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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第百十二話 砂塵の果て

             第百十二話 砂塵の果て
「自ら志願してきたと。そう考えていいのかな」
バルトフェルドはレセップスの艦橋で二人の赤服の少年を正対していた。
「僕の隊に」
「はい」
「宜しくお願いします」
そこにいたのはイザークとディアッカだった。彼等もまたアフリカに降下していたのである。ディアッカは何ともなかったがイザークは顔の右半分に包帯を巻いていた。
「まずは宇宙から大変だったな。歓迎するよ」
「有り難うございます」
イザークはバルトフェルドに礼を述べた。
「ところでもう一人いた筈だけれど」
「シン=アスカですか」
ディアッカがそれに応える。
「そう、ザフトきってのエースがここにいないな」
「あいつは今自分の機体を見ています」
「そうか」
「何でもストライクを倒すのだって。随分躍起になっていましてね」
「では彼とは後で個別に会うとするか」
「はあ」
「ザフトの看板エースとも会っておきたいしね」
そう述べてにこりと笑うバルトフェルドであった。その笑顔は実によかった。そして今度はイザークに声をかけた。
「ところで君だが」
「はい」
「怪我の具合はどうなんだい?君達を預かる以上無理はさせられないんでね」
「はい・・・・・・」
「お、おいイザーク」
イザークはその包帯を取った。そこには深い傷があった。
「大丈夫なのかい?」
「問題ありません」
イザークはバルトフェルドに毅然とした声で返した。
「戦士が消せる傷を消さないのはそれに誓ったものがあるからだと見た」
バルトフェルドは傷よりもその心を見ていた。
「君のその誓いに期待させてもらうよ」
「・・・・・・・・・」
だがその言葉には微妙に顔を歪めさせた。
「そう言われて顔を歪めるのは屈辱の印・・・・・・という所かな」
「そう受け取って頂いても構いません」
「そうか」
「それでロンド=ベルの動きは」
「目下のところこちらの手の平の中だ」
バルトフェルドは答えた。
「だが彼らは一筋縄ではいかない相手でね。一度負けたよ」
一度真剣な面持ちになってからまた述べる。
「ま、僕もクルーゼ隊を笑えんということさ」
「・・・・・・・・・」
また沈黙するイザーク。ここでディアッカが言った。
「では機体の整備もありますので」
「うん、それじゃあ」
「これで失礼します。イザーク、行くぞ」
「ああ、わかった」
(ストライク、ロンド=ベル)
イザークはディアッカと共に自身の機体に向かいながら心の中で呟いていた。
(討ってやる、次こそ必ず!この俺がな!)
「いいねえ若さは」
バルトフェルドはイザークのその内面に気付いていた。そのうえでそれも認めて笑っていた。
「クルーゼ隊からの増援ですか」
「かえって邪魔なだけのような気がするがね」
バルトフェルドはダコスタにこう述べて今度は苦笑いになった。
「宇宙戦の経験しかないんじゃ」
「しかし彼等は赤服、エリートですよ」
「それ以前にクルーゼ隊ってのがね」
実はバルトフェルドが引っ掛かっているのはそれであった。
「僕はあいつが嫌いでね」
「はあ」
実はクルーゼはザフトの中では極めて人望のない男であった。冷酷で慇懃無礼な態度が反感を買っているのだ。トップガンの赤服ばかりを部下に揃えているのも反感を買っていた。陰ではその妖しげな仮面から『変態仮面』とさえ呼ばれているのである。若しくは何処かの光の巨人達に危害を及ぼした宇宙人とさえ呼ばれている。
何はともあれイザークとディアッカはバルトフェルド隊に合流した。シンもまたその中にいた。
そのバルトフェルド隊との戦いが終わったロンド=ベルは今情報収集に務めていた。
「以上がタッシルの街の被害状況です」
「街は全壊。だけど人的被害は無しとはね」
未沙はボルフォッグからの調査結果を聞いてまずは呟いた。
「どういうことなのかしら?」
「少なくとも私達を誘き出そうとしてやったわけではなさそうだな」
ミサトにミリアルドが答えた。バルトフェルドはロンド=ベルとの戦いの後タッシルに襲撃をかけていたのである。
「俺もそう思う」
フォッカーがそれに頷く。
「レジスタンスの拠点であるタッシルを焼くことで抵抗の意識を削ぐことが目的だったんだろな」
「昼間は私達と戦闘してその夜には再出撃なんて」
ミスティがそれを聞いて言う。
「フットワークの軽い男ね、砂漠の虎も」
「虎の異名は伊達ではないということか」
金竜がそれに応える。
「しかしレジスタンスが邪魔なら正面から叩き潰せばいいものを」
ナタルはそれを聞いてどうにも首を傾げていた。
「ティターンズやネオ=ジオンならそうするだろうに」
「それがあの男の美意識ってやつだな」
それにスレッガーが応えた。
「美意識」
「つまり一般市民を巻き込む趣味はないってことだろ?軍人によくあるパターンってやつだ」
「そのモラルが民間人を戦争に巻き込むことを嫌ったと?」
「俺はそう思うがね」
クリスにもそう返した。
「俺だって一般市民に対してはなあ」
リュウはまたそういうことは極端に嫌う男である。
「できないな、そういうことは」
「リュウさんならそうですよね」
アムロはそれを聞いて昔を思い出して笑った。
「それに俺も」
「ロンド=ベルのエースも一般市民は別、と」
「アムロも変わっていないな」
「よせよ、二人共」
カイとハヤトの言葉に苦笑いを浮かべる。
「だがこのことは感謝すべきかもな」
「何を言っている!」
アムロの言葉にカガリがムキになって反論する。
「こちらは街を焼かれたんだぞ!こんなことをする奴のどこが優しい!」
「御前さんの気持ちはわかるけどさ」
それに宇宙太が応える。
「やっぱり命が助かっただけでも」
「ガイゾックだったら人間爆弾だぜ、おい」
「何、人間爆弾」
恵子と勝平の言葉にビクリと反応する。
「というと人間がそのまま突っ込んで破壊しまくるのか」
「ああ、それ勘違いですよ」
麗がそう説明する。
「確かにそんなことが可能な人もいるにはいるがな」
「あれには正直我が目を疑いました」
「ええと、そっちがミスターで」
カガリも神宮寺は知っていた。
「そっちのメガネのウラナリは」
「猿丸です」
「ああそうか、宜しくな」
「ええ。けれどウラナリなんて」
「気にしない気にしない。猿丸さんはコープランダーのブレーンでしょ」
「はい・・・・・・」
マリの言葉にしょげかえりながら頷く。
「で、まあ人間爆弾だけどよ」
「ああ」
勝平の言葉に耳を傾ける。
「人間に爆弾を埋め込んでな。街中で爆発させるんだ」
「なっ・・・・・・!」
流石にこれには絶句した。
「何だそれは。非道にも程があるぞ!」
「だからそれがガイゾックなんですよ」
猿丸があらためて述べる。
「もうやっつけましたけど。それと比べたらかなりましでしょ」
「ま、まあな」
どう考えてもそれよりは遥かにましであるのは彼女にもわかった。
「だがな」
それでも言わずにはいられない。
「あいつは臆病な卑怯者だ!何が砂漠の虎だ!!」
「・・・・・・じゃあどう言えっつうんだよ」
甲児もこれには呆れた。
「こういう場合は」
ムウがそれに応える形で言った。
「ヤな奴だな、虎って。こうかな」
「あんたもな!」
そう叫んで飛び出そうとする。それをキサカが呼び止める。
「何処に行く気だ、カガリ」
「スカイグラスパーの操縦訓練だ!」
それに対してまた叫ぶ。
「虎は私の手で討ってやる!!」
そして部屋を飛び出た。扉が乱暴に閉められる音がした。
「荒れているわね、彼女」
セイラがそんなカガリを見て言う。
「まるで昔のアムロ中佐を女の子にして乱暴にしたみたい」
「また俺なのか」
「だってあの時のアムロって中々大変だったから」
「やれやれ」
一年戦争の、そしてロンド=ベルのエースにも若い頃はあったのだ。
「しかし何か最近荒れっぱなしだな、確かに」
「昨日も彼女を追っていた坊主と一悶着あったみたいですよ」
ムウが言う。
「そうなのか」
「ええ。坊主も坊主で」
