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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第八十五話 赤い髪の女

                   第八十五話 赤い髪の女
ギリシアに逃れたアレンとフェイはすぐに現場に残るティターンズ達と共に撤退準備に取り掛かろうとした。だがそれは何故か全く進みはしなかった。
「どういうことだ!?」
最初に異変に気付いたのはアレンであった。
「どいつもこいつも。逃げようとしねえ」
「それどころか戦う気満々だぜ」
それに応える形でフェイも言った。
「何がどうなってるんだ。ここの兵隊だけじゃロンド=ベルの相手なんて出来るわけねえだろうが」
「おかしいな」
「おかしいか」
「ああ、ジェリルの言う通りに動いているとしか思えん」
「ジェリルだって!?」
「そうだ。あいつが戦闘を主張しだしてからティターンズの動きが変だ」
「確かにな」
「まるで操られてるみたいだ。どういうことなんだ」
二人の言葉通りであった。ギリシアにいるティターンズの部隊は今やジェリルに心酔しており連日彼女を囲んで怪気炎をあげていたのであった。
「もうすぐロンド=ベルが来ますな」
「そうだね」
彼女はこの時軍のバーで飲んでいた。ティターンズの将校達がそれを取り囲んでいる。
「敵はかなり手強いですが」
「手強い?何処がさ」
だがジェリルはそれは意には介していなかった。
「あたしの前にはね、手強い奴なんていないさ」
「おお」
「どいつもこいつもあたしが真っ二つにしてやるよ。楽しみにしていな」
「流石はジェリル様だ」
「では次の戦いは我等の勝利で」
「そうさ、楽しみにしてな」
「素晴らしい!何という気概だ!」
「将に現代のジャンヌ=ダルクだ!」
それは異様な光景であった。一人の女を囲んで大の男達が狂奔している。それはまるで黄金の牛の前で狂乱するヘブライの民達の様であった。
彼等は潰れるまで酒を飲んだ。そしてジェリルはそれを見届けるとバーから去った。誰の目から見てもわかる程上機嫌な顔であった。
「こそばゆいねえ」
彼女は笑いながら呟いた。
「ダブリンの嫌われ者が今やジャンヌ=ダルクかい。いいものさ」
そう言いながら自室に引き上げる。アレンとフェイはそれを通路の陰から見て囁き合っていた。
「やっぱりおかしいな」
「ああ」
二人は眉を顰めてこう話し合っていた。
「ティターンズの連中といいあいつの顔といい」
「何かに取り憑かれているみたいだ」
「憑かれているか」
「そうさ。俺が役者をしていたのは知ってるな」
「ああ」
「その時にな、見たんだよ。訳のわからねえのに憑かれた奴を。あんな顔をしていたぜ」
「じゃあ今のジェリルは」
「わからねえ。だがまともじゃないのは確かだ」
「そうか。まずいな」
「どうする?俺達だけでも逃げるか?」
「いや、それもまずいだろう。下手に逃げたら」
「ここのティターンズの連中に何されるかわからねえってか」
「そうだ。今の奴等はジェリルの言うがままだ。ここは大人しくしていようぜ」
「わかった。それじゃな」
「ああ」
二人は頷き合ってそれぞれの部屋に消えた。そして二人共よからぬものを感じていた。
ロンド=ベルはギリシアに向かっていた。グランガランもそこにいた。
「もうすぐギリシアです」
「はい」
シーラはカワッセの言葉に頷いた。
「思ったより速かったですね」
「トルコとギリシアは隣同士ですから」
ナナがそれに応えた。
「実はすぐに来れるんですよ」
「そうだったのですか」
「まあかってはトルコとギリシアも色々とありましたけれどね」
ここで真吾が言った。
「今はとりあえず何もなしです」
「そうだったのですか。地上は昔から戦乱が絶えなかったのですね」
「まあそれは残念なことですけれど」
