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スーパーヒーロー戦記

作者:sibugaki
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第69話 騎士の涙、少女の叫び

 
前書き
 それは小さな出会いと大きな戦いの物語。
 光の巨人の姿を偽り、町を壊す悪しき宇宙人。その宇宙人はウルトラマンが倒してくれた。
 でも、あの時別の宇宙人が言った言葉が今でも気になる。
 あの言葉は一体? そして、あの時見た夢は一体?



     スーパーヒーロー戦記……はじまります 

 
 喫茶店アミーゴにて更に二人の新しい客が来ていた。二人共似たような顔をした男性が来ていた。

「おたくら初めてだねぇ。どうだい? 家のコーヒーの味は」
「えぇ、とても美味しいです。兄さんもそう思うでしょ?」
「う、う~ん……いまいち分からないんだが……」

 双子の一人はとても美味しそうにコーヒーを飲んでいるがもう一人の方は味が分からないらしく首を傾げる始末である。

「ふぅん、すると二人は異国の人かい? それにしちゃ二人共日本語が上手いみたいだけど」
「えっと、僕の名前はおおとりジンって言います。それでこの人が僕の兄さんの……」
「レオです」

 兄貴が名前を言うがそれを言った途端弟のジンの顔が強張る。そして、立花は首を傾げていた。

「レオ? おおとりレオって言うのかい?」
「あ、あはは! 違うんですよ! 兄さんの名前はおおとりゲンって言うんですよ」
「え? 嫌、俺の名前はレオって言うのがあって……」

 レオの首根っこを掴みジンが立花から離れる。そして互いに耳打ちしあう。

(何するんだアストラ。ってかジンって何だ? それお前の本名じゃないだろ?)
(兄さん、此処では僕達の正体は一部の者以外には秘密にしなきゃ駄目なんだよ。でないと騒ぎになっちゃうんだからさぁ)
(そ、そうだったな。俺とした事が迂闊だった)

 何とも今更な兄貴である。弟のアストラことジンは出来た弟なのに対し兄貴であるレオことゲンは脳みそ筋肉のようだ。これでは弟も苦労しそうである。

「話は終わったのかい?」
「い、いやぁ~。ご迷惑をお掛けして申し訳ない。俺は兄のおおとりゲンと言います。にしても此処のコーヒーは美味しいですねぇ」
「そ、そうかい? 急に褒めたり変な兄貴だなぁ」
「ま、まぁ兄は多少世間離れしていますんで」

 確かに世間離れと言えば世間離れだ。だが、レオの場合世間離れと言うより星間離れと言った方が正しい気がする。




「あはは、ジン兄ちゃんのお兄さんは変わっとるなぁ」
「確かに、そうだねぇ」

 おおとり兄弟と立花籐兵衛の一風変わった会話を少し離れた場所で三人は見ていた。はやてと光太郎もまた立花の煎れたコーヒーを楽しんでいた。
 しかし、そんな中でなのはだけが沈んだままなのだが。

「にしても凄い敵やったなぁあの宇宙人って」
「そうだね、まるで俺達じゃ歯が立たなかったんだから」

 二人は前の戦いで戦ったババルウ星人の事を思い出していた。如何にRXにパワーアップしたとしても、如何に魔導師の力を手に入れたとしても遥かに巨大な怪獣や宇宙人を相手には苦戦どころか相手にすらならないのだ。そして、これから先あんな強大な敵が現れた際に、果たしてその相手を倒せるのだろうか?

