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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第八十四話 海峡の戦い

                     第八十四話 海峡の戦い
ロンド=ベルがバルカン半島に向かっているとの話はすぐにティターンズ及びドレイク軍の耳にも入っていた。そしてそれはゼダンの門にいるジャミトフ達にも伝わっていた。彼はすぐにバスクと共に協議に入った。
「援軍は既に送れるだけ送っております」
バスクはまずこう言った。
「後は地上にいる者達の奮戦に期待するだけです」
「そうか」
ジャミトフはそれを聞いてまずは表情を消した。
「ドレイク軍もおりますし戦力的には圧倒しております。彼奴等に付け入る隙はありません」
「だがそう言ってロシアでは敗れたな」
ジャミトフはここでバスクに対してこう言った。
「十倍の兵力を持ちながらな」
「それは」
これにはバスクも言い返せなかった。
「あれは仕方のないことでした」
「十倍で敗れてもか」
「はい」
力なく頷いた。
「まさかあれで敗れるとは」
「十倍の兵力で敗れてはどれだけあろうと勝てはしないのではないのか」
「いえ、それは」
「少なくとも普通に戦ってはな。地上ではもう無理かも知れぬ」
「といいますと」
「撤退の準備を進めておく必要があるやも知れぬぞ」
「撤退の」
「そうだ、ダブリン近辺にその手配をしておけ」
ジャミトフは言った。
「いざという時にはな。戦力を再度このゼダンの門に集結させよ」
「わかりました」
「それからコロニーレーザーの開発を急げ。よいな」
「はっ」
「そこにロンド=ベルを引き摺り込み一掃するのだ」
「コロニーレーザーでですか」
「そうだ。普通の手段が適わぬのならば」
ジャミトフの目に剣呑な光が宿る。
「非常の手段に訴える。そして最後に勝つのはティターンズだ」
「わかりました。それでは建造を急がせます」
「急げよ。まだ我等の理想は成就されてはいないのだからな」
「そう、青き清浄なる世界はまだですからね」
「むっ」
「貴様か」
ジャミトフとバスクは同時に声がした方に顔を向けた。そこには薄い青のスーツに身を包んだ金髪の青年が立っていた。
「ムルタ=アズラエル」
ジャミトフは彼の名を呼んだ。
「呼んだ覚えはないが」
「まあ細かいことはいいではありませんか」
アズラエルはそんなジャミトフの言葉をかわしながらこう述べた。
「僕もただここに遊びに来ているわけではありませんし」
「では何か考えがあるというのか」
「ええ」
彼は答えた。
「実は我々ブルーコスモスもモビルスーツを開発しておりまして」
「ふむ」
「それをそちらに譲渡するということで」
「そうか」
「そしてパイロットも。ついでに核ミサイルもお渡ししますが」
「核をか」
それを聞いたジャミトフの目がまた光った。
「はい。核は何も持って楽しむだけのものではありません」
アズラエルは邪な笑みをたたえながら言った。
「使わなければ。意味はないでしょう」
「ふむ」
これはジャミトフにしてもバスクにしても特に抵抗はなかった。彼等はかって毒ガスを使用した。だから核を使うことに何ら抵抗はなかったのである。
「何でしたらこちらもお譲り致しますが」
「では貰おう」
ジャミトフは言った。
「そしてそれをロンド=ベルに使わせてもらうか」
「いえ、彼等よりも先に使うべき存在があります」
「ネオ=ジオンか!?」
「いえ、彼等よりも」
バスクにこう返す。
「使われるべき存在があります」
「ギガノスでもないな」
「はい」
アズラエルはまた答えた。
「では一体」
「ザフトです」
アズラエルは言った。
「ザフト」
「はい。コーディネーターのコロニー、プラントの存在が確認されましたね」
「ああ」
「彼等はいずれ我々一般人、所謂ナチュラルにとって脅威となります。まずは彼等に対して核を向けるべきです」
「それで殲滅するというのか」
「その通り。既に艦艇及びモビルスーツの手配ははじめております」
「速いな」
「戦いに勝つ為には。これも当然でしょう」
彼は平然とこう言ってのけた。
「手段も選んでいる場合ではないですので」
「わかった。ではそちらの作戦も検討に入れておく」
「有り難うございます」
「だが我等の第一の敵はロンド=ベルと心得よ」
バスクはここでアズラエルに釘を刺してきた。
「まずは彼奴等を討たねばどうにもならぬ。それは忘れるな」
「無論です。では僕はこれで」
「うむ、ではな」
ジャミトフは退室を許可した。こうしてアズラエルは二人の前から姿を消した。バスクは彼の姿が見えなくなると吐き捨てる様にして言った。
「所詮あの程度ですかな」
「そうだな」
ジャミトフもそれに頷いた。
「自分ではどう思っているか知らぬが大した器ではない」
「はい」
「所詮は消耗品だ。ブルーコスモスもな」
「全くです。どうしてあの程度の輩があの若さであそこまでなれたのか」
「妙なことだが。だが利用し易い駒ではある」
「全くです」
「キリのいいところで捨てるぞ、よいな」
「畏まりました」
「だがそれまでは利用させてもらおう」
ジャミトフは冷酷な声でこう述べた。
「精々な」
「そして地上ですが」
「若しもの場合には備えておけ」
「わかりました。ではジャマイカンにはそう伝えます」
「うむ」
ティターンズにも怪しげな輩が出入りしていた。そしてジャミトフとバスクはあえて彼等を受け入れ、その切り処も見極めようとしていたのであった。どちらにしろ地球圏はまた新たな火種を抱えようとしていたのであった。
