが食っても仕方ねえしな」
「魔力を回復する魔法の聖水も、ユウに持たせておけば、いざという時に安心だし」
「オレらは、そうそう魔力も切れねえが、嬢ちゃんはそうもいかねえからな」
「あっ!あれは!」
四階はひとつの広い部屋になっており、部屋の中心に、厳かな雰囲気で宝箱が置かれていた。
「また、いかにもだな」
「ちょっと、わかりやす過ぎませんか?罠でしょうか」
「ここまで来て、見過ごすわけにもいきません。とにかく、開けてみましょう」
「はい!では、開けますよ!」
ホフマンが、警戒しながら宝箱を開ける。
魔物が擬態しているようなこともなく、中には聖なる光と力を放つ、種火が入っていた。
「これが、聖なる種火。きれいね」
「普通に、あったな。こんなわかりやすいとこに放っとくとか、どうかしてるぜ」
「きっと魔物は聖なる種火に触れられず、手出しができなかったんだろう。そうでなければ、こんな目立つ場所に放置しているわけがない」
「まあ、なんでもいいか。とにかく、持ってこうぜ」
「階段が、三つもある。どれが正解かな」
「適当に上がってみりゃいいだろ。間違ったって、死ぬってこたねえんだ。あっちの、地味に隠してあるのが正解じゃねえか」
マーニャが適当に選んで登った階段は偶然正解で、灯台の最上階、炎のある場所にたどり着く。
「化け物どもが、いやがるな。このまま、突っ込むか?」
「念のため、周りを探ってからにしよう。他に仲間がいて、囲まれたりしたら厄介だ」
階層内を探り、他に魔物がいないことを確認し、さらに宝箱を見付ける。
宝箱の中には、金の髪飾りが入っていた。
少女が、頭に手をやる。
「……やっぱり。買わないほうが、よかった、かな」
「この後のことを考えたら、きっと無駄にはなりませんから。大丈夫ですよ」
「……トルネコさん?」
「はい」
「……トルネコさん、は」
「その話は、無事に港町に帰ってからにしましょうか」
「……うん。そうね。魔物を、倒さなきゃ。」
改めて、灯台の炎の側で踊る魔物たちの様子を窺う。
「三体か。真ん中の、虎みてえな奴が、ボスか?」
「そうみたいだね。一番、強そうだ」
「両側の、弱いのから、倒せばいいのね」
「そうですね」
「弱えほうは、炎に強そうだな。メラとかギラは、効かねえか。弱えほうを倒すまではイオラでいくから、あんま近付くなよ」
「わかりました!」
相談を終え、魔物たちに近付く。
魔物たちは下卑た笑いを浮かべ、炎の周りを踊り狂っている。
「けけけ。燃えろ、燃えろ。邪悪な炎の光で全ての船を沈めてしまえ。けけけけ。……ん!誰だっ!?」
魔物たちが、一行に気付く。
下卑た笑みをさらに歪め、一行を見下ろす。
「けけけけ。ここまでやってくるとは、馬鹿な人間だ。丁度良い!この炎の中に投げ込んで、焚き付けにしてやるわ! けけけけ。」
魔物たちが笑っている間に詠唱を終えていたマーニャのイオラが、炸裂する。
魔物たちが、悲鳴を上げる。
「ひ、卑怯な!いきなり、なにをする!」
「目の前で唱えてたのに、卑怯もクソもあるか」
少女が、ホフマンが、ミネアが斬りかかる。
魔物たちは慌てて態勢を整え、応じる。
マーニャが叫ぶ。
「次、いくぞ!」
三人が、魔物たちから距離を取り、再びイオラが炸裂する。
弱いほうの魔物、炎の戦士たちが倒れる。
「へっ、他愛もねえ」
「油断しないで!まだ、ボスが残ってるんだ」
「わかってるよ!」
灯台のボス、灯台タイガーに、三人が一斉に斬りかかる。
灯台タイガーは先頭のホフマンに狙いを定め、なんとか振り払おうとするも、防御に集中したホフマンが耐え、その間に少女とミネアが攻撃をあてていく。
マーニャがルカニを唱え、魔力に包まれた灯台タイガーの守備力が弱まる。
さらに前衛の三人が畳み掛け、苛立った灯台タイガーは、空気を震わせる激しい雄叫びを上げた。
マーニャ、ミネア、ホフマンが立ち竦む。
「くっ……なんだ、こりゃ」
「身体が、動かない」
「ううっ……こんな、ことで」
灯台タイガーが残忍な笑みを浮かべ、鋭い爪がホフマンに迫る。
戦いに集中し、雄叫びの効果が無かった少女が、前に出る。
「やらせ、ない。」
鉄の盾で爪を受け止め、押し返して斬りかかる。
灯台タイガーはなおも立ち竦む三人を狙い、爪を振るうが、少女が悉く阻む。
「うっ……」
旅に出て経験を積み、力を付けてきたとは言え、まだまだ非力な少女が、強力な魔物の攻撃に、徐々に押され始める。
「ううっ……ユウ、さん!」
「……嬢、ちゃん!」
「ユウ!」
三人が気力で硬直から脱し、戦線に復帰する。
敵と少女の間にホフマンが割って入り、消耗した少女をミネアが回復し、マーニャがメラミの火球を飛ばす。
態勢を立て直した一行の集中攻撃を受け、灯台タイガーは倒れた。
少女が息を吐き、膝をつく。
ミネアが駆け寄る。
「ユウ。大丈夫ですか」
「うん。ミネアに、回復してもらったから。大丈夫。少し、気が抜けただけ」
「なら、良かった」
「嬢ちゃんのおかげで、助かったな」
「先に、マーニャが、弱いほうを倒しておいてくれたから。そうじゃなかったら、あぶなかった」
