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好き勝手に生きる!

作者:月下美人
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閑話その二「今日のレイくん!」

 
前書き
朱乃編はIFの話です。もし朱乃とリアスがレイの家に転がり込まなかったら、を念頭に置いてお読みください。 

 


「ねえ、レイくん。突然なんだけど、うちに住まない?」


「んぅ?」


 いつものように朱乃お姉ちゃんの家にお邪魔していた僕は和菓子をごちそうになっていた。団子はやっぱり御手洗が一番だと思うね。


 はむはむ、と食べていると向かいに座ったママさんが急にそんなことを言ってきたんだ。


「聞くところによると、レイくんのご両親はいらっしゃらないという話よね。レイくんを一人にするのは正直不安なのよ。あなたは私たちにとってもう家族のようなものよ。レイくんがいつも家で一人だと思うと、どうしてもね」


 隣に座ったお姉ちゃんも賛成なのか、神妙に頷いた。


「そうですわね。よく私やイッセーくん、祐斗くんのお家にお泊りになっているらしいけど、まともにお家に帰ってらっしゃらないのですよね?」


「うん。なんか帰ってもつまらないというか、落ち着かないんだよねー」


 五本目の団子に手を伸ばす。そんな僕を見てお姉ちゃんは眉根を寄せた。


「なら、本格的に私の家に居を構えてはどうでしょう。私はもちろん、お母様もお父様も歓迎してますし」


「んー」


 まあ、朱乃お姉ちゃんもママさんもパパさんも嫌いじゃない。家に居てもつまらないし――って、あれ? なら、答えは決まっているんじゃないの?


 導き出した回答に頷いた僕はこちらを不安気に見つめるお姉ちゃんを見上げた。


「じゃあ、お邪魔しまーす」


「――っ! ええ、これからもよろしくね!」


 パァっと顔を輝かせたお姉ちゃんが抱きついてきた。豊満な胸に横顔が圧迫されながらも、僕は食べるのを止めはしない!


「ふふっ、歓迎するわ、レイくん。それと、私のことはお義母さんと呼んでもいいのよ?」


「お母様!」


「あらあら、うふふ……。頑張りなさい、朱乃。聞く限り敵は多いようですからね」


「もう……。分かっていますわ。お母様ってこんな感じだったかしら?」


 よく分からない会話をする母娘に首を傾げる。まあ、仲がいいことは良いことです。


「それじゃあ、今日の夕食はうんと豪勢なのにしましょうか。レイくんが我が家に来る記念すべき日だし、久しぶりにあの人も帰って来るしね」


「お父様が?」


「ええ。さっき電話でね。朱乃に会いたがっていたわよ」


「そう……」


 嬉しそうに微笑むお姉ちゃん。お姉ちゃんはパパさんが大好きなんだねー。





   †                    †                    †





「はい。借りていた駒だよ」


 そういえば、ふと『戦車』の駒を返していないことを思い出した僕はリアスちゃんの部屋に向かった。


 リアスちゃんは椅子に座ってなにやら難しそうなご本を読んでいた。その場で自分の胸に手を突っ込み駒を抜き取る。


 目に見えて気落ちしたリアスちゃんが懇願するようにな目で見つめてきた。


「どうしてもダメなの? このまま私の眷属になってくれない?」


「だーめ。もともとライザーくんとの戦いの間だけっていう約束だったし、ゲームも味わえて満足したからね。例外はなしですー」


「そう……、残念ね」


 渋々といった様子で受け取るリアスちゃん。なんだか可哀想に見えてきたので、優しい僕は飴をあげることにした。もちろん、取り出したのは大のお気に入りであるチュッパチャップスだ。


「これでも食べて元気出して、はい」


「え? ちょ――むぐっ!?」


 リアスちゃんのお口にズボッと突き刺す。ちなみにお味は最新作の北京ダック味だ。


「ということだから、じゃあね~」


「ちょっと! 待ちなさい、レイっ」


 リアスちゃんの言葉を背にその場を去る。二階の窓を突き破って。自分の家なので問題なしです!