地球においては今連邦軍は反撃に転じようとしていた。恐竜帝国、邪魔大王国は崩壊しミケーネ帝国は暗黒大将軍を失い戦力の再編成に取り掛かっていた。バーム軍は地上から撤退し、ガイゾックやドクーガ、オルファンといった勢力もなりを潜めていた。グン=ジェム隊も降伏した今主立った敵はティターンズ、ドレイク連合軍とネオ=ジオンだけとなっていた。彼等はこれを好機と見ていたのであった。
「やっと盛り返してきたってことかしら」
エクセレンはハルカの部屋でウイスキーをラッパ飲みしながら言った。
「何かやたら長い時間かかっちゃったけれど」
「エクセレンさん、脚」
しかしここでアクアが注意してきた。
「脚!?」
「大股開きですよ。スカートの中が」
見れば下着が丸見えであった。黒い下着がそこから見えていた。
「まあいいじゃない。ここには女の子しかいないんだし」
「そうですけれどね」
「アクアは堅苦しいわよ。そんなのじゃ男の子にはもてないわよ」
「そう言うハルカさんも」
アクアはハルカも注意した。
「脚組むのはいいですけれど」
「だから女の子しかいないのよ」
ハルカの下着も見えていた。こちらは紫であった。
「気にしない気にしない」
「エマ中尉が見たら怒りますよ」
「あの人厳しいからねえ」
エクセレンがそれを聞いて言った。
「いつも服はきちんとしてるし」
「けれど軍服じゃないのよね」
「ティターンズにいた時はあの軍服だったらしいですけれどね」
「そうなの」
「ロンド=ベルに入ってからあのタイツにしたそうですよ」
「ふうん」
「最近じゃファも同じタイツですけれど」
「そういえばうちってタイツの娘多いわよね」
かくいうハルカもそうである。ブランデーを飲みながら言う。
「レッシィもそうだしアムもそうだし」
「そういえばそうね」
エクセレンもそれに頷く。
「まあ冷え性にはいいしね」
「何かおばさん臭いですね」
「アクアだって同じ歳でしょ」
「それはそうですけれど」
だがアクアは口ごもっていた。
「何か歳はとりたくないわ」
「おばさんになるだけだからねえ」
エクセレンとハルカはこう愚痴を零す。
「どうしたものだか」
「それはそうとアクアっていつも軍服なのね」
「はい、普段は」
アクアは真面目な声でそれに応えた。
「やっぱり。きちんとしていないと駄目だと思いまして」
「ここはそんな部隊じゃないのに?」
「それでも軍ですから」
彼女は言う。
「本当はあのパイロットスーツよりも普通のパイロットスーツの方がよかったんですけれど」
ここでは顔を赤くさせた。
「何か。あれしかないって博士に言われまして」
「博士!?」
「エルデ=ミッテ博士です」
アクアは答えた。
「ああ、確か連邦軍の技術将校の」
エクセレンはそれを聞いて声をあげた。
「あの人よね」
「御存知なんですか?」
「そりゃあね。凄い人だったし」
「凄い人だったの」
「そうよ。自分でマシンを設計して開発するんだから」
「何かシロッコみたいね」
「才能で言えばそうかしら。何かその名前聞いたらあまりいい気分にならないけれど」
そう言って苦笑いを浮かべる。
「貴女シロッコは嫌いみたいね」
「嫌いっていうかいつも彼の側にいる女の子を見ているとね」
「何かあるの?」
「服のセンスもあれだししかも声が」
「似てるってことね」
「ハルカとエマ中尉みたいな感じでね」
「というよりはリィナちゃんじゃないですか?」
「ううん、確かに私の声って二人とそっくりなのよね」
目を閉じて困った顔で笑う。
「何でかしら」
「そらああ他人の空似ってやつらないんれすか」
酔い潰れていたマヤが言う。
「わらひとイズミはんとスレイちゃんらってそうれすし」
「またえらく酔ってるわね、彼女」
「情ないわね、マヤちゃんも」
それを見てミサトが困った顔で言う。
「この程度で潰れるなんて」
「葛城三佐は平気なんですか?」
「この位だったらね。いつもビール飲んでるし」
「そうなんですか」
「マヤちゃんはそうじゃないみたいだけれど。後でお酒抜いておかなくちゃ」
「それだったらサウナがいいですよ」
「・・・・・・死ぬわよ、それ」
エクセレンの突っ込みに顔と髪を崩す。
「下手したら」
「そうなんですか!?」
「そうなんですか、じゃなくて本当に危ないから」
「実は結構お世話になってるんですよ。私酒癖悪いから」
「だから止めなさいってそれ」
「平気平気。大丈夫ですって」
だがエクセレンは聞こうとしない。相変わらずお気楽であった。
「それでそのミッテ博士ですけれど」
「ええ」
一同アクアの言葉に顔を向けた。
「士官学校で私の教官でもあったんです。色々と教えてもらいました」
「そうだったの」
「私の恩師だったんです。けれど私が卒業したら姿を消されて」
「無事だったらいいけれどね」
「はい」
ミサトの言葉に顔を暗くさせる。
「こんな時代ですから。お元気であることを祈るばかりです」
「それじゃあミッテ博士の無事を祈って乾杯しましょう」
「えっ、まだ飲むんですか!?」
ハルカの言葉に思わず驚きの声をあげる。
「何言ってるのよ、まだまだあるわよ」
「そうそう、お酒はあるだけ飲まないと」
ミサトも入って来た。
「女が廃るわよ」
そしてエクセレンも。こうして二十代組はとことんまで飲むのであった。
彼女達が飲み明かしている頃ロンド=ベルはトルコに入っていた。
「ここからバルカン半島に入るんだな」
「ああ、その予定らしいな」
ショウがヒューゴにこう返した。
「それがどうかしたのか?」
「いや、別に何もないが」
だが彼はそこに何かを感じていた。
「向こうはティターンズの勢力圏か」
「そしてドレイクもいる」
「遂にあいつをやっつけるんだよね」
チャムがそれを聞いて言った。
「ガツーーーーーーーンって」
