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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第百十一話 強襲、砂漠の虎

              第百十一話 強襲、砂漠の虎
ロンド=ベルは北アフリカに降り立った。そこで無事キラとストライクも回収することが出来た。
「で、どうなのさキラの具合は」
ジュドー達がアークエンジェルに来ていた。そしてミリアリア達に問う。
「さっき寝ついた所よ」
「お医者さんの話じゃ内臓も異常なし。ちょっと熱にやられただけって話だ」
ミリアリアとトールが彼等に説明した。
「確かにストライクには単独で大気圏に突入出来る機能も装備されていたけど」
カミーユはそれを聞いて首を傾げさせる。
「それを訓練も無しに実戦で使用して、しかも成功させるなんて」
「昔のアムロさんみたいですね」
「俺か」
「はい」
カツはアムロに顔を向けて言った。
「何か。そっくりに思えます」
「確かにな」
アムロ自身もそれに頷いた。
「俺もあの時はかなりの無茶をやった。今思うとぞっとするな」
「アムロさんでも」
「普通は出来ることじゃない。だからわかるんだ」
アムロは自身の体験と重ね合わせて述べる。
「それだけのセンスが彼にはある。それに」
「それに?」
「彼の場合コーディネイターであることも理由になるだろうな」
「確かに坊主は適切な操作でストライクを降下させましたが」
マードックがそれを受けて述べる。
「コクピット内の温度は我々では助からないレベルまで上昇していました」
「そんなので大丈夫だなんて」
ビーチャがそれを聞いて言う。
「まるでヒイロ並の頑丈さだね」
「そうだね、本当に」
イーノがモンドの言葉に頷いた。
「だがそれはアムロ中佐やカミーユが言った通りコーディネイターであるが所以だ」
ヒイロがモンド達に応える。
「俺が調べた所ではコーディネイターは遺伝子操作によって死病から解放されているそうだ」
「撃たれりゃ死ぬし熱も出すが、その身体機能でそういったリスクは俺達より遥かに少ないんだとさ」
デュオも言った。
「そうした意味では強化人間に近いな」
ウーヒェイも述べる。
「ふ~ん、人間としてのスペックが違うってわけね」
エルがそれを聞いて腕を組んで頷く。
「そうみたいね。何か」
「まるでファーストみたいじゃない」
ルーとアスカが続けて述べた。
「私はコーディネイターじゃないわ」
(似たような存在のくせに)
アスカは心の中ではそう思ったがそれは否定しなかった。
「ま、性能が違う故に一部のナチュラルはコーディネイターを恐れるのさ」
マードックがまた述べた。
「だからブルーコスモスの強硬派もな。ティターンズへ行ったんだよ」
「その気持ち、少しだけわかるような気がします」
「おいカツ」
カミーユはふと出たカツの言葉に反応を示した。
「御前、一体何を」
「人として基から違うんでしょ。そんな気にもなりますよ」
「だからと言ってそれがコーディネイターを滅ぼす理由になるのか?」
「それは・・・・・・」
「俺達だって同じじゃないのか?ニュータイプだって言われている」
「それはそうですけど」
「それにだ」
「そんなことを言い出したら凱や宙はどうなるんだ?」
ショウもまたカツに問う。
「それにドモン達も。力が違うだけでそうなるのか?」
バイストンウェルと地上、両方を知っているからこその言葉だった。
「リュウセイやサンシロー達も。どうなんだ?」
「あの人達は元は普通の人間なんだ。コーディネイターとは違うよ」
それがカツの言葉だった。彼もニュータイプである為に立場は複雑であった。
「どんな力を持っていても」
「俺達もまあ同じだよな」
「そうですね」
「抗体であってもな」
それを後ろで聞くサブロウタはカントとナッキィに声をかけた。二人もサブロウタと同じ考えだった。エステバリスに乗るのもブレンに乗るのもまた普通の人間では出来ないとされているのだ。
「キラ達だって人間であることに違いはないだろ」
「けど」
カツとカミーユはまだ言い合っていた。
「ならフォウやプル達はどうなるんだ!?」
カミーユは遂にそれにも言及してきた。
「御前は彼女達にも同じことを言うのか!」
「そ、それは!」
「言えないだろ!皆同じなんだ!人間なんだよ!」
能力が違っていても。境遇が違っていても。同じ人間なのだ。カミーユはそう言っているのである。後にこれはキラ自身も思い知らされることになる。
「止めてよ貴方達!」
言い争う彼等にフレイが叫んだ。
「ここには病人がいるのよ!言い争うなら外でして!」
「ご、御免」
カツがフレイに謝る。フレイはそれに構わずさらに言う。
「キラは私が看るわ!皆は出て行って!」
「フ、フレイ」
その剣幕に驚くサイ。アスカはまたしても食ってかかった。
「ちょっとあんた!」
キットフレイを見据えて言う。
「そういう言い方はないでしょ!」
「そうだよ。俺達だってキラのことが心配で」
「いいから、早く出て行って!」
トールも言ったがフレイはそれにも構わなかった。
「話があるなら外でして!」
「どうしたんだ、フレイ」
サイはそのあまりもの剣幕に驚きを隠せない。
「この間から君はキラのことばかり」
「サイ」
フレイはそんなサイに顔を向けて言う。
「貴方とのことはパパが決めたことだけど。そのパパももういないわ」
「えっ!?」
「まだお話だけだったんだし。私達の状況も変わったんだから」
フレイはさらに言う。
「何もそれに縛られることはないと思うの」
「フ、フレイ?」
「えっ、おい」
「あいつ一体何を言ってるんだ?」
突然のことなので誰もが戸惑っていた。だが言葉の意味を理解したアスカはフレイを睨んで言った。
「あの女どういう性格してんの?」
あからさまにフレイを嫌っている目であった。
「とんでもない奴みたいだけれど」
「他人のこと言えなかったりして」
「それどういう意味よっ!」
霧生にも食ってかかる。
「あたしの何処があんな女と!」
「ほらほら、喧嘩してるとまた怒鳴られるぜ」
マードックがそんなアスカを抑える。
「落ち着けって」
「何にもしてない女に文句を言われる筋合いなんてないわよ!」
「!」
フレイはアスカのその言葉に動きを止めた。
「あんた、守ってもらうだけで済むと思ってんじゃないでしょうね!?」
フレイを見据えて言う。
「この前そのキラに随分酷いこと言ったそうじゃないの!それで何!?どういう魂胆があるかわからないけれどね!
