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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第百一話 小バームの攻防戦

             第百一話 小バームの攻防戦
リヒテルは長い間牢に幽閉されていた。ただその中に蹲っていた。
(余が牢に閉じ込められどれ位の月日が経ったのだろうか)
彼はその中で思った。
(戦いはどうなったのだ?バームは勝利したのか?)
かって軍を率いたものとしてそれが気になって仕方がなかった。
(今はただそれだけが気掛かりだ)
そんなことを考えていると牢の扉が開いた。そして一人の女がやって来た。
「リヒテル様」
「その声は?」
リヒテルはその声に顔をあげた。そこにはライザがいた。
「リヒテル様、牢の衛兵は買収してあります」
「ライザ、無事だったのか」
「はい」
ライザはそれに頷いた。
「私とバルバスも半ば監禁の状態にありましたが総攻撃を前に前線に復帰となりました」
「おお!遂に地球と雌雄を決する時が来たのか!」
「その為この小バームも現在では月軌道上に移動しております」
「何だと!?」
リヒテルはそれを聞いて驚きの声をあげた。
「ここは十億のバームの民が冷凍睡眠装置で眠っているのだぞ!」
彼は叫ぶ。
「その小バームを前線に持ってくるなど、オルバン大元帥は何を考えておられるのだ!?」
「そのオルバン大元帥についてですが」
「うむ」
リヒテルはライザの顔が曇ったのを見逃さなかった。
「良からぬ噂が流れております」
「噂だと?」
「はい。大元帥はバームの民をゼーラのダリウス大帝に売ったと」
「馬鹿な!」
リヒテルはそれをすぐに否定した。
「オルバン大元帥はバームの統治者だぞ!それが何故自らの臣民を」
「噂はそれだけではありません」
ライザの言葉は続く。
「リオン大元帥の暗殺もオルバンの仕業とのことです」
「待て!」
リヒテルはそれを聞きライザを見据える。
「その様な噂一体何処が出所なのだ?」
「市民の間に紛れ込んだ平和解放機構なる者達によるものと思われます」
「平和解放機構だと?」
リヒテルはそれを聞いて目を顰めさせた。
「その様なものが存在するのか」
「はい。連中は私利私欲で戦いを引き起こしたゼーラ及びバームの指導者達を打倒し」
ライザは言う。
「地球側との再度の和平交渉を目的としているのです」
「ライザ、お前までその噂に惑わされているのか!?」
「ですがリヒテル様」
ライザは彼に言う。
「リヒテル様へのこの仕打ち。オルバン大元帥には何か後ろ暗い秘密があるのではと」
「ううむ」
「さらに平和解放機構はこの小バームにて市民を先導し遂には大元帥暗殺を企てました」
「それで大元帥は!?」
「計画はすんでのところで発覚し、メンバーはゲロイヤー参謀の手により全員捕らえられたと聞きます」
「そうか」
「そしてリヒテル様」
ライザの話は続く。
「その首謀者はエリカ様でございます」
「何だと!?」
リヒテルはエリカの名を聞き驚き声をあげる。
「エリカがか!」
「はい、メルビ監察官自身が平和解放機構のリーダーだったのです」
「そうか、エリカめ」
その目には怒りが宿っていた。彼はまだ妹を誤解していたのだ。
「何処まで恥知らずな奴なのだ!」
「リヒテル様」
「うむ」
「機を見て私とバルバスで必ずやリヒテル様をお助けします。それまで今しばらくの辛抱を」
「済まぬライザ」
リヒテルはその言葉とライザの思いやりに礼を言った。
「地球との決戦が近いのだ。余もバームの力となりたい」
「はい」
「そして平和解放機構などと名乗る裏切り者共の目の前で必ずや地球を制圧してみせる。よいなライザ」
ライザ「はい」
ライザはそこまで言うと牢を後にした。牢の出口にはバルバスがいた。
「リヒテル様は御元気だったか?」
「ああ。その英気は衰えてはおられぬ」
ライザは自身が思うことは隠してバルバスにそう述べた。
「そうか。ならいい」
バルバスはそれを聞いてまずは喜んだ。
「案ずることはない、ライザ殿」
バルバスはライザに対してこう述べた。
「部下である我々が武勲を立てればリヒテル様の責も帳消しとなろう」
「そうかな」
だがライザはそれには懐疑的であった。
「私にはもっと深刻なように思えるが」
「どういうことだ、それは」
「それは」
ようやく自分の心の中を言う決心ができた。だがその時であった。
「そこにおられるのは」
「!?」
右手から声がした。二人はそちらに顔を向けた。
「リヒテル提督直下のライザ将軍、バルバス将軍とお見受けしますが」
そこにいたのはバームの兵士であった。深い傷を肩に負っていた。
「だったら何だと言うのだ?」
ライザはその兵士に対して言った。
「見たところ怪しい者だが」
「待たれいライザ殿」
だがバルバスがそれを制止した。
「この兵士は怪我をしている」
「うむ」
「待っておれ、今衛生兵を呼ぶからな」
「いえ」
しかしその兵士はそれを断った。
「そのお気遣いは有り難いですが貴方達に見て頂きたいものがあります」
「我々にか?」
「はい」
その兵士は応えた。
「こちらです。どうぞ」
「どうする、ライザ殿」
「とりあえず行ってみよう」
何かわからなかったが二人はその兵士に案内されて廊下を進んだ。何時しか小バームの最も奥深くに入っていた。
「ここは」
「ここです」
兵士は言った。
「ここに御二人にお見せしたいものがあります」
そこは密室であった。前から何やら怪しいものが見えていた。
「フフフ、心の準備は出来たか?」
「あれは」
二人の目の前にいたのはゲロイヤーであった。左右を暗黒ホラー軍団の兵士達に抑えられている。
「放せ、放してくれ!」
その兵士は必死にもがいていた。
「俺はもう戦いたくないんだ!」
「ええい五月蝿い!」
ゲロイヤーはそんな兵士を怒鳴りつける。
「貴様はダリウス大帝とオルバン大元帥に死ぬまで仕えることになるのだ!」
「何っ」
「ダリウス大帝だと!?」
バルバスとライザはその名を聞いて目を丸くさせた。
「さあダンケル博士」
ゲロイヤーが振り向いた先にはホラー軍団のダンケルがいた。
「こ奴へ処置をお願いします」
「うむ」
ダンケルはそれに頷いた。そして周りの兵士達に対して命じる。
「暗黒鳥人改造装置作動!」
「了解、暗黒鳥人改造装置作動!」
それに従い巨大なマシンが動かされる。哀れな兵士は怪光線を浴び、その中で変質していた。
そしてホラーの暗黒鳥人になっていた。そこにはもうバームの兵士はいなかった。
「よし」
ダンケルはそれを見て満足そうに頷いた。
「八〇三号」
兵士にデスモントが問う。
「この宇宙で最も偉大なる神は誰だ!?」
「それはダリウス大帝様でございます」
「八〇三号」
今度はダンケルが問う。
「御前が生命を懸けて忠誠を誓う神は誰だ!?」
「それはダリウス大帝様でございます」
「よし」
「全ては成功だ」
彼等は高らかに笑っていた。だがそれを見るバルバスとライザは怒りで身体を震わせていた。
「何と!」
「ゲロイヤーめ!バーム星人を暗黒ホラー軍団の暗黒鳥人に改造しているのか!」
「御覧の通りです」
兵士は二人に言った。
「既に貴方達の耳にも入っていると思われますが」
「まさか」
「はい。オルバンがゼーラ星のダリウス大帝にバームを売ったのは事実なのです」
「というと」
バルバスには全てがわかった。
「そなた、例の平和解放機構の者か!?」
「はい」
彼は語ろうとする。しかしそこにホラーの兵士達が来た。
「御前達!そこで何をしている!」
「クッ!」
「しまった!」
「待て、逃がすか!」
基地内に警報音が鳴り響く。彼等はその場から逃げ出す。
「バルバス殿!」
ライザがバルバスに対して叫ぶ。
「ここは私に任せよ!」
「ライザ殿!」
「その男を連れて早く逃げろ!」
「済まぬライザ殿!」
ライザに対して礼を述べる。
「必ず迎えに来るぞ!」
「うむ!」
バルバスは兵士と共に逃げ延びる。バームの中でも異変が起ころうとしていた。
ロンド=ベルは小バームまであと僅かの距離にまで迫っていた。もう視認できる距離である。
「小バームいまだに沈黙を保ったままです」
ルリが報告する。
「おかしいですね」
ユリカがそれを聞き首を傾げさせる。
「いつもだったらもうとっくに」
「うむ」
それにブライトが応える。
「迎撃部隊も出さないとはどういうことだ?」
「小バーム本土で迎え撃つつもりでしょうか?」
「まさかそんなことは」
ピートはユリカにそう言うが確約があるわけではない。
「あるいは罠か」
大文字が呟く。
「どちらにしてもこれはおかしいな」
