ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
休暇
アインクラッド第三十九層は、最も訪れるプレイヤー数が少なく、人口も少ないフロアの一つだ。
理由は大きく分けて二つある。
一つ目は、フロアのフィールドでプレイヤーが立ち入ることのできるところが少なすぎるのだ。
面積はそこそこなのだが、その大部分は通称《雲海》と呼ばれる雲の海でプレイヤーが入ることは叶わない。
普通の液体の湖にいる魚とは全く違う、通称《雲海魚》と呼ばれる珍妙な魚が釣れるが、それくらいだ。訪れる物好きなプレイヤーの大半は、釣り師だし。
どうしてこんな地形になっているのかと言うと、このフロアの十層も下からスタートした一大イベントのせいだ。
天使と悪魔が一族争いをする、と言うありがちなシチュエーションで、プレイヤーは当然と言うか天使側に付いて悪魔と戦ったのだ。
だが、そんな白熱したイベントも終わり、後に残ったのは異様に高い強さに設定されたMobが湧出する、立ち入ることのできないエリアが多いフロアだけだった、というわけだ。
二つ目は、プレイヤーが宿泊、あるいは購入することのできる建築物の値段が全フロアの中で一番高いのだ。
一番値段の安い《INN》の看板がぶら下がっている宿屋でも、一泊五千コルなどと言う詐欺だろう、と言いたいような値段なのだ。
しかも、プレイヤーホームと言えば、中世ヨーロッパのような城がフィールドのあちこちに点々とあると言う風なのだ。そのお値段はゼロが何個付くのか、想像するのも恐ろしい。
そんな馬鹿でかい城の一つを、レンは住まいと決めた。即決だった。
付き添っていたユウキが語るには、まるでおやつを買うがごとき気軽さだったらしい。
その決算ウインドウのゼロの多さにも驚いたが、購入ボタンを躊躇なく押すレンにも驚いたそうだ。
もっとポピュラーなフロアでも、とユウキが言ったのだが、超有名プレイヤーのレンにも、少なくない規模の半狂信的なファン(ショタコン)がいる。
彼らに言わせれば、可愛い外見に反して絶対的な強さを持っているというギャップが非常に萌える、らしい。
そんなレンが、一人で暮らし始めたと公になったらどんな騒ぎになるか、想像するのも恐ろしい。
人がいないここならば、しばらくは静かな生活を送れるだろうと思ったのだ。
そう言うと、ユウキとしては引き下がるを得なかった。
それからはや六ヶ月強。
現在の最前線は着々と進み、苦々しい思い出しか残らないクォーターポイントである七十五層もそろそろ見えてくる。
だだっ広い寝室で一人、レンは伸びをした。
無駄に豪奢な窓の外からは、心地よい鳥の声が入ってくる。
レンは映画にしか出てこないようなキングサイズのベッドから飛び降りて、テクテクと窓際に行き、閉められていたそれを開け放つ。
どんどん深まっていく秋の風と日の光が、そよりとだだっ広い部屋の中に入ってくる。
それに髪を軽くなびかせながら
「んー、今日もいい天気」
レンは言った。
右手を振ってメインメニューウインドウを呼び出し、装備欄に指を走らせる。
イヨから売られた、というか半ば押し付けられた形の黒猫パジャマから、簡素な木綿シャツに着替え、朝食をレンは作り始めた。
目玉焼きと、バターたっぷり塗ったパンというそこそこな朝食を終え、二秒でテーブルを片付ける。
そしてレンは深くイスに寄りかかる。
「ん~、今日は何しよっかなー」
あの狂気の日から早六ヶ月、安静と安寧を求めてここに居付いたのはいいが、正直言って飽きないといえば嘘だった。
もともと娯楽の少ないSAOのことだ。
できる暇つぶしと言えば、かなり限られてくる。ポピュラーなのは散歩か木登りかクエストだ。
が、そのどれもがもう飽きてしまった。
散歩(第一層をどれだけ速く往復できるか試みた、ソニックブームが起きた)も、木登り(何が面白かったのか今では解からないが、層の地面と次層の底まで飛んで落ちるのを繰り返していた)も、クエスト(情報屋のクエスト名鑑の九割がたを制覇した)も、全部。
「ん~」
レンは唸りながら、同じくアイテムストレージから取り出した煙管を吸い込む。
現実世界ならば、PTAが警察のおまけを引き連れてすっ飛んできそうな光景だが、幸いこの世界ならばそれを咎める者など居ない。
味だっていいし。
鮮やかな輪っか状の煙を立て続けに発射し、レンは何気なく部屋を見渡す。
意外にも整理整頓された部屋のあちこちには、衝動買いと明らかに分かる安っぽいお土産じみた物が転がっていた。
