DQ4TS 導く光の物語(旧題:混沌に導かれし者たち) 五章
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五章 混沌に導かれし者たち
5-03踏み出す少女
蘇った感情は憎悪に昂るが、昨夜は一睡もせず泣き明かし、日中は初めての旅と戦いに明け暮れた。
考えがまとまれば意識はあっという間に遠のき、気が付けば朝を迎えていた。
洗って干しておいた服を、着る。まだ乾き切っていないが、これしか無い以上、仕方が無い。お金が足りれば、着替えも買わなければならない。
外の世界で生きて行くには、本当に何をするにも、ゴールドが要る。あの男を探し回り、倒すための強さも、要る。
魔物と戦って、経験を積み、お金を稼がねばならない。
そして、旅の基本は、情報収集であるという。
外に戦いに出る前に、町や城で情報を集め、次の目的地を決めなければならない。店を探し、買わなければならない物もある。
水差しの水で顔を洗い、運ばれてきた朝食を食べ終え、荷物を持って部屋を出る。
同じく旅立とうとしていた男に、行き会う。
「おはよう、お嬢ちゃん。ひとり旅かい?まだ小さいのに、感心だね。」
「おはよう。うん、わたしは、ひとりで旅するの。」
「勇ましいね。まるで、言い伝えの勇者のようだ。」
「……ユウシャの、言い伝え?」
「ああ。この国には、古くから伝わる言い伝えがあってね。邪悪なるもの目覚める頃、勇者もまた目覚めん……と。」
「ユウシャって、なに?」
「勇者というのは、そうだなあ、勇気ある者、勇ましい者のことだよ。邪悪なものを、倒してくれるのだろうね。」
「ユウシャ……勇者。勇者って、どうやって決まるの?」
「うーん、それはちょっとわからないなあ。ここのお城の王様には、勇者を目指す旅人が、よく会いに行くそうだけど。興味があるなら、行ってみたらどうかな。」
「うん、行ってみる。ありがとう。」
「どういたしまして。気を付けて行くんだよ。」
宿の入り口に向かい、主人に声をかける。
「色々ありがとう。もう、行くから」
「そうかい。気を付けてな、気を落とすんじゃないよ。」
「うん。頑張る」
これ以上、気分は落ちようも無いし、自分にはやることがある。
宿を出た少女は、店を探して歩き出す。
武器屋で手入れ道具を、防具屋で安い着替えの服を手に入れ、情報を求めて町を歩く。
(情報って、どうやって聞いたらいいんだろう。さっきの人と話したみたいに、すればいいのかな)
通りすがった商人に、声をかける。
「あの。すみません」
「なんだい、お嬢ちゃん。」
「旅をするのに、行く場所を探してるの。」
「行き先は、決まってないのかい?」
「探してるひとが、いるから。今は、どこでもいいから、どこかに行きたいの」
「そうだなあ。最近、トルネコという女性が掘ってくれた洞窟のおかげで、遥か西のエンドールにも行けるようになったんだ。大きな国だから、お嬢ちゃんの探してる人も、いるかもしれないね。とりあえず、そこに行ってみたらどうだい。」
「西の、エンドールね。ありがとう。」
「遠いから、行くなら気を付けて行くんだよ。じゃあね。」
「うん。さよなら。」
商人と別れ、町を歩いていると、聞き覚えのある名前が聞こえてくる。
「トルネコという女性は、全く可哀想ですね。」
「エンドールに、大きい店を持ってるんだろ?何が可哀想なんだ?」
「洞窟を掘って、国と国を繋いだりしたから、魔物たちに狙われているとか。」
「戦士でもなんでもない、普通の女性だろ?いいことをしたばっかりに、そんな目に遭って。そりゃあ、可哀想になあ……。」
(洞窟を掘った、トルネコ。みんなに感謝されてる、人。魔物に、狙われてる、人。わたしと、同じ?……でも。知らない、人。)
さらに歩いていると、老人の嘆く声が聞こえてくる。
「もう、おしまいじゃ!」
「おじいちゃん、落ち着いて。一体、どうしたのよ。」
「地獄の帝王を倒すはずだった勇者様が、魔物たちに殺されたそうなんじゃ!おしまいじゃ!世界はもう、終わりじゃ!」
「だから、落ち着いてったら。勇者を目指す人たちなら、しょっちゅうお城に来てるそうじゃない。大丈夫よ。」
「勇者様とは、そんなものではないんじゃっ!」
「はいはい。そろそろ、お薬の時間ね。おうちに帰りましょ。」
(勇者が殺されたって、知ってる人がここにもいる。勇者って、なんだろう。なんで、わたしなんだろう。ほんとに、わたしなの?)