「そして今はドレイクがここに・・・・・・!?」
「!?シーラ様」
皆シーラの様子が一変したことに気付いた。
「どうされたのですか」
「赤い髪の女が」
彼女は半ばトランス状態でこう呟いた。
「赤い髪の女が」
「はい。こちらに来ます。恐ろしい女が」
彼女がこう言ったのと全く同じ時であった。マクロスにいた護にも異変があった。
「そういえばGGGは皆ここにいるんだね」
輝が格納庫でGGGの面々と話をしていた。
「オービットベースや東京の基地じゃなくて」
「そうさ、隊員のかなりの数がこっちに移動させてもらったんだ」
凱がそれに答えて言う。
「俺達機動部隊の他に護もな。あと命も」
「そうだったんだ」
「宜しくね、輝さん」
黒がかった髪を大きく前に伸ばした少年が輝に挨拶をした。
「ああ、宜しく」
輝もそれに返した。
「君もマシンに乗るのかい?」
「いや、護はマシンには乗らないんだ」
「そうなのか」
「そのかわりゾンダーや原種を元に戻すんだ。護がいなけりゃゾンダーとかを本当に封じることは出来ないんだ」
「へえ、それを考えると凄い坊主なんだな」
それを聞いた柿崎が呟く。
「只の坊主だと思ったのにな」
「僕だって皆と変わらないよ」
だが護はあえてこう言った。
「僕だって皆と一緒に戦ってるんだから。皆一緒だと思うよ」
「そうだな、坊主の言う通りだ」
霧生がそれを聞いて頷いた。
「同じ戦場で一緒に戦ってるんだからな、皆一緒だよ」
「あら、珍しくまともなこと言ってるじゃない」
それを聞いたレトラーデがからかうようにして言った。
「いつも悪ふざけばかりなのに」
「俺だってそれ位のことはわかってるさ」
「そうなの」
「そんなこと言ったら俺達だってミリアさんとかミスティとかガルドとかいるじゃないか」
「そういえばそっか」
「ゼントラーディだってメルトランディだって同じだよ。皆同じじゃねえか」
「それは確かにそうだな」
輝もそれに頷いた。
「一条大尉も同じなんですね」
「うん。誰だって同じさ。同じ宇宙にいるんだから」
「そういえば私達の部隊って確かに色んな人がいるし」
シルビィも言った。
「皆同じね。生物学的にもそれは証明されているし」
「ミスティさんなんかすっごい美人だし」
「ちょっとレトラーデ」
話を振られたミスティはその言葉に困惑を見せた。
「私は別に」
「いえいえ、ミスティさんは確かに美人ですよ」
氷竜が言った。
「誰もが羨む程の」
「美人でエースなんていいよな」
「そうだよなあ。まあ僕達の妹達もかなり美人だけど」
「あら、ありがとお兄ちゃん達」
「感謝しますわ」
光竜と闇竜は炎竜と雷龍の言葉に応えてこう返した。
「そういえばこのマクロスって搭載しているのバルキリーだけじゃないんですね」
命がここで言った。
「ああ、そうさ」
ドッカーがそれに応える。
「ここにはデストロイドもあるんだぜ」
「へえ」
「他にはマグアナック隊の面々も待機してるし。これでも結構いるんだ」
「ああ、マグアナック隊ってここから出ていたのか」
「おい、はじめて気付いたのかよ」
「だっていつもいきなり何処かから出ていたから」
フィジカはそれを聞いて言った。
「何なのかなあ、って思ってたんだよ」
「他にもマイクのブラザー達もいるよ」
「そうだったのかよ」
宙はそれを聞いて驚きを隠せなかった。
「いつも急にどっから出て来るのかと思ってたが」
「これはまた驚きだったね」
万丈が笑いながら言った。
「まあ僕のダイターンも人のこと言えないけれど」
「万丈さんのは大きいですからね」
「これはどうも」
風龍に応える。
「あれだけの大きさのものが出て来るのは。本当に凄いです」
「しかもいつも綺麗にワックスかけてるよな」
「あれはギャリソンがやってくれてるんだよ」
ゴルディマーグに対して言う。
「あれが終わらないと出撃出来ないんだよな」
「それはまた難儀だな」
