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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第百二十四話 ジオンの栄光

                 第百二十四話 ジオンの栄光
オーブでの戦いを終えたティターンズは結局オーブを手に入れられずに北極に引き揚げていた。だが彼等の勢力は衰えてはいなかった。
「さて、諸君」
ジブリールはティターンズの将校達を前に次の自分の考えを述べていた。
「オーブは残念なことをした。これは私の責任だ」
「責任を感じてるんならそれでいいさ」
ヤザンが彼に対して言った。
「だが大事なのは次だ」
「何か考えがあるんだろうね」
ライラがそれに問う。
「あるからここにいると思うけれどね」
「無論ある」
ジブリールは不敵に笑ってそう述べた。
「今度は欧州を攻める」
「またか」
ジェリドがそれを聞いて眉を顰めさせた。
「どうも俺達は何かと欧州に縁があるようだな」
「不服か?ジェリド=メサ大尉」
「いや、それはないな」
ジェリドはそれは否定した。
「戦えと言われたら戦うのが軍人だ。それに欧州についてはもう色々知っているしな」
「そう、最大の理由はそこだ」
ジブリールは述べた。
「もう一度欧州をティターンズの拠点とする。その為にはまず北欧を制圧していく」
「北欧をか」
カクリコンが応えた。
「そうだ。そしてドイツだ」
ジブリールは後ろに映してある欧州の地図に顔を向けて言った。
「それもベルリンを制圧する。そこを拠点とする」
「口で言うのは容易い」
それを聞いたザビーネは冷たい声を発した。
「だがそれは。かなり困難ではないのか」
「何故そう思う?」
「欧州の軍を率いているのはミスマル司令だ。兵力こそ太平洋にかなり引き抜かれているがその防御陣地は相当なものを築いている」
「それを突破するというのは容易ではないだろう」
クロノクルも言った。
「それに対する策はあるというのかしら」
「当然だ」
マウアーも問うたがジブリールはそうした言葉を前にしても態度を変えてはいなかった。
「こちらには切り札がある」
「あの三機のガンダムと強化人間か」
ドレルが言った。
「確かにあれはかなりの戦力だ」
「けれどそれだけでは無理ではないかしら」
カテジナも疑問を呈する。
「アウドムラ等を使っての突破もあるが」
「それでもかなりの損害を出すことが予想される」
ラムサスもダンケルもジブリールの案には懐疑的な様子を示していた。
「サイコガンダムがあるっていうのなら別なんだがな」
そしてヤザンがここで述べた。
「あんな化け物があるっていうのならな」
「あると言えば」
ここでジブリールは不敵に笑ってきた。
「その化け物が今私の手元にあると言えばどうかな」
「ほお、あるってのかよ」
ヤザンもそれを聞いて面白そうに笑ってきた。
「だからか。ここで攻勢に出るっていうのは」
「そうだ。だが狙うのはあくまで制圧だ」
ジブリールは言う。
「一般市民は狙わない。彼等に危害を加える必要はない」
「あんたがいつも言っている市場だからか」
ジェリドがそれを指摘してきた。
「大切な商売相手の保護か」
「そういうことだ。私とて兵器だけを売っているわけではない」
そんな企業があるとすれば架空の世界である。実際は軍需産業といってもそれだけを扱っているわけではないのだ。むしろそれは扱っている分野の一つに過ぎず、他の多くの産業に進出しているのが普通だ。むしろ軍需産業はあまり実入りのいいものではない。莫大な設備投資と維持費がかかるからだ。人件費や研究費も他の産業に比べて高い。ジブリールもそれは把握して考えているのである。彼も財団を率いているのだ。
「それでどうして産業を破壊しなければならないのだ。ましてやドイツは」
「ルール工業地帯か」
クロノクルが言う。かってティターンズが抑えていた欧州最大の工業地帯だ。これの恩恵でティターンズはかなりの戦力を整えてきたのである。
「そしてベルリン周辺の工業地帯だ。それを無傷で手に入れたい」
それこそがジブリールの狙いであった。
「それでいいな」
「まあ一般市民を攻撃するってのは正直俺は嫌いだ」
「俺もだ」
ヤザンとジェリドがまず言った。
「そういう意味であんたのやり方はいい」
「じゃあ早速取り掛かるんだね」
「そうだ。では宜しく頼む」
ジブリールはライラにも応えた。
「諸君等の健闘を祈る」
「了解」
ティターンズの面々が一斉に敬礼をして作戦会議は終わった。その後でジブリールは自らの個室でワインを手に一人くつろいでいた。
その膝には黒猫がいる。彼はその猫を見ながら色々と考えを巡らせていた。
「まずはこれでよし」
欧州に関しての考えであった。
「あの化け物さえあれば何が来ても怖くはない。そして」
「ジブリール様」
「入れ」
ノックにそう応えて入るように言った。一人の将校が中に入って来た。ティターンズの軍服である。
「何か」
「例の件でのことで」
「洗脳は上手くいったのか」
彼は椅子をその将校の方に回して問うた。その手にはグラスがある。
「その必要はありませんでした」
