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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第百四十六話 キモノオモイデニサヨナラ

                第百四十六話 キモノオモイデニサヨナラ
コロニーに拠点を置くハマーン。そこでデラーズ=フリートの月での戦いの結末を聞いていた。
「そうか、死んだか」
「はい」
報告するランス=ギーレンとニー=ギーレンが答える。
「デラーズ中将もガトー少佐も」
「立派な最後だったのだろうな」
「ええ」
二人はハマーンの言葉に応える。
「その通りです」
「最後まで戦場に立たれていたそうです」
「それは何よりだ。しかし」
ハマーンはここで言葉に険を作ってきた。
「かなりの数がここに戻っていないな」
「アクシズに向かう者も多いです」
「やはりな」
二人の言葉を聞いて述べる。
「グレミーめ、動くぞ」
「それでは」
「そうだ、こちらも戦闘態勢を整えよ」
ハマーンは言う。
「よいな、アクシズを攻めグレミーを倒す」
「わかりました」
「ミネバ様に逆らう者は許すわけにはいかぬ」
「ところでハマーン様」
「どうした?」
ランスの言葉に顔を向ける。
「グレミー=トトはギレン=ザビの子を自称していますが」
「それか」
「はい。それは偽りではないかと」
「いや、それは違う」
しかしハマーンはランスの言葉を否定してきた。
「違うのですか」
「そうだ。あの男はギレン閣下の血を引いているのだ」
「何と」
「確かギレン閣下は」
ランスだけでなくニーもそれを聞いて驚きを隠せない。ギレンは独身であり子供はいない筈だったからだ。隠し子かとも思ったがギレンは愛人を作るような男でもない。さらに奇怪であった。
「試験管だ」
ハマーンはこう述べた。
「閣下の遺伝子から作られたな。これでわかったか」
「成程」
「そうでしたか」
二人はそれを聞いて納得して頷いた。
「あの男がギレン閣下の子だたっとしても」
ハマーンはここで言う。
「ミネバ様がネオ=ジオンの主だ。よいな」
「はっ」
「無論です」
これはハマーンの立場を何よりも語るものであった。やはり彼女はドズル=ザビに与する者であった。それが変わることはなかった。
「それではだ。私は下がる」
「どちらへ」
「言うまでもなかろう」
彼女はそう二人に述べる。
「ミネバ様のところだ」
「左様ですか」
「それでは」
「うむ。それではな」
彼女は述べる。
「後は任せる」
「はい」
こうしてハマーンはミネバの所へ向かう。するとミネバは自分の部屋の中で一人ハマーンを待っていたのであった。
「来たな、ハマーンよ」
「はい」
ハマーンはミネバに優しい笑みを向けて応えてきた。
「お待たせしました」
「いや、いい」
しかしミネバはそのハマーンに述べる。
「ハマーンは忙しい。それはわかっている」
「申し訳ありません」
「しかしだ」
彼女は言う。
「それでもこうして私に会いに来てくれるのだな」
「私はミネバ様の為にいます」
ミネバのところに来て述べる。
「ですから」
「済まぬな。しかしハマーン」
「何か」
「御前は私がいなくても大丈夫だな」
「といいますと」
その言葉にふと顔を上げる。
「いや、私はずっと御前の側にいてくれた」
「はい」
「そのことは有り難い。しかし御前は御前ではないのか」
そうハマーンに問う。
「私のことばかり気にかけてくれて。御前は自分のことを隠しているのではないのか」
「ミネバ様」
自分を気遣うミネバにまた声をかける。
「私はミネバ様の僕です。それでどうして」
「好きなようにしていいのだ」
しかしミネバはさらに言う。
「御前は御前、私は私なのだからな」
「ミネバ様・・・・・・」
