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スーパーロボット大戦パーフェクト 第二次篇

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第八十三話 最悪の鎧武者

                  第八十三話 最悪の鎧武者     
「バーチャロイドか」
マクロスのモニターで現われたミスマルはそれを聞いて顔を顰めさせた。その厳しい顔が更に厳しくなったように見えた。
「御存知ですか」
「いや、悪いか」
彼は厳しい顔のままそれに答えた。
「知らない。援軍は送るには送ったが」
「左様ですか」
「だが彼等は君達に協力を申し出ているのだな」
「はい」
「そしてどの敵とも関わりがないというのか」
「調べたところバルマーやボアザンのことも知りませんでした。嘘発見器にもかけ、調べましたが」
「全く何もなかったというわけだな」
「はい。それどころか彼等は全く違う世界から来たと言っております」
「ふむ」
「如何すべきでしょうか」
「君達に対して敵意はないのだな」
「それもはっきりとしております」
グローバルは答えた。
「そして。ギガノス軍と戦闘を交えましたし」
「とりあえずは味方ということか」
ミスマル司令はそれを聞いてとりあえずは納得した顔になった。
「ではいい。彼等の参加を歓迎しよう」
「はい」
「それでとりあえずはいい。戦力の上昇になったのはよしとしよう」
「わかりました。それでは」
「そしてそこに展開しているギガノスのことだが」
話はギガノスに関してのものに移ってきた。
「今彼等は月において勢力回復に務めている」
「新たな指導者となったドルチェノフ元帥の下でですな」
「反対派の若手将校達の粛清に成功した彼はそのままギガノスの全権を握ることに成功した」
ミスマルは言葉を続けた。
「そしてギルトール元帥以上の独裁者となり今やギガノスを意のままにしている」
「そしてギガノス軍を復興させているのですな」
「とりあえずはそれは成功している」
彼はグローバルに答えた。
「月に移動要塞を築いている。そして地上にも物資を送り込んでいる」
「物資を」
「今君達と対峙しているグン=ジェム隊に向けてな。特に新型メタルアーマーを重点的に送り込んでいるそうだ」
「新型メタルアーマーを」
「情報によるとかなりの重装備のマシンらしい」
「我々のデストロイド=モンスターの様なものでしょうか」
「いや、かなり違う。そのうえパイロットの思考を機体にそのまま送り込めるらしい。それにより驚異的な俊敏さを発揮するという」
「そうなのですか」
「以前から開発が進められていたがギルトール元帥の命令で中断されていたらしい」
「ギルトール元帥が」
グローバルはそこに反応した。
「あの方が反対していたとなると・・・・・・いや失敬」
あの方、と言ったことへの言葉であった。かっては上司であっても敵味方に別れていたのだから。
「いや、いい」
だがミスマルはそれを咎めようとはしなかった。
「私も。ギルトール元帥には今でも敬意を持っている」
「左様でしたか」
「立派な方だった。軍人としても人間としても」
そして彼は言った。
「だからこそ。残念だった」
「あのドルチェノフという男はそれと比べるとあまりにも小者です」
「うむ」
「ギルトール元帥ならともかく。いずれギガノスは瓦解すると見ていますが」
「手厳しいな」
「それは閣下も同じだと思いますが」
「確かにな。それよりもティターンズとネオ=ジオンだ」
「はい」
「今ネオ=ジオンでも不穏な空気がないわけでもないようだがな」
「不穏な空気とは」
「今そちらに向けている援軍だが」
「はい」
「その中に元ネオ=ジオンの者もいる」
「誰でしょうか」
「ギュネイ=ガス少尉だ。知っているか」
「確か強化人間の」
「バルマー戦役の後で我々に投降し捕虜になっていたのだがな。今回思想チェック等を経て連邦軍に加わった」
「そうだったのですか」
「ヤクト=ドーガと共にな。そちらに向かっている」
「有り難うございます、ここに来て有り難い戦力です」
「そして量産型ニューガンダムとハリソン中尉、彼の乗る量産型F91、そしてもう一人だ」
「多いですね、また」
「それだけティターンズの戦力が圧倒的だということだよ」
ミスマルは言った。
「かって君達は十倍の戦力を相手取ったな」
「はい」
「今回はそれ以上だという」
「あれだけの敗戦を経験したというのにですか」
「ドレイク軍も戦力を回復させている。それに」
「それに?」
「彼等に。厄介な組織がついた」
「どの様な組織ですか、それは」
「ブルーコスモスだ」
「ブルーコスモス」
「そうだ。所謂軍産複合体だが。問題はその思想だ」
「アースノイド至上主義者達ですか」
「そして徹底的な排他的思想も持っている。コーディネーターは知っているか」
「いえ」
これはグローバルも知らなかった。
「はじめて聞く言葉ですが」
「私もだ。このことを知ったのはつい最近だ」
彼は言った。
「何でも宇宙にあるコロニーのある部分に居住している者達だという。DNA等を改造してその能力を常人より高めた者達だ」
「強化人間の様なものでしょうか」
「簡単に言えばな。そうなるか」
ミスマルはそれに応えた。
「宇宙開拓期初期に密かに研究が進められていたらしいが。すぐにその存在を闇に葬られたそうだ」
「それは一体何故でしょうか」
グローバルはそこに疑問を持った。
「しかも。我々ですらその存在を知らなかったというのは」
「それだけ彼等が危険視されていたということだよ」
「危険視、ですか」
「ニュータイプもそうだったな。彼等は連邦政府にその存在すらなかったことにされようとされた」
「はい」
アムロの様に。彼は一年戦争の後連邦政府により軟禁状態に置かれていたのである。
「それと同じだ。連邦政府は彼等をコロニーの一部に隔離し、その存在を抹消したのだ。そして彼等との一切の関わりを絶ったのだ」
「そうだったのですか」
だがグローバルは他にも疑問を持った。
「ですが彼等は今までどうやってこれまでの様々な危機を乗り越えてきたのでしょうか」
「一年戦争にバルマー戦役、そしてイージス計画か」
「はい。そういった多くの危機をどの様にして」
「一年戦争やバルマーの時は鎖国していたのだよ。そしてその存在の一切を消していた」
「はい」
「イージス計画は。自分達で乗り切ったらしい」
「何と」
「彼等は数は少ないが。優れた科学力を持っているという」
「それから察するにかなりのものですな」
「そうだ。だからこそ今その存在が知られるようになり急激に脅威論が高まっている。ティターンズを中心にな」
「成程」
「だからこそブルーコスモスはティターンズに接近しているのだ。その代表は既にゼダンの門に入っているらしい」
「その代表は」
「まだ若いそうだが。ムルタ=アズラエルという」
「ムルタ=アズラエルですか」
「そうだ、今後君達の前に立ちはだかることになるだろう。注意しておいてくれ」
「わかりました。それでは」
「後そちらにまた新しい戦力が加わったそうだな」
「はい」
グローバルはそれに頷いた。
「GGG機動部隊とバーチャロン達です」
「GGGのことは私も聞いているよ。期待している」
「はい」
「だがバーチャロイドは。悪いが全く知らない」
「彼等によると別の世界から来たそうです」
「ショウ君達と同じか」
「いえ、どうやらパラレルワールドの様なものかと」
「ふうむ」
ミスマルはそれを聞いて顔を動かした。
「何故だ。別の世界から」
「また何か動こうとしているのでしょうか」
「そうかもな。だがまだそれについては判断を下すのは止めよう」
だが彼はそれは一先置いておいた。
「それよりもまずは目先のことだ。中央アジアに展開しているギガノス軍とティターンズ、ドレイク連合軍、くれぐれも頼むぞ」
「はい」
「我々はネオ=ジオンと対峙している。こちらは任せておいてくれ」
「北アフリカ戦線はどうなっていますか?」