「はい」
「しかし迷っている時間はない」
シナプスが言った。
「ロンド=ベル各艦全速前進」
指示を出す。
「その後に機動部隊を発進させるぞ」
「了解」
総員既にスタンバっていた。その中には当然一矢もいる。
「生きていてくれ、エリカ」
彼はもうダイモスの中にいた。
「もうすぐ俺が君を助け出す、絶対にな」
「大文字博士!」
ミドリが突然叫びはじめた。
「どうした、ミドリ君」
「小バーム周辺に強力なエネルギー反応です!」
「何っ!?」
小バームのピラミッドの頂点に光が宿った。そしてそこから放たれた光がロンド=ベルの各艦を襲った。
「うわっ!」
「これは!」
各艦それを何とかかわす。だが突然の攻撃に驚きを隠せない。
「何なんだよ、これ!」
勝平が叫ぶ。
「ピラミッドパワーという奴か!?」
「ピラミッドパワー、確かにな」
サコンがピートに応える。
「あの頂点から撃つとはな」
小バームのピラミッドの頂点を見ながら呟いた。
「強力なプラズマ放電による攻撃です!」
シモンが報告する。
「かなりの攻撃力を持っているものと思われます!」
「クッ、迎撃部隊を出していないのはこれか!」
「小癪な真似を!」
「ハハハハハ!地球人め思い知ったか!」
ここで男の声が鳴り響いた。
「この声は!?」
「おそらく敵の指導者だな」
またサコンがピートに応えた。
「何っ、じゃあ」
「間違いありません」
リーの言葉にブンタが応じる。
「あれが小バームの支配者オルバン大元帥!」
「遂にお出ましだな」
一矢と京四郎が言った。
「地球人よ己の無力さをかみ締めながら死ぬがよい!」
彼は勝ち誇っていた。そしてロンド=ベルは近寄ることができなかった。
「どうする!?」
「しかしこのままじゃ」
近寄ることすらままならないのだ。歯噛みするその時だった。
「小バームから、こちらに接近する機体があります!」
「何だと!?」
ミドリから報告があがった。見れば一機のロケットがこちらに来ていた。
「おい貴様」
ロケットの中にはバルバスとあの兵士がいた。バルバスは兵士に声をかけていた。2
「小バームを脱出して何処へ向かうつもりだ!?」
「ロンド=ベルのところです」
「何だと!?」
バルバスはそれを聞いて目を顰めさせた。
「まことか!?」
「はい」
兵士は答えた。
「そこでオルバン打倒を彼らに託します」
「し、しかし」
バルバスはそれを聞いて戸惑いを隠せない。
「地球人は我らバームの敵だぞ」
「バルバス将軍」
だがその兵士言った。
「オルバンはバーム星人でありながらバームを裏切った者です」
「うむ・・・・・・」
一先はそれに頷く。
「同じ様に地球人の中にも卑怯な人間もいれば、正義と平和を愛する者もいます」
「そうなのか」
「私も今まではそれを信じていませんでした。ですがメルビ補佐官と御会いして」
「あの補佐官殿がか」
「あの方は愚かなふりをして実は調べていたのです、オルバンのことを」
「そうだったのか」
「はい、そして見たのです。オルバンの実態、そして地球人の中にも素晴らしい者達がいることを」
「地球人の中にも、か」
「それこそが彼等です。ロンド=ベル」
「あの者達は確かに立派な戦士達だ」
それはバルバスにもわかった。彼は決して敵を認めないような器の小さい男ではない。
「だが」
「将軍、私を信じて下さい」
兵士は強い声で言った。
「そして、バームを」
「わかった」
バルバスはその心を汲んだ。
「では貴様を信じる。それでよいな」
「有り難うございます」
ロケットはロンド=ベルに進んでいく。しかし小バームは彼等にも攻撃を仕掛ける。
「博士、あの機体には平和解放機構の方が乗っているようです!」
ミドリが言う。
「何だと!」
「このままでは撃墜されます!」
「いかん、ピート君!」
大文字はそれを聞いてすぐにピートに声をかける。
「敵の砲撃をかいくぐりあの機体を収容するんだ!」
「了解!」
ピートはすぐにそれに頷いた。
「各員は身体を固定しろ!荒っぽい操縦になるぞ!」
「荒っぽいのは大歓迎だぜ!」
「それが戦いだからな」
甲児と鉄也だけではなかった。皆それに頷いた。
「よし、行くぞ!」
「我々も進め!」
ブライトもそれを見て指示を出す。
「大空魔竜を援護するぞ!」
「はい!」
「今すぐに!」
七隻の戦艦が一斉に動く。小バームの攻撃をかいくぐりロケットに進んでいく。
「よし、もう少しです!」
兵士の前に大空魔竜が見えてきた。
「将軍、もうすぐです!」
「うむ!」
だがそこへ攻撃が来た。ロケットを掠める。
「ウワッ!」
「大丈夫か!」
兵士はさらに負傷した。だがここで大空魔竜が側に来た。
「ロケットを収容しました!」
サコンが報告する。
「よし!各艦この宙域を一時離脱せよ!」
大文字はその報告を聞きすぐに離脱を命じた。それによりロンド=ベルはまずは小バームの前から姿を消したのであった。
「オルバン様」
ゲロイヤーが小バームの司令室で尊大な顔つきの男に恭しく頭を垂れていた。金色の髪に髭を持っている。この男がオルバンである。
「あの機体には例の組織の人間が乗っていたようです」
「放っておくがいい」
だが彼はそれには構わなかった。
「左様ですか」
「そうだ。今更地球人に助けを求めてもこちらには小バームがある」
「確かに」
彼等はロンド=ベルをあまりにも甘く見ていた。
「奴等の戦力ではこの小バームに近づくことさえ不可能だろう」
「左様ですな。それに逃げた奴等の事はこの女からお聞きになればよろしいでしょうし。グフフ」
ゲロイヤーは下卑た笑いと共に後ろを振り向いた。そこには左右から兵士達にその身体を抑えられたライザがいた。
(リヒテル様、申し訳ございません)
ライザは心の中でリヒテルに詫びていた。
(このライザ、リヒテル様とのお約束、果たせぬかも知れません)
今バーム、いやオルバンは勝ち誇っていた。だがそれも束の間のことであるとはこの時彼は知る由もなかった。
「しっかりしろ!」
一矢が兵士の手当てをしていた。
「これ位の傷、すぐに手当てをすれば大丈夫だ!」
「貴方が竜崎一矢さんですね」
兵士は手当てを受けながら一矢に問うた。
「ああ、そうだが」
「そうですか。貴方のことは聞いています」
「俺のことを」
「素晴らしい地球人がいると。聞いております」
「俺が。そんな」
「エリカ様を一途に思われ、エリカ様と地球の為にその命をかけて戦う地球の戦士のことを。聞いております」
「俺のことをか」
「はい、その貴方にお願いがあります・・・・・・ウッ」
「無理はするんじゃない」
傷口を押さえる兵士に対して言った。
「あまり喋ると傷が痛むぞ」
「そうですね。ですが急いで下さい」
「急ぐだと!?」
「はい、オルバンの野望は最終段階に入りました」106
「何だと!」
「そして反抗勢力への見せしめの為にエリカ様達も」
「エリカ!?」
エリカの名を聞いて一矢の顔が一変した。
「はい、間もなく処刑されます」
兵士は答えた。
「このままでは・・・・・・」
「エリカが、エリカが生きているのか!」
だが一矢にとってはそれだけで驚くべきことであった。
「エリカが」
「はい、そして・・・・・・ウグッ」
「もうよい」
まだ話そうとする兵士をバルバスが制止した。
「後は俺が話そう」
「わかりました。ではお願いします」
「うむ、養生するようにな」
兵士は下がった。そしてバルバスが一矢達と対したのであった。
「竜崎一矢、そして地球の戦士達よ」
「あんたはは俺達に協力をお願いするってわけか?」
「そういうことになる」
バルバスは豹馬の言葉に頷いた。
「今まで散々地球を攻撃しといて虫のいい話だぜ」
「からむなよ宙」
サンシローがそれを制止する。
「将軍と呼ばれる男が来たんだ。その覚悟は並大抵ではないはずだ」
「勘違いするな」
しかし彼はそうではなかった。
「俺は貴様達に協力を頼む気などない」
「何!?」
サンシローはその言葉に眉を動かした。
「確かに俺はオルバンの悪事を知った。しかし、だからと言って地球人が敵であることに変わりはない!」
「おい、ちょっと待てよ」
勝平がそれを聞いて言う。
「それっておかしかねえか!?」
「何でここまで来たのよ、それじゃあ」
恵子も同じ意見であった。
「それともここで俺達全員と戦うつもりか!?だったらやるぜ」
「止めろ、宙」
今度は一矢がそれを止めた。
「バルバス将軍、ならば御前はどうするつもりなんだ?」
「本来ならば俺一人でも貴様達に挑む」
バルバスは答えた。
「だがあの兵士の死を賭した覚悟に俺は打たれた」
彼は言う。
「このバルバス恥辱に耐え、貴様達にオルバン打倒の協力を願う」
「バルバス将軍・・・・・・」