「不安なのかい? はやてちゃん」
「不安やない……って言ったら、嘘んなるね。それに、凄く怖いんよ。私……」

 はやてとて人の子なのだ。そして、幼いはやての前に聳え立ったのは巨大な敵である。その敵を相手に自分達は余りにも小さく力がない。たった数匹のアリが象に勝てる筈がないのだ。そして、人類は怪獣から見ればアリに他ならない。

「光太郎兄ちゃんは、怖ぅないの?」
「勿論怖いさ。俺だってあんな巨大な敵と戦ったのは初めてだったからね。でも大丈夫さ。今の俺達には心強い味方が出来たじゃないか」
「あぁ、あのウルトラマンやね!」

 宇宙人と共に現れた銀と赤の巨人、ウルトラマン。彼等のお陰で強大な宇宙人を倒してくれた。しかし、そのウルトラマンにも致命的な弱点がある。
 それは胸のカラータイマーが示してくれた。そう、ウルトラマンには活動できる制限時間が設けられているのだ。そして、その時間は僅か3分間しかない。
 そのたった3分間の間に宇宙人や怪獣を倒せなかった場合今度は自分達でそれに挑まねばならないのだ。そうなった場合は相等の覚悟が必要となる。

「だから、俺達も出来る限りウルトラマンに協力しよう。俺達の出来る限りを尽くすんだ」
「うん、そやね。その為にも、今は居なくなってもうたシグナム達を早く見つけたいんやけどなぁ~」

 そうだ、八神はやてにとって家族同然でもあった騎士達。ヴォルケンリッター。だが、その騎士達の心は今次期創世王シャドームーンによって操られている。今騎士達はシャドームーンの忠実な僕と化してしまっている。
 何としても助け出さねばならない。守護騎士達は大事な家族なのだ。




     ***




 その光景は初めて見る光景であった。全ての町が破壊され、瓦礫の山すら残らず、不毛の荒野と化し全てが紅蓮の炎に包まれた光景だ。その回りには既に消し炭とされた生命が転がっている。命の輝きなどない。あるのは只、死だけが支配した世界だった。
 その世界で何故か、その子は泣いていた。たった一人だけ残った子が泣いていたのだ。
 何故だろうか。こんな風景初めて見る筈なのに、何処か懐かしい。嫌、そう言った優しい響きではない。
 思い出したくない。ずっと思い出さないようにしてきたと言った方が正しい。

【また、滅んじゃった……滅んで欲しくなかったのに……】

 天空を見上げながらその子は泣いていた。その天空には本来その星を照らしていた太陽ともう一つ、それよりも遥かに巨大な太陽があった。その巨大な太陽がその星を生命の住めない死の星にしてしまったのだ。その巨大な太陽がその子は恨めしく見ていた。

【何で? 何でこんな事するの!? あの時私は泣いたけど……でも、私はこの星を、命を愛している! なのに、何で貴方はそれを奪うの! 何でそれを壊すの! もう嫌だよ、もう見ていたくないよ】

 その子は天空を睨み嘆いた。全てを滅ぼした巨大で死を招く太陽を睨んだ。その太陽のせいで全てを奪われたからだ。大切な命を、大切な思い出も、その全てを一瞬にして奪われたのだ。

【また、私のせいで大勢の命が死ぬ、命が悲しんでる。もう誰にも泣いて欲しくない。これ以上私が戦って誰かが悲しむって言うんなら……もう、私は思い出なんか要らない! この力も、私は要らない!】

 その子は自分自身の体から光り輝く何かを取り出した。小さな掌の上で輝くその光。その光が全てを閃光に包み込み、やがて何もかも見えなくしてしまった。それを最後に、私の意識は途切れてしまったのだ。




     ***




「なのはちゃん……なのはちゃん!」
「ふぇっ!」

 見ると其処は喫茶店アミーゴであった。そして、今まで眠っていたのであろう自分を心配そうに見つめるはやての姿があった。

「は、はやてちゃん?」
「あぁ良かった。なのはちゃんずっとうなされてたんやでぇ」
「うなされてた……私が?」

 どうやらあれは夢だったようだ。しかし変な夢だった。何処と無く経験した様な夢だったのだ。一体あの夢は何だったのだろうか?

