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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第百十六話 運命の歯車

                 第百十六話 運命の歯車
「・・・・・・・・・」
ミネルバの艦長室でタリアも副官のアーサーもレイが持って来たファイルを見て絶句していた。
「これは本当のことなのね」
「はい」
レイは静かに述べた。
「そこにある通りです」
彼は述べた。
「彼が」
「信じたくはないですが」
「既にラクス様は動いておられます」
「あの方が!?」
「そうです。そしてその為に私にレジェンドを与えてくれました」
「そうだったの」
「そしてシンにはあのガンダムを」
「デスティニーをね」
「そうです」
「そしてレイ」
アーサーがレイに声をかける。
「それでどうしろと」
「どうしろとは」
「彼が考えていることはわかった。そしてラクス様が動いておられることも」
「はい」
「そのうえでだ。どうしろというのだ、私達に」
「ラクス様はロンド=ベルとの合流を考えておられます」
レイは述べた。
「ですから我々も」
「ロンド=ベルと」
タリアはその目をレイに向けてきた。
「敵と手を結べというの!?」
「いえ、違います」
だがレイはそれを否定した。
「ロンド=ベルに入るのです」
「彼等に」
「そうです、それが最もいいのです。プラントを救う為には」
「だが連邦軍に入るのは」
「幾ら何でも」
アーサーもタリアもこれには躊躇していた。
「彼等は連邦軍であっても連邦軍ではありません」
レイは言う。
「他の星からの人間もいますし他の世界からの人間もいます。ですから」
「問題はないというわけね。私達でも」
「コーディネイターやナチュラルだという問題ではありません」
レイはタリアに返した。
「あの男を止めてプラントを救う為には」
「わかったわ」
タリアはそれを聞いたうえで頷いた。
「レイ、貴方の言葉を信じるわ」
「有り難うございます」
「ラクス様にお伝えして。スピットブレイク前にお話したいと」
「わかりました。それでは」
「お願いするわね」
「艦長、それでは」
「ラクス様は嘘は言わないわ」
タリアはラクスを知っていた。だから会おうと決めたのだ。
「そしてお会いして本当に決めるわ。いいわね」
「・・・・・・はい」
「それでレイ」
「はい」
「この話、まだ他言しないでね」
「勿論です、時が来るまでは」
レイはそれに応える。
「プラントの為に」
「そう、プラントの為に」
タリアも言った。彼等もまた運命の中に入った。それが彼等の果てしない戦いのはじまりでもあった。遥か銀河へと向かう戦いの。
シンは戦いの前の束の間の休日を楽しんでいた。実家に帰って家族と一緒にいたのだ。
「それでな、マユ」
「うん」
可愛らしい女の子がシンの向かいにいた。彼は今自分の部屋で妹と話をしていたのだ。
「その時俺がアスランに言ったんだ。それは違うって」
「アスランさんって意外とそういうところあるのね」
「ああ、あいつ案外奥手なんだよ」
シンは笑って言った。
「額が広いのを結構気にしているしな」
「ふうん、そうなんだ」
「ディアッカもな。よくそれをからかってるしな」
「ディアッカさんって明るい人みたいだね」
「ああ、いい奴だよ」
意外とディアッカとは仲がいいようである。
「あれでよく気がつくしな」
「へえ」
「けれど一番いい奴はニコルだな」
「ニコルさんなの」
「凄く優しいんだ。俺も何かと助けてもらってる」
「そうなの」
「ピアノも上手いんだよ」
「ピアノも!?」
「コンサートも開いてるしな。今度マユも連れて行ってやるよ」
「うん、お願い」
兄に言われて顔を輝かせる。
「一緒に行こうね」
「ああ、その為にもこの戦争終わらせるしな」
「うん」
「何があっても。俺はマユを守るから」
シンは他の者には決して見せない優しい目をして妹に言っていた。
「父さんも母さんもな」
戦いの前のほんの一休みであった。だがそれはシンにとっては心地よい日々であった。
次の朝シンはランニングをしていた。そこにハイネがやって来た。
「ハイネ」
「奇遇だな」
シンが赤いジャージ、ハイネはオレンジだった。二人は並んで走りはじめた。
「俺もオフを取った」
「そうか」
「ギターとかを鳴らしているけれどな。平和なものだ」
「そうだな。プラント本土はまだ」
シンもそれに応えた。
「のどかだよ。ユニウスセブンのことはあったが」
「あれはな。残念なことだった」
「ここが狙われていたら俺の家族も駄目だっただろうな」
「ああ」
「あんなことは二度と起こって欲しくない」
シンは言う。
「絶対にな。何があっても」
「その為にも俺達が頑張らないといけない」
ハイネも言う。
「負けるわけにはいかないぞ」
「ああ、わかってる」
「御前はデスティニーを受けたし」
「あんたはセイバーだったな」
「もうオレンジに塗ってもらっている」
レイは答えた。
「それでスピットブレイクに参加する」
「おいおい、あれもオレンジなのかよ」
それを聞いて思わず声を出してしまう。
「本当に好きなんだな、オレンジが」
「ミゲルもそうだがな」
ハイネは述べた。
「俺はオレンジでないと駄目だ」
「そうなのか」
「御前は別にどんな色でもいいみたいだな」
「別に色にはこだわりはしないさ」
それがシンの考えであった。
「戦えればな。それでいい」
「そうか」
「それでだ」
シンは話題を変えてきた。
「スピットブレイクの目標はパナマだったな」
「そうらしいな」
彼等はそう聞いていた。実際に殆どの者がそう思っていた。
「あそこ今は戦力は殆どないみたいだな」
「連邦軍の太平洋の戦力は日本に集結している」
「何でだ?」
「そこでミケーネと激しい戦いを繰り広げている。戦局はほぼ睨み合いだそうだ」
「それでか。今パナマにいないのは」
「俺達にとってはチャンスだ」
その通りだった。ハイネの言う通りであった。
「ここでパナマを占領してプラントの独立を認めさせる」
「それか」
「上手く行けばそれで戦争が終わるぞ」
「そして次は」
「宇宙に戻ってプラントを守り抜く」
「やってやるさ、バルマーでも何でもな」
シンの言葉が荒くなる。
「誰にもこのプラントを傷つけさせはしない。父さんも母さんもマユも」
「御前は本当に家族が大事なんだな」
そんなシンの言葉を聞いて顔を綻ばせる。
「暇があると携帯で声を聞いてるし」
「家族を守る為に軍に入ったからな、俺は」