「そうか。済まないな、ラミアス大尉」
アムロはマリューに顔を向けて謝罪した。
「俺がついていながらパイロット間でつまらん諍いが起きているようだ」
「あ、いえ」
最近まで雲の上の存在だったエース中のエースに声をかけられキョトンとしている。
「私は別に」
「シャバっ気が抜けていない野戦任官の小僧達だからな」
ダイゴウジがそれに応えて述べる。
「気合が足りんのだ、気合が!ここはこのダイゴウジ=ガイが!」
「旦那、でどうするんだい?」
「決まっている!ここは砂浜で駆け足だ!夕陽をバックにな!」
リョーコに言うとヒカルが目を輝かせる。
「いいですね、それ熱血で」
「そうだろう!それこそが若き青春の血潮!」
「血潮が滲んでちきしょおーーーーーー・・・・・・うぷっ」
「・・・・・・今度はましだけどここで言うのは止めろよ、おい」
リョーコがいつものツッコミを入れる。
「何ていうか急に寒くなったな、おい」
「トッド、風?」
「いや、それとはまた別だ」
ベルにそう述べる。
「まあとにかくだ」
サブロウタが話を戻す。
「話が妙な方向にいっちまってるからな」
「色事だものね」
ミサトが述べる。
「どんな状況でも起こりえることだわ」
「でも何時からそんな」
エレがそれに首を傾げる。
「地球に降りてからじゃないの?」
ムウがエレと同じように首を傾げながら述べる。190
「それまでそんな余裕なかったでしょ」
「あの子はサイ君の彼女でしょう?」
マリューにはそれがよくわからなかった。
「それがキラ君と」
「意外・・・・・・だよね。俺もそう思うんだけどさ」
ムウも同意であった。だがミサトは違っていた。
「そう?あのフレイって子、あの歳で既に自分が女であることを自覚してるわよ」
「じゃあ葛城三佐は彼女の方から坊主にモーションをかけたと?」
「あのキラ君が自分から友達の彼女に手を出すと思う?」
ムウに応えて言う。
「思えませんねえ、それは」
「恋にルールは無いってのは大体女の発言よね」
「何か妙に説得力がありますね」
マヤがその言葉に少し苦笑した。
「まあ純粋な恋心だったら私達がどうこう言うことじゃないけど」
「おかしくなったからそうなったのかそうなったからおかしくなったのかは知らないが」
ムウはそこまで聞いて眉を顰めさせる。
「ともかく上手くはないな、坊主のあの状態は」
「それにしても迂闊だったわ。パイロットとしてあまりにも優秀なものだから、つい」
「ああ。メンタルな面でのケアが不十分だったのは認めざるを得ない」
マリューとアムロが言う。
「大人はみんな同罪ですよ。こんな状況の中で皆が坊主に戦うことを求めた」
ムウが少し苦く言う。
「なまじ彼と同じような年頃の子供がロンド=ベルに参加しているだけに」
「そうね」
「その無責任な期待が坊主を追い詰めていっちまったんでしょうよ」
「解消法に心当たりは?大尉」
マリューはそこまで聞いたうえでムウに問う。
「あまり参考にならないかも」
「・・・・・・のようですわね」
「その目つきを見る限りはね」
ミサトも言う。
「だがああいった悩みや苦しみは誰もが抱えるものだ。ただ彼の場合」
アムロが述べた。
「コーディネイターという特殊な立場が本人も気付かない内に心に壁を作っているように思える」
「そればっかりは俺達がどうこう言っても無駄でしょうね」
「そうだ」
ムウもどうしようもないところでミサトが言った。
「気晴らしをさせてみてはどう?丁度いい任務もあるし」
「消耗品の買出しですか?」
ナタルがふとそれに気付く。
「ええ。駄目押しにその道の先輩も同行させるわ」
「先輩とは」
「とっておきの大先輩よ」
ミサトはナタルに応えてにこりと笑った。その笑みには何かの意図があるのは明白であったがそれが何なのかは彼女は明らかにはしなかった。
バナディーヤ。サハラ砂漠の中の街である。ここに彼等はいた。
「砂漠の中にこんな街があるなんて」
そこに彼等はいた。その中の一人であるシンジはキョロキョロと辺りを見回していた。
「しかも随分と賑やかだね」
「平和そうに見えたってそんなのは見せ掛けだけだ」
カガリが言った。
「逆らう者は容赦なく殺される」
「えっ」
「このバナティーヤの街はザフトの・・・・・・砂漠の虎のものなんだ」
「ちょっと、何よそれ」
それを聞いたアスカが顔を歪ませる。そうした顔も非常によく似合う。
「そんな所へあたし達を行かせるなんてミサトは何考えてんのよ!?」
「砂漠の真ん中で買い物が出来る場所がここしかないからだと思うわ」
レイがそんなアスカに述べる。
「これだけ大きな街なんて他にはないから」
「違~~うっ!あたしが納得できないのは、このメンバー構成よっ!!」
「・・・・・・・・・」
「特にあんたよ!」
キラに食ってかかる。
「何であんたなんかと一緒に!それが一番わからないのよ!」
「それは・・・・・・」
キラにはもうグランガランの時の様な激情はなかった。いつもの弱気なキラになっていた。
「僕は艦長に言われたから」
「フン、全く」
アスカは不満を露わにしたまままた言う。
「あんたみたいなのと一緒なんて。嫌になるわ」
「私はそうじゃないけれど」
レイは平気であった。
「ヤマト君だって。色々あるから」
「甘やかしは禁物よ」
「どうして?」
「こいつはねえ、自分のことしか考えていないからよ」
アスカはムキになって言った。
「そんな奴にはガツンとしなければ駄目なのよ。そうじゃないとね」
「アスカは優しいのね」
「エッ!?」
この言葉には止まってしまった。
「そうやってヤマト君のこと真剣に考えてあげてるから」
「あたしは別にそんなのじゃないわよ」
「まあこいつはホンマ素直やないから」
トウジがその横でキラとカガリに囁く。
「何かあったのは聞いとるけどな。確かにあかんことや」
「うん・・・・・・」
キラはトウジの少しきつい言葉にこくりと頷く。
「けどな。御前きつかったのはわかっとる。だからそれはなおせばええからな」
「それで」
「そや。それでええから」
「ちょっとトウジ」
そんなトウジにもアスカは食ってかかる。
「何甘やかしてるのよ。だからこいつはね」
「御前も他人のこと心配してばっかりやな」
「あたしは心配なんかしてないって言ってるでしょ!何でこんなウジウジしたのを!」
「けどいつも言うとるやろが」
「気のせいよ」
苦しい言い訳に入った。
「こにかくこいつがいると何するかわかんないからよ。自分のことばっかりでさ」
「言っておくがそれは私の台詞だ」
「ムッ」
カガリがアスカに言った。
「こんな危険な場所に何故素人の御前達を同行させたんだ?」
「カムフラージュのためよ」
「何っ!?」
レイの言葉に顔を向ける。
「私達戦闘要員には見えないでしょう?」
「確かにそうだが」
それはカガリも認めた。
「だがその制服はかえって目立つぞ。ここは日本じゃないんだ」
「修学旅行中の中学生ってことじゃ駄目かな?」
「何っ!?日本の中学生はアフリカへ修学旅行に来るのか!?」
シンジの言葉に眉を顰めさせる。
「そんなの聞いたことないわよ!」
「言い争いをしない方がいいわ」
アスカが声をあげたところでレイが言った。
「余計に目立つから」
「そうだね、今更みたいな気もするけれど」
シンジの言葉は中々的を得たものであった。
「カガリさん、良かったら何処かでお昼御飯にしない?」
「何を悠長な」
カガリはシンジのその言葉にムッとした顔を見せる。
「ほら、お腹が減ってると怒りっぽくなるしさ」
「ううむ」
「どう、カガリさん」
「カガリでいい」
まずはそれをあらためさせた。
「他人行儀は嫌いだ」
「そうなの。じゃあ」
「まあ確かに御前のいうことも一理ある」
それには頷くものを見出したという態度だったがお腹が空いてきたのも事実だった。
「ついて来い」
「おいしい物食べさせてよね」
「野菜がいいわ」
「ああ任せろ」
アスカとレイに言う。そして先に進む。
「凄いね」
「凄いって?キラ君」
シンジがキラの言葉に気付いた。
「いや、あの子を言いくるめるなんて凄いなと思って」
「ああ、それ」
シンジは彼が何を言いたいのかわかった。
「まあアスカで鍛えられたからね」
「そうなんだ」
