八条学園騒動記
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第七十九話 本番その三
「それでいよいよ今日だけれど」
「そうね」
「初対面だけれど」
二人は笑ってティコの言葉に応える。ティコはロッカーの一つを開けてそこに自分の荷物を入れている。それから服を脱いで着替えだしていた。
「着替えながらで御免なさいね」
「ああ、それはいいわよ」
「更衣室なんだし」
「有り難う。じゃあ今日は御願いね」
「わかってるわ」
「初心者で悪いけれど」
三人は話を続ける。その横では七海がにこにこと笑って三人の話を見守っている。
「それでもいいわよね」
「大歓迎よ」
ティコはここでも笑うのだった。
「そんなの関係ないわよ」
「そう言ってくれると有り難いわ」
「それに話は聞いているし」
ティコはこうも言うのだった。
「話って?」
「毎朝練習していたんでしょ、二人共」
「それ知ってるってことは」
「あんた」
二人はその話の流れから七海を見た。彼女はここでもにこにこと笑っていた。
「そういうこと。ちゃんと話しておいたのよ」
「そうだったの」
「それで知っていたんだ」
「バスケ部とテニス部のエースってころもね」
それも知っているティコであった。いい意味でも悪い意味でも有名人の多いクラスであるが二人の運動神経はよく知られていたのである。
「聞いているわよ」
「まあバスケとサーフィンは関係ないけれどね」
「テニスも」
二人はこう言葉を返した。
「それでもやってみたら楽しいし」
「楽しめたわ」
「そうでしょ。サーフィンって病み付きになるのよ」
ティコの言葉は続く。
「私も最初は怖かったけれどね」
「怖かったの」
七海がそれを聞いて彼女に声をかけてきた。
「初耳よ、それ」
「あれ、言わなかったっけ」
ティコはそう七海に言葉を返した。
「最初は泳げもしなかったって。言っていたけれど」
「かなづちだったの」
これも七海にとっては驚きだった。どうやら彼女は最初からできるタイプではないらしい。それもまた二人にとっては好感の持てるものであった。
「それがね。やっているうちにできるようになったのよ」
「そうだったの」
「ええ。それでこの学校に入ってサーフィン部に入ってね」
男子サーフィン部は最初からあるのだ。彼女はそこに入ったのである。
「マネージャーしながらやっていて人集めてこうやって」
「ふうん」
「それで遂に今日ってわけなのよ」
ここでまた笑うのであった。
「苦労もあったけれど遂にって感じね」
「じゃあその苦労実らせないとね」
「そうね」
パレアナとコゼットは笑顔で彼女に言う。
「じゃあ行きましょう」
「時間よ」
「ええ。わかったわ」
ティコは二人の言葉に頷く。彼女が頷くと二人は立ち上がった。
「よし、行きましょう」
「ええ」
ティコは今度は七海の言葉に頷いた。
「いよいよって感じよね」
「そういうこと。行くわよ」
「了解」
こうしていよいよ顔見世であった。観衆に挨拶をしてそれから実演に入る。まずは他の部員達と七海、パレアナとコゼットが波に乗った。彼女達は無事実演を終えた。
「上手くいったわね」
「お互いね」
実演を終えたコゼットを七海とパレアナが迎える。二人と手を合わせる。
「朝練のかいがあったわよね」
「そうよね」
続いてパレアナと言葉を交えるのであった。
「上手くいったわね」
「思ったより軽く動けたっていうか」
「やっぱり練習していたからよ」
その二人に七海が言ってきた。
「身体を動かしていると憶えてくれるじゃない」
「ええ」
「確かにね」
二人は彼女のその言葉に頷く。
「それで練習してもらっていたのよ」
「まあそうでしょうね」
「それはね」
二人もわかっていることであった。伊達にそれぞれの部活エースになっているわけではない。
「けれど。予想以上だったわ」
「そんなに?」
「それもかなりね」
こう二人に言う。
「おかげでほら」
観客席を指差す。まだ拍手が鳴り響いている。砂浜みたいになっている途方もなく大きなプールと向かい合うようにして観客席が上にある。そこから拍手が聞こえている。
「皆満足してくれているし」
「そうみたいね」
「この拍手がいいわよね」
「そういうこと。さて後は」
いよいよラストであった。
「ティコだけれど」
「いけるわよね」
「勿論よ」
七海の返事は有無を言わせない程確かなものであった。
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