それに応える。
「何が何でもやってやるさ。あのガンダムで」
「ジブラルタルの時みたいにか」
あの時のことはハイネも聞いていた。
「一機で撤退する友軍を守り抜くとはな」
「あの時は急に変わったんだ」
自分でその時を振り返りながら言う。
「何かが弾けてな」
「何かが、か」
「ああ。そして」
彼はさらに言う。
「動きが急によくなって。あのストライクにも負けなかった」
「スピットブレイクにはあのストライクは出て来ないかもな」
「出て来たら今度こそ潰してやる」
言葉に怒気が篭もった。
「今度こそな」
「どちらにしろ活躍を期待しているぞ」
「ああ、任せてくれ」
シンの目が戦士の目になっていた。戦う目だった。
「あのストライクがプラントに来るならその時だ」
「その時か」
「撃墜してやる、何があってもな」
そんな話をしながら二人は朝のトレーニングを行っていた。この時は彼等もまた果てしない銀河への戦いに向かうとは知らなかった。戦いの果てにあるものには思いも馳せていなかった。
カガリとも合流し東南アジアに入ったロンド=ベル。彼等はそのまま南洋を進んでいた。
「ところでさ、カガリ」
ミレーヌがカガリに声をかけてきていた。
「何だ?」
「いい加減スポーツブラは止めたら?」
「それか」
それを言われて急に困った顔になった。
「それはだな」
「だってカガリ胸大きいしさ。もう普通のブラでもいいんじゃ」
「それもそうね」
カナンがそれに頷く。
「カガリももう普通のブラでいいと思うわ」
「そうだ。何なら私がいいのを見繕ってやろうか?」
シラーが名乗り出てきた。
「私は下着には五月蝿い。いいのを見つけてやれるぞ」
「べ、別にいい」
カガリは顔を赤くしてそれを拒む。
「下着位自分で見つけられる」
「けれど意外だったな」
クインシィがここで言った。
「何がだ?」
「御前の下着が案外可愛いのがだ。てっきりもっと色気のないものだと思っていたが」
「私だって女だ」
カガリはそれに反論する。
「下着だってな」
「毎日洗ってるしね」
「それは当然だろ?」
「それがねえ」
ヒメは困った顔を見せてきた。
「そういうわけでもないんだ」
「どういうことだ!?一体」
「マリューさんとかミサトさんとかね」
「その系列の声か」
カガリはミレーヌの言葉にある程度のことはわかった。
「部屋でも下着を脱ぎっぱなし」
「床に落ちているショーツを見た時はちょっとね」
カナンも苦笑いを浮かべていた。
「何て言っていいかわからなかったわ」
「クェスも私も言葉がなかった」
ヒギンズも同じであった。
「やはりあれはな」
「酔っ払ってそのままベッドにってのもあったわね」
「エクセレンさんと一緒にね」
カナンとミレーヌが付け加える。
「カガリもお酒飲むんだっけ」
「一応は飲むが」
ミレーヌに答えた。
「だがそこまで荒れることはないぞ。ましてや下着は毎日洗ってる」
「偉いぞ、それは」
「それが普通じゃないのか!?」
クインシィに返す。
「毎日洗わないと汚いぞ、やはり」
「ところがそう考えない人もいるのよ」
「それがマリュー艦長達か」
「どうしたものかしらね、全く」
カナンもやれやれといった感じであった。
「うちのお兄ちゃん達なんかトランクス平気で一月穿いたままだし」
「なっ、一月」
今度はリィナの言葉に驚く。引いていた。114
「それはまずいだろ」
「そう言ってるんだけれど」
「あの連中、道理で匂うと思ったら」
「他にはケーンさん達も」
「あいつ等!許せん!」
カガリはそれを聞いて怒りを高めていく。
「リィナ!そういう場合は実力行使だ!」
「どうするんですか?」
「知れたこと!まずはいきなり風呂に放り込む!」
「それから?」
「簀巻きにして洗濯機に投げ込む!いいな!」
「はい、じゃあ」
「私も協力するわ」
「エマさん」
「リィナとは他人の気がしないしね」
「じゃあ私もね」
ハルカも出て来た。
「ここはいっちょ悪ガキ共の大掃除といきましょうよ」
「悪い女達はどうしようかしら」
「そちらは後でね」
「よし、じゃあ」
「早くはじめましょう」
こうしてガンダムチームとドラグナーチームの大掃除がはじまった。彼等はトランクス一枚で風呂に放り込まれ泡だらけにされていった。それから洗濯機に投げ込まれて最後に吊るし上げられて干された。見事なまでに大掃除をされたのであった。マリュー達はマリュー達でえらい目に遭ったのであった。
ロンド=ベルの面々の一部がそうした災厄に遭っている時にも軍は進む。そして遂にインドネシアの東の端にまでやって来た。
「さて、そろそろね」
えらい目に遭ったマリューはこの時アークエンジェルの艦橋にいた。
「バルマーが出て来るのは」
「はい」
それにナタルが応える。
「ただ、もうすぐオーブの勢力圏ですね」
「ええ、あの中立勢力ね」
「実際には中立とも言えませんが」
「それは内緒ね。証拠がないという建前だから」
「はい」
「それにしてもバルマーもしつこいわね」
マリューはあらためて困った顔をする。
「今まで結構戦力を消耗している筈だけれど」
「相手は銀河規模の勢力ですので」
ナタルはそれに応えて言う。
「一個艦隊程度では何にもならないのでしょう」
「バルマー戦役のあれね」
「その通りです」
「あれで一個艦隊・・・・・・」
「それが集まって方面軍でそれが幾つもあるそうです」
「凄いわね、それだけの勢力が銀河に存在しているなんて」
「ただ戦域を拡げ過ぎているようですが」
「バディム大尉やトーラー少尉の言葉だとね」
「はい。自壊する可能性も見受けられます」
ナタルは冷静にそう分析していた。
「ましてやゼントラーディや宇宙怪獣とも交戦中ですし」
「そうね」
「こちらに来ている銀河辺境方面軍もかなりの損害を出しているようですし」
「私達との戦いで」
「そうです、ですが彼等はまだ来るでしょう」
「戦い未だ終わらずといったところね」
「残念ながら」
「とにかく今は戦うしかないわね」
「はい」
ナタルは頷いた。
「そろそろ敵が出て来る頃です。準備に入りましょう」
「わかったわ。総員警戒態勢」
マリューは指示を出す。
「パイロットはそれぞれのマシンに乗り込んで。すぐにでも来るわよ」
「了解、じゃあ俺も」
「待って、ケーニヒ二等兵」
マリューは立ち上がろうとするトールを止めた。
「君はここにいて」
「ここにですか」
「スカイグラスパーがなくなったから。いいわね」
「わかりました。じゃあ」
「こっちも人手が足りないから何とかしたいのだけれど」
そう言って困った顔をする。
「今はね。お願い」
「了解」