「我々に最初から賛成していたというわけではないと思うが」
「ええ。記憶をなくしておりまして」
「そうか、記憶をか」
「二人共。どうされますか?」
「ならそれでいい」
ジブリールはそう答えた。
「そのまま使わせてもらおう」
「わかりました」
「戦艦はあれでな」
「あれですか」
「そうだ、私も乗艦させてもらう」
「わかりました。ではそのように」
「うむ。手配しておいてくれ」
「はっ」
「そしてだ。そこにあの三人ともう一人をパイロットとして置く。いいな」
「ミッテ博士もですね」
「そうだな。彼女も必要だった」
「そう思います」
「では彼女達もだ。賑やかになるな」
「はい、おそらくは」
「あの三人、アズラエル理事が研究していたがかなり使えるな」
「ですが人間性が」
「崩壊しているか」
「とりわけシャニ=アンドラスのそれは」
「止むを得ないな。彼等は所詮兵器扱いだ」
ジブリールの声は冷徹になっていた。
「死刑囚を使っている。死刑になる筈だったのをそうしている」
「そうです。ですから」
「犠牲も止むを得ない。全ては理想の為に」
「青き清浄なる世界の為に」
「そうだ、全てはその為に」
彼も言った。
「よいな」
「無論です」
彼もまたブルーコスモスなのである。しかもジブリールと同じ急進派だ。だからこそティターンズに加わったのである。
「理想の為には私とても命を捨てるつもりだ。いざとなればな」
「はい」
原理主義者めいた言葉であった。ジブリールらしい。
「ではそのようにだ。ベルリンにはあの艦で私も行く」
「了解しました」
またティターンズは作戦に入ろうとしていた。彼等もまた戦場に向かうのであった。
インドでの戦いはまずはロンド=ベルの勝利であった。これでパキスタンに進出した彼等はそのまま北上することとなったのであった。
「さて、次はだ」
ブライトが言う。
「このままパキスタンから敵を駆逐する。いいな」
「了解」
皆それに頷く。マクロスの巨大なブリーフィングルームに一同が集まっていた。
「そして最後はネオ=ジオンを宇宙に追い立てたいが」
「敵も必死だろうな」
「そうだ。既にパキスタンにおいても堅固な防衛ラインを敷いている」
アムロに答えた。
「それをどうするかだが」
「正攻法では損害が大きいでしょうね」
ミサトが言った。
「ですからここは工夫をして」
「正面からの攻撃は避けるか」
アムロがすぐに作戦を立てだした。
「横から」
「それで私に考えがあります」
ミサトが述べた。
「今我々はパンジャブにいます」
「うん」
「ネオ=ジオンはイスラマバードに。それでですね」
ここえインド亜大陸の地図がモニターに映し出された。
「ここではそのままイスラマバードに向かわずに迂回してはどうでしょうか」
「迂回か」
「はい。一旦チベットに出てそこからカラコルム山脈を越えて」
「後方から攻撃を仕掛けるか」
「どうでしょうか、これで」
「悪くはないな」
ブライトはそれに頷いた。
「おそらく敵はカラコルム山脈を護りに考えている」
「はい。それを逆手に取って」
「奇襲を仕掛けるか。それでいいと思う」
「それではすぐにそれで」
「ただだ」
だがブライトはここで言った。
「全軍ではないな」
「それは流石に」
ミサトもどうかと思っていた。
「見破られます」
「では一部の部隊を回そう」
「はい」
「ナデシコと」
「はい」
「わかりました」
ユリカとルリがそれを聞いて答えた。
「そしてミネルバで」
「二隻なのですね」
「うん、少数精鋭でいきたい。そして主力はこのまま正面から攻撃を仕掛ける」
「つまり僕達で敵を引き付けるということですね」
それを聞いてアズラエルが述べた。
「そしてその間に」
「そういうことです。どうでしょうか」
「いいと思いますよ」
アズラエルもそれに賛成であった。
「ではそれでいきましょう。ただ、ネオ=ジオンにはソロモンの悪夢もいますし」
「ええ」
「手強いですから。用心して」
「意外と慎重なんだな」
「そうでなくては経営はできませんよ」
凱に対して返す。
「勇気も大事ですがね」
「勇気が一番大事なんだがな」
「いえいえ、冷静さこそが」
「何っ、勇気を否定するのか」
「そうではありませんよ。それだけでは足りないというのです」
「むう」
凱にとってはどうにも面白くない言葉ではあった。
「最後を決めるのは勇気じゃないっていうのか」
「それだけでは駄目なのですよ。できればこれからは僕の工場のようなことがなければいいのですがね」
「くっ」
これには黙るしかなかった。
「わかった。あんなことはしない」
「頼みますよ。僕もいささか勇気には期待してきていますからね」
アズラエルもアズラエルで影響を受けていた。
「さて、それでは僕もクサナギに帰って」
「そういえばあんたも正式にロンド=ベルに入ったんだったな」
真吾が言う。
「何時の間にかだけれど」
「うちって何かとお金持ちが多いのよね」
「ここに何もない貧乏人もいるぜ」
「何、御主のホットドッグも美味いぞ」
その金持ちのうちで特にアクの強い三人も当然ここにいた。
「わしは菜食主義者なのでホットドッグではなく野菜サンドがいいがな」
「優雅にサンドイッチを食する午後。それこそが」