町を離れ、城に入る。
城内で佇んでいた女性に、声をかける。
「あの。すみません」
「あら、可愛い旅人さんね。どうしたのかしら。」
「この国のお話を、聞いて回ってるの。」
「まあ。それじゃあ、そうねえ。勇者様の言い伝えは聞いたのかしら。」
「うん。邪悪なもの?地獄の帝王?を、倒すために、目覚めるんだって。」
「そう。それじゃあ、天女のお話はどうかしら。」
「知らない」
「昔々、北の山奥に、天女が舞い降りたそうよ。」
「北の、山奥。てんにょって、なに?」
「天から、つまり空からやってきた、女性のことね。そして、木こりの若者と、恋に落ちて」
「木こりの。こいに落ちるって、なに?」
「あらあら。そうねえ、男の人と、女の人が、お互いに相手を好きになって、お付き合いしたり、結婚したりすることかしら。」
「けっこんって?」
「あらまあ。夫婦になることよ。あなたにも、お父さんとお母さんがいるでしょう?お父さんとお母さんが結婚して、あなたが生まれたのよ。」
(おとうさんとおかあさんは、本当の親じゃないって言ってた)
「そっか。わかった」
「そして、ふたりの間には、可愛い赤ちゃんが生まれたとか。」
(あかちゃん。ふたりの間に生まれたなら、ふたりの子供。)
「そのあかちゃんは、どうしたの?」
「あらやだ。こんなの、おとぎ話に決まってるわ。お話は、ここまでよ。」
「そう。わかった。ありがとう」
「いいのよ。旅先のお話を聞くなんて、お勉強熱心なのね。」
「わたしは、色々知らないといけないの。なにも、知らないから。」
「まあ、無知の知ね。感心ね、頑張ってね。」
「うん、頑張る。それじゃあね」
女性と別れ、城内を歩く。
(おとうさんとおかあさんは、本当の親じゃない。わたしが生まれたのは、おとうさんとおかあさんからじゃ、ない?木こりは、あの家に、ひとりでいた人。おとぎ話は、本当の話じゃないこと。)
兵士を見つけ、声をかける。
「あの。すみません」
「どうした、お嬢ちゃん。迷子かい?」
「お話を、聞いて回ってるの。なにか、教えてください」
「なにかって、そうだなあ。エンドールに行けるようになったのは、知ってるかい?」
「うん。西の洞窟から、行けるって。」
「そのエンドールに、よく当たる占い師が来ているそうだ。」
「うらないしって、なに?」
「占いをする人だよ。占いは……未来のことや、運勢なんかを教えてくれることかな。」
「未来を。教えてくれる、人。」
「旅をしてるそうだから、いつまでいるかは知らないが。会えたら、俺も占ってもらいたいものだ。」
「そう。どうもありがとう。」
「本当に、迷子じゃないのかい?迷ったら、遠慮せずに言うんだよ。」
「うん、大丈夫。それじゃあね」
さらに歩き、庭園に出る。
ふたりの女性が、踊っている。
(なに、してるんだろう。訓練とは、ちがうみたい)
じっと見つめる少女に気付き、女性のひとりが声をかけてくる。
「私たちの踊り、素敵でしょ!エンドールで大人気の踊り手様の、踊り方を参考にしてみたのよ。」
(おどり。よくわからないけど、楽しそうだった、さっきの動き。おどりて、おどりをする人?)