「どうやら大分疲れてるみたいだねぇ、部屋を用意しているから休むと良い」
「は、はい……有難う御座います」

 立花のご好意を受け、一同は休む事にした一同。これから先にあるのは更なる激闘が待っているのだ。今は休める時に休む必要がある。
 自分達がこれから先の戦いで、負ける訳にはいかないのだ。自分達が負けた場合、人類に待っているのは破滅だけなのだから。




     ***




「いやだああああああああああああ!」

 皆の前で、ゲンは必死に柱にしがみついていた。そしてそれを引き剥がそうと弟のジンが引っ張る。

「兄さん、いい加減にしてくれ!」

 流石のジンも呆れるままであった。勿論ジンだけではない。この場に居る光太郎、はやて、なのはの全員が呆れる始末なのであった。
 そして、その一同の前には一台の真紅の車が置かれていたのだ。

「お前等は間違っている! 車ってのは恐ろしい殺人兵器なんだぞ!」
「車が? 何を言ってるんだい?」
「俺は知ってるんだ。あの時、俺は何度死にそうになった事か……」

 前に話しを聞かせて貰った事がある。レオとアストラの兄弟はウルトラマンとセブン達とは違う星出身だったらしいのだが、その星が破壊されてしまいアストラはそのまま地球へやってきて、レオはセブン達の元に居たそうだ。
 そして其処でレオはセブンの鬼気迫る特訓を受けていたと言うのだ。そして、その中にあの殺人兵器があったと言うそうだ。

「あれを操縦している時のセブンの顔は今でも思い出す。あれは正しく鬼の顔だ! 悪魔の顔だ!」
「大袈裟だよ兄さん。ウルトラ戦士が鬼になる訳ないじゃないか」

 ジンが必死に説得していながらもゲンは未だに柱にへばりついたまま全然動こうとしないのだ。余程恐ろしい目にあったのだろう。これではテコでも動かないだろう。このまま居ては時間の浪費になってしまう。既に今この場でさえ30分近くの浪費になっているのだから。

「しょうがない。僕達の事は良いですから先に行ってて下さい」
「分かった。先に行ってるよ」

 仕方なくジンとゲンを置いて行く事となった。光太郎を操縦席に乗りなのはとはやては後部座席に乗り込む。

「にしても凄い車やねぇ光太郎兄ちゃん」
「うん、これを設計した本郷って人も凄いけどそれをくみ上げたあの立花さんも凄いよ! この車”ライドロン”をさ」

 それは今から約1時間近く前になる。その時は何気なく喫茶店アミーゴで何時もの様にコーヒーを楽しんでいた時であった。突如として八神はやての夜天の書が微弱ながらも反応を示したのだ。
 これは一体どうした事か?
 驚いた一同がはやてと、そして夜天の書に集まる。それは持ち主であるはやても始めての事であった。一体何がどうしたと言うのか?

「はやてちゃん、分かる?」
「それがさっぱりや。一体どうなっとるんやろうか?」

 書物を手にはやてが首を傾げている。夜天の書の詳細は未だに謎が多いのだ。故にこんな状況をどうしたら良いのかさえ分からない。

【主……聞こえますか?】
「その声は、先代世紀王さん」

 書物から声が聞こえてきた。無論、その声ははやてにしか聞こえない。そして、その先代世紀王がはやてに語りかけてきたのだ。

【主、私が作り上げた騎士の反応がありました。別の場所でですが騎士の一人が戦闘を行っております】
「騎士? それってもしかして」
【はい、守護騎士達です。そして、今その内の一人が単独で行動をしています。今なら……】

 はやては行動を急いだ。皆にその旨を伝え今すぐ単独で行動している騎士の元へ行く事が決定された。だが、其処で一つの難点が浮上した。それは、異なる場所へ行く手段がないと言う事だ。
 幾ら魔導師の力で空を飛べるからと言って移動だけで魔力を使うのはかなり厳しい。その上航空手段も無いに等しいのだ。
 そんな時、立花籐兵衛が持ってきたのがライドロンであったのだ。
 このライドロンはかつてショッカーと戦った本郷猛が事前に設計し、それを立花籐兵衛の手で組み上げられた万能車両なのだ。
 簡単な自我を持ち陸と海を自在に移動出来るスーパーカーである。
 が、外見が車なのでゲンが怖がって乗りたがらないと言う致命的欠点もあるにはあるのだが。
 とにかく、これを用いれば外国へ行く事も容易い。