ブンドルがまたしてもいつもの動作をする。
「美しい・・・・・・」
「毎度思うけれどあんたいつも酒飲んでるけれど大丈夫なのか?」
「心配無用だよ。マドモアゼル=カガリ」
「うわ、すっごい違和感が」
「カガリ様にマドモアゼルなんて」
マユラとジュリがそれを聞いて言う。
「何か違うのよね、カガリ様って」
「こらっ」
カガリは銘々勝手に言うアサギ達を叱った。
「私を何だと思っているんだ」
「だってカガリだからねえ」
「確かに。私も耳を疑いたくなりました」
「御前等も」
ユウナとキサカもそれは同じであった。
「何でそう私にばかり」
「だってこの前酔って下着姿になって暴れてたじゃないか」
「カガリ様、やはりそれは」
「済んだことはいいだろう」
無闇に反論もできなかった。
「それに。あの時は」
「まあ元に戻ったからいいけれどね」
「本当に。あの時は全く」
二人は二人でカガリを心配しているのだ。
「済まない、それは」
「じゃあ少しはおしとやかになってここはね」
「オーブの主らしく」
「ううん」
これには困った顔をする。
「さもないと僕達の胃に穴があくから」
「お願いしますぞ」
「御主等も大変だな」
カットナルがそんな二人に対して声をかけてきた。
「せめてわしのかみさんみたいな最高のレディーであればな」
「ケルナグールさんって結婚しているんですよね」
「はい、信じられませんか?」
トダカがアズラエルに答える。
「貴方もそうで御会いしたことがあるんですよね、御夫婦で」
「見ても信じられないものがあるんですよ」
アズラエルの言葉は恐ろしいまでに真実を語っていた。
「何であんな豪傑にあんな美人が」
「それ以前にあんたも結婚しているのか」
カガリにとってはそれも驚きであった。
「何か信じられないぞ」
「ちなみに私はこのまま一人で美を追求していく」
「あんたらしいな、それは」
カガリは案外ブンドルが嫌いではなかった。
「孤独の中に身を置きそこから美を求めていく。それこそが」
「美しい・・・・・・どうだ」
カガリがここで真似をしてみて周りの者に問うた。
「似合うか?」
「全然」
「何かの御冗談ですか?」
「こら、御前等」
ユウナとキサカに言い返す。
「御前等がそんなのだから私は」
「だって本当に似合わないから」
「カガリ様、やはり御自身を見詰められた方が」
「ああ糞、どうして私はこんな」
「マドモアゼル=カガリも魅力的なレディーだというのに。君達にはそれがわからないというのか」
「ブンドルさんの感性も」
「何かねえ」
「そうよねえ」
「天才は時として理解されず孤独に沈むものだからな」
三人娘の言葉に動じるブンドルではなかった。
「だがいい。それではこれから選曲に入ろう」
「戦う時のいつもの曲か」
「そうだ」
「ではわしはロッキーのテーマソングだ」
「それは却下だ」
ケルナグールに言い返す。
「わしはダースベイダーの曲だな」
「それも駄目だ」
カットナルにも言う。
「もっと美しいものがいい。そう、例えば」
「ヴェルディなんてどうだ?」
ここでカガリが言った。
「ヴェルディ」
「そうだ。見よ、恐ろしい炎はとかだ」
カガリは案外クラシックを知っているようである。
「あれだといいだろ。勇ましいし」
「確かに」
「じゃあ今回はそれだな」
「うむ、感謝する」
ブンドルは素直に礼を述べた。
「今回はマドモアゼルに乾杯といこう」
「それでまた酒か」
「ふふふ」
ブンドルは相変わらずであった。だが戦いははじまろうとしていた。今ここに。
主力はそのまま向かいナデシコとミネルバは迂回していた。ミネルバに乗艦しているのはザフトのメンバー達であるのはもう言うまでもない。
そこには当然シンもいる。だが彼の顔は浮かない。
「あいつ大丈夫なのかよ」
ディアッカが更衣室で仲間達に対してこう言っていた。皆まずはシャツとトランクスになりそこからアンダーを着てパイロットスーツを着ていた。
「最近おかしいぜ」
「ええ、確かに」
ニコルがそれに頷く。
「ずっとあの娘の側にいますよね」
「ああ、さっきもな」
ミゲルはそれに気付いていた。
「やっぱりな。どうなっちまったんだ」
「ここにいるザフトのメンバーじゃ一番そういう話がないと思っていたんですが」
ジャックが言う。
「どうも意外なことになっているな」
そしてハイネも言う。
「どういうことなんだかな」
「問題は彼が思い詰めているということです」
「そうだな」
皆ニコルの言葉に頷く。
「結構あれで思い詰めるタイプだからな」
「そうだな」
「どうもアスランがやけに気にしているんだよな」
「アスランがですか」
「そうさ」
ディアッカはニコルに答える。
「あいつらしいって言えばらしいか」
「そうですね。けれど」
「どうしたんだ?」
「そっとしておいた方がいい時もありますから」
「そこは難しいところだな」
ミゲルは落ち着いた目になっていた。
「タイミングが大事だ」
「はい」
「とりあえずは様子見か?俺達は」
「それしかないでしょうね」
ジャックが考えた顔で述べる。
「今のところは」
「心の問題だからな。迂闊なことはできない」
「そうだな」
ハイネはミゲルの言葉に頷いた。
「今のところはな、本当に」
