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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第百二十七話 天使の剣

             第百二十七話 天使の剣
「ふむ」
ジャミトフは地上での戦況の報告をゼダンの門の自身の執務室で聞いていた。報告をしているのはバスクであった。
「北欧は完全に掌握か」
「はい」
バスクはそれに答える。今彼はジャミトフの前に立っていた。
「そしてベルリンに迫ろうとしています」
「見事にやっていると言うべきかな」
ジャミトフはそこまで聞いたうえでこう述べた。
「ここまでは」
「左様ですな」
バスクもそれに頷いてきた。
「今のところ設備の接収も完璧だ」
「ええ」
「一般市民には攻撃を加えてはおらんな」
「私はそれは手ぬるいと思いますが」
これは軍人政治家としての彼の考えであった。
「やはり我等に逆らうのならば」
「まあそれはよい」
だがジャミトフはそれには特に何も言わなかった。
「それがあの男のやり方なのだろう」
「はあ」
「企業家らしい。それはよいのだ」
「左様ですか」
「だがな」
しかしジャミトフは他の部分を指摘してきた。
「あの男。確かに切れる」
「はい」
「だが。視野が狭い」
「狭いですか」
「私にしてみれば利用できるならだ」
そう前置きしたうえで言う。
「コーディネイターと手を結んでもいいのだ」
「駒としてだ」
「そうだ。あの男はそこまでは考えようとはしない。コーディネイターも異星人も認めないな」
「そうですな、確かに」
それはジブリールである。彼はそういった存在には容赦のない男なのである。だからこそ原理主義者とまで言われているのである。
「そこなのだ、問題は」
「問題ですか」
「異星人に関してはいい」
元々ティターンズは異星人に対抗する軍という側面もある。だからジャミトフとしてはそれに関しては一向に構うところがなかったのである。
「しかしだ」
「コーディネイターに関しては別だと」
「これはあくまで政治だ」
彼は言う。
「政治的に利害が一致すればそれでいい。だがあの男はそれを認めようとはしない」
「新型のコロニーレーザーも開発しております」
「レクイエムだな」
このことは当然ながらジャミトフも知っていた。それを聞いて眉を動かす。
「はい。それでプラントを崩壊させるつもりのようです」
「そう上手くいくか」
「あの男はいかせるつもりのようです」
「疑問だな。我々もまたコロニーレーザーを作らせているが」
「はい」
「あそこまでのものは不要であろう。そうは思わぬか」
「ですが使えるのは事実です」
バスクはジャミトフにそう述べた。
「上手く使えば異星人に対しても効果的です」
「そうか。ではそれに関しては期待させてもらうか」
「それがよいかと。ただ」
ここでバスクは言った。
「ただ。どうした?」
「あの男はどうしてもその力量に限界がありますな。もう少し視野が広ければさらに使えるのですが」
「真面目なのだろうな」
ジャミトフは彼をそう評した。
「それも意固地なまでにな」
「真面目であるが為に視野が狭くなると」
「もっともそうでなければ我等には来なかった。複雑なものだ」
「確かに」
「あのアズラエルという男はかなり不真面目なようだからな。我々には協力はせぬ」
「煮ても焼いても食えない男です」
彼等はアズラエルと面識がある。協力を要請して断られているのだ。
「まああの男のブーステッドマンを手に入れられただけでもよしとするか」
「あの三機のガンダムも」
「そうだ。まずは地上の戦いの行方を見るとしよう」
「ベルリンを占領できれば」
「そのまま欧州の占領を続ける」
ジャミトフはそう判断を下した。
「しかしだ」
そしてそのうえで言う。
「ベルリンで失敗したならば」
「撤退ですか」
「そうだ。北欧には大した資源も戦略価値もない」
彼は言う。
「今の我々にとってはな。そこを占領するよりはその戦力を宇宙に回したい」
「攻撃目標は」
「第一はプラントだ」
その鋭い目がさらに鋭さを増して光った。
「彼等を屈服させ次にネオ=ジオン。そして連邦だ。よいな」
「わかりました。宇宙から再び地球圏を」
「力さえあれば地球圏は再び我等のものとなる」
ジャミトフは述べる。
「そういうものだ。わかったな」
「はっ、それでは」
バスクはそれに応えて敬礼をした。
「その様に致しましょう」
「うむ」
ティターンズの上層部も活発に動いていた。宇宙での戦いもまた舞台裏で動いていたのであった。
北欧から退いたロンド=ベルはベルリンに集結していた。そこで迫り来るティターンズの主力を待ち受けていたのである。
「さてと」
ミゲルがベルリン郊外の空を警戒しながら飛んでいた。
「そろそろ来るな」
「そうだな」
それにリーが応える。
「今回は質も数も多い。注意しろよ」
「ああ、わかってる。特にあれだな」
「そうです」
カントがモニターに姿を現わしてきた。
「分析しましたがあの巨大なモビルスーツはかってない攻撃力と防御力を持っています」
「ビグザムみたいなものか?」
それにカイが問う。
「外見はあんなのだけれどよ」
「そうだな、確かに似てるな」
リュウも彼と同じ意見であった。
「その動きといいな」
「それが三機です。手強いってレベルじゃないですね」
ハヤトもそれを聞いて述べた。
「何か俺がまた突っ込まないといけないのかね」
「いえ、それには及びません」
スレッガーは冗談で言ったのだがカントの言葉は真面目であった。
「確かにあのモビルスーツは強力極まりないですが」
「ああ」
「特攻するまでには至りません。軽はずみな行動は謹んで下さい」
「厳しいね、どうも」
「けれどカント君の言う通りです」
セイラも注意してきた。
「若しものことがあればどうするんですか」
「大丈夫だって、生きて帰って来るさ」
「まあスレッガーさんだと大丈夫だろうけれどな」
「けれど無茶はしないで下さいよ」
カイとハヤトはそれぞれ彼に言った。
「折角こうやって一緒に戦ってるんですから」
「リュウさんも」
「ああ。わかってるさ」
リュウも二人の言葉に応えた。
