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八条学園騒動記

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第七十九話 本番その四


「だって彼女が一番の経験者だしね」
「そう、やっぱり」
「じゃあ安心していいのね」
「安心以上かもね」
 七海の声も顔も楽しそうに笑っていた。
「ひょっとしたらね」
「ふうん、そんなに」
「じゃあ見せてもらうわ」
 二人は彼女の言葉に頷いて自分達も観客になる。そうしてティコの演技を見守ることにした。その彼女がサーフボードを手にプールサイドに現われた。
「さて、はじまるわよ」
「遂にって感じね」
「さて、どうなるやら」
 三人は期待しつつ見守る。ティコは観客達の歓声を聞きながらプールの中に入る。まずはボードに乗って手で漕ぐだけだ。しかしそこに。
「えっ!?」
「何よあれ」
 パレアナもコゼットも声をあげずにはいられなかった。何とプールに。
「ちょっと七海!」
「あれはないでしょ!」
 二人はそう七海に対して叫ぶ。
「何よあの波」
「何メートルあるのよ」
 見れば二十メートルはある。とんでもない波だった。
「ビッグウェーブよ」
「ビッグウェーブ」
「そうよ」
 七海はこうパレアナに答えた。
「それがあの波の名前よ。このプールで一番高い波なのよ」
「あれが」
「あんなのを作り出せるプールなんて」
「多分ここだけでしょうね」
 答える七海の言葉は何時しか緊張したものになっていた。
「私も。話は聞いていたけれど見たのははじめてよ」
「そうだったの」
「けれど。やれるわ」
 それでも七海はティコを見て言う。既に彼女はサーフボードに乗っている。
「ティコならね」
「信頼しているのね」
「もちろんよ」
 ここでも言葉に迷いがない。
「だって。ティコだから」
「それだけで充分ってことね」
「そういうこと。だから」
 コゼットに応えながら言う。
「見ていましょう。彼女のサーフィンを」
「腹を括ってね」
「そうさせてもらうわ」
 二人も七海の言葉に頷いた。そうしてティコを見るのであった。既にティコは波に乗っている。その波の間を滑っていた。
「むっ!?あれは」
「波の輪の中を」
 見ればそうであった。波が降りるその時にできる波と水面の間。ティコはそこをくぐって通っているのであった。
「あんなことをできるなんて」
「やっぱり噂通りね」
「そうでしょ。けれどこれで終わりじゃないわよ」
「まだあるのね」
「ええ。ほら」
 プールを見るように言う。すると。
「なっ、また!?」
「波が!!」
 また波が来ていた。ビッグウェーブが。
「また来るなんて!!」
「しかも同じ大きさのが!!」
「今度は。また別のを見せてくれるわよ」
 七海はまた言うのだった。
「またなのね」
「そう、今度も見ものよ」
 七海はそう言って笑っていた。見るのを楽しんでいる笑みであった。
「凄いのが見られるからね」
「今のよりもね」
「そういうこと。ほら」
「んっ!?」
「ってちょっと!」
 ティコはボードに乗ったまま跳んでいた。そのまま波よりも高く跳んでいた。
「あんなに跳べるなんて」
「はじめて見たわよ」
「これで終わりじゃないわよ」
 七海がまた言ってきた。
「というよりかこれから本番だから」
「これからなのね」
「ええ、ほら」
 波の一番上に乗った。そこから。
 その波の上を進んでいく。降りていく波の上を。まるで何でもないように滑っていくのであった。 
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