「こうしたのも馴れだからさ。だからね」
そのうえでまた声をかける。
「僕達も行こうよ」
「う、うん」
キラの手を導くようにして言う。それを受けて歩きだす彼を見てシンジは心の中で呟いた。
(良かった。ミサトさんの読み通り気晴らしになってるみたいだ)
そしてある店に入った。その屋外の席に着く。
カガリはそこで何かを注文した。暫くしてその注文したメニューが届いた。
「何これ?」
キラがその料理を見て尋ねる。それは焼いた肉をパンで挟んだものだった。
「ドネル=ケバブさ」
「ドネル=ケバブ?」
カガリに料理の名前を言われても首を傾げさせる。
「何かサンドイッチかハンバーガーみたいなもの?」
「まあそんなところか」
キラの言葉に少し納得したような顔になる。
「こっちじゃよく食べられるものだ」
「そうなの」
「美味いぞ。まあ食べてみろ」
「うん」
「中々美味しそうじゃない」
アスカは割りかし気に入ったようである。レイにも声をかける。
「ファースト、あんたはどうすんの?」
「私は野菜だけでいいわ」
「そう、いつも通りね」
「ええ」
「それじ、ドネル=ケバブを極められないぞ?」
カガリがそんなレイに声をかける。
「ドネル=ケバブは肉あってのものなんだからな」
「ああ、綾波はベジタリアンなんだ」
シンジがここでカガリに言う。
「だからね」
「そうなのか」
そう言われては納得するしかなかった。
「じゃあ仕方ないな」
「うん、そういうことでね」
「じゃあ食べるか」
「わいもう頂いとるけどな」
「御前はもうちょっと待て。全く」
「これどうやって食べるの?」
カガリがトウジの相手をしているとキラが問うてきた。
「このまま食べてもよさそうだけれど」
「ああ、それはな」
声をかけられたカガリは何故か楽しげな顔になった。聞かれたのが嬉しかったのだろうか。
「このチリソースをかけて」
「あいや待った!」
そこで突然サングラスにボルサリーノ、アロハシャツという変わった服の男が出て来た。
「ちょっと待った!」
「何だ御前は」
「ケバブにチリソースなんて何を言ってるんだ!?」
彼はカガリに対して言う。
「ヨーグルトソースをかけるのが常識じゃないか!いや!」
何処か演説めいてきていた。
「常識と言うよりももっとこう・・・・・・そう!」
「何、この人」
「変態さんじゃないの?うちにゴロゴロいるみたいな」
レイにアスカが答える。
「ゴロゴロって」
「じゃあ頭が可哀想な人」
「それも何だか」
「じゃあかなり変わった人。大体あのセンスの悪い服って何よ」
男はそんな話をよそに言い続ける。
「ヨーグルトソースをかけないなんてこの料理に対する冒涜だよ!」
「何なんだ御前は」
カガリは男の勢いに戸惑っていたがやがて言った。
「見ず知らずの奴に私の食べ方をとやかく言われる筋合いはないぞ」
「いや、そういう問題ではなくてだね」
「チリソースが一番美味いぞ、やはり」
もうチリソースをかけていた。
「いや、やはりヨーグルトが」
「あれはどうも甘くて駄目だ。やはりこっちが・・・・・・美味いぞ」
「だからそれは邪道なんだ。あのヨーグルトの優しさがだね」
「ほら御前も」
キラにチリソースを渡す。
「食べてみろ」
「あっ、うん」
よくわからないままそれを受け取ろうとする。だがそれを男が止めに入る。
「待ちたまえ!」
「えっ、何!?」
「彼まで邪道に落とす気か!」
キラとカガリの間に入る。
「おいこら!」
カガリがそんな男に対して叫ぶ。
「何をするんだ引っ込んでろ!」
「君こそ何をする!」
何時の間にかケバブのソースを掴んでいた。
「ええい、この!」
「あ、あの」
シンジがオロオロしながら彼等に声をかける。
「そんなに暴れると」
「うわっ!」
「どわっ!」
二人はテーブルをひっくり返して倒れ込んだ。皆咄嗟にケバブは保護していた。この動きは見事であった。
「セーフね」
アスカがケバブを食べながら言う。
「美味しいじゃない。ソースなくても」
「そうだね」
シンジもそれに頷く。
「けどカガリの言うチリソースもいいよ」
「ヨーグルトもええで」
トウジはヨーグルトソースをかけて食べていた。
「これはこれで」
「ほんとだ」
シンジもそれを食べてみて言う。
「どっちもいいと思うけれどな」
「ううう・・・・・・」
カガリが倒れたテーブルの下から起き上がる。見れば髪も服も顔もチリソースでベッタリである。
「ああ、これは失礼を!」
男が慌てて彼女に声をかける。
「これは申し訳ない。どうか僕の屋敷に」
「屋敷!?あんた一体」
「僕の屋敷さ。バルトフェルドのね」
アスカに答える。
「アンドリュー=バルトフェルド」
カガリがその名を聞いて呟く。
「砂漠の虎!」
「とんだ失礼をした。この償いは是非ともさせてもらうよ」
(この人が砂漠の虎・・・・・・)
キラは彼の顔を見た。それが彼と砂漠の虎との出会いであった。
服が汚れたカガリとそれに付き添う形でキラはバルトフェルドの館に招かれた。アスカ達も無理矢理ついて来たが彼女等は別室に案内された。
「何よ、隔離ってわけ?」
「まあアスカやからな」
「こらっ」
いつもと同じくトウジに食ってかかる。彼女達には黒いロングヘアの妖艶な美女が相手をしていた。
「まあくつろいでいいわよ」
「・・・・・・毒とか入っていないでしょうね」
「アンディはそんなことはしないわ」
美女はアスカに答えた。
「コーヒーにクリープを入れることはあってもね」
「ふうん」
「だから安心して。何なら広東料理でも出すから」
「あんた中国系なの?」
「別にそうじゃないけど台湾には縁があって」
美女は言う。
「だからなのよ。何がいい?」
「じゃあ点心頂戴」
アスカは言った。
「それと炒飯と麺もね。デザートは杏仁豆腐」
「私は野菜か果物を」
「わいは何でもええで」
「わかったわ。それじゃあ」
「至急ね」
「炒飯作るの美味い子もいるから早いわよ」
「よきかなよきかな」
「あの、アスカ」
アスカのあまりにもぞんざいな態度にシンジが口を挟む。
「幾ら何でも図々しいよ」
「いいじゃない。アフリカで中華料理が食べられるのよ。それも広東料理」
「そういう問題じゃなくて」
彼は言う。あの美女がいなくなったのを確認してから。
「ここ、ザフトの司令部だよ」
「それがどうしたのよ」
「どうしたって」
「堂々としてなさいよ、あたし達の身分はわかってないんだし」
「けど」
「オドオドしてる方がばれるわよ。毒がないんだったら安心しなさい」
「わかったよ。それじゃあ」
「さて、広東料理つったらやっぱシーフードやが」
「野菜もね」
冷凍技術は偉大である。砂漠の真ん中にある街にもシーフードや野菜を届けられるのだから。見ればこの司令部もかなりいい。バルトフェルドの趣味を感じさせるものであった。
「それじゃあコーディネイターの料理への腕前見せてもらうわよ」
「まあこうなったらいいか」
シンジも付き合うこととなった。彼はまだ弱気であったが。
キラはこの時ザフト軍の司令室でバルトフェルドと会っていた。ソファーに向かい合って座っている。
「僕はコーヒーにはいささか自信があってね」
「コーヒーですか」
「そうさ。これはいい飲み物だよ」
キラにもコーヒーを勧めながら言う。
「何ていうか、美学の味だ」
「美学の」
「それがわかれば違いがわかるということだね」
「そうなんですか」
「まあかけたまえよ」
バルトフェルドはキラにリラックスするように言う。
「くつろいでくれ」
「わかりました」
(トリィ、頼むよ)
実は彼はこっそりとトリィをアークエンジェルに戻していた。いざという時の連絡役である。
「!?」
ふとテーブルの上に置かれているものに気付いた。
「このレリーフは」
「エヴィデンス=ゼロワンだよ」
バルトフェルドは答えた。
「実物を見たことは?」
「いえ」
「そうだよね。実は僕もなんだ」
彼は言う。ここで扉を開ける音がした。
〔扉の閉じる音〕
「戻ってきたか」
「ああ、ギターの弦が切れちまってな」
「バサラさん」
「ああ、おめえもいたのかよ」
見れば部屋に入って来たのはバサラであった。彼は何気ないといった仕草でキラに顔を向けた。
「どうしてここに」
「ああ、何となくな」