「俺達は他のティターンズの奴等の相手をするとしような」
「そうですね。そうして下さい」
カントは彼の言葉に頷いてきた。
「あのモビルスーツは特別なメンバーにお願いしたいです」
「誰に頼むんだ、それは」
ナッキィがそれに問う。
「あれは生半可じゃかえって死ぬぜ」
「はい、それはわかっています。ですから」
彼は言う。
「ミネルバの皆さんとキラさんにお願いしたいです」
「俺達であの三機のガンダムをか」
「お願いできるでしょうか」
カントはハイネに問う。
「キラさんのフリーダムとシンさんのデスティニーでかなりの戦力が期待できます」
「おい、坊主」
その言葉にアルフレッドが突っ込みを入れてきた。
「はい」
「そりゃ無茶ってやつだな」
「無茶でしょうか」
「キラとシンのことは知ってるだろうが」
「ええ」
それを知らない筈がなかった。二人の対立はロンド=ベルでは誰でも知っていることになっていたのだ。
「だからだ。止めときな、あの二人を組ませるのは」
「いえ、それでもです」
だがカントはそれを譲ろうとしない。
「御二人にはデストロイの一機をお任せしたいです」
「おいおい、また無謀だな」
キースも彼に対して言ってきた。
「あの二人には無理だぜ、連携とかはな」
「そうですね。確かに戦力的には大丈夫でしょうが」
「それはやはり」
「大丈夫ですよ」
彼はフィリスとエルフィに対してもこう述べた。
「御二人は」
「そうかなあ」
ジャックはそれを聞いて思わず首を傾げさせた。
「上手くいくとは思えないけれど」
「その前にお互いで殺し合うんじゃねえのか?」
ディアッカも不安で仕方なかった。
「そうですよね。カント君、これは」
「僕を信じて下さい」
ニコルも言おうとしたがカントはそれを遮った。
「ここは是非共」
「君がそこまで言うのなら信じよう」
最初にこう言ったのはレイであった。
「一機はあの二人に任せる。それでいいな」
「はい」
「わかった。じゃあ俺達で後の二機をやる。一機は俺のレジェンドと」
「あたしが行くわ」
ルナマリアが名乗り出てきた。
「フォローお願いね」
「わかった」
レイは彼女の申し出を受け入れて頷いた。
「もう一機はアスランにお願いするわ」
タリアが通信を入れてきた。
「そしてミネルバもね」
「お願いします」
「じゃあ俺達は最後の一機だな」
ハイネが言った。
「七機でだ。いいな」
「こっちは数で勝負ってわけか」
ディアッカはそれを聞いてこう言った。
「けれどそう上手くいくかね」
「いきますよ」
フィリスが彼に言う。
「相手が強くてもね。方法はありますよ」
「じゃあ期待させてもらうぜ」
「はい。ディアッカさんは後方をお願いしますね」
これはバスターの特性故であった。
「ジャックさんも遊撃はハイネさんとミゲルさんで」
「ああ」
「わかった」
二人はそれにそれぞれ応えた。
「私とエルフィ、そしてニコルさんで突入します。それではそれで」
「了解」
「わかりました」
エルフィとニコルもそれに頷いた。彼等はそれで打ち合わせを整えた。
だが問題はやはりこの二人であった。キラとシンである。
「おい御前等」
カガリが彼等に通信を入れていた。
「喧嘩するなよ、いいな」
「五月蝿いな、御前」
だがシンは彼女にいきなりこう言い返した。
「邪魔だ。受け持ちの場所に引っ込んでろ」
「何ィ!?人が心配して言ってるのに何だそれは!」
「五月蝿い!いいから黙ってろ!」
「御前!そんなのだから周りが」
「御前の方がずっと迷惑かけてるだろ!何だこの前」
シンはここでカガリに対して言う。
「酔って下着姿でジュドー達に暴れてただろうが!」
「そ、それは」
事実だから言い返しようがなかった。こういう時には日頃の行いが言われるものだ。
「そんなガサツ女に言われたくはないんだよ!」
「クッ!」
「そもそももっと色気をつけてみろ!」
シンは余計なことを言った。
「色気のない下着ばかりでな!」
「ちょっと待て」
案の定そこにカガリは言葉を止めてきた。
「御前私の下着姿をいつも見てるのか」
「酔っていつも脱いでるだろうが」
「それでもか。見ているんだな」
「ああ。それが悪いか」
シンは平気な顔で返す。
「白だの黄色だので。悔しかったらもっと色気のある下着をだな」
「よし、死ね!」
そこまで聞くとストライクルージュをシンのところまで向かわせてきた。
「私の下着をそこまで見た以上生かしてはおかない!この星条旗トランクスが!」
「俺の下着も知ってるじゃないか!」
「五月蝿い!洗濯物で見ただけだ!」
「だから彼女僕の紫のトランクス知っていたんですね」
アズラエルはそれを聞いてこの前の話の根拠を知った。
「成程」
「何かおかしいと思ったんですよ。カガリさん」
「何だ?」
「貴女、経験ないでしょう」
「経験!?何だそれは」
勿論全くわかってはいない。
「何を言っているんだ、一体」
「あの、カガリ」
「カガリ様」
あまりの事態にみかねてユウナだけでなくキサカも話しに出て来た。
「言いにくいんだけどさ」
「その、あのですな」
「どうした御前等、そんなにかしこまって」
やはり彼等がどうしてそうなっているのかもわかってはいなかった。
「何て言えばいいかな」
「カガリ様、それはですね」
「言いたいことがあるなら早く言え」
無知もここまでくると素晴らしい。
「何なんだ、それで」
「だからね、カガリ」
「そのですね」
「ああ」
二人の話を聞いている。
「カガリはキスとかしたことないよね」
「当たり前だろう?」
何を言っているんだといった感じの顔と声であった。
「そんなの結婚してからだ」
「だからだよ」
「その、ですからそれでどうしてアズラエルさん達のトランクスを御存知だったかというと」
「洗濯していたら見るだろうが。違うか」
「ああ、もうわかったから」
「おわかりになられなければいいです」
「変な奴等だな。何を言っている」
「やえやれ」
アズラエルはその横で肩をすかしてみせていた。
「これはまた。何かと大変なお姫様ですねえ」
「でだ。アズラエルさんよ」
「はい」
彼は今度はシンに応えた。
「クサナギは今回あのデカブツには来ないんだな」
「はい。今回は他の面々の相手です」
「わかった。じゃあそっちはそっちでな」
「わかりましたよ。ところで」
