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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第百十七話 開かれる運命の扉

                 第百十七話 開かれる運命の扉
「いよいよだ」
クルーゼは密室の中で軍服の男達と話をしていた。
「オペレーション=スピットブレイクがはじまる」
「いよいよですか」
「そうだ、既に情報は連邦にも流している」
クルーゼは口元だけで笑って述べた。
「一応はな」
「それを連邦が信じるか、ですか」
「今連邦は相変わらずミケーネに戦力を集中させているか」
「太平洋区はそうです」
軍服の男達の中の一人が応えた。
「三輪長官は相変わらずのようです」
「あの御仁はな。何を言っても聞かんよ」
それはクルーゼも知っていた。三輪の滅茶苦茶さは敵にもよく知られているのである。
「ではアラスカには誰も来ないのか」
「いえ、ロンド=ベルがいます」
中の一人が言った。
「彼等がか」
「既にアラスカのサザーランド准将はザフトの動きを察しています。ロンド=ベルをアラスカに回してくれるよう要請しているものと思われます」
「サザーランド、流石と言うべきか」
クルーゼはその報告を聞いてほくそ笑んだ。
「切れ者ではあるな」
「はい、そしてロンド=ベルはそれを受けるつもりのようです」
「そうか」
「ハワイを経由してアラスカに向かうものかと」
「わかった。ではそちらはいい」
「はい」
「後こちらからはデスティニーとレジェンドを出すのだったな」
「はい」
「既にパイロットの試運転が行われています」
「あれがザフトにとっての切り札になるかと」
「運命と伝説」
クルーゼは呟く。
「果たしてどうなるかな」
「そして」
「今度は何か」
「ラクス=クライン嬢がマルキオ導師と会っているようですが」
「ほう」
「ただ、世間話だけのようです」
「ラクス嬢も信仰はあるのかな」
クルーゼはそれにさして興味を抱かなかった。
「どうされますか」
「何、構うことはない」
クルーゼはそれを放置することにした。
「アイドル歌手のことまで。私も携わることはないさ」
「左様ですか」
「私もスピットブレイクに参加する」
クルーゼは男達に告げた。
「それが終わればザフトと連邦の戦いは新たな局面を迎える。それについての想定をしおくとしよう」
「はっ」
(さて、私よ)
クルーゼは心の中で呟く。
(どう動く?御前が世界を救いたいならそうするがいい)
もう一人の自分に語り掛けていた。だがそれは他の者には決して聞こえない言葉であった。今彼は自分自身に語っていたのであった。
ザフトが大作戦に取り掛かろうとしている頃シュウはチカと共に盲目の男と会っていた。
「お久し振りです、マルキオさん」
「シュウさんですか」
「はい」
二人は小屋の中にいる。そこで向かい合って話をしていた。
「御無事だったとは御聞きしていましたが」
「ええ、色々ありまして。今もこうして生きています」
シュウは笑って彼に応えた。
「運良く」
「それは何よりです。ところで変わられましたね」
「おわかりですか」
「ええ。以前のあの黒い気がなくなっています。どうされたのですか?」
「自身の束縛を断ち切りました」
シュウはそう答えた。
「そのせいです」
「左様ですか。それはよいことです」
「はい」
「チカさんもお元気のようですね」
「あったりまえですよ。私はいつも絶好調ですよ」
チカはそれに応えて言う。
「そもそもですね、私は」
「チカ、お喋りはその位にして」
「おっと」
主に窘められて黙ってしまう。
「今日お邪魔したのは他でもありません」
「SEEDに関してですか」
「はい、ニュータイプに次いで新たな人類の可能性」
シュウは述べる。
「それをお持ちの方を一人発見しましたので」
「それはどなたですか!?」
マルキオは光のない目でシュウを見た。
「もう一人いたとは」
「彼の血縁です」
「血縁・・・・・・」
「そう、若獅子と言えばよいでしょうか」
「彼女ですか」
「おわかりですね」
「はい」
マルキオはシュウの言葉に頷いた。
「そうですか、彼女も」
「既にSEEDを持つ者は五人」
シュウはまた言った。
「そしてまた一人です」
「しかしあの方は」
「結局ナチュラルもコーディネイターも関係ないということなのです」
シュウはマルキオにそう述べた。
「それを持つのはね」
「そういうことなのですか」
「そしてその中でも」
「はい、彼等は」
「とりわけ大きな存在になると思います。この戦いにおいても」
「彼等によってナチュラルとコーディネイターの無益な戦いが終わればいいですが」
「そしてより大きな世界へ」
「はい」
「人類は向かわなければなりません」
「ラクス様もそれに気付かれたようです」
「それは何よりです」
これはシュウにとっては朗報であった。
「では彼女もまた」
「はい」
「彼等のところへ」
「参ると思います」
「それではその時の為に私も用意をしておきましょう」
「用意を」
「ええ。その時にまた」
「はい、その時に」
二人は互いに話をした。それが終わってからシュウはまた動きはじめた。彼とネオ=グランゾンは何かの為に動いているのは事実であった。だがその何かはまだ彼以外にはわかっていなかったのであった。
ロンド=ベルはオーブへの協力を終え出港することになった。行く先はアラスカであった。
オペレーション=スピットブレイクに関してである。アラスカを守るサザーランド准将から要請があったのだ。
