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八条学園騒動記

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第百六十八話 お客は色々その六


「これは」
「本物じゃないわよね」
 今度はこう言う彰子だった。
「あれって」
「本物って?」
「妖怪さんとか」
 少しぼんやりした口調になっていた。右手の人差し指を自分の唇に当ててそのうえでこう言ったのである。まさかと思っているのがその態度に出ている。
「そういうの?」
「まさか。それはないわよ」
 それはすぐに否定したアンネットであった。
「そりゃいるかも知れないけれど」
「それは否定しないんだな」
「私もそこまで頑迷じゃないわよ」
 この時代は妖怪の存在もかなり信じられているのである。だからタムタムの今の問いにこう返したのである。
「というか今までそんなこと何度でもあったし」
「そうだったな」  
「でしょ?例え妖怪でもね」
「驚かないのか」
「ええ。ただしよ」
 しかし言葉を付け加えはしてきたのである。
「こんな真昼間から出て来ないでしょ」
「昼にはか」
「妖怪って夜に出て来るものじゃない」
 これはよく言われていることであった。
「夜にね。だから」
「それはないか」
「違うと思うわ」
 少なくともアンネットはこう考えているのであった。
「それはね」
「やっぱり違うかしら」
「お金だってどうするのよ」
 アンネットは今度は彰子に告げた。
「お金。セーラがお勘定してるけれど何も言わないでしょ」
「ええ」
「偽者とかだったらあの娘すぐに見抜くし」
 そうしたあやかしに関するものはやはり彼女であった。
「だからあの人達は。普通の人達だと思うわ」
「そうなの。普通なの」
「ただ仮装しているだけでね」
 それだけだというのである。
「だから。そんなに気にすることないわよ」
「あの格好で来るというのは流石に普通ではないがな」
 一応こう言いはするタムタムだった。
「それでもだな」
「中身は普通の構造の人間でしょ」
 あくまで肉体は、という意味であった。精神までは言及していない。
「だから。別にね」
「そう。妖怪さんじゃなかったわ」
 アンネットにここまで言われて頷いた彰子だった。
「別になのね」
「そうそう。それじゃあ商売よ」
「ええ、じゃあ」
「まずは何よりも商売よ」
 この辺りはかなり真面目になっていた。
「頑張りましょう」
「そうだな。じゃあ頑張るか」
「頼むわよ、参謀」
 タムタムににこりと笑って告げもした。
「頼りにしてるからね」
「頼りにか」
「当たり前でしょ。あんたの頭脳はわかってるんだし」
 タムタムのその鋭い頭脳をというのである。
「それがあってこそのお店ってところもあるし」
「俺はそこまで凄かったのか」
「皆がそうよ」
 こうも言うアンネットだった。
「皆がね」
「皆か」
「皆があってこそのこのクラスだし」
 この考えはアンネットにも強くあるのだった。 
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