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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第百二十三話 怨念の荒野

                  第百二十三話 怨念の荒野

マドラスに辿り着いたロンド=ベル。カガリはそこに着いてもずっと部屋から出ては来ない。
「カガリは相変わらずかい?」
「はい」
マユラがユウナの問いに答えた。
「やっぱり。どうしても出たくはないそうです」
「そう、やっぱりね」
彼はそれを聞いてあらためて頷いた。
「それは仕方ないね。やっぱり」
「はい・・・・・・」
「それで君達の今後だけれど」
アサギとジュリにも顔を向けて言う。
「どうなるんですか?」
「正式にロンド=ベルに加わることになったよ。クサナギと一緒にね」
「ユウナ様もですか」
「うん、僕はまあ当然だけれど」
ここで難しい顔を見せた。
「少しね。トラブルが」
「トラブル!?」
「僕も正式に参加することになりまして」
「アズラエルさん」
「貴方もですか」
「おや、何か不都合でも」
「思い切りありますよ」
三人はすぐにそう答えた。
「お仕事はいいんですか?」
「ノートパソコンがあれば。それでメールを出したりやり取りができますからね」
「はあ」
「それに部下がいますし妻もいますから。財団の方は大丈夫ですよ」
「そうですかって・・・・・・えっ」
「アズラエルさんって奥さんいたんですか!?」
「嘘でしょ、そんな」
「何ですか、そのBF団を見るような目は」
「だって。ねえ」
「アズラエルさんがちゃんとした家庭持ってるだなんて」
「これでもちゃんと子供もいますよ」
彼女達にとっては余計に信じられない言葉であった。
「それは御安心下さい」
「嘘みたい・・・・・・」
「そんな・・・・・・」
「そんなに驚くことですか?僕だって結婚できますよ」
「家庭を持ってるってことがねえ」
「信じられないわよね」
「やれやれ。困ったことです」
「それで本当にロンド=ベルに?」
「はい、それは本当です」
その問いに答えた。
「これから宜しくお願いしますよ。何かと助けさせてもらうつもりなので」
「まあ作戦とかには参加されないので」
「そりゃそうですよね」
「アズラエルさんって実業家だから」
「大河長官とは違いますからね」
それは自分でも認めた。
「さて、それではキラ君達と楽しくお茶でもしてきますか」
「何を言っておられるのですか」
だがそれはキサカが制止した。
「おや?」
「メールが一杯来ていますよ。それへの処理が」
「仕事か。それはよけてくれないんだね」
「ささっ、ですから早く御自身の部屋に」
強制的にキサカに自分の部屋へと案内される。そして彼はその場から姿を消したのであった。
「というわけで僕達も正式にいることになったから」
「オーブ軍や市民はどうなったんですか?」
「軍はシンガポールに、市民は東南アジア各地に避難しているよ」
「そうですか、よかった」
「じゃあ一安心ですね」
「うん、とりあえずはね。名目的な元首はカガリで象徴的な意味合いもあってロンド=ベルにいるんだけれどね」
「カガリ様は今は」
「ちょっと」
「そうなんだよね。困ったなあ」
あらためて腕を組んで困った顔をする。
「あれで結構カリスマ性があるからねえ。表に出て来て欲しいんだけれど」
「難しいみたいです」
「困ったことだよ。どうしたものか」
「おいこら!」
「おや!?」
ここで当人の怒鳴り声が聞こえてきた。
「何で御前がここにいる!」
「それはこっちの台詞だ!」
「あれっ、カガリの声だけれど」
「誰かと喧嘩ですかね」
「そうみたいですね」
三人娘もそれに応える。
「言ってみます?」
「どっちみち何か厄介なことになってるみたいだね」
カガリとの長い付き合いからそれを察していた。
「じゃあ行ってみるか」
「はい」
「ユウナ様、お願いしますね」
「何かカガリっていえば僕かキサカなんだよなあ」
「お任せします、ユウナ様」
トダカは話を振られる前にもう逃げていた。
「私は艦橋を預かっておりますので」
「トダカ、これって当直制にしないかい?」
ユウナは困った顔で彼に提案してきた。
「カガリの相手をさ。その日で」
「生憎ですが私は艦長ですので」
「それはわかっているけれどさ。それにしても」
「ささ、キサカさんもいないし」
「早く行かないと」
「わかってるよ。それにしても」
だがそれでも言いたかった。
「カガリも。変わらないねえ」
「元気になられただけいいじゃないですか」
「そうですよ。やっぱり沈んだカガリ様なんてカガリ様じゃないですよ」
「それもそうだね。じゃあ」
「はい」
三人は明るい笑顔で頷いた。
「行こうか」
「わかりました」
ユウナは三人を連れてカガリの部屋に向かった。すると部屋の扉の前で下着姿のカガリが暴れていた。
「想定はしていたけれど」
ユウナはそれを見て悲しいような辛いような顔になった。
「何でまた。こうなのかなあ」
「御前等!何しに来た!」
「な、何しに来たってよお」
ビーチャが飛んで来るものをニュータイプの勘でかわしながら応えていた。
「落ち込んでるっつうから」
「お菓子とか持って来たのに」
イーノが言う。
「何っ、お菓子!?」
それを聞いたカガリの動きがピタッと止まる。
「お菓子なのか!?」
「だからさっきから言ってるじゃないか」
モンドが抗議めいて返す。
「そうよ。ビールもあるよ」
「売店でこっそり買ってきたからさ」
「ビールもあるのか」
エルとルーのビールという単語に今度は目を輝かせてきた。
「そうさ。インドのビールだけれどな」
そしてジュドーが述べた。
「どうだい?皆でさ」
「カガリが落ち込んでいるだろうから」
「それで一杯買って来たんだよ。一緒に騒ごうと思ってな」
「そうだったのか、御前等」
プルとプルツーの言葉が胸に染みる。
「それでどうかしら。皆でね」
フォウもそこにいた。
「気晴らしによ。騒ぎましょうよ」
「もっともビールがあるのは意外だったけれどな。全くジュドーは」
ファもカミーユも。ロンド=ベルの少年ニュータイプ達がそこにいた。
「サンドイッチもあるし」
「セシリーのパンは凄く美味いんだ。だからそれも」
「シーブックはそれを毎日食べているんだよ。羨ましいよね」
「セシリーのサンドイッチか」
カツの言葉に異様に反応していた。
「どうかしら」
「クスハの手料理じゃないよな」
「大丈夫大丈夫」
ジュドーがそれを安心させる。
「今ブリットと一緒にマドラスに出ているからいねえよ」
「そうか。ならいい」
そこまで聞いて頷いた。
「それじゃあ入ってくれ。何かと散らかっているけれど」
「わかった。けれどその前に」
「何だ?」
カミーユの言葉に顔を向ける。
「その服装は何とかしてくれないか」
「正直目のやり場が」
ウッソが困った声を出した。
「もうちょっとお姫様らしくなあ」
「五月蝿い!」
オデロに言い返す。
「まあいいか。それじゃあ飲んで騒ごうぜ」
「そうだな。ちょっと待ってくれ」
トマーシュにそう返してから一旦部屋に戻る。それからジーンズとタンクトップで現われた。
「待たせたな。それじゃあ入れよ」
「ああ」
ジュドーがそれに応える。
「しっかしなあ」
ビーチャがまた述べた。
「何だ?」
「男みたいな格好だなあ」
「そうだよね。何か」
モンドとイーノも言う。
「カガリ、あんたスカート持っていないの?」
「スカートは好きじゃないんだ」
ルーに対して返す。
「あたしだって大抵タイツかズボンだけれどね。けれど」
「悪いのか?これが動き易くて」
エルにも言う。
「いつもこれだ。いいじゃないのか、それで」
「貴女お姫様なのよね」
フォウが核心を言う。
「そうだが。いいじゃないか、戦うお姫様でも」
「何かイメージがねえ」
「全く。おしとやかなお嬢様ってイメージが」
「このお姫様には皆無とは。嘆かわしいことだ」
「・・・・・・御前等、何時の間に来たんだ」
気付けばそこにいたドラグナーの三人に顔を向けた。
「いや、酒があるって聞いてさ」
「お菓子もあるんだろ」
「俺達も持って来たから。参加を志願するよ」
「全く。そういうことになると来るな」
悪態をついてはいても悪い気はしなかった。
「仕方ない。じゃあもう皆入ってくれ」
「よし」
「そうこなくっちゃ」
「今日はとことんまで飲むぞ。いいな」
「おう!」
「どんちゃん騒ぎだ!」
