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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第百十三話 シンとステラ

                第百十三話 シンとステラ
「そうですか、二人は無事でしたか」
「はい」
ラクスは自室のテレビ電話で盲目の黒髪の男と話をしていた。
「ただバルトフェルド殿はかなりの重傷ですが」
「大丈夫なのですか!?」
「御命は何とか。ただ、片目と片腕、片脚が」
「そうなのですか」
バルトフェルドの負傷を聞きラクスは顔を暗くさせた。
「ですが御命はあります。すぐに復帰できるでしょう」
「それは何よりです」
「そしてダコスタさんですが」
「はい」
話は続く。
「今カーペンタリアに入られ、そこからプラントに戻られます。すぐにそちらに向かわれるかと」
「わかりました。ではダコスタさんともお話を」
「そうされると宜しいかと」
「はい。そして」
「そして!?」
「あのことは何かわかりましたか?」
「いえ、まだ」
盲目の男の返事はラクスが期待したものではなかった。
「ですが存在するのは確かです」
「やはり」
「それはプラントの中にあまりにも深く入り込んでいます。プラントで彼等を排除するのは難しいでしょう」
「ではどうやって」
「プラントの外から除くしかありません」
マルキオは述べた。
「それ以外に有効な手立ては」
「プラントの外から」
「ラクス様」
男はあらためてラクスに声をかけた。
「いざとなれば一先プラントを離れられてもいいと思います」
「プラントを!?」
「そうです、そして外から彼等を除くのです」
「ですがそれは」
「さもなければプラントも地球もありません」
迷うラクスに男の声が強くなる。
「我々の目指す世界もまたありません」
「我々の世界が」
「はい、この世界が崩壊すれば」
彼は言う。
「何もありません」
「では動くしかないのですね」
「そうです」
男はまた言った。
「ですからその時にも備えて下さい。宜しいですね」
「わかりました。ところで」
「ところで?」
「外に出てもどなたと御一緒すれば宜しいでしょうか」
「御一緒といいますと」
「私達だけでは力は限られているでしょう」
「はい」
男もそれはわかっているようであった。
「ですから。御一緒させて頂く方々を」
「ロンド=ベルですね」
「ロンド=ベル」
その名はラクスもよく知っていた。一時的に彼等と共にもいたのだから。
「彼等ならば信頼出来ます」
「そうなのですか」
「はい、彼等なら」
男は言う。
「きっとラクス様に協力してくれるものと思います」
「そうですか、では」
「力はもう持っておられますか?」
「三人のパイロット達と一隻の戦艦を」
「おお」
男はそれを聞いて笑みを浮かべた。
「もう用意しております」
「それは何よりです。ですが」
「はい、彼等の力が必要です」
「出来るならばザフトのエース達を」
「ディアッカ=エルスマン、イザーク=ジュール、ニコル=アマルフィ、ハイネ=ヴェステンフルス」
「ミゲル=アイマン、シホ=ハーネンフース、ルナマリア=ホーク」
いずれもザフトきってのエース達である。
「そして私の同志達であるジャック=ライアン、エルフィ=バートン」
ラクスはさらに言った。
「四人のSEEDを持つ者」
「私の同志であるフィリス=サイフォンとアスラン=ザラ、シン=アスカ」
「そしてキラ=ヤマト」
「彼等の協力もまた不可欠です」
「皆来てくれるでしょうか」
ラクスはそれに不安を覚えた。
「それだけの方々が」
「運命が導いてくれるでしょう」
男は言った。
「彼等もまた」
「キラ殿の協力を得る為にもやはりロンド=ベルですか」
「そうです」
男は頷いた。
「彼等の力あってこそ」
「そうですね」
「ただ、もう一人欲しいのですが」
「レイ=ザ=バレルですか」
「彼は何か引っ掛かるものがあります」
「そうですね」
ラクスはそれに応えた。
「あの方には私も妙なものを感じます」
「例えているなら彼に似ています」
「はい」
ラクスは頷く。
「同じものを」
「彼の協力を得られないでしょうか」
「難しいかも知れません」
男は答えた。
「そんな気がします」
「そうですか」
「ただ、どちらにしろ我々も動かなければなりません」
「今から」
「まだ表に出ることはありませんが今から備えておきましょう」
「ですね」
「未来の為に」
「はい、未来の為に」
二人は話を終えた。そして電話を切った。
「自由と正義」
ラクスはそれからまた呟いた。
「運命と伝説。全ては人の未来の為に」
そこには歌姫としてのラクスはいなかった。天を司る女神がそこにいた。
その目は。キラのそれと同じものであった。
「なあ」
バルトフェルドとの戦いの後で落ち込むキラにバサラが話し掛けていた。二人は今キラの部屋にいた。
「あのおっさんを殺しちまったこと、悔やんでるのか?」
「・・・・・・はい」
キラはベッドの上に腰掛けていた。がくりと頭を項垂れている。
「そうか、やっぱりな」
「殺したくなんかなかったのに・・・・・・」
キラは項垂れたまま呟く。
「それなのにどうして・・・・・・」
「気持ちはわかるさ」
バサラはそんなキラに対して言った。
「戦争なんてな。馬鹿馬鹿しいもんさ」
「だったらバサラさんはどうして」
「俺か!?俺は戦いを終わらせる為にここにいるんだ」
「ロンド=ベルに」
「そうさ、俺の歌でな」
彼は言う。
「俺の歌で戦いを終わらせてやるんだよ。戦いより歌だ」
「歌で・・・・・・」
「ああ、どいつもこいつも下らねえことは止めてな。俺の歌を聴くんだ」
「バサラさんの歌を」
「聴くか?今なら新曲を聴けるぜ」
「よかったら」
「おう、じゃあ早速はじめるか!」
バサラはギターをかなではじめた。
「おめえにだけ特別だ!」
「僕の為に」
「俺の歌で!弱気なんか吹き飛ばせ!それに安心しな」
「安心って」
「あの旦那なら生きてるぜ」
バサラは言った。
「だから安心しやがれ!」
「だといいですけど」
「俺にはわかるんだよ!勘でな!」
「勘って」
「何もかもわかるんだよ!だからウジウジするな!いいな!」
「は、はい!」
「わかったならいい。じゃあ聴け!」
命令であった。これがバサラのスタイルだ。
「俺の歌をな!」
聴いてもらうのではない、何があっても聴かせる。今はそれがキラの心を癒すのであった。
「バサラも考えてるんだ」
それを聴いたミレーヌがぽつりと言った。
「あんなに馬鹿なのに」
「あいつはあいつなりにいつも考えているんだ」
