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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第八十六話 それぞれの思惑

                第八十六話 それぞれの思惑
「そうか、ジェリル=クチビが」
ドレイクはギリシアでの戦いのことをウィル=ウィプスの艦橋で聞いていた。
「そして死んだというのだな」
「その通りでございます」
報告する部下がそれに応えた。
「ハイパー化というのだな」
「はい」
「オーラ力が暴走してか」
「どうやら。アレン殿とフェイ殿の話によれば」
「そしてあの二人は帰っているのだな」
「はい」
部下はまた頷いた。
「御会いになられますか」
「いや、いい」
だがドレイクはそれは行わなかった。
「二人には次の戦いまで休むように言っておけ」
「わかりました」
「次の戦いも激しくなるだろうからな」
「ウィーンですか」
「そうだ。ビショット殿とショットにも伝えておけ」
「戦いのことを」
「あの二人のことだ。そうおいそれとは動かぬ」
彼にはビショットとショットのことがよくわかっていた。
「目の前に餌を出さぬ限りな」
「その餌は」
「これからのことだ。何、利益には五月蝿い連中だ」
彼は言った。
「それを見せてやれば動くだろう。だがそれは」
「仮初めの餌ですか」
「ジャマイカン殿にはもう話はついている。この戦いを退けることが出来れば」
「欧州を我等の手に、ですな」
「そう、そしていずれはこの地上を」
彼の野心は膨らんでいた。
「私の手の中に収める。よいな」
「はっ」
「だが一つ気になることがある」
「気になること?」
「あのブルーコスモスという連中だ」
「何でも商人ということですが」
「だが只の商人ではないな」
「政治家でもある、と」
「戦士ではないがな」
ドレイクはそれも読んでいた。
「それなりに狡猾で抜け目のない連中の様だな」
「はい」
「だが所詮器が小さい。あのアズラエルという男は気にはしなくてもよい」
「駒としてはどうでしょうか」
「悪くは無いが所詮は使い捨てだ」
ここはジャミトフやバスクと同じ見方をしていた。
「ああした輩は捨て所が肝心だ。キリのいいところで捨てるに限る」
「問題はその場所であると」
「そうだ。あの様な軽い男より注意すべきは」
「わかっております」
「その為の餌だ。よいな」
「はっ」
ウィル=ウィプスはゆっくりと南下していた。その動きはロンド=ベルにも伝わっていた。
「ベルリンからウィル=ウィプスが南下してきています」
シモンはアルビオンの艦橋でそう報告した。
「そしてパリからゲア=ガリングが」
「プラハからはスプリガンが来ています」
「そうか、遂にか」
シナプスはパサロフの話も聞いてブリッジで頷いた。
「バイストンウェルの者達も動いてきているか」
「オーラバトラーもかなり動員されています」
「ティターンズはどうだ」
「トルコにいた部隊に援軍が加わっています。かなりの数が既にウィーンに集結しています」
「そうか」
「既に防衛態勢を整えています。ウィーンは要塞に近い状況となっています」
「出来ることなら市街戦は避けたいがな」
「ですがそうも言ってはいられないかと」
「わかっている。全艦このまま進むぞ」
「はっ」
ロンド=ベルも迷うことなく進撃を続けていた。だがティターンズはここで思惑があった。
「やばくなったら逃げろってか」
「そうではない」
ジャマイカンはヤザンに説明していた。
「転進だ。イギリスまでな」
「どっちにしろ同じことじゃねえか」
彼は言葉の取り繕いには誤魔化されなかった。
「逃げるんだろうが、またよ」
「ロシアでも逃げたしね」
それを聞いてライラも言った。
「ティターンズらしくないよ」
「これも戦略だ」
だがジャマイカンはそれに反論した。
「いざとなれば宇宙に帰る」
「またか」
それを聞いてジェリドが顔を顰めさせた。
「何度それを繰り返すんだ」
「ジェリド、ああそう言うな」
そんな彼をカクリコンが制止する。
「これは戦争だ。俺達はその指示に従うだけだ」
「よくわかっているな、カクーラー中尉」
「いえ」
素直に応えはしたが彼もあまり面白そうな顔はしてはいなかった。
「だが今回は戦えるだけ戦う」
「それが駄目になった場合、ですね」
「そういうことだ」
ジャマイカンは今度はダンケルの言葉に応えた。
「いいな」
「いざという場合の後詰は誰なのですか?」
クロノクルが問う。
「宜しければ我々がまた」
「いや、今回は諸君等はそのまま戦ってもらう」
そう言ってザビーネを制止した。
「今回はドレイク閣下がいざという時の後詰に回って頂けるそうだ」
「ドレイク閣下が」
だが皆その名を聞いてもいい顔をしなかった。
「それは本当でしょうか」
「そうだ」
ラムサスに返す。
「自ら志願して来られた。ならば無下に扱うことは出来ない」
「それはそうですが」
だがマウアーはそれを聞いても難しい顔をしていた。
「ドレイク閣下だけでは」
「ビショット閣下やショット殿も参加して下さるそうだ」
「あの方々も」
ジャマイカンの言葉には楽天的なものもあったが他の将校達のそれはさらに暗くなっていた。
「ここはあの方々にお任せしよう」
「わかりました」
ドレルが最初に頷いた。
「では」
「諸君等は命を粗末にする必要はない」
「はい」
頷いてはいるがそこには不信がありありと見てとれた。
「よいな。我等にはまだ宇宙がある」
ジャマイカンはまた言った。
「そこには新たな同志達がいるのだ。我等の力は依然健在だということを忘れるな」
「わかりました」
これで会議は終わった。ジャマイカンは一人席を立ち部屋を後にした。だが他の面々は部屋に残っていた。貴族の屋敷の応接室をそのまま会議室に使った豪奢な部屋であった。
そこにある大きなテーブルに皆座っている。ティターンズの軍服とクロスボーンの軍服、そしてザンスカールの軍服を着て。彼等は軍服こそ違うがその顔は同じになっていた。
「能天気なことだな」
まずはヤザンが口を開いた。
「あいつが信用できるなんてな」
「安心しな、ジャマイカン少佐も本心から思ってはいないさ」
ライラが彼に対して言った。
「利用しようとしているだけだよ」
「政治的にか」
「まあそうだろうね」
「けったくそ悪いぜ。何かって言うと政治的配慮だ」
ヤザンはそれが気に入らなかったのである。
「そんなことばっかりやってるからロンド=ベルに勝てないんだろうが」
「だが使えるものは使わなくてはならないのも事実だ」
カクリコンがそれに反論した。
「そうした意味でこの戦略も正しい」
「で、今度はあのブルーコスモスか」
ドレルはあまり面白くなさそうであった。
「あのムルタ=アズラエルという男は」