「しかしバルマーの数は」
ナタルはふと漏らす。
「流石と言うべきか。ロンド=ベルでなければどうなっていたか」
程なくしてバルマーの軍勢が姿を現わした。今度の指揮官はシャピロであった。
「久し振りだな、ロンド=ベルと合間見えるのも」
彼は自身の艦の艦橋において自身に満ちた笑みを浮かべていた。
「ここはひとつ派手にやらせてもらうとしよう」
「シャピロ殿」
そこでモニターにロゼが姿を現わしてきた。
「ロゼ殿か。傷はもういいのか」
「私の方は大丈夫だ。それより」
「わかっている。ロンド=ベルだな」
「そうだ。宜しく頼むぞ」
「わかっている。それは司令のお言葉でもあるな」
「その通りだ。マーグ司令は無理をされないようにとも仰っている」
「ふふふ、わかった」
シャピロはそれを聞いたうえで同じ笑みを強くさせた。
「では適度に戦わせてもらおう。それでいいな」
「暫くこの太平洋で頑張ってもらいたいとも仰っている」
「ほう、ここでか」
「そうだ。今ここには戦力が少ない」
三輪が日本に戦力を集中させているせいである。その弊害がここにも出ていた。
「好きなだけ暴れられる」
「できれば地球への橋頭堡を作りたい」
ロゼは言う。
「それが司令のお考えだ」
「ではいい場所が一つある」
「そこは?」
「ハワイだ。一度あそこで奴等と戦ったな」
「あの島か」
「そうだ。あそこなら問題はあるまい」
「確かにな」
ハワイの地理的重要性にはロゼも気付いていた。
「ではそこを攻めるよう司令に進言する。それが通ったならば」
「すぐに向かう。いいな」
「頼む。では今は」
「ロンド=ベルの相手をする。ではな」
「待て」
「まだ何かあるのか?」
モニターのロゼを見上げて問う。
「今そちらに向かっているのはロンド=ベルだけではない」
「!?ミケーネの別働隊か?」
「違う、ザフトだ」
ロゼは言った。
「あのコーディネイターという者達も来ている。数は僅かだが」
「ではそちらも叩くとしよう」
シャピロは何もないといった様子で述べた。
「それで問題はないな」
「コーディネイターは手強いらしいが」
「何、所詮は人間だ」
シャピロはロゼの言葉を一笑に伏した。
「人間ならばどうということはない。私にとってはな」
「そうか」
ロゼはその言葉には何か言いたげであったが言うことはなかった。
「では任せる。いいな」
「わかった。それではな」
二人は別れた。そこで部下達からシャピロに報告があがってきた。
「前方からロンド=ベル、そして後方から」
「ザフトだな」
「どうされますか?」
「このまま陣を整えろ」
シャピロはすぐに指示を下した。
「海の上でだ、いいな」
「海の上で」
「我等は空を動けるものばかりだ。それに対してロンド=ベル、ザフトは地上でしか動けないものも多い。そこを衝く」
「それでは」
「そうだ、敵の弱点を攻める」
それがシャピロの作戦であった。
「わかったな」
「了解」
「それでは」
ロンド=ベルを迎え撃とうと待ち構える。その前からロンド=ベルが姿を現わした。既にマシンが次々に発進してきていた。
「チッ、嫌な奴がいるな」
忍は敵の中心にいる艦を見て舌打ちした。
「シャピロの野郎かよ」
「構うことはないさ」
沙羅はそんな忍に言う。
「ここでやっちまえばいいんだからね」
きっとしてシャピロの艦を見据えていた。
「やるよ、今度こそ」
「待て沙羅」
だがここで亮が言う。
「何だい?」
「ザフトも来ている。状況はそう簡単にはいかないかも知れん」
「しつこいね、あいつ等も」
「カーペンタリアに基地があるからね」
雅人が言った。
「そこから送り込んで来ているんだよ」
「カーペンタリアか」
ヘンケンはそれを聞いてふと思った。
「あそこも何とかしないとな」
「そうですね、さもないと後々厄介です」
ルリがそれに応える。
「この辺りには中立勢力のオーブもありますし」
「オーブ」
カガリがその言葉に微かに反応したがそれには誰も気付かない。
「政治的な問題も考えて行動しましょう」
「ああ」
「ミノフスキークラフト、ミノフスキードライブを装備しているマシンはそのまま出ろ」
ブライトが発進命令を出していた。
「ないものは艦上だ。そこで敵を迎え撃て」
「了解」
皆それに頷く。
「そして艦も突っ込むぞ」
「戦艦もですか!?」
「そうだ、ザフトもいる。一気に決める」
ブライトはトーレスに応えた。
「その為には戦艦での突撃だ、いいな」
「大胆だな、ブライト」
アムロがそれを聞いて声をかけてきた。
「御前にしてはやけに荒っぽいじゃないか」
「それが効果的だからさ」
ブライトはアムロにそう返した。
「今はな。それで決める」
「それに時間をかけるとあの長官がまた五月蝿いか」
「ああ。しかし」
「どうした?」
「日本に戦力を集中させるのはいいが」
ブライトもそこに危ういものを感じていたのだ。
「それで他が手薄になるのはな」
「これがとんでもないことにならなきゃいいがな」
「それを願うな、今は」
「全くだ。じゃあ俺も出るぞ」
「ああ頼む」
「アムロ行きます!」
懐かしい言葉を口にして出撃する。ニューガンダムが艦上に出た時にはもう戦闘態勢が整っていた。早速リュウセイがバルマーの軍勢に攻撃を浴びせていた。
「よっしやああ!いけえっ!」
リボルバーを乱射する。目の前の数機を瞬く間に撃墜していく。
「まずは敵じゃないぜ!・・・・・・うわっ!?」
そこに攻撃が来て慌ててかわす。
「あぶねえあぶねえ」
「調子に乗るからよ」
アヤが彼にお姉さんの様な言葉をかける。
「そんなのじゃ何時か怪我するわよ」
「って何か俺子供みてえだな」
「おいおい、そんなのじゃ困るぜ」
サブロウタが彼に声をかけてきた。
「御前は何か他人の気がしねえんだからな」
「悪いな、いつも」
リュウセイもそれに返す。
「ラッセもよ」
「俺は別にいいが」
「とにかく気をつけてよ。撃墜されたら終わりなんだから」
「終わりって」
「下見なさい。海よ」
「ああ」
アヤに応える。
「落ちたら鮫の餌だからね」
「鮫ってまさか」
「ここは熱帯の海だから多いぞ」
ライが冷静に述べる。
「だからだ。下手をしたらそれで死ぬ」
「何かとんでもねえところだな」
「だから言ってるの、いいわね」
「ああ、わかったよ」
そう言われると流石に気が引き締まる。
「じゃあ気合入れていくか」
「藤原君もね。あまり前に出ると」
「うおおおおおおおおっ!」
だが忍は聞いていない。突撃して派手に暴れるだけであった。
「邪魔だぜ!」
まずは目の前のメギロートを殴り飛ばす。メギロートは吹き飛び遠くで爆発して果てた。
