椿姫
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第三幕その二
第三幕その二
「宴もたけなわですな」
「ええ」
フローラはガストーネの言葉に頷いた。
「後はヴィオレッタとアルフレードですね」
「二人で来ますよ」
「さて」
だがガストーネはそれには懐疑的だった。悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「それはどうでしょうか」
「なら賭けますか?」
「いいですね」
ガストーネはそれに乗ってきた。
「では賭けるのは金貨一枚」
「宜しいのですね」
フローラはガストーネが財布から取り出したその金貨を見ながら問うた。
「はい、それでは」
「賭けましょう」
こうして二人は賭けることになった。程なくして使用人の一人がフローラのもとにやって来た。
「アルフレード様が来られました」
「ヴィオレッタも一緒ね」
彼女は自信があった。そうに違いないと思っていたのだ。
「いえ」
だが彼女は首を横に振った。
「残念ながら。御一人です」
「そうなの」
彼女はそれを聞いて驚きを隠せなかった。
「それじゃあ」
「私の勝ちですね」
ガストーネは話を聞き終えた後でフローラに対してこう言った。
「ではお約束の」
「ええ」
フローラは頷いた。そして金貨を一枚取り出し彼の手に渡した。
「どうぞ」
「有り難うございます」
ガストーネは受け取った後で部屋の入口に顔をやった。フローラもそれは同じであった。やがて正装したアルフレードが姿を現わした。
「ようこそ」
「はい」
アルフレードはフローラ達に対して挨拶をした。
「あの」
「何でしょうか」
彼にフローラが声をかけてきた。
「ヴィオレッタは」
「さて」
そう言ってとぼけてきた。
「知りませんが」
「知らないとは」
フローラはその言葉がとても信じられなかった。
「そんな筈が」
「そのうち来るでしょうね」
まるで他人事のように返す。
「その時に挨拶をされるとよいでしょう。まあ今はカードに興じたいのですが」
「そういうことでしたら」
ガストーネはそれを聞いて楽しそうに声をあげた。
「お相手致しますぞ。何が宜しいですかな」
「ポーカーを」
彼は表情を変えることなくそう答えた。
「それでどうでしょうか」
「わかりました。それでは」
「はい」
こうして彼はカードのテーブルに向かった。そしてガストーネ達と共にポーカーをはじめたのであった。
「一体どういうことなのかしら」
フローラは何食わぬ顔でポーカーをするアルフレードを見ながらこう呟いた。
「やっぱり何かあったのかしら」
「そう思うしかないようですね」
客の一人がそれに頷く。
「別れたのでしょう、おそらく」
「何故」
フローラはそれを否定したかった。だからこう言った。
「あんなに仲睦まじかったというのに」
「人の関係なぞわからないものなのです」
その客人はフローラに対してそう答えた。
「人の心は風の中の羽根のようなもの」
「しかし」
「しかしでもです。移ろい易いものであることは貴女も御存知でしょう」
「確かにそうですが」
「それならばおわかりの筈です。よくね」
「はい」
頷くしかなかった。
「それよりも彼女も招いたのですよね」
「ええ」
フローラはそれを認めた。
「こんなことになっているとは思いもしませんでしたから」
「大変なことになりますよ」
客人はそう囁いた。
「何とかそれを避けないと」
「どうしましょう」
「まずはアルフレードに注意することです」
「アルフレードですか」
「ヴィオレッタはわきまえた方ですが」
彼はヴィオレッタのことをよく知っていた。そしてアルフレードのことも。
「彼はまだ若い。ああ見えて激情家でもあります」
「そうだったのですか。それじゃあ」
「そうです。とにかく彼には注意して下さい」
彼はそのうえでまた言った。
「何をするかわかりませんよ」
「わかりました」
フローラはその言葉に頷いた。そしてアルフレードを見た。
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