「何だ?」
「僕はクサナギの艦長ではありませんよ」
「あっ、そうか」
「かといってユウナさんでもありません」
「あれっ、じゃあユウナさんは」
「うん、僕は一応カガリの補佐官という役職なんだよ」
ユウナがシンに答える。
「補佐官ねえ」
「一応オーブの首相と参謀総長もね。やってるよ」
「何か色々と役職があるんだな」
「まあ仕事は一つだけれどね、結局は」
「馬鹿なお姫様のフォローってわけか」
「・・・・・・いやシン君幾ら何でもそれは」
「どうした?」
シンはまだ自分の身に迫る危機を感じてはいなかった。
「おいシン」
見るに見かねたアスランが彼に声をかけてきた。
「何だよ」
「すぐにこの場を離れろ。さもないと」
「何だよ、何かあるのかよ」
「ある。だから」
「何か話がわからねえぞ」
「それは・・・・・・」
「殺してやる!」
遠くから声が聞こえてきた。
「あいつ!今度こそは!」
「ですからカガリ様」
「戦闘前ですよ」
「そんなことしてる間にもティターンズが」
「ええい、黙れ!」
オーブ三人娘の制止も聞き入れようとしない。
「今度こそあいつを!離せ!」
「そういうことだ」
「あいつ・・・・・・本当にお姫様なのか」
シンはそんなカガリを見て呆気にとられていた。その間にも戦いへの準備は進み遂にティターンズが目の前に現われてきたのであった。
「来ました」
ルリが報告する。
「北から。かなりの数です」
「おい、増えていないか」
「ああ」
ロベルトの言葉にアポリーが頷く。
「何かな」
「それだけティターンズも必死ということでしょう」
それにエマが応える。
「また戦力の増強です。正念場ですね」
「何か正念場が続くね、全く」
サブロウタがそれを聞いて笑う。
「困ったことだ」
「困ったことついでにやはりいるな」
ナガレが言った。
「見ろ」
そこにはあの三機のガンダムもいた。
「あの連中もだ」
「やれやれ」
「そして」
あの三機の怪物達も。やはり健在であった。
「苦しい戦いになるな」
「全くで」
「いいか、ベルリンには一歩も入れるな」
ブライトが全員に指示を下す。
「一般市民の避難はあと少しだ。それまでは」
「一歩も退くなってことですね」
「ああ」
カイに答える。
「わかったな」
「了解。じゃあ腹くくりますよ」
「その為に今ここにいるんですからね」
ハヤトも言う。
「じゃあリュウさんはそっちを頼む」
「スレッガーさんはそっちでな」
皆それぞれ配置についていく。そしてティターンズを待ち構えていたのであった。
ティターンズがやって来た。両軍の間に緊張が走る。
「デストロイ隊前へ」
ジブリールが指示を下した。これが決戦のはじまりであった。
両軍同時に動いた。激しい攻撃と砲撃がいきなりはじまった。その中で互いの剣を抜き斬り合う。今ベルリンでの攻防が幕を開けた。
「あの三体のガンダムは俺達に任せな」
デュオが前に出る。そして彼はフォピドゥンに向かった。
「ウーヒェイ」
まずはウーヒェイに声をかける。
「御前はどれをやるんだ?」
「あの黒いのをやる」
レイダーを見て述べた。
「そうか。じゃあとロワ、御前はあれだな」
「ああ」
彼は既にカラミティを見ていた。
「あの青いガンダムをやらせてもらう」
「わかったぜ。ヒイロ」
彼等の後ろにはヒイロがいた。
「バックアップ頼むぜ」
「わかった」
「フォローは僕達に任せて下さい」
彼等の後ろにはカトルがいた。
「マグアナック隊がいますので」
「わかったぜ。じゃあ行くぜ!」
デュオと中心としてウーヒェイとトロワが動いた。
「覚悟しな、悪役ガンダムよお!」
「あいつ等は悪役かよ」
「まんまじゃねえか、おい」
それにケーンとタップが突っ込みを入れる。
「まあかなりあれな連中だけれどな」
ライトもまた。彼等も彼等でもう戦いの中にいたのであった。
戦いはベルリンの入り口で行われていた。既に半ば市街戦となっている。
その中心にいるのはやはりあの怪物達であった。キラ達は彼等と対峙していたのである。
「この!このぉっ!」
ルナマリアのインパルスがビームを放つ。だがそれは命中しても全て弾き返されてしまう。
「何なのよこいつ」
ルナマリアがそれを見て呻く。
「全然効いてないじゃない」
「おい、こえりゃ洒落にならないぜ」
ディアッカも言う。
「バスターの攻撃でもよ。これは」
「いや、諦めたら駄目だ」
だがここでアスランが言った。
「レイ」
そしてレイに通信を入れた。
「ドラグーンだ。あれでオールレンジ攻撃を仕掛けてくれ」
「わかった。まずは一機だな」
「ああ。一機を倒せばそれで戦力はかなり落ちる」
彼は言う。
「だからだ。頼む」
「わかった。いや」
「いや・・・・・・どうした?」
「ドラグーンでもあれは撃墜できない」
「無理か」
「無理だ、あの大きさと防御力では」
「くっ・・・・・・」
「しかしだ」
だがレイは言う。
「動きを止めることはできる」
「できるのか」
「ああ。その間に」
「わかった」
アスランにはそれだけで充分であった。
「タリア艦長」
そしてタリアにも言う。
「援護お願いします」
「どうするつもり、アスラン」
「突っ込みます」
彼は言った。
「それで一気に決着を」
「いいのね、それで」
「はい」
彼はその言葉に意を決して頷いた。
「撃墜はできなくても戦闘不能にさえすればそれで」
「わかったわ。それじゃあ頼むわ」
「了解です。じゃあレイ頼む」
「わかった」
「ルナマリア」
ルナマリアにも声をかける。
「後ろを頼む。いいな」
「ええわかったわ。それじゃあ」
アスランは彼等の援護を受けてデストロイの一機に突っ込んだ。激しい攻撃が彼を襲うがそれには構わない。蝶の様に舞ってそれをかわしつつ突き進む。
後ろからミネルバとインパルスの援護射撃が来る。だがそれは足止め程度にしかならない。
「戦艦とまともにやり合えるなんて」
アーサーはデストロイの防御力を見て驚きを隠せなかった。
「一体全体どんな化け物なんだ」
「けれどね」
そんな彼にタリアが言う。
「どんなモビルスーツでも倒せないものはないわよ」
「はあ」
「どんなものでもね。だから」
彼女は前を見据えていた。そして言う。
「タンホイザー発射準備」
「タンホイザーを」
「ええ」
「利きますかね、果たして」
