DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
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五章 混沌に導かれし者たち
5-13港町と商人
馬車を引き連れ、アネイルから南へ、港町コナンベリーを目指して歩く。
「最近、やたら健康的な生活な気がするぜ」
「いいことじゃないか」
「次は港町だから、酒場のひとつもあるな。昨日は酒どころじゃなかったからな」
「ほどほどにしてくれよ」
「わかってるって」
「わかってた例がないから言ってるんだろ」
「ホフマンさん。大丈夫?」
「もちろんです!温泉で、すっかり元気になりました!」
「そう。よかった」
「おお、そういや今日から教えてるんだったな。嬢ちゃん、どうだ?ホフマンは」
「わたしも初めてだから、よくわからないけど。すぐに言った通りにしてくれるし、教えやすい、と思う」
「筋はどうだ?」
「癖が、強いけど。言えば、すぐ直そうとするし。いいと、思う」
「ユウさんの教え方がいいので。お師匠様に教わったことがきちんと身に付いてるから、教えるのにも迷いがないんですよ。解りやすく説明してもらえて、納得できるんです」
「いい師弟関係じゃねえか。その調子で、頑張れよ」
「はい!」
「うん」
話しながら歩く一行の前に、魔物の群れがあらわれる。
「今日は、嬢ちゃんも元気だろうからな。オレはあんまり手は出さねえから、頑張って倒せ」
「うん、わかった」
「ぼくも、頑張ります!」
魔物の接近を待つ間、少女がホフマンに声をかける。
「急に型を変えると、戦いにくいと思うから。はじめは、無理にうまくやろうとしないで。盾もあるし、今日はわたしも前に出る」
「はい!できる範囲で、やってみます!」
魔物に向かっていくふたりの背中を、兄弟が見送る。
「堂に入った師匠ぶりじゃねえか」
「リーダーの素質もあるみたいだね。これも、村で教えられたのかな」
「かもな。さて、任せっきりってわけにもいかねえな。オレらも行くぞ」
「ああ」
兄弟も武器を構え、ふたりに続く。
少女が盾を使って攻撃を受け流しつつ前に出て、中心になって敵を倒す。
ホフマンは、朝の指導を思い出しながら、力を込めて槍を振るい、少女の倍ほどの時間をかけながらも、確実に敵を倒していく。
ミネアとマーニャは、ふたりに敵が集中し過ぎないよう、注意を引き付ける。
盾の効果で、回避に割かれる手間が減った少女と、効果的な槍術を身に付け始めたホフマンの戦果は目覚ましく、程なく敵を殲滅した。
「やるじゃねえか、ふたりとも」
「昨日までとは、別人のようですね」
「盾の、おかげ」
「まだまだです。一撃を繰り出すにも、かなり時間がかかってしまって。ずいぶん、ユウさんにおまかせしてしまいました」
「最初だから。うまく、できてたと思う。慣れれば、もっと速くなる」
「はい!ありがとうございます!」
「嬢ちゃんは、魔力もだいぶ上がってるな。べホイミとか、ルーラに、あとは、ギラもか?習ってるかは知らねえが、魔力的には使えそうだな」
「ぜんぶ、習った。あとで、やってみる」
「成功したとしても、かなり魔力を消費することになります。とりあえずべホイミを試して、あとは余裕のあるときにしましょう。また突然、洞窟に行く用事ができないとも限りませんから」
「うん、わかった」
「縁起でもねえこと言うなよ」
「可能性の話だよ。用がなければ、それに越したことはない」
その後も、繰り返し襲ってくる魔物を退け、道中で少女がベホイミを使えることを確認し、町を目指して進む。
昼頃、港町コナンベリーに着いた。
「やっぱ、港町は賑やかでいいぜ。お、酒場もあるな」
「まさか今から飲む気じゃないだろうな」
「開いてるなら、そうしてもいいがな。さすがに、やってねえだろ」
「開いててもやめてくれよ」
「宿を取るにも、早いですよね。食事を取ったら、そのまま馬車だけ預けて、町を回ってみましょうか?」
