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アラベラ

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第二幕その七


第二幕その七

 それから読みはじめた。
「今日は貴方に『お休み』と申し上げます。私は家に帰ります」
 彼はそれを読んで愕然とした。
「やはり・・・・・・!」
 その次の『明日から私は貴方のものです』という言葉はもう目には入らなかった。彼は憤りで身体を震わせた。
「彼女の名前すらない。小文字のイニシャルがあるだけだ。それも当然か、私の様な者には」 憤りを必死に抑えながら言う。
「所詮私なぞその程度なのだ、田舎者には」
 心の中を悔しさが支配していく。だがそれを何とか抑える。
 しかしあちこちから溢れ出るのは我慢できなかった。
 彼は従者に顔を向けた。
「おい」
「はい」
 彼は主に何時になく怖い顔に驚きを隠せなかった。彼は普段は極めて温厚で寛大な主人であるからだ。
「すぐにここにいる人達にふんだんにふるまうってくれ。私の奢りでな。お金はあるから」
 そして懐から財布を取り出しそこから札束のかなりの部分を取り出した。
「これで足りるだろう」
「わかりました」
 ここは意見をすることを止めた。彼は頷くとその場から姿を消して難を逃れた。
「何ということだ」
 マンドリーカは従者が去った後会場へ戻った。ガックリと肩を落としていた。そこでアデライーデがやって来た。
「もし」
「はい」
 彼はただならぬ顔で彼女に顔を向けた。
「何でしょうか」
「私の娘達は何処でしょうか」
「それは私がお聞きしたいです」
 彼は溜息混じりにそう言った。
「彼女が何処にいるか。ここでないことは確かでしょうが」
「それはどういう意味でしょうか」
 彼女も彼の只ならぬ様子に気付いた。
「宜しければお話願いませんか」
「お話することなぞ」
 彼はそう言って顔を顰めさせた。
「私にはありません。ですが貴女の娘さんにはおありでしょう。色々と弁明が」
「弁明」
 彼女は彼の言葉とその口調に嫌な思いをせずにはいられなかった。
「御言葉ですが」
 そして反論せずにはいられなかった。
「私の娘は人に弁明するようなことはありませんよ」
「それはどうだか」
 シニカルに返そうにも感情が憤っている為それもかなわなかった。
「人には色々と表裏がありますからね」
「どういう意味ですか!?」
 これにはアデライーデもカチンときた。
「私の娘を侮辱することは許しませんよ」
「侮辱!?とんでもない」
 彼はすぐにそれに返した。
「私は事実を申し上げているだけですから」
「・・・・・・・・・」
 アデライーデは沈黙した。だがそれは言葉がないからではなかった。怒りにより沈黙しているのであった。そこにヴェルトナーがやって来た。
「おや、どうしたんだい?」
 彼は二人の様子に慌ててこちらにやって来た。
「あなた」
 アデライーデは夫に援軍を頼んだ。
「あなたからも仰って下さい」
「何をだ?」
 マンドリーカを見ながら妻に応えた。
「娘を守って下さい、お願いですから」
「アラベラをか」
「はい」
 彼女はそれに頷いた。
「一体何のことかよくわからないが」
 彼はいぶかしながらマンドリーカを見ている。
「例え誰であれ娘を侮辱するのなら許さないぞ」
「そうですか」
 マンドリーカはそう言われても頑なであった。
「では貴方は娘さんが私を騙しておられてもそう仰るのですね」
「騙すだと!?」
 彼はそれを聞いて血相を変えた。
「取り消したまえ、娘は決してそんなことはしない」
「それはどうでしょうか」
 だが彼も引き下がらなかった。
「現に娘さんはここにはおられないのですよ」
「それは本当か!?」
 彼は妻にそれを尋ねた。
「私も探しているのですが」
 アデライーデも弱っていた。
「ほら、御覧なさい」
 マンドリーカはそれを見て言った。本来ならここで皮肉っぽく言うのであろうが彼の気質と今の感情がそれを許しはしなかった。
「おそらく御自身の部屋ではないでしょうか」
 ここで彼は言った。
「何があったのかはわかりませんが」
「それは本当か!?」
 ヴェルトナーは彼、そして妻に問うた。
「ここにいないとなると」
 彼女は弱い声でそれに答えた。
「あの娘、気紛れだから」
「よし」
 彼はそれを聞いて頷いた。
「ではすぐに向かおう、いいな」
「はい」
「喜んで」
 アデライーデとマンドリーカは彼の言葉に頷いた。
「ではこれで決まりだ」
 ヴェルトナーはそう言うとマンドリーカに顔を向けた。
「一緒に来たまえ、いいね」
「はい」
 彼もそれを了承した。そして三人はその場を後にした。その後ろでは華やかな宴がまだ続いていた。
 
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