「私には私の務めがある。しかし御前も」
「私は何時までもミネバ様の側にいます」
ハマーンは真剣な顔でミネバに述べてきた。
「何がありましても」
「そうか」
「はい。ですから」
「わかった。しかしだ」
彼女はハマーンを見て述べる。
「死ぬな。私には御前が必要だ」
「有り難き御言葉」
「それでだ」
彼女はここで言葉を変えてきた。
「暫くぶりに一緒に食事にしたいのだが」
「御一緒にですか」
「よかったら作ってくれ」
そうハマーンにねだる。
「御前の好きなものでな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
話は食事に移った。
「頼むぞ」
「お任せ下さい。それではスパゲティでも」
こうして二人は互いにだけ見せる顔で話をしていた。二人は何時までもお互いを見ていたかった。その気持ちは変わりはしないものだと思っていた。永遠にだ。
マスドライバーは守られ危機は去った。その月に今一人の男がいた。
ケリィであった。彼は一人フォン=ブラウンを歩いていた。
「聞いたか」
その彼に街の者達の声が入ってきた。
「ソロモンの悪夢が死んだらしい」
「エギーユ=デラーズもだったな」
「ああ、そうらしいな」
彼等は先程の戦いについて話している。ケリィはそれを黙って聞いている。
「そうか」
それを聞いて呟く。しかしそれ以上は何も言わない。
「戦いは終わったな。あいつの戦いも」
それはわかる。今彼の心の中には虚無が漂っていた。
「そして俺の戦いも」
そのままバーに入る。ふと入り口の張り紙が目に入った。
「誰でもいいのか」
それを見て呟く。扉をくぐる。
「いらっしゃい」
「表の張り紙を見たんだが」
「ああ、あんたなら」
マスターは彼を見て顔を綻ばせてきた。
「丁度いいな。じゃあ何かあった時は頼むよ」
「わかった。そのかわり金の方は頼むな」
「いいぜ。まずはやるかい?」
「そうだな。グラスは三つ出してくれ」
「三つか」
「乾杯したいんだ」
そうカウンターのマスターに述べる。
「昔の仲間達にな」
「何か知らないけれど訳ありみたいだね」
「いや、よくある話さ」
マスターに返す。
「今はな」
「じゃあ聞かないさ。とにかく三つだね」
「ああ」
(ガトー、カリウス)
彼は心の中で戦友達の名を呟いた。
(また。あの世でな)
そのままカウンターに座りウイスキーで乾杯した。ケリィはそのまま静かにその剣を置いたのであった。今一人の戦士が休息に入った。
ロンド=ベルは遂にボゾンジャンプを敢行した。辿り着いたのは火星のド真ん中であった。
「さあてと」
サブロウタが楽しげに声をあげる。
「レーダー反応がそろそろ愉快になるだろうし早速出るか」
「ああ、行くぜ」
リョーコがそれに応える。
「派手なパーティーのはじまりだ!」
「来ておるわ、わんさかとな」
ケルナグールはその乗艦の艦橋で楽しげに笑っていた。
「四方八方、上からもな!」
「予想されたことではないか」
カットナルがそれに突っ込みを入れる。
「何を今更騒いでおるか」
「何を!レーダーに映る数を見よ!」
見ればいちいち数えるのが面倒な程である。桁外れの数だ。
「これだけの木星トカゲを前にして!何も思わんのか!」
「思う存分戦えるな」
「そうだ!今度もまたな!」
「圧倒的な数の敵を前にして敢然と戦場に立つ」
ブンドルが言う。
「その勇敢な姿。それこそが」
また薔薇を掲げて述べる。
「美しい・・・・・・」
「よし、いつもの儀式は終了だ!」
「者共よいか!」
ケルナグールとカットナルが皆に声をかける。見れば既に総員出撃している。
「敵はどんどん来る!臆するな!」
「ここが死に場所と心得よ!」
「ちょっと、待ちなさいよ」
レミーが死に場所という言葉に突っ込みを入れる。
「まだ花の年頃なのに死んでたまるものですか」
「その通り」