「連邦軍の正規軍は援軍に来ないのですか」
「残念だがな」
ブライトの鋭い目の男が答えていた。彼がそのサザーランドである。
「日本でミケーネと対峙していて一兵たりとも送れないそうだ」
「そうなのですか」
「本来ならアラスカにいる兵も日本にいる」
「引き抜かれてですね」
「あの長官は誰にも止められるものではない。パラヤ次官もアズラエル理事も匙を投げておられる」
「あのおっさん隔離した方がいいんじゃねえか?」
勝平がそれを聞いて言う。
「あんなやばいおっさんをどうして野放しにしておくんだよ」
「ちょっと勝平」
彼を恵子が怒る。
「そんなこと言ってどうするのよ。連邦軍の偉い人が出ているのよ」
「けれどよ」
「安心し給え、これはオフレコだ」
サザーランドも洒落がわかる男であった。あっさりとそう返す。
「君はビアル星人だったね」
「まあ二百年前はな」
勝平はサザーランドに答える。
「君達のことは聞いている。ガイゾックのことは有り難う」
「ああ、礼なんていいさ」
勝平はそれには頓着しなかった。
「まだ悪い奴等は一杯いるしよ。爺ちゃん達だって戦っているし」
「君達の御家族は今でもダカールで頑張ってくれている」
「そうなんだ。最近話聞かないから心配していたんだ」
「正直太平洋にもキングビアルが欲しいのだが」
それがサザーランドの本音だった。
「だがな。それは」
「あの長官が反対しているってわけだな」
「まあ予想通りね」
宇宙太と恵子にはそれがわかった。
「岡長官とイゴール長官は賛成なのだが。どうにも」
「色々と難しいのですね」
「アズラエル理事も困っておられる」
「ああ、彼ですな」
大河はアズラエルという名前を聞いてすぐに言った。
「アメリカでの戦いの時は色々とお世話になりました」
「あれはお世話だったのかしら」
命はそれには少し疑問であった。
「随分凱とやり合っていたけれど」
「喧嘩する程仲がいいっていうじゃねえか」
火麻はそこで命にこう言う。
「そういうことさ」
「違うと思いますけれど」
「それで今太平洋で自由に動ける部隊は君達しかいないのだ」
「それでアラスカにですか」
「そうだ、宜しく頼むぞ」
「わかりました。それでは」
「宜しく頼む。そうだ凱君」
「はい」
そこには凱もいた。サザーランドの言葉に顔を向ける。
「理事から君に宜しくとあった。伝言を伝えておくぞ」
「こちらこそ宜しくってやつですね」
凱はその伝言にウィンクして述べた。
「あの人にもそう伝えて下さい」
「うん、わかった。それではな」
「はい」
サザーランドはモニターから姿を消した。この話でロンド=ベルはアラスカに向かうことが正式に決定した。
アラスカに向かうべくオーブを出る。その中には当然キラもいた。
「結局御両親には会わなかったんだな」
「はい」
アークエンジェルの中でムウに答える。
「ちょっと。今は」
「まあそれもいいさ」
ムウはそんな彼の行動を認めた。
「親離れ、いや違うか」
そう言って言葉を変える。
「何て言うかな。御前は御前で気を使っているんだろう?」
「・・・・・・・・・」
「あのお姫さんともお別れだしな」
カガリのことである。
「そういえば御前何かキサカ一佐やユウナさんと色々やってたな。カズイと一緒に」
「あっ、それは」
その言葉に顔を向けてきた。
「ちょっと今は」
「何だ?何かあるのか?」
「まあそれは」
何か言いにくそうな様子であった。
「言えないんで」
「そうか」
「しかしまああれこれ戦いが続くぜ」
ムウは今の状況を少しぼやいてみせた。
「早く終わって楽になりたいよな」
「この戦い・・・・・・何時終わるんでしょうか」
「さてな。バルマーもいるしな」
「あの国がですか」
「当分終わらないだろう。ザフトもまだまだやる気だ」
「コーディネイターですか」
「御前はもうそっから離れられたか?」
「・・・・・・難しいです」
俯いて答える。これは本音だった。
「本当に大事なものって何か。それもまだわかりませんし」
「まあ焦ることはないな」
ムウはそんなキラに言う。
「誰だって、あのアムロ中佐だって最初からそうした人じゃなかったしな」
「それブライト艦長から言われました」
「俺もちょっと信じられないんだけれどな」
ここで苦笑いになる。
「あのアムロ中佐がそうなのかってな」
「そうですよね」
「けれど本当らしいしな。今も機械いじりが好きな人だし」
「ええ」
「うちの艦長も葛城三佐もあの人のファンだしな」
「もてるんですね、中佐は」
「そりゃ誰だって放っておかないさ。ロンド=ベルきってのトップガンだぜ」
「けれどうちの艦長のあれはちょっと」
「声のせいかな」
「声、ですか」
「他にもあるんだろうがな。凱も嫌いじゃないみたいだし」
「ですね。葛城三佐も」
「御前もそうやってたまにはハメを外すしてみたらいいさ」
「ええ、まあそれも」
「覚えてきたか?ならいい」
実はそれでユウナやキサカと会っていたのだ。だがそれは内緒である。
「じゃあ今度はアラスカだ。いいな」
「はい」
あらためて頷く。
「どうせその前にバルマーの連中も出るがな。おっとそうだ」
「今度は何ですか?」
「今回トールがはじめてスカイグラスパーで出撃するからな。そっちも宜しくな」
「わかりました」
それに頷く。この頃アスランは友軍と共にオーブの北で待機していた。
待ち伏せである。それが三日目に入ろうとしていた。
彼は潜水艦の外で海を眺めていた。そこにニコルがやって来た。
「こんな所にいたんですか」
「ああ」
ニコルに顔を向けて応える。
「ちょっとな。色々考え事があってな」
「足つきのことですか。もう三日ですよね」
