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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
  全てへの岐路

軽やかな鳥の鳴き声が聞こえた気がして、レンはゆっくりと目蓋を開けた。

「………ん………………?」

ついで、ことことと言う正体不明の音が聴覚をくすぐる。そして、なにやら良い香りも漂ってきて、鼻腔を刺激する。

そんな中、レンは目を覚ました。

「…………………………………?」

ゆっくりと周囲を見回す―――間もなく視界を塞がれ、なにやら柔らかいモノが突進してきた。

「レンー!!」

「………ユウキ……ねーちゃん……………」

追突してきたユウキは、泣いていた。悲しくて、泣いていた。嗚咽を洩らすくらいに、泣いていた。

安堵して、泣いていた。

「…もぉ………心配を、かけないでよぉ…………」

「…………………ごめん」

泣きじゃくっているユウキの肩越しに、改めてレンは室内を見る。

ここはもう見慣れた、アインクラッド第三十四層主街区【ライレンス】にある、ユウキ率いるギルド【スリーピングナイツ】のギルドホーム。そのリビングである。

だが、普段ならば広いと感じるそこは、今では少し窮屈に感じてしまう。

なぜならば、いつもはよっぽどのことがない限り揃わないギルドメンバー、シウネー、ジュン、ノリ、テッチ、タルケンがいるのだ。

そして、先刻からずっと続いていることことと言う音と、芳しき匂いの源に──

「………シゲさん……………」

「目が覚めて本当によかった、レン君」

そう言ってシゲさんは、目の周りに刻まれているしわを深くし、心から嬉しそうに笑ってくれた。

その手元には匂いと音の源である、いつもシゲさんが背負っている大きな大きな鍋が鎮座している。

そこまで見て、レンはいまだ嗚咽を洩らし続けているユウキの肩を叩いた。

「ユウキねーちゃん……」

「うん………うん………」

ごしごし目を擦りながら離れたユウキの肩を、もう一度レンは軽く叩き、手近にいたシウネーに問いかける。

「僕………どうなったの?」

「気絶してたのさ」

その問いには、ジュンがにかっと笑いながら答えた。

視界の隅では、タルケンも泣きじゃくっていて、それをノリが茶化すと言う図が展開されている。

「うっうっうっ……本当に良かった…………」

「タルぅー、泣くなよみっともない」

それを完璧に無視し、シウネーが言った。

「レン君、シゲクニ様が気を失ってたあなたを運んできたときは、息が止まるかと思いましたよ」

「かっはっは、《様》なんて止めてくれい、シウネーちゃん。わしはそんなに偉くない」

からから笑いながらも鍋を煮込む手は止めないシゲさんに、レンは向き直った。

「ありがとう、シゲさん」

かっはっは、とか笑いながら、頭を掻いて照れていたシゲさんは鍋を煮込んでいた手を止めると、さらに煮込んでいたシチューを盛った。

ほれ、と軽い声と対照的に、目の前に置かれた皿になみなみと入ったクリームシチュー(のようなもの)は相当ランクが高く、料理人の料理スキルの高さが伺える。

ここまでとは言わないが、せめて食べられるものを作ってもらいたい、と横でもう早速食べている我が従姉に言いたい。

レンも早速スプーンを手に取り、一口啜る。

「お、美味しい!」

美味だった。濃密に煮込まれた肉や野菜が、繊細なハーモニーを奏でている。

しかもそれらが、純白のクリームでより引き立てられている。

SAOにおける食事は、オブジェクトを歯が噛み砕く感触をいちいち演算でシミュレートしているわけではなく、アーガスと提携していた環境プログラム設計会社の開発した《味覚再生エンジン》を使用している。