「まあそれがギャリソンの流儀だからね。気にはしていないさ」
「そうなんだ。・・・・・・ん!?」
「どうした、護」
「いや、ギリシアからだけれど」
「ああ」
気遣う凱に対して言う。
「何か。とんでもないのを感じるんだ」
「原種か!?」
「また違うよ。これは一体」
護は何かを感じていた。身体が微かに緑色に輝いていた。
「何だろう、オーラかな」
「オーラ!?まさか」
それを聞いた輝が反応を示した。
「何かあるのか」
「ああ、さっきの敵の中のオーラバトラーのことだろう」
「あの小さくて空を飛んでいたやつか」
「あれはオーラ力を使って飛んでいるんだ。若しかするとそれかも」
「それじゃあギリシアにはとんでもないオーラの持ち主がいるんだな」
「多分。それが誰かはまだわからないけれどね」
輝は凱にこう語っていた。その顔は今までとは違い強張ったものになっていた。
他にもケン太がこれを感じていた。彼もまた不安を覚えていた。
「ケン太君、どうしたんですか?」
「OVA、ギリシアは危ないよ」
「そりゃティターンズがいますから」
「そういう問題じゃない、危険なんだよ」
「危険!?何がですか!?」
「赤い髪の女の人がいる。そして・・・・・・」
彼もまた何かを感じていた。そしてその危機が迫ろうとしていると警告するのであった。
「三人がそれぞれ危険を感じているというのか」
「はい、俺やサンシロー達も微かに感じています」
ピートが大文字に対してこう話していた。
「ショウやアムロ中佐も。勘のいい者や特殊な能力を持つ者は皆感じているそうです」
「そうか。では間違いないな」
「はい」
「赤い髪の女・・・・・・。一体何者だ」
「ジェリル=クチビです」
「ジェリル=クチビ」
モニターに姿を現わしたショウの言葉に応える。
「ドレイク軍の聖戦士です」
「それが赤い髪の女だというのか」
「多分。先のトルコでの戦いでもかなり派手に暴れていましたから」
「そうか。その女はそれだけ手強いのは」
「先の戦いでも手こずりました」
バルマー戦役のことである。
「そして今も。手強い女です」
「わかった、では次の戦いそのジェリル=クチビを徹底的にマークしよう」
「はい」
「間も無く敵のエリアに入る。では戦闘配置に着いておこう」
「了解です」
ロンド=ベルは戦闘配置に着いた。するとすぐに前方にティターンズ及び三機のオーラバトラーが姿を現わした。
「ジェリル、やはり」
ショウはその赤いレプラカーンのうちの一機を見て言った。
「来たというのか」
「ショウ、焦りは禁物だぞ」
彼に凱が声をかける。
「わかってると思うがな」
「ああ、それはわかってる」
ショウはそれを聞いてすぐに言葉を返した。
「けれど・・・・・・。何て邪悪なオーラなんだ」
「このプレッシャー・・・・・・似ていますね」
「ああ」
アムロはウッソの言葉に頷いた。
「ソロモンの時のドズル=ザビ・・・・・・いやもっと大きい」
「何だってんだよ、このプレッシャー」
オデロもそれを感じていた。耐えられないものすらあった。
「狂ったみたいだ、まるで」
「結局撤退させることは出来なかったな」
「そうだな」
敵の中にはアレンとフェイもいた。彼等は残念そうに呟いた。
「しかしジェリルの奴」
「オーラ力がどんどんあがっていやがる。こんなことは見たことがねえ」
「どうする、フェイ」
アレンは同僚に問うてきた。
「どうするって何をだ?」
「これからだ。ジェリルの奴もティターンズの連中もおかしい」
見ればティターンズの者達はジェリルの言うがままであった。熱狂的に戦場に向かい、そして退くことはないようであった。
「このままだと俺達も巻き込まれちまうぞ」
「この戦い、離れて見た方がいいってのか?」
「俺はそう思う。今のジェリルはまずい」
「そうだな。こちらから積極的には仕掛けないようにするか」
「ああ」