「それではやてちゃん、その反応があったのは何処なんだい?」
「先代世紀王さんが言うには砂漠って言ってました。そんで古の都がある砂漠だって」

 それを聞いたなのはの目が大きく見開かれた。砂漠があり古の都があるとすれば、それは恐らくバラージの都に他ならない。かつてノアの神を祭っていた古き都。その都に今度は守護騎士の一人が居る。何処か運命的な物を感じられる物であった。

「とにかく急ごう。フルスピードで行くからシートベルトをしっかりね!」
「は、はい!」

 光太郎のそれを聞いてなのはは急いでベルトを締めた。そしてその場でしっかりと身構えたのだ。どうやら過去のトラウマがそうさせたのだろう。勿論それは兜甲児の荒い運転に他ならないのだが。




     ***




 一面に見えるのは広大な砂漠と青い空、そしてギラついた太陽だけが見える世界であった。一種の砂漠地帯である。昼時の気温は正しく日本の夏の気温よりも上昇し、素肌を晒していては焼けどを負う程の過酷な場所であった。
 そんな場所で、今二人の魔導師がぶつかりあっていた。嫌、正確に言えば一人の魔導師と一人の騎士がぶつかりあっていたのだ。その内の一人である金髪の魔導師は苦しい戦いを強いられていた。それは、相手が騎士だけではないからだ。
 突如地面を突き破り現れたのは砂虫を思わせる巨大な怪物であった。その怪物は騎士になど目をくれず魔導師を狙って来る。
 嫌、寧ろ騎士がその怪物を操っているようにも見える。それは即ち魔導師が数的に不利に立たされている事を示していた。

「どうした? 以前の時の様な技の冴えが見えんぞ?」

 騎士が不気味な笑みを浮かべながら行って来る。それに対し魔導師は苦悶の表情を浮かべた。明らかに騎士が以前とは違うのだ。以前はこちらが奇襲をしたとは言え相手に対し命を奪わない配慮をしていたようにも見えた。だが、今は違う。明らかにこちらを殺そうとしてきているのだ。
 その上、今度は逆にこちらが奇襲をされる形となってしまった。

(皆と逸れてしまった時に……こんな所で倒れる訳には、いかない!)

 自身の中にそう念を押し、魔導師フェイト・テスタロッサはバルディッシュを振るった。
 横薙ぎに振るうその一撃が空を切り風音を鳴らす。それを騎士、烈火の将シグナムは苦もなくレヴァンティンで受け止めた。
 そのまま流すように動かしフェイトの一撃を空振りへと誘う。

「剣に迷いがあるな。そんな剣捌きで私を倒せると思うなよ!」

 あの一撃でフェイトの心情まで見透かしてしまったようだ。流石は騎士、侮れない相手だ。その思いが一瞬ではあるがフェイトに隙を与えてしまった。だが、達人同士の戦いではその一瞬の隙こそが命取りとなるのだ。

「あうっ!」

 フェイトの両手に激しい痺れが感じられた。両手には持っていたであろうバルディッシュがない。先ほどのシグナムの一撃を防いだ為に弾き飛ばされてしまったのだ。一瞬にして丸腰にされてしまったフェイト。
 武器がなくては騎士に太刀打ち出来ない。そんなフェイトに向い容赦のないシグナムの斬撃が振り下ろされる。
 チッ!
 頬をその一撃が掠めた。縦一文字に薄く切られた其処から赤い雫が垂れる。もう少しかわすのが遅かったら顔半分が剥ぎ取られていた筈だと思うとゾッとなる。
 一旦シグナムから距離を置き態勢を立て直さなければならない。それにバルディッシュも見つけねば勝負にならないのだ。
 