「それがいいですね。船のことも聞きたいし、他にも情報や、いい物があるかもしれません」
「船。港も、船も、はじめて。たのしみ」
「ユウさんもですか!ぼくもなんですよ!わくわくしますね!」
「うん」
「とりあえず、メシにしようぜ」
昼食を済ませ、町を回る。
町で見た商人の対応に、珍しくホフマンが憤る。
「さっきの地図屋さん!商品が切れてるのに、気付かないなんて!商人失格ですよ!」
「そんなことも、あんだろ」
「いいえ!商人としては、押さえておかないといけないところがありますから!あれは、いただけません!人のフリ見てっていいますよね、ぼくも気を付けよう!」
商店街に入り、武器屋を覗く。
「あんま、代わり映えしねえな」
「これなら、今の装備と変わらないね」
「同じ大陸ですし、大きくは違わないのかもしれませんね。港町だから、他から仕入れた珍しい物があるかもと思ってましたけど。」
「では、次に行きましょうか」
「この分だと、あんま期待できねえが。ま、見るだけはな」
防具屋を覗く。
少女が、飾ってあった頭防具に息を飲み、目を奪われる。
「……きれい。」
「まるで、装飾品ですね!これも、防具なんですか?」
ホフマンが尋ね、店主が答える。
「お客さん、お目が高い!これは金の髪飾りと言って、女性に大人気の防具なんです!やはり女性には、無骨な兜なんかは敬遠されるし、そもそも装備できないことも多いです。そこいくとこれは、防具とは思えないほど洒落てるし、軽いのに、防御力も高い!お嬢さんみたいな可愛らしい方に、オススメですよ!」
「おお。いいじゃねえか」
「そうだね。兜よりも身軽に動けそうだし、似合いそうだし。ユウには、丁度いいね」
「……でも。すごく、高そう。エンドールでも、アネイルでも。わたしばっかり、買ってもらってるから。……これは」
「いやいやそれが!なかなかどうして!鉄兜にも迫ろうって防御力なのに、お値段は、なんと!鉄兜の、半分以下!経済的にも、オススメの逸品ですよ!旅する女性なら、これを買わない手はありません!町から出ない女性だって、買って行くくらいの品ですよ!」
「……」
「海の向こうのミントスから仕入れた品ですが、売値はここでも同じなんです!同じことなら、早く手に入れて使った方が、得ってもんでしょう!」
「その通りですね。ユウ、これは買いましょう。ユウの防御力が上がって、安心して前に出られるようになれば、私たちも楽になりますから。これは、必要なものです」
「……ほんとに。いいの?」
「はい」
「変な遠慮すんじゃねえよ。ガキなんだからよ」
「頭防具は大切ですよ、ユウさん!」
「……でも。やっぱり」
「そうだ、ミネア。お前もそろそろ、盾のひとつも持ってみたらどうだ」
躊躇う少女を見てマーニャが話を変え、ミネアが乗る。
「そうだね。モーニングスターの扱いにも慣れたし、今なら持て余すこともないかな。兄さんは、その羽根帽子はどう?」
「そうだな。動くのにかえって邪魔になるんで、ずっとなんも被ってなかったが。前衛の面子も充実してきたし、なんか被ってみてもいいか」
「うちの羽根帽子は、サイズも色々ですよ!ぴったりしたものを選べば、そうそう邪魔になんてなりません!」
「お、確かに。これなら、良さそうだな。ミネア、お前にもいいんじゃねえか?」
「僕には、ちょっと派手かな……。鉄兜は、置いてないんですか?」
「あいにくと。ミントスに行けば、あるんですがねえ。なかなか売れないんで、仕入れてないんです」
「なら、今回はいいかな。ではご主人、この金の髪飾りと、鉄の盾と、その羽根帽子を。ひとつずつ、お願いします」
「えっ」
戸惑う少女に敢えて構わず、商人も話を進める。
「まいどあり!早速、装備していきますかい?」
「はい。お願いします」
「では、どうぞ!盾の具合も、良さそうですな!」
「ええ」
「ささ、お嬢さんも。着けて差し上げましょう!うん、よくお似合いだ!」
「えっ。えっと」