「とりあえずは順調だ。ネオ=ジオンは数は少ない」
「そうですか」
「火星の後継者達もいるにはいるが。ヘンケン艦長達が頑張ってくれているからな」
「ではそちらはお任せして宜しいですな」
「うむ、君達は君達のことに専念してくれ」
「わかりました。では」
「あっ、ちょと待ってくれ」
モニターを切ろうとするところで呼び止められた。
「何か」
「その、何だ」
咳払いしてから言う。
「娘は。ユリカは元気にやっているかな」
「はい、御安心下さい」
グローバルも心得ていた。それに応えて言う。
「充分過ぎる程御元気です」
「そうか、それはよかった」
ここでは表情を崩さなかった。
「娘に伝えてくれ。くれぐれも無理はしないようにとな」
「わかりました。それでは」
「諸君等の健闘を祈る」
それだけ言ってやっとモニターから消えた。その頃当のユリカはナデシコにおいてルリ達と話をしていた。
「どうですか、ケーン君は」
グン=ジェムとの戦いから一夜あけるとケーンは暇があると木刀を振るようになっていた。そしてそこから何かを掴もうとしているところであった。
「また木刀を振っています」
それにルリが答えた。
「時間があるといつも」
「そうですか」
「けれど。悩んでおられます」
「だろうな」
それを聞いた一矢が言った。
「ああしたことがあったら。無理もない」
「そうだな。だがあれでは駄目だ」
京四郎もそこにいた。そしてシニカルな言葉ではなく本音を述べた。
「あれでは。何もわかりはしないだろう」
「駄目なの?」
「そうだ。今のあいつはただガムシャラに振り回しているだけだ」
ナナの問いに答える。
「それでは。あの男に勝てはしない」
「じゃあどうすればいいのでしょうか」
ユリカが問う。
「それはあいつが教えてくれる」
「あいつ?」
「ジョルジュさんでしょうか」
ルリが言った。
「今ナデシコに来られていますが」
「そうだ、あいつだ」
京四郎はそれに応えた。
「あいつならやってくれる」
「御前は何もしないのか?」
一矢がここで彼に問う。
「剣の達人が」
「当然俺も行く。ゼンガー少佐も来ているな」
「ああ」
「俺達が直接あいつを見る。そして身体に覚えさせる」
「どうやら物凄いことになりそうね」
ハルカがそれを聞いて呟く。
「一体どうなるのかしら」
「手加減をするつもりはない」
京四郎はそれに応えて言った。
「時間がない。多少手荒だがやってやる」
「期待していますよ、京四郎さん」
「まさか艦長から直々に言われるとは思わなかったがな」
「いえ、艦長だけではありません」
ルリも言う。
「私達全員が。ケーンさんのことを思っていますから。お願いします」
「わかった。じゃあ行って来る」
「頼みましたよ」
「ああ、わかった」
こうして京四郎もケーンのいる格納庫の方へ向かった。そこでは既に彼が激しい汗をかいていた。
「フウ、フウ・・・・・・」
全身から汗を滝の様に流しながらもそれでも素振りを続ける。もう肩で息をしていた。
だがそれでも木刀を振り続ける。まるで何かに取り憑かれたかの様であった。
「おい、ちょっとは休めよ」
そんな彼にタップが声をかけた。
「いい加減にしないと倒れちまうぜ」
「タップの言う通りだ。程々にするんだ」
「いや、そうはいかない」
ライトも言う。だがケーンはそれに耳を貸そうとしない。
「今身に着けないと。どうしようもないからな」
「剣をか?」
「ああ、あいつに勝てる技をな。さもないと今度会った時に確実に死んじまう」
「そうだな」
タップもライトも今回ばかりは頷くしかなかった。
「あのおっさんの剣技は並じゃなかった」
「あの時チーフ達が来なかったら大変なことになっていたな」
「だからだよ。俺は絶対にあいつに勝たなきゃならないんだ」
その目が血走っていた。
「さもないと、死ぬのは俺だ。夢にまで出て来やがって」
「夢にかよ」
「それはまた」
二人はそれを聞いて呟く。
「あいつが青龍刀を持って襲い掛かって来やがるんだ。そして俺は」
ケーンの顔が青くなる。
「そんなことはさせねえ。俺は絶対に生きてやるんだ。そしてあいつを」
「精が出ますね、ケーン=ワカバ」
ここで誰かが格納庫にやって来た。
「あんたは」
「貴方が剣の道に精進していると聞いてやって来ましたよ」
それはジョルジュであった。彼は穏やかな笑みと共にケーン達の前に姿を現わした。
「どうですか?私も入れて下さいませんか?」
「あんたもか?」
「はい。鍛錬は一人でやるより二人でやる方が効果があります」
彼は言った。
「ですから。如何ですか」
「そうだな、その方がいい」
ゼンガーもやって来た。
「俺も。見させてもらうか」
「京四郎さんまで」
ロンド=ベルきっての剣の使い手達が集まって来た。
「バレンシア少佐は機体の整備で来られないがな。これだけいれば何とかなるだろう」
「有り難いな。じゃあ何を教えてくれるんだ?」
「まずはこれを受け取れ」
「!?」
京四郎はその背に持つ刀をケーンに投げ渡した。
「それでジョルジュと戦うんだ、いいな」
「おい、真剣って」
「構うことはありません、それは私も同じなのですから」
そう言ってジョルジュも剣を抜いて来た。
「行きますよ、ケーン=ワカバ」
「待ってくれよ、真剣でかよ」
「そうだ、そうでなければ意味はない」
ゼンガーが言った。
「命をかけたものでなければ。掴むことはできまい」
「けどよ」
「ゼンガー少佐の言う通りだ。ケーン」
京四郎も言う。
「あの男は御前の命を狙っている。そんな相手を回して悠長なことは言っていられない」
「・・・・・・・・・」
ケーンはそれを聞いて沈黙した。
「いいな、ここは命をかけろ。そうでなければあの男を倒すことは出来ないぞ」
「・・・・・・わかった、やってやるよ」
ケーンはそこまで聞いて頷いた。
「あいつにやられるか、あんたにやられるか。どっちしかねえのなら」
普段のケーンに完全に戻っていた。
「やってやらあ!こうなったらよお!」
「では私も手加減は致しません」
一度剣で礼をしてから言う。
「行きますよ!」
「おうよ!」
二人は激突した。そして何時果てるともなく斬り合うのであった。
それが朝にはじまり、そして食事も摂らず夕方まで続いた。遂には夜にまでなった。
ケーンは全身傷だらけになっていた。だがそれでも技を身に着けることはdけいないでいた。だがそれでも彼は焦ってはいなかった。それどころか尚も立っていたのであった。
「これで・・・・・・」
最早気力だけで立っていた。そして前に出る。
「決まりだあっ!」
「何のっ!」
しかしそこでジョルジュが攻撃を仕掛ける。サーベルを縦に振り下ろす。だがそこで異変が起こった。
「!?」
サーベルがケーンの身体をすり抜けたのである。一瞬ケーンの身体が半透明になったかの様に見えた。まるで分身の
様に。
「!?今のは」
それにケーンも気付いた。今起こったことが何なのか、彼にもわからなかった。
だがそんな彼に対してジョルジュが言った。
「遂にやりましたね、ケーン=ワカバ」
「今のがか!?」
「はい。貴方は今技を身に着けられました」
「技・・・・・・今のが」
「見切りだ」
京四郎が彼に対して言った。
「見切り!?」
「そうだ、武道の極意の一つ。御前は今それを身に着けたのだ」
「今のがか」
「そうだ、よくやったなケーン」
ゼンガーも言った。
「これで御前は武道の道を一つ進んだ。あの男にも対抗出来るだろう」
「あいつに・・・・・・勝てるのか」
「いや、まだそれはわからない」
しかしゼンガーはそれにはあえてこう述べた。
「所詮付け焼刃。だがそれを付け焼刃としないのは」
「俺自身ってわけか」
「そうだ、やれるな」
「やれるか、じゃねえよなこの場合は」
ケーンは言った。
「やってやるぜ、だよな」
「そういうことです」
「言う奴が違うがな」
ジョルジュと京四郎はその言葉を聞いてニヤリと笑った。
「では今は休みましょう。もう夜です」
「おっ、もうかよ」
ケーンはその言葉に気付き辺りを見回す。だが格納庫なのでそうしたことはわからない。
「今は休め。次の戦いの為にもな」
「ああ」
ゼンガーの言葉に頷く。
