| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

好き勝手に生きる!

作者:月下美人
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二十二話「イッセー、強化計画!」



 皆さん、おはようございます、姫咲レイです。現在わたくし、起き抜けでありながら非常によく分からない状況にあります。


「……ん……」


「すぅ……すぅ……」


 朝起きたら両隣から艶めかしい声が。なんだなんだ泥棒か? と思い隣へ視線を移すと、そこには紅髪のお姉さんと黒髪のお姉さん。僕の暫定主である上級悪魔のリアス・グレモリーとその『女王』である姫島朱乃お姉ちゃんの姿があった!


 ――なんで僕の部屋に居るんだろう? 二人とも部屋は与えたのに。


 今、僕は久しく帰っていなかった実家にいる。埃が積もってたから大掃除をするために一時帰宅したのだ。


 前回、僕の超活躍によってリアスちゃんを勝利に導き、約束通りフェニックス家とグレモリー家の婚約は破談となった。後日、ゼッくんと会った僕は彼に「ねえ今どんな気持ち? どんな気持ち?」と話を聞くと、今回の婚約破棄は両家ともに納得してくれているようだった。むしろリアスちゃんのお家は時期尚早だったと考えを改めたらしい。


 ちなみに、焼き鳥くんは生まれて初めて敗北を経験したことからショックのあまりに寝込んでしまったらしい。


 んでんで、なんでリアスちゃんが僕の家にいるのかというと、あのゲームの後に突然リアスちゃんが僕の家に住むと言い出したの。リアスちゃんは新しい下僕との交流を深めたいとのことらしけど……僕、すぐに下僕辞めるつもりなんだけど。


 まあ、家には誰もいないし、部屋数もあるからいいよって言ったら住みついちゃった。


 何故だかリアスちゃんに対抗して朱乃お姉ちゃんも住むと言い出す始末。朱乃ママは笑顔で見送り、僕も拒む理由は無いから承諾した。朱乃お姉ちゃんの部屋は僕の部屋の右隣、リアスちゃんは左隣です。


 リアスちゃんの寝顔をガン見する。リアスちゃんは寝るときは服を着ないらしく、いつも裸で寝ていらっしゃる。当然、今この場でもリアスちゃんは産れた姿で隣にいる。


 右半身から柔らかい感触が伝わってくる。完全に僕を抱き枕にしてますね!


 今度は反対側に顔を向ける。なぜかワイシャツを寝巻代わりに着ている朱乃お姉ちゃん。すやすやと気持ちよさそうな寝息を立てている。


 視線を少し下げるとお姉ちゃんの胸の谷間がお見えになった。しかもフローラルな匂いが鼻孔を擽る。お姉ちゃんは花のような香りで、リアスちゃんからは甘い匂いがする。どっちの良い匂いで好きだなぁ……。


 お姉ちゃんの胸元に顔を埋めてくんくんしていると、気配に気が付いたのか目を覚ましたようだ。


「ん……もう朝ですか……。おはようございます、レイくん」


「おっはー」


 優しく微笑むお姉ちゃんにふにゃんとした笑みを返す。ちなみに小声でのやり取りです。


 隣ではまだリアスちゃんが寝ているからね。起しちゃメッだ。


「リアスは……まだ寝ているみたいね」


「お姉ちゃんなんでいんのー?」


 昨日、寝る前は別々の部屋でしたよね?


「レイくんと一緒に寝たい気分だったの。……ダメだった?」


「んーん、もーまんたいだよ。ちょーうぇるかむです!」


 しおらしく訪ねてくるお姉ちゃんに胸の内にある何かを打ち抜かれたイメージを空想した僕は、リアスちゃんの腕の中を文字通りすり抜けた。寝返りを打ってお姉ちゃんにギュッとする。


「あらあら、今日のレイくんは甘えん坊ですね」


「にふ~。当社の製品は一月に一度の周期で甘々モードに突入する仕様となっていまふ~」


 くーりんぐおふは受け付けておりませぬ!


「うふふ、そんなレイくんも可愛らしくて素敵ですよ?」


「ありがとうございまする~」


 最近、おっぱいに興味が出てきたのを知ったイッセーに、『おっぱいソムリエになるために~初級編~』というDVDを貸してもらった。


 中年のおじさんがおっぱいのなんたるかを熱く語っていて、なにを言ってるのかちっとも理解できなかったけど不思議と心惹かれる光景がそこにはあった。今回は是非ともそれを行ってみたく存じますれば候!