「次だ!」
今度は断空剣を抜く。そして。
それを横薙ぎにする。一気に小隊単位で斬っていく。
「彼には言っても効果ないみたいね」
「まああいつは特別ですから」
ライは苦笑いを浮かべるアヤにそう述べた。
「ここは好きにさせましょう」
「そうね」
「ちぇっ、俺もSRXだったらなあ」
リュウセイがそれを聞いてぼやく。
「派手にやれるのにな」
「あれは合体出来るのに限りがあるから」
アヤが言う。
「気をつけないと。いざって時の為に」
「そうだな。主役はここぞという時だ」
「あっ、そうだな」
リュウセイはレビの言葉に気付く。
「そう考えるといいよな、確かに」
「ま、まあな」
レビはリュウセイにそう言われて少し引いた。いきなり言われたからだ。
「よし!じゃあここはチームプレーだ!」
彼は言う。
「土壇場までは皆で力を合わせるのがヒーローってやつだからな。行くぜ!」
「それじゃあライ、レビ」
「了解」
「わかった」
二人はアヤの言葉に頷く。
「リュウセイに続くわよ」
三機がリュウセイのR-1の後ろにつく。そして連携攻撃を敵に浴びせていく。遠距離攻撃を主体にした的確な攻撃であった。それで敵を少しずつ減らしていた。
ロンド=ベルとバルマーの戦いが行われている時ザフトもまた戦場に姿を現わしてきていた。
「アスラン、怪我はもういいですか?」
彼等は数が少ない。見ればザラ隊だけであった。殆どの者が空戦用のグゥルに乗っていた。その中でニコルがアスランを気遣っていた。
「ああ、何とかな」
アスランはそうニコルに返す。
「充分戦える」
「そうですか、それは何よりです」
ニコルはそれを聞いてほっとした顔になった。
「フン、敵に撃たれるとは迂闊な奴だ」
イザークがここで悪態を述べる。
「油断しているからそうなるんだ。今度はしくじるなよ」
「ああ」
「それじゃあまずはどっちに仕掛けようかね」
ディアッカが戦闘中の両軍を見て言う。
「俺としちゃどっちもプラントの敵だからやる分には反対はないがね」
「ここはまずはバルマーです」
フィリスが提案してきた。
「バルマーか」
「はい、彼等は今ロンド=ベルに戦力を向けています。我等には気付いているでしょうが」
「そうか」
「しかも我等の進路上です。それも考えますと」
「よし、わかった」
フィリスの言葉で行動が決まった。
「まずはバルマーに向かう。いいな」
「了解」
「まあそういうことだな」
皆それに頷く。
「ミゲルとイザークが前に出てくれ」
「了解」
「見ていろ異星人共!」
冷静なミゲルに対してイザークはもう熱くなっていた。
「フィリスとエルフィ、ニコルはそれのフォローだ」
「わかりました」
「それでは」
フィリスとエルフィがそれに頷く。そしてニコルも。
「では」
「ディアッカとジャックは後方からだ、いいな」
「おう」
「任せて下さい」
二人もそれに応える。それぞれの配置につく。
「そして俺が全体の指揮を執る。それでいいな」
「アスラン、貴様の力量はわかった」
イザークが言う。
「それをまた見せてもらおう」
「よし、それでシホ」
「はい」
新たに参加していたシグディープアームズがいた。そこにはあのシホがいた。
「君はディアッカ達と一緒だ。いいな」
「わかりました、隊長」
シホはアスランの言葉にこくりと頷く。
「後方から」
「怪我はもういいのか?」
イザークが彼女に問う。
「あっ、はい。そちらはもう」
シホはそれに答える。
「大丈夫です。御迷惑おかけしました」
「それはいい。名誉の負傷だからな」
イザークはそれにはよしとした。
「だが。戦いはしろよ」
「わかっています」
「相手はバルマー、そしてロンド=ベルだ。油断はできん」
「まあ派手に後ろから花火あげりゃあいいさ、俺みたいにな」
「ディアッカさん」
「いいな、ドカンと行くぜ」
「了解です」
「おろっ」
シホの反応を見てディアッカは声をあげた。
「真面目な返事とは。これは意外だな」
「ディアッカさんとは違いますよ」
エルフィが彼に言う。
「軽い調子でいる人ばかりじゃありません」
「そうなのか。いや、シホの真面目さも相変わらずだな」
「部隊に一人位はそういう人がいないと」
フィリスも言う。
「纏まりませんからね。隊長やミゲルさんばかりに負担をかけるわけにはいきませんし」
「それにニコルさんにも」
「僕は何も」
ニコルはジャックに応える。
「アスランの助けには」
「いや、頼りにしている」
アスランはニコルに言った。
「ニコルだけじゃなく皆な。だから」
「だから?」
「勝って生き残るぞ」
「了解」
皆の意見がここで纏まった。
「攻撃だ」
そして間合いに入った。
「じゃあまずは俺だ!」
ディアッカが威勢よくライフルを構える。
「グゥレイト!」
派手に光を放つ。その光がバルマーの戦艦を一隻貫いた。
光に貫かれた戦艦は忽ちのうちに炎に包まれる。そして空中に大きな爆発を引き起こした。
「まずは一隻!」
「よし!」
今度はアスランであった。イージスをスキュラに変形させて巨大なビームを撃つ。それでもう一隻撃沈した。
「これで二隻!」
「ジャックさん、私達も」
「了解!」
シホとジャックもそれに続く。二人でミサイルや重火力のライフルで攻撃を浴びせまた一隻沈めた。これで三隻だ。
次にはニコルが姿を消して接近し敵艦の急所にグレイプニルを撃つ。これで四隻。
迎撃に来るバルマーのマシンにはイザーク達が向かう。イザークのデュエルがここぞという時にシヴァを放った。
「しねえーーーーーーーっ!」
シヴァの光が一閃し複数のマシンを薙ぎ払っていく。彼もまた腕は衰えてはいなかった。
ザフトは少数ながらも瞬く間に多くの敵を倒していた。それはシャピロも無視出来ないものであった。
「くっ、ザフトめ。思ったよりやる」
「あれは敵の精鋭部隊のようです」
「四機のガンダムのか」
「はい。何でもザフトのエリートばかりを集めたとか」
「エリートか。所詮同じだというのに」
シャピロの目が剣呑な光を宿した。
「小賢しい。ならば」
「どうされるのですか!?」
「足止めにメギロートを多量に放て。ありったけだ」
「九機のモビルスーツにですか」
「そうだ。その間に主力はロンド=ベルに集中させる、一気にな」
「一気に」
「そうだ、それでいいな」
「わかりました。それでは」
「あのザフトの者達は後だ」
シャピロはそう判断した。
「いいな」
「はっ」
その指示に従いメギロートが放たれる。そしてロンド=ベルに戦力が集中されていく。
「戦術が変わったか」
グローバルはその敵の動きを見て呟いた。