「そ、そんなこと!」
その魂胆を見抜かれたように思って戸惑いを見せる。
「だからこうやってキラを!」
「ふうん、コーディネイターがどうとか言っていた癖にね」
アスカはさらに言う。
「どう見てもあんたがコーディネイターに一番偏見を持ってるのよ!それで何!?急に看るだなんて。どう考えてもおかしいでしょ!まさかキラを何かに利用するつもりじゃないでしょうね!」
「そ、そんなこと・・・・・・!」
フレイはアスカのあまりにもきつい言葉に泣きそうな顔になってきた。
「別に、あの時は・・・・・・」
「キラを利用するのならね、唯じゃおかないわよ!その薄汚い心暴いてやるわよ!ここでね!」
「ちょ、ちょっとアスカ」
何か今までの自分を言われているようでカツも気まずくなっていた。そしてアスカを止めようとする。
「幾ら何でもそこまでは」
「病人の前では静かにした方がいいと思うわ」
レイも止めに入った。
「やっぱりね」
「わ、わかってるわよ」
流石にアスカもそれで止まった。少し気弱な感じの顔になる。
「後は私がキラを看るから」
フレイは泣きそうな顔のまま一同に述べる。
「どうやらあたし達は本気でお邪魔みたいね。行きましょ」
「あ、ああ」
「フレイ・・・・・・」
トールは戸惑いながらもアスカに応える。サイはまだ何か考えているようであった。だがそれは言わなかった。
「じゃあ何かあったら声を掛けてくれ」
「はい」
フレイはアムロの言葉に頷く。
「そうだ、この折り紙を坊主に渡しておいてくれ」
「折り紙?」
マードックは折り鶴を懐から取り出してフレイに手渡してきた。
「ああ、ストライクのコックピットの中にあったんだ。頼むぜ」
「わかりました」
マードックも去った。これでフレイはキラと二人きりになった。
キラは横で寝ている。その彼を見て思う。
(駄目よ、私は賭けに勝ったもの)
その目には暗い決意があった。
(キラは戦って戦って戦って・・・・・・死ぬの)
アスカの読みは当たっていた。今彼女は憎悪に全てを支配されていた。その為にはどんなことでもしようと。陰惨な決意がそこにあった。
(でなきゃ許さない。パパを助けてくれなかったキラを許さない)
若しここにシンがいたらどうなっていただろうか。そこまで思わせる程の陰惨な憎悪が今彼女を覆っていたのであった。そしてそれは今誰も見てはいなかった。
「う、うう・・・・・・」
「目が覚めたのね」
目覚めたキラに声をかける。
「ここは?」
「地球よ」
「地球」
「そうよ、アフリカ大陸の砂漠の何処かよ」
「そうか。僕は降下した時には気を失って」
「それでね、キラ」
「何?」
「これ」
ここであの折り鶴をキラに差し出した。熱でもう見る影もなくなっているがそれは確かに折り鶴であった。
「マードックさんに渡してくれって頼まれたの」
「あの娘は」
「南アフリカに降下したみたいよ」
「そう、よかった」
まずはそれに安堵した。だが。
「あの濃い人達が出て来てくれたから」
「けれどあの人達が来てくれなかったら」
ブンドル達に対する感謝よりも自責の念が支配していった。
「僕は守れなかったんだ・・・・・・」
「けれどあの娘達は助かったのよ」
「けど・・・・・・」
それでも責任を果たせなかった。それがキラにとっては何よりも辛かったのだ。
「僕は何もしてあげられなかった」
「自分を責めることはないわ」
わざと優しい言葉をかける。
「貴方は一人じゃないのよ」
「一人じゃ」
「キラ、私がいるわ」
ここでキラの頭を抱き締めた。
「大丈夫。私がいるから」
「フレイ・・・・・・」
「だからそんな顔しないで」
恐ろしいことであった。キラはこの時フレイの顔を見ることが出来ない。この時のフレイの顔を見たならば誰もが凍りついたことであろう。誰であろうとも。
「私の想いが貴方を守るから」
フレイは笑っていた。邪な笑みだった。人を陥れたことに喜びを見出し、それを楽しんでいる笑みであった。そのぞっとする笑みで今キラを見下ろしていた。
「だからね」
「うん・・・・・・」
そのまま何も知らないキラを罠にかけていく。キラはその罠にすら気付かない。そしてキラは。フレイの罠に囚われてしまったのであった。
「まずは民間人が無事で何よりね」
マリューがアークエンジェルのブリッジでこう言っていた。
「一時はどうなることかと思ったけれど」
「ガハハ!いいことをした後は気持ちいい!」
「一日一悪!一日三偽善!一日五善!」
ケルナグールとカットナルもそれに上機嫌であった。アークエンジェルのモニターで叫んでいる。
「力を持つが故にあえて身を挺する。それこそが」
「で、次の言葉は」
「あれだろうね」
「美しい・・・・・・」
薔薇を掲げるブンドル。サイとカズイの言葉は無視している。
「まずは有り難うございます」
「何、些細なことよ」
「彼等にはカットナル製薬会社から医療品を送っておいたしな。勿論無償じゃ」
「それは何よりです」
マリューにとってはこれはいささか意外であった。
「けれど。無償ですか?」
「おう、そうだが」
「わしもフライドチキンをプレゼントしておいたぞ」
「私は服を。私がデザインした最高の服をな」
「へえ」
「人は見かけによらないな、こりゃ」
「こら、そこの金髪!」
ケルナグールはムウの言葉にすぐに反応してきた。
「どういう意味じゃ、それは!」
「だってドクーガって悪の組織だったんだろ」
ムウの言葉はまさに正論であった。
「それが何で無償で援助なんて」
「これも宣伝よ」