身振り手振りを交えて言う。
「おいおい、暴れるなって」
「けれどショウ、気をつけてね」
「何でだい?」
「何か、あたしも嫌な予感がするんだ」
「嫌な予感!?」
「うん。気のせいだったらいいけれど」
チャムの顔が暗くなっていた。
「邪なオーラを感じるんだ」
「オーラか」
「ドレイクのじゃないし。何かわからないけれど」
「オーラ力が暴走しているのか」
「わからないけれどね。けれど嫌な予感がするんだ」
「チャムがそんなこと言うなんて珍しいな」
「トッド」
トッドがそこにやって来た。
「そういやこっちにはドレイク軍が結構来てるみたいだぜ」
「ドレイクが」
「あのおっさんが直接来ているらしいな。当然オーラバトラーも大勢引き連れてな」
「そうなのか」
「ショウ、注意しなよ。御前さんはあの旦那に特に快く思われてないからな」
「それはトッドだって同じじゃないの?」
「まあそうだけれどな。どうせ俺達はあの旦那から見れば裏切者さ」
「拗ねちゃってるんだ」
「別に拗ねてなんかいねえよ、事実を言ったまでさ」
トッドは素っ気無く言った。
「俺達がどう思っていようと向こうはそう思ってるってことだ」
「そうなの」
「御前さんから見たら俺だって最初は敵だったろ?」
「うん」
チャムはその言葉に頷いた。
「色々あったけれど」
「けれど今は味方だな。しかし立場が逆だったらどうなる?」
「味方だったのに敵になったってこと?」
「そういうことさ。俺もショウもそうした意味で向こうから見れば裏切者なんだよ」
「そういうことかあ」
「まっ、結局俺はこっちでいた方がよかったみたいだけれどな。下手に誰かを憎んだりしても身がもたねえしな」
「憎しみか」
ショウがそれを聞いて複雑な顔をした。
「あの男もそれに捉われているな」
「あの旦那はまたややこしいからな」
二人はバーンについて話した。
「プライドも高いしな。しかも悪い意味で生真面目だ」
「真面目だったら悪いの?」
「何でもいい場合と悪い場合があるんだ」
ショウはチャムにこう言った。
「だからややこしいんだ」
「そうなの」
「けどな、俺はあの旦那はまだましだと思ってる」
「ましなのか」
「俺がマジでやばいと思うのはあの赤い髪の女さ」
「ジェリル=クチビか」
「ああ」
「誰だ、それは」
トッドが頷いたところでヒューゴが話に戻って来た。
「ドレイク軍の聖戦士の一人さ」
ショウが彼に答える。
「元々は地上人で。赤い髪をした女なんだ」
「何でもダブリンでロック歌手だったそうだぜ」
「そうだったのか」
「かなり気性の激しい女だ」
ショウはまた言った。
「感情が高ぶると見境がなくなる。手当たり次第に暴れ回る」
「かなりやばい相手みたいだな」
「そうさ、だから御前さんも奴に会ったら気を着けろよ」
「ああ」
「下手したら真っ二つにされちまうからな」
「真っ二つになったら死んじゃうからね」
「そんなの言わなくてもわかるよ」
「あーーーーっ、ショウその言葉ひどーーーい」
「そして若しかするとティターンズには」
ヒューゴはそんなショウとチャムのやりとりを聞きながら呟いた。そしてバルカン半島の方を見ていた。
翌日ロンド=ベルはダーダネルス=ボスポラス海峡の手前にまで来ていた。アジアとヨーロッパを分ける海峡でありその向こう側には東ローマ帝国、そしてオスマン=トルコの都であったコンスタンチノープル、今の名をイスタンプールという古の街がある。かってここでも多くの戦いが繰り広げられてきた。
「古戦場だな」
それはグローバルもわかっていた。感慨深げに呟く。
「かってこの場所で多くの戦いが行われてきた」
「士官学校でも教えられてきましたね」
「早瀬君も学生の頃を思い出したのかな」
「はい、まあ」
未沙もそれに応えた。
「ここに来たこともありますし」
「そうなのか」
「いい街ですね。また機会があれば訪れてみたいですが」
「ではこの戦いの後で行ってみるかね?」
「いえ、今は戦いです」
だが未沙は真面目な顔でこう返した。
「艦長、前方の対岸にエネルギー反応多数です」
「やれやれ、敵は待ってはくれないか」
グローバルは溜息をつきながらこう言った。
「それでは仕方ない。全軍出撃だ」
「了解。全軍出撃」
それに従い出撃命令が下される。そしてロンド=ベルのマシンが次々に発進し、トルコ側に布陣した。
「あてと、こいつはちょっと厄介だぜ」
フォッカーは対岸を見据えながらこう言った。
「海を渡らなくちゃいけないがこの海が厄介だ」
「モビルスーツやヘビーメタルにとっては厄介な場所ですね」
「そうだ、まあ中には変形出来るのや空を飛べるのもいるがな」
輝に応えてこう言う。
「だがそうおいそれとはいかん。ここは俺達で援護を仕掛けるぞ」
「了解。じゃあ派手にいきますか」
「スカル小隊は中央」
「はい」
輝が頷く。
「ダイアモンド=フォースは右、エメラルド=フォースは左だ。セイレーンはゴーショーグンと協同して俺達と一緒に来てくれ」
「了解」
「それではそれで」
それに金竜とダッカーが応える。フォッカーの後ろに三機のセイレーンがやって来た。ゴーショーグンも一緒である。
「スーパーノヴァも中央だ。いいな」
「へへっ、じゃあ派手に中央突破といくぜ」
「イサム、ここは待て」
「何だよ、おい」
いつものガルドの制止に口を尖らせてきた。
「一緒に小隊を組んでいるカナンとヒギンスのことは忘れるな」
「わかってるぜ、それ位。俺はレディーファーストなんだよ」
「どうだか。だが遅れるな」
「ヘッ、そっちこそな」
「後はオーラバトラーとブレンパワードも援護に回る。バニング少佐、これで了解か」
「ああ、こちらとしてはそれで異存はない」