「こちらに戦力を集中させてきたな」
「ザフトにはメギロートを向けています」
未沙が戦局を見て言う。
「それで足止めをしているのかと」
「まずは我々か」
「おそらくは」
「一気に倒してその後にザフト」
「戦術としては問題ありません」
「そうだな。だが我々もそう簡単にやられるわけにはいかん」
「艦長、何かお考えが」
「勇者チームに声をかけてくれ」
「彼等に?」
「そうだ、彼等の力を借りたい」
帽子の奥の目が光った。
「いいな」
「わかりました。では」
すぐに彼等に連絡を取る。この時彼等はマクロスの艦上にいた。丁度いい場所であった。
「俺達にかよ」
「そうだ、君達だ」
グローバルはゴルディマーグに応えた。
「頼めるかな」
「おうよ、任せておけ!」
彼は豪快に答えた。
「頼りにされるってのは有り難いことだぜ!」
「ちょっとゴルディマーグ」
そんな彼に光竜が言う。
「軽々しく答えないでよ」
「そうですよ。隊長の許可を得てから」
「おっと、済まねえ」
「それで隊長」
あらためてボルフォッグが凱に問う。
「どうされますか?」
「決まっているさ!」
凱はやはり凱だった。
「頼まれたことなら喜んで引き受けるぞ!」
「了解!」
ボルフォッグがそれに頷く。
「よおっし!そうこなくっちゃな!」
「ブラザー!頑張るもんねーーーーーっ!」
ゴルディマーグとマイクが歓声をあげる。グローバルはここで彼等に言う。
「では早速取り掛かってくれ」
「どうすればいいんだい?それで」
「まずは炎竜と氷竜、風龍と雷龍、そして光竜と闇竜は合身」
「はい!」
「わかりました!」
六体のマシンがそれに頷く。
「敵に向けて総攻撃だ。そしてマイク」
「マイク頑張るもんね!」
「君は兄弟と一緒にディスクで攻撃だ。いいか」
「わかったもんね!システムチェーーーーンジ!」
それを受けてすぐに変形した。
「ブラザー、いっくぜ!」
「ラジャーーーーー!」
「ボルフォッグとゴルディマーグはそのまま攻撃だ」
「はい」
「ガンガンやってやるぜ!」
「ルネは超竜神達の指揮を頼む」
「ああ、任せておいてよ」
「そして凱」
「おう!」
最後に凱に声をかけると彼が応えた。
「君はそのガトリングドライバーで敵を薙ぎ倒していってくれ。戦艦はブロウクン=マグナムでな」
「よし!」
「我が艦はさらに敵の中へ突撃する」
それがグローバルの作戦であった。
「マクロスと勇者部隊の火力で敵を倒す。いいな!」
過激な作戦であった。だがグローバルはそれをあえて選んだのである。彼の気迫であった。
「全艦、全機続け!バルマーを退ける!」
「なっ・・・・・・!」
さらなる突撃を聞きナタルは言葉を詰まらせた。
「何と。それは流石に無謀では」
「その無謀がロンド=ベルの常識ってやつさ」
彼女にフォッカーが言う。
「まあ見てな。これで決めるぜ」
「しかし」
「要は度胸だ!嬢ちゃんも腹くくりな!」
「フ、フォッカー少佐!」
ナタルは嬢ちゃんと言われてつい反論した。
「私はれっきとした軍人です!しかも二十五歳です!」
「中尉って意外と年長なんだね」
「そうだね」
「うっ、くっ」
墓穴を掘ってしまった。サイとカズイの囁きにも何も言えない。
「と、とにかくれっきとしたレディーですから。そんな呼び方は」
「ははは、済まない済まない」
「からかわないで下さい」
ムッとした顔を見せてきた。
「それで作戦ですが」
「ああ」
「大丈夫なのでしょうか」
「安心しろ、全員生還だ」
フォッカーの言葉は彼には絶対のものでもナタルには根拠のないものに聞こえる。
「いいな」
「はあ」
「じゃあアークエンジェルもだ」
「わかりました」
マリューがそれに頷く。
「アークエンジェル突貫!」
そして指示を出す。
「それで敵に向かいます」
「了解!」
ナタルは生粋の軍人である。命令に応える。
「各砲座、狙いを定めておけ!」
テキパキと指示を出す。
「バリアント、ローエングリンもだ!敵が来るぞ!」
「は、はい」
ミリアリアがそれに頷く。
「ケーニヒ二等兵!操縦を怠るな!」
「わかりました!」
場が引き締まる。意を決したナタルはやはり素早く的確であった。
アークエンジェルはもう敵の中にあった。すぐに敵が群がる。
「イーゲルシュテルン、てーーーーーーーっ!」
ナタルが命じる。その弾幕で敵を次々と傷つけていく。
「後方から二機!」
「くっ!」
「おっと、そいつは俺がやらせてもらうぜ!」
フォッカーが来た。すぐにその二機を撃墜する。
「とまあこういうわけか」
「・・・・・・お見事です」
鮮やかな動きにナタルも賞賛の言葉しかない。
「周りは任せておくんだ」
「はい」
「俺にも出番下さいよ」
ここでムウも出て来た。
「こっちだってメビウスに乗ってるんですか」
「そっちには三機来たぞ」
「おっと」
すぐにそちらに向かう。
「どうやら敵さんは待ってはくれないらしいな。こりゃ豪勢なお出迎えだ」
「この数、これがバルマー」
ナタルは辺りに展開するバルマーの軍勢を見て呟く。
「暗黒ホラー軍団よりも多いのじゃ」
「それがバルマーさ」
フォッカーはマリューにも言った。
「そこんとこ、覚えておけよ。バルマーは数だ」
「数、ですか」
「だからこっちも無茶をしなくちゃな。大勢のお客さん相手にするんだからな」
「敵の増援が出ました!」
ミリアリアが報告する。
「その数三百!」
「くっ」
ナタルはそれを聞いて歯噛みする。
「そら来た!マクロスに向かってるぜ!」
「凱君!」
「任せろ!マリュー艦長!」
ここで凱がアークエンジェルの艦橋のモニターに姿を現わした。
「この程度の戦い!どうということはない!」
その後ろでは超竜神、撃龍神、そして天竜神が当たるを幸いに攻撃を乱射していた。
「はああああああっ!」
「ぬううううううううっ!」
彼等の攻撃力は相当なものであった。敵の部隊を纏めて薙ぎ払っていく。その姿は正に戦う神であった。
ルネが彼等の指揮を執る。彼女もまた戦場を駆ける。
「サイボーグの力、甘く見るんじゃないよ!」
その剣でメギロートを真っ二つにする。それは人の力ではない。やはりサイボーグの力だった。
凱はボルフォッグ、ゴルディマーグと共に戦っている。その手に渾身の力を込める。
「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
拳が躍動する。それが敵艦に向かって放たれた。
「ブゥロォクン!マグナムッ!」
拳は一直線に派手な轟音と共に敵艦に向かう。それはとてもよけきれるものではなかった。
「う、うわあっ!」
「だ、脱出を!」