キリーがそれに応える。
「まだ自伝も書いちゃいないしな」
「あんたはまだ書くの先でしょ」
「少しずつ書いてるさ」
「何時になるやら、終わるのは」
「俺は死んだら酒が飲めなくなるからな」
真吾はそういう考えであった。
「もう少し生きたいものだ」
「怪我して自棄酒とかは勘弁してよ」
「何だよ、その暗黒の未来は」
「何となくね。ほら、早速来たわよ」
木星トカゲの大軍がゴーショーグンの前にやって来た。
「派手なパーティーのはじまりね」
火星の後継者達の大軍がロンド=ベルを完全に包囲していた。ロンド=ベルは円陣を組みそれに向かうのであった。火星の後継者達との決戦のはじまりであった。
木星トカゲは数で押してくる。だがそれは予想されていた。
「撃て!照準を合わせる必要はない!」
ブライトはそう指示を出す。
「弾幕を張る!後は敵が勝手に突っ込んでくれるぞ!」
「おい、またそれは無茶苦茶だな」
アムロがモニターの向こうで苦笑いを浮かべていた。
「実際そうだ。今はな」
「確かにな。この数は」
「敵の数、一万を越えています」
ルリが言う。
「ナデシコの周りにも」
「グラビティブラスト発射して下さい」
ユリカが指示を出す。
「それで一気に減らします」
「一気といっても艦長」
メグミが話に入ってきた。
「グラビティブラストでもこの数ではそれ程は」
「それでもです。今は」
しかしユリカの考えは変わらなかった。
「皆がいますから」
「そうですね」
ルリはその言葉に頷く。
「それでは」
「はい。前方を開けて下さい」
その言葉に従い前が開く。皆素早く攻撃ルートを開ける。
まずはミサイルが派手に放たれ次にグラビティブラストが。それでかなりの数の木星トカゲが薙ぎ払われるがそれでもまだかなりの数が残っている。
「輝!柿崎!」
フォッカーが二人に声をかけす。
「派手に暴れるぞ!反応弾だ!」
「はい!」
「了解!」
二人はそれに応える。そして敵に向けて反応弾を放つ。
巨大な光が起こりそれを中心として無数の火球が生じる。しかしそれでもまだ数は減らない。
「どれだけ倒しました?」
「今で四千です」
ユリカにルリが答える。
「二分でそれですか」
「はい。二分です」
「後何分戦えます?」
「十分」
ルリはその言葉にも答える。
「そうですか」
「その間に敵はまた来ます。おそらく総数で二万」
「ここにいるものも含めて、ですね」
「そうです。ですから」
「ギリギリですね」
そう述べる。
「一分で二千、それを十分で」
「おい、無茶言ってくれるな」
デュオがそれを聞いて言う。
「あと十分もこんな戦いかよ」
「安心しろ」
しかし彼にヒイロが述べる。
「ゼロは見せてくれている。この戦いは」
「勝つのだな」
「そうだ」
今度はウーヒェイに答える。
「辛いがな」
「わかった。なら俺はいい」
ウーヒェイはそれで納得する。彼にとってはそれで充分だった。
「トロワ、まだ残弾はありますか?」
「補給タンクがある」
トロワはそうカトルに返す。
「それを使う」
「そうですか」
「しかしだ。前に出た方がいい」
ここでミリアルドが言った。
「前にか」
「そうだ。見ろ」
見れば前に敵の基地がある。そこには多くの補給施設もあった。
「あそこに入れば」
「よし、前に出るぞ!」
大河がそれを受けて言う。
「そして補給基地に入って戦う!いいな!」
「了解!」
皆それを受けて前方に攻撃を集中させる。前にいる敵もかなりのかずだったがそれでも彼等を突っぱねる。そのまま前へ突き進み基地を占領することに成功したのであった。
だが木星トカゲ達はまだかなりの数がいる。しかも援軍は予想されたものの倍はいた。
「総数は四万か」
「そうね」
ヒルデはノインの言葉に応える。
「この数は」
「よくもまあこれだけいるもんだ」
宙が思わずぼやく。
「どうなっているんだか」