カットナルはニヤリと笑ってこう述べた。
「慈善事業は企業イメージをよくする」
「だからわし等は隙を見てはこうしているのよ。それに困っている者を見捨てるのはわし等の性には合わん。それにかみさんに叱られるわ」
「収入を得る時は当然手に入れさせてもらう。だがそれは決して卑怯な手段によってではない」
「成程ね」
ムウはそれを聞いて頷いた。
「そういうことか」
「左様」
「ましてやあそこには子供までいた。見捨てるのは流儀ではないわ」
「これは至極当然のことなのだよ。ムッシュ=ムウ」
「ふうん、それはいいや。ところでさ」
「何だ?」
「今結構やばい状況になってるぜ、俺達」
「そうか?」
「丁度いいと思うが」
彼等とムウの戦争に対する認識には大きな隔たりがあった。
「丁度いいってダカールに降下するつもりだったのに」
「よりにもよってザフトの勢力圏内に降りてしまうとはね」
「ええ」
マリューはミサトの言葉に俯いて溜息をついた。
「困ったわね、また」
「まっ、降りてしまったものはしようがない」
ムウもそれは認めるしかなかった。
「これからどうするか、それを考えようぜ」
「そうね」
マリューはとりあえずそれに頷くことにした。
「それじゃあまずは」
「敵機の反応を確認!」
「えっ」
「いきなり」
「ザフトの地上部隊と思われます!」
「おいおい、随分と手際がいいな!」
「もう来るなんて」
ムウもマリューもこれには少し驚いていた。
「仕方ないわね。十隻もいればね
「目立つってことかしら」
「そういうこと」
ミサトがマリューに答えた。ナタルは二人の会話に少し首を傾げていた。
「困った。アーガイル二等兵と勇君の時と同じだ」
「声が似てるってことですね」
「そういうことだ。それもこれは」
トールの言葉に応える。
「そっくりだ。どちらがどちらか」
「けど中尉とフレイも声似てますよ」
「確かにな」
ミリアリアの言葉に頷く。
「どういうわけか」
「それにしたって早過ぎるな」
ムウは思わず舌打ちしていた。
「こんな仕掛けをしてくるのは馬鹿か名人のどちらかだぜ!」
「砂漠の虎ね、多分」
ミサトが言う。
「彼の軍の場所だし、ここは」
「総員迎撃用意!」
すぐに指示が下る。
「機動部隊には発進命令を!!」
警報が鳴り総員次々と戦場に向かう。その中キラもベッドから起き上がった。
「フレイ、行ってくるよ」
「ええ」
フレイはベッドの中からそれに応えた。
「行ってらっしゃい」
「うん、それじゃあ」
キラはパイロットスーツを着る。その中で呟く。
「もう誰も死なせない。死なせるもんか!」
出撃していく。フレイはその後姿を見送っていた。
「守ってね」
彼女もまた呟いた。
「あいつ等皆やっつけて。アハ、アハハ」
笑う。狂気が露わになった笑みであった。
「アハハハ!アハハハハハハハハハハハ!」
彼女は一人笑っていた。その笑みは。ドス黒い心に覆われた笑みであった。
ロンド=ベルが出撃した時既にザフトは砂漠に布陣していた。戦闘態勢は整っていた。
「いいか、諸君」
数自体は多くはない。ロンド=ベルよりも少ない程だ。その後方には地上戦艦が一隻あった。そこから放送が届く。
「ではこれよりロンド=ベルに対する作戦を開始する」
その艦橋には豊かな頬髯を生やしたブラウンの髪の男がいた。一軍を率いていることからそれなりの歳にいるのであろうが若く見える精悍な顔であった。
「目的は敵艦及び機動部隊の戦力評価だ」
「倒してはいけないということでありますか?」
「ん~、その時はその時だが」
彼は部下の問いに答えた。
「あそこに足つきがいるな
「はい」
「あれはクルーゼ隊が仕留められなかった艦だ」
「あのクルーゼ隊が」
「そうだ。しかも今じゃロンド=ベルまでいるしな」
「ロンド=ベル」
その名を聞いた彼の側に控える若い男が声をあげた。
「連邦軍の中でも最強の部類に入る部隊ですね」
「そうだ、しかも長引けばいつもの彼等が来る可能性もある」
「ですね」
「それを忘れてはならないぞ」
「わかっています」
「では諸君等の無事と健闘を祈る」
ザフトはそのままロンド=ベルに向かう。ロンド=ベルも迎撃態勢を整えていた。
「それにしてもやってくれるわね」
レトラーデが言った。
「どうしたんですか?」
「高台を陰にして接近してくるなんてね。やると思わない?」
「確かに」
マックスはそれに頷く。
「まさかこんなに早くとも思いますし」
「そうね。やっぱり砂漠の虎ってところかしら」
「あの地上戦艦はレセップスか」
フォッカーがザフトの巨大戦艦を見て言う。
「アンドリュー=バルトフェルドの艦だな」
「バルトフェルドってあの」
「そうだ、ザフトのアフリカ方面軍の部隊指揮官」
フォッカーはヒビキの言葉に応えた。
「その用兵術の巧みさと隊の戦闘力から『砂漠の虎』の異名を持つ男だ」
「じゃあかなり手強いってことですね」
「そうだな、数は少ないが」
「おいヒビキ、ネックス、シルビー」
「はい」
ダッカーが自分の小隊のメンバーに声をかけた。
「何かいつもと違う戦闘になりそうだ。気をつけていくか」
「了解です」
既にバルキリーは空に展開していた。アークエンジェルでも今一機の戦闘機が出撃しようとしていた。
「各機の発進準備完了しました」
ミリアリアが報告する。
「フラガ大尉、スカイグラスパーの整備も終わっています!」
「よしきた」
ムウはマードックの言葉に応えた。
「ストライクのパックが換装できる戦闘機か。使わせてもらうぜ」