ロイフォッカースペシャルのモニターにバニングが姿を現わした。そして応えた。
「こちらも可変モビルスーツに援護をさせる。出来るだけそちらの負担は減らす」
「オーケー、わかった」
「空を飛べるマシンは全て海を渡るマシンの援護に回れ。本格的な攻撃はそれからだ」
「了解」
最後にシナプスの指示が下った。こうして彼等は前進を開始した。前進開始と同時に対岸にティターンズとドレイク軍の大軍が姿を現わした。
「!?」
それを見てカミーユが何かを感じた。
「この感触、ジェリドか。そして」
「ジェリド、どうだい調子は」
「ああ、悪くはないな」
前線にいるジェリドはバウンド=ドックに乗るライラにこう返した。
「むしろいい位だ。このジ=オの能力はかなりのものだ」
ジェリドは今ジ=オに乗っていた。シロッコから地上に送られて来たものである。
「これならカミーユだってやれるぜ」
「そうかい。けれどこだわるんじゃないよ」
「こだわる?」
「ああ、一つのことにさ。あんたはバルマーの時からずっとあの坊やにばかりこだわってるからね」
「・・・・・・あいつは壁なんだ」
ジャリドはそれを聞いて呟いた。
「あいつを倒さなければ俺は先には進めない。そういう運命なんだ」
「壁かい」
「そうさ、だから俺はあいつを倒す」
そしてこう言った。
「その為なら何だって乗ってやるさ、このジ=オでも何でもな」
「わかった、じゃあこっちもその壁を倒すのに協力してやるよ」
「済まないな」
「礼は言いっこなしさ。どっちにしろこれは戦いなんだ」
「そうか」
「じゃあ行くよ。もうすぐ来るからね」
「ああ。来い」
そして前を見据えた。そこにはゼータツー、そしてカミーユがいた。
ティターンズが戦闘態勢に入ると同時にドレイク軍も戦闘態勢に入った。その中には三機のレプラカーンもあった。
「何か連中とやり合うのも久し振りだな」
「ああ」
アレンはフェイの言葉に頷いた。
「暫く見なかったが。また数が増えているな」
「それだけ色々あったってことだろ。こっちに戻ってからもダカールやジャブローで派手にやってたらしいな」
「そして中央アジアでな。ギガノス軍を降伏させたらしい」
「戦果を挙げてるってことか」
「俺達が連邦の雑魚共を相手にしている間にな。殊勝なことだ」
「まあそれもここで終わるんだがな」
フェイの顔がシニカルな笑みになった。
「そのまま海に突き落としてやるぜ。ところでだ」
「何だ?」
「アレン、あれどう思う」
フェイはここで後ろを自身の親指で指し示した。
「やばくねえか」
「・・・・・・そうだな」
アレンもそれに同意した。そこにはもう一機レプラカーンがいた。
「前よりも酷くなっている」
「そうだな、それも戦う度にな」
「オーラ力がな、肥大していってるみたいだ」
「俺達は只でさえ普通のバイストンウェルの人間よりオーラ力が大きいんだがな」
「だがあいつのはそれ以上だ。このままだとどうなるかわからんぞ」
「ああ」
「来たよ、来たね」
そのレプラカーンに乗るジェリルは一人呟いていた。
「敵があたしに倒されに」
「ジェリル」
そんな彼女にアレンが声をかけてきた。
「何だい?」
「ドレイク閣下からはキリのいいところでギリシア方面に撤退しろと言われている。わかったな」
「フン、何で敵に背中なんか見せなくちゃいけないんだよ」
「これはめいれいだ、いいな」
「ちっ、わかったよ」
ジェリルは仕方なくそれに頷く。だがその不平不満に満ちた態度にアレンとフェイはさらなる不安を覚えるのであった。
ロンド=ベルが近付いて来た。それを見て後方にいるアドラステアに乗るジャマイカンはすぐに攻撃命令を下した。
「やれ!奴等を絶対に欧州に入れるな!」
彼の叫びにも似た命令と共にティターンズ及びドレイク軍の攻撃がはじまった。だがそこにバルキリーやオーラバトラー
の反撃が加えられた。
「予想もうしてたんだよ!」
まずはイサムが飛び込んだ。
「さっさとこれでも喰らっておねんねしときな!」
その翼からミサイルを発射する。それは複雑な動きと煙を残しながら敵のオーラバトラーに向かって行く。そしてその周りでそれぞれ爆発した。
「う、うわああああああああっ!」
それは大型反応爆弾であった。バルキリーが通常放つミサイルとは違い敵に接近したところで信管が反応し大爆発を起こすのである。これで敵をまとめて一掃するのだ。
「どうだ、まずは挨拶代わりだぜ!」
「今からそんな攻撃を使ってどうするつもりだ」
彼の横にガルドが来てこう言った。
「まだそれを使う時ではないだろう」
「最初に派手にやっておかなきゃ何時やるってんだよ」
だがイサムはそれに反論する。
「何事も最初が肝心なんだよ」
「終わりよければ全てよしだ」
だがガルドはそんな彼に静かに言い返す。
「今は通常のミサイルでいい。これでも多数の敵を相手に出来る」
「フン、ちまちまやってられっかよ」
「戦いはこれからだ。最初から飛ばしていては身が持たん」
「後はこの拳でやってやらあ」
「相変わらずだな、本当に」
ガルドはこれ以上言おうとはしなかった。目の前に敵が来たからだ。
「これが俺の戦い方だ」
そして愛機を翻しそれに向かう。その言葉通り通常のミサイルで敵をまとめて屠ったのであった。
ロンド=ベルはまずは対岸を押さえてきた。そしてその援護によりモビルスーツ達が一機ずつ上陸を果たしていった。
最初に上陸したのはギュネイのヤクトドーガであった。彼は上陸するや否やすぐにファンネルを放って来た。
「くらえっ!」
それで前方にいるティターンズのマラサイ達を蹴散らす。それにより場所を作り友軍の上陸先を確保したのであった。
それに乗り後続のモビルスーツ達が次々に上陸して来る。ロンド=ベルはまずは第一目的である上陸を成功させたのであった。