撃ち抜かれた戦艦が炎に包まれ消えていく。バルマーの兵士達はそこから逃げ去るので精一杯であった。
その横をボルフォッグ、ゴルディマーグが固める。そして次々に敵を屠っていくのであった。
「くっ、あの者達は何だ」
「ガオガイガーというらしいです」
シャピロに参謀の一人が答えた。
「ガオガイガー」
「はい、ロンド=ベルに加わった新たな敵です。ロゼ副司令もあの者達には苦戦したとか」
「あの時の傷か」
「はい」
参謀はまたシャピロに答えた。
「あのロゼをな。では」
「かなりの強さを持っていることは間違いありません」
「隊長!後方のザフトがメギロートの編隊を突破しました!」
「ロンド=ベルもです!今最終防衛ラインが!」
「おのれ、思ったよりもやる」
「如何されますか?」
部下達は彼に問うた。
「このまま戦われますか?それとも」
「戯言を。最早戦局の趨勢は決した」
それを見誤るシャピロではなかった。
「撤退する、いいな」
「はい」
「わかりました。それでは」
「無人機はそのまま置いておけ」
撤退の際の捨て駒である。
「そして他のマシン、艦艇は撤退する」
「了解」
バルマーは風の様に消えていく。後にはメギロート達が残っていたがそれもすぐにロンド=ベルとバルマーに撃墜されていった。そして後にはロンド=ベルとザフトの精鋭達が残った。
「しっかし、何かと縁があるねえ」
ムウは前にいる九機のザフトのモビルスーツを見て言う。
「まあ腐れ縁ってやつだけれど」
「アスラン、君はまた」
「キラ、ここで御前を」
二人はお互いのことに気付いていた。複雑な顔で睨み合う。
「どうします、アスラン」
ニコルがアスランに声をかけてきた。
「どうするって?」
「僕達は九機です。やはり」
「劣勢か」
「普通に考えると勝負にはなりません」
ニコルはここまで言った。
「やっぱりここは」
「下がるしかないか」
「そうだな」
ミゲルがそれに応えた。
「ニコルの言う通りだ。幾ら何でもこの数の差はな」
「まあそうだな」
ディアッカもそれに賛成した。
「一時撤退ってやつだな。母艦のこともあるしな」
「母艦も」
「今連絡を取ります」
エルフィが動いてきた。
「とりあえずは母艦も・・・・・・んっ!?」
「どうした?」
「母艦が今警告を受けているようです」
「警告!?」
「何処からだ!?」
フィリスとジャックがそれを聞いて問う。
「オーブからです。今オーブの領海内にいると。それで」
「厄介なことになったな」
ミゲルはそれを聞いて顔を顰めさせた。そのうえでアスランに問う。
「やはりここは」
「仕方がない。では撤退する」
「了解」
まずはシホがそれに頷いた。
「ロンド=ベル、次こそは!」
撤退する時イザークが吼えた。
「貴様等を倒してやる!特にストライク!貴様だあっ!」
そう言い残して戦場から離脱した。これで戦いは幕を降ろした。
「今回は大人しく引き下がったな」
ヘンケンは撤退していくザフトのモビルスーツ達を見て言う。
「毎度毎度かなりしつこいのにな」
「オーブから警告があったようです」
「オーブからか」
「はい」
エレドアが答える。
「領海内に入っていると。それで」
「そうだったのか。オーブは中立勢力だからな」
「そうですね。言うならば独立国家ですから」
「ああ。まあどちらにしろあの数では相手にはならなかっただろうがな」
「そういえばオーブもいたのう」
「うむ、わし等はとりあえずは手はつけていなかったが」
ドクーガの三人がオーブと聞いて話をはじめた。
「剣を向けぬ者には剣を向けない」
ケルナグール、カットナルに続いてブンドルが言う。
「それこそが騎士道というもの」
「なあキサカ」
「はい」
キサカがカガリに応える。
「前から思っていたがあの三人は本気なのか?」
「多分そうなのでしょう」
「そうか。だったら変態なんだな」
「こら、変態とは何だ」
カットナルがそれを咎める。
「わしはこう見えても上院議員だぞ」
「嘘付け」
だがカガリはそれをすぐに否定する。
「そんな怪しい格好の上院議員がいるか」
「ぬうっ」
「わしには美人のかみさんがおるのだが」
「何っ!?」
今度ばかりは流石のカガリも驚きを隠せなかった。
「待て、一体どうやったらそんなことになる!嘘をつくのも」
「嘘ではない」
ケルナグールは反論する。
「証拠はある」
そう言って自分と妻のツーショットをアークエンジェルのモニターに映す。
「これなら異存はあるまい」
「なっ・・・・・・」
「ついでに言うならばカットナルの言ったことも本当じゃぞ」
「私達は嘘は決して言わない」
ブンドルも言う。
「それだけは保障しよう」
「何てこった」
カガリは全身の力が抜けて自分が崩れ落ちるのを感じていた。
「あんなのがあんな美人の奥さんを持っているなんて」
「美女と野獣ね」
マリューもふう、と溜息をついて言う。
「今度ばかりは何て言ったらいいかわからないわ」
「ですが艦長、これは現実です」
ナタルがそんな彼女に言う。
「間違いありません」
「世の中どうかしてるわね」
「そうだよな」
「絶対何かおかしいよ。あんな変な人が上院議員だし」
サイとカズイが顔を見合わせていた。
「あれ、本物の烏なんだよな」
「動いてるわよ、ちゃんと」
トールにミリアリアが答える。
「くっ、早く結婚したい」
ノイマンも普段と様子が違う。
「あんなのが結婚できるんだったら自分も」
「それで艦長」
「えっ、ええ」
キサカの言葉に我に返る。
「我が軍も今オーブの領海内に入ろうとしております」
「わかりました。では」
「いえ、お待ち下さい」
だがここでキサカが彼女を呼び止めた。
「何か?」
「ロンド=ベルに関しては大丈夫です」
「大丈夫って」
マリューはそれを聞いて首を傾げさせた。
「それは一体」
「すぐにわかります。少しこれを」
「え、ええ」
キサカは通信を拝借した。それから自分から通信を入れる。
「こちらはオーブ第二七特殊部隊所属レドエル=キサカ一佐」
「えっ!?」
「オーブの!?」
この言葉には皆驚きを隠せない。
「これからロンド=ベルをそちらに誘導する。いいか」
「了解、話はもう聞いています」
オーブの方からも返事が来た。
「ではこちらに誘導して下さい」
「わかった。それでは」
「オーブに」
「何か」
彼等は狐につままれた様な顔をしている。それをよそにキサカの誘導は行われオーブに入るのであった。
この情報は近くにいるアスラン達も掴んだ。彼等は今母艦の潜水艦の中にいた。
「くっ、オーブの奴等」
イザークが怒りに満ちた顔で言葉を発する。
「何を企んでいる」