「木星トカゲは数で攻めるのが基本だからね」
万丈はそれに応える。
「火星の資源もあるし。まあこれだけはいても不思議ではないさ」
「不思議じゃないか」
「けれど万丈さん、これって」
美和が言う。
「百倍位もあるから。これだけの戦いは」
「いや、やれる」
しかし宙はここで言った。
「この程度の敵なら俺達の力で」
「その意気だよ、宙君」
万丈は彼の言葉に笑みを浮かべる。
「では僕も久し振りに!」
彼は名乗りをあげる。
「世の為人の為火星の後継者達の野望を打ち砕くダイターン3!この日輪の輝きを恐れぬのならかかって来い!」
その名乗りが効果を現わしたのかロンド=ベルの士気がさらに高まる。それ以上に補給施設を押さえたのが大きかった。彼等は途方もない物量の敵を前にしても戦場に立ち戦い続けていた。
防御施設を盾に敵の攻撃をかわす。これも大きかった。
「いける、これは」
アキトはその中で言った。
「敵の数が減ってきた」
「ああ、どうやら」
勇がそれに応える。
「減ってきた。ルリ」
勇はルリに問う。
「敵の数は後どの程度なんだ!?」
「あと一万です」
ルリはそう答える。
「それを倒せば」
「そうか。なら」
「いや、待て」
しかしここでナガレが言ってきた。
「どうした、旦那」
「来たぞ」
ナガレはサブロウタに応える。見れば彼等の前に巨大なマシンが姿を現わした。
「デンジン、マジン、ダイテツジンかよ」
リョーコがそのマシンを忌々しげに見ていた。
「最後の最後ってわけか」
「熱血しちゃいますね」
ヒカルはそれを見ても普段の様子である。
「ああ、燃えてきたぞ!」
ダイゴウジもそれは同じであった。いつもの調子だ。
「ここが決戦だ!」
「相手の死に水はもうあるわ」
イズミは普段と少し違う。目が座ってきていた。
「それに。北辰衆も」
ジュンが言うと彼等も姿を現わしてきた。
「レーダーに反応です」
ハーリーがここで報告する。
「敵の巨大戦艦が」
「かぐらつきです」
ルリは敵艦をすぐに調べ上げて述べる。
「間違いありません」
「よくぞここまで戦ったロンド=ベル」
草壁がかぐらつきの艦橋から彼等に言う。
「だがそれもここまでだ。ここで我等の大義がなる!」
「大義かよ」
ダイゴウジがそれに問う。
「そうだ。大義だ」
草壁は彼に応える形でまた述べる。
「それが今」
「そいつは違うな、大将」
しかしダイゴウジはその大義を否定してきた。
「何!?」
「いいか、大義ってのはなあ」
彼は言う。
「勝とうが負けようが信じてなんぼよ!」
そう草壁に対して主張する。
「勝つ為にひん曲がった大義なんか一文の価値もねえんだよ!」
「私の崇高な大義を否定するのか!?」
「その通りだ!」
毅然として言い返してきた。
「あんたの大義、微塵の価値もねえ!そんな奴等に俺達が負ける筈もねえんだ!」
「なっ、その傷で言うのか」
見ればロンド=ベルは皆かなりのダメージを受けている。やはり圧倒的な数の敵を相手にしているからだ。
しかしそれでも皆戦う心は失っていなかった。ダイゴウジも。そしてルリも。
「ダイゴウジさんの言う通りです」
彼女は言う。
「大義は貫いてこそ。貴方は今までそれを曲げ過ぎていました」
「それも戦略だ!」
「はい」
ルリは一旦はそれを認める。
「ですが。曲げたのは事実です。貴方の大義は結局はお題目だったのです」
「くっ・・・・・・」
「野心の為の。大義ではありません」
「おのれ、私をそこまで」
「艦長、目標をかぐらつきに集中させて下さい」
冷静な声でユリカに進言する。
「そして一気に」
「わかりました」
ユリカは迷うことなくそれに頷いた。
「艦首をかぐらつきに向けて下さい」
「了解」
ハルカがそれに応える。
「それじゃあ」
「お願いします。北辰衆はお願いします」
アキト達に述べる。
「了解」