それから本格的な攻撃に移った。全軍を挙げて向かって来るティターンズ及びドレイク軍に対して反撃を加えたのである。
「まずは敵の数を減らせ!」
ブライトの指示が下る。
「それから少しずつ前に出て行く。いいな!」
「了解!」
皆それに応える。そしてその指示通り敵を少しずつ減らしていったのである。
ロンド=ベルの堅固な陣と守りの前にティターンズ、ドレイク連合軍はその数を次第に減らしていった。だがその中で果敢に突撃を仕掛ける者達もいた。
「カミーユ、そこにいたか!」
「なっ、ジ=オ!?」
カミーユは殺気に気付いた。そこで斜めから一機のジ=オが突進して来た。
「この感じ・・・・・・ジェリドか!」
「そうだ!貴様を倒す為に来た!」
ジェリドは叫ぶ。そしてビームサーベルを抜いてカミーユの乗るゼータツーに斬り掛かって来た。
「死ねっ!」
「何のっ!」
だがカミーユはそれを受け止めた。だがそこでジ=オの腹から隠し腕が出て来た。
「なっ!」
その隠し腕にもビームサーベルが握られていた。カミーユはそれを見て咄嗟に後ろに退いた。
「チッ、気付いたか」
「ジェリド、それに乗ってまで来たか」
「そうさ、御前を倒す為にな」
彼はカミーユを見据えて言った。
「シロッコから貰ったこのジ=オで、貴様を倒す」
「そんなものを使ってまで!」
カミーユはそれを聞いて叫んだ。
「戦いたいっていうのかよ!」
「俺は貴様さえ倒せればそれでいいんだよ!」
ジェリドはカミーユのその叫びに対して同じく叫びで返した。
「御前だけは許せないんだよ!」
「許すも許さないも戦いにあるか!」
カミーユはまた叫んだ。
「そんなことを言ってるから戦争はなくならないんだろ!」
「そんなことは関係あるか!俺は御前さえ倒せればそれでいいんだからな!」
「クッ!」
最早話し合いは無駄だった。二人はまた剣を構え斬り合う。その上では一機のレプラカーンが無気味なオーラを放っていた。
「あっははははははははははははははは!」
「ジェリル、あまり前に出るな!」
「狙い撃ちされちまうぞ!」
突出するジェリドに対してアレンとフェイが忠告する。だが彼女の耳にはそれは全く入っていなかった。
「そんなこと出来る筈ないさ!今のあたしにはね!」
「クッ!」
「言っても無駄ってことかよ!」
二人はこれ以上ジェリルに何か言うのを諦めた。それよりも周りのことに目を配らなければならない状況だったからである。戦いは激しさを増していた。
ジェリルのレプラカーンは戦場で荒れ狂っていた。バルキリーやブレン達を相手にその剣を振るい回していた。皆それを前に避けるので精一杯であった。
「あのレプラカーン」
シーラがそんなジェリルの乗るレプラカーンを見て呟いた。
「危険です、禍々しいオーラ力を感じます」
「禍々しい」
カワッセがその言葉に反応する。
「はい」
彼女は答えた。
「このままですと恐ろしいことが起こります」
「それは」
「それは私にもまだわかりません。ですが」
彼女は言った。
「放っておくことは危険です。何とかしなければ」
だが今はどうしようもなかった。ジェリルは荒れ狂い誰も手出しが出来る状況ではなかった。そのうえライラやカクリコン、ヤザンといったティターンズのエース達も戦いに加わっていた。彼等への対処もしなければならず到底そこまで手が回る状況ではなかったのである。
だがやはり上陸したことは大きかった。ロンド=ベルは徐々にではあるが優勢に立ち、後方で指揮を執るジャマイカンのアドラステアに近付いていっていたのであった。
「あの戦艦が全体の指揮を執ってるんだろうな」
「今までのパターンだとそうね」
ビーチャにエルが応える。
「それじゃあすぐにやっつけちゃおうよ」
「待ってよ、モンド」
だがそれをイーノが制止する。
「どうした、イーノ」
「だってさあ」
彼はジュドーにも応えた。
「今までのパターンだとここで敵の援軍が」
「来るのよね、本当に都合よく」
ルーがそれに頷いた。
「戦艦から」
「それじゃあ皆周りを警戒して行こうよ」
「そうだな。何が出て来るかわからないしな」
プルとプルツーが言った。そして二人も警戒に入った。
「!?」
そしてウッソが何かを感じた。
「ジュドーさん達、跳んで!」
「ウッソ一体・・・・・・!?」
ここでジュドー達も感じた。ガンダムチームは咄嗟に上に跳んだ。
「あぶねえっ!」
ビーチャが叫んだ。そしてつい先程まで彼等がいた場所を太い赤紫のビームが突き抜けていった。
「チッ、かわしたかい」
鈴の音と主にあの女の声がした。
「しぶとい奴等だよ、全く」
「このビーム、ザンネック」
ジュンコがそれを見て言った。
「ここに来ていたのか」
「そうさ、アドラステアの護衛でね」
ザンネックがその姿をゆっくりと現わして来た。それい乗るのはあの女しかなかった。
「ここに来ていたのさ。また会ったね、坊や」
「ファラさん、また貴女は」
「殺してやるよ、覚悟しな」
ファラはウッソに濡れた声で言った。
「その首、刈り取って化粧をして側においてあげるからね」
「まずいな、完全にいっちまってやがるぜ」
それを見たオデロがウッソに囁く。
「ウッソ、そろそろ残るのモビルスーツも出て来た」
「うん」
「連中は俺とジョドーさん達に任せろ。御前はファラさんをやれ」
「わかったよ、それじゃ任せるよ」
「貴女もね。油断したら死ぬわよ」
「はい」
マーベットの言葉に頷く。そしてザンネックに向かった。
「来たね、首を刈られに」
ファラはそれを見てまた笑った。
「いいねえ、子供の首は」
「貴女は何処まで・・・・・・!」
だがそれはファラの耳には入らなかった。彼女はその狂気を含んだ目でウッソを見据えているだけであった。そしてまたビームを放つ。戦艦の前でも戦いは続いていた。