バサラは答えた。
「何となくって」
「ただふらりと外に出たくなったんだ。それでここまでな」
「そうだったんですか」
「おや、君達は知り合いだったのか」
「え、ええ」
「まあちょっとしたな」
流石に身分は明らかにはしない。
「丁度いい。特製ブレンドのコーヒーが入っているんだ」
「コーヒーか」
「ああ、君も飲んでいってくれ」
「じゃあいただくぜ」
バサラは立ったままコーヒーを受け取った。そしてそれに口をつける。
「それにしてもどうしてここに」
「俺はステージを選ばねえのさ」
バサラはキラに対して言った。
「宇宙も広いがこの砂漠ってのも果てし無くて悪くねえからな」
「そうなんですか」
「中々面白い男だな、君は」
バルトフェルドは彼の話を聞いて頷く。
「大人物のようだ」
「大物か小物かなんてのも俺には関係ねえな」
これも如何にもバサラらしかった。
「俺は歌えればそれでいいからな」
「そうか。それもまたよしだな」
「ああ」
「話を戻すぞ、少年」
「は、はい」
キラはバルトフェルドに応えた。
「まあ異星人が頻繁に地球へやってくる時代だから宇宙にこんな生物がいても不思議ではないが」
彼はレリーフを指差しながら言う。
「この羽の部分なんかロマンにあふれていると思わないか?」
「はあ」
「こんな奴等がいるから宇宙ってのはおもしれえんだ」
バサラも言う。
「どうせ宇宙からのお客さんがこの地へ来るのならこいつみたいなのが現れれば良かったんだがね」
「それはそうですけど」
「何かが来るのを待つのが嫌なら自分で動くしかねえな」
バサラは二人にそう言った。キラはそれを聞いて呟く。
「自分で」
「だから俺はまた動かせてもらうぜ」
「もう行くのかい?」
「ああ。コーヒーご馳走さん」
「ではまた縁があればな」
「その時は一曲聴かせてやるぜ」
「ああ、頼むよ」
「じゃあな」
バサラはそのまま部屋を出た。そして何処かへ行った。それはロンド=ベルとは限らないのが彼である。
「ところでどう?」
バルトフェルドは二人になるとキラに問うてきた。
「コーヒーの方は」
「えっと」
「君にはまだわからんかな、大人の味が」
思わせぶりに言う。
「まあ楽しくも厄介な存在だよね、これも」
キラ「このエヴィデンス=ゼロワンがですか?」
「宇宙に人類以外の生命がいるのが確認されたのは宇宙移民がはじまる前だったそうだ」
彼は言う。
「そのおかげで人類には希望っていうか可能性が出てきちゃったわけだ」
「希望が」
「そう、人はまだもっと先までいけるってさ」
彼はさらに言う。
「それが宇宙時代の始まりでありコーディネイター誕生の裏にあるなら。この戦争の一番の根っこって言えるな」
「それが」
「そして」
バルトフェルドはバサラにも言及する。
「待つのが嫌なら自分で動くしかない、か。さっきの彼の言葉・・・・・・久し振りに未来や希望を感じさせてくれたよ」
「あの人は何か特別なんです」
キラはバサラについて言った。
「何か。常識を超えてるっていうか」
「そうみたいだね」
「あの人みたいにできれば。って思う時もありますけど」
「やれるかい?」
「僕には」
キラは戸惑いを見せた。
「出来ないです」
「まあ人それぞれさ」
バルトフェルドはそれに応えて述べた。
「そこから何かやるものさ」
「はあ」
ここで部屋にまた誰か入って来た。あの黒髪の女だった。
「アイシャ」
「準備出来たわよアンディ」
アイシャはバルトフェルドをこう呼んだ。
「すまないね。さあ、お披露目といこうか」
「お披露目って?」
「・・・・・・・・・」
それはすぐにわかった。ドレスアップしたカガリが部屋に入って来たからだ。
「えっ、女の子!?」
「おい、ちょっと待て!」
カガリはキラの言葉に反応して激昂してきた。
「いや、だったんだねって言おうとしただけだけど」
「同じだろうがそれじゃ!」
「あははははは!」
「ふふふふ」
バルトフェルドとアイシャは二人の様子を見て思わず吹き出してしまった。そのうえで言う。
「ドレスもよく似合うねえ。というかそういう姿も実に板についている感じだ」
「か、勝手に言ってろ!」
カガリは顔を真っ赤にして言う。
「喋らなきゃ完璧」
「そういう御前こそ本当に砂漠の虎か?」
カガリはそのバルトフェルドに問う。
「何で人にこんなドレスを着せたりする?これも毎度のお遊びの一つか?」
「ドレスを選んだのはアイシャだし毎度のお遊びとは?」
「変装して街でヘラヘラ遊んでみたり、住民は逃がして街だけ焼いてみたりってことさ」
「いい目だねえ」
バルトフェルドはそれに応えずにカガリにそう返した。
「まっすぐで。実にいい目だ」
「ふざけるな!」
「ちょっとカガリ」
キラが激昂するカガリを宥めるが聞く耳持ってはいない。
「死をも恐れずに向かってくる。それは生きていることに耐えられない状況の人間の行動だ」
バルトフェルドはまた言った。
「君も死んだ方がマシな口かね?」
「それは」
答えられない。カガリはそこまで考えてはいなかったのだ。
「そっちの彼。君はどう思っている?」
「僕ですか?」
「そうだ。どうなったらこの戦争は終わると思う?」
バルトフェルドはじっとキラを見て問う。
「モビルスーツのパイロットとしては」
「えっ!?」
「御前、どうしてそれを!?」
「貴方は僕達をロンド=ベルだと知って!」
「はははははは!あまりまっすぐ過ぎるのも問題だぞ」
バルトフェルド派二人に顔を崩して笑う。
「戦争はいざとなれば制限時間も得点もないんだスポーツの試合のようなね」
「それは」
無制限戦争である。
「なら、その場合はどうやって勝ち負けを決める?どこで終わりにすればいい?」
「そういう戦争になったら」
「ジオンの時はまあよかったよ。ア=バオア=クーで終わりだって意識があったからね」
「はい」
キラは頷く。
「だけど戦争ってのは厄介でね。そうはいかない場合もあるんだ」
「そうはいかない場合も」
「君はその時はまだロンド=ベルにいなかったそうだね」
バルトフェルドは言う。4
「ドクーガやグラドスとの戦いの時は」
「ええ、まあ」
「あれは頭さえ潰せばよかった。だからあっさりと終わった」
「はあ」
「けれど、そうはいかないケースもあった」
「それは」
「ガイゾックもそうだったし。まっ、彼等は比較的小勢力だったがね」
ここで少し笑った。
「恐竜帝国とは。完全に滅ぼし合ったんだ、彼等は」
「滅ぼす」
「そうさ、向こうも種の存亡をかけていたからね。そうなると非常に厄介なことになるんだ」
「それで・・・・・・どうなるんですか?」
キラは問う。
「そうなった場合は」
「もうルールなんかないね」
バルトフェルドはそう述べた。
「果てしなく殺し合うだけさ。最後の一人までね」
「最後の一人まで」
「そうさ、それもまた戦争なんだ、難儀はことにね」
「それもまた・・・・・・」
「そしてだ」
彼はあらためて問う。
「そうした場合はどうするか」
「やらなきゃこっちが」
「そうだ、その時は」
懐から何かを取り出した。
「敵である者を全て滅ぼして、かね?」
それは銃だった。キラに狙いを定めていた。
「くっ!」
「止めた方が賢明だ」
動こうとするキラを止める。
「幾ら君がバーサーカーでも暴れて無事にここから脱出出来るものか」
「バーサーカー?」
「ここにいるのは皆君と同じコーディネイターなんだからね」
「えっ!?御前まさか」
カガリはその言葉にハッとしてキラの方を見る。だが彼は答えられない。
「君の戦闘は見せてもらった」
バルトフェルドはあらためてキラに言う。
「君は同胞の中でもかなり優秀らしいな」
「・・・・・・・・・」
「あのパイロットを只のナチュラルだと言われて素直に信じるほど私は呑気ではない」
「気付いていたんですか」
「わかるさ。それで言うんだ」
彼は言葉を続ける。
「君が何故同胞と敵対する道を選んだか知らんがあのパイロットである以上私と君は敵同士ということだな」
「うう・・・・・・」
「やっぱりどちらかが滅びなきゃならんのかねえ?」
バルトフェルドはここで銃を収めた。
「えっ」
「どうも我々は無制限戦争に入り込もうとしているね。そうなったら」
苦笑いになっていた。
「その場合は」
