スーパーヒーロー戦記
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第59話 凶悪犯、その名はヴォルケンリッター!?
「そんな、ミサトさんが……」
ギルギルガンとの戦闘を終えた後、風見からもたらされた報告を聞き、クロノ達は急ぎアースラへと帰還した。皆不安の面持ちをしており、その中で特にクロノの顔は真っ青になっていた。
「クロノ君、少し落ち着いて」
青ざめた顔でミサトの居るであろう病室へと入ろうとするクロノを必死にエイミィが止める。彼にとってミサトは特別な存在だったのだ。
人との関わりが苦手だったクロノにその手のいろはを叩き込んでくれたのはミサトであった。
それだけじゃない。ミサトには様々な事を教わってきた。
それこそ、一年やそこらで返せる量ではない程に――
「少し落ち着け、まだ最悪の結果と決まった訳じゃ――」
竜馬が止めに入った時、病室のランプが消えた。と、同時に鍵が開く。
扉が開き、中から専門の先生が出て来た。その顔は酷く沈んでいた。
「先生、ミサトさんは……」
「せめて、思い残すことのないように」
それだけであった。それだけを告げると専門の先生は静かに去って行った。クロノの顔が更に青くなって行く。最早居ても立ってもいられずクロノは部屋に飛び込んだ。
其処には全身ズタボロに傷つけられた状態のミサトが居た。酷い傷であった。
打撲、切創、拘束、強打、それらの傷跡がこの細い体の隅々に深く刻み込まれていたのだ。
「ミサトさん、ミサトさん!」
「う……あぁ……やぁ」
涙ぐむクロノにむかいミサトはやんわりと声を発した。それが最早最後の空元気である事は重々承知であったのだ。
「ミサトさん、しっかりして下さい! きっと治ります! だから…」
「はっはっ……私の体だ……私が一番……よく分かるよ……」
ミサトの口から言われた言葉はとても弱弱しかった。誰の目からでも明らかである。
もう、彼女は長くない。
「ミサトさん、一体誰が……誰がこんな事をしたんですか?」
「馬鹿……だねぇ……執務官様……なら、自力で探して……みな」
「此処に来てまた師匠面ですか! 貴方は何時もそうだ。何で僕を信用してくれないんですか? 僕はそんなに頼りないんですか?」
ミサトに怒号を張り上げて言い寄るクロノ。彼の目には涙で滲んでいた。憧れの人であった。同時に恩師でもあった。
そして、初めて女性として見れた人でもあったのだ。
その人が今、目の前で息を引き取ろうとしている。
「何言ってるんだい……私はねぇ、あんたを信頼してるから任せるんだよ……あたしをぶちのめした奴等を……あんたの手で……」
「ミ……ミサトさん? ミサトさぁん!」
クロノが叫んだ。最後の言葉を聞く事は出来なかった。今、クロノの目の前で彼の恩師であり憧れの女性であった時空管理局魔導師『ミサト・ハーヴェイ』は静かに息を引き取った。
その亡骸を前に声を挙げて泣き崩れるクロノ。その姿を見て誰もが声を掛ける事が出来なかった。
***
「これが、最後にミサトさんと通信した際に映った犯人と思われる映像です」
エイミィが見せた映像に映っていたのは四人の騎士であった。それぞれがミサトの体に刻まれた傷跡を作るであろう得物を所持している。
剣、鉄槌、鋼線、拳。
それらを得物に戦う騎士達の映像が映し出されている。
その映像を前に一同は激しい憤りを胸に抱いていた。
「こいつらが……こいつらがミサトさんを」