「まだるっこしいな、何か」
だがディアッカはそれを聞いてどうにも不満げであった。
「そんなんはどうも俺の性には合わねえ」
「けれどディアッカ」
「それもわかってるさ」
ニコルに返す。
「わかってるから余計になんだよ」
「そうですか」
「それでそのシンは何処なんだ?」
「まだ来ていないみたいですね」
「そうか」
「レイは今は偵察に出ていますし」
「アスランと一緒かね」
「多分そうだと思います」
「ここはアスランに任せてみっか?」
ディアッカは考えながら述べた。
「俺達が下手に動いてもあれだろ」
「そうか」
「そうした方がいいんじゃねえかなって思うんだけれどよ」
「じゃあそうしよう」
ハイネがまずそれに賛同した。
「様子を見てな」
「そうだな」
「今はそれがいいですね」
ミゲルとジャックもそれに続いた。
「じゃあ今のところは」
「ああ、それでいこう」
彼等は今はシンを見守るだけであった。今のところは彼等にはどうすることも出来はしなかったのであった。
アスランはシンの部屋にいた。そして彼の話を聞いていた。
「何があっても守るつもりなんだな」
「そうさ」
シンは自分のベッドの上に座っていた。アスランは部屋のテーブルの席に着いていた。
「約束したから、俺は」
「だがシン」
アスランはそんな彼に対して言う。
「御前は今サコンさん達を信じてはいないな」
「ああ」
それは彼も認めた。
「信じられない、やっぱりあの人達は」
「ナチュラルだからか」
「いい人達だってのはもうわかってるさ」
それはシンにもわかってきていた」
「けれどそれでも」
「まだ信じきれないか」
「無理だよ、急には」
それは弱音であった。
「この前まで戦っていたのに」
「しかしそれは彼女も同じだろう?」
「それもわかってるさ」
シンはそれも理解していた。
「それでも彼女は」
「特別な存在か」
「俺にとっては」
これがどういう意味かシンはまだ理解していない。アスランもそういうことには深く知らないのでこの言葉の意味には気付いていなかった。
「だから何があっても」
「守ればいい」
アスランはそれは認めた。
「御前が守りたいのなら守るんだ」
「わかった」
「けれど。それで周りが見えないようにはなるな」
「周りがか」
「それで取り返しのつかないことになってしまいかねないからな」
「・・・・・・・・・」
「焦る気持ちもわかる。けれど今は」
「あの人達に任せるしかないのか」
「そうだ」
アスランはシンにそれを認めさせようとした。
「いいな、シン」
「けれど俺は」
アスランのこの言葉にはどうにも賛成できなかった。
「どうしても」
「それでもだ。いいな」
「・・・・・・・・・」
「彼女は絶対に助かる、だから」
「助かるのか」
「あの人達を信じるんだ、御前は落ち着いていればいいんだ」
「そうしたいさ、俺も」
シンは呟く。
「けれどどうしても」
彼にはまだサコン達を信じられなかった。それを自分でもどうにもできない。深刻なジレンマの中でもがいていた。そしてそれを引き摺ったまま戦場に向かうのであった。
「さて、そろそろ山越えね」
タリアはミネルバの艦橋で指揮にあたっていた。
「いいわね、もうすぐで戦闘よ」
「了解」
アーサーがそれに応える。
「ナデシコから通信です」
メイリンが報告する。
「つないで」
「わかりました」
それを受けてモニターが開く。するとユリカがモニターに出て来た。
「どうもっ、タリア艦長」
「ええ、ミスマル艦長」
「ミスマルじゃなくていいですよ」
ユリカはすぐにタリアにそう返した。
「ユリカでいいですから」
「そうなの」
真面目なタリアにはこのあっけらかんとした雰囲気がどうにも苦手であった。ちょっとばかり違和感を覚えていたがそれは口には出さない。
「じゃあユリカ艦長」
「はい」
「そろそろね」
「ええ。そう思って連絡させてもらいました」
「そうなの。それじゃあ」
「まずはタンホイザーを撃つんですよね」
「そうね」
タリアはそれに応える。
「まずは砲撃をしてから」
「じゃあこちらもグラビティブラスト撃ちますので」
「わかったわ。じゃあまずは砲撃を加えてから」
「突撃ですね」
「えっ、突撃」
「はい、エステバリスの行動範囲を考えまして」
「そうだったわね」
言われてそれに気付く。
「それで行きましょう」
「わかったわ。それじゃあ敵陣に突入するわ」
「はい、それではそういうことで」
「健闘を祈るわ」
「こちらもです」
これでモニターが消え通信は終わった。その後でタリアは妙に感心した様子になっていた。
「やるわね、噂だけはあるわ」
「そうなのですか?」
「わからないかしら」
その言葉にうぶかるアーサーに対して述べた。
「突撃を仕掛けようなんて」
「エステバリスの適正ではなくですか」
「それもあるけれど敵の中への急襲よ。度胸がなければできないわよ」
「言われてみれば確かに」
「さて、ナデシコの戦いを見せてもらうわ」
タリアもまた度胸を据えていた。
「そしてこちらも。全速前進」
速度を速めるように言う。
「タンホイザー射撃後すぐにモビルスーツ隊を伴い敵中に突貫!」
「了解!」
それを受けてミネルバは動く。その頃ロンド=ベルの主力は既にネオ=ジオンと交戦に入っていた。