「あっ!」

 突如、フェイトの体に無数の細い管状の物が絡みついてきた。いつの間にかフェイトの周囲には砂虫状の怪物がひしめき合っていたのだ。
 やられた! フェイトはそう思った。
 先の一撃は此処へ誘い込む為の一撃だったのだ。それにフェイトはまんまと乗せられてしまったのである。
 何とか逃れねばならない。だが、その管はとても人間の、ましてや若干9歳の幼い少女の力では到底引き剥がす事など出来ない。寧ろ暴れれば暴れる程更に管の締め付けが増してくる。体への拘束が強さを増していく度に呼吸が困難となっていき体中の骨が軋む音がする。
 周囲の砂虫達が鋭い牙を剥き出して来た。恐らく動けないと見たフェイトを食らおうと言うのだろう。全くその通りだ。今のフェイトにその一撃をかわす事など出来ない。
 どうしようもない。そう思った時、心の中でふと諦めの感情が芽生えた。
 それはフェイトが目を閉じる際の仕草で分かれた。そんなフェイトへ砂虫の牙が容赦なく迫る。

「リボルケイィィン!」

 突如、その場に居ない男の声が響いた。その直後、体を拘束していた感覚が消え、代わりに誰かに抱き抱えられている感覚を感じた。
 目を開き、それを見ると、其処には黒いボディに赤い目をした者が居た。その姿はフェイトにとって余りにも御馴染みの姿でもあった。

「か、仮面ライダー?」
「君にそう言われるのはこれで二度目だね」

 二度目? 一体何の事だろうか?
 疑問に感じたフェイトをそっと降ろし、その者はシグナムの前に立った。その手に光り輝く剣を手にしながら。

「まさか本当に生きていたのだな。ブラックサン!」
「シグナムさん。俺はもうブラックサンじゃない! 太陽の子、仮面ライダーBLACK RXだ!」
「どの道貴様は死すべき存在。貴様を殺し、キングストーンを我が主の下へ送り届けるまで!」

 レヴァンティンの切っ先をRXへと向ける。その視線には明らかなまでの殺気が篭っていた。それを受けるようにRXも両手で輝る剣リボルケインを持つ。

「行くぞ! ブラックサン」
「来い! シグナムさん」

 互いに名を叫び、二人の戦士が今、激しくぶつかりあった。




     ***




 助け出されたフェイトは目の前で起こっている事に未だ困惑していた。あの黒い仮面ライダーは何者なのだろうか?
 そして、あの騎士はその黒い仮面ライダーを知っていた。そして、その者をブラックサンと呼んでいたのだ。
 ブラックサン。直訳すれば黒い太陽だ。だが、それをあの黒い仮面ライダーは否定していた。
 一体どう言うことなのだろうか。そんな時、背後から誰かが近づくのを感じた。

「フェイトちゃん!」
「な、なのは……」

 其処にはなのはと見知らぬ少女が走って来た。だが、なのははバリアジャケットを纏っていない。それに、何故だか知らないがなのはから魔力を感じられないのだ。
 変わりに隣に居る少女は魔力を纏いバリアジャケットを着ていた。

「フェイトちゃん、大丈夫? 怪我とかない?」
「う、うん」

 何が何だか分からないままフェイトは頷いた。全ての事がハイスピードで過ぎていくのが分かる。突然騎士に襲われ、今度は黒い仮面ライダーとなのはがやってきた。一体どうしたと言うのだろうか?
 それに、その隣の子は一体何者なのだろうか? 疑問はつきなかった。

「なのは、その子は誰?」
「あ、うん! 紹介するね」

 なのはは一緒に来たはやてを紹介した。はやてもまた自身の名を名乗りフェイトと面識を交わす。
 そんな時であった。激しい剣戟の音がし、三人の目の前にリボルケインが突き刺さった。
 見れば、方膝を付くRXに向かいレヴァンティンの切っ先を向けるシグナムが居た。

「この私に剣で挑むとは無謀だったな。ブラックサン」
「つ、強い……流石は」

 能力的にはRXの方が勝っている。だが、剣の腕前では圧倒的にシグナムの方が上なのだ。その腕前の差がこの結果を生み出したのだ。
 と、シグナムがトドメを誘うと頭上に構えた剣先を一気に振るってきた。その直後、RXの体が瞬く間にゲル状へと変わりその場から離れていく。