「幾ら何でも戦艦の主砲よ。ダメージは与えられるわ」
「ですか。じゃあ」
「いい、アスラン」
タリアはアスランに通信を入れてきた。
「はい」
「タンホイザーで攻撃してみるわ。わかったわね」
「わかりました。じゃあお願いします」
「わかってるとは思うけれどよけてね」
それは念を押してきた。
「それじゃあ」
「いや、ちょっと待ってくれ」
「!?」
ここで誰かから通信が入ってきた。
「デストロイを撃つのは止めてくれ」
「他に方法があるんだ」
通信は二人からだった。いきなりミネルバに通信を入れてきたのだ。
「誰なの、一体」
「俺か!?俺はな」
そのうちの一人がそれに応えてきた。
「ロウ=ギュールだ」
「ロウ=ギュール」
「そうだ。訳あってあんた達に協力させてもらう。いいか」
「俺はイライジャだ。イライジャ=キール」
もう一人も名乗った。
「あんた達の力になる」
「いきなり何でまた」
「艦長、それは嘘です!」
しかしそれにシンが噛み付く。
「シン・・・・・・」
「こいつ等にステラを渡したんですから!それで何でここに!」
「だからだ」
ロウはそれに答えた。
「だから?」
「俺達はあいつ等をもう戦わせたくなかった。しかし」
「駄目だった。ジブリール副理事は聞き入れてくれなかったんだ」
二人は忌々しげに述べる。
「だから今あんた達に協力する」
「俺達の言う通りに動いてくれ」
「どうしますか、艦長」
アーサーがそれを聞いてタリアに問うてきた。
「いきなりそんなことを言われても」
「いえ」
だがタリアは二人の言葉に何かを見ていた。
「待って。ここはね」
「はい!?」
「貴方達の狙いは何なのかしら」
「三機のデストロイがいるだろ」
「ええ」
それに答える。
「それを止めたいんだ。いいか」
「わかったわ。それでデストロイの攻略方法を知っているの?」
「知っている。まずは懐に飛び込んでくれ」
イライジャが述べた。
「懐にだ。あれは接近戦に弱い」
「何だ、やっぱりそうかよ」
「予想通りでしたね」
ディアッカとニコルがそれを聞いて言う。
「じゃあそれはそれで戦い方があるな」
「そうですね。それじゃあ」
「ただしだ」
ロウはここで注文をつけてきた。
「中のパイロットは殺さないでくれ」
「俺達はそのパイロットと共にあんた達に協力したいんだ」
「中のパイロットと一緒にね」
「そうだ」
ロウはタリアに答えた。
「駄目か?」
「俺達はもうティターンズにはいたくないしいられない。だから」
「わかったわ。私達も彼等を止めれればそれでいいわ」
「艦長」
アーサーがタリアの言葉に怪訝な顔を向ける。
「いいんですか、いきなりそんな話を持ちかけられて信じるなんて」
「勘よ」
タリアの返答はこれであった。
「勘!?」
「そうよ。女の勘よ」
次の言葉の時には大人の女の余裕の笑みまで加わっていた。
「わかるのよ。それで」
「はあ」
「いい男か悪い男かはね。声だけでわかるの」
「それはまた」
コーディネイターというよりは女としてそれを見抜いたのである。タリアも流石と言えた。
「だからよ。貴方達を信じるわ」
「よし」
「じゃあまずはデストロイの懐に飛び込んでくれ」
「了解です」
ブリッツがすうっと姿を消した。そしてデストロイのすぐ側に姿を現わす。
懐に飛び込むとそれまでの嵐の如き攻撃はなかった。そこでロウが彼に言った。
「脚だ!」
「脚ですか」
「そうだ、そこを断ち切るんだ。それで動けなくなる」
「いいか、もう一体もだ。脚を狙ってくれ」
「わかった」
アスランがそれに応える。
「脚だな・・・・・・よし!」
「行きますよ!」
ブリッツは再び姿を消した。そしてすっと姿が出た瞬間にまずはデストロイの右足の膝を断ち切っていた。
「まずは右です」
また姿を消す。今度は左足の前に姿を現わした。
「そして左!」
そこも断ち切る。これでデストロイはバランスを崩し後ろから倒れた。そこへイライジャのブルーフレームが接近する。そして腹部を押さえた後でコクピットを開くのであった。
「これでよし」
イライジャはその中に入ってパイロットを救い出した。見ればそのパイロットは倒れた衝撃からか気を失っていた。
「ロウ、アウルは確保した」
「よし、上手くいったな」
二人はそれを確認して言葉を交あわせる。会心の笑みも浮かべていた。
「次はだ」
ロウはアスランに通信を入れてきた。
「君に頼めるか」
「わかった。両脚だな」
「ああ、頼む」
「それならこれで」
ブーメランを出してきた。
「一撃で決める!」
ブーメランはその独特の弧を描いてデストロイの太腿に向かった。その二つの太腿を断ち切ってアスランの手に戻ったのであった。
これでこのデストロイも動けなくなった。だが攻撃はまだ続いていた。
「くっ、近寄れない!」
ハイネがそれを見て呻くように呟いた。
「どうする、これは」
「大丈夫だ」
だがロウは脚の方から回り込んだ。そしてイライジャと同じくコクピットを開けて中から一人のパイロットを救い出したのであった。
「どちらだ?」
「スティングだった」
ロウはイライジャに言った。
「無事だ、意識もある」
「ロウ、どうして」
「御前はもう戦わなくていいからさ」
ロウは優しい声で彼に言った。
「だからだよ。さあ出るんだ」
「うん」
これでデストロイは一体となった。既にシンとキラが対峙していた。
「残り一機だね」
「そうだな」
シンはキラに応える。既にデストロイはベルリンに入ってしまっていた。
「だが残り一機が」
「もうベルリンに入ってしまっている」
「あの時の坊主か」
ロウがデスティニーの通信に出て来た。
「ああ」
シンは憮然とした顔でそれに答える。まだ彼等を信用したわけではないのだ。
「何の用なんだ?」
「すまなかった。約束を守れなかった」
「いいさ、それは。それでだ」
シンは彼に問う。
「その中にいるのはステラだ」
「ステラが!?」
「そうだ。ステラを助けたいんだろう?」
「あ、ああ」
驚きをそのままに答える。
「じゃあ頼む。ステラを助けてくれ」
「わ、わかった」
シンは流れのままそれに頷いた。
「接近戦だな」
「そうだ」
ロウは答える。
「さっきの二人のと同じだ。できるか?」
「やってやる」
シンの言葉に迷いはなかった。