「しかし忘れるな」
それでも彼は言った。
「断じて御前達に頭を下げるわけではない。これがバーム星人十億を救う道と考えるからだ」
「ちぇっ、どうせ協力を頼むなら素直に言えばいいのによ」
「でも信念のために敵だった人間に頭を下げるなんてなかなか出来ることじゃないわよ」
「そりゃそうだけどよ」
甲児はさやかに言われて大人しくなった。
「じゃあ信用できるってことだな」
「私はそう思うわ」
「そうだな」
一矢もそれに同意して頷いた。そして大文字に言った。
「大文字博士、この男は信用に値すると思います」
「うむ」
大文字もそれに賛同する。
「それについては私も異論はないが」
だがここで一つ難問があった。
「問題はあの小バームの攻略法か」
大介が言う。
「あれをどうにかしないとな」
「けど方法があるだわさ?」
「ボス、それを見つけるのが俺達の仕事だよ」
「そうだよ、それは」
「方法はある」
サコンがヌケとムチャの言葉に応える形で口を開いた。
「方法が!?」
「それは一体」
「かなりの危険は伴うがな」
「サコン、この際だ。ためらっている時間さえも惜しい」
一矢はそれでも言った。
「教えてくれないか、それを」
「そうだ、一矢の言う通りだ」
健一もそれに続く。
「俺達はどんな危険にも立ち向かう覚悟は出来ている」
「わかった。それじゃ」
サコンはそれを受けて話しはじめた。
この作戦の鍵を握るのはダイモスとコンバトラーとボルテスになる」
「俺達が!?」
「そうだ、この小バーム攻略作戦は御前達に決死の覚悟を要求するぞ」
サコンの声は何時になく険しかった。それがこの作戦の難しさを何よりも雄弁に物語っていた。
「それでもいいか」
「ああ」
だがそれに尻込みする者はいなかった。皆それに頷く。
「そんなの構わねえぜ」
「危険は承知のうえだ。是非教えてくれ」
「わかった」
サコンは皆を代表した豹馬と健一の言葉に応えた。
「それでは言うぞ」
「ああ」
サコンは彼等にその作戦を話しはじめた。それが終わるとロンド=ベルはまた小バームの前にまでやって来たのであった。
「フン、また来おったか」
オルバンは彼等の姿を見ても平然としていた。
「地球人共め、殊勝なことだ」
そして言う。
「自分達から倒されに来るのだからな」
「全くでございます」
それにゲロイヤーが応える。
「何が悲しくて自分達から死にに来るのか」
「地球人というのは愚かな生き物よ」
「ではその愚か者共に我等の鉄槌を」
「うむ、攻撃用意!」2
オルバンは全軍と小バームに命じた。
「我が忠実なる兵士達よ、行け!」
バーム軍も出撃してきた。そして両軍の対峙がはじまったのであった。
「へっ、ぞろぞろ出て来やがったぜ」
ロンド=ベルも出撃していた。その中には当然コンバトラーと豹馬の姿もあった。
「サコン、これで本当に小バームのバリアを突破出来るんだな?」
「そうだ」
サコンは一矢の問いに頷いた。
「ダイモライトの全エネルギーを解放すればダイモスとその周辺の機体はエネルギー化する」
「そして同時にコンバトラーとボルテスも超電磁エネルギーフルパワーをダイモライトに同調させれば」
獅子王博士も言った。
「ガルバーも含めた四機は小バームのバリアを突き抜けて内部に侵入出来る筈だ」
「そしてその後は」
健一の言葉もいつもよりも強い。
「俺達が内部から放電装置を破壊する!」
「だがくれぐれも注意してね」
リツコが彼等に言った。
「この作戦は一歩でもタイミングを間違えば」
「その時はどうなるの?」
ナナがそれに問う。
「エネルギー化した機体は二度と実体化しないまま、この宇宙をさまよい続けることになる」
「永遠にか」
「そうだ」
サコンはナナに答えた後で健一にも答えた。
「だから。くれぐれも気を着けてくれ、いいな」
「へっ、危険は承知の上だ!」
しかし豹馬がここで言った。
「これ位でびびってたらロンド=ベルはやってられないぜ!」
「豹馬の言う通りだ」
彼の快い仲間である健一がそれに続いた。
「この生命、地球の平和を守ることに捧げたはずだ。だから」
「いや、違う」
だが一矢がそれに異を唱える。
「一矢」
「地球だけの平和じゃない、俺達は宇宙の平和の為に勝負を懸ける!」
「宇宙の為にか」
「そう、そして」
「エリカさんの為にですね」
ルリが言った。
「そうだ」
そして一矢もそれを認めた。
「エリカ一人救えないでどうして宇宙を救うことができるんだ!俺はやってやる!」
「一矢さん」
ルリの言葉には感情はこもってはいない。その表情も。しかし彼女は一矢に対してこの上なく温かい心を向けていた。
「貴方のその御考えは多くの批判を受けるかも知れません」
「ああ」
「ですが。私は貴方のその熱意が好きです。その熱意が」
「ルリちゃん・・・・・・」
「貴方を見ていると私まで励まされます。だから」
「ああ、やってやる」
彼は小バームを見据えた。
「エリカ!必ずこの手で!」
「はい、絶対に」
「ルリルリも一矢君の気持ちがわかるのね」
「あそこまで一途で純情な人は他にいません」
ハルカにも応えた。
「あの人を見ていると。どうしても一緒に戦いたくなります。不思議な人です」
「最後に愛は勝つ、ってね」
ハルカはにこりと笑って述べた。
「だから。一矢君は絶対に勝つわ」
「はい」
「安心して。今まで苦労した分、きっと幸せになるから」
「一矢さんみたいな人は特に」
「ナデシコ、四機を援護します」
ユリカも指示を出した。
「何があっても一矢さんをエリカさんのところへ」
「よし!スカル小隊もスタンバイだ!」
「少佐、燃えてますね!」
柿崎がそれに声をかける。見れば彼も乗っていた。
「ああ!一矢の心に打たれたぜ!俺も気張る!」
「周りは任せろ一矢!」
「輝さん!」
「俺達が敵を全部食い止める!だから御前は」
「はい!」
「故人曰く『死中に活あり』」
京四郎が呟く。
「既に覚悟は決めた!」
「わ、私だって!」
ナナも。二人もまた一矢の為に全てを賭けるつもりであった。
「頼んだぜ!」
「凱さん!」
「この作戦の勝利の鍵は御前達だ!」
「了解!」
一矢の横にはバルバスがいる。彼はダイモスに同乗していたのだ。
「行くぞバルバス」
一矢は彼にも声をかけてきた。
「この戦い何としても勝利して地球とバームに平和を取り戻すんだ!」
「竜崎・・・・・・」
「どうした?」
「いや」
彼は今の一矢と仲間達の話を全て聞いていた。そしてそこに思うものがあったのだ。
しかし今はそれを口にはしない。バームの者としてそれは出来なかったのだ。
「各機のエネルギーチャージにかかる時間は三分間だ」
サコンが皆に対して言う。
「だがその三分の間に一切の行動は出来ないぞ」
「チャージが済むまでの間敵の相手は俺達に任せろ!」
竜馬が言う。
「まっ、インスタントラーメンができるまでね」
アムが軽口を叩く。
「それかマカロニが茹でるまでの間ってとこか」
ライトもそれに続く。
「どっちにしろほんのちょっとの間ね。何の心配もいらないわ」
マーベルも。彼等はあえてこう言って一矢達をリラックスさせていたのだ。
「敵の攻撃は俺達が食い止めてみせる」
コウも言った。
「一矢さん達は安心して待っていて下さいね」
「私達がいますから」
シーブックとセシリーも。皆命を賭けてでも一矢達を守り抜く気であったのだ。
「これより我々は小バーム攻略作戦を開始する!」
そして大文字が宣言した。
「ロンド=ベル総員攻撃開始!」
「よし!」
こうして両軍の最後の戦いがはじまった。オルバンとゲロイヤーは指揮室で彼等を嘲笑しながら眺めていた。
「地球人め、何を考えているか知らぬがこの小バームは無敵の要塞よ!」
オルバンの余裕は変わりはしない。
「ゲロイヤー」
「はっ」
「プラズマ放電装置作動!」
「わかりました。プラズマ放電装置作動!」
それに従いあの攻撃が仕掛けられる。それはまたロンド=ベルを掠めてきた。
「うわっ!」
直撃を受けた者はいなかったがそれでもかなりの威力であった。
「す、凄い威力です!」
「大丈夫なんか!?」
小介と十三がコクピットの中で揺れていた。
「これじゃわいらの突入まで持たへんとちゃうか!」
「心配無用だ!」
「ヤマダさん」
「ダイゴウジだ!」
相手が小介であっても反応は変わらない。
「この程度どうってことはない!」
「けれど凄い威力よ」
「おいおい、こんなので凄い威力って?」
サブロウタがわざとちずるの言葉に茶々を入れる。
「これで凄い威力だったらこの前の移動要塞はどうなるの」
「あれ」
「そうだな。あれと比べると大したことはない」
マイヨの目は小バームを見据えていた。
「しかも敵の指揮官のオルバン大元帥、決して優れた男ではない」