こう言い合ってカガリの散らかった部屋の中に皆で入っていく。ユウナはそれを見ていたが自然に顔が穏やかになっていた。
「彼等もあれで気が利くんだな。有り難いよ」
「けれどユウナ様」
だがここでアサギが言った。
「ビールまで持って来ていますよ」
「ウイスキーとかまで。いいんですか?」
マユラも言う。
「まあ少し位はね」
ユウナはそうしたことには五月蝿い男ではない。それはいいとした。
「別にいいさ。カガリなんてあれでかなりの酒好きだから」
「そうなんですか」
「君達も行けばいいさ」
「私達もですか?」
「ああ。カガリとは同じ小隊だったね」
「はい」
「新編成って形で」
「だからさ。ここで親睦を深めるといいよ。丁度ニュータイプの彼等もいるし」
「カミーユ=ビダンにジュドー=アーシタ」
「ロンド=ベルの看板エース達ですね」
「彼等とも話してくればいいさ。さあ」
「それじゃあ」
「お言葉に甘えまして」
「うん」
「けれどユウナ様」
ジュリが問うた。
「ユウナ様はいいんですか?御一緒しなくて」
「あっ、僕はいいよ」
それはやんわりと断った。
「今はね。何かとやることがあるし」
「そうなんですか」
「うん、君達だけで楽しんできたらいい。ただし」
「ただし?」
「カガリの酒癖はかなり悪いから。それは注意しておいてね」
「・・・・・・わかりました」
ユウナのその言葉にとてつもなく嫌な予感がした。
「とりあえず行ってみます」
「うん。じゃあ」
「けれどユウナ様」
「何かな」
「いざとなったら来て下さいね、お願いですから」
「・・・・・・やっぱりそうなるんだね」
ユウナはそれを言われてまた悲しいような辛いような顔になった。
「だってユウナ様がおられないと」
「誰がカガリ様を」
「わかったよ。じゃあその時また呼んでよ」
「はい」
「絶対にお呼びしますんで」
「やれやれ」
ユウナはあらためて溜息を吐き出した。
「どうにも。逃げられないものなんだねえ」
その後で今度は酒でブラとショーツだけになるまで脱いでそこから大暴れしたカガリをユウナが止めに入りウイスキーの瓶で頭を割られることになった。彼の災難は結局自分からやって来るものであった。
カガリが暴れている頃アークエンジェルではサイ達がそれまでの一般兵士の服から士官用の白い軍服に着替えていた。そしてそれで艦橋に来ていた。
「あら、皆似合うわね」
マリューは彼等の姿を見て顔を綻ばさせた。
「中々様になっているわ」
「そうですか?」
「何か。凄い違和感があるんですけれど」
そこにはキラもいた。彼も士官の服に着替えたのだ。
「そうかしら。けれどこれからはその服なのよ」
「はあ」
「スカートが違うんですね」
ルナマリアはそれまでのミニスカートから膝までのタイトになっていた。その下に黒いストッキングまで履いている。
「そうよ。事務用のスカートなのよ」
「動きにくいような」
「まあそれは我慢して。やることは変わらないけれど」
「じゃあ俺達は」
「ええ。今まで通り艦橋勤務よ」
カズイにそう答えた。
「ノイマン中尉が副長兼航海長で。皆その下になるわ」
「そうなんですか」
所謂サムライ配置である。士という待遇なのだ。
「これで士官も増えて艦の運営が楽になるといいけれど」
「ですね」
「バジルール中尉は結局見つかりませんでしたけれど」
「フレイも」
「彼女達が無事ならいいいけれど」
マリューも彼女達が心配であるのだ。それは隠さない。
「今はそれを言っても仕方ないのはわかっているわ」
「はい」
「それでもね。生きていれば何時かきっと会えるから」
「そうですね」
「それじゃあ」
「ええ。元気を出してね。ここは踏ん張りどころよ」
「ところでこれからですけれど」
「ええ」
サイの言葉に顔を向ける。
「またネオ=ジオンと戦うんですよね」
「そうよ。まずは彼等の相手よ」
マリューの顔が引き締まる。
「それから北上して北極圏のティターンズだけれど」
「確かあっちにはアナベル=ガトーがいるんですよね」
「ソロモンの悪夢が」
「そうよ、それは確認されているわ」
トールに答えた。
「だから。気をつけてね」
「ええ」
「彼は手強いなんてものじゃないから。それに」
「それに?」
「またアプサラスが出て来ているみたいだし」
「アプサラスですか」
「ギニアス=サハリン少将もね。来ているみたいなのよ」
「何か凄い顔触れですね」
「そうね。今回も大きな戦いになるわよ」
「またしてもですね」
「いい?覚悟は」
彼等を見て問う。
「士官になってはじめての戦いだけれど」
「はい」
「もう逃げることはできないですからね」
「いい心意気ね。何か私より凄いじゃない」
彼等の言葉に今度は顔を綻ばせた。
「それじゃあ」
「決起集会ですか?」
「といきたいところだけれど実は私葛城三佐に呼ばれてるのよ」
「またですか」
「ええ。だから君達でね。楽しんできて」
「わかりました」
「じゃあキースさん達と」
「ええ。それじゃあね」
「はい」
サイ達はこれで一時解散となった。そして仲間内で楽しくやることになった。彼等は彼等で元通り打ち解けあい、戦友同士になっていた。それはザフトの面々も同じであった。
「ああ、辛っ」
ルナマリアがレストランでインドのカレーを食べてこう言っていた。4
「噂には聞いていたけれど本当だったのね」
「インドのカレーか?」
「ええ。想像以上だったわ」
同じテーブルにいるミゲルにそう返す。他の面々も同じテーブルにいる。大きなテーブルを囲んでいるのである。
「こんなに辛いなんて」
「けれど美味しいですよ」
ニコルがルナマリアが食べているのと同じ種類のカレーを食べながら言う。
「この辛さがかえって食欲をそそって」
「そうだな。いい辛さだ」
ディアッカがそれに頷く。
「辛いカレーってのもな。いいものさ」
「カレーっていえばイザークさんですけれど」
「ああ、あいつか」
ディアッカはエルフィに応えて顔を向ける。
「あの人はカレーは甘口なんですね」
「それもな。滅茶苦茶甘いのじゃないと駄目なんだ」
「へえ」
「意外だろ?あいつはあれで甘党なんだよ」
「意外ですね、それは」
「だから俺も料理には工夫したんだぜ」
「ディアッカさんが料理をですか」
「あれ、フィリス知らなかったの?」
ジャックがそれを聞いて言う。
「ディアッカさんって料理の達人なんだぜ」
「へえ」
「特に炒飯が得意なんだよ」
「凄いですね、それって」
「ガキの頃から料理作るのは好きだったんだ。それでな」
「じゃあ今度ホウメイさんと勝負してみるか?」
「っておいイザーク」
その声に反応する。
「幾ら何でもプロとはって・・・・・・イザーク!?」
「おい、俺はイザークなどではないぞ」
「あれっ、あんた」
気付けばザフトの面々の後ろにナデシコの面々が来ていた。
「確かダイゴウジさんだったよな」
「そうだ!俺はダイゴウジ=ガイだ!よく覚えておけ」
「あれ、おかしいですね」
だがフィリスはそれに異を唱える。
「名簿にそんな人いませんでしたけれど」
「うっ」
「そうなのか」
「はい。ダイゴウジ=ガイという人は」
ハイネに答える。
「いませんでしたね」
「ううう・・・・・・」
「じゃあ本名じゃないっていうの?」
ルナマリアが問う。
「ええと確か」
「ヤマダさん、またそんなことを言って」
ルリがすっと出て来た。
「ザフトの皆さんを混乱させないで下さい」
「名簿の俺の名前は変更しておいた筈だというのに」
「私とオモイカネでなおしておきました」
ルリは静かな声で述べた。
「あしからず」
「ううっ、俺の心の名前が・・・・・・」
「それよりイザークの声に似てるからびっくりしたぜ」
「本当よね。誰かと思ったわよ」
ルナマリアも言う。
「あいつもどうしてるかな」
「さてな。今頃宇宙でまた色々騒いでいるんじゃないか?」
ハイネとミゲルが言う。
「何か貴方達の声もそっくりなんですが」
ニコルはそれを聞いてふとそう思った。
「まあとにかくだ」
リョーコが出て来た。
「あんた達もカレー食ってるのかよ」
「はい」
ニコルがそれに応える。
「親睦の意味も兼ねて」
「それじゃああたし達も一緒にさせてもらえるか?」
「あんた達もか」
「今は味方同士だし。どうだい?」
「そうだな」
ディアッカが最初に乗り気な顔を見せた。
「面白いな、それは」
「そうそう。同じ釜で飯食う仲になったんだしよ」
サブロウタも出て来た。
「カレーラーメンあるかな」
アキトもいた。
「インドだしないんじゃないかな」
アオバがそれに突っ込む。
「インドはカレーはあっても麺類は」
「ないんですか」
