八条学園騒動記
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第百十七話 アナコンダその四
「あんなに優しくて可愛いのに」
「可愛い、ね」
「慣れかしら」
「家族だからじゃないの?」
皆彰子の言葉にまた言うのであった。
「だから慣れていて自然になっていて」
「それかしら、やっぱり」
「五十年生きてるんでしょ?もう」
「七十歳よ」
だが彰子はこう訂正するのだった。
「ひいお爺ちゃんが買ってね。それからだから」
「それからなの」
「ひいお爺ちゃんに聞いたけれど」
彰子の曽祖父はまだ生きているらしい。かなりの高齢なのはわかる。
「最初は数センチしかなくてね」
「数センチ?卵じゃないの?」
「アナコンダは卵産まないよ」
彰子がクラスメイトの何人かに答えた。実はアナコンダは蝮等と同じ卵胎生なのである。どの蛇も卵を産むというわけではないのである。
「だから。それでね」
「だから数センチだったの」
「うん。それは今はね」
「二十メートルかあ」
「大きくなったわね」
それが大蛇というものである。歳を経るにつれ大きくなり遂にはそこにまで達するのである。何でも最初は僅かなものなのである。
「少しずつ大きくなっていったんだって」
「何十年もかけてね」
「うん。けれど」
だがここで彰子は。ふと寂しい顔をするのであった。
「これ以上はないんだって」
「これ以上はって?」
「何が?」
「もう大きくならないって言われたの」
その寂しい顔での言葉であった。
「もうね。これ以上はね」
「まあそれだけ大きくなればね」
「流石にね」
皆話を聞いてそれが当然だと思った。しかしどうやら彰子だけはそうは思っていないのであった。それを言葉にも出して言うのであった。
「もっと大きくなって欲しいわ」
「もっとって」
「二十メートルあるじゃない」
「三十メートルは欲しいの」
「幾ら何でもそれは無理だよ」
「ねえ」
皆また顔を見合わせて言うのであった。
「三十メートルはね」
「そこまで大きいアナコンダはいないわよ、流石に」
「そう思うけれど」
実際そうだとは言い切れないのが宇宙の広さであり恐ろしさである。何しろ地球ではいなくなった生き物が他の惑星では普通にいたりするからだ。恐竜にしろそうである。
「そこまではね。やっぱり」
「ならないわよ」
「多分だけれど」
「それはね」
何か今一つ自信のない発言もあった。だがとりあえずはそこまで大きなアナコンダはいないということで結論となったのであった。
しかしそれでも。話は続くのだった。
「とりあえずそのエリザベスだけれど」
「うん」
「よく懐いているのね」
今度の皆の彰子への問いはこれであった。
「彰子にも」
「懐いているんじゃなくて家族よ」
だが当の彰子はこう皆に答えるのだった。
「私達。だから仲がよくて当たり前じゃない」
「家族なんだ」
「そう、家族よ」
このことは何度でも言って強調するのであった。
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