彼の鋭い目はそれを見抜いていた。
「安心は出来ないが臆することもない」
「そういうことだな。だから安心してくれ」
「三分はね」
「まっ、お茶の子さいさいってね」
グッドサンダーの面々もコンバトラーチームを安心させる為に言う。彼等はわざと軽い言葉を出して豹馬達をリラックスさせているのである。
「三分間は持たせてみせる」
ナガレが言う。
「だがその後は任せるぞ!」
「わかったダイゴウジ!」
一平は流石にわかっていた。
「それまでは少し楽させてもらうぜ!」
「うむ!」
「頼んだわよ、皆!」
そしてちずるも言う。
「三分経てば」
「おい達の出番ですたい!」
「大作も用意はいいみたいだな」
「当然でごわす!」
豹馬に返す。
「よし!それまで今は待つぜ!」
周りではプラズマ放電、そしてバーム軍の攻撃がはじまっていた。
オルバンは敵味方問わず攻撃を浴びせていた。そしてそれは確かに効果があった。
「味方ですら平気で攻撃するのか」
「とんでもない奴ね」
ショウとチャムも顔を顰めさせていた。
「ショウ、あんな奴さっさとやっつけちゃってよ」
「だから俺達は今はそれは無理なんだ」
「あっ、そうか」
「とにかく三分だ、いいな」
「うん、わかった」
「結局こうした奴ってのは何処にもいるもんなんだなあ」
「そうみたいだな」
ダバがケーンに応える。
「自分のことしか考えねえ奴は」
「そんな奴がいるから戦争がなくならないんだろうな」
「話がわかるねえ、ダバ」
「そうかな」
「あんた、いい政治家になれるぜ」
「俺は政治家にはなりたくはないさ」
「おや」
「ペンタゴナに帰ったら。ゆっくりとね」
「爺むさいねえ、何か」
「大人なのよ、ダバは」
アムが突っ込みを入れてきた。
「あんたと違うんだから」
「ちぇっ、何か俺っていつも言われるな」
「言われるようなことをしているからだろ。ほら、そっち」
「おっと」
レッシィに言われて前に光子バズーカを放つ。それで敵を数機吹き飛ばした。
「いけねえいけねえ」
「全く。移動要塞の時は成長したと思ったが」
「三枚目なのは変わらないのね、やっぱり」
「大きなお世話だっての」
二人にそう言い返す。
「俺だって好きで三の線じゃないんだからな」
「けど、何かお兄さんに人気取られてるわよ」
「うっ」
「気をつけろよ。そのうち元主役とか言われるぞ」
「縁起でもねえなあ、おい」
「だったら真面目に戦うのだな」
「そういうことね、ダバみたいに」
「ちぇっ、エースなのによ、俺だって」
何だかんだ言いながらもケーンも戦っていた。そして三分が経とうとしていた。
「豹馬しゃん!超電磁エネルギーのチャージば終了したばい!」
「兄さん!ボルテスもOKじゃ!」
大作と大次郎が言った。
「一矢!ダイモライトの方はどうだ!?」
健一がそれを受けて一矢に問う。
「こちらも完璧だ!」
それに応えて一矢が言う。
「行くぞ皆!」
「おう!ピラミッドの中でふんぞり返っている奴等に一泡吹かせてやるぜ!」
「待って豹馬」
意気上げる豹馬にちずるが言った。
「どうした、ちずる」
「この作戦に失敗したら、私達、帰って来られないのよ」
「それがどうしたんだ?」
豹馬はそんなちずるに対して言う。
「今更怖じ気づいたってわけじゃねえよな」
「ううん、そんなんじゃないわ」
ちずるはそれに答えた。
「そんなのじゃないけど」
「じゃあ何なんだよ」
豹馬は問う。
「あのね」
「ああ」」
「豹馬、私ね」
自分の気持ちを素直に言おうとする。
「前から」
「ちずる」
だがここで一矢がちずるに言った。
「心配しなくていい。俺達は生きて帰る」
優しい声であった。
「豹馬への話はその後でもいい筈だ」
「そうね」
「ああ、そうだ」
一矢の言葉は温かかった。だからこそエリカを一途に愛することもできるのだ。
「だから、心配はない」
「そうよね、御免なさい」
そして一言謝ってから言った。
「豹馬、皆」
豹馬と仲間達に対して言う。
「私も準備OKよ」
「ちずるさん」
「ナナ、わかってるな」
「うん」
ナナも京四郎の言葉に頷く。彼女もわかっているのだ。ちずるの気持ちだ。わかっていないのは一人だけだ
「よし行くぜ皆!」
その当人が叫ぶ。
「超電磁エネルギーフルパワー!」
「超電磁加重砲フルドライブ!」
健一もそれに続く。
「一矢!俺達の生命御前に預けたぜ!」
京四郎は今その命を親友に託した。
「見ていろ雑魚共!」
一矢の心に炎が宿った。
「竜崎一矢一世一代の大勝負を!」
「よっしゃ!」
「皆覚悟はいいな!」
いつもはクールを気取る十三、一平も普段とは違っていた。
「ダイモライト開放!」
三機のマシンが光に包まれた。一か八かの賭けが今はじまった。
「大丈夫かしら」
ハルカが彼等を見て呟く。見れば皆心配そうな顔であった。
「あの子達、あのまま」
「失敗したら」
「大丈夫です」
だがその心配はルリが打ち消した。
「どうしてなの?ルリちゃん」
「愛は勝ちますから」
そこには理屈はなかった。ルリらしくない言葉である。だがルリはあえてそれを言った。
「一矢さんなら。大丈夫です」
「そうなの」
「はい、きっとエリカさんを救い出してくれます。愛は何があっても負けはしない、勝つものだと」
ルリは微かに笑っていた。
「あの人が私に教えてくれたものです」
彼女は信じていた、一矢の強さを。それが何よりも強いということを信じていた。そこには一片の揺らぎもなかった。
そしてそれは現実のものになった。三機のマシンは小バームの中に移動していた。
「生きている・・・・・・」
豹馬が言う。
「俺達は生きているぞ!」
「周りを見て!私達は小バーム侵入に成功したのよ!」
ちずるも。それが何よりの証拠であった。
「バルバス成功だぞ!」
一矢が後にいるバルバスに叫んだ」
「後はプラズマ放電装置を破壊してエリカ達を救い出すだけだ!」
「うむ!位置は先ほど教えた通りだ!」
「よし!」
「一矢!放電装置はボルテスとコンバトラーVに任せろ!」
「健一!」
「御前とバルバス将軍はエリカさん達の救出に向かえ!」
「了解だ!オルバンの玉座で合流しよう!」
「よし!」
「待っているぞ!」
戦士達は今戦場に散った。一矢とバルバスはエリカの下に向かう。バルバスはその途中で一矢に対して声をかけてきた。
「竜崎」
「何だ?」
一矢はそれを受けてバルバスに顔を向けた。
「御前は、心からエリカ様を愛しているのだな」
「ああ」
一矢はそれを否定しなかった。曇りのない顔でそれに頷く。
「だからここまで戦ってきた」
「そうか」
「エリカがバーム人であってもいい。俺はエリカを愛しているんだ」
「そうか、そこまで想っているのか、エリカ様のことを」
彼はそれを聞いて何かを思った。
「俺はどうやら地球人というものを誤解していたな」
「バルバス将軍」
「貴様の様な一途で正しい心を持つ者がいるならば。あるいは」
「あるいは」
「いや、今はそれを言う時ではないな」
だがバルバスはそれ以上言おうとはしなかった。
「行くぞ、そしてエリカ様を」
「ああ」
一矢はバルバスに案内されエリカの下へ向かう。彼の本当の戦いがはじまっていた。
その中リヒテルはまだ牢の中にいた。そこで衝撃を感じていた。
「クッ、この小バームにこれほどの衝撃が走るとは」
勘のいい彼には事態が察せられていた。
「まさか地球人の侵入を許したのか」
そう言ったところで牢の扉が開いた。
「!?」
そこには若い男がいた。
「そうだが」
「そうか、すぐにここから脱出するぞ」
「余を助けるというのは」
「そうだ」
男はそれに答えた。
「何故その様なことを。そして貴殿は一体」
「話は後だ、今は急げ」
「急ぐのか」
「そうだ、今こそお前は自らの目で真実を確かめるのだ」
「真実を・・・・・・」
「確かめたければ余と共に来るのだ、いいな」
「・・・・・・わかった」
リヒテルはそれに頷くことにした。
「では行こう、そなたと共に」
「うむ」
リヒテルも動いた。オルバンはこの時エリカを司令室に引き立てていた。エリカにロンド=ベルの敗北を見せつける為に。だがここで衝撃が彼等を襲ったのだ。
「何事だ!?」
爆発音も聞こえてくる。オルバンはそれを聞いて声をあげた。
「報告します!」
ゲロイヤーが報告する。
「どうしたのだ!」
「はい、地球人のロボットがこの小バームに侵入しました!」
「何っ!?」
「そしてプラズマ放電装置を破壊した模様です!」
「何だと!?」
「ですが御安心を!」
しかしゲロイヤーはここで言った。
「既に警備の者が侵入者をとらえるべく出動しております」
「ロンド=ベルだわ」
そこにいたエリカはそれを聞いて言った。
「きっと一矢達がやってくれたのよ」
