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八条学園騒動記

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第三十一話 破天荒な兄その二


「あんた妹いたのよね、確か」
「フローネだ」
「知ってるわよ。何であんたみたいなのにああした妹さんがいるのよ」
「何だ、その言い方は」
 フランツはその言い方にむっとした顔を見せてきた。
「俺にフローネがいて悪いか」
「悪くはないわよ。けれどね」
 パレアナは言う。
「フローネちゃんが大変そう」
「俺みたいに凄い兄貴がいてか」
「まあ確かに凄いわね」
 凄いことは凄い。それは認める。凄いの意味もニュアンスも通常のそれとは全く異なるものではあるがそれでも凄いことは事実であった。
「あとジャック君だったわね。弟さん」
「ああ」
 フランツはその言葉に答える。
「そうだ。俺の可愛い妹と弟達だ」
「似てなくて何よりだったわ」
「おい、さっきから何だ」
 いい加減腹に据えかねたので抗議する。
「俺が何かしたのか」
「まあ落ち着け」
 タムタムが間に入る。
「そう熱くなるな」
「ううむ」
 相棒に言われては仕方がない。どうもタムタムの言葉には何でも素直に従うようである。
「わかった。それでパレアナ」
「ええ」
「フローネに何かあったのか?」
「いや、そのフローネちゃんね」
 その言葉に応える。
「どうしたんだ?」
「うちの部活にいるじゃない」
「部活というと」
「バスケ部よ」
 そうフランツに言う。
「自分の妹の部活位覚えておきなさいよ」
「自分のことで頭が一杯だからな、俺は」
「だから駄目なのよ。そうかあ、それフローネちゃんのだったのね」
「そうだ。読んでみたがかなり面白いな」
 そう言ってまた漫画を開く。
「これからあらすじはどうなっていくんだろうな」
「最初どうなったか覚えてるの?」
「いきなりホームランボールをジャンプして受け取ったんだったな」
「・・・・・・ちょっとあんた」
 その言葉に思わず呆れた。
「それは野球でしょ」
「おっと、そうか」
 言われてそれに気付く。
「悪い、忘れていた。どうも他の漫画と一緒になっていた」
「何処をどうやったら野球とテニスが一緒になるのよ」
 相変わらず記憶力は全くあてにならないフランツの頭脳であった。勿論他のことも見事に忘れたり勘違いしてしまう。彼の脳細胞は灰色ではないのだ。燃え上がっていて酸化しているのかも知れない。
「コーチの病気は?」
「ペストか」
「・・・・・・本気!?ネタ!?」
 流石にその病名は予想していなかった。完全に何を言っているのかわからなくなってきた。
「今のって」
「違ったか?」
「今時そんな病気ないでしょ。大体ペストだったらそこいら歩けないわよ」
「そうか」
「そうかじゃないわよ」
 こう言い返す。66
「全く。どんな記憶しているんだか」
「俺の記憶は気にするな」
 自分でもそれを言う。
「ちょっと普通とは違うだけだ」
「全然違うじゃない」
 それにまた突っ込みを入れる。
「どうなってるのよ、全く」
「とにかくこの漫画は面白いな」
「ストーリーを完全に覚えていたらね」
「まあそうかもな。しかしこのまま読んでも確かに面白い」
「ええ」
 それはパレアナも知っている。だから頷く。
「これを野球に活用できればな」
「フットワークはな」
 ここでタムタムが言ってきた。
「かなり大事なのは事実だな」
「そうだな。打たれた後だ」
 フランツもそれに応える。
「バントとかされた時にだな」
「そうだ。その時は」
「ああ」
 二人は真剣な野球の話に入った。こうなると彼はさらに活き活きとしてくる。その輝くどころか燃え上がる目がまた凄い。そうして野球の話に熱中していると。
「ちょっとお兄ちゃん」
 不意に声がしてきた。
「んっ!?」
「何だ!?」
 パレアナとフランツは同時に声がしたほうを見た。するとそこには赤金色の髪に団子鼻の女の子がいた。彼女がフランツの妹のフローネである。日に焼けた顔に白いブラウスとクリーム色のズボンという格好であった。 
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