八条学園騒動記
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第七十五話 明香の願いその三
「お家に帰ったら。どうかしら」
「いいわね、それって」
妹のその提案ににこりと笑ってみせてきた。
「ムースがいいかしら。それともプリン?」
「そうね。ムースなんてどうかしら」
明香はムースを提案してきた。ムースもまた二人の得意料理の一つである。これはいつも二人で作って楽しんで食べているものである。
「今日は」
「それで何のムースにするの?」
「苺のムースはどうかしら」
明香はそれを提案してきた。
「それで」
「いいわね、苺ね」
彰子の顔が綻ぶ。
「私苺大好きだし」
「私もよ」
明香も同じであった。彼女も彰子も苺が大好きなのだ。これも幼い頃から同じだ。よく二人で苺を食べてそのお菓子を作ってきているのである。
「苺は」
「じゃあそれでいいわね」
姉の言葉を受けて応えてきた。
「苺のムースで」
「家に苺あったかしら」
「確かなかったわ」
そう姉に答える。
「苺は」
「じゃあ買いに行こう、今から」
彰子は妹のその言葉を受けてすぐに提案してきた。
「今から行けば間に合うわよ」
「スーパーね」
「ええ」
そこでいつも買うのであった。
「それか商店街で。どうかしら」
「商店街だと黄色い苺があるわよ」
そうした種類の苺もあるのだ。他には紫もある。
「色はどうしようかしら」
「今日は赤がいいわ」
彰子はその時の気分に従ってこう述べるのだった。
「赤い苺が。それでどうかしら」
「わかったわ。それじゃあそれでね」
「赤いムースね」
結果としてそうなる。使う苺が赤ければ。当然ながら黄色い苺だと苺のムースでも黄色くなるのだ。紫だと紫に。実にわかりやすいものがある。
「わかったわ。赤で」
「明香は青が好きなんだったっけ」
妹の好きな色は知っている。それでこう尋ねてきたのだ。
「確か」
「いいえ」
その通りだが何故か明香はここではそれを否定する。そうしてそれから言うのだった。
「それは違うわ」
「あれ、そうじゃなかったの」
「私の好きな色は姉さんの色よ」
穏やかで清らかな笑みを浮かべての言葉であった。
「それは」
「私の色って」
「姉さんが青い時は青が好きで」
そう語る。
「赤い時は赤が好きなの。そうなのよ」
「私の色って」
「だって。姉さんと一緒にいられるから私があるんだし」
こうも言うのだった。
「だからなのよ」
「じゃあ。私もそうなのね」
妹の自分への想いを受けて彼女自身も言うのだった。
「明香の色が私の色なのね」
「多分。それじゃあ今は」
「赤は私達の色ね」
「そうね。赤いムース」
にこりと笑って妹に告げる。
「二人で作りましょう」
「わかったわ。食べるのは明日ね」
「そうね。今日作って」
段取りはもう頭の中にある。いつもお菓子を作っているからそうしたことは既に頭の中にあってそれに基いて動いているのである。
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