アラベラ
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第二幕その六
第二幕その六
しかも話をしているのは軍服の男である。どうやら将校のようだ。
「若いな。それに顔立ちもいい」
だが彼の顔が暗いものであることも見逃さなかった。
「訳ありなのかな」
さらに気になった。それで耳を澄ませた。
「姉さんの部屋の鍵だよ。嘘は言わないから」
「本当なのか」
マッテオにとっては夢の様な話であった。マンドリーカにとっても。
「どういうことだ」
彼はそれを聞き顔を顰めさせた。
「聞き違いか!?私の」
だが違った。その証拠にズデンカは続けた。
「よく聞いてね」
「うん」
マッテオはここで彼の声が女のものだということに気付かなかった。マンドリーカもであった。彼等は冷静ではなかった。
「まずこの鍵で部屋に入ってね」
「わかった」
(本当は私の部屋の鍵なのだけれど)
しかしそれは決して言うことはない。
「彼女はすぐに来るわ。わかったわね」
「うん」
マッテオはそれに頷いた。
「彼女は絶対に貴方を不幸にはしないわ。だから安心してね、本当に」
「本当なんだね!?」
マッテオは問うた。
「ええ」
ズデンカはそれに頷いた。
「すぐにね。だから安心して」
「うん」
マッテオはようやくその話を信じられるようになってきた。マンドリーカはまだ信じられない。
「じゃあね。僕はこれで」
(用意しないと)
「わかったよ」
彼は頷いた。
「じゃあ行こう。いつも有り難う。今回は特に」
「いいのよ」
ズデンカは目を伏せた。やはりその声も言葉も女のものとなっていた。しかし純真なマッテオがそれに気付く筈もなかった。マンドリーカは普段なら気付いたであろうが今の状況ではそれは無理であった。
「それじゃあ」
「うん」
ズデンカは先に行った。マッテオはそれを暫く見送っていた。
「女の人の心とはわからない。これはどういうことなんだ」
「おい」
マンドリーカは彼に後ろから声をかけた。しかしマッテオはそれに気付かなかった。そして立ち去った。
「しまった!」
追おうとする。しかし速い。追いつけはできそうにない。
「しまった・・・・・・」
マッテオは去ってしまった。マンドリーカはその消えていく後ろ姿を見て顔を顰めさせて首を横に振った。
「もしやと思うが。いや」
彼は考え込まずにはいられなかった。
「そんな筈はない」
その顔は蒼白になっていた。
「アラベラという女性がこの場に二人いる、いやそれはない」
ズデンコが言っていた。それが何よりに証拠であった。
「しかし彼女は今もこれからも会場にいる。彼に会うとしてもそんなことはできはしない筈だ」
冷静になろうと務める。しかしそれは不可能であった。
「抜け出る!?どうやって」
ここで音楽が耳に入って来た。美しいワルツの調べだ。
「あの曲に紛れて。全ては宴の中なのか。そして彼女は姿を消す」
踊りを終えた人々が出て来た。場所を移すのだ。今度は酒を本格的に楽しむ為に。そして賭け事や話を。宴は新たな場に移ろうとしていた。
「むう」
彼は出て来る人々を見た。だがそこにはいなかった。
「やはりいないのか。それではやはり」
出て来る人々の中にはフィアケルミリもいた。しかし彼はそれには気付かない。考え続ける。
「ううむ」
ここでフィアケルミリが彼に話し掛けてきた。
「もし」
「はい」
彼はそれに顔を向けた。
「何でしょうか」
「貴方は場所を移られないのですか?ここに立ってばかりのように見受けられますが」
「それですが」
暗い顔をして答えた。
「ちょっと事情がありまして。もう少ししたら向かいます」
「そうですか」
彼女は納得できなかったがその場は退いた。そして男達に取り囲まれながら宴の場に向かった。
そこからは既に酒や食べ物を楽しむ声が聞こえてきている。多くの者はそれを聞いて自分も心を楽しくさせていく。だがマンドリーカだけは違っていた。そこに彼の従者の一人が来た。
「旦那様」
「どうした」
彼はその従者に対して答えた。
「お手紙を預かっておりますが」
「誰からだい!?」
声は怖いものとなっていた。だが彼はそれに気付かない。
(もしや)
ふと思った。そしてそれは当たった。
「アラベラ様からです」
「やはりな。ちょっと待て」
彼は自分の従者に言った。
「手紙を調べてくれ」
「手紙をですか」
「そうだ。鍵が入っていないかな。頼むぞ」
「はあ」
彼は言われるまま手紙を調べた。
「そのようなものはないようですか」
「そうか」
だが彼の不安は増す一方であった。
「気になるな」
彼は顎に手を当て考えに入った。
「恐ろしい。この手紙が」
「では読まれるのを止めますか?」
「いや、それは待ってくれ」
だがマンドリーカは読まないではおれなかった。
「読もう。手渡してくれ」
「はい」
従者は主に言われるままにその手紙を差し出した。そして彼は手紙の封を切った。そして中身を取り出した。
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