「おどりがなにか、わからないけど。楽しそうだった」
「そうでしょ!その踊り手様には弟がいらしてね。ふたりで勇者を探して、旅をしているって言ってたわ。」
「勇者を。探してる、人。」
「あのおふたりに、探されてるだなんて!羨ましいわ、私が勇者なら良かったのに!」
(勇者に、なりたい、人。わたしは、たぶん、勇者。なりたい人が、なれればいいのに)
「お話ししてくれて、ありがとう。もう行くね」
「そう。それじゃあね。」
女性は再び、踊り出す。
少女は背を向け、歩き出す。
(あとは、王様に会えばいいのかな。王様って、どこにいるんだろう)
先ほどとは違う兵士を見つけ、声をかける。
「あの。すみません」
「どうした。ここは、子供の遊び場じゃないぞ。」
「王様に、会いたいの。」
「王様なら、この上におられるが。」
「行ってもいい?」
「構わないが、失礼の無いようにな。」
「うん……はい。」
階段を上がる。
(王様は、偉い人。偉い人と話すときは、言葉に気を付ける。師匠や老師と、ちゃんと話すときみたいに。)
上がった先、謁見の間には、国王と姫が並び、大臣と兵士が控えている。
(いっぱい、人がいる。一番立派な服の人が、王様?)
旅に必要な作法として、村で教わっていた通りに、国王の前に跪く。
国王の声がかかる。
「よくぞ来た!勇者を目指す者よ!」
(勇者は、目指してないけど。なってしまってたら、どうすればいいんだろう)
「そなたもまた、世界を救うため、旅をしているのであろう!」
(世界のことは、わからないけど。あのひとを殺すなら、きっと同じこと)
「はい」
「名は、なんと申すのじゃ。」
「……ユウ、と」
「うむ、良い名前じゃな。ではユウよ。そなたがするべきことを、教えて進ぜよう!」
「はい」
「地獄の帝王が蘇るのを、なんとしてでも止めるのだ!」
(地獄の帝王。止める。まだ、蘇ってない?あのひとと、関係ある?)
「そなたのような、若い娘には辛いことかもしれぬが。気を付けて行くのじゃぞ、ユウよ!」
大臣が呟く。
「本当に、若いというか、いっそ幼いのう……。そなたは、昨日の四人連れの、仲間ではないのか。」
「ちがいます」
「ひとり旅か。大丈夫なのか。余計なことかもしれんが、旅はまだ、早いのではないか。」
「大丈夫です。わたしは、旅をしないといけないんです。」
国王が口を挟む。
「やめよ、大臣。ユウにも、事情があるのじゃろう。この若さで、世界の行く末を憂い、旅をしようとは、まことに天晴れ。快く、送り出そうではないか。それが、どのように手を尽くそうとも、結局は座して待つしか出来ぬ我々の、務めというもの。繰り返すがユウよ。気を付けて行くのじゃぞ!」
「はい。お言葉を、ありがとうございます。では、わたしは行きます。」
謁見の間を出る。
自分よりも幼い少女の旅立ちを、姫も心配そうに見送るが、少女は気付かない。
この城での話は十分聞いたと判断し、少女はエンドールを目指し、町を出て西に向かう。
西に向かう道は平原で、ブランカを目指して山を、森を抜けたときとは違い、楽に歩ける。
慣れない旅ではあるが、いつも走り込んでいた、鍛えられた足と慣れた靴で、足が痛むことも無い。
感情の戻った心は生き物を殺すことに躊躇を覚えるが、経験もゴールドも必要だ。
倒し慣れてきた魔物たちを、見つける都度倒し、戦利品を回収する。
ほどなく、西の洞窟にたどり着いた。
自然の洞窟には魔物が出るというが、人工の通路であるこの洞窟ではそれも無い。
行き交う人々を眺めながら、少女も洞窟に足を踏み入れる。
洞窟の中に佇み、人の流れを見守る兵士に声をかける。
「あの。すみません」
「なんだい?」
「エンドールに行くのは、ここで合ってますか」
「そうだよ。ここは、エンドールとブランカを繋ぐ洞窟だ。」
「ありがとう」
エンドール側の出口近くの小部屋に、老人が座っている。
「あの。すみません」
「どうした?お嬢ちゃん。」
「こんなところで、なにしてるの?」
「この洞窟は、わしの長年の夢でな。行き交う人々を、見守っておるのじゃよ。お嬢ちゃんも、旅人かの?」
「うん」
「そうか。それなら、もし、トルネコという者に会ったら、この爺が心配していたと伝えてくれんか。」
(また、トルネコ。この人も、心配してる。知ってる、人だから。大事な、人だから?)