「あの連中は中立勢力だった筈だが」
ミゲルが呟くようにして言った。今ザラの面々は潜水艦の作戦室に集まっているのだ。
「どういうことなのだ?」
「おそらく中立といってもその裏では色々とあるのでしょう」
フィリスがそれに応えて言う。
「小勢力が生き残る為には。大勢力に時として組するものです」
「詭弁だな」
イザークはそれを頭から否定する。
「これはプラントに対する敵対行為だぞ、奴等」
「まあ待てよイザーク」
ディアッカが彼を制止する。
「そう言って下手に攻撃を仕掛けてもやばいだろう」
「そうですね、それだけでオーブとプラントが完全に対立します」
今度はエルフィが言った。
「そうなれば私達だけの問題では済みません」
「どうします?アスラン」
地図を見ていたニコルがアスランに問う。
「ここは大人しく引き下がりますか?それとも」
「一応カーペンタリアには圧力をかけてもらうが」
アスランはそれに応えて言う。
「それでも駄目な時は」
「どうしますか?」
ジャックが問う。アスランはそれに答える。
「潜入捜査をする」
「潜入!?」
「そうだ、それでどうだ」
「甘い!」
イザークがそれに反論する。
「強行突破だ!それしかない!」
「御前はそうなのか、イザーク」
「当然だ!あそこにはロンド=ベルがいるんだぞ!それは間違いないんだ!」
「確かにいるのは間違いない」
「ならどうしてだ!」
「相手がオーブだからだ」
「オーブだからだと!?」
「そうだ、仮にも中立勢力だ。表立って派手な行動は出来ない」
「クッ」
「プラントまで巻き込む外交問題にもなるんだぞ」
「・・・・・・それしかないということだ」
「そうだ。それで潜入するメンバーだが」
「はい」
アスランはメンバーについての選定もはじめた。こうして彼等は捜査の準備に取り掛かった。
ロンド=ベルはオーブに入るとすぐにオーブの首長官邸に案内された。そこで首長であるウズミ=ユラ=アスハと会談の場を持っていた。
整った髭を生やした男であった。その物腰には風格と気品がある。彼はロンド=ベルの首脳部に対してある申し出をしていたのである。
「アークエンジェルとストライクのこれまでの戦闘データですか」
「そう、そしてパイロットであるキラ=ヤマトのモルゲンレーテへの技術協力だ」
ウズミはマリューに対してそう述べていた。
「悪い条件ではないと思うが」
「はあ」
「受け入れてもらえば相当な便宜を計ることを約束しよう」
「お断りすれば」
大文字がここで尋ねる。
「おわかりかと思いますが」
「即退去ですか」
「そういうことです。ではよくお考え下さい」
そこまで述べて席を立つ。
「よい返事を期待しております」
「あれがオーブの獅子か」
ブライトは彼が出た扉を見て呟く。
「噂通りだな。一筋縄ではいかない」
「さて、どうするかだな」
大河は腕を組んで考えている。
「私としてはそれ程悪い話ではないと思う」
「まあそうだな」
獅子王博士がそれに頷く。
「戦闘データや技術協力ならば問題はあるまい」
「オーブもリスクがありますしね」
「フラガ少佐」
マリューがムウに顔を向けた。
「リスクとは」
「こんな小勢力が中立でいる為には苦労もしてるだろうさ。だからだよ」
「苦労・・・・・・」
「裏で汚い取引をしても戦争をするよりはましだからな」
「確かに」
それは事実であった。戦争はするにこしたことはない。軍人だからこそわかることである。
「まあ、坊主達には話をしておいてだ」
「そういえば」
ふとリリーナが気付いた。
「どうしました、ドーリアン次官」
マリューが彼女に声をかける。ムウでないのはリリーナがよく彼やガムリンの声を自分の兄のそれと間違えてしまうからである。
「キラさん達の故郷なんですよね、ここは」
「ええ、まあ」
「でしたら彼等には家族との面会はどうでしょうか」
「あっ、それは」
クローディアがそれにはっとする。
「悪くないですね」
「はい、ではそちらはそういうように手配して」
「はい」
「済ませましょう。それでストライクの件は」
「協力ということを前提として」
「進めていくということで」
「わかりました」
こうしてサイ達は家族と再会することになった。だがキラは技術協力という形でオーブのモビルスーツ研究を取り扱っているモルゲンレーテ社に出向させられることとなったのであった。
この時アスラン達がオーブに潜入した。メンバーは彼とイザーク、ディアッカ、ニコルの四人であった。
「この顔触れでいいんだな」
「ああ」
四人はそれぞれ同じ作業服を着ている。イザークは傷を消し、ディアッカは顔を白く塗っている。ニコルは黒い鬘を被りアスランはサングラスをかけている。四人は自分達がプラントの議員の子弟であることをわかっている為こうした変装を施したのである。
「フィリス達には携帯のメールで連絡を取る」
「わかりました」
ニコルがそれに応える。
「それじゃそういうことで」
「ああ」
「しかしまあ」
ここでディアッカが言った。
「このメイク中々上手いな」
「エルフィさんも手伝ってくれましたしね」
「フィリスって案外器用だってのがわかったぜ」
「はい」
ニコルはディアッカに答える。
「イザークの傷も消えたしな」
「フン、潜入捜査だからな」
「皆カードは持ったな」
「ああ」
三人はそれに応える。
「これで入られる場所は限られているが。それでもやらないとな」
「そういうことだな。じゃあはじめるか」
「俺とニコルは軍の施設に向かう」
アスランはまたメンバーを分けてきた。
「イザークとディアッカはモルゲンレーテの方だ。宜しく頼むぞ」
「オッケー」
「わかりました」
ディアッカとニコルがそれに応える。
「そしてだアスラン」
「どうした、イザーク」
「案外ストライクのパイロットの顔が拝めるかもな」
「・・・・・・ああ」
その言葉には複雑な顔をした。この時オーブでは紫の髪をした青年がキサカと会っていた。
「ユウナ様、お会いしたかったですぞ」
「あ、ああ。帰ってきていたんだ」
その紫の髪の青年ユウナ=ロマ=セイランは彼の顔を見て今にも逃げようとしていた。
「カガリ様のお供は。大変でした」
「うん、それはお疲れさんだったね」
「それでですな」
「何かな」
ユウナは何かを必死に誤魔化そうとしていた。
「私一人では重荷でした。やはりここは」
「いやあ、僕も何かとね。忙しくてね」
「そんなこと仰らずに!」
キサカは必死の形相でユウナを呼び止める。
「一人よりも二人ですぞ、ユウナ様!」
「ほら、君は軍人だし僕は文官で。まあ役割分担とか!」
「貴方は軍籍もおありです!」