「バイオライダーか。貴様の戦い方は既に学習済みだ。そして、その形態の弱点もだ!」

 そう言い、シグナムは自身の得物に薬莢にも似たカードリッジを装填する。
 レヴァンティンの剣先が青い炎に纏われていく。それをゲル状になったバイオライダーへと振るった。

「紫電一閃!」
「ぐわっ!」

 炎を纏ったその一撃を食らった刹那、ゲル状だったバイオライダーは下に戻り地面に倒れた。バイオライダーの弱点は熱に弱いことなのだ。
 そして、完全に無防備となったバイオライダーの動きを封じる為にとシグナムが踏みつけてその体を固定する。バイオライダーが両手でそれを退けようとするが先ほどのダメージが蓄積しているせいか、それともシグナム自身の力が以前よりも遥かに勝っているせいか全く足が動かない。
 レヴァンティンの切っ先が日の光に当たきらびやかに輝いた。そしてその切っ先が頭上へと持ち上がる。これからあれを一気に振り下ろし首を跳ねようと言うのだ。

「止めるんや、シグナム!」

 シグナムの背後から声がした。振り返ると其処にははやてが立っていた。涙で滲んだ目をしながらもその目はしっかりとシグナムを見ていた。
 だが、今のシグナムにそんな目を向けても何も感じない。既にはやては主ではないのだ。

「また貴様か? 私の名をそう容易く言うとは……相等の覚悟があっての事だろうな?」

 レヴァンティンの切っ先をはやてに向けて言い放つ。今までのシグナムであれば絶対にそんな事はしなかった。だが、今のシグナムは行う。
 心ここにあらず。その言葉が一番今のシグナムに似合う。

「シグナム、お願いや! 昔のシグナムに戻ってぇな!」
「何を訳の分からない事を? 私は今でも正常だ。貴様の方が異常なのだろうが!」
「そないな事ない! シグナムは……シグナムは私の家族やった筈や!」
「我等に家族など……ない!」

 ハッキリとそう切り捨て、はやて目掛けて容赦ない一撃を放ってきた。はやてを切り殺す為に放たれた無情の一撃だ。だが、はやては逃げない。例え後ろでなのはが叫んでも。光太郎が逃げろと叫んでも、はやては逃げない。
 只、じっとシグナムを見据えたまま立っていたのだ。無論そんなはやてに容赦などする筈がなく、シグナムがそのままレヴァンティンを振り下ろしていく。其処にあるのははやての細く弱弱しい首である。シグナムの腕力とレヴァンティンの切れ味を以ってすれば容易く切断出来る。
 はやての丁度真横辺りでレヴァンティンの切っ先が止まった。そして其処から微動だにせずプルプルと震えている。
 はやてはシグナムを見た。そのシグナムの目からは涙が零れ落ちていた。目は未だに殺意の篭った目をしているのにその目から涙が止め処なく流れているのだ。

「シ、シグナム……」
「な、何故だ? 貴様を倒せとの次期創世王の命令なのに……何故こうも、心が痛いんだ? 何故―――」

 シグナムが泣いていた。シグナムの心が泣いているのだ。例え心を支配されゴルゴムの手先になったとしても、心の奥底にある本当の心は否定しているのだ。
 だが、強大なるシャドームーンの呪縛がそれを妨げている。

「シグナム! 目を覚ますんや! 信彦兄ちゃんの……シャドームーンの呪縛に負けちゃ駄目や!」
「わ、私は……私は、次期創世王シャドームーン様を守る……」
「違う! シグナムは私の大事な家族や! 騎士だとか守護だとかそないな堅苦しい事せんでええんや!」

 はやての必死の説得が続いた。未だに涙を流し自分自身の存在に苦しむシグナムに必死に叫んでいるのだ。そのはやての声が、心の叫びがシグナムの奥深くに封印されていた本当の心に響いていく。更にレヴァンティンの切っ先がぶれだしていく。後少し、あと少しで―――