「確かね。インド料理には」
ヒカルにもそう言う。
「無かった筈だよ」
「麺がなくておめーーーーん」
「・・・・・・・・・」
イズミのこの駄洒落にはコーディネイターですら凍りついた。誰も何も言えなかった。
「イズミよお、最近どんどんネタが寒くなってきてねえか?」
「面白い・・・・・・」
「ま、まあよお」
リョーコは話を取り直してザフトの面々に語った。
「そこのデコの広い兄ちゃんもよ」
「ううっ」
アズランはそれを言われてギクリとした顔になる。
「楽しくやらないか」
「は、はあ」
アスランはこめかみをヒクヒクさせながらそれに応えた。
「宜しくお願いします」
「やっぱり気にしていたんだな」
「そりゃそうですよ。やっぱり」
ディアッカとニコルがそんなアスランを見て囁き合う。
「誰がどう見てもあれですから」
「そうだよな。やばいよなあ」
「ところでそちらの艦長さんは何処ですか?」
ユリカがザフトの面々に尋ねてきた。
「タリア艦長ですか?」
「はい。お姿が見えないですけれど」
「あっ、そういえば」
メイリンが言われて気付く。
「何処に」
「タリアさんならレミーさんと御一緒ですよ」
ニコルが述べた。
「レミーさん!?ああ、あの人か」
ハイネにはそれが誰かすぐにわかった。
「ゴーショーグンのだな」
「はい」
「そういえばあの二人も声がそっくりだよな」
ディアッカはまたそれに気付いた。
「アークエンジェルの艦長さんとあのエヴァの色っぽい女の人もね」
「それってどっちですか?」
エルフィがルナマリアの言葉に問う。
「白衣の人ですか?それとも青がかった黒髪の人か」
「黒髪の人よ」
ルナマリアはそう答えた。
「声そっくりだと思わない?あの二人」
「そっくりって言うより同一人物じゃねえのか、あの二人」
ディアッカが言う。
「まんま同じ人格だろ、そっくり過ぎるぜ」
「言われてみれば中身同じですよね」
フィリスがそれに頷く。
「何処となく」
「そういえばあんたもさ」
ルナマリアは妹にも顔を向けてきた。
「あのクスハって娘と声似てない?」
「そうかなあ」
「似てるわよ。ねえ」
「そういえばそうか」
アスランはそれを言われて気付く。
「似てるな、確かに」
「ううん」
「この部隊はそうした方々が多いのです」
ルリがそれに対して述べた。
「ですから間違えられぬようお願いします」
「了解」
「まあ例外もいるだろうけれど」
ディアッカとジャックはそれぞれ言う。
「何はともあれテーブルをもう一個」
「それでザフト、ナデシコ合同のパーティーを」
「あら、気が利くわね」
「おっと」
ディアッカはハルカを見て思わず声をあげた。
「また凄い美人が」
「ふふ、有り難う」
「じゃあテーブルをもう一つと座席を人数分で」
メグミが話を進めていく。
「それでいいですよね」
「ああ、上出来だ」
ナガレがそれに頷く。
「カレーは銘々でだな」
「牛肉がないのは残念だな」
「旦那、インドだからそれは仕方ないよ」
サブロウタがガイに突っ込みを入れる。
「そのかわり鶏肉でも羊でも結構あるぜ」
「ではそれをもらうか」
「そういうこと」
「ところでさ」
アキトがザフトの面々に尋ねてきた。
「彼はいないのかな」
「彼!?」
「ザフトのエースの。あの」
「シン=アスカさんですね」
ルリが言った。
「そう、彼。姿が見えないけれど」
「あいつは今はミネルバにいる」
ハイネがそれに答えた。
「ミネルバにかい」
「ずっとあの娘の側にいる。あれからずっとな」
「そう」
「あのステラって娘だけれどさ」
ルナマリアが言う。
「何か。様子おかしくない?」
「様子、ですか」
ルリがそれに反応を見せた。もうテーブルと椅子が用意されナデシコの面々もそこに座っていっていた。
「そうなのよ。何かどんどん弱っていっているっていうか」
「弱って」
「あたしの気のせいならいいけれど。何かやばくない?」
「だからあの人達が調べているんだな」
ミゲルが述べた。
「サコンさんとあの白衣の人」
「リツコさんよね」
ユリカが問う。
「その人って」
「ええ、そうです」
ミゲルはそれに頷く。
「エヴァのスタッフの」
「あの人達と大文字博士、獅子王博士達がロンド=ベルにいます」
ルリが述べた。
「ですから御安心下さい。あの娘は絶対によくなります」
「じゃああいつもそんなに心配することはないんだな」
ディアッカがそれを聞いて述べた。
「よくなるんなら」
「はい」
「けれどさ」
だがここでメイリンが言った。
「あいつにそれがわかると思う?」
「それは」
「絶対わからないと思うよ。あいつ馬鹿だから」
「おい、また随分ストレートな言葉だな」
リョーコがそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「馬鹿なのかよ」
「そうなんですよ。何でもかんでも一人だけでいるように思って」
「そうなのよね。自己中って言うか」
ルナマリアも言った。
「戦場でも一人で暴れてるし。フォローが大変」
「それはあるね」
アキトにはそれがわかった。
「彼の戦いは何か一人だけの戦いだ。周りを見ていない」
「そうだな。キラと戦ってる時なんかかなりのものだったな」
サブロウタも言う。
「けれどあのセンスは凄いな。そのキラとも互角だ」
ナガレは冷静に戦闘力を分析していた。
「だが。周りと連携できないのなら」
そのうえでこう述べる。
「あのガンダムの能力も完全には発揮できません」
ルリの分析も同じであった。
「残念ですが」
「残念、か」
アスランはその言葉を聞いて呟く。
「あいつは決して悪い奴じゃないんだ」
「それはわかります」
ルリはそれに返した。
「妹さんやご家族を凄く大事にされていますね」
「ええ。だから戦っているし」
「自分が戦場に立って」
「一本気で不器用な奴なんです。決して邪気はない」
「キラ君と同じですね」
「えっ」
このルリの言葉はアスランにとっては驚くべきものであった。
「キラと同じって」
「彼も不器用で邪気があるませんから」
「そうなのよね」
ハルカがそれに頷く。
「彼って何かと悩んでくよくよするけれど優しいし」
「いい子ですよ、キラ君は」
ユリカがザフトの面々に述べた。
「確か君」
そしてニコルに顔を向けてきた。
「キラ君に撃墜されましたよね」
「ええ、まあ」
ニコルはそれに答えた。
「けれど彼謝ったんですよね」
「はい」
その言葉にこくりと頷いた。
「どうですか?彼は」
「いい人だと思います」
そう感じているのはニコルも同じであった。
「少なくとも悪い印象はありません」
「そうですよね。彼もまた同じなんですよ」
「同じ、ですか」
アスランがそれを聞いて呟く。
「はい。二人共似ているから。だから衝突し合ったりもするし」
「悩んだりもする。そして今は」
「あの娘のことで周りが見えなくなっています」
ルリがまたそれを言った。
「早く彼女を何とかしないといけませんが」
「あいつが馬鹿やらないようにしねえとな」
ディアッカが言う。
「さもないとえらいことになるぜ」
「何とかしてみる」
アスランが両手を重ね合わせてそこに唇を置いて述べた。
「キラと同じならあいつだって」
「難しいわよ」
ルナマリアが言った。
「あいつ素直じゃないから」
「わかってる」
「すぐに暴れるしね。気をつけて」
「ところで」
ハイネがここで言った。
「何ですか?」
それにフィリスが反応する。
「レイは何処に行ったんだ」
「あっ、そう言えば」
エルフィもそれを言われてやっと気付いた。
「いませんよね」
「あいつならミネルバに残っていますよ」
ジャックが述べた。
「そうなのか」
「今日当直だから。それで」
「だったらわかるな」
ミゲルがそれを聞いて頷いた。
「けれどな」
「ああ」
ハイネはその言葉に頷く。
「引っ掛かるな。どうしてだろうな」
そう感じるのは勘からであった。
「やばいかもな」
「何かあるんですか」
ヒカルがそれに尋ねる。
「というかあいつのことは色々とわからないことがあって」
「へえ」
「謎の男ってわけね。何か面白そう」
ユリカが暢気にずれたことを言うとまたイズミの駄洒落が炸裂した。
「謎をなぞる・・・・・・面白い」
「・・・・・・まあ今度は比較的な」
リョーコがそれに突っ込みを入れる。
「けれどよ。ザフトの連中が凍っちまってるぜ」
見ればその通りであった。辛く熱いカレーを口にしても凍っていた。
「おめえの駄洒落は何でそう寒いんだ?」
「い、いやさ」
復活したディアッカが述べる。
「別に駄洒落もいいさ。俺達だっていつも緊張しているわけじゃないし」