「もう、相変わらず勝手何なんだから……。……意外といけるわね、これ」


 気に入ってもらえたなら何よりです。





   †                    †                    †





「じゃあ、お願いするよ」


「あいさー」


 木場くんの申し出により、再び模擬戦をすることに。今度は実戦形式でやりたいとのことなので、人気のないところに空間跳躍する。


「ここは?」


「ここはねー。……判んなーい」


 跳躍した場所は人気のない山の中。丁度、開けた空間に出た。


 適当に見繕った場所だからねー。冥界のどこかというのは分かるけど。


「わかんないって……」


「まあ、いいじゃん。それより早くやーろーうーよー」


 ジタバタする僕に苦笑した木場くんが、その手に魔剣を出現させた。


「おー、それが?」


「うん、僕の神器だよ。名は『魔剣創造』(ソード・バース)」


 へー、これがねぇ。話には聞いていたけど、こうして直接お目にするのは初めてだね。聞いたところでは魔剣以外にも普通の剣を作れるようだけど。


「どんな魔剣が作れるの?」


「大抵のものなら作れるかな。これは雷鳴剣といって雷を宿した剣だよ」


「ふーん。じゃあ、僕も魔剣を作ろっと」


 目には目を歯には歯を、魔剣には魔剣を、っとね!


 創り出した魔剣は僕の記憶上の中でも五指に入る最上級の最上級の剣だ。分厚い黒い刀身は僕の背丈を優に超え、刀身の周りを漆黒の炎が取り巻いている。


「レ、レイくん? それは一体……」


 引き攣った笑顔を浮かべる木場くんに、へにゃっと笑みを見せる。


「魔剣のレーヴァテインだよ。この炎はなーんでも焼いちゃうから気を付けてね。ああ、別に死んじゃっても大丈夫だよ。生き返らせるから」


 冷や汗をだらだらと流す木場くんにとっては死刑宣告にも似た言葉を告げる。


「じゃあ、どっかの誰かさんと同じように、三十本組手をしようか」


 この日、木場くんの悲鳴が途切れることはなかったとさ。





   †                    †                    †





「あや? 小猫ちゃん、どったの?」


 ブラブラその辺を意味も無く散策していると、家の前に小猫ちゃんが立っていた。彼女は無言で僕の家を見上げている。


「先輩……。いえ、たまたま先輩の家の前を通ったので……」


「あー、それで見ていたと?」


 コクンと頷く小猫ちゃん。そっかー、……どうせなら招待しちゃおっか。


 ちなみに今、朱乃お姉ちゃんとリアスちゃんは仲良くお買い物とのことで不在です。


「なんなら寄って行く?」


「……いいんですか?」


「うん、いいよいいよー」


「……ではお邪魔します」


「あいあい。一名様ごあんなーい」


 門を押し開け中に入る。僕のお家は一見どこにでもありそうな二階建ての一軒家だ。けれど、内装に関してはその限りではない。


「――え?」


 鍵を開けて扉を開ける。小猫ちゃんを通すと、彼女の口からそんな言葉が漏れた。


 まあ、その反応も至極当然だと思う。なにせ扉を潜ったら、どこの豪邸だと思うような広いエントランスに出たらね。


 五十メートル程の高さの天井には煌びやかなシャンデリアが吊り下げられ、床一面は大理石で出来ている。


 エントランスを抜けるとホールになっており、正面には二階に続く階段がある。僕の私室はそっちだ。右側の手前と奥の部屋は客室、左側の手前は食堂、奥の部屋が厨房になっている。