「ロンド=ベルが!?」
そこにはライザもいた。エリカの声を聞き表情を変えた。
「そうか、バルバス達は奴らに協力を頼んだのか」
「一矢だと?」
オルバンもその言葉に反応を示した。
「そうか。エリカ、御前の想い人が来たか」
「オルバン観念するのです」
エリカは強い表情でオルバンに対して宣言した。
「貴方の野望もここまでです!」
「フフフ、その気丈さと美しさ」
しかしオルバンはそれを聞いても下卑た笑いを浮かべていた。
「エリカ、やはり御前はわしの花嫁に相応しい」
そしてこう言う。だがそれでもエリカは臆してはいない。
「黙りなさい!」
毅然とした言葉で言い返した。
「誰が父の仇と結婚などするものか!」
「わしの求婚を拒絶したのはその竜崎一矢の為か」
だがそれがかえってオルバンの欲情を深めた。その下卑た笑いがさらに卑しいものになっていく。
「美しい純情だ、フフフ」
「・・・・・・・・・」
エリカは黙って彼を睨んでいる。彼女も負けるつもりはなかった。
「ならばその男を御前の目の前で処刑してくれよう」
彼もまた宣言した。
「それがわしを拒絶した御前への罰だ!」
だがそれは適わない。そこにあの男が来たからだ。
「オルバン!」
「ムッ!?」
「その声は!?」
「御前の思い通りに事が運ぶと思うな!」
「貴様は・・・・・・」
「あ、ああ・・・・・・」
驚愕するオルバンと歓喜が起ころうとしているエリカ。その男を見る顔はまるで違っている。だが彼を見ていた。
「オルバン!私利私欲のために地球とバームを戦争に導いた御前を許しはしない!」
一矢であった。彼は遂にここまで来たのだ。
「そしてエリカを返してもらうぞ!」
「一矢!」
「エリカ、俺は君の下に来たぞ!」
一矢はエリカを見ていた。
「君を救い出す為に!ここまで来たんだ!」
「竜崎一矢、それにバルバスか」
「おっと!この夕月流免許皆伝の夕月京四郎と」
「ダイモビック隊の紅一点和泉ナナもお忘れなく!」
一矢の後ろから京四郎とナナも出て来た。それぞれその手に刀と銃を持っている。
「バルバス将軍!」
ライザはバルバスに対して声をかけた。
「リヒテル様は御無事か!?」
「既に牢は無人だった」
バルバスはそれに答えた。
「おそらくリヒテル様も自力で脱出されたのだろう」
「そうか。それは何よりだ」
「バルバス!地球人と手を組むなど、このバーム星人の面汚しめが!」
「黙れゲロイヤー!」
バルバスはゲロイヤーの罵声に反論した。
「俺は全てを知ったぞ!リオン大元帥の暗殺の真相も御前達がゼーラ星のダリウスにバーム星人を売った事もだ!」
「だからどうしたのだ?」
「何っ!?」
バルバスはオルバンの居直りに言葉を失ってしまった。
「それがバームの統治者の言葉か!」
「そんなもの知ったことか!わしさせよければそれでいいのだ!」
「クッ、外道が!」
「止めときな、バルバスさんよ」
京四郎がバルバスに対して言う。
「こういう男には何を言っても無駄だ」
「京四郎の言う通りだ」
一矢もそれに頷く。
「この男にはその身をもってこれまでの罪を償ってもらう!」
「馬鹿め!それだけの人数で何が出来る!」
ゲロイヤーは一矢達に対して叫ぶ。
「衛兵達よ奴等を撃ち殺せ!」
だが誰も来ない。一人もだ。
「何をしている、ゲロイヤー!衛兵達が来ないではないか!」
「そ、そんなことを言われても私にも」
二人がうろたえているとまた二人やって来た。
「おっと、残念だったな!」
「周辺の兵は既に俺達が押さえさせてもらった!」
「豹馬、健一!」
「ヌウッ、また新手が!」
「おのれ!」
「御期待通りプラズマ放電装置は破壊したぜ」
「他の平和解放機構のメンバーは一平達が救出に向かっている」
二人はそれぞれ言った。
「お、おのれ地球人め!」
「降伏しろオルバン!」
一矢が言い放つ。
「そして罪を償え!」
オルバン「黙れ竜崎一矢!」
だがオルバンもあがく。
「こちらにはエリカがいることを忘れるな!」
「一矢!」
エリカをその腕の中に捉えた。そのうえで一矢達を脅迫にかかってきた。
「エリカ!」
「フハハハハハハ!」
「クッ、下衆が!」
「なんて卑怯な奴なの!エリカさんを人質にとるなんて!」
だが京四郎もナナも動けなかった。豹馬も健一も。オルバンはそんな彼等を見てさらに言う。
「銃を貸せゲロイヤー!」
「は、はい!」
「わしを愚弄した罪、死んで償ってもらう!」
「オルバン、貴様!」
「死ね!」
ゲロイヤーから銃を奪い取るとそれを撃ってきた。その狙いは一矢にあった。
「ぐおっ!」
だが一矢の前に何とバルバスが出て来た。そして自身がその銃撃を胸に受けたのであった。2
「バルバス!」
バルバスは倒れる。胸から血を流していた。
「俺をかばったのか!?」
「竜崎一矢よ」
彼は荒くなろうとしている息で一矢に言った。既にその顔には死相が浮き出ている。
「御前達は生命を懸けてバームを救ってくれようとしている」
彼は言った。
「だから次は・・・・・・俺が御前達を救う番だ」
「バルバス・・・・・・」
「だから気にするな。竜崎・・・・・・俺は自分の任務を全うするのだ」
「わかった!」
一矢はその言葉に頷いた。これ以上ない強い言葉で。
「オルバンとゲロイヤーは俺がこの手で倒す!約束するぞ!」
「行け、竜崎一矢!」
彼は最後の力を振り絞って言った。
「バーム十億、貴様に賭けた!よいな!」
「ああわかった!」
「そして全てはバームの民の為に」
「バームの為に」
「バーム十億の民・・・・・・万歳!!」
「バルバス!」
「ああ、バルバス・・・・・・」
一矢もエリカも泣いた。一人の英雄の為に。バルバスは今バームの民の為に死んだのであった。
「フン、馬鹿めが」
だがゲロイヤーはそんな彼を吐き捨てた。
「地球人をかばって生命を落とすなどまさに大馬鹿者のすることよ」
「何ィ!?」
豹馬はそれを聞いて憤怒の形相を浮かべた。
「手前等、それが人間の言葉か!?」
「御前達は姿は人間でも心は違う」
健一も怒りを隠さなかった。
「人間の姿を借りた獣だ!悪魔だ!」
怒りをオルバンとゲロイヤーにぶつける。だが二人にはそんなものは通用しない。
「黙れ、黙れ!バームの王であるわしを愚弄する者め!」
オルバンは喚きたてる。
「次は貴様を殺してやる!」
「!」
今度は健一を狙おうとする。だがそうはならなかった。
「ぐわっ!わ、わしの手が」
その手にナイフが突き刺さっていた。それで銃を落としたのであった。
「オルバン大元帥よ」
声がした。
「貴様には民を統べる資格はない!」
角を持つ貴公子が姿を現わした。そう、彼であった。
「ハイネル兄さん!」
「久しぶりだな、健一」
ハイネルは健一の姿を見て微笑んでいた。真の王者の微笑みであった。
「ここまで辿り着くとは余の見込んだ通りだ」
「やはり兄さんもここに」
「そうだ、あらかじめ忍び込んでいたのだ」
彼は言った。
「このオルバンを倒す為にな。今がその時なのだ」
「おのれプリンスハイネル!」
ゲロイヤーはハイネルの名を呼んで呻く。
「ボアザンの貴様がどうしてここに!」
「黙れ下郎!」
ハイネルは臆することはない。彼等を一喝した。
「貴様達のような輩がいる限り民達に待つのは不幸だけだ!」
彼は全てを理解したのだ。かっての戦いで健一達と幾度も刃を交え。そしてわかったのだ。
「ボアザン皇帝ズ=ザンバジル共々、貴様達を許しはせんぞ!」
「く、くう・・・・・・」
「ハイネル兄さん・・・・・・」
「バルマーを裏切った余が生きて再びボアザンの土を踏めたのはひとえに守護神ゴードルの加護だったろう」
ハイネルは過去を思い出していた。
「しかしそこで余が見たのは皇帝ズ=ザンバジルにより腐敗しきった母星の姿だった」
「皇帝ズ=ザンバジル」
「バルマーの支配下にある国の一つね、キャンベルと同じで」
京四郎とナナがそれを聞いて言う。
「そしてそれと同じく腐敗したバームの姿。それは余が見たものだった」
「黙れハイネル!」
オルバンはそんな彼に対して叫ぶ。
「貴様、わしを愚弄する気か!」
「黙れ愚か者が!」
「グッ!」
ハイネルの覇気はオルバンを圧倒した。
「貴様等はバルマー、そしてズ=ザンバジルと同じ!腐敗し、己のことしか考えぬ者達だ!余はそうした者達を討ち、銀河に真の平和をもたらす為に戦うことを決意したのだ!」
「フン、戯言を!」
「戯言ではない!その証拠がこの男だ!」
「な・・・・・・!」
今度はリヒテルが姿を現わした。
「さあリヒテル!」
ハイネルはリヒテルに対して言う。
「決着は御前の手で付けるがよい!」
リヒテル「済まぬ、プリンスハイネル!この恩義は終生忘れぬぞ!」
「兄上!」