「奴等は絶対に来る」
アスランは言う。
「だからここで待つ。絶対にな」
「そうですか」
「そろそろだしな」
言葉が少し強くなった。
「奴等が出るのは」
「そうですか。ところで」
「何だ?」
ニコルが急に笑みを作ってきたので目をしばたかせた。
「いきなり隊長にされて大変でしょうけれど」
「あ、ああ」
「何でも一人で抱え込まないで下さいね。僕やミゲルさん、フィリスさん達がいますから」
「ああ」
「イザークやディアッカも口ではああ言ってますけど皆貴方のことを大事に思っていますから」
「そうなのか」
「もうすぐ偵察に出ているエルフィさんやジャックさんが戻ります。それで少しくつろいで僕の曲でも聴いてくれませんか?」
「けどこの艦にはピアノは」
「CDに収めてきたんですよ」
ニコルは微笑んでそれに返した。
「それで」
「そうだったんですか」
「あっ」
ここでニコルは急に声をあげた。
「アスラン、あれ」
「あっ、あれは」
それは飛び魚達だった。水面で跳ねていた。
「何か不思議な光景ですね」
「そうだな、プラントじゃあんな魚いないからな」
アスランもその飛び魚達を見ていた。見ていると何か心が和む。
「奇麗ですよね」
「そうだな、水飛沫が」
「ああ」
二人は目を細めて飛び魚達を眺めていた。眺めるうちに心が和んでいく。そしてその後で皆でニコルの曲を聴いた。それが終わってすぐにロンド=ベルが出撃したと報告があった。束の間の骨休めであったがそれが彼等にとって忘れられないものとなったのであった。
アスラン達はすぐにロンド=ベルに追いついた。彼等はやはりバルマーの軍勢と戦っていた。
「何だよ、またバルマーかよ」
マーシャル諸島の小島の上であった。今度はロンド=ベルの面々は陸上にも展開している。ディアッカはそこで戦う両群を見て呟いたのである。
「何かこう同じ顔触ればかりだとな」
「いえ、何か違いますよ」
だがシホがここで注を入れてきた。
「何っ!?」
「ほら、あそこの赤いマシン。あれは」
「やばいのがいるな」
イザークはそれを見て顔を顰めさせた。
「バルマーに赤いとんどもない強さのマシンがいるって聞いてるがあれか」
「敵も今度は本気だというわけだな」
「そうみたいですね。数も多いですし」
ニコルがミゲルに応える。
「どうやら敵の司令官も着ているようです」
「あれですね」
ジャックが指差す。
「あの大きな戦艦」
「ですね」
フィリスがそれに頷く。
「あの紫の変わった戦闘機は」
エルフィはロゼのゼーロンに気付いた。
「何度かロンド=ベルとの戦闘が報告されています」
「俺達は連中とも戦うのか?」
「いえ、今回は大丈夫みたいです」
ニコルがアスランに言った。
「僕達はロンド=ベルの後方にいますから。ただ」
「もう来てるぜ、敵さんがよ」
ストライクとメビウス、そしてスカイグラスパーが彼等に向かって来ていた。
「用意がいいことだ」
「全機散開」
アスランが指示を出す。
「そして各個で敵に対する。いいな」
「了解」
それぞれのコクピットからそれに応える。そして陸と空からロンド=ベルに向かうのであった。
ザフトも来ているのはロンド=ベルにもわかっていた。だが思うように兵を向けられないのだ。
「今回はやけに数が多いな」
クワトロがサザビーのコクピットの中でぼやいていた。
「幾らバルマーといえど」
「ですね。厄介なことですよ」
ギュネイがそれに応える。
「後ろにはまたあの連中が来てるってのに」
「とりあえずそちらは彼等任せだな」
クワトロはモニターに映るキラ達を見ながら言った。
「上手くやってくれるとは思うが」
「あの初陣の坊やは危ないんじゃないですかね」
ギュネイはそれにまたそれに応えて言った。
「はじめてで数も違いますし」
「誰か送れればいいのだがな」
クワトロもそれはわかっていた。
「それは難しいか」
「送られるとしたら一人ですか」
「誰か、だ」
「私が行かせてもらおうか」
ミリアルドがモニターに現われた。
「あんたがか!?」
「こちらの敵は倒した。今ならまだ間に合うが」
「そうだな」
クワトロはそれを聞いてから思案を巡らせる。
「そちらには五機のガンダムもいる。そうおいそれとは劣勢にはならないな」
「それは大丈夫だ。彼等は充分やっている」
「よし、では後方に向かってくれ」
「わかった。それでは」
それを受けてトールギスⅢを動かせる。ギュネイはそれを見てまずは安堵した顔を見せた。
「ライトニング=カウントが行けばちょっとは違いますかね」
「だといいがな」
しかしクワトロはまだ顔が晴れてはいない。
「戦場は何が起こるかわからない」
ニュータイプとしての言葉ではない。歴戦のエースとしての言葉である。
「さて、どうなるかな」
「クワトロ大尉!」
メグミから通信が入る。
「どうした?」
「マジンガーチームの救援に向かって下さい!そこに敵の主力が来ています!」
「わかった。ではすぐに行く」
「はい」
「そういうことだ。では行くぞ」
「了解」
ギュネイがそれに頷く。そして彼等もまた敵の中に飛び込んで行った。
マーグは前線で指揮を執っていた。その護衛にロゼのゼーロンが展開している。
「ロゼ」
「はい」
マーグの呼び出しに応えて戦艦のモニターに姿を現わす。
「アルフィミィはどうしているかな」
「今アッツに向かっております」
「そうか、あそこで」
「我々が失敗してもまたあそこで基地を築くことができれば」
「それに越したことはないね」
「はい。連邦軍の戦力が日本に集中している今こそが好機です」
ロゼは言う。
「できればこの太平洋に基地を築きたいですね」