「そして次の戦いの時は」
「やってやるぜ!」
最後にこう叫んだ。今彼はグン=ジェムと戦うに足る技を身に着けたのであった。
その頃タシケントにあるグン=ジェム隊の基地では一機のメタルアーマーが届いていた。グン=ジェムは格納庫に収められたそのマシンを四天王と共に見上げていた。
「これがか」
ガナンが釘を舐めながらその巨大なマシンを見上げていた。
「ギルガザムネ。移動要塞と並ぶギガノスの切り札か」
「メタルアーマーにしちゃやけに大きいな」
それにジンが応える。黄土色のボディに頭には三日月の装飾がある。まるで鎧武者の様である。
「だからうちの切り札なんだろうね」
ミンも見上げていた。そして言う。
「今うちは相当やばいからね」
「け、けどこれ誰が乗る」
「それは決まっている」
グン=ジェムがここで口を開いた。
「わしだ。わし以外に誰がおる」
「いいのかい、大佐」
だがここでジンが声をかけてきた。
「どうした?」
「こいつは。かなり厄介な代物らしいぜ」
「厄介か」
「ああ。何でも乗っている奴を次々に破壊しちまうらしい」
「破壊だって?」
「このギルガザムネはパイロットの思考をそのままマシンに流し込む」
ジンはガナンの問いに応じる。
「それがパイロットの神経に直接影響を与えるらしくてな。最後は壊しちまうらしい」
「まるでティターンズやネオ=ジオンの強化人間が乗るマシンだね、それじゃ」
ミンが顔を顰めさせる。
「何の影響を受けたのか知らないけれどね」
「そ、それじゃ誰も乗れないぞ」
「フン、そいじょそこいらのやわな奴ではそうだろう」
だがグン=ジェムはそれを一笑に伏した。
「だがわしは違うぞ。わしはな」
「じゃあ大佐、乗るんだね」
「おうよ」
自信に満ちた声で応じる。
「わし用に調整しておけ」
「了解」
周りで仕事をしていた整備兵達が頷く。
「後青龍刀は出来ているか」
「そちらはもう既に」
「バッチリでさ」
「それでは問題はないな」
彼はそれを聞き満足そうに頷いた。
「ガナン、ゴル」
「おうよ」
「お、おう」
「御前等は先に出撃して連中を誘い出せ。いいな」
「ああ、わかったぜ」
「ま、任せろ」
「ジンとミンはわしと共に行くぞ。そして今度こそロンド=ベルの奴等を真っ二つにしてやるぞ」
「それはゲイザムじゃ駄目かい?」
「ん!?心配なのか?」
「いや、そうじゃないけれどね」
ミンはまだギルガザムネを見上げていた。そして言った。
「嫌な予感がするんだよ、何だか」
「おいおい、乙女の頃に戻っちまったのか?」
「ミ、ミンの以外と純情なんだな」
「ジン、ゴル、馬鹿言ってんじゃないよ」
しかし彼女はこう言って二人を黙らせた。
「何もなきゃいいけれどね、本当に」
彼女はえも言われぬ不吉なものを感じていた。そしてそれを胸に抱いたまま戦場に赴くことになったのであった。
ガナンとゴルはメタルアーマーの部隊を率いてタシケントからアラル海の方に進出して来た。そしてそこで連邦軍の基地に派手に攻撃を仕掛けていた。
「雑魚は相手にするんじゃねえぞ!」
ガナンはやって来る連邦軍のモビルスーツやバルキリー、メタルアーマー達を蹴散らしながら部下達に言った。
「俺達の相手はロンド=ベルだ!それを忘れるな!」
「せ、戦利品だけはもらっておけ」
「それも後でな。今はそれよりも戦争だぜ!」
彼の口の中がアドレナリンで充満していた。そして派手に攻撃を放ち続けていた。
彼等の攻撃はすぐにロンド=ベルにも伝わった。それを聞いてすぐにも動かなければならないのが独立部隊である彼等の宿命であった。
「あからさまに陽動臭いな」
クワトロがその話を聞いて呟いた。
「ギガノスには何か魂胆があるな」
「だが動かないわけにはいかないな」
アムロがそれに応えた。
「敵が攻撃を仕掛けているのならな。それを迎撃するのが俺達の仕事だ」
「そうだな。では行くか」
「ここでタシケントを押さえておきたいですしね」
二人にパサロフが言った。
「丁度援軍がペルシアからこちらに向かっていますし」
「そうだな。ではここでタシケントも押さえておくとしよう」
シナプスがそれに頷いた。
「いいな、では出撃するぞ」
「了解」
「まずはアラルへ」
ロンド=ベルはアラルに向けて出撃した。するとそこにはもうガナンとゴルの部隊が展開していた。
「へへへ、来やがったな」
ガナンは相変わらず釘を舐めていた。そしてロンド=ベルの姿を認めて呟く。
「ここで始末されるって知らねえでよ」
「ガ、ガナン」
「ん!?どうしたゴル」
「お、おでが前に出る。フォロー頼む」
「ああわかったぜ、派手にやりな」
その言葉通りゴルのスタークゲバイが前に出る。
「俺がフォローしてやるからよ」
「た、頼む」
「まずはここでちょっと持ち堪えるぜ。そして大佐達が来た時が勝負だ」
「あの鎧武者ですね」
「ああ」
今度は周りに展開する部下達に応えた。
「それじゃあ行くか。いいな、貰ったものはいつもと同じ要領で分けるぜ!」
「おう!」
その言葉と共に部隊が展開する。そしてゴルの部隊を前に、ガナンの部隊を後ろにして部隊を配置させた。その前にはロンド=ベルがいた。
「ケーン、大丈夫なんだろうな」
タップがケーンに声をかける。
「昨日の疲れはもうないよな」
「ああ、一晩寝たらずっきりしたぜ」
ケーンは声まですっきりした様子で答えた。
「何か。身体が軽くてな。いい気持ちだぜ」
「そうか、それならいいぜ」
「ただ、明日は気をつけろよ」
「!?何で明日なんだ」
ライトの言葉に首を傾げさせる。
「筋肉痛ってのは二日後に来るからな。用心しておくようにな」
「おい、俺はまだ若いんだぜ」
その言葉にくってかかる。
「何でそんなの気にしなくちゃいけねえんだよ」
「おっ、若かったのか」
「おめえと同じ歳だろ」
「今時リーゼントになんかしてたから。もっと歳とってると思ってたが」
「あれは俺のポリシーだったんだよ」
ムッとして応える。
「それを。軍曹に無理矢理切られてよ」
「軍でリーゼントは如何と思いますが」
だがここでそのベンから通信が入って来た。
「丸坊主になぞしませんのでそれは御安心を」
「軍曹」
「ただ一言申し上げておきますとあまり整髪料をつけ過ぎると後々後悔なさるかも知れませんが」
「きつい言葉だね、どうも」
「じゃあ俺は今の方がいいってことか」
「まあリーゼントよりは似合ってるんじゃないか」
「そうか、じゃあとりあえずはこれでいくか」
「そうだな、そっちの方がいいぜ」
「リーゼントも人を選ぶからな」
「ジェリドとかだよな。あとうちじゃベイトさんとかネックスさん」
「トウジやヂボデーはちょっと違うかな、リーゼントとは」
「他にはオールバックか」
「うわ、それ聞いてあの旦那思い出したぜ」
ケーンはそれを聞いて顔を顰めさせた。
「あの旦那も整髪料べったりだしな」
「ポマードつけまくりだよな」
「そのうち禿げたりしてな」
「ちょっとケーン」
今度はリンダが出て来た。
「おっ、リンダ」
「兄さんは禿げないわよ、それは安心して」
「そうなのか」
「うちは禿げる家系じゃないから。それは大丈夫よ」
「そうか、それはよかった」
「それじゃあケーンの子供は将来禿げる心配はない、と」
「よかったな、ケーン」
「まあな。それじゃあいいことがわかったところでいっちょやるか」
そう言ってドラグナーを前に出す。
「おらおらぁ!当たると痛えぞお!」
「よしっ、いつものケーンに戻ってるな」
カミーユが声を出すケーンを見て言った。
「元気になって何よりだ」
「ああしたところは俺より早いよな」
ジュドーも言う。
「いや、ジュドーも結構凄いと思うぞ」
「そうかね」
シーブックの言葉に首を捻ってみせる。
「俺だってこれで結構悩むタチなんだぜ」
「何処がだよ」
だがそれに対してビーチャの突っ込みが入る。
「ジュドーが悩むところなんて見たことないわよ」
「本当、いつも能天気なんだから」
「まあ僕達も人のことは言えないけれどね」
エル、モンド、イーノがすぐにそれに続いた。
「元々あたし達ガンダムチームはノリと明るさがウリなんだけれどね」