「リヒテル様、よくぞ御無事で!」
リヒテルの姿を見たエリカとライザが声をあげる。
「エリカ、ライザ、そしてバルバスよ」
リヒテルもまた今全てを知った。
「御前達には苦労をかけた」
「いえ、いいのです」
エリカはそんな兄を許した。
「わかって頂けると信じていましたから」
「オルバンの悪魔の所業は余も自らの手で確認した」
彼は言う。
「父リオンとバームの民の怒り、余の剣で晴らしてくれよう!」
「お、おのれリヒテル!」
リヒテルは剣を抜く。だがオルバンはもう武器を持ってはいなかった。
「オルバン!民を欺き無益な戦いを引き起こした罪、その身で償うがいい!」
「!」
剣を振り下ろす。だがそれは何かに弾かれてしまった。
「何!?」
「これは一体!?」
「フハハハハハハ、馬鹿め!」
オルバンはここでまたしても勝ち誇った。
「わしの前には防御スクリーンが装備されているのだ!」
「何だと!?」
「クッ、何処までも姑息な!」
ハイネルも剣を抜く。だがどうにもならない。
「リヒエルめ!ここで死ぬのは貴様よ!」
「兄上!」
ゲロイヤーはまたしても銃を出しそれを放つ。しかし今度はライザが前に出た。
リヒテルを庇って銃撃を受ける。彼女もまた自身を犠牲にしたのであった。
「ラ、ライザ!」
「リヒテル様・・・・・・」
血に塗れ倒れていく。致命傷であるのは明らかであった。
「おのれライザめ!」
「リヒテルをかばうとは!」
オルバンとゲロイヤーは横たわるライザに対して呪詛の言葉を吐く。だがここで突如として爆発音が聞こえてきた。
「この爆発の方角は」
「暗黒鳥人改造施設の方だぞ!」
「あの様な悪魔の所業、この世に存在してはならん」
ハイネルが彼等に言った。
「ぬう、プリンスハイネルめ貴様の仕業か!」
「如何にも」
「こうなれば致し方ない。行くぞゲロイヤー!」
オルバンは苦し紛れに逃げ出した。後の脱出装置を押し、開いた隠し扉に向かう。
「かくなる上は外の地球人をワシ自らの手で抹殺してくれる!」
「はっ!」
「待て!」
だが間に合わなかった。彼等はそのまま逃走してしまった。
「糞っ!オルバン達を逃がしたか!」
「逃げ足だけ速いわね!」
京四郎とナナが舌打ちする。その横でリヒテルがライザを抱きかかえていた。
「しっかりしろ、ライザ!」
「リ、リヒテル様」
「何故だ、何故余の為に」
「バルバスもバームのために生命を懸けたのです」
彼女は言った。その顔は微笑んでいた。
「この私も最も大切な方の為に生命を投げ出すのは当然のこと・・・・・・」
「余の為に・・・・・・」
「はい。最後でそれが適いました」
「・・・・・・・・・」
「リヒテル様」
ライザもまた最後の言葉を口にした。
「バームの未来を・・・・・・お願いします・・・・・・」
「ライザ・・・・・・」
「ライザ、貴女まで・・・・・・」
また一人英雄が散った。何かの為に、誰かの為に全てを賭ける者が英雄なのだ。バルバスもライザも英雄であった。その英雄が今二人散ったのであった。
項垂れるしかなかった。リヒテルもエリカも。だが彼等に今は項垂れることも許されてはいなかった。
「無事だったか、エリカ!」
メルビがそこにやって来た。
「メルビ様!」
「ダンゲ将軍もマルガレーテもロンド=ベルの助けで脱出した」
メルビは言った。
「しかし、オルバンが」
「そのオルバンはバームの巨大戦艦で出撃した」
「あの男、まだ諦めていないのか!」
「一矢、健一!」
豹馬が二人に対して顔を向ける。
「俺達も戦場に戻るぜ!」
「わかった!」
「すぐ行くぞ!」
「よし、行くぜ!」
だが健一はその前に兄に顔を向けた。
「ハイネル兄さん」
「健一、御前たちは御前達の正義に生きるがよい」
ハイネルは弟に対して言った。
「そして、その道が世の進むべき先と重なるならば余は喜んで力を貸そう」
「はい!」
かって知らずとはいえ敵同士であった兄と弟が今は共に戦っていた。ハイネルもまた正義を愛する男である。兄弟の心は今重なったのだ。
「リヒテル、エリカと民の避難は私に任せろ」
メルビはリヒテルに言った。
「御前は提督としてオルバンを討つがいい」
「済まぬ、メルビ」
リヒテルはそんな彼に礼を言う。そして立ち上がった。
「奴だけは、奴だけは、この手で打ち倒さねばならん!」
「兄上、どうか御無事で・・・・・・」
「リヒテル・・・・・・」
「竜崎一矢よ」
リヒテルは一矢にも顔を向けた。
「貴様に対する怒りも憎しみも全ては誤解から始はじまった」
だが彼はその自分を許してはいなかった。
「地球人を苦しめてきた余の愚かな行為はいずれけじめをつける。だが」
そのうえで言った。
「今は共に戦う事を許してくれ」
「もちろんだ、リヒテル」
そして一矢はその彼を受け入れた。
「御前の力を平和のために貸してくれ」
「うむ、では行こう」
「ああ」
戦士達は今悪を討つ為に戦場へ向かった。己の私利私欲の為に他の者を踏み躙り、平然としているならばそれは紛れもなく悪である。今彼等はその悪を討つ為に向かったのであった。
その頃外のバーム軍はあらかた倒されてしまっていた。そして小バームからの攻撃も終わっていた。ロンド=ベルは残敵掃討に移ろうとしていた。
「おいピートさんよ」
ジョナサンが大空魔竜のピートに声をかける。
「向こうからの連絡はまだか?」
「ああ、まだだ」
ピートはそれに答えた。
「こちらからの通信にも応答はない」
「そうか」
「だが敵のあの攻撃はなくなっている」
マイヨは小バームを見ながら言った。
「ということは作戦は成功したということだ」
「後はオルバンってのを倒すだけだな」
「よし!ここは俺のフィニッシュブローで決めてやるぜ!」
「いや、おいらがやってやるぜ!」
ドモンの言葉にヂボデーとサイシーが触発されていた。
「いや、待て二人共」
だがそれはアルゴが制止する。
「っておい」
「何かあるのかい?」
「ここはムッシュ一矢の出番ですよ」
「そういうことだね」
アレンビーがそれに頷く。
「やっぱりここはね。自分で愛を掴み取るって」
「見せてもらうぞ一矢!」
ドモンが叫ぶ。
「御前の拳、今またここで!」
「うわ、ドモンさん熱くなっちゃってるね」
「何言ってんのよ、ここで熱くならなきゃ何にもならないでしょ」
アスカがシンジに言う。
「一矢さんはね、ここまで必死に耐えてきたのよ!今それが実るんだから」
「うん、そうだけど」
「野暮なことは言わないの!一矢さんとエリカさんの邪魔する奴はあたしが許さないんだから!」
「それにしてもアスカも変わったね」
「どういうこと!?」
「だって。昔は何か誰彼なしにつっかかってたし」
「一矢さんやタケルさんは別よ」
それに言い返す。
「あれだけ一途だと。何も言えないじゃない」
「そうなんだ」
「それはアスカが優しいからだよ」
「うっ」
ヒメの言葉にも何も言えない。
「アスカは優しいから。一途な人を守りたくなるんだよね」
「別にそんなことはないけど」
だがアスカがタケル、そして一矢には何も言えないのは事実であった。彼等の一途さに打たれているからだ。
「いいと思うよ、それで」
「そうなの」
「アスカのその優しさ、きっと他の人の助けになるよ」
「助け、ね」
「そうだね。とりあえずは今は戻って来る一矢達のバックアップだね」
万丈も言った。
「用意はいいかい?」
「わかったわ。バカ豹馬のフォローは癪に障るけどね」
「おい、誰が馬鹿だってんだ!」
そしてその当人の声が聞こえてきた。
小バームからコンバトラーとボルテス、そしてダイモスが姿を現わした。彼等はオルバンより先に小バームから出て来れたのであった。
「アスカ、手前俺がいない間に好き勝手言ってくれてるなあ、おい!」
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いのよ!」
豹馬に対しては相変わらずであった。
「あんたはさっさとちずるさんのこと何とかしなさい!」
「ちずるがどうしたってんだい!?」
「えっ!?」
一同それを聞いて呆然となった。
「おい、まさかよお」
リョーコがヒソヒソと囁く。
「豹馬の奴、ちずるのことに」
「はい、全然気付いていませんね」
それにヒカルが答える。
「鈍感な男は何をやってもどこもあかーーーん」
「・・・・・・なあイズミ、最近もう駄洒落って呼ぶのも辛くなってきてるぞ」
「それも私の声で」
マヤがゴラオンの艦橋で苦い顔をしていた。
「何か複雑」
「俺は幸せなんだな。声がガムリンさんやミリアルドさんに似ていて」
「御前それにシュウ君にもそっくりだしな」
上機嫌になるシゲルにマコトが言った。
「いいよな、僕なんてそのうちジャンキーに似た声の奴が出そうな気がして嫌なんだ」