「俺がステラを救い出す、そして」
「待って、シン」
だが後ろからキラが声をかけてきた。
「迂闊に出たら」
「御前には関係ない!」
シンは彼の言葉を振り切ろうとする。しかし。
「いや、関係ある!君一人で無理かも知れなかったら」
「何!?」
「僕でよかったら。協力させて欲しい」
「キラ・・・・・・御前・・・・・・」
「援護するよ」
キラはあらためてそう言ってきた。
「それでいいね」
「彼女の為にか」
「うん」
こくりと頷く。
「それだったらいいよね」
「・・・・・・ああ」
シンも頷く。僅かだが心が触れ合った。
「じゃあ頼むぜ。俺達はこのまま一旦ミネルバに向かわせてもらう」
「この二人のことが心配だからな」
「いや、ミネルバじゃ駄目だ」
大空魔竜からサコンが通信を入れてきた。
「どうしてだ?」
「やっとエクステンデッドを元に戻す薬と設備が完成したんだ。それがあるからだ」
「もう完成していたのか」
「そうだ。だから安心してくれ」
サコンは言う。
「わかったな」
「ああ」
「それじゃあそちらに行かせてもらう」
二人はすぐにそちらに向かう。シンはそれを聞いてあることに気付いた。
「もうエクステンデッドでもあんなに苦しまなくていいんだな」
「そうよ」
リツコが彼に答えた。
「大丈夫よ。彼女は元に戻れるわ」
「そうか。じゃあ」
「いい、シン君」
今度はミサトが言う。
「何があってもステラちゃんを助け出しなさい。いいわね」
「はい!」
答えるその言葉にも力がみなぎっている。
「やってみせます!何があっても」
「そうよ、その意気よ」
ミサトは彼のその言葉を聞いて満足そうに両手を腰に置いて笑っている。
「捉われのお姫様を救い出す騎士になるのよ」
「ミサト、それは格好つけ過ぎじゃないかしら」
リツコがそれに突っ込みを入れる。
「けれど。何か私も」
「シン君に惚れた?」
「そ、そんなのじゃないけれど」
だがその頬は赤らんでいる。
「ただ。ちょっとね」
「ちょっとねえ」
「何が言いたいのよ」
「別に。けれどね」
ミサトはリツコを見ながら思わせぶりに言う。
「少年ってのもいいわよ」
「だから私は」
少しムキになってきていた。
「別にそんな」
「わかったわ。じゃあそういうことにしておいてあげる」
「全く。何が言いたいのよ」
しかしシンが少し気になっているのは事実だった。何故ならリツコが彼に問うたからである。
「いい、シン君」
「ああ」
「いいわねえ。ここではいって言わないのも」
ミサトは相変わらず何かを楽しんでいる様子であった。
「彼らしいっていうか」
「相手は接近戦に弱いから。一気に突っ込んで」
「わかった」
「キラ君はフォロー」
リツコの指揮は的確だ。いつもミサトの横にいて学んでいるということであろうか。
「派手に撃って。いいわね」
「わかりました」
「ただ、攻撃が激しいからそれには注意してね」
「はい。シン」
キラは言葉を受けたうえでシンに声を送ってきた。
「後ろは任せてね」
「ふん」
だがシンはそれには答えはしない。ただ前に進んだだけであった。
「俺一人でもやってやる」
シンは今デストロイだけを見ていた。その中にいるステラを。
「ステラ、君は俺が助け出す」
デストロイに対して言う。
「何があってもな。行くぞ!」
「来るなぁぁっ!」
デストロイから叫び声が聞こえる。そして激しい攻撃が繰り出される。
だがシンはそれをかわす。ミラージュコロイドで分身しながら。
「えっ!?」
「こんな攻撃で!」
シンはデストロイの無差別的な攻撃をかわしながら叫んでいた。
「俺は止められはしない!」
そして突き進む。瞬く間にデストロイの懐まで飛び込んできた。
「ステラ、君を死なせはしない!」
「誰・・・・・・!?」
「俺だ!」
「俺・・・・・・」
ステラにはまだそれが誰なのかわかっていなかった。
「このまま君を死なせはしない!それだけは言う!」
「死ぬ・・・・・・ステラ死ぬ・・・・・・!?」
ここでシンは迂闊な言葉を言ってしまった。死という言葉を聞いたステラに異変が起こったのだ。
「嫌あぁっ!?」
「!?」
突如としてコクピットの中で暴れだした。
「死ぬのは嫌あぁっ!ステラ死にたくない!」
「何がどうしたんだ?」
呆然としているシンの前でデストロイが動いた。そして変形し背中に巨大な円盤を背負ったガンダムとなったのであった。
ガンダムといってもかなりの大きさであった。そう、それは漆黒の巨人であった。禍々しいまでの威圧感をそこに誇示していた。
「何・・・・・・ガンダム」
「それにしても・・・・・・何て大きさなんだ」
シンだけでなくキラもその巨大さを見て呆然としていた。二人はガンダムの威圧感の前に小さくなっているようにさえ見えていた。
「おい」
ここでロウが彼等に通信を入れてきた。
「その形態になったら注意しろよ」
「注意!?」
「そうだ。これまで以上の火力を持ってるからな。間違っても前には出るな」
「前にはか」
「吹き飛ばされたくなかったらな。いいな」
「あ、ああ」
シンはそれに応える。だがその間にデストロイガンダムはその前にビームを溜めていた。
「いけない。シン君、キラ君!」
ミサトがゴラオンの艦橋から叫ぶ。
「よけて!」
「このままだと君達が!」
リツコもまた。だが間に合わなかった。ハイメガ粒子砲を彷彿とさせる巨大な幾条もの光が彼等に迫ってきた。
「ちっ!」
「くっ!」
しかし二人はここで思わぬ行動に出た。シンは掌から、キラはハイマットを前に思いきり放ってそのビームを受け止めたのであった。あと少し遅ければ彼等は確実に死んでいた。
「ちょっちどころじゃなく危なかったわね」
ミサトは二人が何とか危機を脱したのを見てほう、と息を漏らしていた。
「あともうちょっと遅かったら死んでたわ」
「そうね」
リツコにも応える。彼等は何とか生き残ることができたのだった。
「けれど。問題はこれからね」
「どうしたものかしら」
「うわあああっ!」
デストロイガンダムは今度は右腕の指から五条のビームを放ってきた。それでキラを撃墜しようとする。
「まだっ!」
キラは左右に飛びそれをかわす。かわしながらシンに対して言う。
「シン、今だ!」
「何っ!?」
「右腕を、断ち切って!」
「右腕をか!」
「うん、早く!」
