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ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~

作者:脳貧
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第四十四話

 「……(さき)のヴェルトマー公ヴィクトル様は、多くの女性と情を通じておられ、シギュン様は大層お心を痛められていたと聞き及んでおります。そのお姿をお気の毒と思われたクルト様は、初めのうちはただお悩みの相談を聞き届けられ、お心を安んじ賜われたのみでしたが……そこは、やんごとなき身分なれど男と女、いつしか互いに慕い合うようになったそうでございます」

俺は跪いたまま顔を上げずに言葉を続けた。
衝撃的な内容だけに、ヴィクトルが二人へのあてつけに自殺したという話、ロプトの奴らが兄であるアルヴィスと彼女の間に子を為さしめようという話はまだ伏せておくべきだろう……

「あなた様を身ごもったシギュン様は、周囲の方々へご配慮され、故郷のこの地へと戻ったのです」
「私の両親のお話を聞かせてくださってありがとうございます。……すみません、あなたのお名前をすぐに覚えることが出来なくてごめんなさい。あなたはそれを伝えるためだけに私に会いにきてくださったわけではないのでしょう?それをお話くださいませんか?」
「はっ! 恐れながら申し上げます。ディアドラ殿下とお父上をお引き合わせさせていただくお手伝いをさせていただきたくまかりこした次第であります!」

……その後、俺はもう一度名乗り、この場に居る協力者も一通り名乗った。
込み入った詳しい話はまた日を改めて行って欲しいという彼女の申し出があったので、それは全面的に受け入れた。
二日後に精霊の森の湖の畔で待っていると彼女は告げたが、具体的な場所がわからないので、俺ともう一人が護衛を兼ねて彼女の帰り道に同道させてもらい、ベオウルフは残った仲間を連れて本隊への報告に戻ってもらうことにした。

「……ディアドラ様はこの森の中に居られたら、森の木々が身を隠す手助けをしてくれるのですよね?」
「はい、その通りです。……よくご存じですね」
「それぞれの森にその主というのは居るようで、わたしの故郷には迷いの森というものがあるのですが、そこではあるじに招かれざる者が立ち入れば永劫彷徨うことになり、わたしも危うかったことがあったのです」
「まぁ、そうなのですか……」
「あなた様はこの精霊の森の巫女と呼ばれるようですから、そうではないかと思いまして」

とりあえず、森の中に居る間には彼女を見つけたり捕まえたりは困難なようなので森に引きこもってさえもらえれば安心だ。
目印となる木や湖畔にあった大きな石を定めてもらった。

「今回は、突然にして不躾なわたしめに対して快くお言葉をおかけくださって、心より御礼申し上げます」
「いえ、ミュアハさん……そのように畏まらずともよろしいのですよ。 外の世界の方と、こんなにもお話できたこと、外の世界のお話をお聞かせいただいたことに私は、もしかしたら楽しいと思っているのかもしれません。明後日にはここから見て、陽があの枝にかかった頃にお会いいたしましょう」

にこっとしたディアドラさんの美しさはヤバイ。
シグルドさんが一撃でやられたのも無理は無い、そんなことを思いながら街へと戻った。





 すでに夜の帳は降りていて、一杯やってから帰ると言う同行者と別れた俺は街の大通りをまっすぐ進み、逗留している宿へと歩みを進めていた。
露店の類はほとんど姿を消し、数少ない酒場と幾つかの屋台が投げかけるか細い明かりが、昼の間はここは街だったのだと主張していた。
いつもなら露店がある辺りの端っこに、フードを被った何者かが椅子に腰をかけていた。
特に気にも留めず通り過ぎるつもりだったが……
どう考えても届く訳の無い距離だったにも関わらず、何故か袖を掴まれてこの人物の前に立っていた。

「……占って差し上げますわ、遠慮は御無用」

フードの奥には黄金そのもので造形したような輝く髪に、神の為した造形の奇跡という表現が適切なほど整った顔立ちの美女の姿があった。
首から下がっているネックレスに彼女の指が触れると、その髪よりもなおきらびやかな輝きを発し、絡まるように編まれた細工がねじれた黄金の滝を幻出したかに見えた。

「あなたはソレを追ってはなりません。 訪問者が訪問者に首を刎ねられることを防げたならば……空から放たれる輝きにあなたは貫かれることになるでしょう……でも、それは、あなたにとっての救い」
「意味がわからないです、そして、まず【ソレ】って何でしょう?」
「ふふふ……ねぇ」