「では、いざ……!」


 参ります!


 ――ふにょん!


「ん……」


 谷間に顔を入れて両側のおっぱいで挟み、パフパフする。程良い乳圧が顔を圧迫し、滑らかでいて柔らかな感触と、お花の香りが鼻孔を擽った。


 これが、ぱふぱふを制する者は世界を制すと言われた感触……! なんだか安心するような、眠くなるような感じがする……。


『夢のパフパフ』というのは眠りを誘う効果がありました。そのまま二度寝タイムに突入です。


 ちなみにリアスちゃんは一度も目を覚ますことなく、気持ちよさそうに寝入っていました!





   †                    †                    †





「んで、話ってなーに?」


 家でゴロゴロしていたらイッセーから電話があった。なにやら大切な話があるらしいので待ち合わせ場所の公園に来てみると、真剣な顔をした友がそこにいた。


「レイ……頼む! 俺を鍛えてくれっ!」


 大きく頭を下げるイッセーに少し面食らう。


「ふむふむ」


 ポツポツと語り出した話をまとめると、前のライザーくんの一件以来もっと強くなりたいと願ったと。それで自分が知る中で一番強い僕に鍛えて欲しいと。


「なーるほどねぇ。うん、いいよ。他ならないイッセーの頼みだし、僕が鍛えてあげる!」


「本当か!?」


「ホントホント。じゃあ、早速やる?」


「ああ、頼むわ」


「ラジャー」


 イッセーを連れて次元跳躍で別次元に転移する。転移した場所は真っ白い空間であり、上空にはルービックキューブのような複数の白いキューブが回転しながら浮遊していた。


「なんだ、ここ……」


 呆然と佇むイッセーが周囲を見回す。


「ここは虚数領域っていう異空間だよ。ここの時間と人間界の時間は捻じれているからいくらでも修業し放題さ。確か、ここでの一日が人間界での一分だったかな? まあなんにせよ、時間はたっぷりあるから、じっくり鍛えてあげる」





   †                    †                    †





「では、只今よりイッセー強化計画を実施したいと思いまーす! パフパフ~!」


 ポケットから取り出した小型のラッパを鳴らし場を盛り上げようとするが、イッセーは真剣な表情を崩さなかった。ありゃ、それほど本気なんだ。なら僕も真剣に応えないとだね。


「じゃあ、イッセーを鍛えるにあたっての今後の方針を説明するね」


「おう!」


「ん、元気があってよろしい。やっぱりイッセーの持ち味は『赤龍帝の籠手』にあると思うんだ。だから今以上に『神器』の扱いを覚えてもらう。それと同時に今までと同じく基礎を高めつつ、体術と魔力運用とある魔術を覚えてもらうよ」


「体術ってのは分かるけど、魔力運用ってのは?」


「魔力運用は魔力コントロールのことだよ。イッセーの保有する魔力量は少ないけど、『赤龍帝の籠手』の力で魔力を倍増させれば僕の教える魔術が使えると思う。そのためには基盤となる魔力コントロールを身に付けないといけないんだ」


「その魔術ってのは何なんだ?」


 イッセーの質問には答えずポケットからチュッパチャップスを取り出す。


「まあそれについては追々教えるよ。まずは基礎体力と体術を身に付けようか」


 僕が指を鳴らすと辺り一面に様々な大きさや形をした『壁』が現れる。


「じゃあ、今から僕がイッセーを追いかけるから、イッセーは僕に捕まらないように逃げて。障害物を利用して隠れるのも良し。制限時間は六時間ね」


 再び指を鳴らすと上空に巨大な懐中時計が出現する。


「僕に捕まったらペナルティがあるから頑張って逃げてね。さあ、鬼ごっこの時間だよ~」


 さてさて、何分持つかな?





   †                    †                    †





「はっ……はっ……はっ……はっ……!」


 背後から迫り来る気配。俺は必死になって逃れようと、がむしゃらになって足を動かしていた。途中、壁を背にして乱れた呼吸を整える。


「き、きついなこれ……」


 そんなこんなで始まったレイとの鬼ごっこはすでに四時間が経過した。


 こんなの楽勝じゃねぇか、と思っていた少し前の自分を殴りたい。楽勝だなんてとんでもない!