ルーも言う。やはり彼等には暗いものは似合わなかった。
「結局俺は三の線かよ」
「けれどそれがジュドーのいいところだよ」
「暗いジュドーなんて見たくないしな」
「何か御前等に言われるとな」
どうやらプルとプルツーに言われると感触も違うらしい。
「照れ臭いっていうか何て言うか」
「プルとプルツーはジュドーにとっていい影響を与えているんだ」
「そうなの!?」
アムロの言葉にキョトンとする。
「ああ。カミーユにとってのフォウみたいにな」
「えっ」
「アムロ中佐」
カミーユがそれを聞いて思わず声をあげ、フォウが顔を赤らめた。
「いや、そういう意味じゃなくてな」
ここですかさずフォローを入れる。こうしたところは手馴れたものであった。
「いい影響を与えているってことさ。お互いにとってもな」
「確かに」
カミーユはアムロのその言葉に頷いた。
「俺もフォウがいなかったら壊れていたかも知れない。シロッコとの戦いの時に」
木星での戦いのことを思い出していた。
「私も。カミーユがいなかったら今の私はないわ」
「そういうことさ。ジュドーとプル達も同じなんだ」
「運命の出会いってことね」
「そう思うと何か不思議だな」
「最初は敵味方だったのにな。そこまで考えると今こうして二人が側にいるなんて不思議だぜ」
「けれどあたしこれでいいよ」
プルは明るい声で言った。
「ジュドーやプルツーと一緒でないと」
「そうだな、あたしもジュドーやプルがいないとどうなってたかわからないからな」
「多分君達にとって不幸な結果になっていたと思う」
アムロの声が深刻なものになった。
「俺がそうだったようにな」
「あのことか」
クワトロはそれを聞き呟いた。
「そろそろ。忘れてもいい頃だと思うが」
「シャア」
「私が今クワトロ=バジーナであるようにな」
「そうかな」
「それに君は今両手に花じゃないか」
「えっ!?」
これにはモビルスーツのパイロットだけでなく他のロンド=ベルの面々も驚きの声をあげた。
「いや、花は三本かな」
「中佐、何時の間に」
ミサトがそれを聞き顔と髪の毛を崩した表情になる。
「もてるとは思っていたけれど」
「ミサト、どうして貴女がそんなに驚くの?」
横にいるリツコが彼女に問う。
「だってショックよ。ロンド=ベルだけじゃなく連邦のエース中のエースが三本も花を持ってるなんて」
「それじゃあ四本になってみたら?」
「それどういうこと?」
「ヒントはタキシードよ」
「ちょっちわかんないわね」
「そうかしら」
「やっぱりもてるのね、アムロ中佐は」
「まあ顔も声もいいし面倒見もいいし」
「それでエースってんだからもてない筈ないか」
「ライバルは多いわね」
「だから何で私なのよ」
「けれど悪い気はしないでしょ」
「・・・・・・まあね」
視線をリツコから逸らしながら答える。
「信頼出来る人だし」
「中佐にはあたしもパソコン教えてもらってるしね」
「おや、レミーもだったのか」
コウがそれを聞いて声をあげる。
「そうよ。中々わかりやすいんだから」
「またそれは意外だなあ」
「コウはどっちかというと機械いじりかしら」
「まあパソコンよりはそっちかな」
「将来は艦隊を率いたりしてな」
キリーが言う。
「艦隊!?」
「白い戦艦に乗ってな。銀河を統一するんだって」
「おいおい、それじゃあどっかの情報長官と一緒だぞ」
真吾がキリーに合わせて言う。
「白い戦艦じゃあな」
「そしてその横には赤い髪の毛の親友が」
「何かロマンチックね。その赤い毛の坊やにも会ってみたいわ」
「実はどっかで会ってたりして」
「その中には何故か甲児や鉄也もいてね。大次郎君とかも」
「・・・・・・一体それはどういった世界なんだ」
ヤンロンはそれを聞いても全くわからなかった。
「何故か僕にも関係ありそうだが」
「そうだな。私も引っ掛かる」
大文字もそれは同じだった。
「この世界とは別の世界の話のようだが」
「俺も関係ありそうだな」
ピートもである。彼等はその白い戦艦と銀河という言葉に異様な反応を示していたのであった。
「カイザー・・・・・・じゃなかったウラキ中尉」
「あっ、はい」
コウはダイアンの言葉に応える。
「今ケーン君達の方にメタルアーマーの大軍が来てるから。フォローお願いね」
「了解、突貫します」
GP-03が動いた。そして彼はケーンの後ろについたのであった。
「何か色々と話があったみたいですね」
「まあな」
ライトに応える。
「皆それなりに過去があるってことさ」
「過去がある男は格好いいってね」
「そして過去がある女は艶がある」
「面白いこと言うな」
「まあ、俺達はこの軽いノリがウリですから」
「それじゃあ今回も」
「派手にいくぜ!」
三人は一斉に光子力バズーカを放った。それで先頭にいる敵の小隊を吹き飛ばす。
「まずはこれが挨拶代わりだ!」
「無敵の三銃士!」
「只今参上!」
「さて、三馬鹿が派手に馬鹿やったからあたしも行かせてもらうわ」
「こらアスカ、三馬鹿とは何だ!」
「訂正しやがれ!」
「うっさいわね!馬鹿に馬鹿って言って何が悪いのよ!」
アスカは早速ケーン達に噛み付いてきた。
「昨日あれだけボロボロになってたのに復活してるし!どんな身体してんのよ!」
「俺は不死身なんだよ!」
「不死身!?馬鹿言うのも大概にしなさい!」
アスカはさらに言う。
「下手したら死ぬところだったじゃない!無茶もいい加減にしてよね!」
「何でアスカっていつも誰彼なしにああなんだ?」
バーニィが横目でそれを聞きながら言った。
「いつも怒って」
「あれは怒ってなんかいないわよ」
しかしクリスはバーニィにそう説明した。
「そうなんだ」
「アスカは自分に素直じゃないだけなのよ。あれで結構へそ曲がりなのよ」
「何かあったら只じゃおかないからね!覚えておきなさい!」
「その何かが起こらない為の修業だったんだよ!」
「その修業で何かあったら元も子もないじゃない!」
「ええいうっせえ!さっさとフォローに来やがれ!」
「そんなの言わなくてもわかってるわよ!」
それに応えてエヴァも前に出ようとする。
「行くわよ、三人共!」
「えっ、行くって」
だがシンジはその言葉にキョトンとした。
「何よ」
「エントリープラグが」
「うっ」
「心配いりませんよ、アスカ」
だがここで思わぬ助け舟が出た。シーラであった。
「私達も前に出ますから」
「本当!?」
「はい。ですから安心して前線に赴いて下さい」
「やっるう、やっぱりシーラ様は話がわかるわ」
「話がわかるって言うのかな、この場合」
「ちゃうと思うけどな」
「あんた達は黙ってなさい」
すかさずアスカから反撃が入る。
「何はともあれ。前に出るわよ!」
「了解」
レイはこんな時でも変わらない。いつもの調子であった。
「三馬鹿!そこで大人しく待ってなさいよ!」
アスカが突進する。それを見ながらシーラは戦場の遥か向こうを見ていた。
「シーラ様、やはり」
「はい」
カワッセの言葉に応える。彼女はその戦場の遥か向こうにあるものに禍々しいものを感じていたのだ。
「悪しき力を感じます」
「悪しき力」
「シーラ様、それってまさか」
「ドレイクじゃないですよね」
「いえ、違います」
エルとベルに言葉を返す。
「それとは別に。邪悪で、破滅を含んだものを感じるのです」
「破滅、ですか」
「はい」
またカワッセに応えた。
「おそらくケーン=ワカバにとって最大の危機が訪れるでしょう。その時は」
「最悪の事態だけは避けなければなりませんな」
その為にシーラは前に出たのである。だがケーンもアスカもそれには気付くことなく目の前の敵に専念していたのであった。
「おらおらあっ!」
ケーンは前に立ちはだかるグン=ジェム隊のメタルアーマーを次々と屠っていく。
「邪魔する奴はどんどん倒していくぜっ!」
「おいケーン、波に乗るのもいいけどよ」
「何だよ」
タップが声をかけてきた。
「来たぜ、厄介なのが」
「ヘッ、あのおっさんの手下かよ」
「そうさ。四天王の一人」
「お、御前やっぱり来たな」
スタークゲバイであった。それに乗るゴルが名乗りをあげてきた。
「ギ、ギガノスのゴルだ」