占い師の美女は魅きこまれそうな、これが蟲惑の笑みというやつだろうか……を浮かべて両手を差し出し、俺の頬を掴むと、けだるげな表情を浮かべながら

「元の世界に戻ったところで……あなたは元の暮らしに戻れると思うの?」
「な、あんたは一体? ただの占い師じゃあ無いのはわかるが何者だ!」
「ねぇ、なんの躊躇いも無く人を殺せるアナタが、あんな平穏な暮らしに戻れるとお思い?」
「そんなの……」
「やるべきと思ったら世の中の仕組みを無視して突っ走るあなたが、法や秩序や慣習であんなにも身動きのとれない世界の息苦しさに狂ったりはしないかしら……自由に、なりましょ……」

それから彼女が小声で囁くと、俺は急に体が熱くなり、ふつふつと彼女への欲望が湧き立った……


俺には大切な人がいる。
こんな行きずりの女性に、しかも力ずくで及ぶなど、してはならないことだ。
衝動を耐えきった俺を見て、彼女は表情を改めると邪気の無い笑顔を浮かべた。

「……流石。 思い通りに出来る男は大好きだけれど、思い通りにならない男もたまらないの。 
また、必ず会うことになるわ。 今のわたしは…ルヴェ…グ……ヘイド、そして……ナディ…ス」

俺は気が付くと通りの端に立ちつくしていた……





 
 約束の日が訪れたので、俺とクロード神父の二人は約束の場所へ向かった。
時間……と言っても日時計だが、それよりも早く付いたはずだ。
俺達より少し遅れて到着した彼女は恐縮したが、俺たちの方が約束より早く付いただけで……
湖畔でピクニック……なんて思うほどのどかでのんびりした光景だ。
俺は街で仕入れた素朴な菓子をふるまうと共に、まずはこの世界での故郷、レンスターのことを話しはじめた。
続けて自分の家族や大切な人たち、小さなころ人質に出された話し……などなど。
時折クロード神父が合いの手を入れてくれながら世間話を続けて行き、頃合いを見計らって本題に入った。
彼女の持っているオーラの書はおそらくシギュンさんがクルト王子から賜ったものであろう、光系の魔道書は貴重品であり、その中でもオーラはほぼ最高ランク。
そんな物を持っているというだけでも……と伝えたところ、オーラの書を持っていることを知っているという事に驚かれてしまった。
異父兄としてヴェルトマーのアルヴィス公爵が居るということも伝えておいた。

彼女は俺が何故そのような事を知ることが出来たのかを不思議がっていた。
もし、俺が同じ立場なら同じく思うだろう。
荒唐無稽な話なので信じてくれるとは思いにくいでしょうが、と、前置きをして俺は異世界人であるということ、ある手段を用いてクロード神父を始め、ごくわずかな人々には信じてもらえたことを彼女に話した。
俺が言い当てたことは彼女にとっては秘中の秘の事ばかりであったので、信じざるを得ないと言うところであろうか……
その結果、森から離れる訳には行かないが、父には会ってみたい、でもそうも行かないだろうから母の形見のサークレットを託しますと彼女は申し出てくれた。
自分は元気で生きてますって伝えたいんだろうな……
二十年近く自分をほったらかしにして! だなんて怒りださないように、あらかじめクルト王太子はあなたの存在をご存じ無いということを伝えておいてよかった。
その場でクロード神父と話し合い、クルト王太子にディアドラに会いに来てくれるよう言伝を頼み、俺はここに滞在して案内役をするというのはどうかと取り決めた。
神父様が帰国後、転移(ワープ)の杖で王子をマーファ城まで飛ばしてもらえばすぐだろう。
その際、俺は彼と面識はあるので案内役は果たせるはずだ。

ディアドラには手紙をしたためてもらい、それをクロード様は預かり、俺だけマーファに滞在することにして残りのメンバーは全員船でユングヴィに向かってもらうこととなった。
それからは毎日ディアドラと湖畔で会うことにした。
……伝えにくいことではあったが、少しずつロプト教団の陰謀とロプトウスを復活させるために彼らが行おうとしていることを知らせていった。
彼女を悲しませはしたが、そんな恐ろしいことを防ぎたいのだと伝えると、わかってはくれた。


クロード神父達と別れてから二週間ほどしたある朝、ついにクルト王太子が俺の逗留している宿にやってきた…… 
 

 
後書き
精霊の森の木々がディアドラを守るという設定はファミ通文庫FE聖戦、最後の地竜族の設定準拠です。
表紙のキュアン兄上が槍じゃなくて片手剣装備しています!

謎の占い師美女は、フノスの母にしてオードの妻、ヘイムダルに守護され、ロキ(ロプトウス)のみに嫌われし、恋バナ大好きな黄金と肉欲の女神さまです 
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