「大した男じゃないよ、あれは」
ファラは思わせぶりに笑って言った。
「少なくともジャマイカンと同じ程度さ」
「あの程度か」
ザビーネはそれを聞いて嘲笑を見せた。
「では気にすることはないか」
「いや、そうもいかないさ」
だがライラは彼にも注意した。
「ああしたタイプってのはね、切れたら何をするかわからないからね」
「どのみち単なる戦争屋だと思うがな」
「キチガイに刃物っていうだろ」
ジェリドにも返した。
「下手に権力と金も持ってるからね。やばいよ」
「どっちにしろ厄介な奴みてえだな」
「まあ連中もあたし達を利用するつもりなんだろうけれどね」
「ふん」
「ジャマイカンの奴はどうせウィーンから逃げるんだろ?スードリでブラン大尉とベン大尉が来ているそうだな」
「耳が速いね」
ライラはダンケルに言った。
「それなりにな。あとロンドンで脱出シャトルの準備も進めているらしい」
「イギリスか」
ラムサスがそれを聞いて呟いた。
「海を渡って逃げるのか」
「いざとなればな」
「まあ撤退のことも考えておくってのは間違いじゃないさ。あたし達実戦部隊もね」
「その通りだな。そういえばカテジナの姿が見えないな」
ジェリドはテーブルを見回した。
「何処に行ったんだ?」
「カテジナならもう前線に行ったわ」
マウアーが答えた。
「何でももうすぐ敵が来るからって」
「敵が来るのはもう少し先の筈だがな」
ヤザンはそれを聞いて低い声で言った。表情は変えない。
「どういうことなんだ」
「戦場の空気に触れていたいって言ってたわ」
「それよりも血の匂いだろ」
ヤザンはそれを聞いて皮肉な笑みを浮かべた。
「俺も戦場は好きだがあいつはちょっと違うぜ」
「あんたは戦いたいけれどカテジナは血を見たいってことかい?」
「まあそういうとこだな」
ライラに応える。
「俺とあいつじゃ戦場に立つ理由は違うんだよ」
「成程ね」
「戦いたいだけなんだよ、俺はな」
「それじゃあ次も期待していいんだね」
「ああ、任せておけ」
今度は不敵な笑みになった。
「どいつもこいつもまとめて潰してやるぜ」
「楽しみにしてるよ」
「それではそれぞれの持ち場に戻るか」
「おう」
一同カクリコンの言葉に応えた。そして席をたち持ち場に向かった。
この時カテジナはザンスカールの軍服を着て前線にいた。そして前を見据えていた。
「楽しみね」
そして一言呟いた。
「ウッソ、来るのよ、私の前に」
血塗られた声で言った。
「そして。殺されなさい、私に」
その顔には狂気が浮かんでいた。彼女は最早かってのカテジナではなくなっていた。戦場の狂気に支配された女となっていたのであった。
だがウッソはまだそれを知らなかった。ラー=カイラムの中でオデロ達とお喋りを楽しんでいた。
「何か欧州に戻って来るなんて思わなかったね」
「これで二回目か」
「それも戦争で。何か複雑だなあ」
「仕方ないって言えば仕方ないけれどな」
彼等は居住区で話をしていた。周りでは他の者達があれこれと動いている。
「それにしてもティターンズとまた戦うなんて」
「意外か?」
「意外ってわけじゃないけど。あれだけやられて地上に残ってるっていうのも」
「何でもまた変なのがついたらしいぜ」
「変なの」
「ああ。ブルーコスモスって連中らしいぜ」
「何、それ」
「何でもティターンズみたいな地球至上主義者の集団らしいけれどな」
「またあんな無茶な連中なの?」
「無茶は無茶でも軍隊じゃないらしいぜ」
「そうなんだ」
「所謂軍産複合体ってやつらしい」
「また訳のわからない組織みたいだね」
「いや、実は結構簡単な連中なんだ」
「ビルギットさん」
二人のところにビルギットがやって来た。
「一言で言うと会社だな」
「会社」
「ああ。兵器を作って売る連中さ。そう言うとわかりやすいだろ」
「はい」
「で、その連中がティターンズみたいな考えを持ってるってわけですな」
「まあそういうことだ」
ビルギットはそれに頷いた。
「それで似た考えのティターンズに接近したってことさ」
「そうなんですか」
「理事ってやつが一番偉いらしいな」
「誰ですか、それ」
「ムルタ=アズラエルって奴らしい」
「ムルタ=アズラエル」
ウッソはその名を聞いて呟いた。
「親父さんの後を継いで社長になったらしい。名門の出身でな」
「ふうん」
「結構頭は切れるらしいけれどな。いい話は聞かないな」
「人間的には・・・・・・ってことですか」
「ティターンズに接近してるのは思想とあとは儲け、戦争の後のことを考えてらしいが。さてどうなるか」
「ジャミトフだったら変な奴だと切り捨てかねませんよね」
「いいところに気付いたな、オデロ」
ビルギットはオデロのその言葉を聞いて言った。
「それだよ」
「それですか」
「まあティターンズも半端な連中じゃないからな。下手すればそうなるかもな」
「やっぱり」
「しかし連中は金とネットワークを持ってるからな。そうそう切られはしないさ」
「持ちつ持たれつってわけですか」
「そういうことだ。この場合言うだろ」
「蛇の道は蛇」
ありきたりな言葉ではある。
「同じ穴の狢ってのもあるな」
「類は友を呼ぶ、とも言いますよね」
「俺達だって結構似た奴多いしな。まあああした連中に来るのはああした連中ってことだ」
「どっちにしろ僕達の敵ですか」
「そうだ。だから容赦することはねえぞ」
「わかりました」
彼等はそんな話をしていた。そして出撃の時間になったので格納庫に向かった。既にパイロットスーツに着替えている。
「音楽の都で戦闘とはな」
アムロがニューガンダムに向かいながらふと呟いた。
「厄介なことだ」
「けれどティターンズがそこにいますから」
「それはわかってるさ」
ケーラにこう返す。
「嫌だとも言ってはいられない。やるしかない」
「はい」
「けれどティターンズもかなり守りを固めてるらしいですよ」
ここでカツが言った。
「要塞みたいだって」
「要塞か」
アムロはそれを聞いてすっと笑った。
「ゼダンの門といい。ティターンズは要塞が好きなのかもな」
「ああした連中の特徴かも知れませんね」
シーブックがそれに応えて言った。
「ネオ=ジオンもアクシズがありますし」
「ああ」
「そしてギガノスも月の要塞の建設を急いでいますし。そんなに要塞に頼りたいんですかね」
「頼りたいのだろうな」
アムロはそれに頷いて言った。
「人間は弱いものだ」
そして言葉を続ける。
「何かに頼って、逃げ込みたいという心は誰にでもあるからな」
「誰にでも、ですか」
「だから要塞を築くんだ」
そしてまた言う。
「そこに閉じ篭って。助かりたい為に」
「けれどそれが陥ちたら」
「また別の要塞を探す」
シーブックに応える。
「新たな殻を探す。けれど何時までもそこに篭るわけにはいかないんだ」
「何時かは出て来なければいけないんですね」
「そうだ。何かシンジに言ったことがあったような気がするがな」