「やっぱりな、四天王の一人だ」
ライトがそれを聞いて言う。
「手強いぞケーン、気をつけていけ」
「そんなこと言われなくてもわかってるぜ」
レールガンを出しながら言う。
「これでもくらいやがれっ!」
そしてレールガンを放つ。ゴルは避けようともしない。それで決まりだと誰もが思った。
「やったか!?」
「へっ、四天王たって所詮はデクの棒よ!」
しかしそれは違った。ゴルはシールドを出しそのレールガンによる攻撃を防いだのであった。
「おろっ!?」
「チッ、シールドかよ!」
「こ、この程度でおでやられたりしねえ」
「糞っ、しぶとい奴だ」
「よくやったぜゴル」
「え、えへへ」
ガナンに褒められ顔を崩す。
「それじゃあ俺が援護に回るからよ。一匹一匹始末してやろうぜ」
「わ、わかった」
「おいおい、来るぜ」
「しかも一匹なんてな。まるで動物みたいに」
「こうなったらチンタラやったりしねえぜ」
ケーンはレーザーソードを抜いた。
「タップ、ライト、後ろは任せたぜ!」
「おい突っ込むのかよケーン!」
「連中倒すにはこれしかねえ!こうなttらやってやらあ!」
「おい、無茶だぜそりゃ!」
リョーコがそんな彼を止めようとする。
「あの二人相手に突っ込むなんてよ!」
「死にに行くようなものだぜ、おい」
サブロウタも言った。彼等にはケーンの行動は無謀に見えた。だがケーンにとってはそうではなかった。
「大丈夫さ」
「大丈夫って」
「また根拠のねえことを」
「いや、根拠はある」
だがそんな二人にゼンガーが言った。
「少佐」
「確かに以前までのケーンならば出来なかった」
彼は言う。
「しかし今のケーンは違う。刮目せよ!」
「刮目」
「そうだ!今のケーンならばやる!」
その言葉は断言であった。
「それを見ておけ!よいな!」
ゼンガーの言葉そのままにケーンは突進していた。そこにゴルとガナンの攻撃が襲い掛かる。
「死にやがれ!」
「こ、こででも喰らえ」
無数の弾丸がドラグナーに向かう。しかしケーンはそれ等の攻撃を全て紙一重でかわしていく。

「なっ!」
「見える、見えるぜ!」
ケーンは攻撃をかわしながら叫んでいた。
「敵の攻撃がよ!これならやれるぜ!」
「おいゴル、来たぞ!」
「き、来た」
ケーンのドラグナーはもうゴルのスタークゲバイのすぐ前にまで来ていた。
「おらああっ!」
「ヌッ!」
レーザーソードをシールドで受け止める。
「チッ、これも受けたってのかよ!」
「ま、まだやれる」
「流石は四天王だけあるぜ。ならよ」
「!?」
ガナンはケーンの動きを見ていた。そして何かを悟った。
「危ねえぞゴル!」
そして叫んだ。
「下がれ!このままじゃやられちまうぞ!」
「お、おで強い。やられることなんか」
「そんな悠長なこと言ってる暇じゃねえ!さっさと下がれ!」
だがその言葉は遅かった。ケーンのレーザーソードが一閃した。
「うおおおおおおおっ!」
シールドを両断し、そしてスタークゲバイを斬る。真一文字に斬り裂いた。
「うわあああああああーーーーーーーっ!」
「ゴルーーーーーーーーーーッ!」
ゴルの絶叫が響き渡る。スタークゲバイは地面に叩き付けられ爆発した。そして後には残骸だけが残された。
「ゴル、おいゴル!」
ガナンは通信を入れて必死に呼び掛ける。
「いるだろ!脱出したんだろ、おい!」
だが返事はない。そして眼下にあるのはスタークゲバイの残骸だけであった。
「ゴル・・・・・・」
返事がないのと残骸を見てガナンもようやく事態を認めるしかなかった。
「くっそおおおおーーーーーーーーーっ、よくもゴルをーーーーーーーーーーーっ!」
ガナンが叫ぶ。
「許さねえ、こうなったら手前等全員ここで殺してやる!」
スタークガンドーラはレーザーソードを抜いた。そしてドラグナーに襲い掛かる。
「まずは手前からだ!ゴルの仇、取らせてもらうぜ!」
その顔は憤怒で燃え上がっていた。目は殺意に燃えている。その目でケーンを見据えていた。
「死にやがれっ!」
「何のっ!」
だがケーンのドラグナーはそのレーザーソードをかわした。先程の砲撃をかわしたのと同じ動きであった。
「なっ!」
「見える、見えるぞ!」
ケーンもまた叫んでいた。
「これならやれる!来やがれ!」
「見えるか何かわからねえけどよ」
ガナンもケーンから目を離すことはなかった。
「ここでゴルの仇、取らせてもらうぜ!」
構えをとり立ち向かう。剣を振り下ろす。だがその攻撃もかわされてしまった。
「チッ!」
「そこだっ!」
ケーンはそれを横にかわしていた。それと同時に振り抜く。
攻撃はスタークガンドーラの上半身と下半身の間を狙っていた。そしてコクピットのすれすれの部分を斬っていた。
「うわっ!?」
ガナンの頭部もかすめていた。その髪の毛まで切られ河童のようになる。
「た、助けてくれーーーーーーーーーっ!」
そこにケーンの止めの攻撃が来る。ガナンのスタークガンドーラもまた炎に巻き込まれ爆発してしまった。
「まずは二人だな」
「ああ」
ケーンはタップの言葉に応えた。
「けれどまだラスボスがいるぜ」
「そいつを何とかしなくちゃな。話ははじまらねえな」
「そうさ。今からタシケントに行くかい?」
「いや、その必要はないぞ」
ライトが話に入って来た。
「あちらさんから来たのかよ」
「ああ。数にして四百」
ライトはマギーを見ながら言った。
「マギーちゃんが警報鳴らしてくれてるぜ。あの旦那もいるな、こりゃ」
「総員引き続き戦闘態勢だ」
ブライトがそれを聞き指示を下す。
「すぐに次の敵が来るぞ。警戒を緩めるな」
「了解」
「来るなら来やがれってんだ」
ケーンは言う。
「今度こそ、倒してやるぜ」
「気をつけろよ、ケーン」
タップが声をかけてくる。
「今度は、かなりまずいからよ」
「ああ、わかってるぜ」
それはケーンが最もよくわかっていた。真剣な顔で頷く。
「今度こそ、やってやらあ」
「来たぞ」
ライトが言った。その声と共にグン=ジェム隊の本隊が戦場に姿を現わした。
「来たかよ、遂に」
ケーンが彼等を見て言う。
「何か変なメタルアーマーに乗ってるな」
「そうだな、鎧武者みたいだ」
タップとライトが戦場に姿を現わしたギルガザムネを見て言う。
「ありゃ何だ?」
「さてな、まあラスボスなのは事実だろうな」
「それじゃあ気合入れていくぜ」
「おう」
「生きるか死ぬかだ、覚悟しろよ」
三人はそう言い合って身構える。その時グン=ジェムは戦場を見渡していた。そこにはミンとジンもいた。
「大佐、おかしいよ」
ミンが彼に声をかける。
「ゴルとガナンの姿が見当たらないよ」
「フン、どうせ撃墜されて逃げたんだろう。仕方のない奴等だ」
「いや、それがどうも違うみたいだ」
ジンが言った。
「どうしたっていうんだ?」
「脱出したにしてはその形跡がないんだ。ただスタークゲバイとスタークガンドーラの残骸があるだけだ」
「何が言いたい」
「大佐、あの二人は」
「馬鹿を言え、あの二人が」
グン=ジェムはそれを否定しようとする。
「殺しても死なない連中だぞ、それが」
「いや、間違いないみたいだよ」
ミンの声が苦いものに満ちていた。
「これは」
「馬鹿な、そんなことが」
グン=ジェムの顔に驚愕の色が走る。
「あの二人が」
「大佐、残念だが」
それを語るジンの顔も苦渋に満ちたものであった。
「もうあの二人は」
「ゴル!ガナン!」
呼び掛ける。だが返事はない。
「いるのか!いたら返事をしろ!」
やはり返事はなかった。グン=ジェムはそれを確かめて遂に認めるしかなかった。
「ゴル!ガナンーーーーーーーーーーっ!」
叫ぶ。しかしそれでも二人からの返事はなかった。それが全てであった。
「うおおおおお、うおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーっ!」
泣き叫ぶ。鬼の様な顔に悲嘆が走る。彼はこの時心から泣いていた。
「馬鹿だね、死ぬ時は一緒だろ」
ミンも泣いていた。
「こうなったら俺達で!」
ジンもまた。今彼等は血の涙を流していた。
「ゴルとガナンの仇討ちだ!奴等全員ブッ潰してやるぞお!