「そうですよ。よかったら今度」
「今度?」
メグミがニコルに問う。
「僕のピアノでも聴いてくれませんか」
「へえ、ニコル君はピアノなの」
「僕はって」
ハルカの言葉に少し引っ掛かるものがあった。
「うちって結構音楽やってる子多いのよ。だから」
「ファイアーボンバーですか?」
メイリンがそれに問う。
「私バサラさんのファンなんですよ。だからサインもらっちゃいました」
「あたしはミレーヌちゃんの」
ルナマリアも既にそれをもらっていた。
「あっ、いいですね。何時の間に」
「今度は私達も」
フィリスとエルフィがそれを聞いて羨ましそうに言う。コーディネイターでも彼女達の心はやはり女の子であった。
「それでですね」
ジャックがナデシコの面々に問う。
「他にもいたんですか、ニコルの他にも」
「シンジ君とかね」
「あっ、エヴァンゲリオンの」
「そうよ。後はカトル君とか」
「多いんですね」
ニコルが思っていたよりも多くて少し驚いていた。
「何か」
「他にも一矢さんがドラムやられます」
ルリが言った。
「一矢さんのドラムはいいです」
「そうなんですか」
「実は俺もさ」
ディアッカがここで言った。
「何かあるのか?」
ダイゴウジがそれに問う。
「おうよ。日本舞踊をやるんだ」
「えっ、日舞か!?」
「そうさ。自分でも言うが中々のモンだぜ」
「意外っつうか何つうかよ」
リョーコは首を傾げさせていた。
「あんた意外と器用なんだな」
「踊りはダンスだけじゃないからな」
ディアッカは言う。
「ジャパネスクってのもいいものだぜ。和食は難しいけれど」
「和食は今度レーツェルさんにでも食べさせてもらえ。ただしな」
「ただし?」
リョーコに顔を向けてきた。
「間違ってもクスハのは食うな。いいな」
「何かわからねえけれど了解」
「おう、死にたくねえだろ」
何か恐ろしい秘密をクスハの料理に感じながら彼等は親睦会を行っていた。ザフトの面々もロンド=ベルに馴染んできていた。例外を置いて。
「シン」
レイがミネルバの廊下を歩いているシンに声をかけた。
「出なかったのか」
「ああ」
シンはそれに答えた。
「ステラだけどな」
「あの娘か」
「大丈夫なのか、って思ってな」
「心配なんだな」
「そうさ」
それを認めた。
「何か気になるんだ。だから」
「彼女は弱ってきているな」
「わかるか」
「あのままだといずれは」
「・・・・・・・・・」
シンはその言葉に俯いた。そして黙ってしまった。
「死なせたいか?」
「・・・・・・いや」
それはすぐに否定した。
「そんなのは嫌だ。彼女は」
「守りたいのか」
「約束だからな。だから」
「そうか、わかった」
レイはその言葉を聞いて頷いた。
「なら何かあれば俺に言ってくれ。協力する」
「いいのか?」
「構わない。俺も誰かが何もできずに死んでいくのは見たくない」
彼は言う。
「だからその時は任せてくれ。いいな」
「なあレイ」
シンは協力を申し出るレイに問うた。
「御前は・・・・・・どうしていつも俺に色々としてくれるんだ?」
「戦友だからだ」
「戦友か」
「だからだ。それじゃ駄目か」
「いや」
その言葉も否定した。だがさっきの否定とは違う否定であった。
「済まない」
そして素直に礼を述べた。
「俺の為に」
「俺は今まで一人だった」
レイは言った。
「だから戦友がいるということが有り難い。だからだ」
「一人だったのか」
「俺達はな。生まれた時は一人だった」
「俺達!?」
シンはその言葉に何かを感じた。
「俺達って誰なんだ!?」
「あっ、いや」
レイもその言葉に気付いた。だが落ち着いてそれを訂正した。
「言葉のあやだ。済まない」
「そうか」
「だが彼女のことは」
「ああ」
シンは応えた。
「このまま弱っていったら」
「まずはサコンさん達を信じてみたらどうだ?」
「あんな奴等信じられるかっ」
しかしシンはそれを否定した。
「あいつ等はナチュラルだ。ナチュラルに何が出来るんだ」
「仲間でもか」
「仲間なんかじゃない、あいつ等は」
彼はまだナチュラルを認めてはいなかった。だが自身がコーディネイターでないステラのことを気にかけているという矛盾には気付いてはいなかった。
「俺がここにいるのだって」
彼は言う。
「家族を守る為だ。何でそれであいつ等と」
「それでいいんだな」
レイはそれを咎めるわけでもなく問うてきた。
「家族を守ることが御前の戦いなんだな」
「そうだ」
それを否定したりはしなかった。
「何があっても俺は父さんと母さん、そしてマユを守る。だからザフトに入ったんだ」
それが彼の戦う理由の全てであった。
「ナチュラルと一緒に戦う為じゃないんだ」
「じゃあクルーゼ隊長のことはどうなんだ?」
「あの人のことは正直わからない」
彼は言った。
「だがプラントを滅ぼそうとしているのなら俺はあの人と戦う。家族を守る為だ」
「そうか」
「それだけだ。けれど今はステラも守りたいんだ」
もう一つ理由が出来てきていた。
「約束したから」
「じゃあ戦うんだな」
レイはまた声をかけた。
「デスティニーガンダムで」
「あのガンダムならやれる」
シンにもそれは感じられていた。
「絶対にな」
「なら今は目の前の敵を倒そう」
「ああ」
彼は頷く。
「ネオ=ジオンだろうと何だろうと俺の前に出て来るのなら倒す、誰であろうとな」
彼は目を赤く輝かせていた。その目で戦場を見据えていた。ロンド=ベルは補給を整えると新たにメカニックとしてボーマンの妹であるセラン=オルセンをスタッフに迎えていた。
「はじめまして」
褐色の肌に彫の深い顔が兄によく似ている美人であった。
「今日からロンド=ベルに配属となりました。宜しくお願いします」
「おう、久し振りだな」
アルフレッドが彼女に挨拶を返す。
「御前が来てくれたら百人力だ。何しろこの部隊はマシンが多くてな」
「私はモビルスーツ担当ですが」
「まあ他にも色々あってな。随分と賑やかな部隊だぜ」
「コーディネイターも多数参加したんですね」
「ああ、ザフトからな」
「また異様ですね」
「もっと濃い面々もいるんだよな、これが」
キースがここで述べた。
「グン=ジェム隊とかドクーガの三人とか」
「ああ、彼等も」
「どうにかなんねえのかな。まああの三人が資金力にあかせて技術スタッフを持って来てくれているからかなり助かっちゃいるんだけれどな」
「ドクーガの資金力は健在ということですか」
「おうよ!かみさんからのお小遣いでな」
「噂をすれば何とやらかよ」
キースはケルナグールが出て来たのを見て露骨に嫌な顔を見せた。
「わしも薬が売れておってな。この程度の投資は大したことはない」
「戦場で美しく戦う為には常に備えを怠ってはならない。さもなければ美しくない姿を晒してしまう」
「この人達がドクーガの三人ですね」
「ああ、わかるか」
「ええ、有名人ですから」
セランも彼等はよく知っていた。
「噂に違わぬ個性の強さですね」
「まあ変人だよな」
「全く」
ボーマンがそれに頷く。
「それでマドモアゼル」
ブンドルがセランに声をかけてきた。
「はい」
「貴女もこの部隊に参加されると聞いた。美しい花が集まるのは喜ばしいこと」
「ねえ兄さん」
セランはブンドルの言葉を聞いて兄に囁いてきた。
「若しかして口説いているの、この人」
「いや、これが普通だよ」
ボーマンはそれに応えて囁く。
「だから気にしないでいいから」
「そうなの」
「花が集まり戦場を飾る。このことこそが」
そして薔薇を掲げた。
「美しい・・・・・・」
「で、ブンドルさんよ」
キースがキリのいいところで彼に声をかけた。
「何か」
「サコンや赤木博士に資金援助してるらしいな」
「援助ではないのだよ、ムッシュ」
ブンドルはキースにこう返した。
「じゃあ一体何だ?」
「寄付だ」
「寄付!?」
「彼等があのステラという少女を助けようとしているからだ。義を見てせざるは勇なきなりだ」
「そういうことか」
「そうだ。私とて一人の命が為す術もなく消えていくのは本意ではない」
「わしも寄付しておるぞ」
「わしもじゃ」
後の二人もそれは同じであった。セランにとってはこれは意外であった。
「へえ、三人共結構これで」
「慈善事業はやっておいて損はあるまい」
「恵まれない子供達にケルナグールフライドチキンを」
「ケルナグールフライドチキンですか」
「美味いじゃろ」
「そうですね。味も工夫していて」
「わしとかみさんの愛の結晶じゃ。美味くない筈がなかろう」
「・・・・・・それにしてもよ」
キースがここで難しい顔を見せてきた。