「彼も随分変わりましたね」
「ああ」
今度はケーラに応えた。
「最初はな。昔の俺を見ているみたいだったよ」
「昔のアムロ中佐をですか」
「一年戦争の頃の俺は甘ったれてたからな」
「ブライト艦長がよく言いますね」
「けれど僕はそうは思いませんでしたよ」
「カツ」
「僕にとってはブライト艦長もアムロ中佐も立派な人でした」
「おいおい、お世辞は止めてくれよ」
「いえ、本当に。この前の戦いだって何度救われたか」
「確かに中佐抜きだとやばい状況が何度もあったわね」
「だからです。シンジ君も今は頼りになりますし」
「少なくとも強くなったわね」
「そうだな。アスカも変わったし」
「あれでですか」
それを聞いたラッセが声をあげた。
「もっと凄かったのよ」
彼にケーラが説明する。
「誰彼なしに噛み付いて」
「今と大して変わらないような気がしますがね」
それを聞いてナンガも言った。
「いや、昔はもっと凄くて」
「とんがってたな、あの時のアスカは」
アムロもその頃を思い出していた。
「どうなるかと思ったものさ」
「アスカさんはきっと寂しかったんだよ」
「ヒメ」
「だからとんがってたんだよ。今と違って」
「そうなのか」
「そうよ。アスカさん本当は優しい人だから」
「確かに悪い奴じゃないな」
これには勇も頷いた。
「あれで意外と繊細だし」
「タケルものことも心配していたしね」
「そうだな。アスカは確かに変わった」
アムロがまた頷いた。
「人は色々あって変われるんだ」
「はい」
「それがいい方向に行くようにしよう。その為にも」
「行きますか」
「ああ」
ラー=カイラムからもマシンが出撃した。そしてウィーンの前方に部隊を展開させたのであった。
既にティターンズは防衛態勢を整えていた。そこには多くのモビルスーツとオーラバトラーが集結していた。
「ドレイク閣下」
後方にはジャマイカンのスードリがあった。彼は今回スードリに乗っていたのである。
「何か」
モニターにドレイクの黒い姿が現われた。
「若しもの時はお願い出来ますな」
「勿論です」
ドレイクはむべもなくこう返した。
「我々はその為にこちらに来ているのですから」
「それは有り難い。ですが」
「ですが。何ですかな」
「ビショット閣下とショット殿の姿が見えませぬが」
「彼等もじきに来ます」
ドレイクは表情を変えることなく言った。
「ですから御安心を」
「わかりました。それでは」
「はい」
そこまで話してジャマイカンはモニターを切った。ドレイクはそれを確かめ、モニターが完全に暗黒となったところで言った。
「器の小さい男だな」
「全くです」
部下の一人がそれに応えた。
「ティターンズだと偉そうに言っても大したことはない」
「所詮は使い走りの身分ですしな」
「だが痛いところも突いてきた」
「ビショット様とショット殿のことですか」
「今あの二人はどうしているか」
「ウィーンに向かってはいるようですが」
「遅れているのだな」
「はい」
部下はドレイクの問いにこう答えた。
「足は遅いです」
「ふん、またしてもか」
ドレイクはそれを聞いて忌々しげに言った。
「漁夫の利を得ようというのか。あざとい奴等だ」
「どうされますか」
「我等もそれは同じだしな」
下にいるティターンズの部隊を見下ろしながら言う。
「恩を売っておく時には売っておこう」
「では」
「今はよい。わかったな」
「はっ」
「それよりも今は我等の仕事をする方が先だ」
「ティターンズの援護ですか」
「どう動くと思うか」
「おそらく退くと思います」
部下の一人が答えた。
「退くか」
「あの指揮官の性格からすると」
「ふむ」
「よって我等が矢面に立つこととなるのではと」
「覇業の為の試練としておくか」
「はい」
「いずれあの者達とも手を切ることとなる」
ドレイクはティターンズとの同盟を永続的なものとは考えていなかった。あくまで一時的なものでありいずれは倒すつもりであった。これはティターンズの方でも全く同じことを考えていた。
「その時の為にもな」
「そしてロンド=ベルを叩いておく」
「その通りだ」
ドレイクは頷いた。
「あの軍にはグランガランとゴラオンがいる」
「はい」
「そして裏切者ショウ=ザマも。あの者達もいるしな」
「どちらにしろ戦わなければなりませんな」
「いずれ決戦を挑むことになるだろう」
ドレイクはそう読んでいた。
「その前にだ」
「力を削いでおきますか」
「オーラバトラー隊の発進準備は整っているな」
「後はお館様の御言葉のみです」
「よし。では全機出撃せよ」
「はっ」
「このウィーンで一度本格的に剣を交える。よいな」
「御意」
こうしてドレイクはその配下の軍を全て出してきた。彼等はティターンズの上にその姿を現わした。
「へっ、お味方のお出ましだぜ」
ヤザンは彼等を見上げてこう言った。まだハンブラビはモビルスーツ形態である。
「どっちにしろ宜しくやってもらうか。精々な」
「あの黒騎士はいるか」
ジェリドはジ=オのコクピットで言った。
「呼んだか」
それに応える形で仮面を被った男がモニターに現われた。
「卿は確かジェリド=メサ中尉だったな」
「ああ、知っていたか」
「卿のことは聞いている」
仮面の男黒騎士は落ち着いた声でこう返した。
「ティターンズのエースパイロットの一人だったな」
「ああ」
「かなりの腕を持つと聞いているが」
「それはあんたもな」
ジェリドも彼に言葉を返した。
「何でもそっちで一番の騎士らしいな」
「そんなことはどうでもいい」
だが彼はそれにこだわる様子を見せなかった。
「今の私にとってはな」
「どういうことだい?」
「今の私にとってやるべきことは一つしかない」
落ち着いていた声が変わった。
「あの男を討つ」
声に憎しみが篭っていた。
「それだけが望みだ」
「俺と似てるな」
ジェリドはそれを聞いてふと呟いた。
「あんたを見ていると鏡を見ているようだ」
「どういうことだ?」
「俺もな。ある男を狙っているんだ」
ジェリドはカミーユとのことを話しはじめた。
「それと同じだと思ってな。一人の敵を狙うってのはよ」
「そういうものか」
「あいつは俺にとって壁みたいなものさ」
そしてこう言った。
「それを越えなくちゃな。先に進めなくなっちまったんだ、俺は」
「私もそれと同じか」
声に自嘲が篭った。
「あの男を倒さなければ。汚名は消えない」
「似た者同士らしいな」
ジェリドはそれを聞いてまた言った。
「話には聞いていたがな。本当に似ているぜ」
「何故それを今話した?」
「一度話をしてみたいと思ってたんだ」
黒騎士に対して言う。
「どんな奴かってな。また縁があったらじっくり話そうぜ」
「そうか。ではその時は」
「酒でも飲みながらな。ウイスキーでもやりながらな」
「ウイスキーか」
黒騎士はそれを聞いてふと口を止めた。