それに応えてレイが言う。
「戦争のことも仲間のこともな」
「自分の歌のことだけしか考えていないように思えるけれど」
「ああした奴だけれどな。それでもだ」
「そうかな」
そう言われても今一つ実感が湧かない。
「本当に何も考えてないっぽいけれど」
「いや、あいつは仲間思いだ」
金竜も言う。
「何かと仲間のことをあれこれと考えているんだ」
「大尉もそう思うんですか?」
「そうさ、レイと同じだ」
「ふうん」
「ミレーヌちゃんと同じ位な」
「そりゃ私だってキラさんには元気になって欲しいですよ」
彼女にとっては最初からコーディネイターなぞどうでもいい話だった。
「大切な仲間なんですから」
「優しいのね、ミレーヌは」
ミリアがそれを聞いて言った。
「彼のこともちゃんと考えて」
「だから仲間なんですから」
それがミレーヌのキラに対する考えであった。
「やっぱり助け合わないと。そうでしょ」
「それにまた戦いですしね」
ガムリンが述べた。
「戦力としては彼の存在は非常に有り難いです」
「そうだな」
金竜がそれに頷く。
「もう立派なエースパイロットだ」
「フラガ大尉と一緒に。頼りになる存在です」
もうロンド=ベルにとってキラはなくてはならない存在の一つとなっていたのだ。それを皆無意識のうちに認めていたのである。
「ですからここは」
「立ち直ってもらわないとな」
ドッカーが言った。
「困りますね」
そしてフィジカも。
「そういえばあの砂漠の虎だけど」
「どうしたんですか?」
ガムリンは今度は柿崎に顔を向けた。
「生きているって話だな」
「生きてるんですか!?彼」
「どうもそうらしいぜ。あの赤い犬マシンのコクピットが開いていたらしい」
「そうだったんですか」
「生きてりゃまた会えるだろうな」
「敵としてでしょうね、やっぱり」
「まあそれでも死んでるよりましさ」
柿崎の言葉は実にロンド=ベル的なものであった。
「生きてる方がな」
「まあそうですけど」
そしてガムリンもまたロンド=ベルになっていた。
「出来れば味方として会いたいですが」
「おいおい、それは幾ら何でも無茶だぞ」
金竜がそれに突っ込みを入れる。
「俺達とザフトは交戦中なんだからな」
「それはわかってますけど」
「だが敵ながら見事な奴なのは確かだ」
金竜もそれは認めた。
「あんないい奴はそうそういないな」
「ですね」
「また会うのを楽しみにしておこう」
最後に不敵に笑った。そして一同バサラの歌を聴きに行った。後に残るのは誰もいなかった。ただマクロスの艦橋では未沙がどうにも困った顔をしていた。
「キラ君が立ち直ってくれるのはいいけれど」
「バサラ君の暴走が心配なのかしら」
「ええ、いつものことだから」
さしもの未沙もバサラだけはどうしようもないのだ。
「また騒ぐんじゃないかと思って」
「だったら学習室にでも入れてみたら」
「一回やったわよ」
「あら」
「ナデシコの艦橋でゲリラライブやった時に。幾ら何でも無茶苦茶だったから」
「戦艦の艦橋でライブというのも凄いわね」
これには流石のクローディアも苦笑いを浮かべた。
「だから入れたのだけれど」
「効果は?」
「わかるでしょ」
説明は不要であった。
「学習室の中でもライブしていたわよ」
「彼らしいと言えば彼らしいわね」
「それでも何かある度に注意はしているけれど」
「それでも駄目と」
「あんな子ははじめてよ」
何故か生活指導の先生のようになっていた。
「あんなに何をするかわからないのは」
「確かにね。ロンド=ベルは元々問題児の集まりだけれど」
「ええ」
「あんな破天荒な子は私も見たことがないわ」
「クローディア君がそんなことを言うとはな」
グローバルは艦長の椅子からその話を面白そうに聞いていた。
「やはり彼は何かと厄介なのか」
「そりゃ未沙でも手を焼いてるんですから」
「ははは」
「私の手には負えませんね」
「だがその位でないとな」
グローバルは笑って言う。
「これから先はやっていけない」
「これから我が軍はジブラルタルへ向かいます」
シャニーがそれに応える。
「既に向こうでは迎撃態勢を整えているようです」
「敵も必死というわけか」
「ジブラルタルは要衝ですから」
未沙はもう軍人の顔になっていた。
「彼等も退くつもりはないでしょう」
「では激戦になるな」
「はい、北アフリカの残存戦力の一部も合流していますし」
「彼等もか」
「その中にはあのインパルスガンダムもいます」
「シン=アスカ」
「はい、彼の能力はキラ=ヤマト少尉に匹敵します」
未沙はクールな声で述べた。
「その彼もまたいます」
「彼はどうもヤマト少尉に並々ならぬ敵意があるようだが」
「はい」
「それは何故かな」
「裏切ったと思っているようです」
「コーディネイターをか」
「ええ。それで彼を憎んでいるものと」
「複雑だな、そこは」
グローバルはそれを聞いて呟いた。
「ヤマト少尉にもヤマト少尉の考えがあるだろうに」
「それはそうですが」
「どちらにしろまた激しい戦いになるな」
それは事実だった。
「だがジブラルタルを陥落させれば地中海が戻る」
「ええ」
「そして北極にいるティターンズとも戦える。ここが正念場だな」
彼等はジブラルタルに向かっていた。ザフトもそれを受け警戒態勢を強めていた。
「やれやれだな」
その中シンはバイクでジブラルタルを見回っていた。
「ここは異常なしか」
ザフトは人手が足りない。だから赤服の彼もこうして巡回に回っているのだ。
「それじゃあ次は」
別の場所に向かおうとする。海辺は何もなかった。
「!?」
だがここで突然物音がした。
「一体」
それは歌声だった。鴎の鳴き声に混じって清らかな声が聴こえてくる。
「女の子の声だ。どうしてここに」
誰が歌っているのか気になった。すると。
「えっ!?」
誰かが海の中に落ちた。有り得ない光景である。
「な、何なんだ!?」
落ちたのは女の子であるらしい。海の中でバシャバシャともがいている。
「しかも泳げないのかよ!」
悪いことは重なる。
「こんなことしていちゃまずい!仕方ない!」
バイクから降りて海の中に入る。そして女の子を救いに向かう。
「おい、君!」
「海、海・・・・・・」
「海じゃない!」
その少女に対して叫ぶ。
「泳げないなら早く出るんだ!さもないと」
「海の中、気持ちいい・・・・・・」
「そんな問題じゃないだろ!さあ早く!」
何とか岸辺に連れ出す。もう水びたしであった。
「全く、何でこんなこと」
シンは軍服の濡れ方の酷さにも辟易しながら言う。
「海水ってのは後で面倒らしいのに」
「面倒なの?」
「君の場合はそれどころじゃなかったな」