「そうだね。だがその前に」
「ロンド=ベルを叩かなければ」
「そうだ。まさかこんな時に出て来るなんて」
マーグは悩ましげな顔を浮かべて呟いた。
「中々。上手くはいかないみたいだ」
「ですがどちらにしろロンド=ベルは倒しておかなければならない相手」
そう語るロゼの目がきつくなる。
「戦闘を交えるのはそれはそれでよいかと」
「わかった。ところで」
「はい」
話は変わった。
「あのコロニーの勢力だけれど」
「ザフトですか」
「そうだ。彼等はどうするべきかな。シャピロの軍勢がかなりやられたけれど」
「まずは放っておいてよいかと」
ロゼはそう提案した。
「放置なのか」
「はい、彼等の勢力は今地球で展開している勢力の中では最も小さいものです」
ロゼは正確に地球の諸勢力の力を分析していた。
「ですから。彼等はまずは泳がせておきましょう」
「わかった。それじゃあ彼等には積極的に攻撃は仕掛けない」
「はい」
「プラント本土への攻撃も控えておこう」
「それもですか」
「戦うのは武器を持つ者だけでいいさ」
マーグは言う。
「武器を持たない相手には。攻撃はしない」
「わかりました」
それがマーグの考えであった。ロゼはもうそれはよく知っていた。これまでの彼との行動で。
「それでいいね」
「私はそれでいいですが」
「何かあるのかい?」
「最近銀河外辺方面軍もまた地球に向かうという話がありまして」
「彼等がか」
マーグはそれを聞いて顔を曇らせた。
「はい。あの軍にはハザル=ゴッツォ司令がおられます」
「そしてグラドスの軍もな」
「彼等は民間人であろうと関係ありません」
「だから私は彼等は好きにはなれないのだ」
嫌悪感を露わにして言う。
「どうにもな」
「左様ですか」
「向こうも同じだと思うけれどね。彼等もまた私を嫌っている」
「おそらくは」
「彼等には介入させたくはないが」
「では私達だけで」
「そうしたい。その為にも」
「はい、地球制圧を急ぎましょう」
ロゼはもうマーグの忠実な副官となっていた。自身の本来の責務は封じていた。彼の心を知り、彼と共に戦おうと誓ったのである。そして今ここにいるのであった。
バルマーとロンド=ベルの戦いは熾烈なものであった。圧倒的な物量で迫るバルマーに対してロンド=ベルは質と戦術を駆使して立ち向かっていた。
戦局は互角であった。だがマーグが前線に出ていることが仇となった。
「タケル!行くんだな!」
「ああ!」
エイジに応える。
「あの戦艦は間違いない!兄さんのだ!なら!」
「よし!サポートが僕がする!」
「俺達もな!」
コスモクラッシャーも姿を現わした。
「後ろと横は任せろ!御前はその間に」
「わかった!すまない皆!」
ゴッドマーズは正面の敵を薙ぎ払いながらマーグの乗艦に向かう。
「兄さん!今度こそ!」
「くっ、また貴様か!」
ゴッドマーズに気付いたロゼが迎撃に向かおうとする。
「何度も司令の前に!」
「何度でも!」
タケルも叫ぶ。
「兄さんを取り戻す為なら!」
「言った筈だ!マーグ司令は貴様なぞ知らんと!」
「御前に何がわかる!兄さんのことが!」
「わかる!」
ロゼは言った。
「何!?」
「私も司令のことが!だから!」
「御前、一体何を」
「司令には指一本触れさせはしない!覚悟しろ!」
「くっ!」
「タケル!ここは俺達に任せるんだ!」
ケンジが声をかけてきた。
「だから御前は!」
「はい!」
「後ろは僕が持つ!」
レイズナーが信じ難い動きを見せている。まるで残像が見えるかの様に。
その素早い動きでタケルの周りの敵を倒していく。今タケルは道が開けていた。
「行くぞ、兄さん!」
「また御前なのか」
マーグもタケルに気付いていた。顔を顰めさせて言う。
「私は御前の兄なぞではないと何度言えば」
「まだわからないのか!兄さん!」
タケルはそれを聞いて叫ぶ。
「俺にゴッドマーズを与えてくれたのは兄さんじゃないか!それをどうして」
「ゴッドマーズをだと!?」
それを聞いたマーグは眉を顰めさせた。
「馬鹿な、何故御前にゴッドマーズなぞを」
「地球を守る為に。兄さんはあの時言った」
「知らん、そんなことは」
マーグはそれを否定する。
「戯言を。私はそんなことは一度も言っていない」
「クッ、どういうことなんだ」
タケルはマーグの頑なな態度に歯軋りした。
「何故兄さんはわからないんだ、自分のことなのに」
「多分マインドコントロールだ」
「マインドコントロール!?」
「ああ。君の兄さんはそれを受けているんだ」
言うのはエイジである。彼には心当たりがあるのだろうか。
「マインドコントロールはバルマーの得意とすることだ。だから」
「私の時と同じだな」
レビがそれを聞いて言う。
「私もバルマーの奴等のマインドコントロールを受けていた。それと同じか」
「そうだ、マインドコントロールを行っている者がいるとすればそれは一体」
「エツィーラ=トーラーか」
「エツィーラ=トーラー!?」
タケルはレビの言葉に顔を向けてきた。
「誰なんだ、それは」
「バルマー十二支族トーラー家の者だ」
「十二支族の。それじゃあ」
「そうだ。バルマーの支配階級だ。僕も実際に見たことはないが」
エイジが言う。
「かなりの術者なのは間違いない。そうか、彼女か」
「どうすればいいんだ?」
タケルは十二支族という名前に臆するものを感じていた。
「そんな大物がやっているなんて」
「大丈夫だ、その術にも限界がある」
「限界が!?」
「そうだ、マーグはかなりの術者だ。おそらく彼の無意識も抵抗している」
「うん」
「そのうえ洗脳を施してからかなりの時間がある。おそらく解除は可能だろう」