それにジュンが頷く。
「それでは彼等は僕達で」
「おう、わかったぜ!」
リョーコがそれに応える。
「じゃあ早速な!」
彼等も戦いに入る。アキトは北辰に向かう。
「来たかテンカワ=アキトよ」
「やっぱり御前の相手は俺なのか」
「そうだな」
彼はアキトを見て不敵に笑って返す。
「では苦しまずにしてやろう」
「一撃で決めるつもりなのか」
「そうだ」
そうアキトに答える。
「では行くぞ」
「ならこっちも!」
アキトも退かない。攻撃態勢に入る。
「逃げない。俺も一撃で決める!」
「参る」
二人は同時に前へ出た。そのまま一直線に相手に向かう。
一瞬だった。二つの影が交差した。後に残っているのは。
「ふ・・・・・・」
お互い背中合わせに立っている。北辰はそうして立って笑っていた。
勝ち誇ったような笑みだった。だが暫くしてその口から一条の血が流れ落ちた。
「見事だ。褒めてやろう」
それが最後の言葉だった。北辰は爆発し炎と化して姿を消したのであった。
かぐらつきもまた。草壁は確かに奮戦していた。
「ナデシコの動力部を狙え!」
そう指示を出して重力砲を放たせる。しかしそれはユリカに読まれていた。
「上です」
上昇するように言う。実際にナデシコを上昇させ動力部への攻撃を避けた。
「危なかった・・・・・・」
ハーリーは通り過ぎている敵の攻撃を見て呟いた。
「間一髪ですね」
「どうするのかはわかっていましたから」
ユリカは彼にそう答える。
「ですから驚くには値しません」
「そうなんですか」
「はい。では反撃です」
「準備はできています」
メグミが述べる。
「わかりました。それではグラビティブラスト発射用意」
「集中させますね」
「はい」
ルリにも答える。
「この一撃で決めます。では」
「了解、いけーーーーーーーーーーっ!」
ハーリーが叫ぶ。黒い光が放たれそれがかぐらつきを直撃した。
それで完全に動きが止まった。暫くしてゆっくりと崩れ落ちていく。
「駄目か・・・・・・」
「はい」
幕僚達が草壁に答える。
「最早限界です」
「我が軍の残りは」
「一千を切っています」
「あれだけあった木星トカゲがか。わかった」
それを聞いて頷く。
「我々の負けだ。投降せよ」
「閣下は」
「私はいい」
草壁はそれは断った。
「かぐらつきと運命を共にさせてもらう。それではな」
「はっ」
「それでは諸君、あの世でな」
それが彼の言葉であった。爆発するかぐらつきから脱出した者達の中に草壁の姿はなかった。火星の後継者との戦いもこれで終わったのであった。
「敵、降伏しました」
ルリが報告する。
「これで終わりです」
「わかりました。それでは後は連邦軍に任せましょう」
ユリカが答える。
「私達は補給を整えてすぐに」
「アクシズです」
ルリはクールに述べた。
「そこでいよいよ」
「はい。それでは」
ロンド=ベルは休む時間がなかった。すぐに火星の基地で整備と補給をはじめボゾンジャンプでアクシズに向かうことになった。戦いは待ってはくれなかった。
「急げ、一刻の猶予もないぞ」
ナタルがそう言って激を飛ばしていた。
「しかし万全に済ます。いいな」
「了解」
「何か知らないけれど大忙しだぜ」
「こら、ジュドー君」
ナタルはぼやくジュドーを叱る。
「口より手を動かすのだ」
「はいはい。ところで少佐」
「何だ?」
「さっきキースさんと何を話していたんですか?」
「なっ、見ていたのか」
「見ていたのかっておい」
「自分で言っちゃったよこの人」
ビーチャとモンドは今の言葉に目を点にさせた。
「あの、少佐」
「わ、私は別にだな」
またしても顔を真っ赤にして言いだす。
「別にだ。その、つまり」
「ナタルさんって凄い純情だったんだ」
「そうじゃないかって思っていたけれど」
イーノとエルで見方が違うのはやはり男と女の差であろうか。エルの方がわかっていた。