 開始と同時にレイの姿がブレたと思ったら、五人に増えやがったんだ! お前はどこぞの忍者か!


 散開したレイたちはもの凄い勢いで俺を追いかけてくる。ウ○イン・ボ○トも真っ青の早さだよ。


 しかも捕まったときのペナルティがまた恐ろしい。定番のランニングや各種筋トレかと思いきや――、


 アイツ、目の前で俺の秘蔵コレクションを叩き割るんだ!


 しかもご丁寧にもう一人のレイが後ろから羽交い締めにするから身動きが取れない。っていうか、どうやって持ってきたんだよお前! 両親や部長たちの目から逃れるために天井裏の隠し金庫の中に入れていたのに!


 この四時間の間に捕まった回数は百九十回。天へ召された俺の巨乳ちゃんも百九十人。中には絶版となった激レアDVDもあったのに……。ああ、俺のコレクションがどんどん減っていく……。


 こっちはブーステッド・ギアで身体能力を倍加しているのに、まったく逃れそうにない。


「くそぅ……っ。レイの奴、絶対いつか泣かす……!」


「ならまず生き残らないとねぇ」


 頭上から聞こえてきた声に思わず凍りつく。ゆっくりと上を見上げると、レイが壁に肘を乗っけて至近距離から俺を見下ろしていた。


「見ぃつけたぁ」


 ニヤァ、と口が三日月のように歪むレイを見た途端、勢いよく地を蹴って猛ダッシュする。


「にはははは! 逃がさないよ~」


 背後から手をワキワキさせたレイが追いかけてきた。って――、


「それは反則だろ!?」


「世は不条理です」


 これもレイの力なのか、まるで地面を走るかのように空中を疾駆している!


「くそっ、こうなったら!」


「へー」


 その辺にある壁を粉々に砕いて目くらましにする。驚くレイ。その隙に魔力弾をレイに向かって放った。


 ――よし、ここだ!


『Transfer!』


俺の第二の力である『赤龍帝からの贈り物』。どうにかして逃れられないかと模索していたら手に入れた俺の力だ。効果は人や物に高めた力を譲渡して爆発的に力を向上させる。


「うん、それで正解だよ。だけど、まだ火力が足りないかな」


 譲渡によって巨岩サイズの魔力弾は二倍近くの大きさにまで成長したが、レイの拳一つで霧散した。


「くそっ、やっぱり無理か」


 やはり純粋な戦闘じゃあレイには叶わないか。


 どうするかと頭を悩ませていると、レイは空中に佇みながら自分の右手を見つめていた。見ればレイの掌には小さな火傷があった。さっきの魔力弾の影響か?


「ふむ、ここまでの威力は秘めているのね……。うん、僕に傷を負わせたことだし、ボーナスタイムといこうか」


「ボーナスタイム?」


 なんだ? レイにとってのボーナスじゃないだろうな。


 カラカラと笑うレイは俺の前に降りてくると人差し指を立てた。


「いいかい、イッセー。ただ闇雲に逃げるだけじゃダメなんだ。それだと足音や呼吸音なんかで自分の場所を教えているようなものだよ。しかも、イッセーの弱点は神器で倍加するまでのタイムラグにあるからね、受け身の姿勢だといつか捕まり倒される。だから時には目眩ましなんかで相手の気を逸らしたり、気配を殺しながら移動する術を覚えなくちゃいけないよ」


 うーむ、言っていることは理解できるんだが、気配を殺しながら移動ってどうやってするんだ?


 首を捻る俺にレイがほにゃっとした笑顔を見せる。


「大丈夫だよ、イッセー。ちゃんと僕が教えるから。そのためのボーナスタイムなんだよ」


「おお、マジか。そりゃ助かるよ」


「にははー。任せんしゃい任せんしゃい。今から教えるのは『気殺の法』と言って、気配を遮断したまま移動する技術だよ。これを完璧にマスターできるようになれば、相手の前に立っていても気付かれなくなるんだ。こんな風にね」


 ――っ、レイの身体が透けていく!?


 急激にレイの身体が透けていき、やがて俺の眼前から姿を消した! 周りを見渡してもレイの姿が見当たらない!


