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ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~

作者:脳貧
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第三十話

 さすがに公爵家の子と他国の王子との揉め事と言うことで、俺とレックスは宿舎の職員からの取り調べの後に大物の前で対決させられることになった。
肩の辺りまで伸ばされた茶色い髪を額の真中で分け、整った顔だちと理知的な瞳の持ち主。
クルト王子、すでに立太子されているがゆえクルト王太子と呼ぶべきか。
レックスは弁護人を立てることを要請し、それ以外はだんまりを決め込んだ。

「…つまり、レックス公子が寮の定めた部屋割を無視し、その過ちを指摘したあなたが殴られたというわけですね」

「はい、彼の御仁が先に手を出し、わたしは反撃をせず、居合わせた職員の方々に事態の裁定を請うた次第であります」

「それにしてもですね…ミュアハ王子でしたか、あなたも彼を怒らせるような発言や態度をしたと言う話も聞いておりますよ」

「ならば、詳細を殿下にお話ししましょう。一言一句正確という訳にも参りませんが……」





「…名乗ったあなたにも名乗り返さず、ご出身の国の侮辱を受けたと。そして下々の者らの営みを蔑みその恩恵に浴していることを気が付きもしない、軍組織のありようも理解していないので教えてさしあげたと?」

「左様です」
クルト王子は難しい顔をして考え込んでから

「ならば、なぜ挑発するような態度をとられたのです?」

「はい、誇り高きグランベル貴族の方が、許しを請い泣き叫ぶ者を打ち据えるような蛮行を為し得ることは無いと確信しておりますので彼が殴り易い態度を取ったのです。
あの事態をあそこで納めるにはわたしが殴られるより他無いと思いましたので。
まさか、わたしが許しを請うたら殴るということはありますまい?さすればその振り上げた拳、いずこに振りおろされましょうや?
また、わたしの態度に若干落ち度があったということで彼への情状酌量になればとの思いもあります」

「…いいでしょう。ミュアハ王子、あなたは自由です。定められた部屋にお戻りください」


正直自分でも最後の発言は失敗したかな?と思わないでもないが、退学処分でも受けてさっさとレンスターに帰ろうかという気持ちもあった。
兄上は特には何も言わなかったが父上は言った。
グランベルはこの上無き見事な宝石箱に納まった1週間前のシチューのようなものだと。



 
 「みゅあは君、お怪我は大丈夫ですか?…それとレックスは……悪い奴じゃ無いんです。どうか許してあげてもらえませんか?」
部屋に戻るとアゼル公子がそう問いかけてきたので、俺は荷物を整理しながら

「かすり傷すらありませんよ、これでも壁役志望ですからね。彼の今後はわかりませんが、よい代理人を手配されたようですから大事には至らないと思います」

「…そう、ですか」

「アゼル公子がそれだけ心配されるほどの方ならば良い方なんでしょうね。わたしは今日知り合ったばかりなので人為を存ぜぬもので申し訳ありません。公子のお手を煩わせるやも知れませぬが仲立ちやご紹介いただければわだかまりも解けることでしょう」

「はい!喜んで! もしよければもっと詳しく自己紹介しませんか? あ、忘れてました。みゅあは君のお食事を預かっているのでどうぞ。それと明日は朝から入校式ということで起床は遅めでいいという話でしたよ」
俺はまずトレーに載せられた食事を受け取り、それを腹に収めながらアゼル公子の身の上をいろいろと聞かせてもらい、そのあとで自分の話を語った。
消灯時間になった後は互いに定めた寝台に潜り込み、続きを語った。

「…ご苦労されているのですね。他国に人質に出されたり、暗殺されそうになったりと……」

「いやいや、それでもそのぅご無礼やも知れませんが御両親ともにこの世から旅立たれたアゼル君に比べたら、わたしはずっと恵まれておりますよ。 そうそう、士官学校を卒業し故郷に帰れたら姪か甥にも会えることになりそうです。兄嫁におめでたがありましてね。いまから楽しみです」
語り合ううちに公子から君へとアゼルへの呼び方を替えていた。
そのあともとりとめも無く語っていた俺達はいつのまにか眠りに落ちていた。






 翌朝目が覚めた俺は、まだ眠っているアゼルを残し部屋を出た。
いつもの朝練ってやつをやろうと宿舎をうろつき良い場所を探したり、道具の貸し出しを行う場所を探していたら歩哨に出くわしたので挨拶を行い、うろつく理由を伝えると感心されると共に便宜を図ってくれた。
適当に切り上げて部屋に戻り、人のごった返した洗面所だったがうまいこと使う事が出来、再び部屋に戻り身支度を整えた。
起きた時に俺が居なかったことにアゼルは驚いていたようだが理由を知って呆れられた。
なにもこんな日まで訓練しなくてもと…

入校式は士官学校のグラウンドのような場所に新入生が集められ、司会のアナウンスのもと滞りなく進んで行き、式が終わったあとは各施設の見学など必要事項が次々と進んで行った。
昼食や休憩後、夕方からは歓迎会らしきものが挙行されるという案内もあった。
時間が空いたからであろう、アゼルが連れてきた。