「それじゃあ」
「ただし、かなり難しいぞ」
エイジは言った。
「エツィーラ=トーラーはバルマーの司祭長。その力はかなりのものだ」
「だからこそマーグにマインドコントロールを施せたんだろうな」
レビも言う。
「だから。何度も話してみる必要がある」
「やれるか?タケル」
「可能性があるんだな」
タケルはそれを聞いてまた尋ねた。
「兄さんを取り戻す可能性が」
「さっきも言った通りそれはかなり難しい」
エイジはまたそれを言う。
「それはわかるな」
「ああ。けれど可能性が僅かでもあるのなら」
彼は顔を上げた。
「それに賭ける。兄さん!」
また兄に語り掛けた。
「思い出すんだ!さあ!」
「クッ、まだ戯れ言を!」
「司令!この様な男の言葉には!」
「御前は黙ってろよ!」
アキラが叫んで攻撃を仕掛ける。ビームがゼーロンの至近を掠めた。
「クッ!」
「どういう魂胆か知らないがな!御前がタケルの邪魔をするのなら相手をしてやるぜ!」
ナオトもそこにいた。
「タケル!この敵は任せて!」
ミカがタケルに通信を入れる。
「おいらもいるから!タケル兄ちゃんは自分のお兄ちゃんをさ!」
「ナミダ・・・・・・。皆・・・・・・」
彼等の心が伝わる。それを受けてタケルはまたマーグに言う。
「何度でも!何度でも!」
彼は叫ぶ。
「兄さん!俺は絶対に兄さんを!」
「どうするというのだ!」
「救い出す!それは今だ!」
「今はない!」
マーグは言う。
「私は霊帝陛下の忠実な臣だ!それを惑わせるとは!」
「霊帝がそんなに偉いというのか!」
「陛下を愚弄するというのか!」
「違う!兄さんはその霊帝に操られているんだ!早くそれをわかるんだ!」
「何をわかるというのだ」
マーグの声が少し落ち着いた。
「私の何が貴様に」
「エツィーラ=トーラーの名前は知っているんだろう?」
タケルはここで今エイジとレビに言われた名前を口にした。
「エツィーラ殿がどうしたというのだ」
「そいつに何かされなかったのかい?兄さんは」
「馬鹿な、エツィーラ殿は立派な方だ」
少なくともバルマーではこう思われている。
「あの方を貶めるのか」
「違う、兄さんは多分そいつに」
そこでまた言う。
「洗脳されているんだ。それを早く」
「エツィーラ殿がそんな」
「司令、騙されては!」
ロゼが間に入って叫ぶ。コスモクラッシャーの猛攻をかいくぐりながら言う。
「この者達の言うのは戯言です!」
「それはわかっている。だが」
彼は無意識のうえちにタケルの言葉を聞いていたのだ。
「この男の言葉は」4
「貴様!またしても司令を!」
ロゼはタケルをキッと見据えた。
「司令を惑わすのか!ならば私が!」
「あの女、変だな」
ライトがそれに気付いた。
「おかしいってのかよ」
「そうだ。あれ、戦ってるだけには見えないな」
ケーンに応える。
「他に思うところがあるんじゃないのか?」
「忠誠心か」
マイヨがそれを聞いて言った。
「武人としての」
「ああ、それもあるな」
ライトはそこも見抜いていた。
「けれど。それだけじゃないな」
「それだけではないか」
「じゃあ何なんだろうな」
「さてな。いや、待てよ」
タップに言葉を送ったところで呟く。
「・・・・・・いや、まさかな。それはないか」
「何か思わせぶりだねえ」
その様子にミンが突っ込みを入れる。
「その言葉さ」
「あの敵の副司令も女・・・・・・ってわけじゃねえな」
ジョナサンが話に入って来た。
「ちょっと外しちまったか」
「どうだろうな」
だがライトはそれを全て否定するわけではなかった。
「けれど何か妙なのは確かだ」
「ああ、気が乱れている感じがする」
クインシィが言った。
「それが全体の指揮にもな」
「おっ、確かに」
マギーを見てそれに気付いた。
「よし、こりゃいけるぞ」
「総攻撃ってわけですね」
「ああ、そういうことだ」
カントに言う。
「ブレンで総攻撃いけるか?」
「ああ、俺はいい」
「俺もだ」
ナッキィとラッセが答える。
「それじゃあ決まりだな。そっちも頼むぜ」
「ああ」
「皆いけるか?」
ライトは続いて他のメンバーにも声をかける。
「今がチャンスだ。仕掛けるぞ」
「よし」
「なら」
「主砲、発射用意!」
ラーディッシュが動く。
「外すな!撃て!」
敵の真っ只中に向けて射撃する。その穴にブレン達が斬り込んで行く。
「ヒメ、離れるなよ!」
「わかってる!」
ヒメは勇に答える。そして二人の攻撃で目の前の敵を次々と倒していく。
「シューーーーートォーーーーーーーッ!」
その一撃でバルマーのメカが炎と消えていく。次から次へと消え去っていく。
「よし、そこだ!」
クワトロもその穴に気付いた。
「そこから突っ込むぞ!それで流れを作る!」
「了解!」
ロザミアがそれに頷く。
「いくよ、ギュネイ!」
「言われなくてもわかってるぜ!」
ギュネイはクェスに言葉を返す。
「わかったな、ミオ!」
「って私?」
「ああ、そうさ」
ニヤリと笑ってミオに声を返した。
「何か気になってな」
「まあ私もガスちゃん気になるけれどね」
「ガスちゃんか」
「だって苗字がさ」
「・・・・・・まあそうだけれどよ」
「そういえばギュネイって名前で呼ばれてばかりだよね」
クェスもそれに気付く。
「私もだけれど」
「そういやそうだな」
言われてみればそうであった。
「名前で呼ばれるのに慣れてるから」
「それでガスちゃん」
「あ、ああ」
「このまま突っ込むんなら流れ弾に用心してね」
「ああ、わかってる」
それに頷く。
「そんなのに当たる俺じゃないさ」
「では期待させてもらうか」
それを聞いたクワトロが声をかけてきた。