少女に顔を向けて言う。
「俺がここにいなかったら死んでたぞ、君」
「死ぬ・・・・・・」
その言葉を聞いた少女の態度が一変した。
「死ぬ、ステラ・・・・・・」
「おい、君」
少女の異変にシンも気付いた。
「一体何が」
「あ、いや・・・・・・」
「どうしたんだよ、一体」
「死ぬのは、嫌」
「だったらもう二度とこんなことは」
「嫌ああぁぁぁぁぁぁーーーーーーーっ!」
「お、おい!」
暴れてまた海に駆け出す。シンはそんな彼女を慌てて追う。
「死ぬの、恐い!撃たれたら死ぬ!」
「だから待てって!」
「死ぬの恐いから、だから」
「ああ、わかった」
シンは少女を必死に抱き締めながら応える。
「君は死なないから」
「死なない?」
その言葉を聞いた少女の動きが止まった。
「ああ、俺が守るから。だから」
彼は言う。
「君は死なないよ。だから安心してくれ、いいね」
「うん・・・・・・」
それで少女の動きは止まった。そして二人は物陰で服を乾かしはじめた。
「まずはこれをって・・・・・・うわっ」
「どうしたの?」
毛布を手渡そうとしていたシンの前に現われたのはショーツだけの少女だった。色はライトグリーンだ。
「も、毛布・・・・・・」
「うん」
少女はこくりと頷いてそれを受け取る。
「そのままだと風邪引くからさ」
「有り難う」
そして毛布を渡す。シンはズボンは履いていた。トランクスも濡れたままだったので気持ち悪いがそれは我慢して乾かしていたのである。
「寒くない?」
「うん」
少女は毛布にくるまって答えた。背中合わせに座っている。
「温かい」
「そう、よかった」
シンはそれを聞いてとりあえずは安心した。
「救援を呼んだから。もうすぐ人が来るよ」
「人が」
「ここはもうすぐ戦争になるからね。安全な場所まで避難するといいよ」
「わかった」
少女はその言葉にこくりと頷く。
「じゃあ」
「ところでさ」
シンは別の質問をした。
「君、名前は」
「ステラ」
少女は名乗った。
「ステラ=ルーシェ」
「そうか、ステラっていうんだ」
「うん」
「そういえばさ」
シンはまたステラに尋ねる。
「僕達前に会ったことあったっけ?」
「知らない」
それに対するステラの返事は素っ気無いものであった。
「ステラ知らない」
「そうか、覚えてないかい。どうだったかな」
「貴方、名前は?」
今度はステラがシンに尋ねてきた。
「僕の名前?」
「うん。何ていうの?」
「シン」
シンはそれに応えて名乗った。
「シン!?」
「そう、シン=アスカっていうんだ。ザフトのパイロットなんだ」
「そうなの。パイロット」
ステラはそれを聞いて僅かに反応を示した。
「ステラと同じ」
「同じって!?」
この言葉にシンも気付いた。
「どういうこと!?まさか君も」
「おおい」
だがここで誰かの声がした。
「そこにいるのか、ステラ」
「アウル!?」
青い髪の男が洞窟の入り口にいた。
「こんなところで何してたんだよ」
「泳いでた」
ステラはその入り口にいる少年アウルに答えた。
「泳いでたって!?」
「うん、シンと一緒に」
「何かよくわからねえけどいいや」
とりあえずアウルは納得することにした。
「無事なんだな」
「うん」
「おいスティング」
「いたんだな、そっちに」
「ああ」
もう一人の少年がやって来た。
「こっちだ。ってあれ!?」
ここでアウルはシンに気付いた。
「一緒ってそういえば」
「あっ、別に怪しい者じゃありません」
シンはアウルに応えた。
「俺はザフトのパイロットです。名前はシン=アスカ」
立ち上がってアウルとスティングに言う。
「彼女を保護していました」
「ふうん、保護ねえ」
アウルはそれを聞いて何か言いたげな顔になった。
「本当にそうだったらいいけれど」
「おい、アウル」
スティングがシニカルな言葉を口にする彼を窘めた。
「どうやら別に悪意はないらしい。止めておけ」
「そうか。悪いな」
「いや、いいよ。ところで彼女は君達の家族か何かかい?」
「まあそんなところだ」
スティングがそれに答えた。
「ずっと一緒なんだ」
「そうか。じゃあ彼女はそちらに引き渡すな」
「ああ、是非そうしてくれ」
スティングが応対を続ける。
「ずっと探してたんだ。何処に行ったのか心配していたんだ」
「じゃあよかった。これで見つかったからね」
「ああ。済まないなザフトの赤服さん」
「いや、いいよ」
シンは微笑を浮かべてそれに返す。
「これも何かの縁だったし」
「そうか。じゃあステラ」
スティングはステラに声をかける。
「一緒に帰ろうな」
「うん、スティング」
ステラは彼の言葉に頷く。
「ステラ一緒に帰る」
「わかった、じゃあな」
「有り難うな、軍人さん」
アウルがシンに礼を述べる。
「疑ったりしたのに親切にしてもらって」
「だからそれはいいさ」
シンは笑みでそれに返す。
「俺だって妹がいるし。プラントに」
「へえ、お兄ちゃんってわけか」
「あんた達もそうなんじゃないのか?」
「まあそこは複雑なんでね」
スティングは少し苦笑いを浮かべていた。
「色々と事情があるんだ」
「そうなのか」
「まあそこは言わないからそっちも突っ込まないでくれよ」
「わかってるさ。それじゃあここはもうすぐ危なくなるから」
「ああ、下がらせてもらうぜ」
「そうしてくれ。じゃあまた」
「ああ、またね」
「元気でな、ザフトの軍人さん」
「そちらこそな」
「シン、また会おうね」
シンと三人は心地よい別れの言葉を交あわせて別れた。シンは彼等と分かれると基地に戻った。スティング達はそんな彼を見送っていた。もうすぐ夕暮れから夜になろうとしていた。
「あまり悪い奴じゃなさそうだな」
「ああ」
スティングはアウルの言葉に応えた。
「ザフトだけれどな」
「むしろ俺達ティターンズの中にいる奴の方がな」
「まあそれは言うなよ」
微かに笑ってアウルに言葉を向ける。
「言っても仕方ないさ」
「そうか」
「シン、いい人」
「ああ、そうだな」
スティングはステラにも言葉を返す。
「少なくとも悪い奴じゃないな」
「ステラ、シン好きになった」
「わかった。じゃあ帰るか」
「うん」
「ロウとイライジャも待ってるしな」
彼等はその場から姿を消した。翌朝。ジブラルタル対岸にロンド=ベルが姿を現わした。
「さて、と」
ヘンケンが対岸の敵の基地を見ながら一言声をあげた。
「ここからだな、問題は」
「よし、正面突破だ!」
ケルナグールがいきなり言い出す。
「一気に要塞も何もかも踏み潰せ!」
「馬鹿者!そんなことができたらとっくの昔にジブラルタルは陥落しておるわ!」
カットナルがすぐに突っ込みを入れる。
