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ファイアーエムブレム~ユグドラル動乱時代に転生~

作者:脳貧
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第二十九話

 シアルフィで暮らすようになった俺だがレンスターに居た頃よりなにもかも自由であった。
バイロン卿はバーハラの王宮に参内して、幾日もそこに構えている屋敷で過ごしたり、王宮でのお役目が無く領地で暮らしている時は昼過ぎまで寝ていて、起きだしてきても談話室のようなところのソファーや時には中庭でごろごろしている。
シグルド公子はと言えば領内の見回りと言う話ではあるが釣りや狩りに出かけてばかりだ。
ただ、腕前のほうは相当で必ず何かしらの獲物をひっさげて帰ってくる。
最初シグルド公子は俺を連れてそういう日課をこなそうと思っていたようだが、馬上の人にはなれない俺のこと、
彼に連れていかれたシアルフィの厩舎でも騒ぎになり迷惑をかけてしまった。
そんな中彼の愛馬だけは暴れず騒がずだったが、その背を許すことは無かった。
とにもかくにもこの二人は俺に口を出すこともなく、身の周りの世話をする人間を週何度か寄越すくらいで放ったらかしとでも言ったほうがいい状態だったからだ。

もちろん暇を持て余すくらいなら自己研鑽に時間を充てる俺だが、これからのこともよく考えねばと訓練の傍ら思いを巡らせることが良くあった。
ダーナ砦への襲撃時間まであと4年を切ったわけだしな…。
あれはアルヴィスとレプトールが談合した上でダークマージを用いてリボーの族長に襲わせたのか?
それともロプトというかマンフロイが単独で配下を使ってリボー族長を利用し、それをアルヴィスに追認させた上でアルヴィスはレプトールと裏で組み、後に切り捨てたのだろうか?…。
組み合わせは他にもあるだろうし、レプトールはアルヴィスとロプト教団との繋がりのことを長くの間知らなかったということだって可能性としてはあるかも知れない。
そうして大賢者ハルクの言葉も思い出した。
為すべきことを為せと。



…俺の為すべきこととは何なのだろうか。












 平和でのんびりとしたシアルフィ領内、そうではあっても将兵は訓練に精を出していた。
俺もそれに混ぜてもらい腕を磨き、彼らとも知己を得て知ったのはシグルドにしろバイロン卿にしろ
強すぎて兵を壊してしまうので彼らと混ざって訓練をしないということであった。
彼らに直に稽古をつけてもらうことが出来たらシアルフィの騎士団グリューンリッターの構成員達にはこの上無い誉れということになるだろう。

時として城下に出て思うのは、ここは古のローマかと思うほど文明レベルが高いことだ。
上下水道完備には感嘆するとともに嫉妬の感情すら湧いてきてしまう、それは我が故郷レンスターではごく一部にしか実現されていないからだ。
市内の何か所にも公共のトイレがあり、それに付随する公園には市民の憩いの場所としての役割も果たしているようだ。
舗装された石畳の見事さは兵員を速やかに動員する為だけには限らず、物資の流通や一般の人々の往来とてその恩恵に預かり、車輪の幅の規格まで統一されていて、このような施設や仕組みを造り上げるだけでは無く、十全に維持・管理をし続けているというだけでもグランベルがいかに大国であるかをまざまざと見せつけられる。
いち公国のシアルフィでこの様子なのだから王都のバーハラはこれ以上の優れた都市であるとの想像をしておいたほうがいいだろう。

 
 そうしてシアルフィで15の誕生日を迎えた俺は、その後しばらくしてグランベル士官学校に入校した。
その際にバーハラへはシグルド公子が連れていってくれた。
てっきり一人で向かうものと思っていたのでこれほど心強いことは無かった。
彼は人の話は基本的に聞かずマイペースなのだが、行動の基盤は善意で出来ている。
その現れだったのであろう。
別れ際に交わした握手、彼の手は大きく、人柄を感じさせる温かさに満ちていた。