「俺ももう一人出そうだけどな」
「私は・・・・・・もうないか」
「私もいるしな」
「そうそう、スレイもいるし」
「私も。マヤと・・・・・・まあイズミもいるから気が楽だ」
「また今度カラオケ行きましょうね」
「うむ」
「なあ」
加持が後ろでリツコにヒソヒソと囁く。
「マヤちゃん達って歌、上手いのか?」
「ギャブレー君やバーン君と同じ位かしら」
「おい、それって」
「そういえば加持君は歌上手いわよね」
「まあな」
そう言われて悪い気はしなかった。
「大介君やギュネイもかなりいけれどな」
「似てる声ばかりね」
ミサトがそれに突っ込みを入れる。
「私も歌わないわけじゃないけれど」
「そのうち誰かさんとデュエットしたりして」
「胸の大きい誰かさんとかもな」
「まさかね」
「それにしてもねえ」
「彼か」
話は豹馬に戻っていた。ネルフの面々も呆れていた。
「気付いていないのかしら、本当に」
「間違いないわね」
ミサトにリツコが答える。
「あの様子だとね」
「ちずるちゃんも大変ね。自分のことに気付いてくれないなんて」
「ある意味凄いことだけど」
「あそこまではっきりわかるのってそうそうないですよ」
「そうだよな。俺だってわかるぜ」
「僕にも。やっぱり豹馬君は少し鈍感過ぎるよな」
「ドッカーーーーーーーーン」
「マヤさん、ここで力が抜ける様な御言葉は」
「全員の指揮に関わりますぞ」
エレとエイブが彼女を注意する。だが彼女ではなかった。
「私じゃないですよ」
「あれっ」
「では」
「決まった・・・・・・うぷっ」
「決まったじゃねえよ、ったくよお」
リョーコがエステバリスの中で呆れた声を出していた。
「いいところでよお。気の抜ける駄洒落かましやがって」
「けどリラックスにはなりますよ。そうじゃない人達もいますけど」
「連中はな。どうしようもねえよ」
「とにかくあんたはそんなのだから駄目なのよ、わかってんの!」
「わかるもわからねえもいきなり馬鹿はねえだろうが!」
「馬鹿が嫌ならアホはどう!?」
「一緒だろうが!」
「意味が違うのよ!」
「何ィ!?」
「ああ、もういい」
それを京四郎が制止する。
「折角頼りになる助っ人まで連れて来たってのに」
「これじゃあ話がはじまらないじゃない」
ナナも言う。
「助っ人って!?」
それにシンジが問うた。
「誰なの、それ」128
「余だ」
「そして余も」
「プリンスハイネル、それに」
「リヒテル!あんたもかよ!」
「そうだ!オルバンを討つ為に今は協力させてもらう!」
「何か嘘みてえな話だな」
キャオが今自分達に協力しようとするリヒテルを見て呟いた。
「あの旦那がねえ」
「いや、彼の言うことは信用できる」
万丈がそれに応えた。
「一矢達と一緒にここに来たからね」
「そうだ。余のしてきたことを詫びるつもりはない」
「リヒテル・・・・・・」
「今はバームを己が私利私欲の為に利用したオルバンを討つ!それだけだ!」
「よし!来やがれオルバン!」
豹馬はアスカとの喧嘩からオルバンに目を向けていた。
「ここで決着をつけてやるぜ!」
「小バームから何か出て来るぞ!」
神宮寺が言った。
「あれは・・・・・・戦艦だ!」
「すごい大きさですよ!」
猿丸はそれを見ただけで色を失っていた。
「これはまずいかも・・・・・・」
「って相手は一隻だけよ」
「あっ、そうでした」
マリに言われて我に返る。
「所詮一隻!ここは派手に決めてやらあ!」
「待て、勝平」
「どうしたんだよ、万丈さん」
「ここは僕達はフォローだけにしよう」
「フォローだけって」
「一矢さんに任せろってことだ」
「そういうこと。いいわね」
「それもそっか」
珍しく宇宙太、恵子の言葉に素直に頷いた。
「よっし、頼むぜ一矢さん」
「ああ」
一矢の拳に今正義の怒りが宿る。ダイモスが真っ赤に燃えていた。
「来い、オルバン!この拳で御前を倒す!」
小バームから巨大戦艦が姿を現わした。そこにはオルバンとゲロイヤーがいた。
「どうやらあれが小バームの切り札のようだぜ」
凱がそれを見て言う。
「今更出してきやがったな」
時既に遅し、である。しかしオルバンはそんなことをわかりはしない。
「見たか地球人共!」
彼は誇らしげに叫ぶ。
「これが攻撃司令艦ザンタルよ!これで貴様等を粉砕してやる!」
「勝手に言ってな」
隼人がそれを聞いて突き放す。
「貴様一人で何かできるのならな」
「オルバン大元帥、先ほどからゼーラ星の暗黒四天王に救援要請を出しているのですが」
「どうした!?」
ゲロイヤーの言葉に顔を向ける。
「応答がありません」
「フン、よいわまあいい」
だが彼はそれを問題とはしなかった。
「ダリウスなど所詮はロボット、奴にひざまづく必要などないわ!」
「ははっ!」
「地球人共め!このわしに刃向かったことを後悔させてくれる!」
「城を追われた裸の王が起きながら夢を見ているようだな」
マイヨはそれを見て冷静に呟いた。
「ドルチェノフと同じか。ああした輩は何処にでもいるのだな」
「オルバン大元帥、この地球に俺達がいる限り。いや、正しき心を持つ者がいる限り」
「御前の好きにはさせない!」
竜馬が、そして一矢が言った。ダイモスが前に出る。
「守護神ゴードルよ!」
ハイネルの心にも正義の炎が燃え上がっていた。
「銀河を蝕む悪を成敗する為このハイネルに今一度、力を!」
「このギメリアは亡き友アイザムが余の為に設計し、ライザが新たに組み上げたもの」
リヒテルもまたその心は正義が宿っていた。
「アイザム、ライザ、バルバス・・・・・・。余はこのギメリアで必ずやバームの逆賊を討ち取ってみせるぞ!」
「竜崎一矢、リヒテル、横は任せよ!」
ハイネルが二人に言う。
「そなた等はオルバンを討て!」
「わかった!」
「今こそ余の手で奴を!」
ダイモスとギメリアがザルタンに向かう。オルバンは彼等にすぐに攻撃を仕掛けて来た。
「死ねいっ!」
破壊光線を放つ。だが両者はそれを左右に跳んでかわす。
「この程度の攻撃で!」
「余を退けられると思ったか!」
「クッ!」
「オルバン!今こそ全てが終わる時だ!」
「バーム十億の民を裏切った罪、思い知れ!」
二人は突き進む。まずは一矢が攻撃を仕掛けた。
「ファァァァァイブシュゥタァァァァァアッ!」
その手から手裏剣状の小刀を放つ。それでまずはザルタンを牽制する。
「うおっ!」
「オルバン!父さんの仇、リオン大元帥の仇」
一矢は言う。
「そしてこの戦いで犠牲になった全ての人々の仇、この拳で討たせてもらうぞ!」
「小賢しい!」
しかしオルバンはオルバンである。
「貴様の様に人間が一人死んだ位で腹を立てていては王にはなれんわ!」
「貴様!」
「何処までも下種な男よ!」
「黙れプリンスハイネル!」
ハイネルにも言う。
「貴様ごとき若造に言われる筋合いもないわ!」
「つくづく見下げ果てた男よ、オルバン!」
「だがそれもここまでだ!」
しかしリヒテルがそこにいた。
「覚悟せよオルバン!」
今度はリヒテルが攻撃を仕掛けた。
「バーム十億の民とライザ、バルバスに代わり余が貴様を討つ!」
「愚か者め!このワシがいたからバームは今日まで戦って来られたのだ!」
「まだ言うか」
「何度でも言うわ!」
オルバンは何処までも醜かった。
「貴様の父リオンに任せておれば小バームはすぐに地球に攻め落とされていたわ!」
「黙れ!」
リヒテルもまた彼を一喝した。
「我が父リオンはそもそも地球人との戦争を望んではいなかった!望んでいたのは貴様だ!」
「話し合いなぞ何になる!」
「おいおい、何処までも腐った野郎だな」
トッドも流石に呆れていた。
「あそこまでとんでもねえのははじめて見たぜ」
「ドルチェノフよりもひどいね、ありゃ」
ミンもそれに応えて言った。
「何処までも腐ってるよ」
「しかし」
カールがミンに言う。
「このままでは一矢殿とリヒテル殿が」
「助太刀も必要かと」
「いや、それは不要だ」
ウェルナーとダンも行こうとしたがそれはマイヨが否定した。
「大尉殿」
「今はいい、あの二人ならばな」
「左様ですか」
「案ずることはない、彼等は必ず勝つ」
「大尉殿が言われることなら」
「間違いはないであります」
「済まないな、ここは抑えてくれ」
「いえ」
「それでしたら我々はここで」
「一矢殿とリヒテル殿の勝利を見届けるであります」
「健一」
豹馬が健一に声をかけてきた。
「どうした?」
「いい兄貴を持ったな」
「ああ」
その言葉に静かに頷いた。
「兄さんならきっと」
かっては敵同士であった兄も今は素直に見ることができた。
「ボアザンを正しく導くことができる。本当のボアザンに」
「そしてリヒテルも」