「どうしたんですか?中尉」
「いや、この連中って何でこんなに成功しているのかって思ってな」
「はあ」
「こんなにあからさまに胡散臭い奴等が。しかも戦ってばかりなのにどんどん会社はよくなってるしよ」
「そういえば不思議だよな」
ボーマンも言う。
「ケルナグールさんなんて美人の奥さんもいるし」
「ガハハ、羨ましいか」
「アルフレッド少佐だってそうだしな。どういうわけかな、これって」
「人の好みはそれぞれよ、兄さん」
セランは右目でウィンクして兄に言った。
「だから気にしない。いいわね」
「ううん、それでも」
「明日は出発よ。意気消沈していたら怪我するわよ」
「そうだな。しかし」
「まあ考えても仕方ないか」
ボーマンとキースはまだドクーガの三人に釈然としないものを感じていた。それぞれの思いを胸にロンド=ベルはパキスタンに展開するネオ=ジオンの部隊に向かっていた。
「もうすぐ敵の勢力圏よ」
タリアが告げる。
「総員出撃用意」
「了解」
ハイネがそれに応える。
「他の皆もいいわね」
「はい」
次にレイが答えた。
「何時でもいいです」
そしてルナマリアも。彼女もよかった。だが。
「シン」
タリアはシンを呼んだ。
「シン、いいの?」
「は、はい」
声をかけられてやっと気付いた。
「いけます、何時でも」
「そう、だったらいいけれど」
「レーダーに反応です」
メイリンが報告をあげてきた。
「前方にネオ=ジオンの部隊。木星トカゲもいます」
「定番ね」
タリアはその報告を聞いてこう述べた。
「じゃあここは定番通りにこっちも行くわよ」
「ええ」
「モビルスーツ隊発進」
彼女は指示を出した。
「敵を北に押し上げていくわよ」
「はい」
「ただ」
「ただ?」
「木星トカゲのバリアーには気をつけてね」
「了解。わかったわね、シン」
「ああ、わかってるよ」
シンはルナマリアにそう返した。
「木星トカゲか」
「!?あんたどうしたの?」
ルナマリアはシンの様子がおかしいことに気付いた。
「いつもだったらもっと凄いのに」
「何がだよ」
シンは言い返す。
「ぶっ潰すとか殺してやるとかなのに。どうしたの?」
「何でもないよ」
彼はそれを取り繕う。
「俺がどうしたっていうんだよ」
「あっ、そんなこと言うの」
ルナマリアはシンの言葉にむっとする。
「そんなことばかり言ってるとフォローしてあげないわよ」
「御前の下手な射撃なんかフォローになってないだろ」
「・・・・・・言ってくれるわね」
ルナマリアの琴線にモロに触れる言葉であった。
「じゃあ何もしてやらないから」
「ミネルバさえ無事ならいいさ」
「へっ!?」
これまたルナマリアにとっては意外な言葉であった。
「ミネルバを守って欲しいっていうの!?」
「ああ」
シンはそれに答えた。
「そうさ。頼めるか?」
「頼めるも何も母艦じゃない」
ルナマリアは言う。
「守らないと話にならないでしょ」
「それもそうか」
「それもそうかって」
何かシンの様子があまりにも普段と違うので戸惑いさえ覚えてきた。
「本当にどうしたのよ、あんた」
「だから何でもないよ」
シンはそれでも言う。
「だから気にするなよ」
「何か素直じゃないわね」
ルナマリアはそんな彼の様子に憮然とする。
「まあいいわ。とにかくまた戦闘よ」
「ああ」
「あんたのデスティニーは主力なんだからね。頑張りなさいよ」
「わかってるさ。じゃあ」
「総員出撃!」
タリアがまた指示を出した。
それに従いマシンが次々と出撃していく。前方にはもうネオ=ジオンのモビルスーツと木星トカゲ達が展開していた。
「やっぱりっつうか何つうか」
リョーコはその敵軍を見て言った。
「相変わらず木星トカゲの奴等多いな」
「そうだな。それに」
アキトはネオ=ジオンの部隊も見た。
「ネオ=ジオンのエースもいるね」
「アナベル=ガトーにシーマ=ガラハウ」
「これは手強いよ」
「わかってるさ」
リョーコは答えた。
「また激戦になるね」
「安心しろ、ガトーは俺が相手をする」
コウが通信に出て来た。
「今度こそ決着を着けたい」
「頼みますよ」
アキトはコウにそう返す。
「やっぱりソロモンの悪夢の力は相当なものですから」
「ああ、わかった」
「それでさ」
リョーコはもう一機の存在に気付いた。
「あれ、見ろよ」
「あれって?」
ヒカルがそれに反応してきた。
「何かいますか?」
「わからねえかよ。あそこのモビルアーマー」
そう言ってレーダーで指し示す。
「あのどでかいのだよ」
「アプサラス」
イズミがそれを見て呟く。
「まぁだ生きていやがったか、あの兄ちゃん」
「お兄様、また」
アイナもアプサラスに気付いた。そして顔を曇らせた。
「アイナ、落ち着くんだ」
シローが彼女に声をかける。
「いいな」
「ええ」
アイナは恋人の言葉に頷いた。
「けれど」
「安心するんだ、俺も行く」
シローはそう言って彼女を安心させた。
「わかったな」
「わかったわ。それじゃあ」
二人は前線に出た。
「ここでお兄様とも」
「そうだ、終わらせよう」
「わかったわ。だからシロー、後ろはお願い」
「了解」
「何ていうかいいねえ」
リョーコはそんな二人を見て言った。
「恋人同士って感じでさ」
「リョーコさんも恋人が欲しいんですか?」
「いや、あたしはそうじゃないけれどさ」
アオバの言葉に応える。
「何ていうかあれだな。本当に愛し合っている恋人同士っていいよな」
「そうなんですか」
「ああ、妬けちゃうね。どうにも」
「シローさんもいい人ですしね」
「そうだな。熱くてな」
「余り熱くなられるのも困りものなんですがね」
「いや、あんたが言うな」
リョーコはアズラエルの突っ込みには速攻で返した。
「あんたは言う資格ねえだろ」
「おやおや、何故でしょう」
「自分の声に聞いてみろ」
胸ではなく声である。
「いいな」
「難儀なものです。声を言われるとは」
「だってアズラエルさんの声ってねえ」
マヤがそれを聞いて呟く。
「そのままですよねえ」
「マヤちゃん、それを言うとキリがないわよ」
ミサトが忠告する。
「私だってそうなんだから」
「あっ、すいません」
「アムロ中佐だってそうだし」
「っていうかアムロ中佐とブライト艦長は禁句よ」
「確かに」
ミサトもリツコの言葉に頷いた。
「わかったわね」
「はい」
「貴女もなんだから」
「うう・・・・・・そうなんですよね」
「世の中奇怪なんだから」
「私の声はいませんけれど」
ルリがすっとモニターに出て来て述べた。
「それはいいのですね」
「何か少し寂しいけれどね」
「それはあります。ここでも一矢さんが羨ましいです」
「一矢君とレッシィちゃんはまた特別なんじゃ」
「あとプルちゃん達とレトラーデちゃんもね」
ミサトとリツコから見れば誰もがちゃん付け、君付けであった。
「声が似てるっていうのは怖いわね」
「全く。リョーコちゃんとノインちゃんにしろ」
「私は特に気にしていませんが」
そのノインがモニターに出て来た。
「別にどうということは」
「ああ、御免なさい」
ミサトはそんなノインに返した。
「けれどノインちゃん」
「はい、何か」
「貴女今度和服着てみない?」
「和服・・・・・・ですか!?」
その言葉にキョトンとしてみせる。
「そうよ。袴で」
「はあ」
「似合うと思うけれど。どうかしら」
「私は別に構いませんが」
「そう。じゃあ今度ね」
「わかりました」
「何となく似合いそうなのよね、彼女は」
「どうしてなの?」
「いや、何となくだけれど」
リツコに答える。
「歌なんか歌っても似合いそうだし」
「言われてみればそうかも」
何故かリツコもそれに頷けた。
「不思議よね、全く」
「ええ」
「HAHAHA!じゃあ俺も紋付羽織袴で決めるとするか!」
「もう、ハッちゃんはその帽子で我慢しなさい」
フェイがハッターを抑える。
「チーフとライちゃんもう前に行ったわよ」
「おっと、もうか」
「しかし俺がライちゃんか」
「呼びやすいからそう呼んでみたの。どう?」
「いや、どうと言われても」
ライデンは困った様子であった。
「何かな」
「まあいいじゃない。ほら、前線へ行きましょう」
「よっし!また活躍するぜ!」
ハッターは既に気合充分であった。
「そこのナイスなミス達!前線でいいな!」
「ええ、お願いするわ」
ミサトが返事を返した。
「貴方達はそこ。そして波状攻撃を仕掛けて」
「よっし!」
「全軍攻撃開始、一気にいくわよ」
ロンド=ベルは戦闘に入った。まずはコウとシーマの戦いからだった。
「おやおや、また坊やかい」