「その腕前をな」
「よし、じゃあ仕掛けるぞ!」
ファンネルを飛ばした。
「ファンネル!オールレンジ攻撃だ!」
「よし、じゃあ私も!」
クェスではなくミオが続いた。
「あんた達、お願いね!」
自身のファミリア達に対して言う。
「へい、毎度!」
「ほな行きますわ!」
「ゴーー!ゴーー!」
ファミリアを飛ばして敵を切り裂いていく。ザムジードはやはり強かった。
この穴は大きかった。そこにロンド=ベルが次々に入り込み対処出来ない程だった。
それに最初に気付いたのはロゼだった。だが気付くのが遅かった。
「まずい」
彼女は戦局がロンド=ベルに傾いていっているのを見た。既に損害は三割を越えている。
「このままだと・・・・・・司令」
「あっ、ロゼ」
タケルを前にしてそちらに心を奪われていたマーグはようやく我に返った。
「どうしたんだい、一体」
「まずい、司令もまた」
気付いていなかった。ここで彼女は副官として動いた。
「退かせましょう」
「軍をか」
「はい、我々が退いてもアルフィミィがいます」
ロゼは言った。
「ですから」
「一時撤退というわけだね」
「そうです。今なら損害も最小限で済むかと」
「ううむ」
マーグはモニターに戦局を移した。既に流れはロンド=ベルのものとなっていた。
「わかった」
それを見て彼も断を下した。
「下がろう。それでいいね」
「はい、それでは」
「全軍撤退、そして態勢を立て直す」
マーグは全軍に命令した。
「それでいいね」
「了解」
バルマーは撤退を開始した。こうして残る敵は一つとなった。
だがバルマーはここでも無人機を残していった。ロンド=ベルはこれに足を取られることとなった。
「まずいな、このままでは」
ブライトがそれを見て呻く。
「アラスカに着くまでに無駄なダメージを受ける」
「とりあえず敵は順調に潰していますが」
それにトーレスが答える。
「それでもこの数は」
「相変わらず。数で来ますね」
サエグサも言った。
「後方のザフトはどうしているか」
「既に何機かにある程度のダメージを与えています」
ナタルがモニターに現われて報告した。
「それで撤退に移っている模様です」
「そうか、深追いはするな」
ブライトはその報告を聞いてそう命じた。
「あくまでアラスカに行くのを優先させる。いいな」
「わかりました」
マリューもそれに答えた。
「ではそのように」
「ザフト、撤退に移りました」
ミリアリアがここで報告した。
「空中にあるグゥルに乗って撤退していきます」
「そうなの。それじゃあ」
「あっ、けど」
「どうしたの?」
「数機足止めに残っています。どうしますか?」
「ヤマト少尉達に伝えて」
マリューはそれを受けて言った。
「深追いは禁物と。いいわね」
「はい。ミリアルド少佐も協力して下さるそうです」
「有り難いわね。じゃあそれに甘えて」
「はい」
「アークエンジェルもアラスカへ向かう態勢を整えます」
マリューは指示を出した。
「各機の収納用意を」
「了解、ハッチよし」
「甲板よし」
戦いながら態勢を整える。こうして彼等もアラスカへ向かう用意をはじめていた。
アスラン率いる九機のマシンは徐々に戦場を離脱していく。最後尾に残っているのは四機のガンダムであった。
「このっ!このおっ!」
イザークが血走った眼でキラのストライクに攻撃を仕掛ける。だが当たりはしない。
「ストライクゥッ!貴様だけはあっ!」
「よせ、イザーク」
血気にはやる彼をアスランが宥めた。
「もうエネルギーも限界だろう。下がれ」
「しかし!」
「いえ、アスランの言う通りです」
ニコルも言った。
「イザーク、ここは僕達に任せて貴方は」
「そうだぜ。それに御前のデュエルはダメージも受けている。そろそろ限界だろ」
「クッ」
「だからだ。ここは俺達に任せろ」
アスランがまた言った。
「御前も下がれ。いいな」
「・・・・・・わかった。では撤退する」
イザークはようやくそれを受け入れた。
「では母艦で待っている。いいな」
「了解」
「わかりました。じゃあ」
彼等の再会はかなり後になる。これも運命であった。
イザークが撤退し三機のガンダムが頑張る。ディアッカがミリアルドのトールギスⅢ二ライフルを放つ。
「ライトニングカウントつってもコーディネイターに勝てるかよ!」
「甘いっ!」
だがミリアルドも名うてのパイロットである。ディアッカのその攻撃をかわした。
「なっ!」
「遠距離攻撃用のモビルスーツならば」
「チッ!」
一気に間合いを詰めてきた。ディアッカは下がろうとするが間に合わない。
「間合いを詰めればいい。受けよ!」
ヒートロッドを放つ。それでバスターを撃った。
「ディアッカ!」
「クッ、大丈夫だ。だがな」
「どうした!?」
「派手にやられちまった、動けねえ」
「動けないだと・・・・・・」
「俺は俺で脱出する。後は任せたぜ」
通信も切れた。こうして残り二機になってしまった。
「ディアッカ、大丈夫ですかね」
「そうそう簡単に死ぬとは思わないが」
アスランはそうした意味でディアッカを信じていた。
「だが。捕虜になったら厄介だな」
「ええ、どうなるか」
「それに俺達にも来ている」
キラのストライクとトールのスカイグラスパーが来ていた。
「ニコル、気をつけろ」
アスランはニコルに対して言う。
「あのストライクを退けて下がるからな」
「はい、ですからここが正念場ですね」
「ああ。仕掛ける!」
イージスを変形させる。そしてスキュラを放つ。
「喰らえっ!」
「トール、右!」
「あ、ああ!」
トールはキラの言葉に従い右に舞う。キラは左にかわした。