「うわはははははははははははは!」
グン=ジェムが当たるを幸いに敵へめがけ乱射を続ける。
「その程度でわし等の相手になるか!」
「おっと大佐、暴れるのもいいけどさ」
そこにミンがやって来た。
「側にも敵はうじゃうじゃいるんだよ」
「そんなのは貴様に任せた!」
「ほう、いいねえ」
ミンはその言葉を聞いて楽しそうに笑みを作った。
「それじゃあ久し振りにこのチェーンソーに血を吸わせてやろうかい!」
「チ、チェーンソー持ってるのずるい」
「ゴル、あんたも出番だよ!いいから手当たり次第にやりな!」
「わ、わかった!」
「おうおう、どんどん来るぜ!」
ガナンとジンは迫り来る敵を狙い撃ちにしていた。
「ネオ=ジオンの連中もどうやら本気みたいだな!」
「そうだな。ソロモンの悪夢も前線に出ている」
「そうか。じゃあそいつもやるかい」
「おい、それは手出し無用だ」
だがそれはグン=ジェムが制止した。
「どうしてだい、大佐」
「専属がいるからな。わし等は雑魚担当だ」
「おっ、そうだったな」
ガナンはそれを聞いて不敵に笑った。
「そういうことならここは大人しくしておくか」
「そうだな。雑魚で我慢しておくかい」
ジンもそれに続く。
「何ならあんた達もチェーンソーで暴れるかい?」
「お、おでそれ欲しい」
「何て言うか楽しそうだな」
ライトはそんな彼等をぽつりと呟いた。
「あんた達」
「わかるかい?それが」
ミンはその言葉にまた不敵に笑ってきた。
「実はそうなんだよ」
「やっぱり戦いってのが一番スリルがあってな」
「面白くて仕方がないな」
「さ、最高だ」
四天王の面々はそれぞれ言う。それを聞いてライトも苦笑いするしかなかった。
「こりゃまたご機嫌なようで」
「何か俺達みたいな青少年にはわからない世界だな」
「そうそう。やっぱり青少年はスマートにいかないとな」
「ははは、坊主言うのう」
グン=ジェムはケーンのその言葉に口を大きく開けて笑った。
「ではわしが本当の戦いを見せてやろう」
「へえ、どうするんだい?」
タップがそれに問う。
「暴れるっていのかい?」
「そうよ。行くぞ野郎共!」
「おう!」
「行くかい!」
四人がその後ろに来た。そしてそのまま敵の中へ突っ込む。
「邪魔、どけい!」
グン=ジェムは先頭で正面に立つ敵を次々に叩き斬っていく。その周りでは四天王が当たるを幸いに攻撃を繰り出していく。一見そうだが実はかなり計算された緻密な動きであった。
「こりゃまた」
ケーンはそれを見て呟く。
「派手な攻撃だな」
「そうだな。けれどよ」
「ああ、穴が開いた」
タップとライトは言う。そして彼等も突撃に入った。
「久々に主役が活躍といくぜ!」
「そうだな。最近どうも出番が少ないからよ!」
「ギガノスの旦那だけじゃないってことを見せてやる!行くぜ」
ドラグナーの三人も突入していった。その後にロンド=ベルのマシンが入っていく。
その時ナデシコとミネルバも戦場に到達した。一気に主砲を発射する。
「グラビティ=ブラストお願いします」
「了解しました」
ユリカにルリが頷く。そして主砲を放ちそこに穴を開ける。
ミネルバも同じであった。タンホイザーを放つ。
「敵四個小隊壊滅です」
「まずまずといったところかしら」
タリアはアーサーにそう応えた。
「はい。ではこのまま」
「ええ、突撃用意」
「了解、突撃用意」
「アムロ中佐達の援護に向かうわよ」
「アムロ中佐ですか」
「それがどうかしたの?」
「いえ、艦長結構アムロ中佐のことお話してるなって思いまして」
メイリンが言った。
「あたしの気のせいかな」
「言われてみればそうかしら」
自分で少し上を見て述べた。
「どういうわけかね。アムロ中佐とは気が合うし」
「そうなんですか」
「流石ね。あれだけのエースなのに気さくで」
「へえ」
「いい人よ。あの人とは仲良くなれそうね」
「そういえばレミーさんもそんなことを仰っていたような」
「彼女とも仲がいいのよ」
「ですよね。この前も」
「そうよ。朝まで語り合ったわね」
「何か大人の女性ですね」
「そうね。そうそう、エルフィ」
「はい」
話に入ってきたエルフィに声をかける。
「モビルスーツ隊はこのままね。ジャスティスとデスティニーを先頭して」
「わかりました」
「彼等ならやってくれるから」
「既にアスランさんは前線に出ておられます」
フィリスが報告してきた。
「そう、流石ね」
「あれっ、シンはどうしたんだい?」
アーサーがそこでふと気付いた。
「いつも真っ先に突っ込んでいってるのに。まだなのかい?」
「シンさんは今は」
「後方で援護に回っておられます」
「デスティニーに何か異常があるの?」
「別にそうではないですが」
フィリスは報告する。
「何か今日は積極的ではなくて」
「珍しいわね」
「どうされますか?」
「それでもここはデスティニーの攻撃力に頼りたいわ」
タリアはそう決断した。
「だから前面に出てもらって。援護は貴女達が回って」
「わかりました」
「それでは」
こうしてシンは前面に出た。だが彼の様子は普段より攻撃性に欠けるものであった。
「シン」
そんな彼にアスランが声をかける。
「今は戦いのことだけを考えるんだ。いいな」