彼も空に出る。今砂漠の戦いが幕を開けた。
「さて、ダコスタ君」
その砂漠の虎は隣にいるあの副官マーチン=ダコスタに声をかけていた。
「はじまったが」
「ですね」
「何か気分がよくはないかね」
「また新しいコーヒーですか」
「うん、今回も上手くいったよ」
バルトフェルドはその手にコーヒーを持ちながら言った。
「中々ね。ブレンドがいい」
「左様ですか」
「君もどうかね、一杯」
「いえ、隊長のいいという御言葉はコーヒーに関してはあてになりませんので」
「厳しいね、君も」
既に戦いははじまっていた。ロンド=ベルは青い獣型のモビルスーツバクゥを主力とするザフト軍に攻撃を仕掛けていた。
「このっ!」
アムがビームランチャーを放つ。それで一機撃墜したが完全に撃破したわけではなかった。
「あれ、急所は外れたってこと!?」
「どうやら砂漠戦用のモビルスーツらしいな」
ダバがバクゥの動きを見ながら言った。
「砂漠戦用っていうとあれかよ」
イサムが上からそれに応える。
「ジオンの系列のあれ」
「デザートザクだな」
「そう、それだよ」
ネックスの言葉に頷く。
「色が違うだけだから何か間違えるところだったぜ」
「確かにあれってそのままだけれどね」
シルビーがそれを聞いて述べた。
「けれど名前位は覚えてあげないと」
「じゃあ砂ザクか」
「それってまんまじゃないですか」
レトラーデがイサムに突っ込みを入れる。
「で、あのマリンザクは海ザク」
「イサム、もう少し捻ったらどうだ?」
見るに見かねた金竜が忠告する。
「そんなネーミングセンスでは」
「じゃああれは犬ロボってことで」
「そのままよね」
ミリアも呆れているのを隠そうともしなかった。
「何か赤い虎でも出てきそうだけどな」
「冗談はいい加減にしておけ」
キリのいいところでガルドが止めに入ってきた。
「何はともあれ下の敵を倒していくぞ」
「っといきたいところだけどね」
空には空で敵がいたのだ。
「さて、ディンにも頑張ってもらうか」
バルトフェルドはそのモビルスーツディンを眺めながら言った。
「バルキリーも手強いからね」
「ロイ=フォッカーもいますし」
「相手にとって不足はないと言いたいところだけどね」
「そう余裕を見せられる相手でもありませんよ」
「そこが辛いところだねえ」
「それにストライクも出て来ますし」
「おお、遂にか」
アークエンジェルから今ストライクが発進しようとしていた。
「敵は何処なんだ!」
キラはストライクから発進しようとしていた。
「ストライク、発進します!」
「キラ、身体は大丈夫なの!?」
「いいから早くハッチを開けて!」
キラは心配するミリアリアにそう応えた。
「待て、ヤマト少尉!」
ナタルが焦りを見せるキラに対して言った。
「闇雲に出撃しても的になるだけだ!状況を判断しろ!」
「してますよ!」
「なら今は!」
「しているからこうやって出撃するんです!」
「何っ!?」
「どういうことだ!?」
「何かあったみたいだけれど」
ビルギットとアンナマリーがキラの異変に気付いた。
「何かあったのか?あいつ」
「わからない」
クスハはブリットの言葉にも首を傾げるだけであった。
「熱でどうかしちゃったんじゃないの?」
アスカの言葉はやはりきつかった。
「一体どうしたんだろな、全く」
「何かあったのは確かだろうが」
タダナオとオザワにもそれは気付いたがその中まではわからなかった。
「とにかく今は!」
キラはまた言った。
「早くハッチを開けて下さい!」
「艦長!」
「言い様は気に入らないけど」
マリューはナタルの言葉にそう前置きをしたうえで述べた。
「今は戦力は少しでも必要だわ」
「ですか」
「ええ、だからストライク発進させて!」
「カタパルト接続!ランチャーストライクスタンバイ!」
ミリアリアはそれを受けてオペレートを入れる。
「システムオールグリーン!進路クリア!」
発進態勢が整った。もうこれでキラの前には何もない。
「ストライクどうぞ!」
「キラ=ヤマトいきます!」
「!?」
それを遠くから見る一人の少女。彼女もストライクを見ていた。
「あれは」
彼女は目を瞠った。だが今彼女は戦場にはいなかった。
「出て来ました!」
ダコスタが報告する。
「あれが連邦の新型X一〇五ストライクです」
「よし、じゃあ小手調べだ」
バルトフェルドはそれを受けて言った。
「待機中のバクゥを出してくれ。それで反応を見たい」
「はい」
すぐにバクゥが一機出て来た。そして突っ込んできたストライクに攻撃を浴びせる。
それは単なるミサイル攻撃だったがキラはそれをかわすことが出来なかった。直撃を受けた。
「くっ!」
「キラ!」
「キラ君!」
それを見たトールとシンジが声をあげる。
「言わんこっちゃねえぜ、おい」
ケーンがそんな彼を見てぼやく。
「独りで飛び出すから狙い撃ちだぜ」
「けどそんなことを言っている場合じゃないみたいだぜ」
タップが彼に言う。
「あのガンダムまだ地上戦用のOSにデータの換装をしていないようだな」
「それでは動かすだけで精一杯ではないのか?」
マイヨがライトの言葉を聞いて言う。
「ガンダムのことはよくわからないが」
「はい、そうです」
マリューがそのマイヨに答えた。
「ラミアス大尉」
「今のストライクは的と同じです。このままでは」
「危険ということでありますね」
「そうよ、まずったわね」
ダンにそう返す。
「ならばここは我々が!」
「ヤマト少尉、今行くぞ!」
カールとクリューガーが向かおうとする。だがその間もバクゥの攻撃は続く。