これはあらかじめプリセットされた、様々な《物を食う》感覚を脳に送り込むことで使用者に現実の食事と同じ体験をさせることができるというものだ。

もとはダイエットや食事制限が必要な人のために開発されたものらしいが、要は味、匂い、熱などを感じる脳の各部位に偽の信号を送り込んで錯覚させるわけだ。

つまり現実のレン達の肉体は、この瞬間も何を食べているわけでもなく、ただシステムが脳の感覚野を盛大に刺激しているだけにすぎない。

だが、この際そんなことを考えるのは野暮と言うものだ。今舌の上で感じている、最高の美味は間違いなく本物だ。

シゲさんを除いた全員は、ただ大皿にスプーンを突っ込んでは口に運ぶという作業を黙々と繰り返した。

それを見てシゲさんが、お茶を飲みながらからからと笑う。

そんな、あの異常な空間が嘘だったかのような、のんびりとした時間もユウキの放った言葉でピシリと止まる。

「シゲさん、これホントに美味しいね!ボクも今度、作ってみるよ!」

時が、止まった。

あのシゲさんを含めた、全員がいっせいに顔を逸らした。レンの首が急な動きで嫌な音を立てたが、それすらも気にせず逸らした。

自らの生命を守るために。

命が惜しかったから。










やがて、きれいに──文字通りシチューが存在した痕跡もなく──食い尽くされた皿と鍋を前に、皆が深く長いため息をついた。

「「「「美味しかったぁ~」」」」

げふっとジュンが行儀悪くゲップをし、シウネーにたしなめられる。

それを笑いながら、レンはぽつりと隣で同じく笑っているシゲさんに話しかけた。

「……………シゲさん」

「ん?何じゃ、レン君」

「…………………………僕、前線から離れようと思う」

突然のレンの告白に、シゲクニの目が驚きに少しだけ見開かれる。ユウキ達も完全に驚きで停止している。

「…………そう…か」

ただ一言、シゲさんはそう言った。そして、先刻までの好々爺といった風の目の眼光を鋭くしてレンを見る。

「レン君。今言った言葉の意味は本当に解かっているんじゃろうな?」

もちろん解かっている。

前線を退く、ということはつまり、《六王》を退く、ということだ。

しかし、アインクラッドの解放の象徴であり、全プレイヤー達の象徴でもある《六王》がそう簡単に辞めると、《六王》の神聖性と象徴性が薄れてしまう。よって《六王》からの脱退は原則として、死ぬことくらいだ。