スキュラの光が通り過ぎていく。二人は何とかそれをかわしたのであった。
「おい、坊主達」
そんな二人にムウが声をかけてきた。
「大尉」
「俺はもうエネルギーがない。下がるぞ」
「わかりました。それじゃあ」
「御前等もそろそろ下がれよ。もうじきアラスカに向かうからな」
「はい、それじゃあトール、君も」
「いや、俺はまだいけるよ」
「けど」
「ここで踏ん張らないとあの二機のガンダムが何してくるかわからないだろ?」
「それはそうだけれど」
「それに御前のサポートも必要だからな。任せてくれよ」
「わかったよ。けど無理はしないでね」
「ああ、わかってる。じゃあやるぞ」
「うん。それじゃあ」
キラは前に出る。トールは彼のストライクの上でフォローに回っている。
アスランは今やっとスキュラを放ち終え、戻ろうとしているところであった。だがその動きが遅い。
「まずい、何処かおかしいのか!?」
「アスラン、どうしました?」
「いや、イージスの調子が」
「故障ですか?」
「そこまではいかないが。どうも」
「わかりました。けれど」
今キラのストライクが近付こうとしていた。ニコルはそれを見て意を決した。
「その間は僕が・・・・・・!」
「あっ、待てニコル!」
前に出るニコルを制止しようとする。
「あのストライクは手強い!一人じゃ危険だ!」
「僕だってこのブリッツのパイロットです!」
ニコルは制止するアスランに対して言った。
「イージスが元に戻るまでの時間は」
「よせ、止めろ!」
そんなニコルを必死に止める。
「ニコル、俺のことはいい!だから!」
「さあ、僕が相手です!」
ニコルはブリッツをキラのストライクの前に出してきた。
「アスランをやらせはしませんよ!」
「黒いガンダム・・・・・・ブリッツなのか」
「キラ、こいつは動きが素早い!だから」
「うん、そうだね」
キラは慎重に間合いを取ってきた。
「迂闊な攻撃は」
「さあ、行きますよ」
間合いを取ろうとするストライクに突っ込む。
「これなら・・・・・・!」
姿を消す。それで撹乱してから目の前に姿を現わす。
「どうですかっ!」
そしてビームサーベルで斬りつけてくる。その速さと動きは見事なものである。
「クッ、このブリッツのパイロット・・・・・・!」
「キラ!」
「大丈夫、トール!僕のことはいい!」
「けど」
「君は下がって!ここは僕に任せて!」
キラは叫ぶ。これでトールは下がったと思った。だがそれは間違いだった。
しかしトールのことは忘れてブリッツに向かう。見事な剣捌きを見せるニコルに対してキラはビームサーベルを横に一閃させてきた。
「!!」
その速さはニコルとて見切れるものではなかった。キラは直感で剣を一閃させたのである。
その一閃がブリッツの首を断ち切った。その黒い首が宙に舞った。
「首が・・・・・・ニコル!」
「アスラン!」
「うおおおおっ!」
キラはここはストライクの脚を思いきり前に出してきた。そして首が跳んだブリッツに対して蹴りを入れてきた。
「うわっ!」
吹き飛ぶブリッツ。キラはそこに本当で体当たりを仕掛けた。
ブリッツはさらに吹き飛んだ。そしてイージスの前まで来た。
「ニコル、どうした!大丈夫か!」
「アスラン、早く今のうちに・・・・・・」
ニコルは呻きながらアスランに対して言う。
「逃げて・・・・・・」
そのままゆっくりと後ろに倒れ海に落ちていく。大波がブリッツをさらいその中で爆発が起こった。
「ニコル・・・・・・」
アスランはその爆発を見た。今ブリッツは爆発した。
「ニコルウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥーーーーーーーーッ!」
だが返事はなかった。爆発は瞬く間に消え後には何も残ってはいない。それを見たアスランの中で何かが起こった。
「俺の・・・・・・」
彼はコクピットの中で呟く。
「俺のせいだ。俺が今までキラを撃たなかったからニコルが・・・・・・」
泣いていた。その顔をゆっくりと上げる。
「キラ!もう容赦はしない!」
彼の頭の中で種が水面に落ちる。そして弾けた。
「御前を!御前を!」
「アスラン・・・・・・来たか!」
「ニコルの仇だ!ここで!」
イージスを突進させる。それでキラを倒すつもりだった。
「これでっ!」
ビームライフルを乱射させる。これにはさしものキラも苦戦した。
「くっ、うわっ!」
あちこちに掠る。次第にダメージを受けていく。アスランはさらに突っ込んで来る。
「キラ、大丈夫か!?」
「そんな・・・・・・トール!」
そんな彼のところにトールのスカイグラスパーがやって来た。
「馬鹿な、どうしてここに!」
「!?もう一機!」
アスランは無意識のうちに左手に持つシールドを投げてきた。それは恐ろしい速さでトールのスカイグラスパーに回転しながら向かって来る。
「う、うわあっ!」
「トール、上だ!」
キラは咄嗟に叫ぶ。
「上に逃げて!そのままじゃコクピットに!」
「わ、わかった!」
キラの言葉に従い上に逃げる。それでコクピットへの直撃は避けられた。しかし。
完全には避けられなかった。シールドがスカイグラスパーの胴体を直撃する。そして真っ二つにしてしまった。
「トール!」
スカイグラスパーはキラの目の前で爆発する。この時何とか脱出ポッドは動いていた。だがキラはそれは見えなかった。爆発に目を取られていたのだ。
「トール・・・・・・トール!」
返事はない。トールが死んだと思った。その怒りと悲しみが。彼の種もまた弾けさせた。
「アスラン・・・・・・」
キッとアスランのイージスを見据える。
「アスランーーーーーーーーーッ!」