「今はまだ怒るなクロノ。その怒りは奴等を見つけた時に爆発させろ」
拳を震わせて映像の人物達を睨むクロノの肩に風見がそっと手を置く。
彼も知っているのだ。大切な者を奪われた苦しさを。悲しさを。
「エイミィ、こいつらの行き先をサーチ出来るか?」
「無理ね、高度のステルス機能を使ってるみたいだから全然引っ掛からない」
ボードを操作しながらエイミィが言う。ならば追跡は絶望的でもあった。向こうが動き出さない限りこちらは手の出しようがないのだから。
「良いさ、だったら奴等が痺れを切らして出て来た時が勝負と言う事なのだろう」
鉄也が言う。結論から言えばそうなるだろう。しかしそれはかなり悔しい事実だが、今はそうする他にないのだ。
「だろうな、だが……出て来た時は俺達全員で奴等を叩き潰す!」
「あぁ、今回は俺も我慢の度を越えちまったぜ」
「あんにゃろう、四人がかりでやるなんざひでぇ連中だぜ!」
皆が同じ心であった。ミサトの仇を取る。そして、あんな非道な行いをした四人の騎士達を叩きのめす。
その思いであった。
***
暫くの間、例の四人の騎士達の動きは全く見られず、アースラ隊では日々胃が痛む日々が続いていた。そんな中、一つの朗報が告げられた。
「これが、あのバルディッシュ?」
それは、フェイトのバルディッシュの改修作業が終了した事だったのだ。しかし残念な事に当の甲児は既に地上に出立した後のようであり届けてくれたのは全く別の局員であった。
早速デバイスを起動させて見たが、その姿は明らかに力強くなっている。
ハーケンセイバーの魔力刃は更に鋭く堅くなっており、コアの下にはリボルバーに似たシリンダーが取り付けられていた。
恐らくこれがカードリッジなる物なのだろう。
「良かった、これで……また皆と戦える」
生まれ変わったバルディッシュを抱き締めてフェイトは歓喜に震えた。これこそ待ちに待った瞬間だったのだから。
そんな時であった。突如召集を知らせる警報が鳴り響く。
「警報? 一体何が……」
***
ブリッジに訪れたフェイト。其処には既に殆どのメンバーが集まっていた。そして、モニターには四人の騎士らしき者達の姿が映し出されていた。
「やっと動き出しました! 位置も特定済みです」
「やっとか……今度こそ逃がさないぞ!」
映像を見てクロノの中に怒りの炎が燃え上がりだしたのをフェイトは感じた。彼とあの騎士達に一体何があったのか?
それを知りたかったが今は止める事にした。下手に彼を刺激したくないのだ。
「艦長、すぐに出撃命令を下さい! まごまごしていたら奴等に逃げられてしまいます!」
「そうね、全員直ちに出撃! それと同時に広域結界を張ります。何としても例の騎士達を確保して下さい!」
リンディが命令を送る。それは何よりも待ち望んでいた指令であった。
これでミサトさんの仇が討てる。クロノの中にはその思いが募っていた。
「か、艦長!」
突如、エイミィの上ずった声が聞こえてきた。どうしたのだろうかと皆が彼女の方を向く。
普段は元気っ子の筈の彼女が青ざめているのはかなり珍しい。
「どうした? エイミィ」
「例の騎士達の近くに、なのはちゃんが居ます!」
「何だって!」
クロノは驚愕した。それと同時に今まで燻っていた内なる炎が唸りを上げて爆発するのを感じた。
また犠牲者を出したいのか、あいつらは!
これ以上、大切な仲間を犠牲にしたくない。もう、あいつらの好き勝手にはさせられない!