こうして彼等はジェリルやティターンズから少し離れた。結果的にこの判断が彼等を救うこととなった。
「こそばゆいねえ」
ジェリルは自分の意のままに動くティターンズの軍勢を見て笑った。
「あたしがここまでなるなんてさ。生きてみるもんだよ」
「ジェリル様、どうされますか」
スードリに乗るティターンズの指揮官が尋ねてきた。
「このまま一気に突っ込みますか」
「そうさ」
ジェリルはそれに頷いた。
「そして真っ二つにしてやるんだよ、いいね」
「わかりました、それでは」
「全てはジェリル様の言われるままに」
彼等は完全にジャミトフのことは忘れていた。そしてロンド=ベルに向かう。ジェリル自身もオーラソードを抜きそのまま
突撃した。
「来たか」
エイブはそれを見て呟いた。
「砲撃用意」
すぐにゴラオンを攻撃態勢に入らせる。
「目標前方の敵部隊、照準合わせ」
「了解、照準合わせ」
その言葉が復唱される。そしてゴラオンは主砲を敵に向けた。
「姫様、主砲を発射します」
「わかりました、主砲の発射を許可します」
エレもそれに応える。
「各員衝撃に備えよ」
「撃て!」
攻撃が放たれた。それはまずスードリを直撃した。まずは指揮系統を破壊してきたのだ。
光がスードリを撃ち抜いた。忽ちのうちに炎に包まれる。だがそれでもそのスードリは前進を止めなかった。
「何だとっ!まだ動くというのか!」
エイブはそれを見て思わず絶句した。
「最早撃墜も時間の問題だというのに」
「あの艦に乗っている者達もまた邪なオーラに取り憑かれています」
「邪なオーラに」
「はい。今彼等は彼等の意思で動いているのではありません」
エレは言った。
「あの赤い髪の女によって。動かされているのです」
「あの女に」
エイブはそれを聞いて目を瞠った。その前にはジェリルのレプラカーンがいた。彼女はリョーコ達のエステバリスを相手に
その剣を振るっていた。
「チッ、何て素早さだ!」
リョーコがジェリルのオーラ斬りをかわしながら言った。
「チョコマカと!」
「リョーコさん、また来ますよ!」
「おわっ!」
ヒカルの言葉に咄嗟に後ろに下がる。今までいた場所が横薙ぎにされていた。
「もう少し遅かったら真っ二つだったな、おい」
「フン、運がいいねえ」
「生憎悪運は強いんだよ、この程度でやられてたまるかよ!」
「けれど男運はない」
「イズミ!今は笑ってはいられねえぞ!」
「どうします、まずいですよ」
ヒカルも真剣な顔であった。
「この人、どう見ても普通じゃないですし」
「他の連中に助けを呼ぼうにもな」
皆ティターンズとの戦闘に入っていた。とても手は回りそうになかった。
「あたし達でこの女の相手をするしかないみたいだな、ここは」
「仕方ありませんね」
「仕方ない、しかっと承知」
「・・・・・・イズミよお、真面目な場所で駄洒落は止めてくれよ」
リョーコはそれを聞いて脱力しそうになった。
「今まじでやばいんだからよ」
「参りましたね、本当に」
「ああ。あたし達で相手にならないってのも癪だがな」
「アムロ中佐やクワトロ大尉ならともかく」
「あの二人かダバ坊やっきゃねえか?ここは」
「あともう一人」
「あいつか」
そこでリョーコの顔が動いた。
「来るか?」
「いつものパターンなら」
「パターン赤!」
「!?マヤさんか!?」
「えっ、私!?」
だがマヤは話を振られてキョトンとした顔で返してきた。
「私何も言ってないわよ」
「ってことはイズミかよ」
リョーコはそれがわかって溜息をついた。
「ったく毎度毎度」
「その赤が来たわよ」
「何だって!?」
「赤いマシンが」
「そうか、あいつか」
今度は溜息ではなく会心の笑みであった。
「いいところで来るな、いつも」
「そうですね、パターン通り」
「主役はいいとこどりってわけか」
ニヤリと笑った。その時だった。
「三人共、ここは俺に任せてくれ!」
ショウのビルバインが三人の前にやって来た。
「来たな、ショウ!」