「シーマ!やはり貴様も・・・・・・!」
「いるんだよ、ふふふ」
シーマは妖艶かつ不気味な笑みをコクピットの中で見せていた。
「楽しいねえ、こうして戦えるなんて」
「どういうことだ!?」
「結局あたしは戦いってやつが好きなんだよ。性に合ってるんだろうね」
そう言いながら空に向けてビームを放つ。それがデンドロビウムを掠めた。
「クッ!」
「おや、掠ったかい」
シーマはそれを見て笑う。
「アイフィールドでも防げないだろうねえ。このビームは」
「また腕をあげたっていうのか!?」
「それはお互い様は」
シーマは言う。
「違うかい?お互いずっと戦場にいるんだしね」
「それが御前の楽しみなのか、シーマ=ガラハウ」
「それで生きることがね」
シーマは言う。
「戦ってその中で生き残るのがあたしの考えさ。上の連中のことは知らないさね」
「戦いを楽しむっていうのか!」
「まあそうだね」
シーマは答えた。
「それで生きてやるのさ。目の前の敵を倒しながらね!」
「貴様!」
「さあおいでよ坊や。今度こそ始末してやるよ」
ガーベラテトラが左右に素早く動いた。一瞬分身したように見える。
「!?」
「甘いねえ、この程度に戸惑うようじゃ」
ビームが複数襲ってきたように見えた。
何本かはかわす。だが最後の一本は。かわしきれなかった。
それがデンドロビウムを撃った。機体が大きく揺れる。
「うわっ!」
「どうしたんだい?その程度かい?」
シーマは下から問う。
「だったら随分腕がなまってるんじゃないかい?」
「まだだ!」
だがコウも多くの戦いを潜り抜けてきている。それは伊達ではない。
「それなら俺も!」
攻撃を仕掛ける。下へ向けてライフルを放つ。
「シーマ!これなら!」
「そうだよ、そうこなくちゃね」
その攻撃をジグザグにかわしながら言う。
「面白くなってきたねえ。こうでなくちゃ」
「インドは貴様等には渡さない!」
コウは言う。
「何があっても!」
「まあインドがどうなろうがあたしは知ったことじゃないが」
シーマはそうした戦略とは別に戦っていた。
「こうして戦えるっていうのは。いいさね」
二人の戦いは空と陸で続いた。ガトーはアムロが向かい抑えていた。その間シローとアイナはギニアスが乗るアプサラスに向かっていた。
「アイナ、また来たか!」
「お兄様、どうしてもそのアプサラスから離れられないのですね」
「これは私の全てだ」
彼は言う。
「それでどうして離れられよう!そして御前は私を裏切った!」
「違う!」
それはシローが否定した。
「アイナは自分の道を歩んでいるだけだ!御前のロボットじゃない!」
「何だと!?」
「それだけのことだ!間違っているのはあんただ!」
「私が間違っているだと!?」
「そうだ!」
シローは言う。
「あんたがアイナを怨むのは筋違いだ!アイナはアイナなんだ!」
「シロー・・・・・・」
「アイナの鎖を今断ち切ってやる!行くぞ」
GP-01を前にやる。そしてバズーカを放つ。
「ぬうっ!」
それがアプサラスの腹に当たった。衝撃がコクピットまで伝わる。
「アイナ!任せろ!」
そしてアイナにも叫ぶ。
「ここは俺が!」
「シロー・・・・・・」
「君が一人で歩けるようになる為に・・・・・・!」
「あくまで邪魔をするというのか!」
ギニアスは衝撃から立ち直り叫んだ。
「私の邪魔を!」
「アイナはアイナだ!」
シローはそのギニアスに対して返す。
「他の誰でもない!あんたの道具じゃないんだ!」
「おのれ!私のアプサラスにまで対して!」
「あんたはそのアプサラスに捉われているんだ」
シローは言う。
「だからわからなくなっているんだ。何もかもが」
「このアプサラスは私の最高傑作だ」
それでもギニアスは気付かない。
「捉われてはいない。これは私そのものだからだ」
「くっ、やはり駄目か」
「兄さんはもうアプサラスのことしか考えられなくなっているのよ」
アイナは悲しそうに述べる。
「だからもう・・・・・・」
「いいんだな、アイナ」
「ええ」
シローに応えた。
「お願い、シロー」
「わかった。じゃあ」
アプサラスに照準を合わせる。だがその前にグレミーのバウが姿を現わした。
「!?」
「どういうこと!?バウが」
「くっ、ここまで流されたか!」
グレミーはシロー達を見てその顔を歪ませていた。どうやら戦いの流れでここまで来たようだ。
「ジュドー=アーシタ、やる!」
「あんたにも恨みはないがやらせてもらうぜ!」
そこにダブルゼータが来た。そしてバウに対してダブルビームライフルを放つ。
「グレミーさんよ、覚悟しな!」
「くっ!」
バウを変形させてその攻撃をかわす。だがそこにミサイルを放つ。ジュドーの動きも見事だ。
「おい、ジュドー」
「悪い、シローさん」
シローに対して謝罪する。
「邪魔したみたいだな」
「いや、それはいいが」
「何か周りは大変なことになってるのね」
「まあな。乱戦だぜ」
見ればネオ=ジオンと木星トカゲのマシンが至るところにあった。ロンド=ベルの面々は彼等に対して手当たり次第に攻撃を仕掛けていたのだ。
「おいおい!どっからでも沸いて来るな!」
ビーチャが百式のバズーカで木星トカゲを吹き飛ばしながら言う。
「木星トカゲってのは相変わらず」
「わかってるんなら手を止めないことだね!」
その横ではエルがライフルを乱射していた。
「こいつ等は数だからね!しつっこいよ!」
「わかってるけれどさ!」
モンドはビームサーベルで襲ってきた敵を真っ二つにする。
「何かどんどん増えていくよ!」
「泣き言の間にまた一機倒してるじゃない」
ルーがイーノに突っ込みを入れる。
「何だかんだで」
「それがニュータイプなんですね」
そこにジャック達がやって来た。
「噂には聞いていましたが」
「まあ慣れね」
フォウがそれに答える。
「私達の戦いはいつも激戦だから」
「いつもこんな数なのかよ・・・・・・って五月蝿いんだよ!」
鬱陶しく周りを飛ぶ敵はミゲルがライフルで叩き落していく。
「次から次に沸いて出やがって!ディアッカ!」
「もうやってるさ!」
ディアッカは宙に向けて長距離ライフルを放っていた。それででかいのを撃ち落とす。
「けれどこいつ等次から次に!」
「こんな戦場は流石にはじめてだ」
ハイネもコクピットの中で冷や汗をかいていた。
「生き残れるか」
「生き残らないと何にもならないわよ」
それにルナマリアが突っ込む。
「あたしが何処に撃っても攻撃が当たるからいいけれど」
「何処にもか」
「ええ。何か乗ってきたわよ」
「残弾には気をつけて下さいね」
フィリスが声をかける。
「数が凄いですから」
「わかってるわよ。けれどね」
「そこっ!」
エマが前に来た敵に対してミサイルを一斉射撃する。それで薙ぎ払った。
「前からもいきなり来るわよ」
「うわあ、横にも」
エルフィが言う。
「一杯来ていますよ」
「横は任せて」
キラのストライクが動いた。そしてすぐに照準を合わせる。
「これ位の数なら」
次々にロックオンされていく。そしてそれが終わるとすぐに七色の光を放つ。それで横の敵を始末した。
「よし!」
「甘いぞ坊主!」
だがすぐに上からキースの声がした。
「えっ!?」
「上に一機だ!だがそれは俺がやる!」
「キースさん」
上にいる敵にエメラルドグリーンのメビウスが向かう。そして急降下と激しい集中攻撃でその敵を屠ってしまった。
空に派手な花火があがる。キースは瞬く間にその敵を倒してしまっていた。
「危ないところだったな」
「すいません」
「木星トカゲは急にやって来るからな。注意しないとな」
「ええ」
「しかしバルマーといい何て数なんだ」
ボーマンもありったけの攻撃を浴びせながらぼやく。
「こんな戦争を続けていて君達よく生き残れたね」
「何とか」
それにカミーユが答えた。
「生き残れたんですよ。それに宇宙怪獣はもっと凄かったですから」
「雷王星での戦いか」
「はい、あの時は特に」
「何かその時みたいになってきたな。おや」
ジョナサンのブレンが今上で暴れていた。
「おら!邪魔だ!」
そしてチャクラで敵を倒す。彼は完全に戦いの中に身を置いていた。
「ジョナサンも頑張っているな」
「皆さん凄い技量ですね」
「いやいや、君達も
今度はニコルに返した。
「やっぱりザフトのエリートだけはある」
「エリートだなんてそんな」
「しかし何かナチュラルとかそんなのどうでもよくなってきたな」
ディアッカは今戦場の中でそれを実感していた。
「ニュータイプや超能力者ってだけじゃなくて」
「勇者もいるしな」
「まあな」