「それでも、ユウさんが動いてくれなかったら、かなりの被害を受けてましたからね!やっぱり、ユウさんのおかげでもありますよ!」
「そうですよ。ユウ、ありがとうございます」
「いつも、助けてもらってるから。役に立てて、よかった」
「ま、ちょっとは危なかったが。基本的には、オレらの敵じゃなかったな。さ、帰ろうぜ」
「おい、兄さん。肝心なことを、忘れてるだろ」
「あ?なんか、あったか?」
「え?マーニャさん、本気ですか?」
「あ?ホフマンのくせに、生意気だな」
「す、すみません!」
「理不尽な怒り方をしないでくれよ。ホフマンさんも、謝らなくていいですから」
「聖なる、種火ね。これを、どうすればいいのかな」
「おお、そうだったな。投げこみゃいいんじゃねえか?そこの、炎ん中に」
「適当だね……」
「つってもよ。先に消そうったって、消えそうもねえだろ、こりゃ」
「それもそうだね。失敗したらと思うと怖いけど、他にどうしようもないかな」
「投げれば、いいのね」
「ええっ!?いいんですか、そんな感じで!?」
少女が聖なる種火を、灯台の邪悪な炎の中に投げ込む。
「ああっ!!……ユウさんも、結構思い切りがいいんですね……」
「いけなかった?」
「いえ、いいんです……この流れだと、きっと……」
邪悪な炎が、聖なる光に包まれ、清められるように色を変えていく。
「ああ……やはり、大丈夫でしたね……」
「……きれいな、光……」
完全に色を変えた炎が、聖なる光を海に放つ。
「うまくいったね。これで、船も出せるはずだ」
「よし、今度こそもう用はねえな。さっさと、コナンベリーに帰ろうぜ」
マーニャのリレミトで灯台から脱出し、パトリシアを呼び戻し、馬車に繋ぎ直す。
「さて、あとはルーラだが。嬢ちゃん、やってみるか?」
「……ルーラに、失敗したら。どうなるの?」
「失敗したことはねえから、わからねえが。発動しねえか、違うとこに飛んじまうか。その程度じゃねえか?」
「そう。……パトリシアが一緒だと、こわいから。町に、帰ってからでもいい?」
「焦るこたあねえし、それでもいいな。じゃ、帰るぞ」
マーニャのルーラで、コナンベリーに戻る。
「宿を取るとか、ユウのルーラのこととか、色々あるけど。まずは、トルネコさんのところに行ってみよう」
「そうだな。先のことを考えるにも、まずはそれからだな」
「トルネコさんか……。色んな衝撃で、後回しになってましたが。だいぶ、イメージと違いましたよね……」
「現実なんざ、そんなもんだろ」
「そうですよね……。……いや、でも!イメージと違っても、噂の大商人には違いないんです!きっと、色々と学べることがあるはず!さあ、早く!会いに、行きましょう!」
「あんまり前向きなのも、この場合はどうかと思うがな」
「とにかく、行こうか」
港のドックの前では、トルネコが待ち構えていた。
一行を認め、満面の笑みで声をかけてくる。
「みなさん!お待ちしてました!よく、やってくれましたわ!邪悪な炎も消えて、ほら!海もあんなに、穏やかです。そして、嬉しいことに船も完成しましたの!」
「それは、おめでとうございます」
「そこで、お願いがあるのですが。あたしはどうも、魔物たちに恨まれているようなのです。でも、あなたがたのような強い人たちと一緒なら、心強いでしょう。どうかあたしも、仲間にしてくださいな。この船で、一緒に世界中を回ろうじゃありませんか!」
「船持参で来てくれるってんなら、ありがてえ話だな」
「じゃあ!」
「まって。」
少女が、話を遮る。
「ミネア。トルネコさんは。」
「はい。私たちと同じ、運命に導かれし、仲間です。」
「そう。なら、大丈夫なのね。」
「はい。」
「運命?って、なんのことですの?」
「細かいことは、あとでご説明します。とにかく、トルネコさん。私たちの仲間に加わっていただけるなら、歓迎します。」
「まあ、ありがたいですわ!では、まいりましょう。……と言いたいところですが、さすがに今日はもう、遅いですわね。今日のところは、宿を取りましょうか。船の操作も、あたしひとりではどうにもなりませんから、みなさんにも覚えていただかなくちゃいけませんし。明日は一日、操作を覚えていただいて、船の準備も整えて。出航は、明後日ですわね!」
「そうですね。よろしくお願いします」
「よろしくな、姐御。」
「あらやだ、姐御だなんて、ちょっと格好いいわね。でも、おばちゃんで、いいんですのよ。夫も、子供もいるんですから。」
「おばさんって呼ばれてえなら、そうするが」
「そう言われると、呼ばれたいってほどでもないわねえ。じゃあ、姐御でお願いしようかしら。みなさんの自己紹介は、ここではなんですから。移動してから、お聞きしますわね。まずは、宿にまいりましょう。」
後書き
新たな旅の仲間を迎え、一行は宿を取る。
交流を深め、それぞれの想いに耽る夜。
次回、『5-15港町の夜』。
7/13(土)午前5:00更新。
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