「遅れて済まない!」
「何いいってことさ。じゃあここは任せるぜ」
「ああ」
「私達はティターンズに向かいますんで」
「それじゃさようなら」
三機のエステバリスは下がった。そしてショウはジェリルと対峙した。
「ジェリル!そこまでオーラを暴走させて!」
「フフフ、いい気持ちだよ」
その顔に狂気を漂わせて笑う。
「わかるかい?力を手に入れた喜びが」
「そんなもの!」
「今のあたしの相手になる奴なんかいないんだよ。どんな奴でもね」
「ショウ、もう話しても無駄みたいよ」
チャムが横で囁く。
「何を言っても」
「だがこのまま置いておくわけにはいかない」
ショウはそれに応えて言った。
「ここは何としても止める。その為に来たんだからな」
「うん」
「チャム、しっかりとつかまってろよ」
「どうするの?」
「一撃で決める。それ以外に方法はない」
「さあ、殺してやるよ!」
ジェリルはその剣をまた構えてきた。
「あたしのこの手で皆ね!真っ二つにしてやるよ!」
「そうはさせるか!」
ショウはビルバインを突っ込ませた。
「その悪しきオーラ力、この手で断ち切ってやる!」
「あたしは悪だったら御前はどうなんだよ!」
ジェリルはそれに言い返しながら剣を振るう。
「この裏切者が!何処に行ってもそれはついて回るんだよ!」
「俺は裏切者じゃない!」
ビルバインが分身した。そしてレプラカーンの剣をかわす。
「俺は悪しきオーラを断つ為に戦っている!ドレイクはその悪しきオーラに憑かれている!」
「チッ!」
ジェリルは剣をかわされて舌打ちした。
「そして御前も!今それを断ち切る!」
オーラソードを大きく振り下ろした。ハイパーオーラ斬りであった。その速さと威力はジェリルとて避けられるものではなかった。
剣が一閃した。レプラカーンが大きく前に斬られる。コクピットこそ斬られてはいなかったがそれでも戦闘不能なのは見ただけでわかった。
「やったか!?」
「これで終わりね!」
ショウとチャムはそれぞれ言う。だが残念なことにそれで終わりではなかった。
「チッ、やってくれたね」
コクピットにダメージを受けていないのが災いした。ジェリルはまだ健在でありその怒りがオーラに入ってしまったのだ。
「クッ、まだ立っているか!」
「何てしぶとい!」
「こうなったら・・・・・・とことんまでやってやるよ」
その顔が憎悪に満ち歪んだ。全身をドス黒いオーラが覆いそれは急激に膨張していった。やがてそのオーラはレプラカーンすら包み込んだ。そして異変が起こった。
「死ねええええええええええええええええええええっ!!!」
ジェリルは叫んだ。それと共にレプラカーンの傷が塞がった。そして急激に膨張をはじめた。
「なっ!」
ショウだけではなかった。そこにいたロンド=ベルの戦士達もアレンとフェイも思わず声をあげた。
「何だあれは!」
「わ、わからん!」
それを見て絶句しない者はいなかった。
「どういうことなんだ、一体」
「ハイパー化です」
「ハイパー化」
皆シーラのその言葉に顔を向けた。
「オーラ力が暴走した時に起こるのです。伝承でだけだったのですが」
「それが今暴走して」
「何てことだ」
「あのまま進むと恐ろしいことが起こります」
「恐ろしいこと」
「はい。あの者はもう自身の悪しきオーラ力に取り込まれています。このままですと」
「周りも破壊し尽くすってことか」
「そうです。何としても止めなければなりません」
「口では簡単だけどな」
それを聞いてビルギットが言った。
「これは並大抵じゃねえぜ、あいつを何とかするのは」
「そうだね」
アンナマリーがそれに頷いた。ジェリルのレプラカーンは巨大化し、まるで巨人の様になっていたのだ。
「あっはははははははははははははは!」
ジェリルはその中で笑っていた。
「あたしが大きいということは・・・・・・あたしが勝つということだあ!」
「完全にいかれやがったか」