「そんなことしても・・・・・・いや、そっから先は言わないでおこう」
軍人がここから先を言ってはならない。それから先は政治家の仕事である。
「あっ、今日の君は客人でここは戦場ではない」
あらためてキラに言う。
「帰りたまえ。話せて楽しかったよ」
「えっ」
「良かったかどうかはわからんがね」
「それは・・・・・・」
キラにもわかることではなかった。袋小路に入り込んだ気分であった
「はい・・・・・・・」
「帰るか、キラ」
「うん、シンジ君達と一緒にね」
「ああ」
二人は部屋を出た。アイシャがバルトフェルドに声をかけた。
「いいの、アンディ」
「いいさ、今は」
バルトフェルドはそれに構わなかった。
「戦場以外で敵を倒すのは僕の流儀じゃないからね」
「そう」
「あの少年も仲間達も」
彼はそのうえで言う。
「真っ直ぐでいい眼をしている。戦争がなければな」
「あんな子、好きなんでしょ?」
「ああ」
その言葉に頷く。
「嫌いなわけないさ。ああした少年達が未来を築くのだから」
「けど彼を生かしておいたことが命取りにならなきゃいいけれど」
「寒い時代だねえ」
それを聞いてたまらない顔をした。
「そんなことを言わなきゃならないなんて」
キラとカガリはシンジ達と合流した。彼等はまだ食べていた。
「あっ、きらふぅん」
シンジは丁度蒸蝦餃子を食べていた。口一杯に頬張ったままキラに顔を向けてきた。
「シンジ君、これは一体」
エヴァの四人は中華料理に囲まれていた。夥しい皿が彼等の周りにある。
「見りゃわかるでしょ、食べてんのよ」
アスカがそれに応える。
「あんたもどう?美味しいわよ」
「う、うん」
「全く、御前達はこんなところでも」
カガリは怒ろうとしたがそれより前に腹が鳴った。
「あ・・・・・・」
「食べた方がいいわ」
レイが彼女に言う。
「お腹すいてるのなら。毒とかは入ってないから」
「そうか、じゃあ」
「僕も」
食事に彼等も加わった。食べ終わってようやく屋敷を後にする。
「しかしよく食べたね、君達」
見送りに来たダコスタも驚きを隠せない。
「育ち盛りからかな」
「いや、滅茶美味かったから」
トウジがダコスタに言う。
「こう自然と」
「まあうちは料理が美味いのが揃ってるからね」
「そうなんですか」
「特に炒飯はね。腕利きが入ったから」
「へえ」
「美味しかっただろ、今日の炒飯」
「はい」
シンジが答える。
「何か。普通の炒飯よりもずっと」
「僕達もそれで喜んでるんだ。食べないとね、やっぱり」
「そうよね、腹が減ってはって」
アスカも言う。
「言うからね」
「そうだね。じゃあこれで」
「はい」
「今日はどうも」
彼等は庭でダコスタと別れた。この時キラは一人の赤服の少年と擦れ違った。
「!?」
「!?」
二人は擦れ違うとほぼ同時に振り向いた。そして互いの顔を見る。
「君は」
「御前は」
またしても同時だった。言葉が出た。
「いや、まさか」
「まさかな」
そこで感じた感触を。二人は確かに覚えた。
「こんなところで会うなんて」
「そんな筈がない」
「あのガンダムのパイロットだなんて」
「ストライクの男がこんなところにいる筈がない」
それは二人のはじめての顔合わせであった。キラ=ヤマトとシン=アスカ。後にさらに激しい死闘を繰り広げ後には共に人類を脅かす存在を倒す二人の。はじめての顔合わせであった。
「見張りお疲れ」
「フレイ」
ロンド=ベルの駐留地に着くとフレイがキラ達を出迎えた。
「昼間は大変だったみたいね」
「うん」
「それでね」
「話は後にしようよ」
キラは話そうとするフレイに対して言った。
「それでいいよね」
「・・・・・・わかったわ」
「いけ好かないわね、本当に」
アスカは去っていくフレイの後姿を見ながら言った。
「あんたもだけどね。聞いてるの?」
「うん」
キラはアスカの言葉に頷く。
「けど。何か変わったわね、今日で」
「何かって!?」
「感じがよ。まあ覚えておいて」
アスカは言う。
「あんただけじゃないってことはね。わかった?」
「うん」
「わかってるようには見えないけれど」
「わかるように努力するよ」
キラは俯いてそう返した。
「これから」
「だといいけれどね。じゃあ帰りましょう」
「やあ、お帰り」
今度はコウがやって来た。
「無事で何よりだ。じゃあまずはこれ」
「コーヒーですか」
「葛城三佐が入れてくれたものさ。インスタントだけれど」
「凄く濃そう」
レイはコウが手に持っているコーヒーを見て言った。
「あの人のだからね。少なくとも眠気は吹っ飛ぶよ」
「ミサトらしいっていえばらしいわね」
「まあね。じゃあまずは艦内に戻って」
「はい」
「いや、それにしても」
コウはそのコーヒーを啜りながら言う。
「これ本当に苦いや」
「ていうかどうやったらこうなるのよ」
アスカも一口含んで言う。
「滅茶苦茶じゃない。まるで泥」
「何か中華料理が美味かっただけにこれはな。かなんで」
「君達は中華料理だったのか」
「はい」
「こっちは何かと大変だったよ。その葛城三佐とラミアス大尉の料理で」
「どんな感じだったんだ!?一体」
「壮絶だったね」
コウは遠い目をしてこう言った。
「二人の以外は何とか普通に食べられたけれど」
「普通にって」
「あのドクーガの三人が瞬殺だったから。それだけ言えばわかるかな」
「充分過ぎる程ね」
アスカはそれを聞いて露骨に嫌な顔をした。
「あの変態三人が死ぬなんてよっぽどなんでしょうね」
「で、今三人共カットナルさんの薬の世話になってるんだ」
「結局生きてるのかよ」
「まだ本調子じゃないけど。しかしカガリ何気に酷いこと言うね」
「うっ、済まない」
「ところでヤマト少尉」
「はい」
コウはキラに顔を向けてきた。
「砂漠の虎に会ったんだってね」
「え、ええ」
コウの言葉に頷く。
「それで詳しい話を聞きたいけれどいいかな」
「いいですか?お話して」
「是非共。じゃあ詳しい話は中でね」
「わかりました。それじゃあ」
「うん」
まずは中に入った。そしてコウの部屋で話をはじめる。
「砂漠の虎本人に会ったんだよね」
「はい」
キラ達はまず頷いた。4
「ウラキ中尉も虎に興味があるんですか?」
「そうだな」
シンジの言葉に応える。
「生命のやり取りをする相手だからね」
「けどフラガ大尉は相手のことなんか知らない方がいいと言っていました」
「大尉の言うことも正しいだろうな」
それはまず認めた。
「けど相手のことを知った上で戦うのも必要だと思っている」
「そうなんですか」
「これはシンジ君達が知ってると思うけれど」
まずは前置きをした。
「俺にはずっと追っている敵がいてね」
「敵が」
「ああ、最初はその男のことをただ憎く思っていたけれど」
彼は言う。
「彼の信念を戦いの中で知ったんだ」
「信念を」
「そうさ、そしてそれを知った時」
「どうなったんだ!?」
カガリが身を乗り出して問う。
「俺自身も戦う意味を見つけられたような気がした」
「その人は」
「誰なんだ!?」
「アナベル=ガトー」
コウはその男の名を出した。
「ソロモンの悪夢と呼ばれた男さ」
「名前は知ってます」
キラも彼のことは聞いていた。
「ネオ=ジオンの人ですよね」
「そうさ、今も向こうにいるよ」
「ネオ=ジオン最高のエースだったよな」
カガリも彼のことは知っていた。
「一年戦争の時からの」
「その人に出会うまで中尉は戦いの意味をわかっていなかったんですか?」
「俺は軍人だからね」
コウはまた前置きをした。
「任務として戦っていたんだ。だけど戦う意味ってのは任務や義務とは別の所にあると思う」
「そうですよね」
シンジがその言葉に頷いた。
「何となくですけれどわかります」
「そうね」
アスカもそれに同意する。
「あたしも。何かそう思う」
「アスカもかい」
「あんたは別に何も考えていないみたいだけどね」
「言うてくれるな、ホンマ」
「じゃあ何か考えてるの?」
「まあ妹を守りたいってとこやな、わいは」
「それも充分な意味があるさ」
コウはそれを聞いて述べた。
「いや、むしろ充分だよ」
「そらどうも」
「だからなんだ」
「シンジ君・・・・・・」
「僕も前は周りに流されるままエヴァに乗っていたけれど」