「まずはお話からだな。そしてその、キスとかそうしたものは」
「結婚してからですね」
「そう、それだ。だからあくまで私は大尉とは」
ルーの言葉にも易々と引っ掛かる。戦いのこと以外ではかなり迂闊であった。
「別に何もないので。言うならば」
「あの、少佐」
横でキースが困った顔をして立っていた。ナタルはその言葉でやっと我に帰る。
「た、大尉」
「自分で言ったら駄目じゃないですか」
「あっ・・・・・・し、しまった」
ようやく自分でも気付き顔がさらに赤くなる。
「私は・・・・・・その」
「いやあ、いい話聞いたよ」
ジュドーはあらためて笑っていた。
「ナタルさんのおのろけなんて」
「お、大人をからかうな」
そう抗議してももう遅かった。
「私はだな、本当に大尉とは」
「だから言ったら駄目ですよ」
キースは横で呆れ顔であった。
「言う側から全く」
「うう・・・・・・」
「しかしよ」
ここでキラがスティングに言ってきた。
「ナタルさんってあれだろ?もう二十五だよな」
「ああ、そうだったな」
スティングはその言葉に頷く。
「確かな」
「何だ、それだったら立派なおばさんじゃないか」
言ってはならないことを言った。
「そろそろ結婚する年頃でよお。キスもまだなんてな」
「そんなもんか?」
「そのまま売れ残りになっちまうところじゃねえか。ラッキーな話だぜ」
「おい、シン」
アウルが彼に真剣に忠告してきた。
「御前その発言は」
「何だよ、本当のことじゃねえか」
しかし彼はまだ言う。
「二十五のおばさんが純情なんてな。こりゃお笑いだぜ」
「そうか」
スティングは真顔になってきていた。
「それでいいんだな、御前は」
「いいって何がだよ」
「シン、後ろ」
ステラが言ってきた。
「後ろ振り向いて」
「何だって・・・・・・・うわああああああっ!」
「さて、シン=アスカ」
後ろを振り向くとそこにはナタルがいた。真っ黒なオーラを全身から放って立っている。指をボキボキと鳴らしながら。
「言い残すことはあるか?」
「あああ・・・・・・」
「遺言は御家族に伝えておく。さあ何だ?」
「わ、わかった」
彼は観念して言った。
「それならせめて」
「せめて。何だ?」
「七色仮面を見て死にたかった」
「わかった。では伝えておこう」
「糞っ、何で皆言わなかったんだよ」
「御前が言ったんじゃねえか」
「自業自得だ」
スティングとアウルが彼に声をかける。こうしてシンはナタルの死の制裁を浴び暫くは戦闘不能となったのであった。医務室にボロ布になった彼が運び込まれた。
その横ではキラがいた。彼も唸っている。
「何ですか、これ」
彼は苦しみながら横に担ぎ込まれてきた残骸を見て言う。
「急に出て来ましたけれど」
「ああ、これシン君なのよ」
リツコが彼に述べる。
「ナタルさんにぼこられてね。それで」
「そうだったんですか。またこれは」
見れば死んでいるかのようであった。最初見た時は生き物とは思えなかったがよく見るとわかってきた。
「酷いですね」
「一応は生きているわよ」
彼女はそうキラに説明する。
「次の戦いには間に合わせるし」
「はあ」
「君もね」
今度はキラに話を移してきた。
「一体何を食べたのよ」
整った眉を顰めさせて問う。
「毒薬?それとも毒草?産業廃棄物?」
「いえ」
しかしキラはその言葉に首を横に振る。
「どれでもないです」
「じゃあ何よ」
「ラクスの作ったお握りです」
彼は答える。
「それを食べて」
「それでなのね」
「はい」
こくりと頷いて答える。
「それで」
「困ったわね」
リツコはそれを聞いてふう、と溜息をついた。
「彼女といいクスハちゃんといい。何かね」
「料理が下手なのかはともかく」
キラは呻きながら言う。
「あれは戦略兵器ですよ」
「そうね」
リツコはその言葉に同意する。
「あの威力は」