「行くぞ、お前等。これはまたとないチャンスなんだ」
鉄也が言う。正にその通りだ。今此処で動かなければ奴等はなのはを殺して逃げてしまう。そうなる前に手を打たねばならない。
これ以上、大切な仲間の死を、もう誰も見たくないのだ。
それから、時は現在に戻る。
広域結界が張られたバトルフィールド内で、守護騎士達とアースラ隊のメンバーが激しく激突しあっていた。戦況は明らかに守護騎士側が不利であった。
先の超獣との戦闘でかなり消耗している上に今度はアースラ隊との連戦である。
しかも、彼等の強さは尋常ではなかった。
「うおぉぉぉぉ!」
憤怒の意志を露にクロノはシグナム目掛けて突貫してきた。其処に今まであったクロノの冷静さは微塵もない。あるのは守護騎士達に対する激しい怒りと憎しみだけであった。
その全てをぶつけようと向ってきたのだ。
「ちっ、こんな時に……」
シグナムは毒づいた。
先の超獣との戦闘がまだ響いている。只でさえ超獣との戦いは神経を使う為消耗が激しい。それなのにその後に続いてこのアースラ隊との連戦である。
だが、弱音を吐いてはいられない。此処で負ける事は許されないのだ。
「何故だ? 何故お前等はミサトさんを殺した!」
「何?」
「僕は絶対に許さない。お前達を絶対に!」
「訳の分からない事を!」
全く身に覚えがなかった。シグナムは八神はやてを主に持ってから一度も殺人を犯した記憶がないのだ。にも関わらず目の前に居るクロノは自分達が殺人を犯したと言っている。
辻褄が合わない。一体何がどうなっているのか?
刃を交えながらシグナムは考えた。そうしていると一瞬だが剣に迷いが生じてしまったらしく、レヴァンティンの切っ先をクロノのSTUに弾かれる。
「なっ!」
「貰った!」
怒号と共にクロノの持つSTUの先端から青い魔力砲が放たれた。
収束砲であった。
その一撃は間一髪で直撃は避けられたものの、明らかに今の一撃に非殺傷設定はなされていない。確実に仕留める気で放った一撃だった。
なんとかそれを回避したと思ったら、今度は横回しの蹴りが飛び込んできた。
脇腹にそれを食らいシグナムの体が思い切り仰け反る。
「がっ!」
痛みに声をあげてしまった。其処へ畳み掛けるように数発の魔力刃が形勢され、放たれた。
「調子に乗るな!」
放たれた魔力刃を全て払い除ける。そして、懐から取り出したカードリッジをレヴァンティンに装填する。
「貴様が殺す気で来るのならこちらもそうさせて貰う!」
最早シグナムに迷いはなかった。此処で倒される訳にはいかない。ならば、覚悟を決めねばならない。
仮面ライダーBlack、南光太郎の前に立ちはだかるのは全く別の仮面ライダーであった。
確か、仮面ライダーV3とライダーマンと名乗っていた。
その双方が今、光太郎の前に立ちはだかっているのだ。
「待って下さい! 僕は悪の仮面ライダーではありません! 話を聞いて下さい!」
「その必要はない! 奴等に組している以上貴様等は敵だ!」
光太郎の話を聞く気など彼等にはなかった。彼等からしてみれば只、悪を倒す。極当たり前の事をしているに過ぎないのだろう。
だが、倒すべき相手を履き違えればそれは脅威となる。現に光太郎がそれを今実感していたのだ。
「くっ、今此処で彼等と戦う訳にはいかない!」
此処でV3達と戦えば自分達は正真正銘悪党となってしまう。それだけは出来なかった。
人類の自由と平和を守る為に戦ってきた今までを無駄にしてしまう事となる。
それだけはしたくなかったのだ。
「遅いぞ!」
途端にV3が殴りかかってきた。それも一撃ではなく、連続でであった。
拳が、蹴りが、怒涛の様に押し寄せて来る。光太郎はそれを捌き、かわすだけでも手一杯だった。
「パワーアーム!」