「地上の酒だったな」
「ああ」
「一度飲んでみたことはある。いいものだ」
「そうかい、それはいい」
「一緒に飲んでみたいものだ。縁があったらな」
「ああ、暇があったら飲もうぜ」
「うむ」
意外なところで意気投合する二人であった。そして彼等はモニターを切り戦場に目を移すのであった。
「先陣は私が引き受ける」
カテジナは前方に展開するロンド=ベルの部隊を見据えて言った。
「それでやらせてもらうわ」
「ああ、頼むよ」
それにライラが応えた。
「何かあればフォローに回らせてもらうからね」
「フォロー」
「嫌なのかい?」
「いえ。何か変な気がして」
「変な気」
「私が誰かにフォローされるなんて、って思って」
ふとこう呟いた。
「意外な言葉ね」
「戦場じゃ当たり前のことさ」
ライラは気さくに返した。
「助けて助けられ。それが普通じゃないか」
「そうか」
「あたし達もあんたには何かと助けてもらってるんだ。気にするんじゃないよ」
「有り難う」
「礼はいいさ。それより」
「わかってるわ。ロンド=ベルを」
「そういうこと。じゃあ頼むよ」
「了解」
カテジナのゴトラタンが身構えた。そこにロンド=ベルがやって来た。
「いいか、まずは敵の砲台を狙っていけ」
その指揮を執るバニングが指示を出していた。
「そしてミサイルをだ。邪魔なのから始末していくんだ、いいな」
「了解」
皆それに頷く。
「砲台は射程が長い。まずはそれに注意するんだ」
「つまり懐に飛び込めってことですね」
「簡単に言うとそうだ」
べイトに言葉を返した。
「しかし口で言う程簡単じゃないぞ」
「わかってますって」
「ここは俺達の腕の見せ所だな」
「モンシア、当たるなよ」
「ヘッ、誰に向かって言ってやがる」
モンシアはベイトに軽口を叩いた。
「俺があんなののヘナチョコダマに当たるかってんだ」
「けれどティターンズのモビルスーツもいますよ」
ここでアデルが言った。
「彼等にも注意しないと」
「アデルの言う通りだな」
「少佐」
バニングは少佐に昇進していた。
「ここは慎重に行け。いいな」
「ちぇっ、面白くねえなあ」
それを聞いて勝平が口を尖らせた。
「戦争なんて一気に決めねえと何にもなりゃしないってのによ」
「こら勝平」
そんな彼を宇宙太が叱った。
「また御前はそうやって」
「そんなのだからいつもダメージを受けるんでしょ」
恵子も言う。
「いつもザンボットが一番ダメージを受けてるじゃない」
「傷は男の勲章なんだよ」
しかし勝平はいつもの調子である。
「傷の一つや二つで大袈裟過ぎるぜ」
「馬鹿っ、この前なんて死ぬところだっただろうが」
「戦艦に突っ込むなんて何考えてるのよ」
ギリシアで彼は単機スードリに突っ込んだのである。撃沈こそ出来たもののザンボットはその主砲の直撃を受け結構なダメージを受けていたのだ。
「虎穴に入らんば虎子を得ずだよ」
「珍しくちゃんと言えたな」
「京四郎さんに教えてもらったんだよ」
「とにかくな、無茶は止めろ」
「ティターンズの大部隊が目の前にいるのよ」
「仕方ねえなあ。今度は大人しくいくか」
「まあここはそうするべきだね」
一緒に小隊を組んでいる万丈が言った。
「敵の数も多いしね。多分援軍も来る」
「援軍も」
「そうさ。ウィーンは重要な街だ」
東欧における最大の都市の一つでもある。ここを失うことはティターンズにとって東欧を明け渡すことであり、防衛ラインもそれを防がん為であると読んでいるのだ。
「ここは簡単にはいかないよ」
「敵の司令官が馬鹿だったらいいんだけれどな」
「それでも戦いは激しくなるだろうね」
これが万丈の予想であった。
「とにかくここは気合を入れて慎重に行こう」
「あいよ」
「下手に前に出ないようにね。いいね」
「仕方ねえなあ。俺の好みじゃねえけれど」
「好みで戦争やるんじゃねえよ」
「そうよ、そんなことしてたら命が幾つあっても足りないわ」
「はいはい。ったく少しは忍さんや甲児さんみたいにドカーーーーーーンってやりたいよな」
「だからいつもやってるだろうが、それは」
「わかってるのかしら」
相変わらずの勝平に呆れる二人であった。何はともあれ戦いははじまっていた。
「仕掛けるぞ!」
コウのGP-03がメガビーム砲を構えた。
「これならっ!」
そしてそれをいきなり放つ。目の前には砲台の密集地がある。
そこにある砲台を一気に薙ぎ払う。光と炎がその場を支配した。
光と炎が合図となった。ロンド=ベルの攻撃がはじまった。
「潰せ!」
「モビルスーツはその後だ!」
まずは防衛ラインの破壊に取り掛かった。そして砲台やミサイルを次々に破壊していく。
「いけえーーーーーーーっ、サイフラーーーーーーーッシュ!」
「サイコブラスターーーーーーーーーーッ!」
マサキとリューネが同時に攻撃を放つ。敵の中に踊り込みサイフラッシュとサイコブラスターを放った。これで敵の砲台と
ミサイルはその殆どを失った。
同時にその場にいたティターンズのモビルスーツ部隊もかなりのダメージを受けた。ロンド=ベルはそこで攻撃の
対象をティターンズに切り換えた。
「よしっ、行くぞ!」
「了解!」
激しい攻撃が今度はティターンズに加えられる。それにより退くかと思われたがそうはいかなかった。
「この程度の攻撃で倒れるわけにはいかないわよ!」
カテジナがそこにいた。彼女は素早い攻撃を繰り出して戦線を支えに掛かって来たのであった。
「あの娘、また」
ジュンコが彼女のゴトラタンを認めて言った。
「戦場に立って」
「カテジナさん、どうして」
「ウッソ、貴方を倒す為よ」
カテジナは血走った目でこう返した。
「その為にここにいるのよ。この手で殺す為に」
「まずいわ、彼女」
それを見たマーベットの顔が曇った。
「狂気に捉われているわ」
「あのジェリル=クチビみたいに」
「ジェリル=クチビ」
ウッソがその名を聞いて呟く。彼女のことはウッソもよく見ていた。
「カテジナさんがあんな風に」
ハイパー化の恐ろしい結末は彼も知っている。だからこそ悪寒が走った。
「あそこまでなるとは思えないけれどな」
ギュネイが彼を宥める為か話に入って来た。
「そうなんですか?」
「ニュータイプや強化人間はまた違うんだ。ああした風にはならねえよ」
「よかった」
「けどな、暴走はある」
だが彼はここで付け加えてきた。
「暴走!?」
「ああ、ニュータイプとしてな。自分を制御出来なくなった時にな」
「巨大化したりはしないですよね」
「あれはそう見えるだけだろ?」
「そうですけれど」
「あれとは違うさ。自我が抑えられなくなるんだ」
「自我が」
「ああ。そして行き着く先は」
「破滅、ですか」
「そういうことさ。特にニュータイプとしての力が強い奴はそうなり易い」
「じゃあカテジナさんは」
「なりつつあるかもな。あれはかなりまずいぜ」
「まずいですよね」