「そういえば」
ここでリツコはふと気付いた。
「彼等も食べていたわよ、ラクスさんのお握り」
「彼等って?」
「オルガ君達よ」
「えっ」
キラはそれを聞いて思わず声をあげた。身体は動かない。動けないのだ。
「三人で今食べてたけれど」
「本当ですか?それ」
「この目で見たから。確かよ」
「はあ」
キラは呆れた感じであった。まさかと思ったのだ。
「大丈夫なんですか?」
「とりあえず平気で食べているわ」
「凄いですね、僕は駄目でしたけれど」
「彼等はどうも特別みたいなのよ」
首を傾げて述べる。
「身体の頑丈さがね」
「普通人ですよね」
キラは問う。
「強化は残ってるけれどね」
「元が凄かったんでしょうか」
「とにかく頑丈なのよ」
「いや、頑丈って問題じゃ」
ここで相変わらず残骸になっているシンに目を向けた。
「シンだってあれを食べたら卒倒したのに」
「世の中色々な人間がいるわ」
かなり酷い言葉であった。
「彼等にしろ」
「だからあのガンダムを操っても平気なんですか」
「そうでしょうね」
リツコはそれに応える。
「頑丈なのは」
「そうなんですか」
「そもそもの基本が強化人間並なのよ、彼等」
「凄いですよ、それって」
凄いというレベルではない。脅威ですらある。
「有り得ないっていうか」
「彼も有り得ない程やられたわね。全く」
下に転がっているシンを見て言う。
「何処をどうやったら」
「それにしても博士」
シンジはまたリツコに問う。
「彼等は病気の心配は」
「風邪一つないわね」
きっぱりと述べる。
「本当に」
「そうなんですか。一体どうやったらあそこまで強く」
だがここで限界がきた。ラクスの毒に蝕まれたのだ。その頃三人は楽しく食事を摂っていた。
「美味え、美味えぜこれ」
オルガは手掴みで肉かスライムかわからないものを食べている。
「癖になろそうだぜ」
「このサラダだって」
赤と黒の不気味なドレッシングをかけた変な生野菜の山はクロトが食べている。
「いいよ、このドレッシングが」
「いける」
シャニが貪っているのは泥みたいになったプリンかケーキかわからないものである。三人はラクスのものだけでなくクスハのものも喜んで食べていた。それで全く平気であった。
「おいおい、また凄え食いっぷりだな」
バサラがそんな彼等を見て言う。
「豪快なもんだぜ、気に入ったぜ」
「あんた、食べ物には注目しないのね」
「?俺は別にそんなの気にしないぜ」
平気な顔でミレーヌに返す。
「別にな」
「あっきれた」
「けれど嬉しいです」
ラクスはにこやかに笑って述べていた。
「これ程までに召し上がって頂けるなんて」
「あの、アズラエルさん」
ミサトが彼等を見てアズラエルに声をかける。
「何故平気なんですか?彼等は」
「彼等は元々丈夫でして」
アズラエルは平気な顔でそう述べる。
「それでなのですよ。ああしたものを食べても平気なのは」
「強化人間でも駄目なのに」
「彼等は特別です」
アズラエルは言う。
「おそらく何をやっても死なないでしょう」
「不死身、ですか」
「はい」
さらりととんでもないことを述べる。
「ですから」
「おかわり」
オルガが言う。
「このお握りいいよね」
クロトは今度はクスハの握ったお握りを食べている。
「俺これ」
シャニはユリカの作ったサンドイッチを。三人はそうした劇物を食べても平気な様子であった。
「またとんでもねえのが入ったもんだぜ」
さしものリュウセイも彼等には脱帽していた。
「全然平気なんてよ。どうなってるんだよ」
「あら、面白いじゃない」
しかしアヤは彼等を見て笑っていた。
「ああでなければね。個性が際立たないわ」
「個性、ねえ」
「うちの坊やもやんちゃだけれど。あそこまではいってないわね」
「おい、坊やって」
すぐにそれが自分のことだとわかり抗議する。
「俺はまだガキだっていうのか」