其処へ右手のアタッチメントが半月状の刃へと変えたライダーマンが切りかかってきた。
上空から飛翔して急降下の威力を上乗せにしてやってきたのだ。
「ぐっ!」
横に飛びのきそれを回避する。しかしその直後に飛んできたのはV3のキックであった。
光太郎の体がくの字に曲がる。力はほぼこちらと同等であった。
だが、戦闘の錬度が違う。相手の方が明らかに場慣れしているのだ。
それに比べて光太郎は戦闘経験が浅い。此処に来てそれが裏目に出てしまった。
更に、二対一と言う過酷な戦いを強いられる事となったのだから手に負える状況ではないのは確実でもあった。
二対一はこちらも同じであった。
グレンダイザーの前にはグレートマジンガーとゲッタードラゴンが居る。それぞれ得物を持っている。
グレートは諸刃の長剣、ゲッタードラゴンは両刃の斧だった。
グレンダイザーも半月状の武器ダブルハーケンを装備しているがそれでも一人でこの二人を相手にするのは厳しい。
「待ってくれ!僕達は君達と同じこの世界を守る者達なんだ! それなのに何故……」
「言い訳は地獄に言ってからしな!」
大介の言い分を跳ね除け。グレートの両の角が激しくスパークする。サンダーブレークを放つつもりだ。
グレンダイザーも自身の両の角をスパークさせる。サンダーブレークに対抗し得る武器はスペースサンダーしかない。
互いのスパークが放たれて宙空で激突した。その際に激しい閃光がほとばしる。思わず目がくらむ大介。その直後、激しい振動が伝わる。見ればゲッターのダブルトマホークがダイザーの首筋にぶつかっていたのだ。
幸い傷は浅い方だったがそれでもこの二体の連携にはまず手を焼く羽目になる。
「待ちやがれ!」
其処へ怒号を張り上げながら甲児の操るTFOがやってくる。その声を聞き、ドラゴンの首がTFOに向けられる。
「その声は、甲児君か?」
「リョウ君、一体何の真似だ! 何で俺達に敵対するんだよ!」
甲児が竜馬に問いつけた。話の分かる人間だと信じたい。出来れば、こんな誤解から生じた戦いを一刻も早く終わらせたい。
そう思っていたのだ。
だが――
「甲児君、君は何故こんな奴等のところに居るんだ! 彼等は俺達の仲間を殺した殺人鬼達なんだぞ!」
「何言ってんだ! シグナムさん達が人殺しする訳ねぇだろう! 寝ぼけた事言ってるんじゃねぇよ!」
「甲児君、話しても駄目なら力付くでも――」
ゲッターの手がTFOに伸びる。だが、その手をグレンダイザーが遮った。
「止めろ! 甲児君に手を出すなら僕が相手になる!」
「ならば、望み通り相手をしてやる!」
「手を貸すぜ、リョウ君!」
再び二対一の戦いとなった。TFOも援護はしてくれるがミサイルでどうにかなる相手では決してないのであった。
***
ザフィーラとシャマルの二人もまた苦戦を強いられていた。ザフィーラの目の前には自分と同じように狼の特徴を持った女性が居た。手には得物は持っていない。恐らく徒手空拳で戦うのだろう。
ならば、自分が相手をするのが適任と言える。
そして、シャマルの前に立ちはだかっているのは金髪の少年であった。どうやら彼の能力は自分と同じようだ。だが、それだとしても超獣との連戦が響いており実力を出し切るのは難しい。
「でやぁ!」
「ぐっ!」
現にザフィーラは自分と同じ能力を持つ女性アルフに手を焼いていた。力差ではザフィーラに分があるがこう消耗していてはそれも大差ない。となれば手数の差と体力差でアルフが勝っているのが現状でもあった。
そしてそれはシャマルにも言える事だ。目の前の少年ユーノ・スクライアには攻撃的能力は余り見られない。しかしそれでもこちらよりも能力的に勝っているのは事実であった。
「シャマル、離脱できないのか?」
「駄目、結界が分厚くて、それにこうも皆が分断されてちゃとても出来ないわ!」