「おう!」
グン=ジェム隊の士気がこれまでになく上がった。そして彼等は一直線にロンド=ベルに向かって来た。その先頭にはグン=ジェムのギルガザムネがいた。
「ケーン、来やがったぜ!」
「わかってる!」
ケーンは応えた。そして抜いたままのレーザーソードを構えてグン=ジェムに向かう。
「他の奴等は任せな!」
「御前はラスボスをやれ!」
「ああ、わかった!」
ケーンはそれに応える。
「やってやるぜ、おっさん!」
「フン、もう手加減はせんぞ!」
ギルガザムネはあの巨大な青龍刀を取り出していた。
「ゴルとガナンの仇だ!ここで成敗してくれる!」
刀を構える。そして向かって来た。
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
その横ではタップがミンと、そしてライトがジンと戦っていた。他の者達は一般の兵士達と戦っている。ケーンは気兼ねなく
グン=ジェムと戦っていた。
「死ねいっ!」
「おわっ!」
紙一重でそれをかわす。ゲイザムに乗っていた時とは比較にならない動きと剣圧であった。
「な、何だよこれ」
ゴルとガナンを倒したケーンも呆然とならざるを得なかった。
「まるで化け物じゃねえか」
「ほう、あれをかわしたか」
グン=ジェムはそのケーンを見据えて言う。
「腕をあげているな。ゴルとガナンを倒しただけはある」
「おかげさまでね」
「だがそれだけでは駄目だ。このわしとギルガザムネは倒せぬぞ!」
「この世に倒せないマシンなんてねえんだよ!」
「その例外がわしだ!行くぞ!」
二人は激しく打ち合った。だがケーンは防戦一方であり、グン=ジェムに押されるばかりであった。さしものケーンも彼とギルガザムネには勝てないようであった。
「これはゴルの分!」
刀を振り下ろす。それでシールドを叩き割る。
「これはガナンの分だ!わかったか!」
「チッ!」
今度は左腕を。ドラグナーは右腕だけになった。
「次は貴様自身だ!死ねぇっ!」
「生憎俺は死ぬわけにはいかねえんだよ!」
ケーンは振り上げられた青龍刀を見上げて言う。
「リンダちゃんと結婚するまではな!」
「それはあの世でやるがいい!・・・・・・ヌッ!?」
だがここで異変が起こった。ギルガザムネの動きが止まったのだ。
「ヌウオオオオオオオオ・・・・・・」
「何だ!?どうしやがったんだ!?」
最初に異変に気付いたのはケーンであった。
「急に動きが」
「大佐、どうしちまったんだい?」
「どうかしたのか?」
それにミンとジンも気付いた。
「グオオオオオオオ・・・・・・」
「どうしたんだよ、急に」
ジンは自分の乗るスタークダウツェンをギルガザムネの側に寄せて来た。戦闘は一時中断していた。
「何かあったのかい?」
「そこか・・・・・・」
「!?」
不意にグン=ジェムが呟いた。
「そこかあああああああああーーーーーーーーーーっ!!」
「なっ!」
ギルガザムネが不意に刀を振り下ろしてきた。突然のことであったのとそのあまりの速さの為ジンといえども避けきれるものではなかった。
その剣撃がスタークダウツェンを一閃した。そしてそれはジンの左肩をも斬っていた。
「ジン!」
「クッ・・・・・・」
ミンが叫ぶ。だがジンはまだ生きていた。
「ひ、ひでえ・・・・・・」
だが傷は深かった。彼は呻きながら呟いていた。
「これはないぜ、大佐・・・・・・」
そして大地に落ちていく。スタークダウツェンもまた爆発の中に散った。最後にはその頭部だけが転がっていた。
「ジン・・・・・・」
ミンはそのスタークダウツェンの頭部を見て呻いた。
「ジン!大佐、どうして!」
「グオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーッ!」
だが今のグン=ジェムにはミンの言葉も耳には入らなかった。絶叫と共にさらに暴れ続ける。
「ウワッ!」
ミンはかろうじてその刃を避けた。とても近寄れたものではなかった。
「大佐・・・・・・狂ったのかよ」
「何処だ、何処だああああーーーーーーーーーーっ!」
彼は刀を遮二無二振り回しながら叫ぶ。
「ゴルとガナンの仇は何処だあああーーーーーーーーっ、ジン、教えろ!」
「手前が今やったんじゃねえか」
ケーンは呆然としながらもこう呟いた。
「今更何言ってやがるんだ」
「ケーン、軽口は後だ!」
「こいつはやばいぞ!一旦下がれ!」
「!?あ、ああ」
後ろからタップとライトの声が聞こえてきた。ケーンはそれを聞き咄嗟に後ろに下がる。
「いっけええええええーーーーーーーっ!」
「一騎打ちつってもこれはまずいからな!」
タップとライトは同時に光子力バズーカを放った。それでギルガザムネを吹き飛ばすつもりだったのだ。
二色の光が鎧武者に突き刺さり爆発する。だがそれを受けても鎧武者はまだ立っていた。
「なっ・・・・・・!」
「直撃の筈だぞ!」
「この程度で!」
グン=ジェムはなおも叫んでいた。
「わしを倒すことはできぬわあああーーーーーーーーーーっ!ヌオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーッ!」
そしてまた青龍刀を出鱈目に振り回す。三人はそれを見て咄嗟に上に上がった。
「何て化け物だ・・・・・・」
「バズーカは確かに直撃した筈だってのに」
ケーンとタップはその顔を青くさせていた。
「しかもいかれてやがる。一体何があったんだ」
「異常があるみたいだな。・・・・・・ん!?」
ライトはセンサーを見てあることに気付いた。そしてケーンに声をかけてきた。
「おいケーン」
「どうした?」
「あの鎧武者な、どうやらかなりやばいやつらしいぞ」
「そんなのもうわかってるぜ」
「いや、性能の問題じゃない。どうやら欠陥品らしいぞ」
「欠陥品!?」
「どうやら性能が構造に追いついていない。それにパイロットにもかなりの悪影響を与えるらしいな」
「それでか」
「どうやらな。長時間戦闘に耐えられるやつじゃないみたいだ」
「だからかよ、急にいかれやがったのは」
タップはそれを聞いて呟いた。
「ケーン、どうするんだ」
「どうするったって決まってるだろ」
ケーンはライトに答えた。
「やってやるさ、どっちにしろここで決着をつけとかねえとまた襲い掛かって来るからな」
「そうか。じゃあ気をつけろよ」
「ああ」
「骨は拾ってやるからな」
「こらタップ、言うに事欠いて何言いやがる」
「ケーン、気をつけてニャ」
「ゲ、ゲゲ!?」
モニターに姿を現わしたクロを見てその顔を真っ青にさせる。
「ク、クロかよ。驚かせるなよ」
「あたしが出たらまずいのかニャ?」
「っていうか黒猫がこんな場面に出たらよ、誰だってびっくりするぜ」
「じゃあおいらだったらどうかニャ」
今度はシロが出て来た。
「おいらは特に不吉じゃないぜ」
「どっちにしろ急に出て来ないでくれよ、今折角シリアスだったんだからよ」
「俺達ってあまりシリアスじゃないからな」
「そういえばそうだな。どっちかっていうとギガノスの旦那の方がキリッとしててシリアスだしな」
「まああの旦那にも機会があれば会えるだろうさ。じゃあ行くぜ」
ケーンはあらためて構えをとった。
「肉を切らせて骨を断つだ」
「じゃあな」
「勝って来いよ」
「ああ」
最後に頷いた。そしてギルガザムネに急降下攻撃を仕掛ける。
「奴の懐に飛び込めば」
ケーンは突っ込みながら呟いていた。
「その攻撃を見切って・・・・・・!」
「そこにいたかあっ!」
グン=ジェムの方も彼に気付いた。顔を見上げて叫ぶ。
「わしに仇を!仇をとらせてくれええっ!」
ドラグナー目掛けて思い切り刀を振り下ろす。ケーンはその刀をじっと見据えていた。
「これをかわして・・・・・・」
先の戦いでは見えなかった。だが今はその太刀筋がはっきりと見えていた。
「仕掛ける!今だ!」
ドラグナーが残像となった。剣はその残像を斬っただけであった。
「ヌッ!?」
「喰らえっ!これで終わらせてやるぜ!」
懐に飛び込む。既に剣は抜かれている。
ケーンはその剣を一閃させた。そしてギルガザムネの腹部を斬り裂いた。
それで終わったかに見えた。鎧武者は動きを止めた。そしてゆっくりと落ちていくように見えた。
「やったか!?」
「いや、まだだ!」
ケーンはタップとライトにこう返した。
「奴はまだ・・・・・・」
「あの一撃でそんな筈は・・・・・・なっ!?」
「ダメージは限界の筈だぞ!」
タップとライトが声をあげた。何とギルガザムネはそれでも沈みはしなかったのだ。
「わしは死なん!貴様等を倒すまで!」
そう叫びながらまた刀を振り上げてきた。
「何てこった!」
「おいタップ、そりゃ専用の台詞だぞ!」
「そんなことあいちいち構っていられっかよ!まだやるつもりだぜ!」
「いや、流石に限界だな」
だがライトはギルガザムネを冷静に見ながらこう言った。
「限界か?」
「ああ。幾ら何でもな」
彼は言った。
「もう終わりだ。機体も、中の人間もな」
「わしは死なんぞおおおおーーーーーーーーーっ!」
グン=ジェムはまだ叫んでいた。しかしその動きはもう完全に止まっていた。
その片目は血走り、そして足は自身の赤い血で染まっている。だがそれでも彼は諦めようとはしていなかった。