メルビはエリカ達と共にロンド=ベルの方に移っていた。
「あの男しかいない、バームを導ける者は」
「貴様の私利私欲にバーム十億の民を利用されてなるか!」
今リヒテルの目に正義の炎が燃え上がった。
「受けるがいい!今までの悪行への裁きを!」
反アイザロン粒子砲を放った。
「グオッ!」
それは一撃でザルタンを貫いた。その動きを止めた。
「アイザム、バルバス、ライザ、見よ!」
彼は叫んでいた。
「今こそバームが救われる時!」
「リヒテル!」
「竜崎一矢よ!」
彼は一矢に顔を向けた。
「止めはそなたに譲る!やるがいい!」
「わかった!」
ダイモスは今最後の攻撃の構えに入った。
「フリーザストォォォォムッ!」
まずは冷気を放ちザルタンを凍らせる。
「ファイヤァァブリザァァァァドッ!」
続いて炎の嵐を。その二つの嵐を受けたザルタンの巨体が銀河に舞う。
「受けろオルバン!正義の怒りを!」
一矢は拳を構えた。そして上に跳ぶ。
「必殺!烈風!」
その拳が今正義となった。
「正拳突きィィィィィィッ!」
拳がザルタンを貫き、真っ二つにしていく。その拳はザルタンの巨体をもものとしなかった。
「う、うああっ!」
オルバンは真っ二つになり、炎と化していくザルタンの中で断末魔の叫びをあげていた。
「こ、このザンタルが落ちるのか!」
ゲロイヤーもまた。悪は今滅びようとしていた。
「こ、この愚か者共め!」
しかしオルバンはまだその卑しい心を曝け出していた。
「バーム十億の民の支配者であるこのわしを倒すとは!」
詭弁を喚く。
「これでバームは地球人によって滅ぼされるだろう!」
「それはない」
だがそれはハイネルが否定した。
「地球人が貴様と同じ卑しい者ばかりと思うな」
「そうだ!」
攻撃を終えた一矢も言った。
「勝手なことを言うな!」
彼も断末魔のオルバンに対して言う。
「俺達がいる限りそんなことは絶対にさせない!」
「竜崎一矢・・・・・・」
リヒテルは一矢のその言葉に目を動かした。
「宇宙の人間が全て御前と同じ独善的な利己主義者と思うな!」
「話し合いで来ればこっちだって話し合いで受け止めます!」
万丈とヒメも言う。
「オルバン大元帥!自分のことしか考えられないお前に宇宙に生きる資格はない!」
「そうだそうだ!御前はとっとと消えちまいな!」
竜馬と勝平も言う。
「自分だけが宇宙にいると思うなってんだ!」
「だ、黙れ!」
オルバンは遂に炎に包まれた。もうゲロイヤーはその中に消えている。
「わしはバームの王オルバンだ!わしは、わしは・・・・・・!」
それが最後の言葉だった。ザルタンは爆発し、全ては消えた。多くの民を己の浅ましい欲望の為に利用しようとしたオルバンは今ここに滅んだのであった。
「諸君、ご苦労だった」
大文字が戦死達をねぎらう。
「これで地球とバームは救われた」
「はい」
「終わったな、リヒテル」
「竜崎一矢よ」
だがリヒテルはそれに喜んではいなかった。
「余は裁きを受けよう。勝者であるお前達の手で好きなようにするがよい」
「リヒテル・・・・・・」
「兄上・・・・・・」
「待て、リヒテル」
そんな彼をハイネルが制止した。
「ハイネル、余は」
「今はその時ではない」
「どういうことだ!?」
「そなたがバームの為に戦うべき相手はまだいるということだ」
「それは一体」
「レーダーに反応!」
突然エマが叫んだ。
「!?」
クェスも何かを感じた。
「この気配は!」
「敵だ!」
そしてギュネイも。小バームの向こうに暗黒ホラー軍団の軍勢が姿を現わしたのであった。
「暗黒ホラー軍団!」
サコンが彼等の姿を確認して叫ぶ。
「姿が見えないと思ったらこの時を狙っていたのか!」
「フフフ、ご苦労だったなロンド=ベル」
その中心には四隻の戦艦がある。その中の一隻からデスモントが言った。
「暗黒鳥人改造装置は破壊してくれたようだが、装置はまた作れば問題ない」
「それよりも邪魔になっていたオルバン達を葬ってくれたことに礼を言うべきかな」
ダンケルもアシモフもそこにいた。
「グハハハハハ!奴め自分の器も考えずにダリウス大帝様に内心では刃向かう気でいたからな!」
そしてキラーも。四人が揃っていた。
「やるつもりか!?ここで」
「フフフ、今は止めておこう」
サンシローにダンケルが応えた。
「何っ!?」
「ほんの挨拶でな」
「挨拶だと!?」
「そうだ、今はその命預けておいてやる」
「だが忘れるな」
デスモントとキラーがサンシローに言う。
「貴様等なぞ何時でも倒せるということをな」
最後にアシモフが言った。
「それだけだ。ではな」
「精々首を洗って待っているがいい」
「フハハハハハハハハハハ・・・・・・」
高らかな笑い声を残してそこから去る。後にはロンド=ベルだけが残った。
「わかったな、リヒテル」
ハイネルは彼等が去ったのを見届けてからリヒテルに対して言った。
「まだあの者達がいる」
「うむ」
「そしてバルマーもな。バームの脅威は去ったわけではないのだ」
「わかった。では余の命そなたに預けよう」
「そうしてくれるか。健一」
ハイネルは健一に顔を向けた。
「また会おう」
「兄さん、俺達と一緒には来ないのかい?」
「余は別に動く。宇宙の為にな」
「そうか」
「今リヒテルという同志も得た。二人でそなた等とは別に戦う」
「銀河の為に」
「そうだ、ではまた会おう」
「兄上・・・・・・」
「エリカ、余はどうやらまだ罪を償ってはいかぬようだ」
「いえ、兄上はもう」
「言うな。余が犯してきた罪は罪、それは必ず償う。そして」
「そして?」
「そなたは竜崎一矢に任せる。幸せになれよ」
「は、はい!」
その言葉を聞いて声も顔も明るくなった。
「ではまた会おう、ロンド=ベルの戦士達よ」
「竜崎一矢、また会おうぞ!」
二人の戦士はその戦場へ向かった。ロンド=ベルの戦士達はそれを見送るのであった。
「何ていうかな」
甲児が言った。
「ハッピーエンドってやつかな」
「そうね、一矢さんとエリカさんもようやく一緒になれたし」
それにさやかが頷く。
「一矢さん、おめでとうございます」
「ルリちゃん・・・・・・」
「貴方なら必ずエリカさんを救い出すと信じておりました」
「そうなのか」
「当たり前だろ、愛は勝つんだよ」
リョーコが一矢に言った。
「そうでなくちゃ面白くも何もないですよ」
「本当にね」
ヒカルはともかくイズミまで真面目であった。
「感動した!その熱い魂にな!」
ダイゴウジの感動はひとしおであった。
「一時はどうなることかって思ったけどよ」
「まさか本当に救い出すとはな。奇跡か」
「はい、奇跡です」
ルリはサブロウタとナガレにも言った。
「一矢さんとエリカさんが起こした愛の奇跡です」
「愛の奇跡、かあ」
「はい」
「すげえね、やっぱ」
サブロウタにもいつもの軽さはなかった。
「まさかとは思ったけれど」
「それを自分の手で掴み取るとは」
「一矢さんは。本当に立派な方です」
ルリは素直にそう思っていた。
「エリカさんとの愛だけでなく。バームとの平和をもたらしてくれました」
「愛が全てか」
「そうです」
ルリはクワトロにも答えた。
「人は。もう異なる星という壁も乗り越えられるのだな」
「そうですね」
カミーユもそこに感慨を見ていた。
「ニュータイプ、オールドタイプっていうつまらないものかな」
「大きく成長してきているのだな」
「そうだよ、だって同じ人間なんだもの」
「同じ人間か」
クワトロはヒメの言葉も聞いていた。
「そうなのだな、人間だ」
「うん、そうだよ」
「一矢さんもエリカさんも人間です」
「生まれた場所がちょっと違うだけなんだよ」
「それがわかっているならば若しかすると」
クワトロは思った。
「もう人類は。私なぞが心配する必要もないのかもな」
「クワトロ大尉」
「カミーユ、キャスバル=ズム=ダイクンという男もシャア=アズナブルという男も。もう死んだのだろうな」
「死んだのですか」
「そのかわりか。クワトロ=バジーナが今ここにいるのは」
「御前はクワトロになったんだな」
「そうだな、もう」
アムロにも答える。
「彼等を見ていると。そう思えてきた」
シャア=アズナブルであることは捨てた。もういなくてもいいから。一矢とエリカの愛が全てを見せてくれたから。長い、そして多くの犠牲を払った戦いがまた一つ終わった。一矢とエリカは今その戦いを終わらせ、一つの平和をもたらしたのであった。バームに今本当の幸福がはじまろうとしていた。それがまだまだ先のことであっても。

第百一話   完

2006・6・26  
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