他の場所ではガオガイガー達も暴れている。本当に色々な人間がいる部隊だ。
「コーディネイターなんかどうでもよくなってきたぜ」
「じゃあそこのプリン」
「おいこら待て」
アスカに対して返す。
「誰がプリンだ、誰が」
「だってあんたの髪の色と肌の色まんまじゃない」
「つっても俺は食い物かよ!」
「悪い!?言いやすいからそう呼んだんだけれど」
「御前は呼びやすいとそう呼ぶのかよ!何て女だ!」
「レディーを捕まえて何よ!」
「思い出したぞ!御前あの時イザークと喧嘩してた女じゃねえか!」
「あっ、そういえば」
ニコルもそれを聞いて気付いた。
「皆さんあの時のフォンデュの時で」
「あっ、そうね」
ファも気付いた。
「貴女達あの時ね」
「御前あの時イザークを河童とか言ってたよな!」
「河童を河童って言って何が悪いのよ!」
「そうやって言うのの何処がレディーなんだよ!」
「うっさいわね!とにかく今からそっちに行ってあげるわ!」
「助っ人かよ」
「そうよ。だからもうちょっとだけ踏ん張りなさい、いいわね」
「じゃあ頼む」
「わかったわ。エヴァ四機で行くから」
「最初から素直にそう言えばいいんじゃないのか?」
ミゲルがそれを聞いてポツリと呟いた。
「いちいち悪口を言わなくても」
「アスカはいつもああなのよ」
アイナが言う。
「だから気にしないで」
「素直じゃないのね」
ルナマリアがそれを聞いて言った。
「それがアスカなんだよ」
シローも言った。
「だから」
「ところでそこのデカブツだけどさ」
「ああ」
アプサラスのことである。
「下から攻めてらどうかしら」
「下からか」
「それならいけると思うけれど」
「そうだな。じゃあ」
「私が援護をするわ」
アイナが言ってきた。
「だから」
「わかった、じゃあ」
「下からか!だが!」
ギニアスもそれに気付いた。
「このアプサラスはそれでも!」
「アイナ!援護を頼む!」
「了解!」
アイナの援護の下アプサラスに潜り込んだ。そして真上に対して攻撃を仕掛ける。
「これなら!」
「兄さん、これで!」
「うおっ!」
シローの放ったバズーカがアプサラスの腹を撃った。それで大きく揺れた。
ダメージは確かだった。アプサラスの動きが遅くなっていた。
「これは・・・・・・」
「やったか!?」
「いえ、まだよ」
アプサラスはまだ浮かんでいた。まだ健在だったのだ。
「まだあれは」
「なら!」
「くっ、やらせん!」
ギニアスは下に向けて攻撃を浴びせた。それでシロー達を退け素早く下がった。
「早い!」
「このアプサラス、やらせん!誰だろうとも!」
ギニアスは怨念さえ漂う目でシロー達を見据えていた。
「今はまだだ!やられはせん!」
そして撤退していく。アプサラスは戦場から姿を消していった。
「退いたか」
「ええ、けれど」
アイナは兄の姿を見ていた。
「また、私達の前に姿を現わすわね」
「そうだな」
シローもそれはわかっていた。だが今はどうすることもできなかった。
アプサラスの撤退を機に戦いは終息に向かっていた。さしもの木星トカゲも数が尽きてきたのだ。
「やっと終わりね」
アスカがライフルを放ちながら言っていた。
「けれどね。あたしは最後までやる女よ!見なさい!」
ATフィールドを掴んできた。
「これでどう!」
それを横に薙ぎ払うとそれだけでそこにいた敵が粉砕されていく。とんでもなく乱暴だが破壊力のある攻撃であった。
「邪魔してると危ないわよ!」
「また派手にやってるな」
ディアッカはそれを見て呟く。
「何かすげえ女だ」
「凄い、か」
それにミゲルが応えた。
「確かにな」
「コーディネイターであんなのはいるかい?」
「いや」
ハリソンの言葉にこう返した。
「知らないな。強い女はいるが」
「やっぱりそうかい」
「ナチュラルも強いんだな」
「あれはまた特別や」
トウジがそう説明する。
「気もめっちゃ強い。ルックスだけはアイドル並やけど中身は」
「凶暴ってわけだな」
「ちょっとディアッカ!」
「おい、もう俺の名前覚えたのかよ」
「何よ凶暴って!レディーを捕まえて!」
「耳いいんだな、御前」
「当たり前でしょ。伊達にロンド=ベルにはいないわよ」
「ロンド=ベルって超人の集まりかよ」
ディアッカはそう呟いて呆れていた。
「今ぼそっと呟いたのによ」
「とにかくね。戦いは本気でやらないと駄目だしね」
アスカはそう言い繕う。
「それだけよ。そもそもあたしは」
「マスターアジアが嫌いなんだって?」
ジャックがアスカに問うた。
「何でも」
「あれはちょっとね」
それを言われると言葉を濁してきた。
「特別よ。だって素手でモビルスーツとか使徒とか破壊するのよ」
「BF団そのままですね」
アズラエルのトラウマを刺激するには充分な言葉であった。
「お話を聞くといつも思うのですが」
「あの人達が出て来ないのは非常に有り難いことですが」
「そういえばプラントにも一人来られましたよね、あの人達」
ニコルが言った。
「確かあの人は」
「直系の怒鬼だったな」
ハイネがそれに答えた。
「確か」
「はい、確かその人です」
「七節昆持った人でしたっけ」
「そうだったような」
フィリスへのニコルの返事は今一つはっきりしないものであった。
「日本の服を着て」
「宇宙空間からコロニーを攻撃してきたんでしたっけ」
エルフィも言う。
「一撃で軍事コロニーの外壁に大穴開けたんだよな、あいつ」
ディアッカが言う。
「それで訳わかんねえ同じような格好の部下まで一杯出て来て大騒ぎだったってのは聞いたな」
「完全に人間じゃないじゃない、それって」
アスカがそれを聞いて顔を顰めさせる。
「宇宙空間で動いているですって!?どういう身体の構造してるのよ」
「コーディネイターでも無理だからな、一応言っておくけれどよ」
「言わなくてもわかるわよ」
ディアッカにそう返す。
「大体あの連中が非常識過ぎるし」
「まあ途中で帰ってことなきだったんだけれどな」
「運がいいわね」
「何か間違えてこっちに来たらしくてな。すぐ帰った」
「間違えでコロニーに攻撃ねえ」
ムウがそれを聞いて顔を顰めさせる。
「相変わらずダイナミックな奴等だな」
以前いた基地を見事に破壊されているからわかることであった。
「確か直系の怒鬼って右目がないんだよね」
シンジがザフトの面々に問う。
「それで体術が凄くて」
「はい、そうです」
それにフィリスが答える。
「映像を見るとそうです」
「実は一般市民や多くの将兵には隕石の事故と説明されていますが私達は任務上それを知ることになりまして」
「で、変態の存在を知ったわけね」
アスカの言葉は身も蓋もない。
「大変だったのね」
「何か彼等ってあちこちに出ていたみたいだね」
ユウナがその話を聞いてキサカに言う。
「オーブだけじゃなかったんだ」
「彼等は一人で一つの地域を破壊できますからな」
「それにあの直系の怒鬼って不死身じゃなかったっけ」
「あれは命の鐘の十常侍では?」
十傑集はこの世のものとは思えない桁外れの破壊力と生命力を誇っている。不死身かそれにほぼ等しい身体を持っているのである。
「そうだったっけ」
「マスク=ザ=レッドも不死身だったな、そういや」
「あれ不死身だったんですか!?」
「ビーム砲の直撃を跳ね返したんだよ」
「ビーム砲をですか」
シンジはそれを聞いて言葉を失った。
「不死身に近いのは事実だろ」
「ええ、そうですね」
「やっと当たったと思ったらよ。あいつ等が出ないだけましだぜ、今だって」
「僕達で勝てるかなあ」
「クサナギの撃沈は覚悟しなければならないようですな」
キサカがユウナに答える。
「いなくなってよかったね」
「全くです。只でさえ我々には悩みの種があるというのに」
「何か言ったか!?」
そこにカガリが突っ込む。
「いや、何も」
「御気になさらずに」
「まあいいか。それでだ」
「どうしたんだい?」
「ネオ=ジオンが撤退していくぞ」
カガリはクサナギにそう伝えた。
「どうする?追うのか?」
「いや、インドからはこれで完全に撤退したんだよね」
ユウナはそれを聞いてカガリに問う。
「ああ、そうだな」
「じゃあ今はインドを確保した方がいいね。この戦いでネオ=ジオンはかなりの戦力を消耗したし」
「敵はパキスタン北方に退いていっています」
メイリンが報告する。
「ではこのまままずはインドを確保ですね」
「補給が整うまではそれでいいんじゃないかな。それでそれが整ったら」
「パキスタンへ」
「うん、そして中央アジアに向かおう」
「わかりました。では」