「戦艦にまでは辿り着けそうにないな」
ブライトはジュドーやウッソ達が戦艦の前で戦闘に入ったのを見て呟いた。
「ティターンズも頑張りますね」
「彼等だけではない。あの赤いオーラバトラーもだ」
トーレスの言葉に応えて言う。
「レプラカーンといったな」
「はい」
「あれに乗るパイロット。かなりの腕だ」
そこにいるのはジェリルであった。
「あのショウと互角に渡り合うとはな。本来なら戦艦にはショウを向かわせたかったが」
「完全に足止めされていますね。どうしますか」
「ヒューゴとアクアを向かわせよう」
彼は判断を下した。
「今彼等は目の前の敵を倒したところだな」
「はい」
「キョウスケとエクセレンをサポートに回せ。それで一気に戦艦を沈めさせろ。いいな」
「わかりました」
こうしてヒューゴ達が戦艦に向かった。彼等は命令に従い一直線にアドラステアに向かう。
「アクア、遅れるなよ!」
「遅れるわけないでしょ!」
アクアはヒューゴにこう返した。
「私だって。全速出してるんだから」
二機のマシンはそのまま突っ込む。ブライトの指示通り一気に沈める気であった。
「どっちがあの戦艦沈めるか勝負よ」
「生憎俺にそんなつもりはない」
だがヒューゴの態度は素っ気ないものであった。
「あの戦艦が沈めばそれでいいからな」
「何よ、つれないわね」
「任務は任務。それだけだ」
「いいわ、じゃあ私が沈めるんだから」
アクアはむっとしてこう言った。それを聞いたエクセレンがポツリと呟く。
「何かこう子供みたいな感じね、本当に」
キョウスケとエクセレンを入れて四人はそのまま戦艦に突っ込む。だがそこに突如として黒い影が舞い降りた。
「ムッ!?」
ヒューゴがその攻撃を受けた。そして戦艦の前で立ち止まる。
「これは一体!?」
「まだマシンが残っていたのか」
その黒いマシンはアドラステアからやって来た。そしてヒューゴ達の前に立ちはだかってきた。
「久し振りだな、ヒューゴ」
「その声は!?」
ヒューゴはその声を聞き顔を狼狽させた。
「まさか、貴方が」
「そうだ、俺だ」
モニターに濃い髭の男が現われた。
「隊長、どうしてティターンズに」
「訳あってな。今はここにいる」
彼は言った。
「隊長だと!?」
それを聞いたキョウスケが眉を動かした。
「誰だ、それは」
「若しかしてアルベロ=エスト大佐かしら」
エクセレンが言った。
「連邦軍特殊部隊クライ=ウルブズ隊の隊長だった筈よ」
「あの精鋭部隊のか」
「ええ。確か解散したって聞いてたけど。ヒューゴ君ってそこの出身だったのかしら」
「その通りだ」
ヒューゴは答えた。
「俺は以前そこにいた。そしてバルマーと戦って来たが」
「その後解散したのか」
「そうだ。そして隊長は行方知れずとなっていた。それがどうして」
「訳があってと言った筈だが」
アルベロはまた返して来た。
「今はこのメディウス=ロクスと共にティターンズにいる」
「そう、私と一緒にね」
「その声は、まさか」
今度はアクアが声をあげた。
「まさかまた」
それを聞いたエクセレンが呟く。
「久し振りね、アクア」
赤い髪を後ろで束ねた知的な美貌を持つ女も出て来た。
「先生、どうして」
「エルデ=ミッテか」
「あら、私のことを知っているのね」
エルデと呼ばれたこの女はヒューゴに顔を向けた。
「知らない筈がない。連邦軍において赤木博士と並ぶ天才科学者だったのだからな」
「そうだったの、リツコ」
「ええ、そうよ」
リツコはミサトの問いに応えた。
「話は聞いていたわ。ロボット工学の権威の一人だって」
「そうだったの」
「けれど行方を絶って暫くしていたんだけれど。まさかティターンズにいたなんて」
「こちらもね、訳ありなのよ」
彼女は落ち着いた声で述べた。
「ティターンズにいるのは」
「まさか、先生が連邦軍からティターンズに」
「彼等の主義主張は関係ないわ」
エルデはまた言った。
「私にとっては」
「そんな・・・・・・!」
「そして貴女と戦うこともね」
それもまたエルデにとっては何でもないことのようであった。実に素っ気無い言葉であった。
「覚悟はいいかしら」
「待って、私は先生とは」
「アクア、今はそれを言っても無駄だ」
だがそんな彼女にキョウスケが言った。
「今は戦争をやってるんだ、これでわかるな」
「けど・・・・・・」
「躊躇っていて死ぬのは貴女よ」
エクセレンの言葉も顔も何時になく真剣なものであった。
「いいわね、それは」
「うう・・・・・・」
「そういうこと。それでは行くわよ」
黒いマシン、メディウス=ロクスは構えをとった。
「この機体の性能、御覧なさい」
「来るぞ、アクア!」
ヒューゴが叫んだ。
「えっ!?」
サーベラスは反応が遅れた。咄嗟にガルムレイドがその前に出る。
そこにビームが襲い掛かる。だがガルムレイドはそれを受け止めていた。
「オオオオッ!」
「クッ、受け止めたか!」
「この程度なら!」
ヒューゴはアルベロにこう返す。
「何ということはない!」
「ヒューゴ、何言ってるのよ!」
アクアが血相を変えて叫んだ。
「直撃じゃない!それで何てこともないわけないでしょ!」
「こんなことは俺にとっては日常茶飯事だ!」
だが彼はそれでも退こうとしない。
「この程度で!やられるか!」
「何言ってるのよ!ガルムレイドのダメージを見たら!」
「五月蝿い!これは戦争だ!」
「えっ・・・・・・」
アクアはヒューゴにも言われ思わず戸惑ってしまった。
「生きるか死ぬかだ!それで怪我がどうとか言ってられるか!」
「その通りだ」
キョウスケはヒューゴのその言葉に頷いた。
「これは戦争だ。アクア、よく覚えておけ」