「駄目だ、ああなっちまったらもう」
アレンもフェイも言葉がなかった。
「破滅しかないか」
「ジェリル、御前は」
二人も何も言えなかった。ただ見ているだけしか。ジェリルは最早その人格すら崩壊していた。
「さあ、死ぬんだよ!」
そして叫ぶ。
「どいつもこいつも!くたばりな!」
その巨大なオーラソードを遮二無二振り回す。皆それから逃げ惑うばかりであった。
「な、何て剣圧だ!」
「こんなのどうやって倒せばいいんだよ!」
「皆諦めるんじゃないよ!」
赤い髪の獅子が叫んだ。
「ルネ!」
「この程度の相手!あんた達は今まで何度も相手にしてきた筈だよ!」
彼女はロンド=ベルの者達に対して言った。
「そのあんた達が怖気付いてどうするんだよ!こんなところで!」
「くっ・・・・・・」
「下がっちゃ駄目だ!ここは行くんだよ!」
「行くのか」
「そうだ!足りない分は勇気で補う!」
凱も叫んだ。
「そして勝つ!最後は勇気ある者が勝つんだ!」
「そうか、そうだよな」
まずは甲児がそれに頷いた。
「こんなところでちんたらやってられっか!あの化け物も倒してやろうぜ!」
「よし!じゃあ皆行くぞ!」
「おう!」
ロンド=ベルは再び奮い立った。そしてジェリルに向かう。その先頭にはルネと凱がいた。彼等は一直線に突っ込む。
「ルネ、無茶をするなよ」
凱は横を疾走するルネに対して言った。
「俺はガオガイガーにいるが御前は」
「甘く見るんじゃないよ」
だがルネはそんな彼に対してこう言い返した。
「あたしもイークイップしているんだ。この程度なら」
「やれるんだな」
「やれるんじゃないだよ、GGGは」
ルネは凱にまた言った。
「やるんじゃなかったのかい、勇気で」
「そうだな」
凱もそれに頷いた。
「じゃあ見せてやる、ガオガイガーの勇気を!」
「ああ、見せてもらうよ!」
「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
ガオガイガーはすぐに攻撃に入った。
「ブロオオオォォォォォクン、マグナムッ!」
拳を放った。それは一直線にジェリルのハイパーレプラカーンに向かった。
「ハッ!そんな攻撃!」
ジェリルはものの数ではないと言おうとした。だがそれは彼女の予想よりも鋭い攻撃であった。
螺旋を描きながら一直線に突き進む。そしてレプラカーンに突き刺さった。
「何だって!?」
「言った筈だ!最後に勝つのは勇気だと!」
凱は言う。
「力だけでは勝てはしない!それを今見せてやる!」
「ふざけるんじゃないよ!力のある方が勝つんだよ!」
ジェリルはそれに反論して叫んだ。
「勇気なんざ何の価値もないんだよ!」
「勇気は力だ!」
だが凱はなおも言う。
「その勇気を認められない奴は最後には負ける!それは御前だ!」
「あたしが負けるだって!」
「そうだ!」
今度は断言であった。
「それはもうすぐだ!今それをわからせてやる!」
「クッ!」
「熱いねえどうも」
ハッターは凱を見て楽しそうに呟いた。
「この感じがたまらないよ」
「あら、ハッちゃんって結構ホットだったんだ」
「その呼び方は止めろ!」
フェイにこう返す。
「俺はアーム=ド=ザ=ハッター!一匹狼の軍曹様だ!」
「いいじゃない、別に」
しかしフェイの態度はしれっとしたものであった。
「ハッちゃんでさ。可愛いじゃない」
「だから止めろと言っている!」
それでもフェイは退かない。
「じゃあ何て言えばいいのよ」
「軍曹と呼ぶのだ!いいな!」
「じゃあ軍ちゃん!」
「貴様、からかってるのか!」
「からかってなんかいないわよ。何かその暑苦しい雰囲気がちょびっと嫌な感じなだけよ。ださいじゃない」
「何っ、俺がださいだと!」
「ださくなかったらイモかしら」
「く~~~~~っ、口の減らない女だ!」
「本当に。アスカ顔負けだね」
「ちょっと、ドサクサ紛れに何言ってるのよ」