フリーダムで引き付けているうちにと。彼は言ったのだ。
シンはそれを受けて素早く動いた。ビームサーベルを引き抜きそれを一閃させたのだ。
「ムンッ!」
それでデストロイの右腕が根元から落ちた。ゆっくりと地面に地響きと共に落ちた。
「これでまずはよしね」
「そうね。キラ君」
ミサトはすぐにキラに通信を入れた。
「すぐに接近して」
「接近ですか」
「そうよ。それで彼の援護に」
「お願いね」
「わかりました。じゃあ」
キラはミサトとリツコの言葉を受けてすぐに前に出た。ミサトはそれを見ながら呟く。
「さて、二人共懐に入ったわね」
「どうなるかしらね」
キラはガラ空きになった右から突き進む。しかしデストロイは残った左腕でデスティニーを掴んで握り潰そうと迫っていた。
「それならっ!」
キラはその左腕にハイマットを放った。それはデストロイの肘を直撃しそこから吹き飛ばしてしまった。
「シン、大丈夫!?」
「あ、ああ」
シンは戸惑いながらもそれに応える。
「何とかな」
「そう、よかった」
キラはその言葉を聞いてほっと安堵の息を漏らした。その息の音はシンにも聞こえていた。
「済まないな」
「いいよ、それより」
キラはシンの礼を受けてからまた言ってきた。
「これで両腕を潰したから」
「ああ」
シンはデストロイに顔を向けた。そして声をかける。
「ステラ!」
「!?」
その声はステラの耳にも届いていた。ふと顔をそちらに向けた。
「わかるかい!?俺だ!」
「誰!?」
「シンだよ!聞こえるか!?」
「シ・・・・・・ン・・・・・・」
「大丈夫だ!君は死なない!」
「ステラ・・・・・・死なないの?」
「そうだ!君は・・・・・・」
そして言った。
「君は俺が守るから!何があっても死なない!」
「シン・・・・・・」
その言葉にようやく何かが動いた。
「シン・・・・・・?」
「そうさ、俺が」
優しい言葉でそれに応える。
「俺が守るから。だから」
「シン!」
身を乗り出して叫ぶ。しかし。
突如としてデストロイに異変が起こった。暴走しだしたのだ。
「なっ!?」
「チッ!よりによってかよ!」
ロウが大空魔竜の艦橋から叫んだ。
「おい、まずいぞ!」
「どうしたんだ、今度は」
「暴走しやがった!このままだと無差別に攻撃をはじめる!」
「何っ!?」
「それか自爆だ!ステラも死んじまうぞ!」
「そんな・・・・・・どうすればいいんだ!」
シンは突然の出来事に呆然となってしまった。だがここでキラが叫んだ。
「大丈夫だ、シン!」
「キラ・・・・・・」
しかしそこに。デストロイのあの巨大なビームが放たれてきた。それはローエングリンやタンホイザーすらも凌駕するものであった。
「うわあっ!」
「シン君!」
「シン!」
ミサトとタリアが同時に叫んだ。至近からのその攻撃はいかにシンといえどかわせるものではなかった。
「シ、シン!」
これはステラがしたものではなかった。彼女の制御をもう離れていたのだ。このままシンはデスティニーごと光の中に消えていくかと思われた。
しかしここでキラがまた動いた。フリーダムの全てのエネルギーを集めたかの様な激しいハイマットの斉射を横から放った。それはデスティニーの目の前に光の帯を作りデストロイの攻撃をまたしても相殺したのだった。
キラの動きはそれに留まらなかった。射撃を終えると前に飛びビームサーベルを一閃させた。それでコクピットの装甲を断ち切ったのだ。
「な・・・・・・」
シンは一瞬何が起こったのかわからなかった。だが彼の目の前に現われたのは露わになったコクピットから姿を見せるステラであった。
「シン、早く!」
キラはシンの横に来て言った。
「今だよ、彼女を!」
「キラ、御前・・・・・・」
自分の命を救っただけでなくステラへの道まで開けてくれたキラに今気付いたのだ。いつもあれだけ敵意を向けている自分に対して。呆然とするのも無理はなかった。
「俺の為に・・・・・・」
「話は後だよ、早くして!」
キラはそれに構わずに言う。
「そうしないとデストロイが」
既にデストロイはあちこちから煙を吹いていた。暴走がその全身を責め苛み自爆寸前にまでなっていたのだ。
「迷ってる暇はない!さあ!」
「ああ!」
シンは意を決した顔でそれに頷いた。そしてすぐに動いた。
すぐにデストロイに接近しコクピットを開く。そのままデストロイの中に移りステラに駆け寄った。
「シン・・・・・・!?」
「うん、俺だよ」
シンはステラに対して優しい笑みで応えた。
「さあ行こう。これで君は」
「うん。シンと一緒だね」
「そうだよ。じゃあ」
「うん!」
二人は手を取り合った。そしてデストロイの牢獄から脱出し今運命の天使の中へと入ったのだ。
「ステラを救出したぞ!」
シンはデスティニーのコクピットから叫ぶ。
「よし、行くよ!」
「ああ!」
自由の天使が導く。彼等は捉われの少女を抱いて今天高く舞い上がった。その下では漆黒の巨人があちこちから火を噴き遂に果てようとしていた。
そして大爆発を起こした。あと一歩シンの動きが遅ければどうなっていたかわからなかった。
「間一髪ってやつだったな」
「そうだな」
ジョナサンの言葉にトッドが応える。
「それでハッピーエンドってやつさ」
「ああ」
「シン」
大空魔竜の艦橋からサコンが彼に通信を入れてきた。
「すぐに大空魔竜に来てくれ。いいな」
「わかった」
彼はそれに応える。すぐにステラを抱いたまま向かう。
側にはキラがいた。シンは今ようやく彼の存在に気付いた。
「キラ」
彼のフリーダムに顔を向ける。そして一言言った。
「有り難う」
「・・・・・・うん」
キラはその言葉を受けてこくりと頷く。今彼等の心も交わった。
戦いは三機のデストロイを失った時点でティターンズの敗北が決定していた。あの三機のガンダムと歴戦のエース達でも流れを変えることはできなくなっていた。
「ここで終わりだな」
ジブリールは苦い顔でそう述べた。
「一時撤退だ」
「撤退ですか」
「そうだ、無駄な損害は避ける」
ジブリールの判断はそれであった。
「これ以上の戦闘は無意味だ。一時オスロまで下がる」
「わかりました」
ジャマイカンはそれに応える。
「ではそのように」
「うむ」
ジブリールは再度戦うつもりであった。だがそうはいかなかった。