「けれど」
「死ぬのは誰だって怖いけれどね。怪我位は誰だってするのよ」
「中尉・・・・・・」
「それでもやらなくちゃいけない時がある。勝つ為にな」
キョウスケとエクセレンも前に出て来た。
「悠長なことは言っていられない。エクセレン、俺達も入るぞ!」
「そうね、放っておいたら大変なことになるからねえ!」
「フン、四人掛かりか」
アルベロはキョウスケとエクセレンも入って来たのを見てこう呟いた。
「ならば相手にとって不足はない」
「いえ、ちょっと待って」
だがここでエルデからストップがかかった。
「どうした?」
「機体の出力が少しおかしいわ。ここは下がって」
「何、今稼動したばかりだぞ」
「はじめての稼動だから。何かと不備が生じたのだと思うわ」
「そうなのか」
アルベロは不満そうだがそれに従うことにした。
「では撤収だな、ここは」
「ええ。また機会があるから」
「わかった」
それを聞いて彼は機体を撤退させた。突如の撤退にアクア達はいささか面食らってしまっていた。
「あちらの機体で何か不都合が出て来たみたいね」
エクセレンはそう読んでいた。
「ラッキーだったかしら」
「あながちそうとも言えないだろう。ヒューゴ、大丈夫か」
「ああ、とりあえず俺自身にダメージはない」
ヒューゴはキョウスケにこう返した。
「だがガルムレイドが少しな」
「そうだな、これ以上の戦闘は無理だろうな」
キョウスケから見てもそれはわかった。
「ここは一時撤退だ、いいな」
「ああ」
「戦艦はどうするんですか?」
「何ならアクア一人でやる?」
エクセレンが悪戯っぽく笑って尋ねてきた。
「けれど今は」
「ヒューゴの方が心配なのよね」
「べ、別にそういうわけじゃないですけど」
どういうわけか顔を赤くさせていた。
「パートナーに何かあればフォローするのは当然ですし」
「それじゃここは撤収ね」
「はい」
アクアはエクセレンの言葉に頷くしかなかった。
「それじゃエクセレン隊撤収」
「何時からエクセレン隊になったんですか?」
「今さっきよ」
こうしてアクア達はアドラステアの前から撤収した。だがアドラステアへの攻撃は別の者が行った。
「今っ!」
ロザミアのゲーマルクが動いた。そして攻撃態勢を放つ。
「これでっ!」
巨大なファンネルを放った。そしてそこから無数の小型のファンネルが飛び出た。
その無数のファンネルが襲い掛かる。そしてそれでアドラステアを撃つ。戦艦は瞬く間に炎に包まれた。
「う、動けるのか!」
「エンジンはとりあえず!」
艦橋において狼狽するジャマイカンに部下達が報告した。
「ですがこれ以上の戦闘は!」
「クッ、止むを得ん!」
それを聞いて彼はすぐに決断を下した。
「総員撤退だ!ウィーンまで退くぞ!」
「ハッ!」
全軍慌しく撤退に入る。それはアレン達の耳にも入っていた。
「おい、俺達の負けらしいぞ」
「チッ、いいところだったってのによ」
それを聞いてフェイは舌打ちした。
「それじゃあ俺達も退くか」
「そうだな。・・・・・・いや待て」
「どうしたよ」
だがここでアレンが制止した。
「ジェリルの奴、何処へ行くつもりだ」
「何処へって・・・・・・あいつ」
それを聞いてフェイも気付いた。
「何考えてやがるんだ、あいつ」
見れば彼女は西へ向かっていた。そちらはギリシアである。
「ウィーンへ行くんじゃなかったのか」
「おいジェリル」
アレンが通信を入れる。
「俺達はウィーンへ向かう筈だ。何処へ行くつもりだ」
「あたしはあたしの行きたい所へ行くだけさ」
だがジェリルはそれに取り合おうとはしない。ただこう言うだけであった。
「そしてね、そこでまた戦うんだよ」
「馬鹿を言え」
「これはあっちからの命令だぞ」
「命令!?フン、そんなの糞喰らえだよ」
フェイの言葉にも従おうとはしない。
「あたしはあたしのやりたいようになるんだよ。黙っておいで」
「くっ」
「どうする、アレン」
フェイはアレンに問うた。
「このまま俺達だけでもウィーンに向かうか」
「待て、ギリシアにもティターンズの防衛部隊がいたな」
「ああ」
「連中にも撤退を知らせなければならん。ここは俺達もギリシアに向かうか」
「そうか。じゃあ行くか」
「ああ」
こうして彼等もギリシアに向かうことになった。だが彼等はここで信じられないものを見ることになるのであった。
「カミーユ、この勝負はお預けか!」
「ジェリド、まだ戦うというのか!」
「俺は御前をまず倒さなきゃいけないんだよ!」
撤退するにあたってジェリド達が後詰を務めていた。彼はその最中でまだカミーユと戦っていた。
「今度会った時だ!覚えておけ!」
「まだ言うのか!」
そう捨て台詞を残してジェリドは戦場から離脱した。こうしてティターンズ及びドレイク軍の殆どはウィーンに向けて撤退した。何はともあれバルカン半島はロンド=ベルが制圧したのであった。
「だがこれで一件落着というわけにはいかないのが戦争だな」
グローバルは艦橋でこう呟いた。
「ギリシアにも敵の部隊が撤退したのだな」
「はい、オーラバトラーが数機」
ジェリル達のことである。
「そしてまだあそこにはティターンズの防衛部隊も残っています」
「わかった、ではウィーンに向かう前にギリシアを何とかしておこう」
「はい」
「全軍まずはギリシアに向かう。そして後顧の憂いを絶っておこう」
こうして次の作戦が決まった。ロンド=ベルもまたギリシアに向かうことになった。
ギリシアに向かう艦隊の中でヒューゴはナデシコの格納庫にいた。そして一人座り込んでいた。
「どうしたの、こんなところで」
そこに連邦軍の軍服を着たアクアがやって来た。
「いないと思ったら」
「少しな」
だがヒューゴは多くを語ろうとはしない。俯いたままである。