「お、大きいですね……」


「うん、調子に乗って作ってたらこうなっちゃった」


 きょろきょろと世話しなく視線を動かす小猫ちゃん。


「……先輩が作ったんですか?」


「そだよ。外と中の空間を捻じ曲げた上で、内部の空間を拡張したりしてね」



「……先輩はいつもここに一人で?」


「んー、前まではそうだったんだけど。今は朱乃お姉ちゃんとリアスちゃんが住んでるよ」


「……え? 朱乃先輩と部長が?」


 真ん丸の目を見開く小猫ちゃんに頷く。


「うん。なんだか知らないうちに住みついちゃった。まあ部屋数も多いから問題ないんだけどね」


「……そう、ですか」


「うん」


 絶句する小猫ちゃん。その様子に首を傾げた僕は取りあえず小猫ちゃんを自室に案内した。


「はい、どうぞー。とはいっても何もないけどね」


「……お邪魔します」


 僕の部屋は本当に何もない。それこそ、ベッドと机、テーブル、タンスとクローゼットだけだ。


「誰かを家に招待したのは実は小猫ちゃんが初めてなんだ。だから、小猫ちゃんが最初のお客さんだねー」


「……そうなんですか?」


「うん、そうなんですよー」


「……そうですか」


 素っ気なく言っているけど、嬉しがっているのは丸見えだよ。だって――、


「小猫ちゃん、耳と尻尾丸見えだよ?」


「――え? あ……」


 慌てて耳を隠すがもう遅い。小猫ちゃんの頭部から可愛いらしい猫耳がぴょこっと顔を出していた。お尻からは尻尾がご機嫌そうにフリフリしているし。感情に合わせて出てくるのかな?


「……あのっ、先輩これは――」


「あー、いいよいいよ。知ってたし」


「そう、なんですか……?」


「うん。僕って気配には敏感だから。会って一目見てわかったよ。こう――ビビビッって感じでね」


 実際、彼女が猫又だというのは出会った当初から知っていた。過去にも何度か猫又の人とは面識を持ったことがあるしね。


「……そうですか」


 ホッと息を零す小猫ちゃんにふと思ったことを聞いてみる。


「ところで、小猫ちゃんが猫又だってことはみんな知ってるの?」


「……アーシア先輩とイッセー先輩以外は。お二人には話す機会が中々無くて……」


「あー、確かに。こういうのって空気が大切だからねー」


 僕は無視してぶち壊すけど!


「まあ、話すなら早いほうが良いと思うけどね。僕が膳立ててあげようか?」


「……いえ、イッセー先輩とアーシア先輩には私から言います」


「そう? まあ頑張ってねー。ところでこれ、この前に駅前で新しく出来たお店のケーキなんだけど、食べる?」


「……頂きます」


 取り出したのはショートケーキが二つ。ここのケーキのホイップはとても美味しいのだ。


 この後、小二時間に渡って、小猫ちゃんとお菓子の話や学校の話しなどでまったりしながら過ごしました。ケーキは美味しかったです!





   †                    †                    †





「あれ? アーシアちゃん?」


「あっ、レイさん!」


 商店街でアーシアちゃんと遭遇。こんなところででどうしたんでしょうね? しかも一人だし。


「どったの? こんなところで」


「イッセーさんのお母さまからお遣いを頼まれまして」


 ポケットから財布と紙切れを取り出すアーシアちゃん。その顔にはいかにも私頑張ります! といった風に気合に満ちており、全身から活気が溢れているほどだ。


「へぇ、もしかして初めての?」


「はい! 初めてのお買い物です。普段は二人で行くのですが」


「ほうほう。アーシアちゃん初めてのお遣いかー」


 んー、ここはついて行ってみようかな。なんか面白そうだし。


「じゃあ、僕も付き合ってあげる」


「本当ですか? では、お願いしますね」


 安心しきった様子で嬉しそうに手を合わせるアーシアちゃんに僕も微笑む。


 ということで、アーシアちゃんのお遣いに同行することとなった僕だが、まず何を買うのかな?


「何を頼まれたの?」


「えーとですね。……豚の豚肩を七五〇グラム、ニンジンと玉ねぎを四つ、ジャガイモを五つです!」


「ふむふむ、カレーでも作るのかな? じゃあまずは八百屋さんに行こうか」


「はい!」


 ふと、重大なことに気が付いた。



「アーシアちゃん、バック持ってないの?」


「バックですか?」


 首を傾げるアーシアちゃんに愕然とする。まさか、お買い物の必須アイテムを持っていないなんて……!