「とにかく真面目に戦争をしないか」
ライデンが二人の間に入って来た。
「今大変な時だしな」
「おっと悪い」
「それじゃあびびっとね」
バーチャロイド達も黙った。そして戦場に意識を戻した。
ガオガイガーとハイパーレプラカーンはなおも対峙している。凱はその巨大な剣をかわしながら攻撃を撃ち込み続けている。
「させんっ!」
「チッ!」
ジェリルは遮二無二剣を振るう。だが凱はそれを見切っていた。
「そんな出鱈目な剣の動きでは俺は倒せない!」
「馬鹿言ってるんじゃないよ!あたしに倒せない奴なんているものか!」
ジェリルは狂気に満ちた目で叫んだ。
「このあたしにさ!」
「駄目だな、あれは」
「ああ」
アレンとフェイはそんなジェリルを見て呟いた。
「もう完全にオーラに取り込まれてやがる」
「ティターンズの他の連中は壊滅したってのにな。あいつ一人だけじゃどうにもならねえな」
「どうする?行くか?」
「助けにか」
「そうだ。どうする?」
「嫌、無駄だと思うぜ」
フェイはそんなアレンを制止した。
「もうあそこまでいっちまったら手遅れだろう」
「手遅れか」
「そしてあいつは俺達だって敵だと思っている。目に入る奴は全部な」
「そうか」
「残念だがな。だが最後まで見届けてやろうぜ」
「あいつの戦いぶりをか」
こうして二人は戦いを見守り続けていた。ジェリルは尚も剣を振るっている。
「あっはははははははははははは!」
狂気は更に高まっていた。最早目の前にいる凱さえも見てはおらず。ただ暴れるだけであった。そんな彼女を見て怖れを抱かないと言えば嘘になる。
だがそれでも凱は対峙していた。そして戦う。彼もまた勇者であった。
「おおおおおおおおおおおおっ!」
ドリルニーを繰り出す。だがその膝の爪を断ち切られた。
「当たったねえ!」
「クッ!」
「覚悟はいいかい!」
「この程度で!」
まだ手はあった。凱とても退くつもりはなかった。
「なめるなあっ!」
「いや、待ってくれ凱」
しかしここでショウがやって来た。彼もまたジェリルと戦っていたのだ。
「今のあいつは・・・・・・オーラじゃないと倒せない」
「どういうことだ、それは」
「あいつは悪しきオーラによって暴走している。それを断ち切らなければ話にならない」
「切るんだな」
「ああ」
ショウは頷いた。
「任せてくれ、やってみせる」
「わかった、じゃあ最後は御前に任せる」
凱も頷いた。
「そのオーラ、見せてもらうぞ」
「済まない」
「そこにいるのはショウ=ザマかい!」
「ジェリル!」
ジェリルは目の前にいるショウに気付いた。
「見ないと思ったらそんなところに!」
「ジェリル!これで決める!」
ショウは叫び続けるジェリルに対して言った。
「俺の剣で!御前のオーラを断ち切ってやる!」
「できるのかい、あんたに!」
「だからここに来た!今それを見せてやる!」
剣を構える。その横にダンバインがやって来た。青いダンバインであった。
「トッド!」
「俺も入れてもらうぜ」
「いいのか」
「構いやしねえよ。御前一人じゃちと辛いだろうからな」
トッドは不敵に笑いつつこう言った。
「一人で無理でも二人ならって言うだろ」
「ああ」
「そういうことだ。一気に仕掛けるぜ」
「わかった。じゃあ行くぞ」
「おう、指示は任せたぜ!」
「一人でも二人でも同じことさ!」
ジェリルの剣が振り下ろされた。
「あたしにとってはね!」
「何の!」
「この程度ではな!」
ショウとトッドはそれぞれ左右に散った。そして攻撃をかわした。
「行くぞ!」
「おう!」
そのすぐ後に攻撃に移った。まずはビルバインがウィングキャリパーに変形した。
ダンバインがその上に飛び乗る。そしてそのままレプラカーンに突っ込む。
「今だぜ、ショウ!」
「よし!」
ダンバインが跳んだ。同時にウィングキャリパーからビルバインに戻った。その手にはもう剣がある。
「はあああああああああああああっ!」