「思った通り、似合いますね」
「やっぱ、女は華がねえとな。似合ってるぜ、嬢ちゃん」
「おふたりとも、さすがに世慣れてますね!」
「そこでこっちを褒めちまうのが、お前の駄目なとこだな」
「……ぼくにはまだ、難易度が高いです」
「……うん。うれしい。ありがとう、みんな」
少女は髪飾りにそっと手をやり、微笑む。
「そうそう。そうやって、素直に受け取っときゃいいんだ」
「本当に、必要なものですからね。遠慮することは、なにもないんですよ」
「うん」
「しかし、みなさんがたも、羽振りがいいですな!さすがに、トルネコさんほどではないですが」
「トルネコさんに、会われたんですか?」
「ええ。今、港のドックで船を造ってるはずですよ。なんでも、船を買って世界を回り、伝説の武器を探すつもりとか。まったく、武器屋の鑑ですな!」
「伝説の、武器を」
「いやー、ワタシもいつかは、金を貯めて自分の船を持ちたいもんですが。金があると、ついつい飲んじまいましてね!悲しいもんです」
「おお、わかるぜ。あると思うと、つい遣っちまうんだよなあ」
「わかっていただけますか!」
「そんなことより、今はトルネコさんに会いに行ってみよう。船のこともだし、探してるという武器のことも、聞いてみたい。すれ違いになる前に、急ごう」
「いやー、焦ることはないと思いますよ。すれ違いようもないというか、なにしろ船が出せないのでは。」
「船が、出せねえだと?」
「どういうことですか?」
不穏な言葉に、マーニャとミネアが反応する。
「いや、なに。この港町の東には、灯台があるんですがね。その灯台が、おかしなことになっちまって。近頃になって魔物が棲みついたって話で、船が出ると、邪悪な光を出して、船を沈めちまうってんですよ。」
「灯台に、魔物、ですか」
「なんでも、船を沈められて、絶望のあまり自殺しちまった人もいるとか。それを考えると、飲んじまって正解でしたかね。」
「人が、死んじゃった、の」
「まあ、そうなったのも、本当に最近の話で。最後に出た船には、サントハイムの王子様ご一行が乗ってたって話ですよ。皆さんもトルネコさんも、運が悪かったですね。」
「灯台、か。ま、洞窟よりゃマシだな」
「……まずは、トルネコさんだ。港のドックに、行ってみよう。ご主人、ありがとうございました」
「へい!まいど!」
商店街を離れ、ドックに向かう。
「トルネコさんに、会えそうなのはいいんですけど。どうも、穏やかじゃないですね」
「完全に、そういう流れだな。ま、なるようにしかならねえ。腹は決めとけよ」
「はい!覚悟なら、最初から決まってます!」
「……ホフマン、さん」
「大丈夫です!無理は、しませんから!」
「……うん」
ドックには、造船作業に勤しむ者たち、停泊中の船を見物する観光客がいた。
予想外に平和な光景の中、ミネアが作業員に声をかける。
「すみません。この船の造り主は、どなたですか?」
「え?そんなことは、親方に聞いてくんな。悪いが、忙しいんでな」
作業員は慌ただしく去っていく。
「入っても、問題なさそうだね。邪魔にならないように、船の中に入ってみよう」
「……意外に、図太いというか。やっぱり、マーニャさんの弟さんですね」
「お前は意外に、気が小せえな」
「これが、船。船って、おおきいのね」
「個人で持つ船にしちゃ、随分でけえな。金もかかってそうだ」
ミネアを先頭に、建造中の船の中に入る。
ミネアは、慌ただしく動き回る作業員に、次々に話しかける。
「トルネコさんって女性なら、南に行きたいって言ってたな。南の大陸のミントスって町にゃ、世界の海に詳しい人がいて、すごい地図を持ってるそうだ。」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「もうすぐ船が完成するってのに、トルネコさんは何をやってんだろ?灯台の魔物に食われてなきゃいいけどな。」
「トルネコさんは、いないのですか。親方さんは、どちらに?……そうですか。ありがとうございます」