しかしそれも限界であった。ギルガザムネは所々で爆発を起こしていた。そして次第にそれは大きな爆発になり、炎に包まれていった。
「大佐!」
ミンの呼び掛けにも返事はなかった。ギルガザムネもまた地に落ち、残骸となろうとしていた。
それで全ては終わった。ミンは気付いた時には既に包囲されていた。残された僅かな毒蛇部隊の者達もである。
「降伏しろってのかい」
「無理強いはしないけれどね」
それに万丈が答えた。
「けれど悪い条件じゃないと思うよ」
「フン、仲間の仇もとらないで降伏なんて出来るものかい」
「仲間か」
「そうさ、あたし一人で生き残ってもね。仕方ないんだよ」
ミンは言う。
「そんなので。どうして降伏なんてするんだい」
「万丈さん、今ギルガザムネを調べたら生きてたぜ」
「やっぱりね」
「なっ!?」
ミンはそれを聞いて思わず声をあげた。
「今何て」
「他の三人もピンピンしてるぜ。長髪の兄ちゃんは肩に怪我をしてるけれどな」
「そうか、やっぱりね」
「生きてるってのかい」
「そうさ。人間ってのは中々死なないものでね」
万丈は微笑んでミンに対して言った。
「まああの状態で生きているっていうのは正直凄いけれど。他の撃墜されたパイロットも殆ど無事みたいだよ」
「ヘッ、どうやらあたし達は神様に見捨てられちまったみたいだね」
「あれっ、ここで地獄の鬼とでも言うつもりだったけれど」
「あの世なんて何処でも変わりはないさ。結局死んだ後に行くんだからね」
「成程」
「まっ、あの世には五人で行くって決めてたしね。それじゃあそれで後腐れはないよ」
「投降するってことだね」
「そうさ」
ミンは頷いた。
「もっともその後は知ったことじゃないけれどね」
こうしてミンと残ったグン=ジェム隊の面々は降伏勧告を受け入れ、捕虜となった彼等は速やかに武装解除され地上において集められた。
「ったくよお、全員生きているなんてな」
ガナンは河童の様になった頭をそのままに岩ばかりの痩せた土地の上に胡坐をかいていた。もう釘を舐めている。
「お互いそう簡単には死なねえってことか」
「ジン、さっきはすまんかったな」
全身包帯まみれのグン=ジェムが肩に包帯を巻いているジンに声をかけていた。
「何、いいってことさ」
だがジンは平気な顔をしていた。
「この程度でくたばるようなやわな生き方はしてないからな」
「そうか」
「大佐こそ大丈夫なのかい?あのマシンのダメージは」
「フン、あの程度でわしがくたばると思うか」
胸を張ってこう言う。見れば包帯を巻いていても全く怪我人に見えない。
「わしを倒したければ核ミサイルでも持って来るがいいわ」
「核ときたかい」
ミンがそれを聞いて言う。彼女も胡坐をかいていた。
「あの時はマジで死んだと思ったけれどね」
「お、おでも」
ゴルも健在だった。多少怪我をしているが元気なものだった。
「撃墜された時駄目だと思った」
「俺もだよ。こうして生きてるなんて夢みてえだぜ」
「命あってだ。だがこれで終わりではないぞ」
「大佐、まだやろうってのかい」
「もうマシンも何にもないよ」
ガナンとミンが言った。
「ギガノスではだ」
だがグン=ジェムはここでこう返した。
「何、また山賊か何かになればいいだけか」
「山賊か」
「悪くないね」
「だが今度は少し趣向を変えてみようと考えておるのだ」
「趣向を?」
「どんなふうに?」
「今までは金持ちから奪っていたがな。今度は秘宝を狙わないか」
「秘宝を」
「トレジャーハンターというやつだ。これはこれでかなり儲かるぞ」
「隠された秘宝を捜し求めるってのかい」
ガナンはそれを聞いてニヤリと笑った。
「頭と力を使ってな」
「まあ俺達はもっぱら力だけだけれどな」
ジンも乗り気のようである。
「いっちょ派手にやってやるか」
「おうよ」
「けれどその前にやることがあるよ」
「何だ、ミン」
もう軍隊でいるつもりはないので階級は呼ばなくなっていた。
「さっさと捕虜なんて止めないとね」
「まあそれはすぐにな」
グン=ジェムは不敵に笑って応えた。
「やるから安心しろ、いいな」
「そうこなくっちゃ」
「それじゃあ毒蛇部隊あらためトレジャーチーム毒蛇の」
「旗揚げというか」
「じ、じゃあ最初は何処に」
「まあ焦るな」
グン=ジェムはこう言って部下達を宥めてから言った。
「話はこれからだからな。いいな」
「あいよ」
「それじゃあそれに備えて色々と考えておくか」
「まずは脱走だな」
「た、楽しみにしてる」
彼等は相変わらずの様子であった。この後実際に脱走し異様なトレジャーハンターの一団が地球圏を席巻することになるがこれはまた別の話である。何はともあれグン=ジェム隊と四天王はしぶとく生き残ったのであった。
グン=ジェム隊の降伏により地上のギガノス軍は全ていなくなった。これにより連邦軍は中央アジアを奪還し、この地域にある基地の全てを掌握することとなった。
「まずはおめでとうっていったところだな」
ロンド=ベルはタシケントに入った。そこで合流したハリソンにこう言われた。白い髪を短く刈った青年であった。
「ギガノスの連中はこれで地上から完全にいなくなったからな」
「けれどそれで終わりじゃねえってところがな」
ビルギットがそれに応えた。
「辛いところなんだよ」
「まあ戦争ってなそういうものさ」
ハリソンはビルギットにこう返した。
「一つ潰せばまた一つ出て来るってな」
「モグラ叩きと同じかよ」
「特に今の戦争はな。何か一つ潰したらまた一つ出て来るだろ」
「ああ」
「敵はまだまだいるしな。気を着けていこうぜ」
「それでその気を着ける為に御前が来たんだな」
「その通り」
ハリソンはにこやかな顔を作って頷いた。
「ダカールから助っ人で来たぜ。宜しくな」
「ああ、こちらこそな」
「で、ギュネイも来ているんだ」
「ギュネイ」
それを聞いたクワトロがサングラスの向こうの目を動かした。
「ギュネイ=ガスのことか」
「ああ、知ってるのかクワトロ大尉は」
「ネオ=ジオンのパイロットだったな。バルマー戦役の時に活躍した」
「そうさ、実はあの戦いで捕虜になってな」
「ふむ」
「今度思想やらのチェックを受けた後でこっちに入ったんだよ。階級は少尉さ」
「ネオ=ジオンから連邦にか」
「特に珍しくないと思うけどな」
ハリソンは懐疑的な顔をしたカミーユにこう返した。
「けれど」
「言っちゃ悪いがエマ中尉だって元ティターンズだ」
「ええ」
「後ノリス大佐も元々はジオンだろ。特に気にかける必要もないと思うがね」
「それもそうかな」
カミーユはそこまで聞いて納得したかのように頷いた。それはむしろ自分自身に納得させようとしているかのようではあったが。
「まあそういうことだ。そうしたことは無頓着でいこうぜ」
「そうだな。それを言うとうちの面子はかなり怪しくなる」
クワトロがここでこう言った。
「思想チェックまで受けて問題ないというのなら私から何も言うことはない。ここは温かく迎えるとしよう」
「了解」
「あとカミーユだったかな」
「ええ」
ハリソンはまたカミーユに声をかけてきた。
「実は俺達は三人で来たんだ」
「三人ですか」
「俺とギュネイと」
彼は語る。
「そしてもう一人は」
「お兄ちゃん!」
ここで声がした。そして紫の長い髪を持つ少女が飛び込んで来た。
「久し振り!元気だった!?」
「わっ、ロザミィ」
ロザミアに急に抱き付かれ困惑した顔になった。
「ずっと会えなかったから。寂しかったんだよ」
「ってロザミィ、何時病院から」
「ついこの前に。やっと退院出来たから」
「そうだったんだ」
「退院してすぐに連邦軍に志願したんだよ。お兄ちゃんを助けたいから」
「ロザミィ」
カミーユはそれを聞いて複雑な顔を作った。
「また戦場に立つことになるけどいいんだな」
「そんなの構わないよ、だってお兄ちゃんの側にいて守ってあげたいから」
「そうか、済まないな」
だがここでカミーユは言うことがあった。
「けれなロザミィ」
「何?」
「そのお兄ちゃんってのは止めてくれないか」
「どうして!?」
ロザミアはそう言われてキョトンとした顔を作った。
「そのさ」
言いにくいことであったが言わなくてはならなかった。
「ほら、皆がいるから」
「そんなの関係ないよ」
「俺が何か恥ずかしいからさ。それじゃ駄目かな」
「え~~~~~、じゃあどう呼べばいいのよ」
「そうだなあ」
カミーユは少し考えてからそれに答えた。
「カミーユさんじゃ駄目かな」
「カミーユさん」
「そうさ、それなら俺も特に恥ずかしくないしロザミィも皆からあれこれ思われないだろうしさ」
「わかったわ、カミーユさん」
ロザミアはそれに応えて言った。
「これでいいかな」
「うん、それでいいよ」
「有り難う、お兄ちゃん」
「こら、もうお兄ちゃんじゃないだろ」
「あはは、御免なさい」
カミーユとロザミアは仲良く話していた。フォウはそんな二人を離れた場所から温かい目で眺めていた。
「嫉妬したりとかしないのね」
そんな彼女にレミーが声をかけてきた。
「てっきりヤキモチでも焼いてるのかと思ってたのに」
「そんな必要ありませんから」
フォウはまるで母親の様に優しい笑みで彼女に言葉を返した。
「ロザミィも。カミーユが好きなのと同じで私もカミーユもお互いが好きですから」
「それぞれの愛があるから心配はいらないってことかしら」