「その通りだな」
ライが横から言ってきた。
「もっと大人になれ」
「何だよ、ったくよお」
「よかったら大人のことを教えてあげるわよ」
アヤはリュウセイを見てくすりと笑ってきた。
「お姉さんがね」
「へっ!?大人のことって?」
「本当に子供ね」
そんなリュウセイに苦笑いを返す。
「困ったことだわ」
「ってアヤ」
ミサトがここでアヤに囁く。
「貴女だって。キスもまだなんでしょ?」
「けれどリュウセイがあんまりだったんで」
くすりと笑って返す。当の本人はからかわれたことも気付いていない。
「ちょっと・・・・・・だったんですけれど」
「やれやれね」
あらためてリュウセイを見て二人で苦笑する。
「身体は大きくても」
「中身は子供なんだから」
「あんたはこっちよ」
三人と別れてゼオラはアラドの御飯を提供していた。
「あんなの食べたら承知しないからね」
「いや、俺でもあんなの食ったら死ぬぜ」
アラドは三人が貪っている不気味な戦略兵器を見て言った。
「あの鮎を頭から突き刺したものとかよ」
「あれはね」
クスハの作った戦略兵器であった。彼等はそれを食べても平気であった。
「平気みたいよ」
「だよなあ。ところでゼオラ」
「何?」
「最近俺ゼオラの作ったものばかり食ってないか?」
「そうかしら」
ゼオラは自分ではそれに気付いてはいない。
「何かさ」
「けれど別にいいじゃない」
しかしゼオラはこう返す。
「それとも私の御飯が食べられないっていうの?」
「いや、そうじゃねえけれど」
「だったら食べなさい」
そうアラドに言う。
「いいわね」
「けれどドイツ料理が多いな」
「私ドイツ生まれだから」
それは名前でわかる。外見からあまり信じてもらっていないが。
「それはね」
「そうだったんだ」
「孤児だけれどね。それは確かよ」
「俺もそうなのかな」
アラドはふと言い出した。
「俺もドイツで。そういえば」
「そういえば?」
「ガキの頃ゼオラみたいなお姉さんとよく遊んでいたような」
「そういえば私も」
ゼオラもふと思い出した。
「何か子供の頃アラドみたいな男の子にあれこれと教えてあげたみたいな」
「何でだ?」
「さあ。もう覚えていないけれど」
「まあいいさ。それよりも飯」
「もっと味わって食べなさい」
そう言って一旦は叱る。
「折角作ったんだからね」
「ちぇっ、厳しいなあ」
「文句言わない」
エプロン姿で言う。白のエプロンだ。
「いいわね」
「わかったよ。じゃあアクシズでもよ」
「ええ、アクシズでも」
「頼むぜ」
「アラドこそね」
にこりと笑って笑って言葉を交える。二人はここでは言い争わなかった。
「まだまだ足りねえよ」
オルガはその横でまだ食べていた。
「吾郎ちゃん、おかわり」
「だから誰なんだよ、吾郎ちゃんって」
クロトがそれに突っ込みを入れながらリリーナに言う。
「パフィー、もっとくれよ」
「私はリリーナですが」
「何かと一緒になってるな」
ヒイロがそれを聞いて呟く。
「何かまではわからないが」
「ピアノ」
シャニは適当に手掴みで食べながら呟く。
「ピアノが欲しい」
「何言ってるかわからないけれど彼等は使えるわね」
未沙はそんな三人を見ながら呟いた。
「あれだけ食べられれば。生ゴミの処理には困らないわ」
「早瀬さんも随分きついですね」
「生ゴミ出すのは本当はよくないのよ」
困った顔でミレーヌに答える。
「けれどあれだけ何でも食べてくれたらね」
「その心配はないですか」
「ええ。最初はどうなるかと思ったけれど」
彼女は言う。
「これで助かったわ」
三人はまだ食べていた。そのまま何でも貪り次の戦いへの栄養とするのであった。

第百四十六話完

2007・2・26  
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