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八条学園騒動記

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第七十五話 明香の願いその二


「どうしたの?」
「さっきのことだけれど」
「クレープのことね」
「ええ」
 まずは姉のその言葉にこくりと頷いた。
「美味しかったわよね」
「そうね」
 そこから話ははじまる。
「とても。食べてよかったわね」
「満足したわよね」
「それでね。姉さん」
 その話の後でまた姉に問う。
「御願いだけれど」
「御願い?ああ、あれね」
 少しぼけたような言葉になっていた。おっとりしている彰子らしいと言えた。
「それがどうかしたの?」
「何を御願いしたのかしら」
 妹が姉に問うのはそれであった。
「よかったら教えてくれるかしら」
「ええ、いいわよ」
 またにこりとした笑みになった妹に頷くのであった。
「実はね」
「ええ。何を御願いしたの?」
「明香のことよ」
 そう妹に告げてきた。
「私のこと?」
「そうよ」
 その笑みのまままた言う。
「明香が幸せになれますようにって」
「私が」
「他に何を御願いするの?」
 その笑みをまだ続けての言葉だった。
「ないわよね」
「姉さん・・・・・・」
「明香は私のたった一人の妹なんだから」
「私が。たった一人の」
「それ以外の何だっていうの?」
 彰子の言葉は明香の心の中に直接響くものであった。彼女もそれを受けて次第にその驚いていた顔を穏やかな笑みに変えていったのであった。
「ずっと一緒だったんだし」
「有り難う」
 その穏やかな笑みで微笑んでみせてきた。
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
「言ったんじゃないわよ」
 彰子はそれは否定した。
「御願いしたのよ」
「そうね」
「そうよ。だから違うのよ」
 こう言うのであった。
「言うのと御願いするのは」
「そうね。そうよね」
「そういうこと。ところでね」
 彰子はまた明香に言ってきた。
「明香は何を御願いしたの?」
「私?」
「そう。何を御願いしたの?」
 それを妹に対して聞くのだった。自分が話したから次はそれであったのだ。
「明香は」
「私も同じよ」
 明香はその穏やかな笑みのままで彰子に対して言うのであった。
「それじゃあ」
「ええ。姉さんのこと」
 それを言うのだった。
「姉さんが何時までも幸せになれますようにって」
「私と全部一緒なんだ」
「不思議ね」
 今度の彰子の言葉はそれであった。
「同じなんて」
「そうね。ひょっとしたら私達」
 明香は言う。
「双子じゃなくてももう双子と同じなのね」
「そうね。同じなのね」
 彰子もそれに頷く。
「私達って。顔もスタイルも全然違っても」
「姉妹だからね」
 結論はそれであった。
「そうなるのね」
「そうね。姉さん」
 そうしてまた姉に声をかけてきた。
「これからだけれど」
「どうするの?これから」
「お菓子。作らない?」
 それを姉に提案してきた。 
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