「今のままいくとな。それに周りにいるだけで巻き込まれそうだ、このプレッシャーは」
「何か、凄い憎んでるね」
クェスも言った。
「このプレッシャーは。ウッソも感じるでしょ」
「ええ、確かに」
「それもウッソに向けられてる。下がった方がいいわ」
「いえ、そうはいきません」
だがウッソはそれを断った。
「カテジナさんは。僕もよく知ってますから」
「けれどよ、今のあの女は」
「それでもです」
ギュネイに対して言い切った。
「このまま逃げても何もなりませんし」
「やるんだな」
「はい」
ウッソは頷いた。
「やります、絶対に」
「そうか、じゃあ覚悟しろよ」
「はい」
「俺はそっちには行けそうにもないがな」
見ればギュネイとクェスのヤクト=ドーガはそれぞれ別の敵に向かっていた。ファンネルを放っていた。
「そっちは任せたぜ」
「後で手が空いたら行くからね」
「すいません、気を使わせて」
「いいってことさ」
「ウッソにも何かと助けてもらってるから」
ギュネイとクェスは何処か照れた声で答えた。
「さっきも出たけれど困った時はお互い様だろ」
「はい」
「あんたって意外といい人だったんだな」
オデロがここでギュネイに対して言った。
「おいおい、そりゃまたあんまりな言葉だな」
「いや、敵だった時やけに手強かったからさ」
「敵の時はそりゃな」
苦笑しながら言葉を返す。
「敵に対しては徹底的にやらないとな」
「そういうことですか」
「まあ俺もここでエースを目指してるからよ。宜しく頼むぜ」
「幾ら何でもそれは無理じゃないかしら」
マーベットがそれを聞いて言った。
「またどうして」
「アムロ中佐とクワトロ大尉に勝てるのかしら」
「ヘッ、すぐに追い抜いてやるぜ」
しかし彼は強気であった。
「このヤクト=ドーガでな」
「それじゃあ期待してるわ」
「撃墜されないようにね」
「ったくこの俺もジュンコさんにかかっちゃ坊や扱いだな」
「だって実際子供っぽいもの」
「やれやれだぜ」
苦笑を続けながらもギュネイは戦いに入っていた。ファンネルだけでなくミサイルも放つ。そしてモビルスーツやオーラバトラー達の相手をしていた。

「さてと、彼も頑張ってるし」
ジュンコが言った。
「私達も行くわよ、いいわねマーベット」
「ええ、勿論」
マーベットもそれに頷いた。
「もう敵がやって来てるしね」
「それもわらわらとね」
その数はロンド=ベルのそれを圧倒していた。だが彼女達はそれに臆してはいなかった。
「貴女は上を頼むわ」
先に動いたのはジュンコであった。
「私は下の連中をやるから」
「ええ、任せて」
マーベットはそれに応えて身構えた。
「だから下に専念してね」
「了解」
「ウッソ、フォローは任せろ」
オデロはウッソに声をかけていた。
「カテジナさんがすぐにでも来るだろうからな」
「うん、お願いするよ」
ウッソもそれに頷いた。
「感じる・・・・・・確かに」
「ああ」
そのプレッシャーはオデロも感じていた。
「カテジナさん・・・・・・どうしても僕を」
「何か会う度にプレッシャーが強くなっているな」
「このままだと本当に」
「けどな、あれこれ考えてたら死ぬのは御前だぜ」
「わかってるよ」
それはウッソもわかっていた。
「今のカテジナさんは普通じゃない」
「そして手強いぜ」
「来た・・・・・・!」
ビームが来た。ウッソとオデロはそれぞれ左右に飛んだ。
「カテジナさん!」
「そしてもう一人いる!」
「ウッソ、そこにいたのね!」
カテジナのゴトラタンがやって来た。
「白いの!そこにいたか!」
そしてクロノクルも来た。二機のマシンがウッソのⅤ2ガンダムに襲い掛かる。
「このウィーンで死になさい」
カテジナが殺気を飛ばしてきた。
「この私の手で」
「カテジナさん、もう止めて下さい!」
ウッソはそんな彼女に対して叫ぶ。
「このままだと!」
「このままだと何ていうの!?」
それを聞いたカテジナの顔に険が走った。
「うっとうしいのよ!いつもいつも!」
そして絶叫した。
「私の前に現われて!消えなさい!」
「カテジナさん!」
「よせウッソ!」
オデロがフォローにやって来た。
「言っただろ!今のカテジナさんは!」
「けど!」
「うかうかしてたら死ぬのは御前だぞ!わかってるのか!」
「私はやっと居場所を見つけたのよ!」
カテジナの叫びは続いていた。
「それなのにしつこくつきまとって・・・・・・。だからあんたは!」
「うわっ!」
「チィッ!」
二人は今度は上下に散った。そしてカテジナの狂気すら感じる攻撃をかろうじてかわした。
「もう一機は俺がやる」
「うん」
ウッソもこうなっては覚悟するしかなかった。オデロの言葉に頷く。
「御前はカテジナさんに行け。いいな」
「わかったよ。それじゃあ」
「さあウッソ、覚悟は出来てるの!?」
カテジナがまた言ってきた。
「私にやられる覚悟は」
「確かに覚悟は決めました」
ウッソもそれに返した。
「けれど・・・・・・僕はやられはしません」
「ハン!言ってくれるね」
その言葉がカテジナをさらに刺激した。
「それなら・・・・・・殺してあげるわ!」
その声も顔も狂気がさらに増した。最早完全に歪み、目は充血し吸血鬼のそれの様であった。
「血塗れになりなさい!」
「どうしてもというのなら・・・・・・!」
ウッソも構えた。
「僕だって!」
そしてビームライフルを放つ。二人もまた激戦に突入した。
戦いは本格的なものになっていた。ティターンズの前線指揮はブランがあたっていた。
「ジャマイカン少佐はどうしている?」
ブランはスードリの艦橋で副官であるベンに尋ねた。
「ゴトラタンで後方から指揮を執っておられます」
「相変わらずみたいだな」
ブランはそれを聞いて少し呆れたように呟いた。
「今は前線に出ないとどうしようもないと思うがな」
「まあ仕方ありません」
ベンはこれ以上言うつもりはなかった。
「少佐には少佐の御考えがあるのでしょう」
「そういうことにしておくか」
「はい。それよりも我々です」
彼は言った。
「今前線は次第にロンド=ベルに押されはじめています」
「そうだな。このままだとまずい」
「こちらもモビルスーツ部隊を発進させますか」
「俺も行く」
ブランはその言葉に応えて言った。
「艦長もですか」
「アッシマーの準備は出来ているな」
「ええ、まあ」
「なら問題ない。ここの指揮は任せたぞ」
「わかりました。それでは」
「ああ、行って来る」
ブランはアッシマー隊を率いて出撃した。そしてロンド=ベルの前に来て攻撃を仕掛ける。
「ちょっとばかり分が悪そうだがな」
アッシマーは彼等の左右に一旦散る。
「それで何もしないわけにもいかん。やらせてもらうか」
「敵の援軍か!」
「バルキリーを向かわせろ!」
それを見たブライトがすぐに指示を出す。
「そしてあのスードリにも攻撃を集中させる。いいな!」
「了解!」