オスロに撤退する途中で宇宙からの命令が伝わってきたのだ。
「何っ、それは本当か」
「はい」
報告をするブルーコスモスの同志がそれに応えた。
「すぐに宇宙にまで撤退しろとのことです」
「だが我々にはまだ戦力が」
「これはジャミトフ=ハイマン閣下の御言葉です」
「閣下のか」
「はい。ですから」
「・・・・・・止むを得ないか」
ジブリールとしてはそれに従うしかなかった。彼もジャミトフの命令には従うしかないのが実情である。
「わかった。では宇宙に戻ろう」
「はい」
「それならそれでやることがあるしな」
「レクイエムですか」
「そうだ」
ジブリールは同志の言葉に頷く。
「今度はそれだ。それでコーディネイター達を滅ぼす。いいな」
「わかりました」
「そういうことだ。それではな」
彼は言う。
「地球に下がる」
「はっ」
「そして閣下」
「どうした?」
「もう一つ残念なお知らせがあります」
別の同志からの報告であった。
「あの戦いでエクステンデッドを失いましたが」
「それはもう知っている」
「えい、それだけではなく」
「まだ何かあるのか?」
「ガイア、カオス、アビスを乗せたスードリが撃墜されました。それにより」
「そうか。だがそれはいい」
「宜しいのですか?」
「あの三人がいないならば然程意味はないものだからな」
「わかりました。では」
「うむ。では北極へ向けて撤退するぞ」
彼は言った。
「そこから宇宙へ戻る。いいな」
「了解」
こうしてティターンズは再び地球から離れ宇宙に戻ることとなった。だが牙はまだ存在しておりそれを研いでいるのであった。戦いはまだ終わりはしない。
ステラを救出したシンはミネルバに戻っていた。そこでアスランから話を聞いていた。
「本当なんだな、それは」
「ああ、本当のことだ」
アスランは驚きを隠せないシンに笑顔で応えた。
「彼女は普通に戻った」
「そうか、よかった」
わかっていたとはいえそれを実際に聞くと聞かないのとでは大きな違いであった。
「ステラがやっと」
「ただ、暫くは安静らしい」
「そうだろうな」
それはわかった。
「エクステンデッドから元に戻れるんだ。それ位は」
「後はサコンさん達がやってくれう。シン」
あらためてシンに言う。
「よかったな」
「・・・・・・ああ」
笑顔になる。それが嬉しくて仕方がなかった。
「よっ、色男」
そこでルナマリアが声をかけてきた。
「何だよ、急に」
「捉われのお姫様を助け出した気分はどう?今じゃあんたロンド=ベルのヒーローよ」
「別にヒーローになりたくてやったわけじゃないさ」
シンは少しはにかみながらもそれに応えた。
「ただステラを助けたかっただけだからな」
「そうなの」
「ああ」
「そうだな。英雄ってのは自分でなるものじゃない」
アスランがそれを聞いて述べた。
「人から認められてようやくなれるものなんだ」
「そうなの」
「俺はそう思う。シン」
「で、俺が英雄ってわけか」
「彼女にとってはな。よくやった」
「・・・・・・済まない。けれど」
「けれど!?」
「何だ!?」
ルナマリアとアスランはシンのこの言葉に顔を向けてきた。
「これは俺一人でやったことじゃない」
「そうか」
アスランはその言葉を聞いて優しい笑みを浮かべた。
「そうだな」
「ああ。キラがいてやっとな。できたことなんだ」
あのことでそれがわかった。その他のこともまた。彼が学んだことは多かった。
「あいつがいてステラはやっと助け出したんだ。・・・・・・俺だけじゃ駄目だった」
「またえらく殊勝なこと言うわね」
ルナマリアはそれを聞いて目をパチクリさせた。
「あんたの言葉じゃないみたいよ」
「キラのおかげだって言いたいんだ」
「そうさ」
アスランにまた応えた。
「あいつのおかげなんだ。本当に」
「わかった」
アスランはその言葉に優しい顔のまま頷いた。
「じゃあ皆」
「皆!?」
ここでシンはふと顔を上げた。
「皆って・・・・・・」
「来てくれ。もう一人のヒーローと一緒に」
「おうよ」
ディアッカの声がした。
「さあキラ、出番ですよ」
「う、うん」
ニコルに促されてもう一人のヒーローがやって来た。他のロンド=ベルの主要メンバー達も一緒である。
「皆、どうしてここに。キラまで」
「御前がそう言うと思ってな」
アスランが驚くシンにそう言った。
「俺が・・・・・・」
「ああ。キラのことでな。それで」
「やっとだよな」
「そうだよな、本当に」
トールがサイの言葉に頷いている。
「こうして二人がちゃんと会える時が来るなんて」
「かなり待ったわよ」
カズイとミリアリアも言う。
「さあシン君。キラ君も」
マリューとタリアがそれぞれ二人に対して声をかけた。
「二人で」
「言いたいことがあったら言いなさい」
「は、はい」
「わかりました」
キラとシンはそれに頷く。そして今正面から向かい合った。
「キラ・・・・・・」
まずはシンが言った。
「ステラのことは・・・・・・有り難うな」
「・・・・・・うん」
キラはその言葉に頷く。
「御前がいなければステラは助けられなかった」
シンはまた言った。
「全部御前のおかげだ」
「それは違うよ」
「!?」
「君が彼女を助けたいって思ったからだよ」
今度はキラが言った。
「そのおかげで彼女は助かったんだ」
「キラ・・・・・・御前・・・・・・」
「君がいないと彼女は助からなかったんだ」
キラはシンを見て言う。
「君が彼女を助けたんだよ」
「そうだな。彼女を助けたのはシン、御前だ」
アスランが二人の間に来て言った。
「そしてそれを助けたのがキラ、御前だ」
「そうだな」
アムロがその言葉に頷く。
「その通りだ。彼女は君達が二人で助けた」
「そのことは誇ってもいい」
クワトロも言う。
「そういうことだ。だから二人共」
アスランはまた二人に対して言った。
「ここは」
「ああ。キラ」
「シン・・・・・・」
「これからは」
「うん。これからは」
「宜しくな」
「僕の方こそ」
二人は同時に手を出し握手をした。長い間対立していた二人がようやく和解したのであった。
「いいわね、こういうのって」
ミサトがそんな二人を見て満面に笑みをたたえていた。
「若さってのを感じるわ」
「そうね。何か」
マリューがそれに応える。
「学生時代に忘れていた何かを思い出すわ」