【何をしている、シグナム? 早くそいつ等を殺せ! キングストーンを奪え!】
「ぐ! うあああああぁぁぁぁぁぁ!」

 突如、シグナムが頭を抱えだす。口からは悲痛の叫びが木霊していた。突然の変化であった。一体何が起こったと言うのだろうか。そして、悲痛の叫びが納まると、其処に居たのは明らかに狂気の目つきに変わったシグナムが居た。

「シ、シグナム!」
「コロス……オマエタチヲ……コロス!」

 明らかに口調が変わっていた。正気を失っていた今のシグナムにはやての言葉など最早届かなかった。只、無情にも手に持ったレヴァンティンが高々と頭上へと振り上げられる。
 
「は、はやてちゃん、逃げろ! 今のシグナムさんは正気じゃない!」
「はやてちゃん、逃げて!」
「嫌や、此処で逃げたら、シグナムを救う事なんて一生出来へん! 私はシグナム達の主なんや! こないな所で逃げられへん!」

 強情なまでにはやてはその場で立っていた。そしてシグナムを見つめている。そんなはやてにシグナムが容赦なく剣を振り下ろしてくる。今度は一切の容赦がない。すん止めも有り得ない。正しく絶対絶命の時であった。

「待てぇぇい!」

 突如、怒号が響いた。それは天空より響くような声であった。そして、その声にはなのはもフェイトも聞き覚えがあった。
 
「い、今の声は? ってか、一体何処から?」

 一同は声の主を探す。だが、辺りにそれらしき人影はない。そんな時、淡々と声の主の語り部が始められた。

【心と心で繋がった者達は見えない糸で繋がっている。
 その糸は、どんなに鋭い刃をもってしても、決して切れる事はない。
  堅く結ばれた人と人を結ぶ見えない糸

 人、それを『絆』と言う】

 それは、一つの句であった。まるで今の心境を述べるかの様な言い回しだ。そして、天高く昇る太陽を背に、その者は立っていた。赤と青と銀の鎧に身を包みその眼光は鋭く悪を決して許さない正義の闘志に燃える青年であった。

「やっぱり、ロムさん!」
「え、ロムさん?」

 なのはが名を叫んだ。幾度となく窮地を救ってくれたクロノスの戦士だ。

「烈火の将シグナム! 今度は俺が相手だ!」
「グ、グウウアアアアア!」

 最早正気を失った獣の雄叫びであった。それを挙げながらシグナムは青年、ロム・ストールへと向っていく。それに対しロムは天空から両刃の剣、剣狼を呼び出しそれを手に向い立つ。

「ロムさん、シグナムを殺さないでや! シグナムは、操られてるだけなんや!」
「分かっている。俺が時間を稼ぐから、その間に彼女を支配している呪縛を振り払ってくれ!」
「呪縛を振り払う……そうか!」

 光太郎は気づく。秋月信彦ことシャドームーンが守護騎士達に放った光は紛れも無くキングストーンの輝きだ。ならば、同じキングストーンを持つ光太郎こと仮面ライダーBLACKRXならばその呪縛を相殺出来るかも知れない。だが、確証はない。最早これは賭けであった。

「コロス! シネ! シネエエエエエエエ!」
「騎士の心を弄ぶとは、断じて許せん!」

 シグナムとロムの激しいぶつかり合いが展開された。それは激しい剣戟であった。
 シグナムのレヴァンティンとロム・ストールの剣狼が激しい火花を散らしていく。
 剣の腕はほぼ互角。されどシグナムの放つ剣は荒々しき獣の如き勢いであるのに対し、ロムの剣はシグナムの剣を柔らかく包み込み無理なく返していく。まるでシグナムの剛の力に抗う事なく身を任せ同化する柔の動きであった。

「ウガアアアアアアアアアア!」

 遂に業を煮やしたのかシグナムがレヴァンティンにカードリッジを装填する。その形状が突如として変わり普通の剣であったそれが蛇剣状の姿へと変わる。別形態シュランゲフォルムである。
 変幻自在の動きがロムを惑わしていく。