これに従いバルキリー達がブラン率いるアッシマー隊とスードリに向かう。ブラン達はそれに対して必死の応戦を見せる。だがそれでもジャマイカンは動こうとはしない。
「少佐、前線ですが」
「わかっておる」
彼は震える声で部下に応えた。
「負けておるのだな」
「少し押されております」
部下は密かにこう訂正した。
「援軍はまだか」
ジャマイカンは青い顔で言った。
「援軍は。ビショット閣下とショット殿は」
「もうすぐ来られるようですが」
「もうすぐもうすぐと言って何時までかかっておるのだ!」
今度は激昂してきた。
「このままではウィーンを手放さなくてはならんのだぞ!」
「まだ我々はそこまで至っていないと思いますが」
「黙っておれ!」
だが彼は部下の言葉を聞こうとはしなかった。ヒステリックに喚く。
「とにかく援軍はまだなのか!一体何をしておるのだ!」
彼は最早まともな指揮すら執ってはいなかった。ティターンズはそれぞれの前線指揮官が戦いながら指揮を執っている状況であった。おのずとそれには限界があった。そしてそれは友軍であるドレイクからも見られていた。
「やはりあの男は駄目だな」
ドレイクはジャマイカンの乗るアドラステアを見下ろしながら言った。
「この大事な時に動かぬとは」
「所詮はその程度の男ということですか」
「そうだ。これは逃げるな」
ドレイクはそう読んでいた。
「またですか」
「そうだ。そして我等に厄介ごとを押し付けるだろう」
「進歩がありませんな、全く」
「だがそれに乗るのも予想通りだ」
ドレイクは戦い前の自分の言葉を思い出していた。
「よいな。戦闘はこれまで通り続ける」
「御意」
ドレイク率いるオーラバトラー達も戦闘に加わっていた。そして一機の巨大なオーラボンバーがショウのビルバインに
迫ろうとしていた。
「来る・・・・・・!」
「どうしたの、ショウ」
チャムが表情を変えたショウに問う。
「来るぞ、奴が」
「奴がって・・・・・・誰!?」
「すぐにわかる!」
ショウは叫んだ。そこに敵の攻撃が来た。
「何のっ!」
それを切り払う。そして前を見据えた。
「貴様か!」
「ショウ=ザマ、探したぞ!」
そのオーラボンバーガラバから声がした。
「黒騎士!またしても!」
「私は貴様を倒す為にここにいる!」
彼もまた叫んだ。
「来い!今日こそは決着をつける!」
「そして憎しみを増大させるのか!」
「そんなことはどうでもいい!私は貴様さえ倒せればそれでいいのだからな!」
「クッ!」
「行くぞ!」
「南無三!やってやる!」
ショウも動かざるを得なかった。彼等もまた戦いに入った。
空と陸で激戦が繰り広げられていた。ティターンズは押されだしている。しかしジャマイカンはそれに対して何ら有効な指揮を執ろうとはしていなかった。
ただうろたえるばかりであった。そしてカテジナが率いる防衛ラインが突破され、第二ラインも突破されるに及んでさらにその顔を青くさせていた。
「まずいぞ、このままでは」
彼はボソボソと呟いていた。
「どうするべきか」
「まだ多くのマシンが健在ですが」
部下がそんな彼に呆れながらも声をかけてきた。
「それにドレイク閣下の軍勢も」
「そんな問題ではない」
だがジャマイカンはその言葉を聞いてはいなかった。またしてもボソボソと言う。
「この艦が攻撃を受けたらどうするのだ」
「そう簡単には沈んだりしませんが」
「ええい、貴様はわかっておるのか!」
遂には激昂してきた。
「今の事態が!わかっておるのか!」
「わかっております」
だが部下はそれを言われても平然としていた。
「このウィーンでの戦い、今が正念場かと」
「撤退せぬというのか!」
「そう判断するにはまだ時期尚早です」
彼は言った。
「ここは踏み止まって戦うべきです」
「くっ」
「まだ前線のパイロット達は踏み止まっています。カテジナ中尉の部隊も第二防衛ラインに合流し戦いを続けています」
「だがこのアドラステアが攻撃を受けたらどうするのだ」
「ですから多少の攻撃ならば大丈夫です」
彼はまた言った。
「御安心を。何でしたら少佐だけで撤退されてはどうでしょうか」
「貴様、わしを馬鹿にしているのか」
「そうではありません」
本当はそうであったが言える筈もなかった。
「とにかく落ち着いて指揮にあたって下さい。宜しいですね」
「フン」
何はともあれジャマイカンは戦場に踏み止まった。だが後方から一歩も動こうとはしなかった。
戦いは続いていた。だがティターンズはジワジワと押されていた。そして第二ラインも突破された。
「まずいぜ、このままだとよ」
ヤザンがその戦局を見て言った。
「また負けるぜ、おい」
「次で最後の防衛ラインだがな」
ジェリドがそれに応えた。
「このままだとまずいな」
「援軍はまだかよ」
「オーラバトラーのか?」
「そうだ、こっちに来ているんだよな」
「そうらしいがな」
「その連中が来るって話はどうなったんだよ」
「まさかとは思うが信用しているのか?その話を」
クロノクルがヤザンに問うた。
「そしてあの者達を」
「そんなわけねえだろ」
だがヤザンの返事は素っ気無いものであった。
「あんな連中信用できるかってんだ」
「そうだな」
「だがな、あの連中が来ねえとジャマイカンの奴が騒ぐだろうが。逃げ出そうとしてな」
「それが心配か」
「あたぼうよ、俺はここには戦いたい為にいるんだぜ」
その顔の凄みが増す。
「それで指揮官に逃げられちゃ。どうするってんだよ」
「その心配はなくなったわ」
マウアーが言った。
「来たのか?」
「ええ。北と西から」
マウアーは乗機のガブスレイのレーダーを見ながら言った。
「それぞれ来たわ。オーラシップも一緒ね」
「やっとかよ。それじゃあこれであの馬鹿を気にせずに戦えるな」
「ああ」
ヤザン達は頷き合った。そして戦場に新手の部隊が登場したのであった。
「やっと来おったか」
ドレイクは彼等を見て言った。
「遅れましたな」
「それもわかっておったわ」
彼は部下にそう返した。憮然とした顔である。しかしその顔を見せていたのは一瞬であった。
「遅参申し訳ありません」
ビショットとショットがそれぞれモニターに姿を現わした。
「ゲア=ガリングの出力が思うようにあがらず」
「補給に手間取りまして」
「いやいや、それはいい」
ドレイクは腹の底を隠して二人を出迎えた。
「わざわざ援軍に来て頂けるとはな」
「勿体ない御言葉」
「遅れて来た我等に対して」
「多くの言葉は不要、では早速助けてもらいたい」
「はっ」
「畏まりました」
二人はドレイクの言葉に頷く。
「それで宜しいな」
「わかりました。では」
「早速我等の働きを披露致しましょう」
こうして二人はモニターから姿を消した。ビショットはその後でゲア=ガリングの艦橋でその目を陰険な光で覆っていた。
「さてと、まずはこれで宜しいですね」
「はい、お見事でした」