「宇宙じゃどうだったか知らないがな!」
そのバクゥに乗るパイロットが言う
「ここじゃバクゥが王者だ!」
「確かにいいモビルスーツだ」
バルトフェルドもまたその戦いを眺めていた。
「パイロットの腕もそう悪くない。しかしだ」
キラの腕も認めたうえで述べる。
「所詮は人型。この砂漠でバクゥには勝てん」
「接地圧が逃げるんなら!」
だがキラはその中で何かをしようとしていた。
「合わせりゃいいんだろう!」
信じられない速さでストライクのキーボードを叩く。
「逃げる圧力を想定し摩擦係数は砂の粒状性をマイナス二十に設定!」
「これで終わりだあっ!」
そこにバクゥが迫る。だが。
「間に合った!」
その時だった。キラの中で何かが弾けた。
種が水面に落ち弾ける。そんな感じだった。今彼の中で何かが起こった。146
「このおおおおおおっ!」
キラは跳んだ。そして真下にいるそのバクゥを撃ち抜いた。
「なっ!」
「う、うわああああああああっ!」
バルトフェルドが驚くその前で今そのバクゥが爆発した。そして炎となり砂漠の砂塵に消え失せていた。
「パイロットは何とか脱出した模様です」
「それは不幸中の幸いだったな」
ザフトは数が少ない。だから一人でも犠牲を少なくしたいのである。
「だがあのストライク」
「はい」
ダコスタは彼の言葉に頷く。
「この短時間に運動プログラムを砂地に対応させるとは」
「あれが本当にナチュラルなのか」
バルトフェルドにはそれがまず疑問であった。
「ニュータイプか強化人間の可能性もあるが」
「どちらにしろ強敵ですね」
「そうだな、噂通り」
「す、凄い!」
「やったぜキラ!」
カズイとトールがキラに喝采を送る。
「一時はどうなるかと思ったけど」
「よかったな、何とか凌いだみたいだ」
ミリアリアとサイも。とりあえずは虎口を脱した。だが。
「おかしいな」
アムロはキラの異変に気付いていた。
「この気持ち、危険だ」
「アムロも感じてるの?」
「クェス」
「私もあの子の心、わかったよ」
「そうなのか」
「うん、何か変な気持ち」
クェスはキラの心を探るようにして言った。
「解放されてそれで元気になってるような。けど」
「そうだな、もう一つ感じる」
二人はここでアークエンジェルの方を見た。
「この邪な気は一体」
「誰のなんだろ」
「アークエンジェルはやらせないぞ!!」
叫ぶキラ。フレイはそれをアークエンジェルから眺めていた。
「ふふ、大丈夫よ」
あの黒い笑みで笑っていた。
「あの子が守るわ。私を守るから」
キラの参戦がそのまま流れを変えた。ロンド=ベルの攻勢は強まりザフト軍は押されだしていた。
「なかなかやるねえ」
バルトフェルドはそんなロンド=ベルの攻撃を見ながら言った。
「噂は伊達じゃないってことか」
「感心している場合ではないと思いますが」
「はああああああああああっ!」
「やっちゃええええええええっ!」
その前ではビルバインが空を駆っていた。その速さ、機動性はディンを遥かに凌いでいた。ダコスタはそのビルバインを見ながら述べたのである。
「あのビルバインに乗っているショウ=ザマもまた」
「聖戦士だったね。こりゃまた厄介な話だ」
「隊長、どうされますか?」
ダコスタはそのうえで述べた。
「このままでは我が軍は」
「よし、最後に浴びせるか」
それから撤退しようとした時に。突如として艦は揺らいだ。
「なっ!?」
「まさかここで」
そのまさかだった。何時の間にかザフト軍の側にジープや装甲車からなる武装勢力が接近していたのだ。今の揺れはそこからの砲撃であった。
「やったぞ!」
ジープの一台にバズーカを抱えた少女が乗っていた。攻撃は彼女によるものであった。
「見事な攻撃だ。だが」
レセップスは健在だった。流石にバズーカで戦艦を撃沈するのは無理があった。
「この程度ではな。沈むわけにはいかないな」
「隊長、どうしますか」
ダコスタが言ってきた。
「ゲリラまで出たとあっては」
「仕方ない。ここは退くか」
バルトフェルドは呆気なくそれを決定した。
「どのみち威力偵察が目的だったしな。これ以上損害を出しても何の意味もない」
「それでは」
「うん、ここは撤退だ」
ザフト軍は異様なまでにあっさりと撤退した。これはロンド=ベルにとっては意外なことであった。
「おいおい、帰っちまったぜあいつ等」
イザムが言う。
「もうかよ」
「おそらく今は決戦の時ではないと判断したんだな」
バニングが退いていくザフト軍を見ていた。
「鮮やかな引き際だな」
「ですね」
アデルがそれに頷く。
「敵とはいえ」
「まあ確かにな」
続いてベイトが頷く。
「砂漠の虎は伊達じゃないってことか」
「へっ、何処となくいけ好かねえがな」
「モンシアさんって何かいつもそうですよね」
「そういえばそうだよなあ」
クリスとバーニィがそれにぼやく。
「気のせいかな」
「うるせえ、余計なことは考えるな」
モンシアはそうクレームを返す。
「人間小さなことにこだわってたら碌なことにならねえぞ」
「了解」
「何かこうしたやり取りもいつもみたいな」
「ロンド=ベルか?」
背の高い逞しい顔立ちと黒く波うった髪の男がモニターに現われた。
「君は一体」
グローバルがそれに応える。
「我々は明けの砂漠の者だ」
「明けの砂漠」
「連邦軍に協力しているレジスタンスだ」
「レジスタンスか」
「なら今の攻撃は」
「そうだ、私がやった」
キムの言葉に応えて黄金色の髪の元気な感じの少女が姿を現わした。