「ジブラルタルだぞ!そう簡単に陥落するか!」
「ではどうするのじゃ」
「ここは知略を使うべきだな」
ブンドルが言った。
「知略じゃと」
「そうだ。右に迂回してマラガ方面に上陸してそこから攻撃を仕掛ける」
ブンドルの作戦はこうであった。
「敵の攻撃をかいくぐりそこから一気に攻撃を仕掛ける。それこそが」
薔薇を携えた。
「美しい・・・・・・」
「だそうじゃ」
「これでどうじゃ、皆の衆」
「どうじゃと言われても」
マリューがいつものやり取りにいつもの様に呆然としていた。
「いきなり言われても」
「ですが中々いい作戦です」
「マドモアゼル=ナタルはわかってくれているみたいだな」
「はい、正面から攻めても海中で戦闘が可能なマシンが少ない我々には不利です。ましてや敵は正面に主力を配置しております」
ナタルな真面目にブンドルに返す。
「その状況で攻撃を仕掛けるのは無謀です。やはり東のマラガ方面にまず上陸するのが妥当であります」
「そうか。なら」
シナプスがそれに頷く。
「ではそれで行こう。全軍移動だ」
「了解」
「バルキリー隊及び空中での行動が可能なマシンは先に出ろ。海中からの敵はゲッター等で対処しろ」
「わかりました」
「じゃあ行くぜ!」
マシンを次々と出撃させながら移動をはじめる。そこにザフトからの迎撃が来る。
「まだ序の口らしいな」
マックスが彼等の数が思ったより少ないのを見て言う。
「やはり主力はジブラルタル防衛か」
「マックス、それでも油断は出来ないわよ」
「わかってるさ、ミリア」
そうミリアに返す。
「だから後ろは頼むよ」
「ええ」
バルキリー隊が主力になりザフトの迎撃を退ける。そしてジブラルタル東岸に上陸した。
「よし、全軍発進!」
残りのモビルスーツ達を出す。そのまま一直線にジブラルタルへ向かう。
「ロンド=ベル来ます!」
「よし、全軍を挙げて迎撃せよ!」
ザフトも既に用意を整えていた。それでロンド=ベルへ攻撃を仕掛ける。
両軍はジブラルタル手前で激突した。その先頭にはやはりキラとシンがいた。
「ストライク、また会ったな!」
「あのインパルスのパイロット!」
二人はビームサーベルで斬り結び合う。
「こっちにいたのか!」
「ここで御前を倒す為にな!」
相変わらずキラに激しい敵意をぶつけている。
「裏切り者!覚悟しろ!」
「僕は裏切ってなんかいない!」
「嘘をつけ!コーディネイターなのに連邦にいる!それが何よりの証拠だ!」
「違う!」
キラは叫ぶ。
「コーディネイターとかナチュラルとかじゃないんだ!僕は皆を守るだけだ!」
「その皆はコーディネイターじゃないっていうのか!」
「コーディネイターだけじゃないんだ!」
キラは言う。
「皆同じなんだ!だから守るんだ!」
「じゃあそれを俺に見せてみろ!」
シンは叫ぶ。
「御前の守りたいものをな!」
二人はそのまま激しい戦いに入る。その横では両軍が激戦に突入していた。
「いいか、動きを合わせるんだ!」
「了解、隊長!」
〇八小隊はシローの指示の下見事な連携を見せていた。
「まずはあの小隊を・・・・・・」
「いけえーーーーーーーーーっ!」
まずはサンダースがミサイルを派手に放つ。それが最初の一撃となった。
「今度はあたし達が!」
「俺だって!」
カレンとミゲルがマシンを変形させて飛ぶ。サンダースのパラス=アテネのミサイルでダメージを受けている敵に左右から海蛇と拡散メガ粒子砲で攻撃を浴びせる。
「最後は俺だ!」
シローが止めに一斉攻撃を浴びせる。それで敵の小隊は一機残らず撃墜された。
「クッ、ナチュラルめ!」
ザフト軍のパイロット達はその攻撃を見て舌打ちする。
「やってくれる!」
「そのまま先へ進め!」
シナプスが全軍に指示を下す。
「正面の敵戦力を減らしながらだ!的確に進め!」
「了解!」
キラがシンを足止めする形になりその間に他の者達が前へ進んでいく。それを見たザフト軍の司令官はシンを下がらせることにした。
「アスカ、下がれ!」
「俺はまだ!」
「違う!戦局を見ろ!」
「ヌッ!」
シンはその言葉に我に返った。
「このままだと君が敵に取り囲まれるぞ」
「糞っ」
「だからだ、いいな」
「わかった。ストライク!」
下がる時にキラを見据える。
「貴様との戦いは後だ!いいな!」
そう言い残して下がっていく。それを見てロンド=ベルの面々も言わずにはいられなかった。
「またえらく激しい奴だな」
ショウがまず言った。
「よく言えば一本気だけれど」
マーベルがそれに続く。
「かっての私のようだ。ヤマト少尉ばかりを追ってな」
「俺にも似てるな。そんな感じだ」
「けどトッドよりまだ激しいみたいだね」
「ああ」
トッドはキーンの言葉に頷いた。
「ありゃ下手したら道を踏み外すな」
「道を」
ショウはそれを聞いてふと呟く。
「そうさ。ああした奴ってのは他のことが目に入らないからな」
トッドはショウにも言った。
「俺もそうなりかけたしな。やばいぜ、あれ」
「彼からは強烈な憎悪のオーラを感じます」
シーラもシンに言及する。
「何かを守ろうとする意志も強いのですがそれと同じ位ヤマト少尉に対する憎しみが」
「憎しみ、ですか」
「はい、敵意を越えて」
「何故だ、面識もないのね」
「敵ならば憎い」
バーンがショウに応える。
「彼はそれが強いのだろうな」
「そうなのか」
「だとしてもあれはちょっと桁違いってやつだぜ」
ムウがそこに入る。
「坊主でもそれを受けるのが精一杯な程なんだからな」
「一直線にキラに憎悪を向けているな」
ニーが言う。
「強烈なまでに」
「坊主にしたらたまったものじゃないだろうな」
「ああ」
「それに対してどうしていくか。坊主だけじゃなくあいつも大事になっていくだろうな」
ムウは何処か大局を見ていた。そのうえで話をするのであった。
「これからか」
「ああ、何かあいつが気になるんだ」
ムウはまた言った。
「いずれ深く関わるんじゃないかってな」
「何でだろうね」
チャムがそれに首を傾げる。
「さてな。俺にも詳しいところはわからねえが」
「さて、その間にだ」
トッドが一同に声をかける。
「何かジブラルタルの方が面白くなってきたぜ」
「新手か!?」
「いえ、違います」
ウェルナーが答える。
「これは・・・・・・ティターンズです」
「ティターンズ!?」
「北極から来たのか」
「どうやら潜水艦ではるばる来たみたいだね」
万丈はすぐにそう分析してみせてきた。
「今欧州の戦力もかなりミケーネに振り分けられているし残りはティターンズの正面に向けられているから」
「そこを衝かれたというわけですね」
「多分ね。イギリスとアイスランドの警戒網の境を潜り抜けてきたんじゃないかな」