バルマー戦役の時は彼もそうだった。
「今は自分の意志であれに乗ってる。自分なりに戦うことの意味を考えて」
「でも」
僕は、と言おうとする。そのキラにまた言った。
「キラ君、ロンド=ベルのみんなも同じだよ」
「よく言うよね、それ」
「僕達の部隊は全員が軍人じゃないんだ」
シンジは言う。
「僕や君みたいに戦いに巻き込まれてしまった人も多いんだよ」
「うん・・・・・・」
「僕だって悩んださ。何度も何度も逃げた」
そうだった。シンジはそれこそ何度も逃げ、何度も彷徨った。しかし。
「でもその先には自分の世界しかなかった」
「自分の世界しか・・・・・・」
「ほら、サイ君とのあれ」
「うん・・・・・・」
あの時の激昂が今蘇る。それが大きく変わろうとしていた。キラの中で。
「そこへ逃げ込んだって誰も手を差し伸べてくれなかったんだ」
「誰もいないんだ」
「そう、誰もね」
シンジはあらためて言う。
「ありがちな台詞だけどさ、苦しんだり悩んだりしているのは君だけじゃないんだ」
「僕だけじゃない・・・・・・」
「ただ当の本人は追い詰められているから周りが見えていないんだよ」
その通りだった。シンジはキラのことが手に取るようにわかっていたのだ。
「だから自分一人で何もかもやっているような気になるんだよ」
「僕一人で・・・・・・」
「自分一人で頑張らなきゃと思ってしまう。だけどそれは間違いなんだ」
「そう、一人じゃないんだ」
コウも言った。
「自分の目が曇れば想いも曇る。だから戦う意味を見失う」
「戦う意味を」
「誰だって一矢さんやタケルさんみたいにはいかないからね」
「あの人達もなんですね」
「一矢さんはな、特別や」
トウジが言った。
「何があってもエリカさんを取り戻すつもりやったからな」
「だから戦って」
「彼は平和の為に戦っているんだ」
「平和・・・・・・」
「地球とバームの為にな。だから戦えるんだ」
「けれど僕は」
「急がなくてもいいさ」
コウは優しい声をかけた。
「こういうことは誰かに言われてどうにかなるものじゃないしね」
「はい・・・・・・」
「もうすぐ夜明けだな」
もう夜が終わろうとしていた。窓が明るくなろうとしていた。
「少し休むか。さもないと戦闘に差し支えるからね」
「わかりました。じゃあ」
「今日も暑くなりそうだよ」
そして彼等はそれぞれの場所に戻った。それから暫く休むと警報が鳴った。敵襲であった。
「またザフトかな」
「そうだろうな」
コウにキース画言葉を返す。
「北極からわざわざティターンズがジブラルタル狙ってるって噂もあるけどな」
「破壊工作かい?」
「ああ、どうやらそうらしいぜ」
「ここが片付いたらジブラルタル攻めるつもりらしいけれど」
「そう簡単にはいかないみたいだな」
「まあ今はザフトをやっつけて」
「そういうことだな」
まずは目の前の敵をどうにかしないといけなかった。
「じゃあ出撃だ」
「さてと、砂漠の虎は」
「何をしてくるかだな」
彼等が出撃するともうザフト軍は展開していた。数そのものは多くはないがそこには三機のガンダムもいた。
「あの連中もいるのか」
シーブックが彼等の姿を認めて言う。
「何処までもしつこい奴等ね」
アンナマリーも言う。
「けれど連中砂漠の戦い方は知ってるのか?」
「どういうこと、ビルギット」
「いや、奴等ずっとプラントにいたんだろ」
「ええ」
アンナマリーはそれに応える。
「だったら宇宙の戦い方は知ってても砂漠の戦いは知らないだろ。キラがそうだったしな」
「まさか」
「いや、有り得るな」
アムロがここで言った。
「中佐」
「俺だって一年戦争の時はそうだった。おそらくな」
「じゃああの三機のガンダムは今回は安全牌ってとこですね」
「宇宙のようには行かないのは確かだろう」
ビルギットに応える。
「だが他のマシンや空を飛べるやつは」
「違うってことですね」
「そうだ、全機散開だ」
アムロの指示が下る。
「敵の機動力に注意しろ、いいな」
「了解」
ロンド=ベルが散った。それに対してバスターとデュエルの動きは鈍いままであった。
「糞っ、何なんだここは」
イザークが悪態をつく。
「この足場、これが砂漠なのか」
「動きにくいったらありゃしないぜ」
ディアッカも言う。
「こりゃ厄介な戦いになりそうだな」
「クッ、なのにどうしてあいつは満足に動けるんだ」
忌々しげにインパルスを見る。
「シン、どうして御前は」
「慣れたんだ」
シンは前を見据えて言う。
「砂漠にもすぐに」
「慣れた」
「そうだ。この程度なら」
シンは目の前のストライクを見据えていた。
「あいつができているのなら俺も。ストライク!」
そして叫ぶ。
「この砂漠で貴様を倒す!」
シンは突っ込む。その姿はレセップスからも確認されていた。
「あれがシン=アスカか」
「はい、我が軍きってのエースです」
「いい腕をしているね。やっぱり違う」
「はい」
バルトフェルドはダコスタと話をしていた。
「エースってのは。ああなのかな」
「彼はまた特別よ」
アイシャも艦橋にいた。
「何か。目が違うわ」
「目が」
「一途に何かを見てる。ギラギラと」
「確かにね」
それはバルトフェルドも感じていた。
「彼はまたあの少年とは違うものを持っている」
「違うものとは」
「簡単に言うと怒りかな」
バルトフェルドはダコスタに言った。
「怒り」
「そうだ。何かに対する怒り。そして憎悪」
「ナチュラルに対する憎悪でしょうか」
「それもあるだろうがもっと」
バルトフェルドは言う。
「目の前の敵に対する。そういうものだね」
「何かよくわかりませんが」
「おそらく彼自身にもわかっていないだろうね、それは」
バルトフェルドは敵に突っ込むインパルスを見ながら述べる。
「何かを守りたい、それを脅かす敵を憎い。そして」
「そして!?」
「後はこれからわかるね。彼の行動によって」
「はあ」
「では僕達も仕掛けよう」
バルトフェルドは全軍に指示を下した。
「機動戦を仕掛ける。いいな」
「了解」
ザフト軍は砂漠の上を泳ぐように素早く展開しはじめた。バスターとデュエルは何とかそれに追いついている。
「くっ、ロンド=べル!」
イザークが目の前のV2にビームライフルを放つ。
「ここで決着をつけてやる!」
「照準が乱れてる!」
そのビームライフルはウッソの前にはどうということはなかった。あっけなくかわす。
「何っ、きゃわした!?」
イザークはV2の動きに思わず目を瞠った。
「ナチュラルの癖に!」
「あいつ何もわかってねえな」
それを見てオデロが呟いた。
「ニュータイプの勘ならあの乱れた照準なら」
「ニュータイプとかの問題じゃないわよ」
「ジュンコさん」
ジュンコのVが前に出て来た。
「戦争ってのも経験だから」
「それじゃあ」
「ウッソだって何度も死闘を潜り抜けてきてるのよ」
「だからかわせたと」
「ええ、あんなの乱れた照準じゃね。大丈夫よ」
「このっ!このっ!」
イザークはムキになってライフルを乱射する。しかし慣れない足場の為足下がふらつきどうしても当たらない。
「ちょこまかと鬱陶しい!」
「ナチュラルとかニュータイプとかの問題じゃないんだ!」
ウッソはその出鱈目な攻撃をかわしながら叫ぶ。
「そんなもので人間は決まらない!それが世界なんだ!」
そして彼も攻撃を放った。前に出る。
「ぬゎにぃ!?」
光の翼を出す。それでイザークを襲う。
「イザーク、かわせ!」
「ちいいっ!」
ディアッカの言葉に咄嗟に動く。かろうじて急所はかわした。だが。
数機のバクゥごとダメージを受ける。周りのバクゥからはザフトのパイロット達が慌てて脱出していく。
「うわ、もう駄目だ!」
「脱出します!」
しかしデュエルはまだ立っていた。慣れない足場ながら咄嗟に急所をかわしたイザークは流石であった。だが。
「まだだ!」
「待て!」
戦おうとする彼をバルトフェルドが止めた。
「その状態じゃ無理だ!」
「しかし!」
攻撃を放とうとする。だがもうライフルを持つ右腕もないのだ。こうなってはもうどうしようもなかった。右肩のシヴァも破壊されてしまっていた。
「君はあくまで助っ人だ。こんなところで無理をするな」
「クッ!」
「わかったな。今は退んだ」