その横にいる化粧の厚い中年女がそれに応えた。妙に険のある顔をしている。
「ドレイクはどうやら我等の遅参をわかっているようですが」
「表に出なければいいのですよ」
その女ルーザ=ルフトはビショットに対してこう述べた。
「全ては。わからなければいいのです」
「我等の関係と同じで」
「そういうことです」
ルーザはそれに応えて笑った。邪な笑みであった。
「だて、ドレイクの軍はかなりのダメージを受けているようですな」
「計算通りに」
「トルコとここでの戦いで。しかしまだ力はあると見るべきでしょう」
「もう一人おりましてよ」
「あの地上人ですか」
「ええ」
ショット=ウェポンのことである。
「あの者も野心を抱いております故」
「また分不相応な」
そう言う自分もそうであるが彼自身は決してそうは考えていなかった。
「技術者に甘んじていればいいものを」
「その才に溺れたのでありましょう」
ルーザはショットを侮蔑した声で評価した。
「それがいずれ自分にどう返るのかすらわからずに」
「そういったところでしょうな」
「では我々はここは」
「はい」
ビショットは彼女の言葉に頷いた。
「ゆうるりと。戦いますか」
その動きは緩やかであった。そして戦いに加わりはしたが決して派手なものではなかった。
それはショットの軍勢も同じであった。彼はスプリガンを積極的に出さず、後方に置いていた。そしてそこでミュージィと共に艦橋で酒を楽しんでいた。
「ショット様、宜しいのですか?」
「何がだ?」
ミュージィの問いに応える。
「私が出なくて」
「よいのだ、今は」
だが彼はそれをよしとした。
「今は御前が出る時ではない」
「ですが」
「ミュージィ」
ショットはここでミュージィを抱き寄せた。
「あっ」
「すぐに御前の力が必要になる。だがそれは今ではないのだよ」
「では今は」
「そうだ。ここで奴等の戦いを見るだけにしておこう」
ドレイクのウィル=ウィプスとビショットのゲア=ガリングを眺めながら言った。
「今はな。それでいいのだ」
「では時が来れば」
「頼むぞ」
「はい」
ショットもまた真剣には動こうとはしなかった。オーラバトラー隊を出しはするが切り札であるミュージィは出さない。そして戦闘も真剣みが感じられないものであった。
「フン、まあいい」
ドレイクはそんな二人に気付いていたがそれについても何も言わなかった。
「今はな」
「しかしビショット様もショット殿も」
「あの者達の魂胆はわかっておる」
ドレイクは部下にまた言った。
「どうせわしの椅子を狙っているのだろう」
「お館様の」
「首と言ってもいいかな」
「では」
「案ずることはない」
しかし彼はそれにも構うことはなかった。
「所詮小者二人に過ぎぬ。騒ぐこともあるまい」
「ですが」
「今はそれよりも前のことを考えよ」
ドレイクはそれでも何か言おうとする部下達に対してこう言った。
「目の前の敵のことをな。いいな」
「わかりました。それでは」
「ティターンズの援護に回れ」
ドレイクは指示を出した。
「そして彼等の戦線を支えよ。よいな」
「はっ」
ドレイク軍はティターンズのフォローに回ってきた。そして崩壊しようとする彼等の戦線に入り支えだしたのであった。
しかしそこにはビショットとショットの軍勢は入ってはいない。彼等はその端で漠然と戦っているだけであった。
「妙だな」
それに最初に気付いたのはマックスであった。
「左右のオーラバトラー隊の動きが」
「確かにそうね」
それにミリアが応じる。
「彼等、あまり積極的に仕掛けて来ないわ」
「それどころか真面目に戦おうとすらしていない。これは一体」
「何かややこしい事情があるみたいだな」
イサムがそれを見て言った。
「事情が」
「確かあのドレイクっておっさんとビショットって王様は元々違う国だったんだろ」
「そういえばそうね」
ミリアもそれに気付いた。
「確かドレイクがアの国の領主出身でビショットがクの国の国王だったかしら」
「ああ、その通りだ」
ニーがその言葉に答えた。
「元々はそれぞれ違う国にいたんだ」
「それが手を結んでいる」
「利害によってね」
キーンが言う。
「あの三人はそういう関係なのよ」
「同床異夢ってわけか」
フォッカーがそれを聞いて言った。
「わかりやすいものだぜ」
「ティターンズとの関係もそうなんでしょうね」
「多分な」
ニーは今度はレトラーデに返した。
「あの三人の関係がそのままティターンズとの関係になっている」
「友愛とかそうしたものじゃなくて」
「ジャミトフに友愛なんてあるとは思えないしな」
フォッカーの言葉はいささかシニカルであった。
「ああした連中にとっては利害だけが大事なのさ」
「成程」
「若しかしたらそこに付け込めるかも知れんぞ」
「各個撃破ですね」
「そうだ、勘がいいな輝」
「伊達にパイロットやってませんから」
「それじゃあ今することはわかるな」
「はい」
輝は頷いた。
「スカル小隊、仕掛けるぞ」
「了解」
柿崎もそれに応える。
「攻撃目標はドレイクの部隊だ。ここで数を減らしておく」
「ビショットとショットはいいのか?」
ニーが彼に尋ねる。
「連中は後回しだ。仕掛けて来るつもりがないのならな」
「わかった。それじゃあそちらは任せる」
「おう、じゃあ行くぞ」
「了解!」
三機のバルキリーが突進する。そしてドレイク軍のオーラバトラーにミサイルやガンポッドで攻撃を仕掛けていく。
「悪いがこれも戦争なんでな!」
フォッカーのバルキリーがガウォークに変形した。その手にガンポッドを持っている。
「容赦はしねえぜ!」
それで上下左右に動き回りながら攻撃を浴びせる。蜂の巣になったオーラバトラー達が次々に撃墜されていく。そして爆発するオーラバトラー達を潜り抜け、ウィル=ウィプスに向かう。だがドレイクはそんな彼等を見ても冷静であった。
「来ているな」
「はい」
「そしてティターンズはどうしているか」
「既に後方に退いております」
「逃げているのか」
「アドラステアはまだ戦場におりますが」
「それも時間の問題といったところかな」
眼下にある防衛ラインがまた破られていた。ビショットもショットもやる気は見られない。
「我等もそろそろ退きますか」
「いや、まだ早い」
しかしドレイクはそれを時期尚早だとした。
「まだな。退くのは後でよい」
「ティターンズが退いてからでしょうか」
「そうだな。それでいい」
彼はそれに頷いた。
「それまでは。戦うぞ」
「御意」
「あの小さい地上の兵器に攻撃を集中させよ。よいな」
「わかりました。では」
ウィル=ウィプスから攻撃を仕掛ける。だがフォッカー達はそれを何なくかわした。
「そうそう戦艦の攻撃に当たると腕を疑われるんでな」
フォッカーは身軽にかわしながら軽口を叩いた。
「当たるわけにはいかないんだよ」
「ロイ、戦場で軽口は禁物よ」
