| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

八条学園騒動記

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第五十四話 門が開いてその三


「どうやら」
「何かあったの?」
「ほら見ろ」
 そう言って二人の方を指差した。見ればとんでもないことになっていた。
「・・・・・・ってちょっと」
「ほら、大丈夫だろ」
「・・・・・・まあね」
 コメントがかなり引いている。何故ならテンボとジャッキーはいきなり出て来たキングコブラに見事に噛まれてしまっていたからだ。
「うわーーーーーっ、えらいのに噛まれたじゃねか!」
「ちょっと、何でこんなところにこんなのが!」
 噛まれても元気なままだ。しかし顔は真っ青になっている。流石にコブラなぞに噛まれては落ち着きたくても落ち着けない。とりわけいつも騒がしい二人なら尚更である。
「ほらな」
 ダンは騒ぐ二人を指差して冷静に述べる。
「少なくとも騒ぎは起こさなくなった」
「そうね。とりあえずは」
「けれどこれはこれで問題よ」
 アンがコブラに巻きつかれだした二人を見ながらコメントする。
「これはこれでか」
「幾らあの二人でもキングコブラに噛まれたら危ないわよ」
 キングコブラの毒は強いだけではないのだ。その巨大な姿からもわかるように毒の量もかなりのものなのだ。伊達に王者の名を冠しているわけではないのだ。
「どうするのよ」
「その時はあれだな」
 別の役者の出番であった。
「アンジェレッタ」
「呼んだ?」
 当然ながらアンジェレッタもいる。その小さな顔をダンに向けてきた。
「血清あるか?コブラの」
 毒に対する薬である。毒を弱めたものを馬に打ちその抗体から作るのだ。この時代の血清はありとあらゆる生物のものがありその効果もかなりのものになっている。
「コブラの?」
「そうだ。キングコブラな。二人分欲しい」
「うん、あるよ」
 返事はすぐに望まれるものが返ってきた。まるで魔法のように。
「はい、これ」
 ズボンのポケットから四リットルはありそうな巨大なボトルが出て来た。見ればそこにもう血清がたっぷりと入れられていた。
「これでいいわよね」
「ああ、悪いな」
「いざという時に備えはしておくものよ」
 相変わらずどうやって入れていたのか不明だが何はともあれテンボとジャッキーは一命を取り留めた。あれこれそんなことをしている間にセーラの待っている部屋に到着した。
「こちらです」
「どうぞ」
 先導をしていたラムダスとベッキーが止まった部屋の扉は漆黒のマウリア調の扉だった。皆その扉の前で姿勢や服装を正す。
「さて、と」
 いち早く身だしなみを整えたパレアナが声をあげた。
「いよいよね」
「そうだな」
 皆彼女の言葉を耳にして緊張を高める。既に全員身だしなみは整えている。
「いざ戦場へ」
「鬼が出るか蛇が出るか」
「さあ」
 ラムダスが扉を開いた。気付けばセーラはもういない。実は彼女は先にこの部屋にいるのだ。
 白い部屋だった。しかも広い。その広い部屋の中央に彼女はいた。
「お待ちしていました」
 マウリアの正装だった。褐色の肌に彫の深いマウリア人の特徴がその白い正装とよく合っている。その姿で一同を出迎えてきたのだった。
「ようこそ宴の場へ」
「お招き頂き感謝します」
 ギルバートが一同を代表して堅苦しい挨拶をする。
「八条学園二年S1組」
「只今参上しました」
「はい」
 セーラはにこりと笑って挨拶を受けた。見ればもう多くのテーブルの上に様々な料理が置かれていた。マウリアのものだけでなく連合各国の料理がそこにある。
「うわっ」
「これはまた」
 酒も当然ある。皆その料理の種類と量にまずは驚かされた。
「すげえな」
「流石って言うべきかな」
 そう言い合いながらそれぞれテーブルに向かう。そのままバイキングに入る。
 食べてみると味も最高だった。見事なまでの。
「美味いな」
「ああ」
「有り難うございます」
 セーラは彼等の言葉を聞いてまたにこりと微笑んだ。
「そう言って頂けるとシェフも喜びます」
「いやいや」
「だって本当に」
「これでメインディッシュは成功ですね」
「メインディッシュ!?」
「ええ」
 そのにこりとした笑みのまま答える。
「これはこれからのオードブルなのです」
「嘘っ」
 蝉玉はその言葉を聞いて思わず目を丸くさせた。
「だって豚の丸焼きまであるし」
「はい。それもオードブルです」
 何かとんでもない言葉が返ってきた。
「そこにある七面鳥の丸焼きも」
「むっ!?」
 丁度それを食べているスターリングがセーラのその言葉に顔を向ける。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