ダンに答える。
「クッ、やる」
「敵もそれだけ必死ということさ」
クリューガーにも答える。
「けれど数はそんなに多くはないだろうね」
「数は」
「精々数個部隊ってところじゃないかな。それで攪乱の奇襲だろうね」
「そのものズバリだね」
ライトがここで言った。
「あっ、やっぱり」
「プラントの前でやりあった連中だな、これは」
彼はマギーからの報告を受けながら述べる。
「あの三機のガンダムにガンダムに似た量産型」
「ええと、確か」
タップがそれを聞いて言う。
「ストラップダガーだったっけ」
「ストライクダガーだ」
ナタルがそれを訂正する。
「あっ、そうそれだ」
「そうそれだではない」
彼女は軽い調子のタップを嗜める。
「敵の兵器の名前位覚えておけ」
「御免御免」
「反省の色が見られん」
「まあ中尉殿」
そこにベンが入る。
「今は戦闘中ですし」
「ムッ、そうか」
「それでニューマン少尉」
「はいよ」
ベンに話を振られて明るい声で返す。
「ストライクダガーは何機ですか?」
「二機、いや三機か」
ライトはマギーを見ながら言う。
「一機は三機のガンダムの上にいてもう一機はその側にいるな」
「ふむ」
「そして最後の一機は待機か。何かそこに訳のわからねえモビルスーツが三機いるぜ」
「新型機ですか!?」
「そうらしいが。何だこりゃ」
ライトはその三機を調べながら言う。
「ガンダムに近いみたいだがやけに凶悪な装備みたいだな」
「凶悪な装備!?」
ケーンがそれを聞いて顔を向ける。
「どんなのだ、そりゃ」
「何ていうかなあ。あっ、最初の三機はそのままジブラルタルに向かって行ってるぞ」
「どうしますか、艦長」
ナタルがそれを聞いてマリューに問う。
「ティターンズも来ていますが」
「彼等も敵よ」
マリューの返事は簡潔であった。
「どちらにしても倒さないと」
「それでは」
「このままティターンズのその部隊にも攻撃を仕掛けます」
マリューは指示を下した。
「そしてジブラルタルを目指します。いいですね」
「了解!」
「わかりました」
ムウとキラがそれに応える。
「んじゃあこのまま前に突っ込むぜ!」
ケーンがまず前に出る。
「ドラグナーだ!当たると痛えぞおっ!」
「参るっ」
それにマイヨも続く。
「おっと、俺達もな」
「遅れちゃ出番が減るからな」
「大尉殿、我等も!」
「後ろはお任せ下さい!」
タップ、ライト、プラクティーズの面々もそれに続く。ナタルはそんな彼等を少し呆然として見ていた。
「速い・・・・・・」
「流石と言うべきかしら」
「だってドラグナーですから」
マリューは感心していた。するとそこでモニターにユリカが出て来た。
「バジルール中尉?」
「いえ、今のは私の言葉ではありません」
ナタルはマリューに答えた。
「この声は」
「はい、私です」
ユリカは天真爛漫な様子でそれに返す。
「それでドラグナーですが」
「は、はい」
ナタルはユリカを見てどうにも動揺を隠せないでいた。
「彼等なら任せてもいいですよ。ドドーーーーンと」
「ドドーーーーンとですか」
「そうなんですよ。特にケーン君とギガノスの蒼き鷹」
「プラート大尉ですか」
「はい、二人はすっごいですから。任せちゃって下さい」
「はあ」
「彼等だけじゃありませんし」
「そうなのですか」
「いや、本当にあの二人凄いですよ」
ここでカズイが報告する。
「もうジブラルタルに接近しています」
「何だとっ」
「敵の防衛ラインを次々に突破して。こりゃ凄いや」
「伊達に今までの戦いを生き抜いてはいないってことね」
マリューはその報告を聞いて呟いた。
「見事ね」
「そのお見事ついでに言いますけど」
「ええ」
ユリカにも応える。
「皆すっごいですから」
「まあそれはわかってるつもりだけれど」
「エステバリスだってそうですし。特にアキトなんか」
「アキトっていうと」
「エステバリスに乗っているテンカワ=アキト君です」
ナタルが言う。
「ブラックサレナの」
「あっ、そうだったわね」
「何かバジルールの反応普段より速くないか?」
「そういえばそうね」
今の反応を見てサイとミリアリアが囁き合う。
「やっぱりミスマル艦長と声が似ているからかな」
「そうかもね」
「こ、声の話はいい」
ナタルはそんな二人に顔を少し赤らめさせて言う。
「ケーニヒ二等兵」
「は、はい」
話に入っていなかったトールに突然声をかける。トールもそれに反応する。
「進路の報告は」
「このまままっすぐです」
すぐに報告した。
「それでジブラルタルです」
「よし、艦長それでいいですね」
「え、ええ」
突然ナタルが報告をしたのに応える。
「よし、進路そのまま。敵はイーゲルシュテルンとバリアントで撃退していくぞ」
「了解、進路そのまま」
トールが応える。
「行きます!」
「よし!」
「じゃあ私達も」
ユリカもアークエンジェルに続く。
「行っちゃいます」
「了解です」
ユリがそれに応える。
「では進路このままで」
「はい」
ナデシコはナデシコで見事な動きを見せていた。そのまま一直線に進んで行く。
ロンド=ベルは今まさにジブラルタルに突入しようとしていた。ザフトの防衛ラインは最後のそれも突破されようとしている。だがそこにザフトきってのエースの姿はなかった。
「クッ、このガンダム!」
シンは今ティターンズの三機のガンダムと剣を交えていた。
「手強い!それも三機も!」
インパルス一機てガイア、カオス、アビスの三機を相手にしていた。これは幾ら何でも無茶であった。
だが彼以外にこの三機を相手に出来る者はいなかった。他の者はロンド=ベルの相手で手が一杯だったのだ。
「今はそれどころじゃないのに」
彼もまたジブラルタルが今危険な状況にあるのはわかっていた。もう突入されるのは時間の問題だった。
「こんなところで」
「あのインパルス、かなり強いな」
それを見て三機のガンダムの指揮を執るロウが言った。彼は少し離れた場所から戦いを見て三人に指示を出しているのである。
「あいつ等纏めて相手にして持っていやがる」
「どうする?俺が行くか?」
ここでモニターにサングラスの男が出て来た。
「こっちの三人はすぐに出せるぞ」
「いや、いい」
ロウはそれを断った。
「あの三人だって伊達にいじくられてるわけじゃねえ。そうはやられねえさ」
「そうか」
「こっちにはイライジャもいるしな。イライジャ」
「ああ」
青いアストレイブルーフレームに乗るイライジャが応えた。なおロウはレッドフレームである。
「いざとなったら頼むぜ」
「わかった。だがあのインパルスのパイロット」
「どうした!?」
