八条学園騒動記
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百一話 博士の行いその六
「このエンペライザーでな」
「まあ街を破壊しないだけいいですけれど」
犠牲者は少ない方がいいというわけである。
「けれど。あの人泣くでしょうね」
「それを見るのもまた一興」
悪趣味である。
「何しろ天誅じゃからな」
「そんなにあの人が嫌いなんですか」
「大嫌いじゃ」
今度の返答はいささか子供じみていた。
「いじめをする奴も暴走族も暴力団も大嫌いじゃがな」
「嫌いなもの多いんですね」
「屑は好かん」
意外な博士の思考であった。
「人間生まれたからには壮大なことをしなければならん。詰まらぬ醜悪な行いは言語道断じゃ」
「だからっていってこの前いじめグループにしたことは」
「子娘達じゃったかのう」
当然ながらこの博士にはフェミニズムなどという思想はない。以前レディースのヘッドにコレラ菌を移してもがき苦しみ死んでいく様を最後まで見届けたことで女性人権保護団体が勇気のあることに博士の研究所まで抗議に来たが博士はそれに対して改造人間の群れを放つことで対応としたのである。
「だから言っておろう。屑は嫌いなのじゃ」
「人間爆弾にするというのは」
「些細なことじゃ」
博士の改造にしては確かに随分大人しい。
「死ぬまでの恐ろしさを堪能させてやったんじゃからな。五人じゃったか」
「十人ですよ。前の前です、それは」
「ふむ。無駄な人口は増えんでいい」
博士の持論である。
「しかしのう。いじめは駄目じゃろ」
「駄目に決まってますけれど」
こんなことはもう言うまでもないことである。
「けれど。幾ら何でもですね、また麻酔なしで爆弾埋め込んでそこから彼女達を逃がして十日間死への恐怖に怯えさせるというのは流石に」
「何度見ても思うのじゃ」
博士は野上君の話をまた聞いてはいなかった。
「人間というものはのう」
「僕はいじめの話をしているんですけれど」
「あれじゃ。死ぬ間際になるととかく騒いでもがき苦しんで何があっても助かろうとするのう。特にああした屑はそうじゃな」
「しかも爆弾埋め込んだこと宣伝までして」
「疎外されているという恐ろしさも味あわせてやる為じゃ」
こうした残忍さもあるらしい。
「いじめている奴というのは痛みを知らぬ奴じゃ」
「それはそうですけれどね」
一応一理ある博士の言葉であった。
「しかし。それでも」
「残酷には残酷じゃ」
博士は言い切る。
「屑はそうやって死ぬ恐ろしさと苦しみを最後まで骨身に教えてやるのじゃよ。ついでに真の孤独もな」
「友達どころか家族にまで疎外されて死んでいましたよ」
「よいことじゃ」
それも承知の博士であった。
「真の孤独になったら人間というものは壊れやすいものじゃ」
「おまけに死への恐怖もありますしね」
「どうじゃ。それで」
博士の得意げな言葉は続く。
「あの無様な死に様は。よかったじゃろうが」
「改造人間にした方がましでしたよ」
「改造人間じゃぞ、一応は」
博士はこう力説する。
「爆弾を埋め込んだんじゃからな」
「しかしやったことがそのままどっかの悪役ですよ」
「悪!?褒め言葉じゃ」
やはりそうなのだった。この博士にとっては。
「屑を始末してやっただけじゃからな」
「全く。それについても殺人罪で逮捕状来ていますよ」
当然であった。
「明らかに問題ですよ、人間爆弾は」
「どうせなら暴力団の事務所に放り込んで爆発させるべきじゃったか」
何処までも人権思想のない博士であった。
ページ上へ戻る