「うん、わかった」
「では、お嬢ちゃんも、気を付けてな。」
「うん。それじゃあね」
(気を付けて。色んな人に、言われた。わたしのことも、心配してる?知らない、人たちなのに?)
老人と別れ、洞窟を出る。
辺りは見通しの良い平原で、川を挟んで遠くに城が見える。
城を目指し、少女は再び平原を歩きだす。
また何度か魔物に遭い、倒す。
城下町に着く。
ブランカよりもさらに大きく、立派で、賑やかな町。
喧騒に気圧されながらも足を踏み出し、近くにいた男に声をかける。
「あの。ここは、エンドールですか」
「そうだよ。エンドールの城下町へ、ようこそ!」
男は気安く答え、すぐに歩き去る。
周りを見ると、他の者たちも速足で行き交っている。
(なんだか、みんな忙しそう)
それでも、情報は聞かなければならない。
町を歩き出し、声をかけやすそうな人を探す。
立ち止まり、談笑している女性たちを見つける。
ひとりの女性に、声をかける。
「あの。すみません」
「なんだい。見ないお嬢ちゃんだね。」
「なにか、お話をきかせてほしいの」
「なにかって言われてもねえ。」
別の女性が口を挟む。
「いいじゃないの。どうせ、世間話してたんだから。お嬢ちゃん、聞きたいならそこで聞いておいで。」
「ありがとう」
女性たちが、談笑を再開する。
「ちょっと前に、黒い雲が東の空に流れていったのよ。不気味ったら無かったわ。」
「あたしも見たわ。その後だったかしら、世界を救うはずの勇者様が、死んだって噂を聞いたわよ。」
「いやだわ、物騒な話ねえ。怪物が出るようになったのは、地獄の帝王とかいうのが蘇る、前触れだって噂だし。」
「武術大会のあと、しばらくは怪物も出なかったのにねえ。何がどうなってるんだか、ほんとに物騒な世の中だよ。」
(武術、大会。武術の、大きな、会。武術の訓練とか、試合する大きな会?)
「武術大会って言えば、大会に出てたデスピサロ。あれが、実は人間じゃなかったとか。」
(デスピサロ!武術大会に、出てた。)
「まあ、道理で。ただの人間にしては、強すぎると思ったわよ。」
「ただの、噂話だけどね。」
「大層な男前だって、若い娘たちが騒いでたあれかい?あはは、人間じゃなかったんなら、納得だわ!」
「あたしは優勝した王子様のほうが、可愛くって良かったけどねえ。」
「まだちょっと若すぎるけど、あれも男前になりそうだったものね!」
「王子様だけに、感じも良かったしね。人間じゃないなんて噂されるのとは、大違いよ。」
「サントハイムの、アリーナ王子様だったわね。実は、うちの姫様が、アリーナ王子様に、想いを寄せてらしたとか。」
「あらまあ!今まさに、ボンモールのリック王子様と、結婚式の真っ最中の、モニカ姫様が!?」
「武術大会から、いくらも経ってないのよ。流石に、デマじゃないの?」
「王族のご結婚に、惚れた腫れたも無いでしょうよ。」
「それは、そうだけどねえ。いくらなんでも、早すぎよ。姫様も、まだまだ焦るようなお年でも無いのに。」
「そうよ。大体、優勝したのが、そのアリーナ王子様なのよ。それなら最初の約束通り、優勝者と、ご結婚なされば良かっただけじゃないの。あのモニカ姫様に限って、袖にされるなんてこともあるまいし。」
「まあ、そうよねえ。やっぱり、デマかしらね。」
「さて、そろそろ家事に戻らなくっちゃ。」
「そうね。じゃあ、またね。」
「あら、そうだわ、あたし急いでたんだった。」
話にひと段落つき、散って行く女性たち。
女性たちを見送り、少女もまた歩きだす。
(デスピサロが、武術大会に出てた。武術大会で優勝したのは、サントハイムの、アリーナ王子様。デスピサロと戦って、勝った、人?)
宿の前を通りかかる。
まだ明るいが、賑わう町では宿が満室になることもあるという。
町を回る前に、部屋を取っておこうと中に入る。
後書き
暗闇の中、歩き続ける少女。
少女が出逢う、最初の光。
次回、『5-04エンドールの兄弟』。
6/5(水)午前5:00更新。
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