ユウナの言葉でロンド=ベルはまずはインドの確保と補給にあたった。各自それぞれの母艦に戻っていく。アイナはその中で浮かない顔をしていた。
「お兄様、やはり」
「アイナ」
シローがそんな彼女を気遣って声をかける。
「今は気をしっかりと持つんだ、いいね」
「ええ」
だがその顔は晴れない。それでも二人はアルビオンに帰投した。そして彼等も身体を休めるのであった。
シンもまた。彼は今ミネルバに向かっていた。
「シン」
そんな彼にアスランが声をかけてきた。
「アスランか。何だ?」
「今の戦いだがどうしたんだい?」
シンの側にやって来て声をかける。
「やっぱり御前は」
「何でもないさ」
だがシンはそれを否定した。
「何でもな」
「だったらいいんだがな」
「何が言いたいんだ、あんたは」
「いや」
アスランは今は積極的に言おうとはしなかった。しかしシンを見ていた。
「ただ、これは覚えておいてくれ」
「何をだ!?」
「御前は一人じゃないんだ」
彼は言った。
「それだけは覚えていてくれ。いいな」
「・・・・・・・・・」
シンはそれには答えない。そして黙ったままミネルバに戻った。だがそこで事件が起こっていた。
「どうなの、ガイアのパイロットは」
タリアは戦いが終わるとすぐに医務室に電話をかけた。そしてステラの様子を尋ねていた。ミネルバに乗艦している医師が出て来た。
「怪我自体は大したことはありません」
「そう」
「ただ」
「ただ?」
「身体機能の低下が止まりません」
「どういうことかしら」
彼女はそれに問う。
「おそらくは彼女が強化人間、エクステンデッドであるせいでしょうが」
「ちょっと待って」
タリアはそのエクステンデッドという言葉に注目してきた。
「それは普通の強化人間とは違うのかしら」
「はい。おそらくは」
医師はそれに答えた。
「ロンド=ベルにも強化人間の娘はいるわよね」
「はい」
プルツーやフォウ、ギュネイ達のことだ。ロザミアもそうである。
「彼女達とは違うのかしら」
「ざっと調べただけでも何十種類もの薬物が投与された痕跡があります」
「何十種類も」
「はい。そして脳波にも異常な波形が出ています。通常の強化人間とは明らかに違います」
「それで身体機能の低下は?」
「そのせいだと思われます。この状態は異常です」
「異常・・・・・・」
「このままだと生命にも影響が出るでしょう」
「間に合いそう?サコン君達は」
「今調べているところです」
そこにサコンが出て来た。
「今赤木博士達と不眠不休でやっていますが」
「間に合わせてね」
「任せて下さい。何としても」
「あっ」
ここでリツコが声をあげた。
「どうしたの?」
「彼女が目覚めました」
「そうなの」
「はい」
ステラは目覚めた。そして身体を起こした。
「ここ・・・・・・何処!?」
「病室よ」
リツコが説明する。
「だから安心して」
「安心・・・・・・」
「そうだ、落ち着いていていいんだよ」
獅子王博士も声をかける。
「死ぬということはないからな」
何気ない言葉だった。だがそれが。彼女の引き金を引いてしまった。
「死ぬ!?」
それを聞いたステラの様子が急変した。
「あ・・・・・・ああ・・・・・・」
「どうしたんだ!?一体」
「わかりません、何か急に」
「死ぬ、ステラ死ぬ・・・・・・」
何か急に身体を震わせはじめた。そして。
「死ぬの嫌!ステラ死にたくない!」
いきなり暴れだした。そして律子に襲い掛かり押し倒す。
「!!」
「どうしたの!?」
異変に気付いたタリアも声をかける。だが返事はなかった。
「何があったんだ!?」
丁度その時医務室の前にシンとアスランがやって来ていた。シンは異変を察知してすぐに医務室の中へ飛び込んだ。
「ステラ、どうしたんだ!?」
彼がそこで見たのはリツコに馬乗りになり彼女の首を締めるステラであった。それはまるで獣の様であった。
「止めろ!」
サコンがステラに対して叫んでいた。
「どうしたんだいきなり!」
「ステラ!」
そこにシンがやって来た。
「止めるんだ!」
そして彼女を後ろから掴んでリツコから引き離す。リツコはとりあえずは無事で喉を押さえながら立ち上がった。
「大丈夫だステラ!」
シンは後ろからステラに言う。
「君が俺が守る!だから!」
「シン!?」
「ああ、俺だよ」
その言葉に応えてステラの目を見た。
「ほら、落ち着いてさ。これ」
そして懐から取り出した貝殻をそっとステラに向けた。
「これ、君が俺にくれたものだよね。今も持っているよ」
「シン・・・・・・」
「覚えているよね、俺にくれたの」
「うん・・・・・・」
ステラはその言葉にこくりと頷いた。
「シン・・・・・・」
「何?」
「ここ、怖い」
ステラは急に怯える様子になっていた。
「ステラ、ここ怖い。これからどうなるの?」
「何も心配はいらないよ、俺がいるから」
「守ってくれるの?ステラを」
「そうさ、約束したじゃないか。君は俺が守るって」
彼は優しい目をしてステラに言う。
「だからさ。今は落ち着いて」
「うん」
その言葉にまた頷いた。
「じゃあ」
彼女は何とか落ち着いてきた。すぐに精神安定剤が打たれまた寝かせられた。シンはそれを見届けてからサコンに顔を向けた。
「もう少しだ」
彼はそのシンに応えて言った。
「俺達を信じてくれ、いいな」
「いいんですね、それで」
だがシンはまだそれが信じられなかった。
「本当に貴方達を」
「任せて欲しいわ」
起き上がっていたリツコも彼に応えた。
「彼女は何があっても救うから」
「けれどそんなこと言っても」
シンはそんな彼等に言う。
「今実際にステラは」
「シン」
だが後ろからアスランが彼に声をかけてきた。
「サコンさん達だって頑張っているんだ。だから」
「けれど幾ら頑張ったって人は死ぬ時は死ぬんだ」
シンのこの言葉は残念ながら一面において真実であった。
「そうじゃないのか!?」
「僕達も出来る限りのことはする」
獅子王博士もそこにいた。
「だからシン君、僕達を信じてくれ」
「・・・・・・くっ」
信じ切れないがそれでもこの場は引き下がることにした。医務室を去るシンの側にはアスランが付き添っていた。
「御前の気持ちもわかる」
アスランは彼に対して言う。
「だがな。今はどうすることもできない。博士達を信頼するしかないんだ」
「けれど」
シンは俯いて言葉を吐き出す。
「信じて結局ステラが死んだらどうするんだよ」
「だからそれは」
「ステラはどんどんおかしくなっていってるじゃないか。それでこのまま死んだら」
「・・・・・・その時は好きにしろ」
アスランはシンから顔を離してこう述べた。
「御前の好きなように。彼女が死ぬのならな」
「・・・・・・好きにか」
「御前は家族の為に戦っているんだったな」
「ああ」
それはもう言うまでもないことであった。
「誰かを守る為に。彼女も守りたいんだろう?」
「ナチュラルでもどうでもいいんだ」
シンのその言葉には血が滲んでいた。
「俺は約束したんだ、彼女に。だから」
「皆、守りたいのか」
「だから戦っているんだ」
彼は言う。
「俺はどうなってもいい。けれど家族もステラも守りたい」
「・・・・・・そうか」
アスランはその言葉を静かに聞いているだけだった。
「だから御前はラクス嬢に選ばれたんだな。同志として」
「クルーゼ隊長のことは俺にとってはどうでもいい」
それは彼の考えであった。
「けれど俺は家族の為に。だから」
「わかった。だが今は皆を信じてやってくれ」
「ナチュラルでもか」
「今時分でも言ったじゃないか。ナチュラルでもどうでもいいって」
「ああ・・・・・・」
「だからだ。ここは皆を信じるんだ、御前が一番辛いのはわかっているけれど」
「けれど彼女が死ぬ位なら」
「御前は自分の命を捨てるつもりか」
「そうだ。悪魔にでも何でもなってやる」
「御前は悪魔になることはない」
「どういうことだ!?」
「デスティニーの翼を見るんだ。それでわかる」
「デスティニーの翼に?」
「御前とキラはな。翼を持っているんだ」
「あいつと俺が・・・・・・。どういう意味なんだ」
「いや、言葉のあやだ。けれど」
アスランは言う。
「今は・・・・・・堪えるんだ」
「くっ・・・・・・」
アスランの言う通りだった。今はシンは堪えるしかなかった。それがどれだけ辛くとも。今彼はステラのことだけしか考えられなくなっていた。だがそれでも。彼はどうにもならない苦しみの中に身を置いていた。

第百二十三話完

2006・11・7  
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