「ダメだよアーシアちゃん! バックはお買い物をする時には必須なんだよ? お買い物三原則でも【バック】、【財布】、【根性】とあるくらいなんだから! イッセーのママさんもいつも買い物をする時はバックを持ってきていたでしょ?」


「そ、そういえばそうでした……! どうしましょう!?」


 あせあせと困った顔でパニックになるアーシアちゃん。仕方がないので懐からマイエコバックを取り出す。


「僕のバックを貸してあげるから、これ使って」


「ありがとうございます、レイさん! ところで、どこから取り出したんですか?」


 僕のポケットは四次元空間になっているのですよ。


 そうこうしているうちに八百屋さんに到着した。


「おや、アーシアちゃんじゃないかい! 今日は一人なのかい?」


「いえ、今日はレイさんと一緒です」


「おばちゃん、お久~!」


 僕の姿を目にした八百屋の田中おばちゃんが目を丸くした。おばちゃんは肝っ玉のお母さんといった感じの人で、以前からよくしてもらっている。というより商店街のみんなにはよく可愛がられています。一人暮らしだったから活用する機会が多いんだ。ちゃんとお料理できますよ?


「まあ! レイちゃんじゃないの! 久しぶりねぇ」


「うん。今日はアーシアちゃんの付き添いなんだ」


「あら、そうなの。それで、何が欲しいんだい?」


 ほら、とアーシアちゃんの背中を押す。初めての買い物のためか、若干緊張を孕んだ声で食材を注文する。


「お、お肉とニンジンと、玉ねぎをください!」


「アーシアちゃんアーシアちゃん、お肉はここじゃないよ。それとジャガイモが抜けてる」


「あっ、そうでした! それとジャガイモも!」


 切羽詰ってしまったアーシアちゃん。目を回してすっかりパニック状態だ。慌てなくてもいいからね。落ち着いて、落ち着いて。


「ニンジンと玉ねぎとジャガイモね。いくつ必要なんだい?」


 おばちゃんはそんなアーシアちゃんを微笑ましげに見守りながら手早く野菜を見繕う。


「に、ニンジンと玉ねぎは四つ、ジャガイモは五つです!」


「はいよ。お肉は向こうの新井さんの所で買うと良いよ。お金は六百円ね」


「えっ? でも、全部合わせて八百円ですけど」


「今回はサービスだよ」


 笑顔を見せるおばちゃんにアーシアちゃんが慌てた様子で財布を出す。


「そんな! いけません、お金は払います!」


「いいんだよ。そのかわりといっちゃなんだが、また今度もうちを使ってくれよ」


 グッと親指を立てるおばちゃん。その意を汲んだのか、アーシアは深く頭を下げた。


「んじゃあ、今度は肉屋さんだね。じゃあ、おばちゃん、またねー」


「はい! あの、ありがとうございました!」


「また来なよ!」


 やっぱりおばちゃんは良い人だな~。今度おばちゃんの所で買うとしよう。


 それから一分ほど歩き肉屋さんに到着する。カウンターに肘を乗せながら店番をしていた店主のオッチャンが顔を上げた。


「おっ、アーシア嬢ちゃんにレイちゃんじゃねぇか! 今日はどうした?」


「豚肉を買いに来ました。豚肩は置いてありますか?」


 もうすっかり緊張が解れたアーシアちゃんは先程とは違いスラスラと注文する。


「おう、もちろんあるぜ!」


「では七五〇グラムください」


「あいよ! ちょっと待ってな!」


 豚肉を手慣れた手つきで切り分け、ビニールに入れて差し出してくる。受け取ったアーシアちゃんはお金を渡す。


「おう、確かに。ああ、そうだ。こいつもやるよ」


 そう言って渡してきたのは大量のリンゴだった。


「うちの倅が昨日送って来たんだが、如何せん量が多くてな。よかったら貰ってくれや」


「ありがとうございます!」


「おう、いいってことよ」


 丁寧に頭を下げるアーシアちゃん。これでお買い物も無事終了かな。


 ちなみに、リンゴはいくつか分けてもらい、お家で朱乃お姉ちゃんたちとリアスちゃんで美味しくいただきました!

 
 

 
後書き
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