八条学園騒動記
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第百六十七話 酒のないロシアその五
「ロマノフ公国でもそうだと思うけれど」
「いや、あそこロシアだし」
「兄弟国家じゃない」
今のアンネットの言葉に一斉に突っ込みを入れる客達であった。
「紛れもなく」
「そうじゃない」
「まあそうだけれどね」
実際にロマノフ公国は白系ロシア人の末裔がロマノフ家を呼んでそれを大公として国家元首に戴いた国家である。紛れもなくロシアの兄弟国家である。
「多分そこもだと思うけれど」
「焼き菓子全体がケーキなら」
「じゃあクッキーもなのよね」
「そうね」
そうなることは自然の成り行きだった。クッキーはどう見ても焼き菓子だからである。
「じゃあこれ他の国なら」
「クッキーよね」
「そうなるよね」
皆でそのロシアンケーキを見て言い合う。
「このシベリアケーキはともかくとして」
「クッキーじゃない」
「美味しいのかしら、それで」
「味は確かよ」
それは太鼓判を押すアンネットだった。
「騙されたと思って食べてみなさい」
「ロシアに騙されたその時は」
「まず命がないんじゃない?」
ロシアという国のイメージがここでも語られる。
「そのまま極寒の地に御案内とか」
「しかも片道切符で」
「今は犯罪者に対してしかそういうことしないから」
何気に問題発言の今のアンネットの言葉だった。
「安心しなさい」
「って昔は犯罪者じゃなくても」
「そうした場所に送られてたんだね」
「そういう時代もあったわ」
実に何気なくその怖い話をするのだった。
「もう些細なことで大粛清とかでね」
「スターリンか」
「それね」
血も凍る様な恐ろしい独裁者である。ただしどういうわけロシアでは今だに人気があったりする。他にはイワン雷帝やピョートル大帝、エカテリーナ女帝が人気だ。
「他には農奴とか」
「そういうのも?」
「流石に農奴とかコルホーズもないわよ」
流石にそれもなかった。
「安心して」
「じゃあ何があるの?」
「今は」
「普通に他の国と同じよ」
こう答えるのだった。
「もうね。普通によ」
「お百姓さんやってるの?」
「農業は」
「そうよ。他の国と同じよ」
そうであるというのだ。
「幾ら何でも今時コルホーズとか農奴とかはないわよ」
「小作農もないか」
「っていうか連合にそんなのないけれど」
今の連合は全て自作農か企業経営である。そこで社員として雇われている場合はあるが幾ら何でもそうした過去の遺物は存在しないのである。
「幾らロシアでも」
「そうよね」
「そうよ。ロシアだって連合よ」
このことを強調してきたアンネットだった。
「そんな無茶苦茶な国じゃないから」
「そうか。そうだよな」
「そういえばこのロシアンケーキ」
女の子の一人がここでやっとそのケーキを口にした。
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