「ああ、わかってる」
彼はそれに頷く。そして目の前の敵に向かった。
「丁度手強いのが来ているな」
二人の前に二体のモビルスーツがいた。グレミーのバウとラカンのドーベンウルフだ。
「ドーベンウルフは俺が相手をする」
アスランはそう言ってきた。
「だから御前は」
「わかった。俺はバウをやる」
「頼むぞ。それじゃあ」
「わかった・・・・・・いや」
だがここで状況が変わった。
「待て、アスラン」
「どうした!?」
「奴等下がっていく。どういうことだ?」
「戦線の縮小か!?」
見ればそうであった。ニ方向から攻撃を受けているネオ=ジオンは戦力の減少も受けて前線を縮小してきたのだ。それでロンド=ベルにあたってきていた。
「くっ、こうなっては仕方ないか」
マシュマーは前線で敵の攻撃を受けながら呻いていた。
「これだけの損害を受けてはな」
「マシュマー様、このままだとやばいですよ」
後ろでズサに乗るゴットンが泣き言を言っていた。
「敵の攻撃が半端じゃありません」
「ええい、死ぬのならそれでよいではないか!」
マシュマーはそんなゴットンを叱って叫んだ。
「我々は大義の為に戦っているのだ!今更命なぞ惜しむな!」
「そんなこと言われましても!」
「ゴットン!貴様は命が惜しいというのか!」
マシュマーは問う。
「どうなのだ!」
「惜しいに決まってるじゃないですか。どうしていつもこんな」
「ええい、情けない!その言葉私は悲しいぞ!」
「おいおい、戦場で漫才かよ」
それを見てトッドが言った。
「相変わらず面白いことだ。だがそんなのじゃ死ぬぞ!」
ジョナサンがマシュマーに攻撃を仕掛ける。だがそれは左に滑ってかわされた。
「なっ」
「甘い!この程度の間合いで!」
「くっ、どうやら腕は本物だってわけか」
「旦那、気をつけな」
トッドは歯軋りするジョナサンに対して言った。
「あいつはああ見えても実力はあるぜ」
「くっ、まぎらわしい奴だ」
「二人で仕掛けるかい?」
「いや、それはいい」
ジョナサンはそれは断った。
「一人で充分ってことかよ」
「違うな、もう一人もういるんだよ」
「ほお、誰だいそれは」
「あいつさ」
そこにクイシンシィがやって来た。
「そういうことだ。悪いな」
「じゃあ俺は他にあたるか」
何か嫉妬を覚えたがそれは言わなかった。トッドはダンバインを駆り戦場を駆けていった。
コウはシーマと対峙している。ガーベラテトラは地を滑り攻撃を仕掛けてくる。
「さかしいねえ。相変わらず」
「シーマ、御前もいたのか!」
「あたしは何処でもいるさ。それが下っ端だからね」
シーマはそれに応えて言う。
「こうしてまたあんたと合うんだからね。因果なものだ」
「御前は戦うことをどう思っているんだ!?」
コウはふと問うた。
「御前はガトーとは違うようだが」
「全く違うさね」
シーマは自分でそれを認めた。
「だがそれがどうしたってんだい?どいつもこいつもあいつみたいだったらいいっていうのかい?」
「いや、それは」
「あたしには理想も栄光もどうでもいいのさ」
そして言う。
「そんなことでどうにかなってたまるかっていうのさ。あいつとは違うんさね!」
「むっ!」
「あたしはまず生き残ることだよ!」
コウに攻撃を仕掛けながら叫ぶ。
「下っ端の戦いってのはそうなんだよ!覚えておきな!」
「シーマ、一体何が」
「一年戦争はね、あんた達が思っているようなんじゃないんだよ!」
コウに対して言う。
「生きるか死ぬか、それだけだったのさ。そんな大義や理想で戦争がどうにもなるものじゃないんだよ!」
「くっ、それが御前の考えか!」
「そうさ!よく覚えておきな!」
コウのガンダムに果敢に攻撃を浴びせる。その横ではクワトロのサザビーとガトーのGP-02が接近戦に入っていた。
「むう」
クワトロはガトーのビームサーベルをヒートホークで受けて声を漏らした。
「ソロモンの悪夢。腕は衰えていないか」
「そちらこそな。赤い彗星も」
「アナベル=ガトー少佐、こうして剣を交えるのははじめてだったか」
「さてな。それは忘れたが」
「だがこうして今貴殿と話す機会ができた」
「キャスバル=ズム=ダイクン」
ガトーはふとクワトロの本来の名を口にした。
「もうその名ではないのだな」
「そしてシャア=アズナブルでもない」
クワトロはそれに応えて言った。
「言うまでもないと思うが」
「永遠にか」
「そう、永遠にだ」
クワトロは言う。
「私は今人類をジオンの呪縛から解き放ちたい為にここにいるのだ」
「ジオンの大義をか」
「そうだ。だから貴殿とは相容れないな」
「そうか。残念だ」
「ガトー少佐、あくまで求めるのか」
クワトロはガトーに問う。
「ジオンのその大義を」
「無論、それが私の生きる道」
ガトーの言葉に迷いはなかった。
「それでどうして迷うことがあろうか」
「そうか。貴殿はハマーンとは違うのだな」
「ハマーン殿がどうされたか」
「いや、何でもない」
クワトロは彼女に関しては言おうとはしなかった。
「だが貴殿が迷わぬというのならそれでいい。私もまたそうなのだからな」
「ジオン=ズム=ダイクンの息子としてか」
「父の理想はまた別の形に昇華されるべきなのだ」
クワトロは言う。