「あれっ、そうだっけ」
やはり何かから必死に逃げようとしている。
「是非私と御一緒に!カガリ様の御守りを!」
「・・・・・・やっぱり逃げられないか」
「お覚悟を」
二人がそんな話をしているのを背景にキラはアムロと一緒にモルゲンレーテの技術主任ユリカ=シモンズと会っていた。茶色の髪を上で束ねた大人の女である。
「モルゲンレーテ社の技術主任ユリカ=シモンズです」
シモンズはまず自分の役職と氏名を名乗った。
「それで技術協力って」
「ええ、これよ」
キラに応える。そしてリモコンのボタンで左手の巨大な扉を開ける。するとその奥にストライクに似たモビルスーツが三体あった。四体あるがもう一体は奥にありよく見えない。
「このモビルスーツをね。ナチュラルが乗ってもストライクと同じ性能が出せるようにしたいのよ」
「それで僕を」
「ええ。それでね」
ユリカもそれを認める。
「お願いできるかしら」
「オーブはこれを何に使うつもりなんですか?」
「これはオーブの守りだ!」
「!?」
「うわっ」
「出ましたな」
「こらっ、何が出ただ!」
それはカガリの声だった。彼女はユウナとキサカを一喝する。
「貴様等私に会いもしないでこんなところで」
「い、いやそれはね」
「アムロ中佐とヤマト少尉を案内して」
「ふん、だったらいいがな」
まずは二人から目を離した。その間に二人はコソコソと話をしている。
「あれは気付かれていないだろうね」
「御安心下さい、無事です」
キサカはユウナの囁きに頷いていた。
「ですからユウナ様も」
「わかってるさ。見つかったら僕達は私的制裁確定だ」
「今は。厄介なところですな」
「うん」
「一体何の話をしてるんですか?」
二人はキラに声を聞かれギョッとした顔になる。
「い、いや何でも」
「気にしないでくれ。今は君はそちらに集中してくれ」
「何かわからないけれどわかりました」
キラはそれに頷くことにした。
「じゃあ」
「まあ君にも後でいい話があるから」
「カズイ君とも話がしたいな」
「はあ」
「全く。こんなものを開発して」
カガリは忌々しげにモビルスーツを見上げていた。
「これは裏切りだ」
「裏切り!?」
アムロがそれに反応する。
「そうだ。他の勢力に介入しないと言っておきながらこんなものを開発して」
カガリは言う。
「連邦にもザフトにもティターンズにもいい顔をする。結局戦争を利用しているんだ」
「だがそれが政治なんだ」
アムロはカガリに対して言う。
「嫌だとは思うがな」
「戦場では皆自分の守りたいものの為に戦っている」
「守りたいものの為に」
キラはそれを聞いて自分とあのインパルスのパイロット、シンのことを思い出した。
「なのにオーブは自分達さえ平和ならそれでいい。それで利益まで得ている。卑怯じゃないか」
「守る為にか」
またその言葉がキラの心に響く。ここで懐にしまっていたトリィが動きはじめた。
「あっ、トリィ」
「トリィ、トリィ」
トリィはキラに構わずに倉庫の外へ出る。キラもそれを追って倉庫を出た。
「すいません、ちょっと」
「ええ、少し休憩ね」
ユリカはそれを見て言う。
「映画の撮影状況はだね」
「はい、それはもう」
ユウナとキサカは相変わらず変な話をしている。それが何なのか、まだ二人だけにしかわからないことである。
「参ったな、これは」
アスラン達はモルゲンレーテの側のベンチに腰掛けていた。
「この警護は異常だ。蟻一匹は入れやしない」
「見た目は平和そうなんですがね」
ニコルが言う。
「裏では何をしているのかわかりませんね」
「狐か狸みてえだな」
ディアッカがたまりかねた顔で言う。
「尻尾を掴ませないってか」
「問題は足つきだ」
アスランは言った。
「いるならいる、いないならいないで確証が欲しいな」
「もう出たかどうかか」
「そうなるか」
ディアッカに応える。4
「それによってこちらの動きも変わる」
「そうだな」
それにイザークが頷く。
「どっちなのかな」
「フィリス達は今は待機を続けているそうだ」
イザークが携帯のメールを見て言う。
「だが。長くはいられないだろうな」
「そうですね。やっぱりここは敵地と言っていいですから」
「見極め時も肝心か」
アスランは呟く。
「それは今かな」
そう呟いた時だった。空に何かが姿を現わした。
「トリィ」
「!?」
アスランはそのミドリの鳥に気付いた。それはトリィだったのだ。
(馬鹿な、どうしてここに)
驚きを隠せない。何故ならこれはキラに贈ったものだからだ。
(ということは)
アスランにはわかった。キラが側にいるのだ。自分の側に。それがよくわかった。
「何だ、これは」
「鳥だな」
イザークとディアッカもそれに気付いた。トリィはアスランの手に停まってきたのだ。
「ロボットですね、よく出来ている」
そしてニコルも。三人はアスランの周りに集まってきていた。
「参ったな」
そこにキラがやって来る。
「トリィ、何処に行ったんだ?」
辺りを見回す。ここで彼は見た。
「えっ!?」
(アスラン!?)
(キラ・・・・・・)
二人は今再会した。お互いの顔を見る。
だが名乗ることは出来ない。二人はフェンス越しに互いを見やった。
「あの」
まずはアスランが前に出た。
「この鳥だけれど」
「うん」
ぎこちなく、他人行儀でキラも応える。
「君の?」
「そ、そうだけれど」
アスランに差し出されたトリィを受け取る。トリィは静かにキラの手元に帰って来た。
「トリィ、トリィ」
「有り難う」
キラは礼を言う。アスランはそれを聞いてから帰ろうとする。だが。
「この鳥はね」
キラは語りはじめた。
「昔友達から貰ったものなんだ」
「友達から」
「うん。大切なね。だからこれも凄く大切なものなんだ」
キラは語る。
「だから・・・・・・有り難う」
「そうだったんだ」
「おい」
アスランにイザーク達が声をかける。
「そろそろ行くか?」
「あ、ああ」
アスランは彼等に応える。
「じゃあこれで」
「うん、若しまた会えたら」
「会えたら?」
「戦争が終わっていればいいね」
「・・・・・・そうだね」
アスランはこくりと頷く。そしてその場を後にする。
二人は何も言えなかった。何も語り合えなかった。戦争という現実の前に。
だが別れを経て人はまた再会する。運命の輪廻の中で。キラもアスランもその中にいるのだ。そして彼等の周りの者達も。その輪廻を司る神々は今彼等の運命を遂に動かそうとしていたのであった。

第百十六話完

2006・9・26 
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