「とまあ、極めればこんな感じで相手から認識されなくなることも出来るよ」


 背後からの声に振り返ると、レイが空間から滲むように姿を現した。


 待てよ? この技術を手に入れれば、女子の前でパンツ見放題……? た、体育の授業で揺れるオッパイを目の前で凝視し放題……!?


 ――俺の脳内で雷が降った。


「先生! 是非とも教えて下さい! 俺に桃源郷をぉぉぉぉぉ!!」


「う、うん……わかったから土下座は止めようよ」


 俺の熱意にタジタジだったレイの姿は激レアだったとだけ言っておく。





   †                    †                    †





 レイと修業を始めて三カ月が経過した。レイの意外と懇親的なレクチャーは功を成し、気殺の法も完全とまではいかないまでもある程度の形にはなってきた。さらにはレイ直伝の体術もいくつか教わり、確実に強くなってきているのが実感できる。だけど、まだまだこんなもので満足してはいられない。


「うぉおおおおおりゃあああああ!」


 現在はレイと模擬戦をしている真っ最中だ。相手の目線や気配、呼吸から次の挙動を先読みするのが今回の目標だ。


 俺のボディーブローをスウェーで回避するレイ。その状態なら追撃されたら対処できないだろ!


「くらえ! レイ直伝、拳撃三歩!」


 拳を振りかぶりながら跳躍し、全体重を拳に乗せる。口角を吊り上げたレイは唐突に前に出た! 重心が後ろにあったのにどうして急激に前に出れるんだ!?


「甘いねイッセー。それは諸刃の剣だって教えたでしょ」


 反らしていた上体を今度は前方に倒しながら物凄い勢いで俺の懐に入る。そして俺の顔面にレイの拳が突き刺さった。


「ぶぐぁああああああッ!!」


 俺の体重や勢いがある分、カウンターとなって俺に襲い掛かった。なるほど、確かに諸刃の剣だよ。身を以って味わったぜ……。


「うん、模擬戦はこのくらいにしとこうか。じゃあ十分間の休憩ね」


「おぉ~……」


 大の字に寝っころがり乱れた呼吸を整える。流石に三十回連続で模擬戦は辛いわ。しかも全敗だし。


 俺の横に座ったレイが苦笑する。


「イッセーはここぞというところでヘマしちゃうねー。本番じゃやらかさないでよ?」


「さ、さすがにそれはない思うが……」


「どうだかねー。イッセーだもんねー。案外ポロッとやっちゃうかもよー」


「いやいや、そんなことはしないだろう――しないよな?」


「いや、僕に聞かないでよ。――んじゃ、休憩終わり!」


 って、早くねぇか!? まだ一分も経ってないじゃねぇか!


「そんなことないよー。休憩したでしょ? ほら早く立って立って」


 レイに促され立ち上がる。やはりまだ疲労が回復していないため、足腰がフラフラだ。


「んー、じゃあ今度は魔術を教えまーす! パフパフ~!」


「おお、ついにか! どんな魔術なんだ!?」


 なにかこう、ド派手で格好いいのを頼むぜ!


「教えるのはね、超基本系魔術の身体強化だよー」


 ――は?


「超……基本系?」


「うん、そうだよ? あっ、だからといって甘く見ちゃだめだよ。これはすべての魔術の基礎となるものだから、これがをしっかり修得すると魔力運用の効率が上がるんだ。それによって強化される度合いもまた違ってくるし」


「要は奥が深いってことか?」


「そういうこと」


 魔術に関してはからっきしだからな、ここはレイの言うことを素直に聞いておかないと。


「イッセーに魔力運用や強化の魔術についての理論を説いても理解できないだろうから、実際にやってみて身体で覚えようか。じゃあ、まずは倍加で魔力だけ増加させてみて。回数は十回ね」


「おう!」


『Boost!』


 ブーステッド・ギアを出現させ力の増幅を始める。レイとの修行で大雑把ではあるが、倍加したいものを選別できるようになったんだ。これは俺にとってはかなりの進歩だ。


『Boost!』


 よし、十回目の倍加だ。いくぜ!