例外はかの《PoH》や《フェイバル》くらいだと思う。

それでも、レンは頷いた。力無く。疲れ果てたように。

そのレンの瞳を数秒間シゲクニは見ていたが、やがて黙って頷いた。

「………………よし、わかった」

「だけどシゲさん――」

ユウキが口を挟む。

「抜けるって、無理だよ。ヴォルティス卿が認めるはずがない」

ユウキのその言葉にシウネーを初めとする、スリーピングナイツの面々もうんうんと頷く。

数秒間熟考したシゲさんは、口を開く。

「………ユウキちゃんは《六王》原則第十八項は知っておるかの?」

「第十八項?えーと………」

言い淀んだレンに代わって、背後のシウネーが少しだけ顔を厳しくして淡々と言った。

「【《六王》は、原則として他の《六王》が認める以外のデュエルを禁ず】」

「その通りじゃ。ではなぜそんなことを制定せねばならなかったのかな?」

「それは――」

そこでレンは気付く。

「まさか――」

にやりとシゲさんは笑った。

「気付いたようじゃな」

「《六王》が万が一にも負けたときに、《六王》全体の神聖性が無くなっちゃうからだね」

「その通りじゃ。この十八項を無視し、しかも負けた時、勝った相手はどうなると思う?」

「…………勝った相手が、新たな《六王》になる…………………?」

恐る恐る言ったユウキの言葉に、シゲさんは黙って頷いた。










翌日。

例により、アインクラッド第六十一層、《尖白塔》の六王会議室。

「出て行くがいい」

そう言った。ヴォルティス卿が重苦しく。

それに相対するレンは、どーしてこんなことになったんだろう、と逃避的な思考に思いをはせていた。

まあ、ここまでの経緯を簡単に説明すると、こういうことだ。

昨日、シゲさんに六王脱退のための裏技を教えてもらった。が、いざそれを実践しようとなると大いに悩んでしまう。

まず、誰を六王にさせるか。

これはまあ、特別言わなくても解かるだろう。六王には常に責任や重圧といった様々なプレッシャーに悩まされる。

並大抵の人間ならば心が折れるだろう。だから、手当たりしだいと言う訳にもいかない。

次に、どのようにしてその人物に協力を仰ぐか、だ。

仮にもレンも六王の一角だ。辻デュエルなどで負ける確率なんて、万が一にも無い。となると思いつくのは、俗に言う八百長くらいだ。

レンとその相手が示し合わせ、レンが観客に負けたように見せかける。だが、そこまでして六王に入りたい者など、ただの目立ちたがり屋だ。

このあまりにも大きな壁にぶつかり、レン達の思考はストップした。

とりあえず、方法はわしが考えておくから皆はもう寝なさい。というシゲさんの声とともに一応は解散したのだが、妙案は思いつかずにいた。

そして夜が明けた翌日。

荒々しいノックで叩き起こされたレンがドアを開けると、そこには屈強な男達が。

ついて来い、と言う男達に連れられ、もとい連行され、たどり着いたのは《尖白塔》。

そして放り込まれるように入れられた最上階の、六王会議室でヴォルティスが放った言葉で冒頭に戻るわけだ。

いまだ状況が把握できてないレンは、思わず周囲を見渡す。

いつもの円形テーブルにはレン以外のメンバーが全員そろい、一様にこちらを見ていた。

訳が分からず、思わずシゲクニを見る。

シゲさんは深い年輪の刻まれた顔をにこりと笑わせ、しっかりと頷く。

その両隣に座るテオドラとユウキもウインクする。

「…………???」

意味が解からず、クエスチョンマークを複数頭上に浮かばせているレンに構わず、ヴォルティス卿は素っ気無く言う。

「卿は先の討伐戦で一人、全体への利益を考察せず、敵首領との戦闘を試み、戦線を混乱させた。よって、卿は本日より六王を解任する」

「……………………!!」

ハッとしてレンは改めて、シゲさんを見た。

通称《老僧(ろうそう)千手(せんじゅ)》は、ただ穏やかに微笑んでいた。

そして、ヴォルティス卿さえも重苦しいオーラの向こうで少しだけ笑っていた。

そのそれぞれの笑顔を見て、レンは全てを理解した。

前述したとおり、六王からの脱退は至難を極める。だからヴォルティスが言ったような、敵大将と一騎打ちみたいなシチュエーションになったところで、脱退なんてあるわけが無い。

だいたい、そのために設立されたのが六王というシステムなのだ。しかも追記するとしたら、あの日、レンがした助言によって助かった命は少なくないはずだ。

感謝される覚えはあるが、脱退させられるような覚えは無い。

つまり、そう言うことなのだ。

脱退させられるような理由など無いのに、脱退させられる。

シゲさんの根回しがあることは火を見るより明らかだ。おそらく、そのことは他のメンバーも認めているのだろう。

だが、世間体もあり、もっともらしい大義名分を付けなければならなかったのだ。

ここら辺は、政治的な見解。

考えたのは、シゲさんの【風魔忍軍】サブリーダー、ツバキあたりだろうか。

そうとわかったら、話は早い。

レンは誰が見てもバレバレな重苦しい顔をし、

「はい、解かりました」

言った。

心の中で、精一杯の礼を言いながら。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「繋ぎの回か」
なべさん「その通り。でも抜けられない回だぜ?」
レン「ウーン、堅っ苦しい話ばっかで頭に入ってこなかった」
なべさん「まぁねぇ…………」
レン「はい、気を取り直して、お便り紹介コーナー行っちゃうよ♪」
なべさん「あーいっと」
レン「月影さんからのお便りで、オリエピ希望!だってさ」
なべさん「コラコラはしょりすぎだ。追伸も、ちゃんとあるだろ」
レン「えっ?」ガサガサカサカサ
レン「ないよ?」
なべさん「えっ、マジで?スタッフー!」
スタッフ「あっ、すんませーん。書類不備でしたー!」
レン「あいよー……っと、何かさ、前回後半の《真理》うんぬんが、某錬金術師アニメみたいだったってさ」
なべさん「ぐあー、やっぱり来たか!」
レン「あんな変な設定を持ってくるからだ。んで、どうなの?やっぱり原作尊重?それともハガレン?」
なべさん「……………………………じ、自作キャラ、感想をどしどし送ってきてください!!」
レン「あ、逃げた」
──To be continued── 
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