「こうした戦い方もある。だからダカールの連邦軍と協力してやってるんだ」
「そうだったのか」
「しかしまた」
「何だ?」
少女はジロリとムウを見た。
「随分と元気なお嬢ちゃんだな!」
「何っ、お嬢ちゃんだと!」
少女はその言葉にいきなり怒ってきた。
「それが助けられた人間が言う言葉か!」
「お、おいおいまたえらく気も強いな」
「それが私だ!仮にも・・・・・・」
「おっと」
逞しい男が慌てて少女の口を塞いだ。
「とにかく我々は我々のやり方で戦っている。連邦軍からも立場を認められている」
「そうなの」
だが色々と隠している部分もあるようだが。
「モビルスーツがなくても出来る戦い方があるからな」
「そういうことか」
「そうだ。それで彼女は」
「カガリ=ユラだ」
少女は自分から名乗った。
「あんた達ロンド=ベルについても少しは知っている」
「おっ、俺達も有名人だねえ」
「サインの用意もしとかないとな」
「ディナーに備えてタキシードも新調してな」
「ドラグナーの三馬鹿のことはよく聞いているぞ」
「なぬっ!?」
「俺達が三馬鹿」
「そしてギガノスの蒼き鷹。誇り高い戦士のこともな」
「私はそんな大層な存在ではない」
「誇り高い奴こそそう言うものさ」
カガリは不敵に笑ってマイヨにそう述べた。
「そしてお笑い担当は今みたいなことを言うもんだ」
「俺達ってお笑いかよ」
「何かショックだな、おい」
「ってそのまんまじゃない」
アスカがそれに突っ込みを入れる。
「三馬鹿ってのも」
「ちぇっ」
「俺達だってかなり活躍してんのにな」
「災難だね、天才は中々認められないものだけど」
「しかしあんた達の中には素人もいるな」
カガリはまた言った。
「素人!?」
「少なくとも砂漠の戦いだ。どうにも見ていられない」
「そうか!?」
ジュドーがそれには首を傾げさせる。
「僕達砂漠でも結構戦ってますけどね」
「だから殆どの奴はいいんだ」
カガリは言った。
「まあそこは後で話をしたい。そちらに合流していいか?」
「ああ、是非共」
グローバルがそれを受け入れた。
「ここのザフト軍に関する詳しい情報を知りたい。どうぞ来てくれ」
「わかった。それじゃあ」
「今からそちらへ」
明けの砂漠はロンド=ベルに合流することになった。その間アスカはグランガランの格納庫で不満を口にしていた。
「何よ、キラのさっきの態度」
その矛先はキラであった。
「自分だけで戦ってるつもり?」
「でも僕達と歳も変わらないのに凄いと思うよ」
シンジがここでアスカに言う。
「何よ」
アスカはそれを受けてシンジを睨む。
「あんたあいつの肩を持つの?」
「そういうわけじゃないけど」
シンジはそれにはいささか言葉を濁したが言った。
「彼、昔の僕に似ているような気がするんだ」
「何よそれ。自慢?」
「どうして?」
この言葉の意味はシンジにはよくわからなかった。
「あんたもあの子もいきなり実戦へ投入されて結果を出したからよ」
「僕が言いたいのはそれじゃないよ」
「じゃあ何なのよ」
「辛いこととか悲しいこととかた沢山ある筈なのに逃げ出さずに頑張ってるからさ」
シンジは言う。
「それは凄いなって思って」
「そんなの誰だって一緒じゃない」
それでもアスカはどうしてもキラを認められなかった。
「宙さんだって今の自分を受け入れてるし大介さんだって自分の星はもうないのよ」
この部隊には重い境遇の者達が多いのだ。
「凱さんだってそうでしょ。タケルさんなんか」
そしてアスカはどうしてもタケルを庇ってしまう。
「あんな状況なのにまだお兄さんを想ってるのよ。そうした人達だっているのよ」
「うん、それはわかってるけど」
だがそれでもシンジはキラの側に立って考えていた。
「ほら、苦労なんて人それぞれじゃないか」
「まあね」
「それを考えたらさ。彼もやっぱり凄いと思うよ」
「あんたも変わったしね」
アスカはそれを受けてこう述べた。
「結構前向きになったし」
「色々な人達と出会ったから」
シンジはここで微笑んだ。
「今度入ったあのドクーガの人達も」
「あれは色々つっても極端な部類でしょ」
「まあそうだけどね。そうした人達見てきたから変われたんだよ。だから彼もね」
「だといいけれどね」
(シンジ君・・・・・・)
キラはそんなシンジの言葉を離れた場所で聞いていた。そんな彼の細かい気遣いが嬉しかった。だがそこで。思わぬ客がやって来た。
「御前は!?」
「!?」
「御前!」
それはカガリだった。キラの姿を認めて声をあげる。
「あれっ、キラ君と」
「明けの砂漠の女の子じゃない。何なのよ」
「御前、どうしてここに!」
「知り合いなの?あの二人」
カガリの言葉を聞いて言う。
「何か知ってるみたいだけど」
「そうみたいね」
何時の間にかそこに来ていたレイがアスカに応える。
「って綾波何時の間に」
「今来たの。アレンビーさんとトレーニングした後で」
「ってあんた最近本当にあの人達と仲がいいわね」
「素晴らしい人達よ。強いだけじゃなくて心も暖かくて」
「まああんたが誰と付き合おうが構わないけれど」
それでもアスカの心に深く根ざしたガンダムファイターへの拒絶感は拭えるものではなかった。
「あっちはあっちで。何か騒がしいわね」
「Gが奪われた時ヘリオポリスにいた君がどうして」
「御前!御前が何故あんなものに乗っている!?」
「あんなのって」
「五月蝿い!」
いきなり拳を繰り出してきた。それでキラを殴ろうとする。
「うわっ!」