「りょ、了解」
苦渋で顔を歪めながらもそれに頷く。イザークは戦場から離脱した。
「あの少年な様な真似は誰にでも出来るというものでもないってことだ」
「そうね」
バルトフェルドのその言葉にアイシャが応える。その前ではディアッカがイザークと同じ状況に陥っていた。
「ちょこまかと五月蝿いんだよ!」
得意の遠距離攻撃を次々と放つ。それでシーブックのF91を撃破しようとするが上手くいかない。
「この程度の攻撃なら俺にも!」
ビームシールドを構えながら左右に舞うように動き攻撃をかわし間合いを取っていた。
「どうということはない!」
「じゃあこいつで!」
ムキになったディアッカは長射程狙撃ライフルを出そうとする。だがそれで隙を作ってしまった。
それを見逃すシーブックではない。すぐにヴェスパーを出してきた。
「このヴェスパーで!」
光が集束され一気に放たれる。その速さはディアッカとて避けられるものではなかった。
「ウワッ!」
目の前の数機のバクゥが吹き飛ばされバスターも弾け飛ぶ。中破し片腕がなくなっていた。カメラも大きなダメージを受けていた。
「こりゃ駄目だな。バスター撤退する!」
「彼は見極めてるねえ」
バルトフェルドはあっさりと撤退する彼を見てこう述べた。
「いいことだ。彼は長生きする」
「後の一人は?」
「彼か」
もう一人いた。それはシンだった。
「彼は。まずいね」
バルトフェルドはキラと戦うシンを見て言った。
「生き急いでいるね、あれは」
「死ぬかも知れないってこと?」
「いや、流石にあのレベルになるとそうそう死ぬことはないね」
シンの凄まじい戦いを見て言う。キラと互角だった。
「けれど。道を誤るかも」
「道を」
「彼も純粋だ。けれど」
「周りが見えなくなっているのね」
「そうだな。誰かが気付かせてあげればいいんだが」
だが今はその時ではなかった。シンはその剥き出しの闘志と憎悪をキラに向けて戦っていたのだ。
「ストライク!」
ビームサーベルを恐ろしい速さで振り回す。
「貴様コーディネイターだったな!」
「だったらそれが!」
キラはそのビームサーベルを何とか受けながら言葉を返す。
「どうしたっていうんだ!」
「じゃあ何故連邦につく!」
シンはキラを睨んで言う。
「コーディネイターの癖に!」
「前にも言ったじゃないか!」
キラはそんなシンに対して言い返す。
「僕は皆を守る為に!だからロンド=ベルにいるんだ!」
「その皆はナチュラルだろ!」
「ナチュラルとかそんなのは関係ないんだ!」
(えっ)
キラはここで自分の言葉に気付いた。
(ナチュラルもコーディネイターも関係ない)
咄嗟に出た言葉だが。今彼はそれに気付いた。
(そうか、そんなのはどうでもいいんだ)
自分でもそれに気付いた。
(友達だから。だから)
「そのナチュラルがユニウスセブンを破壊したんだ!」
シンの憎悪は止まらない。キラとは違って。
「御前の同胞もそこで殺されたんだぞ!それがわかっているのか!」
「わかってるさ!」
キラは返す。
「わかっているならこっちへ来い!同胞を虫ケラみたいに殺したナチュラル共に正義の裁きを与えてやる為にだ!」
「確かに君の言う通りだ」
キラはまずこう述べた。
「あれはナチュラルがやった」
「なら!」
「けど、それがナチュラルの全てじゃないんだ!」
「何だとっ!」
「ナチュラルにだって素晴らしい人は一杯いる!凄い人だって沢山いるんだ!」
キラは叫ぶ。
「そして僕の為に常に心配してくれて、何かをしてくれる人達がいるんだ!友達だって!」
彼は今本当にそれがわかった。
「僕はその人達の為に!だから!」
「なら俺もだ!」
何かを守る、それはシンも同じなのだ。
「父さんと母さん、そしてマユを守る為に」
目が赤く燃え上がっていた。
「ストライク!ここで貴様を!」
「!!」
シンのビームサーベルがこれまでになく激しい攻撃を浴びせてくる。だがそれもキラに防がれる。
「殺してやる!覚悟しろ!」
「覚悟はこんな時にするものじゃないんだ!」
キラは叫ぶシンに叫び返す。
「今じゃない!君はそれがわかっていない!」
「俺は常に覚悟している!」
今のシンには。キラの言葉は何の意味もなかった。
「プラントの為にも!」
胸にある携帯の感触を感じた。
「マユ!御前の為にもだ!」
「この感情・・・・・・」
キラはインパルスを支配するその感情を今見ていた。まるでニュータイプの様に。
「一体何処まで・・・・・・」
「この砂漠が貴様の墓場だあっ!」
ビームサーベルを振りかざす。
「死ねええええええええええええええええっ!」
「クッ!」
また激しい剣撃が加えられようとした。だが。ここで異変が起こった。
「!?」
突如としてインパルスの動きが悪くなったのだ。
「これは一体・・・・・・」
「今だ!」
「何のっ!」
一瞬の隙をついたキラの攻撃は左に捻ってかわす。そこでコクピットに鳴る警報に気付いた。
「クッ、バッテリーがもう」
「それまでだな、君も下がるんだ」
「バルトフェルド隊長・・・・・・!」
「君は今回も充分戦った。それでいい」
「しかし!」
「幾ら君でももう限界だと思うがね」
バルトフェルドは食い下がろうとするシンに対して言った。
「バッテリー切れだと。違うかい?」
「いえ」
歯軋りしながらそれに頷いた。
「その通りです」
「では君は下がるんだ。いいね」
「・・・・・・わかりました」
遂にシンも撤退した。バルトフェルドはそんな彼を見てまた呟いた。
「あの熱さはいいのだがね」
「あのストライクの子と正反対ね」
「いや、むしろ似てるんじゃないかな」
「そうかしら」
「うん、何かね」
アイシャに言う。
「あの何かを守ろうという気持ちと前を見据える目は。同じだよ」
「個性が違うだけかしら」
「どうだろうね。置かれた環境もあるだろうし」
「複雑ね、何か」
「そうだね。人間ってそんなものさ。そして」
その目を戦場に戻した。
「この戦いもね」
「損害率七割に達しようとしています」
ダコスタが報告する。
「このままでは」
「わかっているよ。ではダコスタ君」
「はい」
「後退信号を」
「わかりました」
ダコスタはそれに頷く。
「勝敗は決した。残存兵をまとめてカーペンタリアかジブラルタルへ」
「はい」
「そして僕は」
「どちらへ」
「何って、殿軍さ」
バルトフェルドは笑ってこう返した。
「このままだと撤退することもままならないからね」
「しかしこの状況では」
「何、安心し給え」
バルトフェルドは笑って言った。
「僕だってまだコーヒーを楽しみたいからね」
「はあ」
「では全軍撤退だ。ラゴゥで足止めをする」
「わかりました。では」
「うん。そしてアイシャ」
今度はアイシャに顔を向けた。
「君も脱出しろ」
「何言ってるの」
だがアイシャはそれに従おうとはしない。
「そんなことするぐらいなら死んだ方がマシね」
「死ぬかも知れないのにか」
「言ったでしょ、アンディ」
アイシャは彼に笑って返した。
「死ぬのなら一緒だって」
「君も馬鹿だな」
アイシャ「何とでも」
「じゃあわかった」
バルトフェルドはもうそれを拒もうとはしなかった。
「では付き合ってくれ、いいな」
「勿論よ」
「ではダコスタ君行って来る」
「はい」
ダコスタは敬礼してそれを見送った。
「御武運を」
「帰ったらとっておきのコーヒーを紹介するよ」
「わかりました、ではそれを」
「うん」
レセップスは後退をはじめる。その中から一機の赤い獣型のマシンが姿を現わした。
「あれは!?」
「虎だ!」
驚く一同にコウが言った。
「虎!?」
「そうだ、奴しかいない!こんなところ出て来るのは!」
「まだやる気なんて」
「いや、流石は虎だぜ」
驚くシンジと不敵な笑みを浮かべるモンシア。二人は実に対象的だった。
「誉めてやらぁ!」
「バルトフェルドさん!」
キラがバルトフェルドに顔を向ける。シンとの激闘の後でもまだ戦意は健在だった。
「まだだぞ少年!」
「もう止めて下さい!勝負はつきました!」
キラはバルトフェルドに対して言う。
「降伏を!」
「言った筈だぞ!」
だが彼はキラの言葉を聞き入れはしない。
「種の存在がかかった戦争には明確な終わりのルールなどないと!」
「まだそれは!