「クローディア」
モニターにクローディアが姿を現わした。
「敵が周りにいるのに。そんなことしてると何時か大怪我するわよ」
「おいおい、心配性だな」
フォッカーはそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「俺がやられるっていうのかよ」
「油断していたらね」
だがクローディアは手厳しい。
「何があっても知らないわよ」
「やれやれ、相変わらず心配性だな」
「怪我したら今日の夕食はなしよ」
「おい、それはないだろ」
「だったら怪我しないこと、いいわね」
「了解」
「サラダ作って待ってるから」
最後にこう言ってモニターから消えた。さしものフォッカーも彼女にだけは頭が上がらないようであった。
「少佐、いいですか?」
そんな彼に柿崎が声をかけてきた。
「おう、何だ?」
「ティターンズの連中が退いていますけれど」
「撤退しているのか?」
「そうじゃないんですか?後方のアドラステアはまだ動いていませんけれど」
「そうか」
フォッカーはそれを聞いて考える顔をした。
「この戦いもそろそろ終わりか」
「みたいですね」
「それでモビルスーツ部隊から援軍の要請が来ています」
マックスから通信が入った。
「援軍?」
「はい、一気に攻撃を仕掛けたいとのことで。どうしますか?」
「そうだな。今あの戦艦を前にしてるが」
「あっちを先にやりますか?」
「いや、待て。ここはモビルスーツ部隊の援護に回ろう」
彼は言った。
「いいな、それで」
「了解」
「わかりました」
輝と柿崎もそれに頷いた。
「マックス、ミリア」
フォッカーは今度は二人に声をかけた。
「御前等はアドラステアに向かえ」
「撃沈しろということですか?」
「そうだ。本気で行けよ」
「わかりました」
マックスがそれに応えた。
「もっともその前に逃げるだろうがな。まあ行ってくれ」
「はい」
赤と青の二機のバルキリーが向かった。そしてフォッカー達もウィル=ウィプスの前から去りモビルスーツ達の援護に回った。ドレイクはそれを見てまた呟いた。
「去ったというのか」
「別の敵に向かったのでしょうか」
「おそらくな」
彼は部下の言葉に応えた。
「おそらくティターンズにな」
「やはり」
「さて、あの少佐はどうするかな」
ジャマイカンのことであるのは言うまでもない。
「戦うか、それとも」
「お館様」
ここで部下の一人が報告にやって来た。
「どうした」
「アドラステアが撤退をはじめております」
「もうか」
「戦局の悪化に鑑み、とのことですが」
「フン、逃げるのであろう」
ドレイクの言葉は短いが辛辣であった。
「地上には便利な言葉が多いと見える」
彼の言葉は当たっていた。ジャマイカンはマックスとミリアのバルキリーがやって来たのを見て退却を決意したのである。
逃げるとなれば早かった。部下を置き去りにして逃げている。
「そしてティターンズの兵達はどうしているか」
「指揮官が撤退を開始しましたから」
報告に来た部下はさらに言った。
「彼等もまた」
「そうか」
ドレイクはそれを聞いて頷いた。
「では我等も退くとするか」
「はい」
「だが、ティターンズの後詰を務めるぞ」
「恩を売っておくのですね」
「そうだ。いずれは利子をつけて返させてもらう」
ニーの言葉は当たっていた。彼は利害によってティターンズと繋がっていた。
「よいな、それで」
「御意」
部下達はそれに頷いた。こうしてドレイクは後詰を務めたのであった。
既にビショットとショットは戦場を退いていた。ドレイク達だけが戦場にいる。
「無駄に追撃を仕掛けるな!」
ブライトは指示を出した。
「こちらに向かって来る敵だけを倒せ!」
「了解!」
皆それに従い積極的に追おうとはしなかった。ドレイクもそれを見て積極的な攻撃は仕掛けない。だが黒騎士だけは違っていた。
「ショウ=ザマ!」
彼はショウとの戦いを続けていた。
「ここで貴様を!」
「まだやるつもりか!」
ショウは彼を見据えて言った。
「憎しみを増大させて!」
「貴様を倒せればそれでいい!」
黒騎士は言う。
「私にとってはそれだけが望みだ!」
「クッ!」
「ショウ、もう何を言っても無駄よ」
チャムが横で言う。
「あそこまでなったら」
「何処までも・・・・・・。憎しみばかりだというのか」
「そうだ、私は貴様が憎い!」
彼は叫んだ。
「だからここで倒すつもりだ!」
「そうしてオーラ力を暴走させるのか!」
「どうなろうと構わん!」
「破滅してもか!」
「言った筈だ!貴様を倒せればいいと!」
最早聞く耳を持ってはいなかった。
「覚悟しろ!今ここで!」
「俺はやられるわけにはいかない!」
ショウもまた叫んだ。
「俺の剣は悪しき心を斬る!その悪しき心がある限り!」
「では私を倒してみせよ!」
ガラバが突っ込んで来た。
「その悪しき心を斬る剣でな!」
彼は憎しみだけを増大させていた。そして最後の最後まで戦場に留まっていた。だがそれも終わる時が来た。
「潮時だな」
ドレイクは戦場を見渡して言った。
「我等も退くぞ。よいな」
「はっ」
ドレイク軍も撤退を開始した。黒騎士もそれに従わざるを得なかった。
「クッ、ここで倒すつもりが」
歯噛みする。だが命令に従わないわけにはいかない。
「ショウ=ザマ!また会おう!」
彼はショウに対して言った。
「今度会った時こそ貴様の最後の時だ!」
こう言い残して。彼も戦場を去った。
「バーン=バニングス」
ショウは彼の後ろ姿を見て呟いた。
「何処までも。憎しみのオーラを増大させるつもりか」
「またあの旦那だったのか」
トッドのビルバインがやって来た。
「相変わらずみてえだな」
「ああ」
「わかってると思うがやばいぜ」
トッドはショウに対して言った。
「あの旦那も、ジェリルに似ている」
「憎しみのオーラが」
「しかも暴走しかけてるしな。あのままいくとな」
「ハイパー化か」
「なるだろうな。本人はわかっちゃいないがな」
「そうなってでも俺を倒すつもりか」
「あの旦那にとっちゃそれが全てなんだよ」
「くっ」
「そろそろな、あの旦那とも決着を着けないとな」
「わかってる」
ショウはトッドの言葉に頷いた。
「俺の剣は悪しき力を断つ」
「あの旦那の憎しみもか」
「そうだ、絶対に」
ショウは誓っていた。聖戦士としての自分に対して。そしてその心を戦いに向けていたのであった。
ウィーンの戦いは終わった。ロンド=ベルはこの結果ウィーンを解放し、さらに西欧へと向かうことになった。これに対してティターンズはイギリスまで退き、そこから宇宙への撤退を検討していた。両軍の地上での戦いは最後の段階に入ろうとしていたのであった。

第八十六話完

2006・4・14


 
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