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八条学園騒動記

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第百十五話 温かい氷その四


「というわけなのよ」
「ふうん、そこでは答えてくれなかったんだ」
「園長先生」
「それから何度か御聞きしたわ」
 七海はこのことも皆に語る。
「何度もね。けれどね」
「答えてくれなかったと」
「そういうことね」
「ええ、そうなのよ」
 やはりそうだった。ありのままを皆に話していた。
「結局。今までね」
「それでも今はどうなんだ?」
「今って?」
「だから。今はだよ」
 マチアはそのことをダイレクトに七海に尋ねてきていた。
「今の御前は。どうなんだ?」
「その絆について?」
「ああ。わかったか?」
 本当にダイレクトな問いだった。
「今は。どうなんだ?」
「そうね」
 その問いに少し間を置いてから答える七海だった。
「まあ。わかったって言えばね」
「わかったのか」
「少し位だけれど」
 言葉には少し謙遜もあった。
「わかったわ」
「そうか」
 マチアは今の七海の言葉を聞いてまずは納得した顔になって頷いた。そうしてそれからまたその七海に対して言うのであった。
「それならいいがな」
「絆・・・・・・その時に少しはわかったのかしら」
 自分で首を傾げさせる七海だった。
「結局のところね」
「あれ?彰子と妹さんを見て?」
「やっぱり?」
「まあそうなるわね」
 そのことを自分でも認める。
「結局のところはね」
「やっぱりそうなの」
「あの二人からだったんだ」
 皆もそれを聞いて納得した顔で頷くのだった。
「それであんたもわかったのね」
「得るもの大きいじゃない」
「その時はわからなかったわ」
 だが七海はその時のことはこう話した。
「それも全然ね」
「当然だな」
 それを聞いても特に驚かないマチアだった。
「それはな」
「当たり前なの」
「その時はまだ幼稚園児だろう?」
「ええ」
 マチアがまず言うのはそのことだった。
「それだったらな。わからなくて当然だ」
「言われてみればそうだよね」
「そうね」
 皆もマチアの言葉に頷くのだった。彼の言葉に納得したのである。
「子供でわかることってやっぱり少ないから」
「気付くこともないしね」
「だからだ。子供だったからだ」
「その時わからなかったのは」
「後になってわかる」
 彼はこうも言うのだった。
「後でな」
「後でなのね」
「そしてそれが今だ」
 次には今だと言い切ってきた。
「今だ。今わかったな」
「ええ、確かに」
 そして七海も彼のその言葉に頷くことができた。 
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