それはキラには容易にかわせるものだった。だが突然のことなので戸惑いを隠せない。
「いきなり何を」
「黙れ!黙れ!」
さらに拳を繰り出す。流石にそれはアスカ達に止められる。
「止めなさいって、あんた」
「こら、離せ!」
「離せと言われて離す馬鹿はいないわよ。一体どうしたのよ」
「何でもない!」
「何もなくて人を殴る人はいないわ」
レイがカガリに言う。
「落ち着いて。何かあったのでしょうけれど」
「何もないって言ってるだろ!」
カガリはムキになって返す。
「だから気にするな!いいな!」
そう言ってアスカの手を振り解いてその場を立ち去る。そして何処かに去って行った。
「何よ、あれ」
アスカはカガリにも反感を覚えた。
「ったく、何か最近碌なのがいないわね」
「だから別にそれは」
「何よ、あんたもそのうちの一人よ」
シンジにも言った。
「全くロクデナシばかり見ていると。まあいいわ」
不満を込めて述べた。
「食堂行きましょ」
「うん、じゃあキラ君も」
「うん」
キラとレイを入れて四人は食堂に向かった。だがそこはそこで騒動が起こっていた。
「何だ、ありゃ」
後ろから声がした。
「食堂で何かあったみたいね」
そこにいたのはジュドー達だった。彼等もグランガランに来ていたようである。
「あれ、あんた達も」
「ちょっとバーンさんと話がしたくてな。来たんだけどよ」
「ふうん」
「ギャブレーさんとどう違うのかな。聞きたくなって」
「似てるのは声だけじゃない」
「まあそうだけど」
「けど何か食堂騒がしいね」
「ええ、どうしたんだ?一体」
エルとビーチャが顔を顰めさせる。
「あの声は・・・・・・サイだね」
「あとは・・・・・・フレイかしら」
モンドとルーが述べる。6
「言い争ってるみたいだよ」
「そうだな。行ってみるか?」
イーノに応えてジュドーが提案する。
「どうする?」
「僕達はどっちにしろ食べに来たんだけれど」
「あんた達も呼ばれる?」
「じゃああたしチョコパフェ」
「あたしもそれがいいな」
「あんた達本当にパフェ好きね」
「アスカだって好きな癖に」
「隠すのはよくないぞ」
「あたしが好きなのはマロンパフェなの」
アスカはムッとしてプルとプルツーに返す。
「あとあのラビアンローズ」
「アスカって意外と甘いもの好きなんだ」
「あんたもでしょ」
キラに返す。
「嫌いなんて言わせないわよ」
「まあそうだけれど」
「私はお肉以外なら」
「男の趣味は筋肉なのにね」
「違うわ」
アスカの言葉は違うと言う。
「ただ。素敵な人が好きなだけ。マスターアジア様みたいな」
「ゲッ、今度は様付け」
どうしてもあのマスターアジアが苦手なアスカにとっては引くに足る言葉であった。顔まで崩れている。
「あんなふうに颯爽とした方なら。いいわ」
「まあ綾波も好きな人ができたってことでさ」
シンジがその口の端を引き攣らせながらフォローする。
「そういうことじゃないかな」
「そのマスターアジアって人本当に凄いんだね」
キラが話を聞いて言う。
「BF団とかの話も聞いてるけど僕よりずっと」
「あの連中完全に人間じゃないから」
アスカがたまりかねて言った。
「そんなのを基準にしない方がいいわよ」
「何かBF団の首領が男の子だって聞いたけれど」
「ああ、ビッグファイアな」
ジュドーがそれに応える。
「銀河破壊出来るパワーがあったらしいな」
「そんなに凄かったんだ」
「まあそっちはそっちでカタがついたんだけどな。えらい騒ぎだったらしいが」
「ほら、ムウさんもBF団に昔自分がいた基地襲われたって言ってたし」
「ああ、マスク=ザ=レッドね」
エルがルーの言葉に応える。
「忍者なんだよね、あれって」
「シュバルツさんとは全然違うらしいな」
モンドとビーチャも言う。
「違うって?」
「要するに変態ってことでしょ」
アスカはイーノの言葉を打ち消すように言った。
「あの連中訳わからない超能力使うから嫌なのよ」
「超能力者」
「そっ、異常能力者。そんなに観てたらねえ」
「正直キラ君がコーディネイターでも」
「だといいけれど」
それでもキラはまだ完全には馴染んではいなかった。
「僕は」
「っておい」
彼等が色々と話している間に食堂での騒ぎは大きくなっていた。
「何か大騒ぎになってるぞ」
「早く行かないと」
「何でこんなに次から次へと騒ぎが起こるのよ」
「アスカが呼び寄せてるんじゃねえのか?」
「ぬゎんですってぇ!?」
ジュドーの言葉にムキになる。だがその間にも騒ぎが大きくなる。
「いけない、早く行かないと」
キラが駆けはじめた。
「二人共一体何を」
そして最初に食堂に入る。そこではサイとフレイが言い争っていた。
「ちょっと待てよフレイ!」
サイがテーブルを挟んでフレイと言い争っていた。
「そんなのじゃわからないよ!」
「うるさいわね!もういい加減にしてちょうだい!」
フレイはサイのその言葉を遮る。
「もういいって言ってるでしょ!」
「おい、何だよそれ。ちょっと待てよ!」
「何の騒ぎだよ、これ」
「あっ、ジュドー」
カズイが彼等に顔を向けた。
「何か喧嘩してっけど」
「簡単には説明できないわよ」
「要するに婚約者だったフレイさんがキラ君にべったりだからサイ君が」
ミリアリアは言おうとしなかったがかわりにカトルが述べた。
「つまり痴話喧嘩ってわけかよ」
ビーチャがそれを聞いてつまらなそうな顔をした。
「何かと思ったら」
「けど。何か危ない雰囲気だよ」
「所詮は状況に流されてここにいる連中だ。奴らにロンド=ベルを名乗る資格はない」