「ああ、昨日の方ですね。アゼル公子からお話は伺っております。昨日の敵は今日のなんとやらと申します、アゼル君の為にも昨日のことは互いに忘れましょう」

「…ドズルのレックスだ」

「ではレックス公子よろしく。改めて申します、わたしはレンスターのミュアハ」
俺が握手の手を差し出すと思い切り握ってきたので俺も大人げなく本気の四割程度力を入れて握り返してやった。
するとレックスは顔を真っ赤にして青筋立てた上に声を出して苦しそうなので離してやった。
手をぶらぶらと振って歯を食いしばっている姿に俺は幾分溜飲が下がった。
文句も付けず睨み返すくらいだから男らしいと言ったところか。

歓迎会はバーハラ王宮で執り行われるとのことで俺は初めてそこへ足を踏み入れた。
参加者は、候補生はもちろん、その関係者であろう有力者がまさに雲霞の如くの有様だった。
何もかもが贅を尽くされたそこに俺は場違いじゃないのかという自問をするくらいであったが目立たないよう大人しくするより他無かった。
入校式のように司会が進行通りに行い、主催のクルト王子が祝辞を述べ候補生の側も総代が答辞を述べ、滞り無く進むかに見えたのだが…

「…では、グランベル国内以外からも学びに来られた候補生の代表として、レンスターのミュアハ君からも一言いただきたいと思います」

なにーーーー!?こんなむちゃ振りあるかいなコラー!、クルト、てめぇコラなめんな!
…という俺の心の声などいざ知らず、満場の拍手が…いかなきゃならんわな…俺はいいとしてもレンスターが軽んじられる訳にはいかないし…
心は重く、体はキビキビとスピーチを行う為の檀上へと向かった。
正面のクルトの野郎と主催側の人々にそれぞれ礼をし、登り段のほうを向かって一礼、段を登ってからグランベルの国旗に一礼してから聴衆に向き直り一礼をした。
もう、こうなればヤケです。

「レンスターのミュアハと申します。この度は、畏くも尊きクルト王太子殿下の思し召しを似って我々候補生の決意のほどを表明できる機会を賜りまして、感謝の念に堪えません。
(中略)…我々候補生は精励、努力し、平和を愛するグランベル王国の公正と信義をこのユグドラル大陸に暮らす諸国民に体現するものとなれるよう微力を尽くす次第であります。
(中略)…そうしてこの世界より専制と隷従、圧迫と偏狭を永遠に除去し、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を実現する担い手となれるよう我々が不断の努力をし続けることをここに誓います」

…日本国憲法からいろいろパクったぞコノヤロー!

拍手はされたので、とりあえず危機を潜り抜けた感
段を降りて演檀と国旗に一礼、戻る途中で立ち止まり、また主催者側に一礼をした時にクルトの野郎のツラを拝んだところ、目が笑ってないですー!
元の場所に戻り、司会があとは英気を養うようになど言った後は立食ビュッフェな形式になった。



「先程は見事なスピーチでしたね、わたくし感心しましたのよ」
そう話しかけてきたのは白を基調にしたシンプルなドレスに身を包み、ウェーブのかかった見事な金髪の美女だった。

「滅相も無い、ただ、あなた様のような絶世の美姫に親しくお声をかけていただける切っ掛けとなったのならば、無い智恵を絞った甲斐もあったというものです」

「まぁ、お上手ですことね。申し遅れましたわ。わたくしはユングヴィのエーディンと申しますの、今日は学生様たちを激励するよう申し仕っておりまして」
ほんとお綺麗な方ですな、この人は。
…アイツもこの十分の一でいいからマトモな態度だったら俺も最初から素直になれたし大事に出来たのにな。
エーディンさんに俺は改めて自己紹介をし、雑談を続けていると嫉妬混じりの視線などを感じた。
目の端にアゼルの姿が映ったので、ちょっと便宜を計ってあげよかな。

「あちらに友人も居るので紹介させていただけませんか? いや、もしかしたら既にお知り合いなのかもしれませんが」

「まあ、どなたでしょう?」
俺はエーディンさんを伴いアゼルと、いつのまにか湧いたレックスを紹介した。
顔を真っ赤にしてしどろもどろなアゼル、どうやらはじめましてだったのかな?
レックスとは知り合いのようだった。

「ところで、レックス公子、貴公の父君ランゴバルト卿も御臨席やもしれん、是非挨拶させていただきたいので紹介を頼んだよ。アゼル君、エーディン様、またのちほど」

俺はレックスを引きずるようにしてその場を離れた。

「…待てよ、オヤジが来ている訳ないだろう、もどるぞ」

「貴公の目は節穴か? アゼル君は、ほら、一目ぼれってやつだよ。我ら友人としては友の幸せを望む栄誉を授かろうではないか」

「…お前はホント嫌な奴だな!」

「はっはっは、良い褒め言葉だ」
俺は手近な給仕からグラスを手にとるとレックスに渡して、自分の分も手に取った。

「楽しんでくれているようで何よりです。明後日からは励んでくださいね」
クルトの野郎がやってきて俺やレックスのグラスに自分のそれを当てると一口に飲みほした。

「…期待していますよ」
クルトの野郎はそう言うと俺の肩を叩き、多くの人の波の中へと消えていった。
 
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