入校の手続きを済ませた俺は案内資料をもらい、そこに提示されていた宿舎へ向かい荷物を運び入れた。
荷物のうち槍や剣など武器類は保管庫に預けることに、金銭などの貴重品は事務室の金庫に預けることになっていた。
部屋の中は細長い1ルームで、2段になった寝台と机と椅子と箪笥が2組だけという簡素なものだ。
浴場や食堂に洗面所やトイレなどは宿舎で共用になっていた。
相部屋なのは間違いないがルーメムイトはまだ着いていないようだ、ここは先に自分のエリアを確保しておくか、それとも相手が着いてから交渉するか思案のしどころかと思っていたらその相手が入ってきた。


その燃え上がるような鮮やかな赤毛と、整った、そして女の子のような顔立ち、言われなくても察しが着くだろう。
アゼル公子だ。
緊張した様子だったので、俺はいつものお辞儀と共に先に声をかけた。 

「初めまして、わたしはレンスターの第二王子ミュアハと申します。どうやら相部屋の方のようですね。ヴェルトマーの縁者の方とお見受け致しました。以後よろしくお願いします」

「ぼ、ボクはヴェルトマーのアゼルと言います。こちらこそよろしくです」
俺が握手を求めようと手を差し出すと、アゼル公子はそれにおずおず応じ、握ってくれた。

「さて、では寝台はどちらが上でどちらが下を使うか、机や箪笥のほうも分担をどうするか決めてみませんか?」

「は…はい。ボクはミュアハ王子の選んだあとの残りでいいです」

「ふぅむ。でしたらわたしのほうが体が大きいので寝台は下でよろしいでしょうか?この寝台は年代もののように見受けられるので底が抜けてしまわないように」

「ふふふ。それでお願いしますね」
なんて話をしていると来客があった。
オールバックに髪をなでつけて、そのうちひと房だけが額にかかっている。
レックスだわな。

「おい、そこのお前、俺と部屋を代われ。アゼルとは俺が暮らすんだからな」

「だめだよレックス、決まりごとは守らないとぉ」

「いいんだよ。オヤジに頼めばそんなものいくらでも書き替えてくれるさ!オラ、お前ははやくどけよ。隣の隣の部屋だからな」

「…アゼル公子の仰せ、貴公の耳には届きませんでしたかな?それと、わたしはお前では無く、レンスターのミュアハと言う者だ、…言わせてもらうが軍とは上意下達が原則、いまだ内地の兵営とはいえ所属の命令を無視しては組織として立ち行かなくなるものだ」

「何度も同じことを言わせるな! レンスター?どこの田舎だ?いまだに麦だの牛だの飼ってるような底辺国か?誉れ高きグランベルにそんな奴らが入ってくるとは世も末だな」

「我が故郷への侮辱、場所が場所ゆえ聞き逃してやってもいい。だが一つ問うておくか、食糧生産に携わる者をそう低くみるのならば汝が日頃喰ろうておる食物、それを生み出した底辺の者無くば命を繋ぐことも叶わぬ汝は底辺以下にあるまいか?」

「ほぅ、俺に意見するとはいい度胸だ。そこになおれ!」
レックスがそう言うと、俺は腕組みをして足を開き心持ち顎を持ちあげ見下ろすような姿勢を取ってやった。
心持ち俺の方がレックスより背が高いので少しはサマになっていただろうか?
止まって見えると言っても良いだろう、鈍いが当たるとやはり痛みはそこそこある拳をわざと喰らってやった。
気張って立ってやったがそんな必要も無い打拳であり、バランス一つ崩さないままの俺を見て、レックスは俺を睨みつけた。

「先に手を出したのはお前だ、そして宿舎のきまりごとを破ろうとしたのもお前だ、さて、ギャラリーの皆さまにご裁定いただこうか」
騒ぎを聞きつけて周囲の部屋の者たち、それを引率していた宿舎の職員らが集まっていた。


……職員室に呼ばれるとか懐かしいことをやっちゃいましたが、俺は悪くない…はず! 
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