アースラ隊の狙いはこれであった。互いに援護出来ない状態ではあったが、逆にそれは敵にも言える事だった。
そして、今の彼等はお誂え向きにかなり消耗している。今こそが彼等を確保する絶好の機会なのだ。
***
地上に居るなのはの目の前ではヴィータがフェイトと激しくぶつかりあっていた。
パワーで圧倒出来る筈のヴィータが押されている。消耗していたのも事実だが、それ以上にヴィータが苦戦している原因となっているのが、フェイトの持っているデバイスだ。
「てめぇ、何でそのシステムを持ってやがる!」
「システム? カードリッジシステムの事?」
「それはあたしらベルカ式の技術だ。それを何でてめぇが!」
「犯罪者に教える義理はありません! 大人しくしないなら……」
フェイトの持つデバイス【バルディッシュ・アサルト】から分厚い閃光の刃が姿を現す。
以前のそれよりも遥かに分厚く、そして強力になっていた。
「力付くででも連れて行きます」
「けっ、管理局がどっかの悪党みたいな事言うじゃねぇかよ!」
愚痴りながらもアイゼンを叩き付ける。だが、その一撃も消耗していた為にフェイトにあっさりと返される。
その後も何度かぶつかりあいを繰り返したのだが、結果は明らかにヴィータが不利であった。
そして、その光景を、なのはは只黙って見ているしか出来なかった。
「何で、何で皆戦うの? 少し話し合えば戦う必要なんかないのに!」
なのはは自分の無力さを呪った。空を飛んでいる者達の元へは今の自分では行く事が出来ない。
まだ完全に能力を取り戻した状態ではない為飛行が出来ないのだ。
「あっ!」
目の前でヴィータがフェイトの一撃を受けて諸に弾かれた。持っていたアイゼンも手放してしまい無防備な状態となってしまっていた。
「終わりだね。大人しく同行して下さい!」
「ふざ……けんな!」
「そうですか……だったら!」
突如、フェイトの顔色が変わった。その顔は怒りと憎しみに彩られていた。
彼女も憎んでいたのだ。大切な仲間を殺した守護騎士達を。そして、今正にその守護騎士の一人に対して殺意の篭った斬撃が振り下ろされようとしていた。
今、なのはの目の前にヴィータのアイゼンが降って来た。それは即ち今のヴィータには対抗すル力がない事を示す。
そして、目の前には今正に、フェイトがヴィータを斬ろうとバルディッシュの刃を振り上げている。
「そんな、止めて! 止めてよフェイトちゃん!」
なのはの声は届かない。声を届かせるには自分も同じ高度へ飛び上がるしかない。
だが、今の自分には飛ぶ力がまだない。それに、回りからの援護も恐らくは望めない。
このままではヴィータが切り殺されてしまう。
嫌だ、大切な友達を失いたくない。大事な仲間を死なせたくない。
レイジングハートを握るなのはの手に力が込められた。
その時であった。
突如、なのはの両足に桜色の羽が姿を表した。
これならばなのはも空を飛ぶ事が出来る。大空へと舞い上がり、後先考えずなのははフェイトとヴィータの間に割って入った。
「だめえええええええ!」
叫び、バルディッシュを振り下ろすフェイトの前に立つ。両腕を左右に大きく広げ、後ろのヴィータを守るような形でその場に立ったのだ。
そして、その直後――
「あぁっ!」
フェイトは驚愕した。気づいた時には既に遅かった。フェイトの振り下ろしたバルディッシュの刃はフェイトの意志を無視してそのまま斜め下へと振り下ろされたのだ。
そして、その無情な一撃が、ヴィータを庇おうとして立ちはだかったなのはに向かい振り下ろされた。
嫌な音が響いた。鋭利な刃物で肉を斬ったような音だ。
「な、なのは……そんな、何で!?」
「も、もう止めようよ……ヴィータちゃん達は……何も悪い事なんか……して、ないよ」