「扱いの難しい蛇剣を此処まで操るとは……流石烈火の将! ならば、俺も奥義で迎え撃つ!」

 咄嗟にロムが飛翔した。太陽を背にし剣狼を両手に持ち替えて頭上に構える。そのまま一気にシグナム目掛けて降下してきた。

「天空真剣! 稲妻ぁぁぁ!」

 それはロムの得意技である稲妻二段切りであった。勿論それを只で食らう筈がない。
 一段目は蛇剣の前に防がれる。そのまま一気にシグナムの後ろまで飛び降り、再び二段目を構えた。
 だが、その二段目もまたシュランゲフォルムから通常形態へと戻ったレヴァンティンにより防がれてしまう。
 ガキンと鈍い音がし二段目も不発に終わってしまった。

「そんな、あれを防ぐなんて!」

 フェイトは驚かされた。正しく稲妻の如き速さでニ連続に斬りつける奥義。それをシグナムは正気を失っている状態でとは言え防いだのだ。
 正しく誰もが万策尽きたかと思われていた。それこそがロムの狙いであった。

「まだまだあああああああああああ!」

 雄叫びを挙げた。ロムの目はまだ死んでいない。諦めていない。その手に持った剣狼を更に強く握り締めて振付ける。
 トドメは横薙ぎに振るった後の態勢から切り上げる逆袈裟切りであった。
 完全に油断していたシグナムはそれを防ぎきれずまともに食らってしまう。
 が、ロムが狙っていたのはシグナムではなく、彼女が持っていた得物であった。
 天高く飛ぶのはシグナムの得物であるレヴァンティンであった。
 そう、これこそロム・ストールが持つ天空真剣奥義なのだ。

「奥義、稲妻三段切り!」
「グッ、ウゥゥゥ!」
「今だ! 彼女の呪縛を解けぇ!」

 叫びロムが飛び退く、それと同時に前に現れたのはRXであった。

「シグナムさん、今助けるぞ! キングストーンフラァァァァッシュ!」

 RXの腰ベルトから燃えるような赤い閃光がシグナムを包み込んでいく。その光を浴びたシグナムの体からドス黒い邪悪なオーラが滲み出てきた。そのオーラは体から排出されるとRXのキングストーンフラッシュを浴び瞬く間に消滅してしまった。
 そしてそのままガクリとその場に膝を下ろしてしまうシグナム。一連の事が終わった直後、彼女のすぐ脇にレヴァンティンが舞い降りてきた。

「シグナム? シグナム!」

 動きを見せないシグナムに向かいはやてが駆け寄り必死に声を掛ける。これでもしシグナムの呪縛が解けていなかったらそれまでだ。だが、はやては願った。
 光太郎やロム・ストールが命を掛けて彼女を救おうとしたのだ。その思いを無駄にしたくない。だから願う。はやては強く願った。
 シグナムが元に戻る事を。かつての優しき烈火の将であり家族であった頃のシグナムに戻る事を。

「あ、主……」
「シグナム!」

 はやての目から止め処なく涙が流れた。戻った! シグナムが今戻ってきたのだ。
 シャドームーンの呪縛から解き放たれあの頃の優しき守護騎士へと戻ったのだ。はやてはそんなシグナムを強く抱き締めた。回りに誰が居ようと関係なくはやては声を挙げて泣いた。
 子供らしくわんわん声を挙げて泣いた。その泣き声を聞いたシグナムもまた、涙を流した。
 帰って来た。帰ってこれた。その実感がシグナムの心を支配していたのだ。
 そして、それはまた、大いなる希望となるのであった。




 そう、守護騎士達を取り戻せる方法はあると言う事を―――




     つづく 
 

 
後書き
次回予告

 烈火の騎士を救い出す事に成功した一同。
 だが、侵略同盟の魔の手が光子力研究所に迫る。
 今こそ永き眠りから鉄の魔神が復活する時が来た!
 急げ少年よ、魔神と共に超人となるのだ!

次回「復活!マジンガーZ」お楽しみに 
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