モンドとイーノはそれぞれ溜息をついて心配していたがウーヒェイは彼らしくばっさりと斬り捨てた。それをデュオが突っ込む。
「御前そりゃ言い過ぎだって」
「けどどうしたものかね」
エルが困った顔でぼやく。
「頭冷やさせる?」
「いや、それは止めておいた方がいい」
だがそれはトロワに制止された。
「どうしてだよ。やっぱりここは」
「こうしたトラブルに他の人間が介入してもよい結果にはならない」
「そういうこと!?」
「そうだ。今は時間に解決させる方がいい」
「またえらく悠長ね」
アスカがトロワに突っ込みを入れる。
「そういうものだ。ここは後で二人の話を聞こう」
「待て」
だがそれをヒイロが制止した。
「どうした?」
「残念だがそうもいかなくなった」
キラを見て言う。彼等はキラがここにいることに気付いたのだ。
「キラ、どうしてここに」
「どうしてって」
トールの声にも戸惑うばかりである。
「二人共僕のことで」
「キラ、聞きたいことがあるんだ」
サイはキラに顔を向けてきた。
「御前とフレイのことだけれど」
「じゃあはっきり言うわよ」
フレイはきっとして言った。
「私夕べはキラの部屋にいたわよ!それでいい!?」
「えっ!?」
「なっ!?」
この言葉が食堂を襲った。キラ以外の全ての者が衝撃に襲われた。
「ど、どういうことだよフレイ」
サイは同様を隠せないままフレイに問い掛ける。
「君は・・・・・・」
「どうだっていいでしょ!サイには関係ないわ!!」
「か、関係ないって!それどういうことなんだよ!」
「どうだっていいでしょ!」
「どうだっていいわけないだろ!それどういうことなんだよ!」
「あんたにはわからないわよ!」
「わからないって何なんだよ!一緒にいたって」
「だからそのままよ!何度も言わせないでよ!」
「クッ、キラ!」
キッとしてキラに顔を向けてきた。
「どういうことなんだよ、一体!御前とフレイって」
「それは・・・・・・」
キラは友人に問い詰められて戸惑いを露わにした。
「説明してくれ!どういうことなんだよ!」
「フレイは僕に優しくしてくれたんだ」
キラは泣きそうな声で言った。
「えっ・・・・・・」
皆その言葉には眉を顰めさせた。
「それだけなんだよ」
「それだけって。そんなのじゃ」
「フレイだけなんだ。僕の側にいてくれたの」
声に涙が滲んでいく。
「皆本当はわかってくれていないんだ。僕のこと・・・・・・」
「キラ・・・・・・」
「皆僕がコーディネイターだから本当は色々思ってるんじゃないか!そんな中でフレイは僕に優しくしてくれたんだ!皆そんなこと全然わかってないじゃないか!それで何でそんなこと言うんだよ!」
「ちょっとあんた」
だがそれはアスカに呼び止められた。
「今何て言ったの?」
いつもの口調ではなかった。ドスの効いた声になっていた。
「えっ!?」
「今まであたし達の言ってたこと全然わかってないわね。あんた一人でやってるって思ってるの!?」
「それは・・・・・・」
「はっきり言うわよ。ここにはね、あんたみたいな境遇の人間なんて一杯いるのよ!」
アスカは言う。
「自分一人だったり、欲しくもない力持ってたり、ロクでもない過去があったり!けれど皆頑張って生きてんのよ!」
「アスカ、ちょっと」
「あんただってそうじゃない」
止めようとしたシンジを見据えて言う。
「あんただってずっと一人でそれで気がついたらエヴァに乗ってじゃない。宙さんだって邪魔大王国と戦う為にサイボーグにされて万丈さんだってメガノイドと戦って!」
皆同じなのだ。過酷なのはアスカはこう言っているのである。
「さっき話したBF団と戦ってた大作なんてね!御父さん死んでそれでも必死に戦ってたのよ!その訳わからない非常識な力持ってる連中とロボットでね!まだほんの子供だったのよ!」
「子供が・・・・・・」
「皆あんたと同じ、いえもっと辛い状況だったのよ!あんただけがそんな悲劇の中にいると思ってるんじゃないわよ!」
「アスカに僕の何がわかるんだよ」
「わかるわよ!あたしだって同じなんだから!」
アスカの声が泣きはじめた。
「あたしだってずっと一人だったのよ!ママが壊れて」
「ておい」
ジュドーがアスカの異変に最初に気付いた。
「やばいぞあいつ」
「あ、ああ」
「このままだとあいつ」
皆アスカに目を向ける。そして宥める機会を見ていた。
「それで自殺してずっと一人で・・・・・・そんなのに比べたらあんた何なのよ!」
遂に泣きはじめた。
「あたしだけじゃないわよ!ケン太だって御父さん殺されてタケルさんなんか御兄さんとずっと戦ってそれでも諦めてないのよ!そんなのに比べたらあんたなんかずっと・・・・・・」
「アスカ」
ヒイロが彼女の側にやって来た。
「落ち着け」
「離してよ!あたしだってね、あたしだって」
「・・・・・・・・・」
「うっ」
まだ泣き叫んで言おうとするアスカに当身を加えた。それでアスカは静かになった。
「アスカ・・・・・・」
「今は彼女もそっとしてあげましょう」
レイがヒイロの腕の中で崩れ落ちたアスカを見て言った。
「そして彼も」
「キラ君・・・・・・」
キラは何も言えなくなっていた。ただそこに立ちすくむだけであった。
アスカの言葉が何時までも耳に残っていた。それが彼の心を打つのであった。

第百十一話完

2006・8・25  
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