『Explosion!』


 俺の中で魔力が増幅するのが感覚として分かる。なんというか、熱いものが身体の底から少しだけ湧き上がるような感じだ。


「ん、ちゃんと倍加が出来たようだね。自分の魔力を感じることは出来るよね?」


「おう、このグツグツっとした奴だろ?」


「人それぞれだから感じ方は違うけど、恐らくそれだね。じゃあ、今度はそれを体の中で循環させてみて。爪先から頭のてっぺんまで、満遍なく魔力を循環させるんだ」


 循環? ……むむっ、難しいな。


 魔力を感じることは出来るんだが、それを上手く動かすことが出来ない。放出することは出来るのになー。


「大切なのはイメージだよ。血管に流れる血のようなイメージがいいかもしれないね」


 あー、確かに血液は漸進に巡るからな。血管……血管……血液……。


「おー、今度はちゃんとできたみたいだねぇ。まだ少し甘いところはあるけど、それはやりながら修正していこうか。じゃあ、今度は魔力を循環させたままで一日過ごしてみてね」


「一日!?」


「うん。そうすれば明日にはかなり魔力運用が上達しているはずだから、取りあえずやってみよー!」


 おー! っと手を上空に突き出すレイに愕然とした。


 い、一日か……。だけど、そのくらいしないと強くなれないならやるしかねぇか!


 俺もレイと一緒に「おー!」と腕を突き上げた。





   †                    †                    †





 あれから四カ月が経過した。レイと修業を開始して七カ月だ。


 魔力運用はなんとか一日途切れさせずに体内で循環させることに成功。翌日、身体強化の魔術を教えてもらったのだが、この魔力運用こそが強化の魔術なのだと。


 確かに循環させながら運動をすると、今までより身体能力が向上されているのが肌で感じ取ることができた。それからはひたすら魔力運用の練習だ。今では一カ月は魔力を循環させながら日常生活を送れるようになっている。


 そのおかげで――、


「オラァ!」


 強烈な震脚を利かせてレイに拳を放つ。余裕で首を傾けて回避するレイだが、拳圧でレイの髪がぶあっと浮き上がった。


 後ろに跳躍して距離を取ろうとするレイだが、そうはさせないと地面を蹴る。


 騎士の木場と同等のスピードでレイの後ろに回り込み、その背中に前蹴りを叩き込む!


「よっと」


 レイは転身して躱すと、俺の蹴り足を掴み足払いを仕掛けた。一瞬の浮遊感。蹴り足を掴んだ手でそのまま地面に叩きつける。


「ぐっ……どらぁ!」


 なんとか身体を捻りもう片方の足で掴んでいる腕を蹴り飛ばし回避。地面に手をつきバク転の要領ですぐさま距離を取った。


「んー、大分魔力運用が上達してきたね。反応も上々だし。うん、重畳重畳ー」


「マジか?」


「マジマジ。じゃあ、ここまで頑張ったイッセーにご褒美として、夕凪流活殺術の奥義を食らわせてあげる」


 おいおい、それはご褒美なのか!?


「当然、この上ないご褒美だよー。技を食らわせるということは、その技を盗ませてあげるってことなんだから。まあ、盗めない技というのも存在するし、盗ませないように配慮してるけどね」


 右手を引き、腰だめに構えるレイ。


「一回しか使わないから、よく見て、よく味わうんだよ?」


 レイの言葉に俺は全神経を集中させた。魔力運用で感覚も過敏に研ぎ澄ませる。一挙動すら見過ごさないようにこの目に刻む!


「じゃあ、いくよ。夕凪流活殺術、奥義――」


 レイの姿が掻き消え、次の瞬間には俺の眼前に躍り出た! 駄目だ、目を逸らすな!


 そして、技が繰り出される。


「――螺旋抜き手」


 突如、もの凄い衝撃が俺の腹を突き抜けた。突き抜けた衝撃が背後にある壁に穴を穿つ。


「手首、肘、片、首、腰、足の順に回転させることで貫通力を上げる抜き手だよ。人間が身体を動かす時は普通、身体の近位の関節から動かすんだけど、この技は逆に遠位から動かすのがミソなんだー。って、聞こえてないか」


 あまりの衝撃に意識が薄れていくのを感じる。身体の力が抜けていき、倒れそうになるところをレイが抱き留めてくれた。


「まあ、頑張ったもんね……。お疲れ様。これにて修業は終了だよー」


 俺を労わる優しい声が、薄れゆく意識の中ではっきりと聞こえた。

 
 

 
後書き
感想および評価切実に募集中! 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