「キラァーーーーーーーーーーッ!」
二人の狂える剣士が互いの剣をぶつかり合わせた。キラがイージスの左腕を断ち切るとアスランは無意識のうちにスキュラに変形させた。それでストライクを捉えた。
「!?」
「これで・・・・・・御前も!」
アスランはその中で叫ぶ。自爆スイッチを押した。それで全てが終わった。
イージスは爆発しストライクを道連れにした。キラのストライクはその中で爆発した。
「なっ・・・・・・この爆発は」
「まさか・・・・・・!」
マリューとナタルはその爆発を見て驚きの声をあげる。アークエンジェルはこの時捕虜を収容していたのだ。そして離陸するところだった。
「トール、トール!」
ミリアリアが必死に声を送る。
「トール!キラ!いるの!?返事をして!」
だが返事はない。
「スカイグラスパー、ストライク、返答お願いします。スカイグラスパー、ストライク!」
「まさか、あの二人が」
マリューは艦橋で青い顔をしていた。
「そんな筈が」
「私もそう思いますが」
ナタルも硬い顔をしていた。
「ですが今はまだ」
「すぐに捜索を」
「艦長、緊急通信です!」
「どうしたの!?」
カズイの言葉に顔を向ける。
「アッツ島にバルマーの軍勢です!このままではアッツが!」
「クッ、こんな時に!」
「マリュー艦長」
ここでグローバルがモニターに姿を現わした。
「聞いての通りだ。今は」
「ですが」
「彼等の捜索はオーブに任せよう。だから」
「・・・・・・はい」
「我々はすぐにアッツに向かう。いいな」
「わかりました」
「あの、艦長」
ミリアリアはそのやり取りを聞いてマリューに声をかけてきた。
「トールは・・・・・・トールとキラは」
「今は仕方がない」
ナタルがそれに答える。
「アッツにバルマーが出たとなるとそちらを優先させなければ。さもないと」
「そんな、じゃあトールとキラは」
「ハウ二等兵」
ナタルは彼女に声をかけた。
「今は・・・・・・オーブを信じるんだ」
「そんな・・・・・・」
「まずはアッツへ」
マリューが最後の判断を下した。
「そしてバルマーを倒しに向かいます。いいですね」
「了解」
ナタルがそれに頷いた。
「それでは」
呆然とするミリアリアをそのままにアークエンジェルも飛び立った。その後には戦場の残骸達を残して。
その中にはストライクもあった。今そこに一人の男がやって来た。
「どうやら皆さん無事みたいですね」
「何か奇跡みたいな話ですね」
それはシュウであった。その上にはチカがいる。
「けれど助かって何よりです。そして彼ですが」
「はい」
「すぐに助けますよ。そしてマルキオ導師とお話したうえで」
「どうするんですか?」
「プラントへ向かいます」
シュウは言った。
「えっ、プラントに」
「はい、そこで歌姫と会ってもらいます」
「あの、御主人様今度は何をお考えで?」
「まあ色々とね。これで運命が動きますよ」
「運命がですか」
「彼はおそらく自由を手に入れるでしょう。そしてあの彼は」
「何かあたしの知らない話みたいですね」
「ははは、近いうちにわかることですよ」
「いつもそう仰ってますけれどわかった試しないですよ」
「まあまあ。ではチカ、いいですね」
シュウはあらためて言った。
「彼を見つけて保護しますよ」
「わかりました。あっ、ストライクを見つけました」
チカが声をあげた。
「多分あそこで倒れていますよ」
「わかりました。それでは」
シュウはキラのところへ向かった。その頃戦場から離れた小島に四人のやけに柄の悪い男達がいた。
「あれ、お頭」
見ればグン=ジェム隊の連中であった。彼等はここにまで来ていたのである。
「何かあそこに」
「!?黒いマシンの残骸か?」
グン=ジェムはそれを見て言った。
「そうみたいですね」
「ありゃ高く売れるかも知れないぜ」
「ま、また金になる」
ガナンに続いてジンとゴルも言う。
「どうするお頭?小遣い稼ぎによ」
「そうだな」
ガナンの言葉に頷く。
「売るか。この辺りだとオーブだな」
「わかった。じゃあ」
四人は早速その黒いマシンに近寄った。見ればそれは見慣れた機体であった。
「何だ、ガンダムかよ」
ジンが声をあげる。
「黒いガンダムっていうとデスサイズヘルカスタムか?」
「あ、あれとはまた違う」
「そうだよな。じゃあこりゃ一体」
ガナンは顎に手を当てて考えはじめた。
「おい、コクピットが開いたぜ」
「何だ、かなり中は無事か」
「そ、それだとかなり売れる」
「おい、見ろ」
グン=ジェムはコクピットの中を指差して三人に声をかけた。
「どうしたんだい?」
「中に人がいるぞ」
「おお」
「何だ、まだ子供じゃないか」
中にいたのはニコルであった。意識はない。
「生きてるか?」
「まだ温かいぜ」
「じゃあ中身だけ出して後はさよならだな」
「じ、じゃあそれで」
「まあ待て」
だがグン=ジェムはここで彼等を制止した。
「生きているんならいい。手当てをしてやれ」
「どういう風の吹き回しだい、また」
ジンがそれを聞いて尋ね返す。
「こんなのほっぽり出しちまえばいいのにさ」
「どうもな。気が変わった」
グン=ジェムはそれに応えて言う。
「とにかく助けてやれ。いいな」
「お頭がそう言うんならな」
「おう、ゴル」
ガナンがゴルに声をかける。
「出してやろうぜ、いいな」
「わ、わかった」
こうしてニコルは彼等に助け出された。これが彼の運命を大きく変えることになるのであった。
第百十七話完

2006・10・2


 
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