八条学園騒動記
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第百話 天本破天荒博士その一
天本破天荒博士
この頃八条学園内にある警察署では緊張した空気が漂っていた。あまりにも広大な学園の為に内部に警察署まで置かれているのである。その為治安はいい。
緊張は署長室にまで及んでいた。署長の机に座わるカイゼル髭の男の前に数人の制服姿の男集まり誰もが深刻な顔を見せてそれぞれの口で話をしていた。
「やれやれ、またしでかしそうなのか」
「はい、残念ですが」
「またです」
「またか」
そのカイゼル髭の署長は部下達のその言葉を聞いてまずは大きく嘆息したのであった。そのうえで諦めたように言葉を出すのである。
「最近少しは大人しいと思っていたのだがのう」
「あの、署長どうして」
「何故我々が」
「んっ!?何が言いたいのじゃ」
不満げな顔を見せる部下達に対して問うた。
「我々の所轄はこの八条学園内ですよね」
「確かそう聞いていますが」
「その通りじゃが」
これについては署長もその通りだと述べた。
「それがどうかしたのか?今はその話ではないと思うが」
「どうしてあの博士のことまで管轄に?」
「かなり不満なのですが。どうして」
「くじ引きで決まったから仕方ないじゃろう」
署長も不満を露わにした顔で彼等に答えた。髭が不機嫌に歪んでいる。
「何処があの博士に対するかな。残念じゃが」
「くじ引きですか」
「そんなもので我々の運命が決められたのですか」
「運命は所詮運じゃ」
諦めの言葉であった。それが真理だとしても。
「結局のところはな。くじを引いた奴を怨むしかない」
「そのくじを引いた人は誰ですか?」
「わしじゃ」
署長はここで自分を指差した。
「わしじゃ。わしが引いたのじゃ」
「では署長、ここは」
「何かあった時は是非署長が責任を」
「覚悟はしておる」
意外にもいさぎのいい返事であった。
「そうでなければ署長なぞやっておられるか」
「その御言葉と御覚悟は立派です」
「確かに」
部下達もそれは素直に認めた。
「ですがそれでも」
「あの博士ですよ」
「そう、それなのじゃ」
彼はまた髭を顰めさせたのであった。存外よく動く髭である。
「とにかく何かしてきそうなのじゃな」
「はい、そうです」
「残念ですがその通りです」
部下達は認めたくないことを認める顔でうんざりとした調子で述べた。心からあの博士のことが嫌で嫌で仕方がないのがはっきりとわかる。
「あの不気味な研究室に篭って何かしています」
「ネットでも怪しいものを買い込んでいるようで」
「街に出ても何かおかしなことを」
「今のうちに捕まえておくべきか?」
署長は真剣な顔で部下達の言葉を聞き終えて述べた。
「あの博士は。別件逮捕でも何でもして」
「別件逮捕といいますか明らかに挙動不審ですし」
「あの姿だけでも」
博士の出で立ちについても話される。
「何しろ夏の暑い中でも白いタキシードに黒いマントですよ」
「しかも靴は白エナメル」
確かに普通は有り得ない格好である。
「乗馬鞭まで持っていますし」
「しかもその鞭が電気鞭というじゃないですか」
言うまでもなく所持が禁止されているものである。中央政府の法律で許可なく所持していると刑事犯罪に問われる危険なものである。
「しかも何億ボルトもの高圧電流が流れるとか」
「それで星一個は楽に壊せるとか」
「話せば話す程危険な博士だのう」
「危険っていうかですね」
「ほぼ人間じゃないような」
「ふむ。確かにな」
部下達の言葉にあらためて頷く署長であった。
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