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八条学園騒動記

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第三十一話 破天荒な兄その四


「色々疲労も蓄積されるし必要な部分を補強しなけりゃいけない」
「ええ」
「だからさ。それを補う為に食べるんだ」
 そう主張してきた。
「それも運動してすぐ後に。これが一番なんだ」
「確かにね。それは知ってるわ」
 パレアナもそれは知っていた。成程、と感心していた。
「それが一番いいのもね」
「だからだ」
 フランツの主張はその通りであった。パレアナでさえ納得するまでに、しかしだ。
「それでもさ」
 それでも彼女は言う。
「このお昼は一体何なの?」
「エネルギー補給だ」
 フランツは弁当に関してはこう述べた。
「運動の為のな」
「そうだったんだ。それにしても凄い補給量ね」
「これでもセーブしているつもりだ」
「何処がよ」
 それはすぐに嘘だと思った。実際に口に出した。
「昼食べ過ぎたら身体の動きが鈍くなるからな」
「これが少しって言うの」
「少しじゃないか」
「全く」
 いい加減呆れてきた。
「身体に全部エネルギーがいってるのね、あんたは」
「そうなんですよ」
 フローネはまた言う。
「けれどお兄ちゃん頭の方は」
「おい、フローネ」
 フランツは悲しい顔になってきた妹に対して言う。
「昔から言っているだろう。俺は勉強よりもスポーツに命をかけていると」
「そのレベルで済んでいないわね」
 パレアナはまたしても心に思ったことをそのまま口に出した。
「無茶苦茶やってるから、いつも」
「言っているだろう。だからいいんだ」
「普段の生活にも頭を回してよ」
 フローネはそう抗議する。
「少なくともゲームやってて絶叫して身体動かし回るのだけはどうにかしてよ」
「ああ、それはなおらないわよ」
 パレアナが突っ込みを入れる。
「絶対に」
「やっぱりそうですか」
 フローネはパレアナのその言葉を聞いてふう、と溜息を吐き出した。
「ずっとこうだったんで。考えるのは野球のことだけで」
「その野球にしろ」
「そうなんですよ。ずっとチームでもあんまりにも頭があれだから」
「やっぱりねえ」
「タムタムさんには感謝してるんですよ」
「俺にか」
 話を振られたタムタムはフローネに応えた。
「そうなんですよ。だって今までお兄ちゃんをリードできるキャッチャーなんていませんでしたから」
「そうだったのか」
「ええ」
「まあそうでしょうね」
 パレアナはその話にうんうん、と首を頷かせていた。
「こんな破天荒なピッチャーはね」
「こんなお兄ちゃんも」
「随分な言いようだな」
 フランツはそれに抗議めいた言葉を返す。
「こんな天才ピッチャーを捕まえて」
「身体能力と頑丈さだけはね。人間のレベル超えてるし」
「頭も人間のレベルをある意味超えているし」
「俺は凡人の器ではない!」
 勝手にそうとらえる。
「そういうことだ!俺は野球においてはあらゆることで頂点に立つ!」
「じゃあサイン覚えなさいよ」
 タムタムではなくパレアナが突っ込むのがみそであった。
「いい加減にさ」
「家事も覚えないし」
「困ったものよね」
「はい」
 パレアナとフローネは完全に同盟を結んでいる。だからといってへこたれるようなフランツでもないのであるが。
「タムタムとしてはどうなの?」
 パレアナは相棒に話を振ってきた。
「俺か?」
「ええ。どうなの?」
 話を振ったうえで問う。
「最近のエースの具合は」
「サイン覚えませんよね」
「そんなことはどうでもいいさ」
「えっ!?」
 ここで出たのはタムタムの意外な言葉であった。彼はフランツがサインを覚えないのもいいと言っているのである。
 
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