「只のコーディネイターじゃないな」
イライジャはそれを見抜いていた。
「あれだけの動きをする奴はコーディネイターでもそうはいない」
「わかるのか」
「何となくな」
彼は答える。
「ここで厄介払いしたいがそれは無理か」22
「どうする?」
「ここは俺達で止めるしかないみたいだな」
「わかった。叢雲」
「ああ」
あのサングラスの男がそれに応えた。
「あんたが行ってくれるか。ここは俺達で食い止める」
「わかった。では行く」
「頼むぜ。こいつ思ったより強いからよ」
「了解、では行くぞ」
「よし、やっと出番か」
その男叢雲劾が乗っていたのはイライジャと同じタイプであった。だがこちらはセカンドになっている。所謂改造型である。
「待ってたんだよね、この時を」
「・・・・・・潰す」
三機の異形のガンダムが彼の側にいた。それに乗り込む三人の少年達は狂気を感じさせる笑みを浮かべていた。
「行くぞ」
劾はその三人に声をかけた。
「いいな」
そして三人を連れて動き出す。ロウはそれを見送ってからイライジャに言った。
「あの三人はスティング達とはまた違うんだったよな」
「ああ、元々はアズラエル理事の方で研究されていた」
「そうか、じゃあこいつ等とはまた違うんだな」
「そういうことになる」
「どっちにしろむかつく話だがな」
ここでロウの顔が歪んだ。
「強化人間なんてよ」
「ロウ」
「わかってるさ、それは」
窘めるイライジャに言葉を返す。
「俺達の仕事はこれだってな。けどな」
それでも彼は言う。
「俺はこいつ等が好きになってきたんだ。兵器扱いで使い捨てはしたくはねえ」
「ああ」
「何とかしてえんだがな」
「難しいな。ジブリール副理事はコーディネイター、そしてブルーコスモスの理念に反する者は全て消そうと考えてるからな」
「それでブルーコスモス、ロゴスまで割ってティターンズに入ったんだからな」
「彼は純粋だ」
それはイライジャも認めた。
「だが。それは即ち」
視野が狭いということでもある。純粋だからよいとは限らないのだ。
「原理主義者ってのは厄介だな、おい」
ロウはあからさまに不満を述べる。
「自分達が絶対の正義だって信じてるんだからな」
「それはお互い様だがな」
ロウに比べてイライジャは冷静にものを感じていた。
「敵もそうした輩はいる。そして」
「戦うってわけか。何でもしてよ」
「そうだ」
「こいつ等は孤児でそれで拾われて」
今戦っているステラ達を見て言う。
「それでそのまま死んでいくのかよ」
「何とかしたいのか?」
「当たり前だろ」
言葉にさらに感情がこもっていた。
「あいつ等は人間なんだよ」
「人間か」
「道具なんかじゃねえ。だからよ」
「御前の考えはわかった。だが」
「だが。何だよ」
「今はこいつ等が生きる為に戦わなくちゃいけないんだ。それはわかるな」
「ああ」
苦い顔だが頷くしかなかった。
「わかってるぜ。まずはこの作戦だな」
「そうだ」
イライジャは言う。
「だからこそ」
「おい」
ロウはそれを受けて三人に指示を飛ばす。
「囲め!そして追っ払え!いいな!」
「追っ払うんですか?」
「撃墜するんじゃ」
「撃墜してもいい!だからやれ!」
彼はスティングとアウルにそう返す。
「おめえ等がやられないようにな!いいな!」
「了解!ステラ!」
スティングがステラに声をかける。
「そいつの後ろに回れ!いいな」
「わかった」
ステラは感情のない声でそれに頷く。
「それじゃあ」
後ろに回り込もうとする。だがそれにシンがすぐに反応を見せた。
「わかってるんだよ!」
後ろに回ろうとするステラにサーベルを振りかざす。
「その程度!」
「チッ、いい腕してるぜ!」
アウルがそれを見て悪態をつく。
「ロウ!こいつやっぱり半端じゃない!」
「わかってる、イライジャ!」
「ああ!」
ロウがイライジャに声をかけると彼もそれに応えた。
「俺達も行くぜ!」
「よし!」
彼等もシンに向かう。シンは五機を相手に戦うことになった。
「くっ、これだと流石に」
シンでも無理だった。すぐに後ろに大きく下がる。そこでまた通信が入った。
「大変なことになったぞ!」
「どうしたんですか、今度は」
シンはその通信に応える。
「ジブラルタルが・・・・・・陥ちる」
「えっ!?」
「ロンド=ベルが突入した」
「もうですか」
「そして謎の三機のガンダムも後方から攻撃を仕掛けてきた。それでもう」
「じゃあどうすれば」
「撤退する。君も下がれ」
「撤退ですか」
「そうだ、ジブラルタルは放棄する」
通信からの声はそう言っていた。
「わかったな」
「・・・・・・はい」
こうなっては止むを得なかった。シンはロウ達の前から姿を消した。とりあえず彼等の前から敵は消え去ったのであった。
「行ったか」
「どうやら劾達が上手くやってくれているみたいだな」
「そうだな。それでどうする?」
ロウはイライジャに問う。
「下がるか?もう」
「あっちはどうなってる?」
「そろそろ時間だろう」
「そうあ、じゃあここは下がろう。退路を確保してな」
「ああ。御前等、一旦集まれ」
ステラ達に声をかける。
「とりあえず戦闘は終わったからよ」
「了解」
「わかったよ、ロウ」
「うん」
三人はそれに応える。そしてロウの周りに集結するのだった。
ジブラルタルは放棄されることが決定していた。ザフトの将兵達は次々とシャトルに乗り込んでいく。
「人員を優先させろ!」
「余分なモビルスーツや兵器は置いていけ!」
指示が飛ぶ。
「宇宙に出る!いいな!」
「は、はい!」
「そしてそこからプラントに帰る!それまで生き残れ!」
「わかりました!」
シャトルに次々と乗り込み宇宙に帰っていく。もうティターンズの三機の異形のガンダムの姿はなくロンド=ベルが前に迫ろうとしているだけであった。だがそれが難敵であったのだ。
「ここは通さない!」
シンはインパルスで友軍の撤退を援護していた。
「皆を逃がす為だ!」
「おい、またあのガンダムかよ!」
ムウはそのインパルスの姿を確認して言う。
「厄介なのが通せんぼしてるぜ、おい!」
「じゃあ僕が!」
キラが出ようとする。しかしそれよりも前に出ている者がいた。
「いや、ここは俺が行くぜ」
「オデロ君」
「任せてくれよ。俺だって結構ガンダムは知ってるんだからな」
V1ヘキサを駆って前に出る。
「こうやってな!」
その場で遠距離射撃を仕掛ける。だがそれはあえなくかわされてしまった。
「そんな攻撃で俺が!」
「チッ、いい動きしてるぜ!」
「あのパイロットは尋常じゃないな、やっぱり」
それを見てトマーシュが言う。
「キラ、やっぱり頼めるか?」
「僕だね」
