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八条学園騒動記

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第百十五話 温かい氷その五


「何となくだけれどね」
「見たことや聞いたことは忘れていても心の奥底に残り続ける」
 無意識にまでついて語る。マチアの話は今回はかなり深いものになっていた。
「それはその時になって」
「出て来るの」
「覚えていてもわからないこともその時になればわかる」
 こうも言うマチアだった。
「御前にとって今のその時だったということだ」
「そういうことなの」
「そう。そして」
 彼はさらに言う。
「二人の絆だな」
「それね」
 話はここで彰子と明香のことに戻った。
「そっちなのね」
「御前のことはおおよそわかったからな」
 こう答えるマチアだった。
「だからだ。次は」
「本題ってわけね」
「その通り。それで二人はどうなったんだ?」
「これがね。また凄かったのよ」
「凄かった!?」
「どういうふうに?」
「ちょっと待って」
 マチアだけでなく皆が聞くところで七海は少し時間を置くのだった。そして懐から缶ジュースを出してきた。見ればそれはミルクティーである。
「ちょっと。喉が渇いたから」
「一杯ってわけね」
「そういうこと。それにしても」
 ここでその紅茶を美味そうに飲みながら皆に語る。
「この紅茶美味しいわね」
「ああ、三時の紅茶ね」
「それ飲んでるんだ」
 皆ここで彼女が何処の紅茶を飲んでいるのかわかった。日本ではわりかし有名なメーカーが製造している紅茶のブランドだ。その味は甘みが強いことで知られている。
「その紅茶」
「確かに美味しいよね」
「それもホットが一番よ」
 七海は自分から言って来た。
「寒い時はね」
「うっ、確かに今結構」
「寒いし」
 皆ここで教室が結構冷えてきているのに気付いた。学校の教室というものは人が集まる為結構以上に暖かいものだがそれでも限度がある。ましてや今はヒーターを切ってしまっていた。
「ヒーターつけましょう」
「そうだね」
 とりあえずヒーターをつける。その間に七海はもうホットミルクティーを飲み終えてしまっていた。飲むのはかなり早かった。
「さて、と。身体もあったまって喉も潤ったし」
「話の続きね」
「ええ。それじゃあ」
「御願い」
 皆七海に対して言う。七海はそれを受けてまた話しはじめた。
「それでね。道中はね」
「どうだったの?」
 帰り道。彰子はあくまで慎重だった。信号はちゃんと見て普段歩いている時でも周りをよく見ている。ぼんやりとしているのにそういうことはしっかりとしていた。
「いいわね」
 先生はそんな彰子を見て感心した顔で頷く。
「彰子ちゃん、いいわよ」
「いいんですか」
「車が一番怖いから」
 先生が言うのはその通りだった。交通事故が子供にとって一番危険なのは何時の時代でも同じである。当然この時代の日本もだ。
 車道は勿論だが歩道も車が絶えない。だが彰子はそうした車に半ば無意識のうちに気付いてよけているのだ。その気配りが実にいいと先生は言うのだ。
「だからなのよ」
「そうですね。そういえば」
 七海も言われてそれに頷くのだった。
「私もよくお父さんやお母さんに言われるし」
「幼稚園もでしょ?」
「はい」
 また先生の言葉に頷く。
「先生もいつも言ってますよね」
「子供はね」
 先生はさらに優しい声になっていた。
「どうしても怖いから」
「怖い!?」
 これもこの時の七海にはわからない言葉であった。
「私達が怖いんですか?」
「ええとね」
 今の表現はわかりにくかったと反省する先生だった。それを自分でもわかってその言葉をすぐに訂正するのだった。中々柔軟である。 
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