八条学園騒動記
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百六十八話 お客は色々その七
「このお店だってね」
「そうだな。それはな」
今の言葉には微笑むことができた。かなり素直に。
「じゃあ頑張らせてもらうぞ」
「頼むわ。それじゃあ私は」
「何処に行くんだ?」
「ちょっとお芝居の方見て来るわ」
同時に進めている三つのオレンジの恋の舞台のことである。
「そっちにね」
「そっちはどうなってるんだ?」
「とりあえず順調みたい」
こう答えるのだった。
「道化師やってるギルバートの話だとね」
「そうか。順調か」
「私ヒロインやるし」
そちらでもメインなのであった。
「お姫様役だから頑張らないとね」
「魔女じゃなかったか?」
ふとこう言うタムタムだった。
「確か」
「代わったのよ」
しかしアンネットはこう返すのだった。
「あれからね。役がね」
「そうだったのか」
「ルシエンが王子様になって」
それも代わったようである。
「それで私は王女様で」
「カップルで主役同士か」
「そういうこと」
今のタムタムの言葉ににこりとなった。二人の仲はもうクラスでの周知の事実である。
「それがいいかなってことでね」
「御前が代えさせたのか?だとしたらそれは」
「幾ら何でもそれはしないわよ」
アンネットは首を横に振って笑ってそれは否定した。
「幾ら何でもね」
「それはないか」
「ないわよ。皆がそうしてくれたの」
そうだというのだった。
「それはね」
「そうか。皆気遣ってるんだな」
「そういうあんたも出てる筈よ」
また言うアンネットだった。
「舞台にね」
「そういえばそうだったか」
「喜劇役者だったと思うけれど」
「そっちの練習もしないといけないな」
それはわかっているが、であった。
「ちゃんとな」
「まあ出番少ないしそんなに気にすることないわよ」
「じゃあ俺はこっちがメインか」
「それで頼むわ。向こうもしっかりとした人が多いしね」
「そうだな。ギルバートもアルフレドもいるしな」
「ギルバートはちょっとあれなところがあるけれど」
彼については苦笑いのアンネットだった。
「暑苦しいし結構以上に鈍感だし」
「確かにな。アンのこともな」
「あれ本当に気付かなかったからね」
「全くな。あれには呆れた」
かつての告白までの話を心の中でそれぞれ反芻しながらの話である。アンはギルバートに自分の気持ちを中々気付いてもらえなかったのである。
「殆どの人間が気付いていたのにな」
「そうよね」
「あっ、そうだったの?」
ところがであった。ここで彰子がこんなことを言い出したのである。
「皆気付いてたの」
「えっ!?」
「気付いてなかったのか!?」
二人は今の彰子の言葉に店の中であるのに思わず声をあげてしまった。
ページ上へ戻る