「何かいつもあいつの相手ばかりさせて悪いけれどな」
「いや、いいよ」
キラはそれにこう返した。
「僕だって皆には色々助けてもらってるし」
「じゃあ頼むぞ」
「俺達はその間に他の奴等の相手するからな」
「うん、了解」
「よし!」
三機のガンダムはそれぞれ散る。そしてキラはインパルスに向かう。
「また御前か!」
シンは彼のストライクに顔を向けて叫ぶ。
「何度も何度も俺の前に!」
「僕だって戦う理由があるんだ!」
キラも言う。
「その為に君を!」
「倒すとでも言うのか!」
「ウッ!」
その言葉には一瞬詰まる。
「俺を!やれるものならやってみろ!」
こころなしか何かが変わろうとしていた。
「ここは通さない!皆の為にも!」
彼もまた変わった。種が水面に落ちる。そして弾けた。
「通すものか!」
「なっ!」
シンの目が赤くなり表情がなくなる。そしてその動きが一変した。
「誰であっても!ここは通さない!」
「なっ、この動き!」
キラは突然はじまったシンの壮絶な攻撃に戸惑いを見せた。
ビームが乱射される。それは全て的確にキラを狙っている。それをかわすので精一杯だった。
「一体何が・・・・・・」
「皆を守るんだ!その為には御前を倒す!」
「これはまさか僕と同じ・・・・・・」
「おい、坊主!」
そこにムウがやって来る。
「フラガさん!」
「今のそいつはやばいぞ!一人では無理だ!」
「ですが!」
「無理はするな!皆いるんだからな!」
「皆・・・・・・」
これまでのことと今のシンの言葉がキラの心の中で絡み合いシンクロする。それが彼に不思議な効果を示した。
「そうだ、わかるな」
「はい・・・・・・」
それに素直に頷くことが出来た。
「わかったら下がれ。俺が援護する」
「わかりました」
「逃げるのか、ストライク!」
シンは撤退しようとするキラを見て叫ぶ。相変わらず攻撃を続けている。
「逃げるな!そして行かせるか!」
シンは周りのロンド=ベルの面々にも攻撃を仕掛けてきた。最早無差別であった。
「シャトルには行かせない!何があっても!」
「くっ、あのガンダム!」
攻撃を何とかかわしたジュンコが苦い顔を浮かべる。
「強い・・・・・・けれどそれだけじゃない!」
「何、あのとんでもない動き」
マーベットの目には常識を越えた機動を見せるインパルスがいた。それはもう機体の限界を越えていた。
「あんな動きが出来るなんて」
「ニュータイプ!?いや違う」
セシリーはそれを見て言う。
「もっと別の。あれは」
「どちらにしろ今の彼は危険だ」
ブライトもシンを見ていた。そのうえで判断を下した。
「積極的に前に出るな。最早趨勢は決した」
「ザフトを行かせるんですね?」
「そうだ、基地はもう我々の手に落ちた。そしてダメージも充分与えたしな」
エマに答える。
「今は満足すべきだ。積極的に出るところじゃない」
「わかりました。では」
「ちぇっ、何か面白くねえなあ」
甲児はブライトの言葉を聞いてぼやく。
「派手に大暴れできると思ったのによ」
「甲児はいつもじゃない」
マリアが彼に突っ込みを入れる。
「マジンカイザーで大暴れしてるでしょ」
「それが醍醐味ってやつなんだよ」
彼はそれに応えて言う。
「マジンガーもマジンカイザーもその為にあるんだからよ」
「そうだったっけ」
「そうだよ。この基地だってな」
「こらこら甲児君、この基地はこれからも使うんだぞ」
「大介さん」
大介がいつものように彼を窘めてきた。
「ジブラルタル基地は要地だ。だから大切に扱わないとな」
「そっか」
「ミケーネの時とは違う。それを弁えてくれよ」
鉄也も言う。
「派手に暴れるのはいいがな」
「了解。大介さんと鉄也さんに言われたら仕方ないな」
「けれど何で甲児がマジンガーチームのリーダーなんだろ」
マリアはここでそれを少し不思議に思う。
「どう見ても兄さんがリーダーなのに」
「まあ最初だからじゃないの?」
さやかがそれに答える。
「甲児君が」
「それだけの理由?」
「多分ね」
「そんなのでいいのかしら」
「少なくとも問題にはなってないわよ」
確かにその通りだ。マジンガーチームは甲児をリーダーとしていても問題は起こっていない。むしろかなり連携のとれたチームとして評価が高い。大介が長男的役割だとしてもだ。
「甲児君でも」
「そうね。じゃあいいか」
「何か俺って大概な言われ方だな」
二人のそんな話を聞いて言う。
「どうしたもんだよ」
「それがリーダーの人徳ってことじゃないかしら」
「そうかも」
ジュンとひかるが参戦する。
「何だかんだで頼りにしてるのよ、皆」
「リーダーとしてね」
「まあそれだったらいいか」
根は単純なのでそれで納得しだしていた。
「ここは落ち着いて、と」
「しかしあのガンダム」
ドモンはシンを見据えて言う。
「何処までも激しい闘志だ。あの闘志は見事だ」
「確かにね」
アレンビーもそれに頷く。
「ザフトにも人はいるということか」
「ザフトにも素手でモビルスーツ破壊する人がいるってこと?」
プルはその言葉を聞いてふと漏らす。
「だとすればコーディネイターは化け物なのか!?」
プルツーもまた疑問を抱く。
「そんなことをして」
「いや、多分出来ないと思うよ」
だがそれは当のコーディネイターから否定の言葉が返って来た。
「とりあえず人間には」
「そうなの」
「だがBF団やマスターアジアはやっていたぞ」
「・・・・・・あの人達は特別だから」
コーディネイターと異常能力者はまた全く違うのだ。
「ええと、確かあのビッグファイアって人超能力なら何でも使えたんだったよね」
「うん」
「そうらしいな」
「コーディネイターはそんなの使えないし」
彼は言う。
「そういう人達とは違うから」
逆説的だがそうした者達と自分を比べてキラも何となくコーディネイターというもののことがわかるのだ。
「そうなの」
「そうさ」
「じゃああまり大した違いはないんだな」
「そうだね、素手で使徒を倒せたらそれこそ兵器なんて要らないから」
「凱さんも無理かしら」
「無理だな」
レトラーデの問いに答える。
「俺は確かに単独でも戦えるがな」
「ええ」
「だがそれでも限度がある。そんなことは不可能だ」
「やっぱり」
「サイボーグって言っても限度があるんだよ」
ルネも言う。
「そんな常識外れのことは幾ら何でも無理だよ」
「そうですよね」
「じゃああのマスターアジアとかは一体」
霧生も流石に考え込む。
「あたしにはわかるわ、人間じゃないのよ」
すっかりマスターアジア評論家になっているアスカが言う。
「BF団は異次元かどっかから来たのよ」
「それってとんでもないことなんじゃ?」