「あら、マリューもそうなの」
「ええ、そうよ」
「何か相変わらずどっちがどっちの声なのかわからないな」
フレイがそれを見て言う。
「そういうフレイだってイズミさんやマヤさんと一緒だとわからないよ」
「そうよね。本当に似てるから」
「ううむ」
アイビスとツグミにそれを言われて難しい顔になっている。彼女もこのことも関しては人のことは言えた義理ではないのである。
「けれどこれであの二人の喧嘩が終わるのね」
「まあ喧嘩といってもあの馬鹿が一方的につっかかっていただけだけれどね」
メイリンにルナマリアが突っ込みを入れた。
「それでも何はともあれ感動の和解」
「そうよね。これでハッピーエンドよね」
「これはな」
だがハイネの言葉には何か棘があった。
「何かあるの?まだ」
「いささか甘いな」
彼は言った。
「甘いって」
「シンとキラは仲直りしたじゃない」
「一つどうしようもないものがある」
「何、それ」
「あいつとカガリのことだ」
ハイネは言った。
「ああ、あれね」
ルナマリアはそれを聞いてすぐに冷めた目になった。
「あれはどうしようもないわよ」
「何故だろうな」
ハイネは首を傾げさせる。
「あんなに仲が悪いのは」
「似た者同士だからじゃないの?」
「やっぱりそれか」
「そうじゃなきゃあんなにね」
「仲悪くならないわよね」
メイリンもそれに頷く。
「まあそっちはユウナさんに頑張ってもらわないと」
「あのね、君達」
丁度そこにそのユウナがいた。
「あっ、いたんですか」
「さっきからいたよ。カガリのことだけれど」
「はい」
「僕とキサカに押し付けてないかい?」
「だって」
「ねえ」
ルナマリアとメイリンはその言葉に顔を見合わせる。
「やっぱりそっちは」
「ユウナさんが」
「やれやれ。何かねえ」
ユウナはその言葉に情無い顔を見せてきた。
「ロンド=ベルに入ってからかえって気苦労が増えたよ」
「何を仰るのですか、ユウナ様」
そこにもう一人の苦労人キサカがやって来た。
「今までは私一人だったのですぞ。それで」
「平和だったなあ、オーブも」
「何か身につまされるな」
ハイネの言葉は真剣なものだった。
「この部隊は色々な顔触れがいるが」
「まあ御気になさらずに」
ベンがここで言う。
「カガリ王女もあれでお優しい方ですし」
「そういう軍曹さんが一番人間ができてるわよね」
「そうよね。あの三人をしっかりフォローしてるんだから」
「ははは、それは慣れです」
ベンは笑ってそう返す。
「もっとも時には厳しいことも言わせて頂きますが」
「じゃあさ軍曹」
ユウナはそんな彼にスカウトをかけてきた。
「階級は三佐でさ、それで」
「おお、いいですなそれは」
キサカもそれに乗ってきた。
「オーブに来ないかい?それでさ」
「いえ」
だがベンはそれをやんわりと断ってきた。
「私は今の職務に満足しておりますので」
「ああ、そう」
「ううむ。我々の負担を何とか減らさないと」
「艦長はどうかな」
「どうでしょうね」
今度はトダカに顔を向けていた。
「丁度身内だしさ」
「そうですな。丁度」
「ユウナ様」
そこへトダカが声をかけてきた。
「あっ、聞いていたの」
「キサカまで」
「う、うん。ちょっとな」
キサカは同僚に睨まれて慌てて態度を変える。
「さっきから黙って聞いていれば」
「いやあ、君も大変だと思うけれど」
「やはりクサナギの艦長として」
「それならもう適役がいるではありませんか」
「えっ、誰だいそれは」
「一体」
「ほら」
「何ィッ!?」
話を振られたアズラエルがギョッとした顔を見せる。
「アズラエルさん、出番ですぞ」
「僕はオブザーバーじゃなかったっけ」
「最近暇そうですし。どうでしょうか」
「いやあ、これでもさ。結構財団の仕事が」
極めて白々しい嘘をついて逃げようとする。しかしそうはいかなかった。トダカも必死である。
「まあストレス解消に」
「逆にストレス溜まると思うけど」
「いやいや、そうでもないですので」
「同じクサナギの乗組員としてだね」
「是非ここは」
ユウナとキサカも乗ってきた。
「だからさ、君達は民間人に対して」
「乗ったが最後です」
トダカの口調が有無を言わせぬものになった。
「それにこれは艦長命令ですので」
「ちょっと待ってくれ、責任者って確か」
「いやあ、船のことは全部彼に任せているんだよ」
ユウナはそう言って逃げにかかった。
「ほら、僕は首相で参謀総長だから艦長じゃないしさ」
「だからといって」
「いやあ、助かるよ」
ユウナは話を強引に収めにかかってきた。
「善意ある協力者のおかげで」
「我々は救われます」
「そんなに厄介なら隔離してみては」
「・・・・・・私は猛獣か?」
四人のあまりものやり取りにカガリは憮然とした顔になっていた。
「さっきから黙って聞いていれば」
「少なくとも檻に入れられたマントヒヒよりは凶暴だな」
「何だとっ!」
すぐにシンの言葉に反応を見せてきた。
「マントヒヒだと!御前言うに事欠いて!」
「そうじゃなきゃ何だ!マンドリルか!」
「同じだろうが!私は猿か!」
「そうだろ!まだ尻だって青い癖に!」
「なっ、な・・・・・・」
その言葉に顔を真っ赤にさせる。
「私の尻が青いだと!」
「そうだろ!胸だってないしな!」
「貴様!私はこれでもな!」
カガリはムキになって言う。
「スタイルには自信あるんだぞ!胸だって!」
「五月蝿い!このマナ板!」
「シン・・・・・・今のは」
止めようかとしていたキラがその言葉に青くなる。
「禁句だよ」
「御前は黙ってろ!」
しかもシンはそれを聞き入れない。
「この猿女だけは!」
「今度は猿か!もう許さん!」
遂に切れた。
「今日という今日は!」
「やるっていうのか!」
「ここで簀巻きにしてそのまま蹴り出してやる!」
「やれるものならやってみろ!」
二人は取っ組み合いの喧嘩に入った。止めに入ろうとするキラもお構いなしだ。
ついでに反射的に止めようとしたユウナが二人同時に顎にエルボーを受けて倒れる。この二人の仲だけはどうしようもないようであった。

第百二十七話完

2006・11・29  
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