「私の後の世代によってな」
「ジオンの大義は消え去るというのか」
「私はそう見ている」
ガトーに返す。
「あくまで私はだが」
「だが私は」
無論ガトーの考えは違っていた。
「ジオンの義により生きている!ならばこそ!」
「ジオンの下で戦うというのか」
「そうだ!クワトロ=バジーナよ!」
彼をクワトロと呼んだ。
「私はジオンの大義の為に貴殿を倒す!覚悟!」
「そうか。では私も」
クワトロもそれを受ける。
「退くつもりはない。行くぞ」
「参る!」
再びヒートホークとビームサーベルが撃ち合う。二人の間を激しい火花が散っていた。ジオンの大義が彼等を戦いへと導いていたのであった。
コウとシーマ、クワトロとガトーが戦っている間の指揮はグレミーがあたっていた。今彼は前線が崩壊しようとしていることに気付いていた。
「これ以上は無理だね」
「おそらくは」
ラカンがそれに答える。
「わかった。では撤退だ」
「はい」
「木星トカゲの無人機を楯にしよう。そしてその間に」
「わかりました。ところで」
「どうした?」
「ニュータイプ部隊は全てこちらのものとなりました」
「そうか」
「既に我等の同志はかなりの数になっております。機が熟せば」
「そうだな。その時こそ」
彼は何かを考えていた。しかし今はそれを表には出していなかった。ネオ=ジオンの士官として振舞うだけであった。
グレミーの指揮の下ネオ=ジオンは撤退に移る。これで戦いは終わりに向かっていた。
「あら、もう終わりなの」
ルナマリアは撤退する彼等を見て拍子抜けした声をあげた。
「もっと派手にやるかなって思ったのに」
「それは今度ってことだろうな」
そこにムウがやって来て彼女に述べた。
「敵さんはこのままサマルカンド辺りにまで退くんだろうな」
「そこで最後の戦いってわけかしら」
「少なくともネオ=ジオンに関してはな」
「それが終わったらティターンズね」
「ああ、気が早いな」
「そうかしら」
「元気がいいって言うのかな。そうした感じがいいねえ」
「あたしは積極的な女なのよ」
「おやおや」
「いつでも積極攻撃よ、それが信条」
「失敗も多いけれどな」
「何が言いたいのよ」
横にやってきたディアッカに言い返す。
「あんたはいつも一言多いのよ。そんなんだからプリンなんて言われるのよ」
「ったくよお、あのペチャパイ女・・・・・・おわっ!?」
ここでグレイブが飛んで来た。慌ててイージスを左に捻ってかわす。
「聞こえてるわよ」
「おい!それでもいきなりこれはないだろが!」
アスカに思いきり抗議する。
「死んだらどうするつもりなんだよ!」
「コーディネイターならそれ位よけなさい!」
「味方を殺すところだっただろうが!」
「大体レディーを胸だけで判断する奴に生きてる資格なしよ!」
「うるせえ!俺は本当は胸は大きくても小さくでもいいんだよ!」
「おい、それって単に節操がないだけだろ」
ジョナサンがそれを聞いて言う。
「自分で言ってどうするんだ」
「何かあいつどんどんロンド=ベルに馴染んできているな」
ニーが溜息混じりに述べる。
「しかし。どうしたものか」
「それにしてもアスカも見境ないわね」
リムルがニーの横で言う。
「誰に対しても」
「分け隔てしていないってことでもあるけれどな」
ショウが言う。
「あれで繊細なんだよ、アスカは」
「やることは凶暴だぜ、おい」
トッドはショウ達とは少し違うものを見ていた。
「いきなり得物ぶん投げるなんてよ」
「けれどあれだとロンド=ベルにいたら避けられるわよ」
それにマーベルがフォローを入れる。アスカに対してのだ。
「だから投げたのよ」
「そうかね。にしても怒ると何するかわからねえな、相変わらず」
「それはね」
「大体あんた」
「今度は何だよ」
「この前のトレーニングでずっとあたし見てたじゃない」
「そうだったかな」
記憶にない。
「あたしの半ズボン姿がそんなにいいっての!?嫌らしいんだから」
「半ズボンなんか見たって何もねえだろうが」
売り言葉に買い言葉で返す。
「ブルマーでもなきゃよ」
「糞、どっかの親父みたいね。時代は半ズボンなのよ」
「じゃあそれでもずっと履いてろ」
「あんたに言われる筋合いはないわ」
「そんなんだったら嫁の貰い手なくなるわよ」
「何ですって!?言わせておけば!」
「やるか!?後で勝負すっぞ!」
「望むところよ!受けて立つわ!」
「言ったな!よし!」
何時の間にか戦いから言い争いになっていた。
「吠え面かかせてやるからな!このペチャパイ!」
「それはこっちの台詞よ、炒飯男!」
二人は仲が悪かった。それがはっきりと周りの者にもわかる戦いの最後であった。
ディアッカとアスカの喧嘩の後で皆別れた。めいめいの母艦へと帰っていく。
その中には無論シンもいる。彼は帰還するとすぐにステラのところへと向かった。
「ステラ、大丈夫かい!?」
だが彼女は決して大丈夫ではなかった。ベッドの上で全身を拘束されていたのだ。
「えっ、これって」
「仕方ないのよ」
彼にリツコが答える。
「暴れるでしょ。だから」
「けれど幾ら何でも」
「だから仕方がないのよ。また暴れられたら」
「そうなんですか」
「そうよ。だから納得して」
「・・・・・・・・・」