「いえ、それは」
だがその言葉には少し戸惑いを見せた。
「ちょっと」
「まあロザミィはフォウにとっても妹みたいなものだってことかしら」
「言われてみると」
フォウもそれに頷くものがあった。
「そうかも知れないです」
「だから特に気にすることはないってことかしら」
「でしょうか」
フォウにしては珍しく戸惑いを見せていた。
「まああのロザミアって娘はフォウに近いものはあるわね」
「強化人間だからでしょうか」
「それがあるのは事実かも。やっぱり何かあるのよ」
「何かが」
「たまにそれに耐えられなくなる時もあるでしょうけれどね。そんな時はどうすればいいかわかる?」
「どうすれば」
「男に甘えるのよ。女って強いものだけれど弱いものでもあるから」
「そうなんですか」
「だからね。フォウもカミーユに甘えなさい」
「私は」
「別にロザミアみたいに甘えろとは言ってないわよ。フォウにはフォウの甘え方があるでしょ」
「はい」
「そういうこと。それじゃあそっちも頑張ってね」
そう言い残してレミーはその場から姿を消した。そしてそれと入れ替わりの形で黒い髪に細い目の若者がやって来た。
「で、真打ち登場ってわけか」
「ああ、あんたギュネイじゃねえか」
ジュドーが彼に気付き言う。
「こっちに来たのかよ」
「ああ、ヤクトドーガと一緒にな」
彼はそれに答えた。
「今更ネオ=ジオンに戻ることもできねえしな。宜しく頼むぜ」
「けど何でまたこっちに来る気になったんだよ」
「あっちじゃエースだったんでしょ?」
ルーも問う。
「エースでもな、ああした組織じゃ下っ端は使い捨てにされるんだよ」
「使い捨てに」
「そうさ。連邦軍も似たようなもんだがこっちは違う感じがしてな」
「それでこっちに来たのかよ」
「そういうことさ」
彼は軽い調子で言った。
「それにネオ=ジオンは何かと物騒だったからな。それにも嫌気が指していたんだ」
「物騒?」
「そうさ、お家騒動ってやつだ」
「あれは片付いたんじゃなかったのか?」
アムロがそれを聞いて問う。
「ギレン=ザビは暗殺され、暗殺したキシリア=ザビも事故死して」
「それでザビ家は幼いミネバ=ザビを残して皆いなくなった筈ですよね」
シローも言った。
「それでお家騒動が起こるとも思えないが」
「ミネバ=ザビだけだったらな」
だがギュネイはここでこう言った。
「それは一体」
「ザビ家の人間がどうやら他にもいるらしいんだよ」
「他にも!?」
「まさか」
「そのまさかさ。俺はバルマー戦役の集結直前にその話を耳に挟んだんだ。今そいつを中心に何か考えてるらしいぜ」
「ザビ家の内紛か」
クワトロはそれを聞いて呟いた。
「あの家は。あくまでも呪縛から逃れられないのか」
「あんたが言うと説得力があるな」
ギュネイはここでクワトロに対してこう言った。
「・・・・・・・・・」
「まあいいさ。そうしたややこしい事情もあるんでな。こっちに移ることにしたんだ」
「じゃあザビ家には未練はないんだな?」
「そんなの前から殆どなかったがな。まあこれから宜しくな」
「ああ」
「君はヤクトドーガだったな」
「さっきも言った通りな」
クワトロの問いに答える。
「そして俺が量産型F91だ」
ハリソンも言った。
「ただしカラーリングは青だけれどな」
「青いガンダム」
「まさか白じゃなきゃ駄目ってわけじゃねえだろ?」
シーブックに対して言う。
「今じゃいろんな色のガンダムがいるんだからよ」
「まあそうですけど」
だがシーブックは今一つ腑に落ちないようであった。
「何か独創的だな、って思いまして」
「まあ中にはもっと凄いガンダムもいるしいいんじゃないかしら」
セシリーが言った。
「未来じゃお髭を生やしたガンダムもあったし」
「あれはまた驚いたな」
「まだ出て来るかも知れないわよ。青いガンダム位いいと思うわ」
「それもそうか」
セシリーに言われると何故か素直になるシーブックであった。
「そしてロザミィは」
カミーユは尋ねた。
「ギャプランじゃないよな」
「ううん、違うよ」
彼女は無邪気な声で答えた。
「ロザミィが今乗ってるのはちょっと変わったのだよ」
「変わったの?」
「それは一体」
「ゲーマルクだよ」
「ゲーマルク」
「また大層なのに乗ってきたな」
それを聞いてジュドーも声をあげた。
「ネオ=ジオンからのね、戦利品なんだ。あと量産型ニューガンダムもあるよ」
「量産型か」
「カツ、どうかしら」
ここでエマがカツに声をかけてきた。
「僕ですか?」
「ええ。スーパーガンダムなら一人でも乗れるし。ここは戦力アップの為にも貴方が乗ってみたら?」
「そうですね」
カツの方もエマにそう言われて考え込んだ。
「量産型でもファンネル装備できるんですよね」
「確かな。インコムに換装することも可能だった筈だ」
それに応えてアムロが言った。
「どうするんだ?丁度一人空いているし」
「わかりました、それじゃあ」
カツは意を決した。
「その量産型使わせてもらいます。装備はファンネルで」
「よし、それじゃあカツはケーラ中尉と一緒に俺の小隊に入ってくれ」
「はい」
「あとハリソン大尉もか」
「宜しくお願いします。まさか白い流星の小隊とは思いませんでしたが」
「Fシリーズだから本来はシーブックと組む筈だけれどな」
それにビルギットが突っ込みを入れる。
「生憎もう満杯だからな。そっちで頑張ってくれ」
「ああ、青いガンダムで伝説を作るとするか」
「青い巨星にでもなるかい?」
「おいおい、それはもう先客がいるぞ」
「おっと、そうだったか」
そんな軽口を叩きながら彼等は話をしていた。そしてアムロとクワトロはそれぞれの小隊に分かれることとなった。
「うちの最強の小隊がなあ」
「まあ仕方ないけれど」
他の面々は少し寂しそうであった。
「まあ戦力アップにはなるかな」
中には納得しようとする者もいた。レッシィがそうであった。
「赤い彗星の部隊なんてファンネルばっかだし」
「ギュネイにクェス、それにロザミアだからね」
アムがそれに応えた。
「滅茶苦茶強いわよ、それって」
「アムロ中佐の小隊も結構」
「きてるわよねえ」
こちらは四機共ガンダムであった。やはりかなりの戦闘力である。とりわけアムロのニューガンダムがかなりの戦力を有しているのは最早言うまでもなかった。
「さて、お別れだなアムロ君」
「おいおい、いきなりそれか」
アムロはクワトロに言われ思わず苦笑いを浮かべた。
「小隊が離れただけじゃないか」
「おっと、それもそうか」
「シャア、クェスを頼むぞ」
「いや、生憎彼女は私よりも君を選びそうだな」
「どういうことだ、それは」
「感性の問題だな。どうも彼女は君に引かれるものを感じているようだ」
「俺にか」
「私にも感じているようだが。だが君に向かった方がいい」
「どういうことかよくわからないんだが」
「私は何しろ危険な男だからな」
クワトロはいささか自嘲気味に言った。
「あまり女性が側にいていいことはない」
「だが戦闘の時は頼むぞ」
「私のフォローが必要だとも思えないがな」
既にクェスはかなりの戦果を挙げていた。赤いヤクトドーガを駆り、何十機もの敵を撃墜しているのである。その能力は同じニュータイプであるプル達にも匹敵すると言われていた。
「ギュネイも入ったしな」
「それじゃあ隠居でもするのか?」
「隠居か。悪くはないな」
意外にもそれには乗り気であるようだった。
「未来を見て来た時は色々と考えもしたが」
「それも変わったか」
「そうだ。どうやら人類は私が考えていた以上に賢い。そして努力している」
「若い者達がか」
「そうだな。私は何かをするにはもう歳をとりすぎているかも知れない」
「歳をか」
「特にな。竜崎一矢を見ていると思うことがある」
「何をだ?」
「人間は。一途になれればどんなことでも達成出来るのではないかとな。若しかしたら地球の重力などというちっぽけなものを遥かに越えたさらに大きなものを掴めるかも知れない」
「地球の重力もか」
「若しかしたらだ。彼はそんなものを遥かに越えたものを目指している。それに比べたら私が今まで考えてきたことは実にちっぽけなものに過ぎない」
「だがそのちっぽけなものの為に今でも戦いが起こっている」
「それも。乗り越えられるだろう」
「人類はか」
「そう思えてきた。もう私は只の兵士でいてもいいだろうな」
「いや、それはどうかな」
「まさか私はまだ表舞台に立たなければならないとでも言うのかね?」
「御前の力がよい方向に必要とされるんならな」
アムロは言った。
「また必要とされるだろう」
「ではその時が来ないことを祈ろう」
クワトロは笑いながら言った。
「このまま隠居していたいからな」
「随分と怠け者になったな」
「もうキャスバル=ズム=ダイクンである必要もシャア=アズナブルである必要もないのならそれを怠け者と呼ばれても構うことはないさ」
「そうか」
二人の会話はここで終わった。またしても新たな仲間を手に入れたロンド=ベルはタシケントからトルコ、そしてバルカン
半島に向かっていた。そこから遂にティターンズとの戦いを行うつもりであった。

第八十三話完

2006・3・29


 
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