「……ミネアさんて、本当に大物ですね!」
「商人になろうって奴が、感心してる場合じゃねえんじゃねえか」
「そうですね!ぼくも、見習わないと!」
「親方さんは、奥にいるそうです。行きましょう」
「はい!」
奥では、親方らしき男性が、作業員とは違った様子で、忙しなく動き回っていた。
「ああ、心配だ、心配だ!この船は、トルネコさんという人に頼まれて造っているんですが、あの人は全く無茶ですな!魔物のせいで船を出せないなら、退治してきてやる!とか言って、ひとりで灯台に向かったんですよ。」
「やはり、トルネコさんは灯台ですか。ありがとうございました。それでは。」
「トルネコ、さん。魔物に、狙われてるのに。魔物を、退治しに、行ったのね」
「商人の女がひとりで、とか。随分、無茶しやがるな」
「実は、かなり腕も立つ!ってことは、ないですかね?」
「どうだかな。さっきのおっさんを見る限り、そうは思えねえな」
「ずいぶん、心配されてましたもんね」
「案外、船の費用の回収の心配をしてるだけかもしれねえがな」
「それはそれで、ありそうですね。現実は、厳しいです」
「最初から、することは決まってたようなものだけど。トルネコさんがひとりで行ってるなら、のんびりもしてられない。すぐに、灯台に向かいましょう」
「うん。ひとりじゃ、あぶないものね。わたしと、いるよりも、きっと。」
馬車を引き取り、灯台に向かう。
「馬車を連れて行っても、大丈夫ですか?灯台に入るときには、置いていくことになりますが」
「パトリシアなら、大丈夫です!馬車から離して、いつでも逃げられるようにしておけば!離れていても、呼べばすぐに戻ってきますし!」
「そうですか。パトリシアは、優秀ですね」
「そうなんです!」
進む一行の前に、魔物の群れが現れる。
「急ぎだから、とりあえず吹っ飛ばしていいな。ひとまず、下がってろ」
魔物の群れはマーニャが集団攻撃呪文で壊滅させ、単体の魔物は物理攻撃で殲滅し、灯台へと急ぐ。
灯台に着き、パトリシアを馬車から離し、馬車が目立たないように草で覆う等して準備を整え、ホフマンを先頭に、少女、ミネア、マーニャの順で続き、灯台に踏み込む。
「ユウはまだ、屋内の戦闘に慣れたとは言い難いですが。ホフマンさんもいますし、私が前に出ると、かえって邪魔になりそうですからね。この順番のまま行きますが、気を付けてくださいね」
「うん。盾も、髪飾りもあるし。大丈夫だと思うけど、気を付ける」
まだ日も高いが、灯台の中は薄暗く、邪悪な気配で満たされていた。
「洞窟よりは、マシかと思ったが。辛気くせえ塔だな。気に入らねえ」
「邪悪な光を放つようになったというからね。なにか、あるんだろう」
警戒しながら進んでいると、誰かが走ってくるような物音が聞こえてきた。
「なんか、聞こえるな」
「トルネコさんですかね!」
物音がするほうに目をやると、商人らしき女性が、突進するような勢いで走ってくるのが見える。
「あっ!あれは、やはり!」
顔を輝かせるホフマン。
突進する女性。
「え。ホフマン、さん」
明らかに女性の動線上にいるのに、全く避けようとしないホフマンに当惑する少女。
兄弟が無言で少女の腕を掴み、安全な位置に避けさせる。
「あぶな」
少女が言い終わらないうちに、女性がホフマンに衝突し、女性の鉄のまえかけとホフマンの青銅の鎧が激しくぶつかりあう金属音が響き渡り、ホフマンが勢い良く弾き飛ばされる。
「うわーっ!!」
「きゃーっ!?」
ホフマンを撥ね飛ばした女性が驚いて叫び声を上げ、その場に立ち止まる。
「あら、やだ。こんなところで、人に会うなんて。ごめんなさいね、大丈夫?」
後書き
魔物の蠢く灯台で、出会った女性。
灯台を覆う暗雲に、少女たちは挑む。
次回、『5-14灯台と主婦』。
7/10(水)午前5:00更新。
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