「これで終わりにさせてもらうぜ!」
ショウは横に、トッドは縦にハイパーオーラ斬りを仕掛けた。そして同時に振るった。二筋の光がレプラカーンを襲った。
十字がその巨体に刻まれる。それにより動きが完全に止まってしまった。
「やったか!」
「いや、油断するのはまだ早い!」
ショウは横に来たトッドに対して言った。
「まだ、あいつは生きている」
「おい、マジかよ」
「ああ、だが」
「・・・・・・終わりが近いんだな」
「そうだ」
ショウは小さな声で言った。今レプラカーンは動きが止まり、その中のジェリルにも異変が起こっていた。
「あ、あたしが」
ジェリルはまだ狂気に満ちていた。そしてその中で呻いていた。
「あたしが・・・・・・負けるなんて」
レプラカーンの全身にヒビが入っていく。
「そんなこと・・・・・・有り得ないんだよ。このあたしが」
だがレプラカーンの崩壊は止まらなかった。そしてそれはジェリル自身にまで及んでいた。
「このあたしがーーーーーーーーーっ!」
それが最後の言葉であった。レプラカーンは爆発し、そしてジェリルもその中に消えた。ジェリル=クチビは今ここに死んだのであった。
「ジェリル・・・・・・」
「終わっちまったか」
アレンとフェイはそれを見届けたうえで呟いた。
「最後まで・・・・・・馬鹿な奴だったな」
「ああ」
そう言い残して二人は戦場を離脱した。ギリシアから撤退出来たのは彼等しかいなかった。ジェリルと共にロンド=ベルと
戦ったティターンズの部隊も壊滅しており戦場に残っていたのはロンド=ベルしかいなかった。
だが彼等は勝利者の顔をしてはいなかった。とりわけショウ達のそれは深刻なものであった。
「オーラに取り込まれた結果か、あれは」
「おそらくは」
シーラはショウにこう答えた。
「自らのオーラを抑えることが出来なくなっていたのでしょう、それで」
「怒りや憎しみに捉われて」
「全てはその結果です、そして彼女は」
「破滅したということか」
「そうです。そしてそれは」
「誰にでも起こり得る」
「戦いが続く限りは」
「それが人々のオーラを歪めてるっていうのか・・・・・・クッ」
「あれは今まで感じたことがない程だった」
ブリットが言った。
「あそこまで剥き出しの邪念は」
「オーラバトラーにはあんな性能が備わっていたのか」
「いや、それは俺も知らない」
ショウは亮のその言葉に応えた。
「ただ・・・・・・ジェリルは自分のオーラ力を制御出来なくなっていた」
「それでか」
「ああ。シーラ様の言葉によれば」
「じゃあ俺達もああなるって可能性があるんだな」
ニーがそれを聞いて言った。
「一歩間違えれば」
「身につまされるぜ」
トッドはとりわけ深刻な顔になっていた。
「俺も一時期ショウとは激しくやり合ってたしな」
「トッドは危なかったかもね」
マーベルはそれを聞いて頷いた。
「あのままドレイクやビショットのもとにいたらいずれは」
「縁起じゃねえな。けれどそうだな」
だがそれを聞いて納得できるものがあった。
「感情をコントロール出来なくなってな」
「それは俺もだ」
ショウも頷いた。
「俺も感情をコントロール出来なくなればな」
「ショウもああなっちゃうの!?」
「可能性はあるさ、それは認めるよ」
チャムにも応えた。
「自分でもわかってる」
「あんなのにならないでよ、お願いだから」
「ああわかってる、俺はコントロールしてみせるさ」
それは半分自分に言い聞かせていた。
「ちゃんとな」
「頼むよ、お願いだから」
「ああ」
ショウは頷いた。そして今までジェリルがいた方をみやった。
「ああはなりたくない、絶対に」
その言葉には嫌悪があった。暴走と破滅への。彼は今それを己への戒めとしたのであった。

第八十五話完

2006・4・7  
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