「キラ、戦うんだ!」
「ウラキ中尉!?」
キラの側にGP-03が来ていた。そしてキラに言う。
「ここで終わりにしなければ死ぬのは御前だ!」
「けど僕は」
「逃げるなキラ!」
コウはまたキラに言う。
「虎を否定するなら自分の答えを出せ!」
「答えを」
「そうだ!それが出来ないのならここを去れ!」
「それは・・・・・・」
「どちらか一つだ!御前はどちらだ!」
「わかっているじゃないかコウ=ウラキ中尉」
「俺の名を!?」
コウはバルトフェルドの通信に顔を上げた。
「ソロモンの悪夢アナベル=ガトーと互角に渡り合い続けるガンダムのパイロットだったな」
「そうだが」
「それ位の情報は得ていさ。だが」
「だが。何だ?」
「君は滅びの道を選んだようだな」
「人は理想や信念があるからこそ戦いを止めることは出来ない」
コウはバルトフェルドにそう返す。
「それは貴方も承知しているだろう?」
「勿論さ。君と同じだ」
「やはり」
今二人の心はつながった。だが。彼等は敵と味方だったのだ。
「しかしここは戦場だ」
バルトフェルドもそれに言及する。
「決着をつけようか。互いの信念を懸けてな」
「信念・・・・・・」
「そう、これは信念なんだ」
コウはキラにまた言った。
「お互いのな。だから退けないんだ」
「信念で・・・・・・」
「ここで御前との戦いに終止符を打たせてもらう!」
コウはまた言った。
「でなければ俺達は先へ進めないからな!」
「よかろう!」
バルトフェルドも当然それを受ける。
「僕の屍を越えられるものなら越えてみたまえ!」
「やってやる!」
「少年、君もな!」
「ぼ、僕は・・・・・・」
「坊主!」
まだ戸惑っているキラをムウが一喝するように声をかけた。
「迷うな!今は!」
「迷うな・・・・・・」
「そうだ!皆を守りたいんだろう!」
「はい・・・・・・」
「それなら・・・・・・戦うんだ!」
「戦う・・・・・・」
「そうだ!そして守れ!いいな!」
「僕はっ!!」
押されてではあるが意を決した。キラは顔を上げた。
「皆を守る為に!」
前に出る。バルトフェルドと正対する。
「そうだ、戦いしかなかろう!?こうなっては」
バルトフェルドはそんなキラを見て笑う。勇敢だが何処か寂しい笑いだった。
「互いに敵である限り!どちらかが滅びるまでな!」
「僕はまだ死ぬわけにはいかないから」
キラも言う。
「貴方と・・・・・・戦います!」
「さあ来い少年!」
バルトフェルドは動きはじめた。
「君の相手は僕だ!」
「いきます!」
キラも攻撃をはじめる。ビームライフルを放つ。
だがそれは左にかわされる。光だけが空しく砂の海を通り過ぎていく。
「くっ、バクゥとは動きが違う!」
「むっ」
歯噛みするキラとは違う感触をバルトフェルドは受けていた。
「でも!」
また攻撃を加える。今度はより正確な攻撃だった。かわされはしても。
「やはりね」
バルトフェルドはそんな彼の動きを見て言った。
「大したもんだよ君は」
「一体何を」
「軍に入って日も浅いだろうに僕のラゴゥを捉えるなんてね」
それは賞賛の言葉だった。バルトフェルドは戦場にあってもバルトフェルドだった。
「やはり君は何か違う。本当にバーサーカーなのかも知れんな」
「そうね」
それにバルトフェルドの後ろに乗っているアイシャが頷いた。
「いい腕してるわ」
「だろう?」
バルトフェルドはそれに応えた。
「今日は冷静に戦っているようだけどこないだはもっと凄かったんだ」
「何でそんなに嬉しそうなの?」
「そうかな」
「辛いわね、アンディ」
そうバルトフェルドに言う。
「ああいう子好きでしょうに」
そしてこの言葉をまた言った。言っても仕方のないことであったが。
「これで!」
キラはまた攻撃を放つ。今度は至近だった。
「くっ!」
バルトフェルドといえどそれを完全にかわすのは無理だった。背にある砲を破壊された。
「やってくれるな、また!」
「アンディ、また来るわ!」
キラの攻撃は続く。今度は上に飛んでいた。
ビームサーベルで斬りつける。急所はかろうじてかわしたがその衝撃で大きく後ろに弾き飛ばされる。
「ウオッ!」
「凄いわね、本当に」
「だろう!?彼はいいパイロットだ」
態勢を立て直しながら言う。
「これだけの腕を持っているのは。うちじゃあの黒髪の彼だけだろうさ」
「二人いるわよ」
「さっきの彼だ」
シンのことであった。
「もう一人もそろそろこの域かな」
「噂じゃね」
「さて、それでだ」
彼はキラを見る。
「少年、見せてもらおうか」
「えっ」
「君の答えを。戦いで!」
その口にビームサーベルを持ち突撃を仕掛けてきた。稲妻の様な速さでストライクに突進する。
「答えを出さなければ死ぬのは君だ!」
「クッ!」
「さあどうする!?答えを出すかそれとも」
バルトフェルドはキラに問う。
「死か!」
「僕の答えはもう出ています」
キラはバルトフェルドに対して言う。
「それは・・・・・・!」
言おうとした。だがそれよりも前に。
種が水面に落ちその瞬間に弾け飛ぶ。そしてキラの目から色がなくなった。
「!!」
「何だ、今のは」
カガリはキラの異変に気付いた。
「あいつ、今・・・・・・」
ストライクの動きが一変した。見えないまでになる。
ビームサーベルを振るう。それが終わった時。バルトフェルドのラゴゥの動きは止まっていた。
「見事だ少年」
「バルトフェルドさん・・・・・・」
ラゴゥは致命傷を受けていた。あちらこちらでショートと発火がはじまっていた。
「君の答え、確かに受け取った」
「これが答え・・・・・・」
「そうだ、いいパイロットになれるぞ」
「・・・・・・・・・」
「アイシャ、君には済まないな」
「いいって言ったでしょ、アンディ」
だがアイシャはそれには構わなかった。
「貴方と一緒なら」
「アイシャ・・・・・・」
「アンディ・・・・・・」
二人は爆発に包まれた。それで全ては終わりだった。
砂漠の虎は戦場を去った。キラはそれを呆然と眺めていた。
「これが僕の答え・・・・・・」
自分では受け入れられない。だが受け入れなければならない。そのことに苦いものを感じずにはいられなかった。
北アフリカでのザフトとの戦いは終わった。これにより連邦軍はこの地域を奪還しロンド=ベルはジブラルタルのザフト軍基地へ向かうことになった。それ等の情報はもうプラント上層部にも入っていた。
「北アフリカがなくなりましたな」
「うむ」
シーゲルはパトリックの言葉に頷いていた。
「そして今度はジブラルタルです」
「あそこを失えば欧州とアフリカを失う」
「地球における我々の拠点はカーペンタリアだけとなります」
「講和と我等の独立がまた遠のくか」
「やはりここはあの作戦を発動させるしかないでしょうな」
パトリックはここで言った。
「オペレーション=スピットブレイクを」
「あれをか」
「はい、それで連邦に打撃を与えそれで講和に持ち込むのです」
「そう上手くいくか」
「いかせなければ。連邦政府との全面戦争ですぞ」
プラントと連邦の国力差なぞ口にするのさえ馬鹿馬鹿しいレベルであった。そもそもコーディネイターの人口自体が限られている。ザフト軍もティターンズやネオ=ジオンと比べてごく僅かだ。所詮限られているのだ。シーゲルもパトリックも流石にそれをよく認識していたのだ。
「そうなれば」
「スピットブレイクにあの機体は間に合うのか」
「ジャスティス以外は」
「そうか」
「デスティニーのパイロットはもう決定しております」
「誰だ?それは」
「シン=アスカ」
パトリックはそのパイロットの名を口にした。
「レジェンドにはレイ=ザ=バレルを考えています」
「彼等をか」
「はい、彼等をスピットブレイクに参加させ」
「勝つのだな」
「同時にティターンズとネオ=ジオンにも我等の力を見せつけられましょう」
「どういえばネオ=ジオンもまた地球に来ていたな」
「インド北方に」
「難しいところだな、全く」
「だからこそ我々は全てを見誤ってはならないのだ」
パトリックの口調が急に変わった。
「違うか、シーゲル」
「それは確かにそうだが」
「はっきり言っておこう、私が強硬路線を言う」
「そして私が穏健路線を提唱する」
「それでバランスを取るのだ。いいな」
「危ういバランスだな」
「うむ」
二人は共に深刻な顔になった。
「だが。今を乗り切らなければ」
「プラントにもコーディネイターにも未来はないか」
「そうだ。まさか無制限戦争をするわけにもいくまい」
「連邦政府だけでなくティターンズやネオ=ジオンもいる」
「そしてミケーネや異星人も」
彼等の敵は一つではないのだ。
「私としてはスピットブレイク辺りで講和に踏み出せればいいと思うのだが」
「その辺りが妥当か」
「どうだ?」
「スピットブレイクを成功させてそれで連邦政府にプラントの独立を容認させる」
「問題はないと思うが」
「そうだな。だが」
「だが!?」
パトリックはシーゲルの言葉に眉を動かさせた。
「それにはプラント内の穏健派と強硬派のバランスがよくとれていなければ」
「私と御前がというわけか」
「そうだ」
シーゲルはパトリックを見据えて答えた。
「私も御前もプラントの為にそれぞれの路線を採っている」
「うむ」
「だからこそバランスが取れている。しかしそのバランスが崩れたならば」
「穏健派に傾けばプラントはティターンズ達に付け込まれ蹂躙されかねない」
「強硬派ならば連邦政府と無制限戦争だろう」
語るパトリックとシーゲルの言葉には何の希望的観測もなかった。あくまで冷徹に事実を見据えているだけだった。
「どちらにしろ厄介なことになる」
「そうだ。だからこそ」
「まずはスピットブレイクを成功させる」
それが絶対条件だった。
「いいな」
「わかった。ではデスティニーを」
「実戦に送り込む。彼に賭ける」
「彼に全てを!?」
「いや、おそらくデスティニーだけでは駄目だ」
パトリックは述べた。
「投入できるだけの全ての新型ガンダムを投入したい」
「わかった。では」
「やるぞ、シーゲル」
パトリックの言葉が強いものになった。その目もまた強い光を放っていた。
「プラントの為に」
彼等はプラントの為に動いていた。だがそうではない者達もいた。
「スピットブレイクの後だが」
暗闇の中で何者かが話をしていた。
「彼には消えてもらおう」
「やはり」
「そして彼を最後の最後で」
「というわけなのですね」
「そうだ」
中央にいる白服の男が答えた。
「全てはそう進めていく」
「成程」
「それならば問題はありません」
「誰も我々の存在には気付いていないしな」
「はい」
「だからこそ」
彼等は闇の中で話を続けていた。
「所詮は俗物」
「そうなるべきかと」
「全ては順調だ」
白服の男はまた言った。
「何もかもな」
「ふふふふふ」
「ははははははははははは」
闇の中に不気味な哄笑が響き渡った。それはまるで世界の滅亡を望む魔界の住人達の笑い声のようであった。

第百十二話完

2006・9・3  
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