八条学園騒動記
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第三十一話 破天荒な兄その三
「フローネ」
「あら、フローネちゃん」
「パレアナ先輩も」
「ちょっとね。この馬鹿と話してたのよ」
パレアナはフランツを指差して言ってきた。
「フローネちゃんの漫画のあれでね」
「そうだったんですか。それで」
「ええ」
パレアナはフローネに応えた。
「どうしたの?」
「お兄ちゃんに用があって来ました」
「俺にか」
「そうよ。お弁当」
先輩にはにこやかな顔だったのに実の兄にはむっとした顔である。その対比が実に鮮やかであった。
「忘れてたでしょ」
「そうだったのか」
「そうだったのかって」
フローネはフランツのしれっとした様子に抗議する。
「いっつも忘れてるじゃない。しっかりしてよ」
「覚えていないぞ」
「そりゃあんたの記憶力に問題があるんでしょ」
横からパレアナが容赦の無い突っ込みを入れる。横目で彼を見ながらの言葉であった。
「どう考えても」
「また俺か」
「実際忘れてるじゃない」
パレアナはさらに突っ込みを入れてきた。
「そうでしょ?」
「ううむ」
こう言われては反撃は無理であった。さしものフランツも沈黙した。もっとも彼は口喧嘩は苦手であるが。そうしたことはからっきしである。ただし騒ぐことにかけては誰にも負けない。
「それでね」
フローネがまた言う。
「お弁当、持って来たわよ」
「済まない」
妹に対して礼を述べる。
「そういえばそろそろお昼か」
「そうね。いい時間ね」
「そうだな」
パレアナとタムタムがそれに頷く。
「しっかりしてよ。只でさえ食べるのに」
また兄に言ってきた。
「しょっちゅう忘れられたらそれを持って来るだけでも大変なんだから」
「大変、ねえ」
パレアナはその言葉を聞いて顔を顰めさせてきた。
「お弁当を持って来るだけで」
「そうなんですよ。そのお弁当ですけれどね」
「ええ。どんなの?」
「こんなのです」
出て来たのは机程もある巨大な弁当箱であった。
「うわ、これはまた」
「お兄ちゃん専用です。食べないと身体が持たないからって」
「まずは食うことだ」
フランツはその言葉を受けて言う。
「だから俺は食べる。何があってもな」
「何があってもってあんたねえ」
パレアナはまた彼に抗議めいた言葉をかけてきた。
「幾ら何でもこれは食べ過ぎでしょうが」
「そうか?」
「そうよ。しかもよく見たら」
パレアナが持っている弁当箱を見る。それは一段ではなかった。
「三段って。よくもまあこんなに」
「普通じゃないですよね」
「普通は一段よ」
パレアナは呆れ果てたといった感じの声で述べた。
「幾ら何でも」
「じゃあ俺は普通じゃないのか」
「自覚ないの?」
パレアナはまたフランツを横目で見てきた。
「だとしたらおかしいわよ」
「ううむ」
「いや」
しかしタムタムがここで言ってきた。
「俺もこれだけ食うな」
「嘘」
「食べないと持たない」
彼はこう主張する。
「そうだろう?やっぱり俺達は運動しているからな」
「そうだそうだ」
フランツはそれに勢いを得て述べる。
「やはり食べないと駄目だ。だから俺はおかしくはない」
「ううん」
「そういえばパレアナも」
「私も?」
タムタムによって自分に話を振られてキョトンとした顔を見せる。これは彼女にとっては意外な流れであった。
「かなり食べているんじゃないか?」
「言われてみれば」
その通りなのでついつい納得の言葉を述べる。
「一段ならこのお弁当でもいけるし」
「御前はそこにお菓子もあるな」
「まあね」
タムタムの言葉に答える。
「それを考えるとかなりじゃないか」
「そうね」
頷いてしまう。頷くしかない。
「けれど三段はやっぱり凄いわよ」
「昼はこれでも軽くしているんだ」
「ちょい待ち」
フランツの今の言葉は聞き捨てならなかった。すぐに言葉を止めてきた。
「今何て言ったのよ」
「だから軽くしていると」
「これの何処が軽くなのよ」
その三段の弁当箱を指差して彼に言う。
「じゃああんらの重くはどんな感じなのよ、一体」
「お兄ちゃん晩はもっと凄いですよ」
ここでフローネが言ってきた。
「嘘・・・・・・」
「いや、嘘じゃない」
タムタムも言ってきた。
「俺は時々フランツの家に行くがな」
「ええ」
「確かにかなり食べる。これの倍はな」
「そんなに食べてるの」
「身体を動かした後は腹が減る」
フランツはこう言ってきた。
「それにな」
「それに?」
「しっかり食べて身体を作らないといけない。だから食べるんだ」
「そうだったんだ」
「スポーツをするとあれだろ?」
珍しく科学的なことを言うフランツであった。
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