それに答えることはできなかった。彼にはどうしてもできないことであった。
気分が晴れなくなった。そのまま自分の部屋に戻ろうとする。だがそこでキラとばったり出会ってしまった。
「何だ、そうだったのかよ」
「うん、それでね」
キラは前から来ていた。廊下でディアッカ達と楽しく談笑している。彼もザフトの面々と打ち解けてきていたのだ。これはアスランの仲介によるところが大きかった。
「アスカはあれで仲間思いなんだよ」
「そうかね」
「そうだよ。まあそれもわかってくると思うと」
「だといいけれどよ」
ディアッカにはそれが今一つ信じられないようであった。
「さっきみたいにいきなり武器投げられちゃな」
「手が早いから気をつけてね」
「参るね、そりゃどうも」
「けれどさっきはよくかわせましたね」
一緒にいるニコルが言った。
「わかってたんですか?あれ」
「いや、咄嗟だよ」
ディアッカは彼に答える。
「もう勘だったな。一瞬でも遅れていたらよ」
「いや、多分大丈夫だったよ」
「そりゃまた何故だい?」
「だってアスカだって本気じゃなかったから」
「いや、あれは本気だっただろう」
ミゲルが言う。
「目が完全に据わっていたぞ」
「そうだな。殺す目だった」
ハイネも述べる。
「間違いない」
「確かにアスカは短気だけれどね」
「ほれ見ろ」
「けれど幾ら何でも本気で仲間攻撃したりはしないよ。素手なら別だけれど」
「別なのか」
アスランはそれを聞いて顔を俯けさせる。
「だから安心していいよ。それにディアッカならかわせるって最初からわかってやってるから」
「それでも二度とあんなのは御免だな」
彼も流石に懲りていた。
「あんなのはよ・・・・・・おっ」
ここで前から来るシンに気付いた。
「おい、シン」
「何だ」
彼はそれに応えてジロリ、と目を向けてきた。
「御前これから暇か?よかったらよ」
「今忙しい」
「忙しいって次の出撃にはまだ時間があるぜ」
「それでもだ。じゃあな」
「おい、そんなつれないこと言うなよ」
「キラ」
彼はディアッカには応えずにキラを睨んできた。
「どうして御前がここにいる」
「どうしてって」
「キラはここに遊びに来たんですよ」
ニコルが彼に説明する。
「ミネルバにか」
「そうです。アークエンジェルとミネルバの交流を深める為に。サイやカズイも一緒ですよ」
「女の子達も一緒だよ。御前もどうだい?」
ジャックも声をかける。
「ナチュラルとか」
「まあそうだな」
「なあシン」
またディアッカが声をかける。
「もうよ、ナチュラルとかコーディネイターとか関係ないぜ。そんなのはどうでもいいんだよ」
「それは御前の考えだろう?」
だがシンはそれに取り合おうとしない。
「俺は違う。まして」
またキラをキッと見据える。
「御前とは違う。だから」
背を向ける。そして彼等の前から姿を消した。
「あっ、シン」
ニコルが呼び止めようとするがもう彼は去っていた。
「全く、何考えていやがるんだ」
ディアッカはそんな彼を見て呆れた声を出す。
「ガキじゃあるまいしよ。けれどあれだろ?」
「ああ」
アスランが彼に答える。
「さっきも彼女のところにいた」
「それでもナチュラルは違うっていうのかよ」
「あいつの中ではそうらしい」
「わからねえな、それが」
「彼も悩んでいるのかも知れませんね」
「悩んでいる!?」
ジャックがそれに声をあげる。
「はい。彼自身の中に葛藤が。それで」
「だとしてもよ。えらく態度が悪いな」
ディアッカはそれでも彼の様子をよしとはしなかった。
「特によ、キラとは色々あったにしろもう仲間だろ。それで」
「あいつもあいつで苦しんでいるんだ」
ここでアスランが言う。
「だから」
そしてシンを追って行った。そのまま彼も姿を消す。
「あいつ一人で背負い込んでいるな」
「そうだな」
ハイネの言葉にミゲルが頷く。
「それが重荷にならなければいいがな」
「アスラン・・・・・・」
「なあ」
キラがアスランを見て心配そうな声を出すのでディアッカがここで言った。
「何かあったらよ、アスランを上手くフォローしようぜ」
「そうですね」
最初にそれに頷いたのはニコルであった。
「アスランにはいつも助けてもらっていますからね」
「ああ、戦友ってやつでな」
「そうだな」
今度はハイネがそれに頷いた。
「その時が来たならな」
「俺もやらせてもらうか」
「俺も」
ミゲルとジャックも入ってきた。
「皆で」
「アスランを」
「皆優しいんだね」
キラはそんな彼等を見て言った。
「アスランの為に」
「御前と同じだよ」
ディアッカが彼に応えた。
「仲間だからな」
「それにアスランはいい奴だ。だから」
「そうなの」
ミゲルの言葉にも応える。
「アスラン・・・・・・プラントでも同じだったんだね、やっぱり」
「だが問題はあいつだ」
ハイネが言った。
「シン・・・・・・どうなるかな」
「大変なことにならないといいですけれどね」
「そうだな」
ジャックがニコルの言葉に頷く。彼等は今シンの行く末に暗いものを見ていたのであった。

第百二十四話完

2006・11・13  
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