「隊長さんのこと?」
「まあな」
ここでようやく答えた。
「まさかティターンズにいるなんてな」
「それは私だって同じよ」
アクアがここで言った。
「まさか先生が。あそこに」
「どういうことなんだろうな」
「わからないわよ。そりゃ先生はあまり主義主張には五月蝿くない人だったけれど」
「科学者だったってことか」
「まあね」
「そして隊長も戦士だった。それだけかもな」
「それだけって」
「戦いたい、そして研究したいからティターンズに入った」
「それだけで?」
「ティターンズに入れば思う存分戦える」
「ええ」
戦闘集団であり何事も力で押さえようとする者達であるからこれは当然であった。
「そして研究もな。連邦軍ではできない様な危険なことも可能だ」
「だからティターンズに入ったっていうの!?先生も」
「理由としては充分な筈だが」
「そんな理由で」
「ミッテ博士は主義主張には五月蝿くないのだろう?」
「ええ」
アクアは頷いた。
「隊長もだ。それだけで充分じゃないのか」
「それで私達と」
「もしそれなら俺も気兼ね無く戦えるんだがな」
「戦うのね」
「隊長が戦いを求めているのなら。俺も戦うだけだ」
彼は顔を上げた。
「今それを決めようか考えていた。そして決まった」
「単純ね、何か」
「御前はどうするんだ」
「私!?」
「そうだ、ミッテ博士と戦うのか」
「それは」
「どうするんだ、戦えないというのならここを去らなければならないかも知れないぞ」
「馬鹿言わないでよ」
アクアはたまりかねたようにこう返した。
「私だって軍人なのよ」
「ああ」
「命令には従うわよ。そして相手が先生でも戦ってみせる」
「それでいいんだな」
「いいわよ。それも覚悟して軍に入ったんだから」
「そうか。じゃあそれでいい」
ヒューゴはそれを聞いて頷いた。
「少し手伝ってくれ」
「何を?」
「ガルムレイドの修理だ。次の戦いまでにやっておかなくちゃいけないからな」
「アレッ、もうなおったんじゃないの?」
「細かいところはまだだ。そこを少し見てくれ」
アクアは技術将校でもあるのだ。パイロットは本来の職務ではないのである。
「仕方ないわね」
そうは言いながらもヒューゴについて来た。
「何処がどう悪いの?」
「操縦がな、どうも」
こうして二人は修理にかかった。そしてガルムレイドの整備を行なうのであった。
ヒューゴとアクアがナデシコの格納庫で色々とやっているその頃グランガランではショウが難しい顔をしていた。
「どうしたんだ、一体」
そんな彼にニーが声をかけてきた。
「次の戦いで思うところがあるのか?」
「少しな」
ショウはそれに応えた。
「ジェリルのことなんだが」
「あの赤い髪の女かい?」
レッシィがそれを聞いて言った。
「まああたしも髪は赤いけれどね」
「そういえばそうだな」
キャオがそれに頷く。
「赤い髪の女は気が強いっていうよな」
「いや、あの女はそれどころじゃないよ」
だがレッシィはここでこう言った。
「あれは。狂気の一歩手前だね」
「また大袈裟な」
「いや、決して大袈裟じゃない」
ショウの顔が引き締まった。
「あの時のジェリルは。本当におかしかった」
「おかしかったのか」
「ああ。あのまま行けば何が起こるかわからない」
「俺達はそんな奴の相手をしに行くってわけだな」
「ああ」
凱の言葉に頷いた。
「何が起こるか本当にわからない」
「その何かがわからないっていうのも無気味ね」
カナンの声は冷静だったが顔は深刻なものであった。
「鬼が出るか蛇が出るかってところかしら」
「出来るなら蛇がいいな、俺としては」
「その蛇が何十メートルもあったらどうするのよ」
「それだと御勘弁を」
「ったく。キャオは気楽ね」
アムはそう言って呆れた声を出した。
「まあそれが俺だから」
「けれど今回はそうはいかないかもよ」
「ううん」
「とにかくギリシアではそのジェリルって女に注意だな」
「ええ」
皆ケンジの言葉に頷いた。
「何が起こるかわからないのならあらゆるパターンを想定しておく」
「それにないことが起こったらどうするんだよ」
ナオトがリーダーに尋ねた。
「予想外のことだったら洒落にならねえぜ」
「その時はまず落ち着くしかないな」
「落ち着く、か」
「そうだ。今までその予想外のことばかり起こって来たしな。今更驚くこともないだろう」
「それもそうですね。じゃあそういうことで」
アキラが言った。
「ギリシアでの戦いも気合入れていきましょう」
「了解」
こうしてとりあえずはコスモクラッシャーの面々がその場を宥めた。だがショウはまだ暗い顔のままであった。
「まだ心配なの?」
「ああ」
今度はマーベルが来た。そしてショウに尋ねた。
「このままだと。ジェリルは暴走する」
「ええ」
「大変なことにならなきゃいいけれどな」
「けれどその大変なことになった時はどうするの?」
「その時は俺が意地でもそれを止める」
声が強くなった。
「何があっても」
「そう、それを聞いたら安心したわ」
「安心!?」
思わずマーベルに顔を向けた。
「ええ、いつものショウだから」
「いつもの」
「そうよ。それなら私もフォロー出来るから。安心したわ」
「要は俺の気の持ちようってことか」
「そういうこと。貴方も気をつけてね」
「オーラの使い方をか」
「さもないとどうなるかわからないわよ」
「どうなるか、か」
「ええ」
二人はギリシアの方を見た。次の戦いは古の神々の国であった。そこでまた熾烈な戦いが繰り広げられることを彼等は誰よりもよくわかっていた。

第八十四話完

2006・4・3  
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