なのはの声に徐々に生気が失われて行くのが分かった。やがて、彼女の広げていた両手がダランと垂れ下がる。
「ち、ちびっ子!」
後ろでヴィータがなのはを呼ぶ。だが、それになのはは答えない。
そして、次の瞬間、彼女の胸部から夥しい鮮血が噴出した。
面前に居たフェイトの体がなのはの噴出した鮮血で赤く彩られて行く。
「あ、あぁ……あああぁぁぁぁぁ!」
フェイトは青ざめて絶叫した。大切な友達を助けようとやってきた筈が逆に自分がその大切な友達を傷つけてしまったのだ。
そんなフェイトとヴィータの目の前で、鮮血を噴出したなのはは重力に従い、地面へと落下し、堅いアスファルトの上に倒れた。その周囲が赤い鮮血で染まって行く。
「ちびっ子……てめぇ!」
「なんで……なんで?」
「なんでだよ! あいつはお前の友達じゃなかったのかよ! それを何でてめぇは……この、この悪魔!」
ヴィータが怒号を上げた。
その言葉を聞き、フェイトは驚愕した。
悪魔、まさかそんな事を言われるとは思ってもいなかった。
だが、側から見ればフェイトを悪魔のように見るのも無理はないだろう。大切な友達であった彼女を無情にも斬ったのだから。
こんな時、なのはだったら何て自分を励ましてくれるのだろう。フェイトはそう考えていた。だが、そんなフェイトの思いとは裏腹に、目の前に倒れていたなのはは、誰に対しても、一言も声を発する事は出来なかった。
そんな時であった。突如上空から一筋の雷光が飛来する。その雷光は張られていた魔力結界を一撃の元に破壊する。恐ろしい力であった。
それに驚くアースラメンバー達。
「今だヴィータ。高町を連れて此処から離脱するぞ!」
「あ、あぁ……分かった!」
シグナムの言葉を聞き、ヴィータは我に返った。誰が破ったかは知らないがこれは好都合だ。
ヴィータは目の前に倒れているなのはを抱え上げ、上空へと飛び上がった。
「あ、なのはぁ!」
「覚えてろてめぇら! あたしらの大事な仲間を傷つけた礼は必ずしてやるからな!」
振り返り、フェイトに向いヴィータはそう言い、そのまま空へと飛び上がった。
追いかけようとした時、その周囲に突如ガスの様な物が振りまかれた。
それはTFOから放たれた特殊煙幕であった。
魔力防御の能力もありその中ではサーチも何も出来ない。
その隙に一同は逃げ延びたのであった。煙幕が消えた後には誰も残っていない。
「逃げられたのか……」
その事実を知り、激しく落胆するクロノ。他のメンバーも同じ面持ちであった。
仇を取れなかった。その事実が重く彼等の圧し掛かっていたのだ。
だが、そんな中、一人別の事実に心を押し潰されようとしている者が居た。
「どうして? どうしてあんな奴等を庇ったの? 何でなの……なのは」
フェイトは、既に守護騎士達の手により連れて行かれた親友の名を呟いた。
彼等は凶悪犯なのだ。大切な仲間を殺し、今尚更に残虐非道な行いをする腹積もりをしているに違いない。
だが、そんな彼等をその親友は庇ったのだ。
身を挺して、自分の放った凶刃を体を張って防いだのだ。
そして、その代償が目の前に敷かれた赤い血の跡であった。
そして、その赤い血の跡を皮切りに、守護騎士達とアースラ隊。
双方の激闘は泥沼の様な終わりない戦いへと突入していく事となっていくのであった。
つづく
後書き
次回予告
仲間を庇う為に瀕死の重傷を負ってしまったなのは。治療を施していた一同の下に、はやてが何者かに誘拐されたとの報告が入った。
それは、次期創世王の座を狙う剣聖ビルゲニアの用意した死の罠であったのだ。
そして、それと同時に、新たな世紀王が目覚める。
次回「影の月」おたのしみに
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