その中にレンはあるものを見つける。
「ああ~!これがあったかー」
そう言ったレンが手にしたそれは、結構立派な釣竿だった。
これは、ずいぶん前に買って忘れ去られていた物だった。
《釣り》スキルも取ろうかと思ったのだが、基本的に釣りスキルは筋力値を優先し、敏捷値はあまり重視されないことから放っておいたのだ。
そういえば、ここの所魚を食べていないことも思い出す。
たまにはNPCの店で売っている種類以外の《雲海魚》も食べてみたい。
餌は………途中で買ったらいいだろう。
「よ~しぃ、んじゃ行こっかな!」
レンは少しだけ重い釣竿を肩に乗せ、手近な釣りスポットに向けて歩き始めた。
一時間後。
「ぜんぜんまったく何にも釣れない…………」
天気は一片の曇りも無いピーカン。秋も深まってきたとはいえ、ここ第三十九層の気候は基本晴天と気温が高い。
汗があごをツーっと垂れていく。
あれから時計の長針がくるりと綺麗に一回転したくらいの時間が過ぎただろうか。
その間、どう言う理屈かは解からないが、真っ白な雲の上に浮いているウキは、ぴくりともしない。
それどころか、うららかな日差しとのんびりとした空気も相まって、徐々に眠気が襲ってくる。
レンは大きなあくびを一つして、ためしに竿を引き上げてみた。
当然ながら、糸の先端には銀色の針が空しく光るのみだ。付いていたはずの餌も、欠片も残っていない。
この釣りスポットで釣れる魚は、かなり多い。
相当難易度が高い魚もいるが、スキル熟練度三〇そこそこで釣れる恐ろしく簡単な魚もいる。
ちなみに大昔とはいえ、一時期上げていたレンの釣りスキルは三〇〇近い。
大物ほど高望みはしないが、何かが掛かってもいいと思う。
「………………………あ~あ」
小さくレンはため息をつくと竿を傍らに投げ出し、これにかこつけて日向ぼっこでもしようかと思った。
水面ならぬ雲面は、当然ながら真っ白で何も見えない。が、反射する日光は心地よく眠るのにぴったりだ。
ごろんと横になったとき、レンの耳が何かを捉えた。
それは紛れも無く――
浮いていたウキが沈む音。
「来たァァーッ!」
がばりとレンは起き上がり、ぴくぴく動いている竿を勢いよく握りなおす。
浮きが沈んでいる深さから言っても、かなりの大物だ。
――こりゃあ、今晩はご馳走だな。
そんなことを思いながら、早くもどんな料理にしようかと考え始めたレンは、大変重要なことを忘れていた。
それは、こんな深さまで浮きを沈める大物が一瞬でも喰いついたならば、放って置いた竿など一瞬でなくなってしまうことに。
「ぬううッ!……重いいィーッ!」
かなりの大物が釣れたのか、竿はびっくりするくらいに重かった。
全力でレンが力を込めて踏ん張っても、ぴくりとも動かないくらいに。
これ釣れるのかなぁ、などという情けない思考が鎌首をもたげ始めた時、やっと釣り糸は不穏な軋みを響かせながら、ゆっくりと上昇を開始した。
そしてその格闘が開始してから、数分後。
「ファイトー、いっぱァーっつ!!」
なぜだかお約束のような気がして叫んだレンの掛け声と、ざっぱあぁァァー……、という音とともに水面から浮かび上がったのは――
真っ白な髪を持つ、純白の少女だった。
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「うんうん、今回はまぁ、挟み回かな?」
なべさん「いえす、あいどぅ」
レン「なぜ英語……」
なべさん「まぁ、次編への繋ぎの回といってもいいって回ですねー」
レン「いよいよ登場ってことかな?」
なべさん「ん?何が?」
レン「メインヒロイン」
なべさん「いえす!!読者の皆様お待たせしました!だけど、俗に言う裏話とかはまた次回ということで!」
レン「はいはい、ではお便り紹介いっちゃおうかな?」
なべさん「いいともー!」
レン「月影さんからのお便りです。前話で、僕が六王を抜けたから壊滅するフラグかなってさ」
なべさん「あぁ、これですね。もう先にネタバレしときます。レンくんが抜けた六王第三席には、《黒の剣士》キリト様が入ったのです、ハイ」
レン「あー、まぁ当たり障りのないとこだよねぇ。強さもあるし、カリスマ性だってあるし、ハーレム持ってるし、妻も持ってるし………」
なべさん「リア充死ねッ!!」
レン「……………………はい、自作キャラ、感想を送ってきてくださいね~」
──To be continued──
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