シルビーはそれを聞いて呟く。
「異次元からなんて」
「じゃなきゃあんなこと出来ないわよ。指パッチンしただけで何でも真っ二つなのよ」
「格好いいわね」
レイがそれを聞いて言う。
「得体の知れない蟲になったり鐘出して変なことしたり仙術使ったり八節棍使ったりとか」
「私もそうなりたいわ」
「そんなのが普通の人間とは思えないわよ。あれは怪物なのよ」
「素敵な方々ね。敵だけれど」
「レイちゃんはそうじゃないみたいだけれど」
「・・・・・・タイプなんでしょ」
もうレイには言うことはなかった。
「ああした変態能力者が」
「随分な言いようだな、おい」
「そうかしら」
フォッカーに言われてもそれを変えない。
「とにかく二度と会いたくはないわよ、ドイツ忍者とか」
「そんなこと言ったら出て来るよ、あの人」
「えっ」
「だってここヨーロッパだし。ドイツがあるから」
シンジは注意するように言う。
「気を着けないと。会いたくないんだったら」
「そ、そうね」
「アスカにも天敵がいるのか」
マサトはそれを見て意外そうだった。
「それがマスターアジアやシュバルツ=ブルーダーだったんだ」
「まあ当然って言えば当然だけれど」
ミレーヌがそれに応える。
「あれはやっぱりね」
「メルトランディにもいなかったわ」
「言っておくがゼントラーディにもな。いないぞ」
ミリアとカムジンがすぐに言う。
「やっぱり」
「まあとにかく出て来ないのはいいことよ」
アスカは気を取り直してそう述べた。
「ジブラルタルもそうすぐ終わりだしね」
「よし、アスカ!」
最後のシャトルが今発進しようとしていた。シンがロンド=ベルをその鬼神の様な攻撃で止めている間に撤退を完了させていたのだ。
「このシャトルに乗れ!そして宇宙に出るぞ!」
「はい、ストライク!」
やはり最後にキラを見る。
「次だ!次には貴様を倒す!いいな!」
そう言うと舞い上がりシャトルに乗り移る。そして宇宙へと去って行ったのである。
「行ったわね」
セイラがそのシャトルを見て呟く。
「彼は宇宙へ」
「全く、物騒な奴だぜ」
カイは悪態をつく。これが如何にも昔の彼らしい。
「おかげでジブラルタルのザフトはかなりの数が逃げちまったぜ」
「だがそれは仕方ないな」
リュウはそんなカイに言う。
「あれだけの攻撃だったんだ。下手をすればこっちが損害を受けていた」
「そうですね」
それにハヤトが頷く。
「あの攻撃は。一機のモビルスーツのものではありませんでした」
「何て言うんだ?バーサーカーか」
スレッガーが応える。
「そんな感じだったな」
「バーサーカー」
その言葉を聞いたキラが呟く。
「まさか・・・・・・僕と同じ?」
「どういうことだ、そりゃ」
ムウがそれに問う。
「同じって」
「いえ」
だがそれはすぐに打ち消した。
「そんなわけないです。気のせいです」
「そうか。何のことかわからないが」
ムウはそれ以上聞こうとはしなかった。
「じゃあいいさ。それよりな」
「はい」
「基地を掌握していこうぜ。それで捕虜は後方に送る。いいな」
「捕虜ですか」
「殺しちまう、なんてのは流儀じゃねえだろ?」
「そんなことは」
キラに出来ることではない。コーディネイターやそうした問題ではなくだ。
「俺達は三輪長官とは違う。捕虜もきちんと扱わないとな」
「当然じゃないんですか?それって」
「けどそうじゃない人もいるってことさ」
そうキラに教える。
「それも覚えておくといい」
「・・・・・・酷いですね」
「そうした酷いのが上司にいるとな。たまらないぜ、これがまた」
三輪についてはもう言うまでもない。おかげで部下達がかなり苦労しているのだ。岡やイゴールの苦労が偲ばれる。その非道さはコーディネイター強硬派であるアズラエルですら呆れる程なのだ。
「まあ俺達はそんなことはないようにな」
「わかりました」
キラは頷く。
「じゃあここは常識に沿って」
「はい」
「戦後処理を済ましていこう、いいな」
「了解」
既にロンド=ベルの面々はそれにあたっていた。ジブラルタルの戦いは終わったのだ。だから彼等はそれにあたっていたのである。
「クッ、また発作か・・・・・・」
クルーゼはその時自室にいた。そこで何やら苦しんでいた。
「いつもいつも。こればかりは・・・・・・」
だが机の棚から薬を取り出しそれを飲むとすぐになおった。そして落ち着いたところに扉をノックする音が聞こえた。
「入れ」
入るように言う。するとレイがやって来た。
「・・・・・・君か」
「言いたいことがあってここに来たんだ」
レイは言う。
「ラウ、悪いけれど僕は」
「そうか」
クルーゼはそれを聞いて納得したわけでもなく応えた。仮面からは何の表情も読み取れない。
「ならいい」
「それで僕をどうするんだい?」
レイはクルーゼを見て問う。
「拘禁するのかい?それとも」
「何故そんなことをする必要がある」
クルーゼは口だけで笑ってみせた。
「私が君を害する筈はないだろう」
「じゃあ」
「好きにしたまえ。君の人生だ」
「ラウ・・・・・・」
「ただしこれだけは言っておく」
そのうえで言った。
「私は何があってもやり遂げる」
声は強いものであった。
「それはいいな」
「・・・・・・わかったよ。じゃあ僕は」
「彼が戻って来るぞ」
「シンが」
「そうだ、君の友人がだ」
ジブラルタルのことはもう彼等も知っているのだ。
「また彼と共に戦うことになるだろうな」
「多分」
「君には新型のガンダムが与えられるだろう」
「新型の?」
「そう、彼にもな」
クルーゼはまた言う。
「プラントの新しい剣だ。それが君に与えられる」
「・・・・・・・・・」
「それを使ってプラントを守るもよし、君の好きなように使い給え」
「本当にいいんだね、ラウ」
「若し駄目ならここで君を撃っているさ」
クルーゼはまた笑った。
「違うかね、私自身を」
「いや」
「君はおそらく幸せなのだろう」
クルーゼの声がふと寂しさを含む。
「友人がいてくれてな」
「それは」
「いいさ、今更言ってもはじまらん」
そう言うと後ろの星達に顔を向ける。そこには無限の銀河が拡がっていた。
「ではな、お別れだ」
「うん」
レイは頷いた。
「それじゃあ」
「さらばだ」
レイは敬礼をしてクルーゼの前から姿を消した。クルーゼはそれを見届けた後でまた呟く。
「私もまた悩むか」
思わせぶりな言葉だった。だがそれが向けられているのは果たしてクルーゼ自身なのか。それは彼だけがわかっていることであった。

第百十三話完

2006・9・9  
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